第 1号 第
7
巻 相 模工 業 大 学 紀要 物 理 的 な 書 写 条 件 の 介 在 を 想 定 し て み な け れ ば、
説 明 が つ か な い の で は な か ら う か 。 な ほ 仮 名 遣 に つ い て は、
別 稿 に 詳 述 す る。
(
12
)
萩 谷 朴 土 左 日 記 全 注 釈 二 八 三 頁 参 照 。(
13
)
清 水 義 秋 土 左 日 記 「 と こ ろ の な く ひ に そ あ な る 」 私 見 − 定 家 の 用 字 意 識 か ら ー(
昭 和 四 六 年 度 国 語 学 会・
秋 季 大 会 ( 山 形 大 学 ) 研 究 発 表・
「 国 語 学 」 第 88 集・
要 旨 所 載 ) な ほ 詳 細 に つ い て は 「 定 家 の 用 字 と 本 文 解 釈 − 土 左 日 記 語 彙 「 な く ひ 」 を め ぐ っ て ー 」 と 題 し て、
別 に 発 表 の 予 定 で あ る 。ぬ
ヘ
へ
(
14)
定 家 本 土 左 日 記 の 奥 書 に、
「 文 暦 二 年 乙 未 五 月 十 三 日 乙 巳 老 病 中 雖 眼 如 盲 不 慮 之 外 見 紀 氏 自 筆 本 」 と あ り、
こ の 「 老 病 中 」 の 語 は、
明ヘ
ヨ
月 記 五 月 十 四 日 の 「 扶 病 相 謁 」 の 記 事 と 符 節 を 合 す る 。 こ の 点 か ら す れ ば、
奥 書 は 十 四 日 に 書 か れ た と い ふ 推 測 に、
大 き な 誤 り は な か ら う と 思 は れ る し、
当 然 「 昨 今 ニ ケ 日 」 も、
十 三、
十 四 の 両 日 を 指 す も の と 思 は れ る 。 因 み に、
生 来 多 病 で あ っ た 定 家 は、
自 ら の 病 告(
眼 病・
歯 痛・
腰 病。
脚 病。
腹 病・
痢 病・
病 瘍 等)
を 克 明 に 明 月 記 に 記 録 し て ゐ る が 五 月 十 三・
十 四 日 前 後 の 記 事 に は、
さ う し た 身 体 状 況 に つ い て の 記 録 が な い 。 従 っ て 、 こ の 時 の「
老 病 」 が、
ど ん な 状 態 の も の で あ っ た か は 不 明 で あ る が、
恐 ら く 老 来 持 病 と な っ て ゐ た 気 管 支 喘 息 か 老 人 性 の リュ
ゥ マ チ な ど に 悩 ま さ れ た も の で あ ら う 。 こ の 後】
ケ 月 足 ら ず の 六 月 十 二 目 に は、
「 此 間 在 病 気 癆 瘍 歟、
心 神 殊 屈 」 し、
翌 十 三 日 に は、
桃 花 の 煎 じ 薬 を 飲 ん で 「 腹 中 鳴 動 」 し て 失 神、
「
不 能 行 歩 」 と い ふ 体 た ら く で あ っ た と こ ろ を 見 る と、
或 い は 「 瘠 瘍 」 の 前 兆 的 症 状 が 起 き て ゐ た の か も し れ な い。
但 し、
書 写 が 不 能 に な る ほ ど の 病 状 で は な か っ た の で あ る。
1
講 師 目 本 文 学一
九 七 二・
一
一
・ 六・
受 理1
Desire
to
addCQmments
andits
Infiuence
onthe
Use
ofCharacters
in
Teika
,sManuscripts
by
SHIMIZU
Yoshiaki
Comparing
FUJIWARA
Teika
’s manuscripts with the original texts ofJapanese
classics , we 丘nd alo七〇
f
differences
between them.
These
variations,
whichI
believe were consciously causedby
Teika
,s explanatory skil1 , arefound
especially as to Chinese characters in his cQpies.
But his use of Chinesecharacters varies under the
different
conditions at the time of copying them.
In
this essay,
I
have
attempted tQ find out the close relation between these conscious comments and the various conditionsunder which
he
was whenhe
copied them.
定家の 用 字 と注 釈 意 識 (清 水 義 秋 ) か ら う か
(
14)
。 そ れ と も 又、
来 客 そ の 他 の 事 情 ( 例 へ ば 原 本 の 返 却 な ど)
が、
逆 に 書 写 の 完 了 を 急 が し め る や う な こ と に な っ た の か も し れ な い。
二 日 目 の 半 ば 過 ぎ 辺 り か ら、
原 本 所 用 の 仮 名 字 体 を そ の ま ま 転 写 す る と い ふ、
原 本 に 強 く 牽 制 さ れ る 現 象 や、
書 写 を 完 了 す る 直 前 の 書 写 者 と し て 通 常 最 も 緊 張 す べ き 巻 末 の 箇 所 で、
脱 文(
九一
頁 末 。 と そ い へ る 脱 V を 犯 す 等 の 事 実 を 見 る と、
肉 体 的 疲 労 も さ る こ と な が ら、
恐 ら く は 後 者 の や う な 事 情 が 介 在 し た の で は な い だ ら う か 。 い つ れ に せ よ、
前 日 と 異 な る 二 日 目 の 本 文 状 況 は、
か う し た 仮 説 を 樹 て な け れ ば 説 明 が つ か な い と 思 ふ の で あ る。
以 上、
充 分 に 論 旨 を 尽 し 得 な か っ た 点 や 箇 々 の 漢 字 及 び 用 字 に つ い て、
未 だ 論 ず べ き 点 も 多 い が、
銖 は 仮 名 遣、
仮 名 字 体、
異 文 の 別 稿 に 譲 り、
今 は 省 略 に 従 ふ こ と と す る 。(
注)
(
↓
清 水 義 秋 高 部 批 判 に よ る 本 文 処 置 に つ い て(
「 古 典 の 諸 相 」 所 収 冨 倉 徳 次 郎 博 士 古 稀 記 念 論 文 集 昭 和 四 四 年一
一
月 刊)
定 家 本 土 左 日 記 本 文 分 析 資 料(
同 右)
古 典 校 勘 に お け る 定 家 の 書 写 意 識 ( 「 日 本 文 学 論 考 」 所 収塩 田 良 平 博 士 古 稀 記 念 論 文 集 昭 和 四 五 年
】
}
月 桜 楓 社 刊)
(
2
)
注 ( 1)
の 参 照(
3)
池 田 亀 鑑 古 典 の 批 判 的 処 置 に 関 す る 研 究 第 二 部 =一
= 二 頁 以 下 参.
照(
4
)
同 右一
三 二 頁 参 照(
5
)
定 家 自 筆 本 定 頼 集 の 奥 書 「 見 此 本 不 顧 老 病 之 極 贄一
日 終 書 写 功 依 慕 故 人 也 誰 同 志 乎 」 に よ れ ば、
定 頼 集 を一
H で 書 写 し 終 へ て ゐ る が、
書 写 年 次 不 詳 で、
筆 意 は 壮 年 の も の か と い は れ る 。 本 文 量 は 土 左 目 記 よ り 少 い が 、 年 齢 的 肉 体 的 に は 七 〇 才 前 後 の 状 況 と 異 な り、
】
口 で 写 了 す る こ と も 可 能 で あ っ た の で あ ら う 。 従 っ て、
こ の 揚 合 条 件 の 異 な る 土 左 日 記 の一
日 の 書 写 量 と 同 列 に 扱 ふ こ と は で き な い 。〔
6)
土 左 日 記 総 索 引 ( 日 本 大 学 文 理 学 部 国 文 学 研 究 室 編 四 〇 九 頁 以 下 参 照)
な ほ、
定 家 本 の 使 用 漢 字 集 計 表 所 載 の 字 数 に は、
若 干 の 遺 漏 が あ る む む ゆ や う で あ る 。 又、
表 中「
桂 河2
」 「 桂 川 1 」 は 「 桂 河 3 」、
「 雲2
」ロ
ほ
む む は 「 雪2
」、
「 住2
」 は「
池 2」、
「 仲 ま ろ 」 は「
仲 ま ろ ー 」 の 誤 り で あ ら う し、
「 木 2 」 が 落 ち て ゐ る 。 字 数 の 違 ひ は 本 稿 の 字 数 と 参 照 し て 戴 き た い。
因 み に、
宮 腰 賢 「 土 佐 日 記 定 家 本 の 性 格 − 用 字 法 か ら 見 た 定 家 の 校 訂 態 度 」(
学 芸 国 語 国 文 学 第 六 号 昭 和 四 六 年一
一
月)
に、
同 氏 の 漢 字 調 査 表 が 載 っ て ゐ る。
併 せ て 看 ら れ た い 。(
7 ) 定 家 本 の 中、
天 福 二 年 本 の 忠 実 な 模 本 と い は れ る 三 条 西 家 旧 蔵 本 伊 勢 物 語 と 御 物 本 更 級 目 記 を 採 り 上 げ た の は、
前 者 が 七 三 才、
後 者 が 七 〇 才 前 後 と 見 ら れ る 写 本 で、
七 四 オ の 折 の 土 左 日 記 と 年 齢 的 に 大 き な 距 り が な く、
従 っ て 表 記 上 の 変 化 も そ れ 程 で は な か ら う と 考へ
た か ら で あ る。
伊 達 本 古 今 集 に つ い て は.
書 写 年 次 不 詳 で あ る が、
だ い た い 六 〇 才 前 後 の も の か と い は れ、
こ こ で は一
往 の 参 考 と し て 扱 っ た。
(
8
)
定 家 の 自 筆 創 作 物 と し て は、
熊 野 御 幸 記(
建 仁 元 年 十 月 。 四 〇 才)
近 代 秀 歌(
年 次 不 詳 。 但 し 五 〇 代 歟 V、
拾 遺 愚 草(
建 保 四 年 歟 。 五 五 才 頃)
、
源 氏 奥 入(
天 福 元 年 頃 歟、
七 二 才)
等 が 現 存 し て ゐ る が、
散 文 と 歌 の 二 様 の 表 記 に、
最 も 定 家 の オ リ ジ ナ リ テ ィ ー が 顕 は れ て ゐ る も の と し て、
近 代 秀 歌 を 採 り 上 げ た。
五 〇 代 の 表 記 と 七 〇 才 前 後 の 表 記 と を 同 列 に 比 較 す る こ と は 無 論 で き な い が、
青・
壮 年 時 の 表 記 と 異 な り、
個 人 に お け る 表 記 は、
だ い た い 五 〇 才 前 後 に は 固 定 化 す る の が 普 通 の や う で あ る か ら、
さ う し た 点 か ら す れ ば、
晩 年 の 表 記 と そ れ 程 大 き な 差 は な か ら う と 思 は れ る。
な ほ 源 氏 奥 入 大 橋 本 な ど も 加 へ る べ き で あ っ た が、
調 査 未 了 の た め こ こ で は 触 れ な か っ た 。 (9
)注
(
−)
の 附 録 「 定 家 使 用 仮 名 字 体 統 計 表 」 に、
定 家 の 慣 用・
非 慣 用 仮 名 字 体 を 示 し て 置 い た。
(
10
) 大 野 晋 仮 名 遣 の 起 源 に つ い て(
国 語 と 国 文 学 昭 和 二 六 年一
二 月 号)
山 内 育 男 か な つ か い の 歴 史(
「 講 座 国 語 史2
音 韻 史・
文 字 史 」 五 八 八 頁 以 下)
(
11)
注(
10V の で 大 野 博 士 は、
「 定 家 の 仮 名 遣 の 統一
は、
定 家 の あ ら ゆ る 仮 名 文 献 に 共 通 で あ る が、
定 家 自 筆 の 土 佐 目 記 の み に 於 て は 甚 だ し く 乱 れ て ゐ る 。 こ れ は 何 故 か と い へ ば 定 家 が 貫 之 自 筆 本 の 読 み に く い 文 字 を 形 を た ど りく
読 み 又 写 し 取 っ て 行 っ た 為 にー
そ の 事 情 は 彼 の 上 佐 目 記 跋 文 に 明 ら か で あ るi
定 家 独 自 の 仮 名 遣 を 行 は な か っ た も の と 考 へ ら れ る 」 と さ れ た が、
前 掲 表 − 仮 名 遣 の 項 に も 見 ら れ る や う に、
前 半 と 後 半 と で は 仮 名 遣 の 改 変 度 に 差 が あ り、
ヘへ
こ れ ら の 乱 れ を 定 家 の 肉 体 的 年 齢 的 条 件 や 原 本 的 条 件 に よ っ て 生 じ た と の み 見 る こ と は、
な ほ 問 題 が 残 ら う 。 少 く と も こ れ で は、
前。
後 半 の 表 記 の 差 違 に つ い て 説 明 す る こ と は 困 難 で あ る 。 他 に 外 部 的一 16 一
相模工業 大 学 紀 要 第
7
巻 第 1号 当 さ れ て ゐ る 漢 字 「 色 」 は、
凡 て 訓 漢 字 イ ロ と し て 常 用 さ れ、
音 漢 字 シ キ に は 用 ゐ て ゐ な い 。 か う し た 用 字 意 識 が、
「 五 色 」 を 「 五 し き 」 と 改 変 さ せ た も の で あ ら う 。 従 っ て、
「 五 し き 」 を 除 く 他 の 音 漢 字 を、
凡 て そ の ま ま 転 写 し た の は、
そ れ ら の 漢 字 に は、
訓 は 漢 字、
音 は 仮 名 書 き に す る と い ふ や う な 定 家 の 用 字 意 識 に 牴 触 す る 字 種(
「 色 」 の 場 合 の や う な)
が な か っ た か ら で あ ら う と 思 は れ る。
と も あ れ、
定 家 の 使 用(
充 当)
漢 字 体 系 は 、 凡 て 訓 漢 字 で あ っ て、
原 本 の 音 漢 字 体 系 と は 対 照 的 に 対 立 す る 。 仮 字 定 家 の 充 当 漢 字 の 中 に は、
漢 字 と 見 る べ き か、
草 体 の 仮 名 と 見 る べ き か に 迷 ふ 字 体 が あ る。
こ こ で は、
漢 字 と し て の 実 質 的 意 義 は 失 は れ て ゐ る が、
定 家 の 用 字 意 識 に お い て は、
或 る 意 味 を 負 荷 し て 充 当(
使 用)
し て ゐ る と 見 ら れ る 漢 字 を、
仮 に 仮 字 と 呼 ん で 置 く 。「 地
・
木 」 が こ れ に 当 る 。 「 地 」 は、
ふ な 地 ( 舟 路)
・
な み 地(
浪 路・
歌)
・
河 の ぼ り 地(
河 上 り 路・
歌 ) の 三 箇 所 で あ る が、
こ れ は 他 の 写 本 に も あ づ ま 地 い へ 地 か よ ひ 地 浪 地 山 地 夢 地 の や う に、
「 〜 路 」 の 「 路 」 に「
地 」 を 常 用 す る 傾 向 が一
貫 し て 窺 へ る 。 所 謂 宛 て 字 で あ る が、
恐 ら く 当 時 の 通 行(
俗 用)
漢 字 と し て 広 く 使 は れ て ゐ た も の を、
定 家 も 常 用 し て ゐ た の で あ ら う と 思 は れ る 。 又、
「 木 」 は、
ひ エ ら 木 ( 柊)
。
松 の 木 の 二 箇 所 で、
松 の 木 の 「 木 」 は 正 用 漢 字 で あ る が、
「
ひ 瓦 ら 木 の 「 木 」 は、
柊 の 木 と い ふ 意 味 的 聯 合 に よ る 表 記 で あ ら う 。 以 上 「 地・
木 」 の 二 字 は、
仮 字 と 見 る の が よ い と 思 ふ 。 な ほ、
他 に 「 山 の 葉 」 の 「 葉 」 が あ る が、
こ れ は 訓 借 の 仮 名 で あ る 。 結 ぴ 以 上、
土 左 日 記 に お け る 定 家 の 漢 字 の 充 当 状 況 か ら、
そ の 用 字 と 注 釈 意 識 を 考 察 し て み た の で あ る が、
上 来 述 べ た と こ ろ を 要 約 す る と ω 定 家 本 土 左 日 記 に は、
書 写 の 第一
日 目 と 第 二 日 目 と で は、
本 文 の 状 況 に 変 化 が 見 ら れ る 。 そ れ は、
前 後 二 日 間 の 書 写 の 事 情、
条 件 等 の 差 に よ っ て 生 じ た 書 写 意 識 の 変 化 に よ る と 見 ら れ る 。 具 体 的 に は、
二 日 間 の 定 家 の 常 用 的 漢 字 の 充 当 方 針 に、
一
貫 し た 統一
性 が 欠 け て ゐ る こ と、
即 ち 前 後 の 比 較 に お い て、
一
日 目 の 漢 字 充 当 率 は 高 く、
二 日 目 の そ れ は 低 く な る と い ふ 現 象 に 顕 は れ る。
ω こ の 現 象 は、
定 家 の 漢 字 充 当(
注 釈)
意 識 の 変 化、
即 ち一
日 目 は 漢 字 の 充 当 意 識 が 高 く、
二 日 目 は 原 本 へ の 回 帰 性 が 高 く な る こ と と 密 接 に 関 聯 す る。
定 家 の 充 当 漢 字 の 体 系 は、
訓 漢 字 で あ る 。 訓 漢 字 の 充 当 は、
原 本 の 達 意 を 図 る た め の 注 釈 的 表 記 で あ る 。 常 用 的 漢 字 の 充 当(
用 字)
は、
定 家 の 日 常 的・
習 慣 的 な 表 記 の 形 式 的・
マ
へ
意 味 的 確 認 で あ り、
慣 用 的 漢 字 の そ れ は、
よ り 注 釈 的・
自 己 享 受 的 志 向 が 強 い が、
い つ れ も 自 己 表 記 化 に よ る 解 釈 の 顕 示 に 他 な ら な い 。 定 家 の 充 当 漢 字 に は、
原 本 の 読 解 を 示 す た め に 特 別 に 採 択 し た 漢 字、
即 ち 非 日 常 的。
非 慣 用 的 な 漢 字 種 は な い や う で あ る 。 歌 に お け る 漢 字 表 記 に は 、 歌 人 ・ 歌 学 者 と し て 、 む し ろ 積 極 的 に 達 意 を 図 ら う と す る 用 字 意 識 が あ っ た や う で あ る。
こ れ は 家 学・
道 統 の た め に 明 快 な テ キ ス ト を 作 製 し よ う と い ふ 教 学 的 意 図 に 発 す る も の で あ ら う 。 貫 之 筆 臨 慕 も そ の 顕 は れ で あ る。
土 左 日 記 の 本 文 状 況 が、
用 字 ・ 仮 名 遣 等 で、
他 の 写 本 と 著 し く 異 な る 面 が あ る の は、
単 に 年 齢 的・
肉 体 的 条 件 の み な ら ず、
加 ふ る に 二 日 間 の 外 部 的・
物 理 的 な 書 写 条 件 の 相 違 に 基 づ く も の と 見 ら れ る 。 と い ふ こ と に な る 。 最 後 に、
の 書 写 事 情 と は、
始 め に も 述 べ た や う に、
土 左 日 記 の 書 写 が、
若 し 五 月 十 三、
十 四 日 の 二 日 間 に 行 は れ た も の で あ る と し た ら、
二 日 目 の 十 四 日 は、
時 間 的 に も 肉 体 的 に も か な り の 制 約 を 受 け る や う な 状 態 に あ っ た の で は な か ら う か。
明 月 記 に よ れ ば、
こ の 日 は 朝 か ら 雨 が 降 っ た り 止 ん だ り で 、 し か も 午 時 頃 に 興 心 房 が、
未 時 に は 兵 部 が 、 そ の 後 で は 伜 の 為 家 が や っ て 来 る な ど、
若 し 前 日 の 残 り 三 七 頁 分 の 書 写 に 六 時 間 内 外 の 時 間 を 要 す る と す れ ば、
こ れ ら の 来 客、
訪 問 は、
相 当 の 時 間 的 損 失 で あ っ た で あ ら う 。 加 ふ る に、
定 家 自 身 の 体 調 も 思 は し く な か っ た ( 扶 病 相 謁)
や う で あ る か ら、
書 写 の 実 質 的 な 時 間 は 、 か な り の 長 時 間 に 及 ん だ の で は な一
15一
定 家の 用字 と注 釈 意 識 (清 水義 秋) 前 半 二 二
(
b8°
日 8 ひ 3・
む2
脱1
)
後 半一
「
(
り8
日 1 ひ ー む ー)
前 半 に 比 べ 後 半 は 漢 字 の 充 当 意 識 が 低 下 す る と い ふ一
般 的 傾 向 の 中 で、
「 b 」 の 充 当 意 識 が ほ ぼ一
貫 し て 変 ら な い の は、
そ れ だ け こ の 用 字 が 定 家 に 定 着 し て ゐ た か ら で あ.
ら う。
次 に、
原 本1
子 日 2 京 の ね の ひ3
ね の ひ 4 子 日 表 記 上 問 題 の あ る 「 子 日 」 ( ( ( 二≧ 〃 〃 〃 月 廿・
九 歌 日)
)
)
)
に つ い て 触 れ る と、
定 家 本 ね の り(
55P
)
京 の 子 日・
(
〃)
子 日(
〃・
歌 )・
ね の b ( 56P)
で、
面 白 い こ と に、
定 家 本 の 本 文 が 全 く 入 れ 代 っ て ゐ る の に 気 付 く。
先 づ、
原 本 の 「 子 日・
ね の ひ 」 両 様 の 表 記 は、
萩 谷 朴 氏 の 説 に よ れ ば、
「 子 日 − 暦 日 と し て の 術 語 で あ る か ら、
漢 字 表 記 を 常 と す る の で、
あ え て 仮 名 書 き に す る の を 避 け 」、
「 ね の ひ ー 暦 日 で は な く 年 中 行 事 と し て の 子 の 日 の 遊 び で あ る こ と を 区 別 す る た め で あ っ た の で あ ろ う 」〔
12)
と い ふ こ と で、
傾 聴 す べ ぎ 説 と 思 ふ 。 但 し、
3 の「
ね の ひ 」 が 仮 名 書 き な の は、
貫 之 自 身 の 歌 の 書 記 法(
仮 名 書 き)
に 従 っ た ま で で あ ら う 。 と こ ろ で、
原 本 使 用 の 漢 字(
後 述)
に つ い て は 、 「 子 日 」 と 「 五 色 」 と を 除 い て、
凡 て 忠 実 に 書 写 し て ゐ る 定 家 が、
「 子 日 」 だ け 何 故 原 本 の 漢 字 に 従 は な か っ た の で あ ら う か 。 或 い は、
右 の や う な 貫 之 の 表 記 意 識 と は 全 く 逆 の 認 識 に よ る 表 記 な の か、
そ れ と も 独 自 の 注 釈 意 識 に 発 す る 表 記 な の か、
い つ れ に し て も 問 題 で は あ る。
伊 勢 物 語 の 「 子一
つ 」 ( 時 刻)
な ど の 「 子 」 は 「 ね 」 と 仮 名 書 き し て ゐ る が、
惟 ふ に ー ・ 4 の 「 ね の り 」 は、
「
子 日 」 の 訓 読 を 示 さ う た め の 自 己 享 受 的 読 解 表 記 で あ ら う し、
2 の 「 子 臼 」 は、
京 を 中 心 と し た 年 中 行 事 と し て の「
京 の 子 日 」 と い ふ、
一
つ の 成 語 的 な 言 語 感 覚 が、
漢 字 表 記 を 採 ら し め た の で は な か ら う か 。 又、
3
の 「 子 日」
は、
歌 の 表 記 上 の 達 意 を 図 る た め に 充 当 し た 漢 字 で あ ら う 。 地 文 に お け る 漢 字 の 充 当 意 識 と 歌 に お け る そ れ と は、
や や 趣 き を 異 に す る も の が あ り、
歌 に つ い て の 用 字、
漢 字 表 記 に は、
歌 人・
歌 学 者 と し て、
特 に 意 を 用 ゐ る と こ ろ が あ っ た こ と は 先 に も 見 た 通 り で あ る 。 因 み に、
彼 の 数 次 に 及 ぶ 古 今 集 書 写 の 本 文 表 記 に、
如 何 に 多 く の 漢 字 が 充 当 さ れ て ゐ る か は 、一
見 し て 明 ら か な と こ ろ で あ る が、
こ れ ら は い つ れ も 歌 人・
歌 学 者 と し て の 定 家 が、
家 の 子 女 ら や 家 学、
或 い は 証 本 作 成 の た め に、
歌 の 達 意 を 図 り、
自 家 の 解 釈 を 示 さ う た め に 行 な つ た 所 謂 道 統 精 神 の 顕 は れ に 他 な ら な か っ た と い へ よ う。
土 左 日 記 の 歌 も 例 外 で は な く、
そ こ に は 必 ず一
語一
種 以 上 の 漢 字 が 充 当 さ れ て ゐ る の で あ る。
な ほ、
表W
の 不 明 の 語「
な く b 」 に つ い て、
私 見 を 述 べ て 置 く。
こ れ は一
月 廿 九 日 に 見 え る へ もへ
昔 し ば し あ り し 所 の な く り に ぞ あ な る(
57
頁)
の 「 な く り 」 で、
古 来 難 解 の 語 と し て 諸 説 の あ る と こ ろ で あ る が、
現 在 で は 「 名 類 ひ 」 の 意 と す る 説 が 通 説 と な っ て ゐ る 。 併 し こ れ は、
「 な く り 」 の 「 り 」 に 着 目 す る こ と が な か っ た た め に、
解 釈 が 歪 め ら れ て し ま っ た と い へ よ う 。 土 左 日 記 に お け る 定 家 の 「 り 」 の 用 字 は、
原 則 的 に 用 言 の 場 合 は 仮 名、
名 詞 の 場 合(
目 の み)
は 漢 字 と し て 用 ゐ て ゐ る こ と は 既 に 見 て ぎ た。
と こ ろ で、
「
な く り 」 が 格 助 詞 コ に 」 に 上 位 す る 体 言 ( 名 詞)
で あ る こ と は 明 ら か で あ る か ら、
こ の 「 り 」 は 漢 字 と 見 て よ か ら う 。 漢 字 と し て の 「 り 」 は、
土 左 日 記 で は 日 以 外 に は 用 ゐ て ゐ な い か ら、
こ れ は 「 な く へ 日 」 と い ふ こ と に な る 。 つ ま り、
定 家 は 原 文 の 「 な く ひ」
に 「 り 」 の 漢 字 を 宛 て て 、 「 な く 日 」 即 ち「
凪 ぐ 日 」 と 理 解 し た の で あ っ た。
か く し て、
こ もで
ヤ
の 箇 所 の 文 意 は、
「
以 前 私 が し ば ら く 住 ん で ゐ た 所 の 凪 ぐ 日 な ん で す っ て よ 」 と 解 釈 す る 二 と が で ぎ、
前 後 の 文 脈 と も 照 応 す る の で あ る(
13)
。 原 本一
致 の 漢 字 貫 之 が 使 用 し た 漢 字 は、
左 の 二 二 語 四一
字 で あ る。
京 12 日 2 願 2 講 師 2 白 散2
子 日 2 故 2 院2
子 2 日 記 1一
文 字1
卜 文 字 1 郎 等1
宇 多 1 五 色 1 明 神1
病 者 1 人 1 不 用 1 中 将 1 柑 応 寺 1 千 1 * 数 字 は 使 用 度 数 右 の 中 、 日・
了 日・
予 ・ 人・
千 は 訓 漢 字 で、
他 は 音 漢 字 で あ る 。 定 家 は、
こ れ ら 原 本 の 漢 字 を 殆 ど 字 数 共 忠 実 に 転 写 し て ゐ る が、
「
子 日 」 と 「 五 色 」 に つ い て は、
夬 く 「 ね の b 」 「 五 し ぎ 」 と 改 変 し て ゐ る 。 「 子 日 」 は 前 述 し た が、
「 五 色 」 を 「 五 し き 」 と し た の は、
「
色 」 と い ふ 漢 字 が、
訓 漢 字 イ ロ と し て 定 家 に 定 着 し て ゐ た た め で は な か ら う か 。 他 の 写 本 に 充一
14一
相 模工 業 大 学紀要 第 7巻 第
1
号 斎92
( * は 歌)
で、
特 に73
頁 以 降 に 偏 在 す る の が 注 目 さ れ る 。 こ れ は、
定 家 の 漢 字 充 当 率 が、
前 半 に 高 く 後 半 に 低 い と い ふ 事 実 と、
軌 を一
に す る も の で、
「 見」
の 充 当 意 識 が、
前 半 に 比 べ 後 半 次 第 に 後 退 し て 行 っ た こ と、
換 言 す れ ば、
原 本 復 帰 へ の 傾 向 が 増 大 す る こ と を 示 す も の と リコ
い へ る 。 こ の こ と は、
例 へ ば、
前 半 に は 見 ら れ な い 「 乎 み ル 」 の 例(
7384
91 頁 ー 原 本 の 仮 名 字 体 「 乎 」 に 牽 制 さ れ、
そ の ま ま「
み 」 と 写 す。
「 み 」 むコ
コ
ロ
の 仮 名 字 体 は 原 形 に 同 じ 。 但 し、
「 乎 見 ル 」一
例88
あ り)
や、
「 み へ 数 」(
88 頁−
原 形 「 み 江 数 」 で 「 江 」 の 草 体 が 「 へ 」 に 酷 似 す る と こ ろ か ら 「 へ」
に 誤 写 、 「 数 」 の 仮 名 字 体 も 原 形 に 同 じ)
の や う に、
原 形 に そ の ま ま 牽 制 さ れ た 例 及 び 歌 の 表 記 ( 73 田 傀 頁)
な ど を 見 て も 肯 か れ る で あ ら う 。 要 す る に 、 「 ミ ル 」 の 用 字 が 土 左 日 記 の 場 合 だ け、
他 の 写 本 と 異 な る の は、
用 字 意 識 の 上 で一
貫 性 を 欠 か ざ る を 得 な か っ た 何 ら か の 事 情 が 働 い た か ら で あ っ て 、 こ れ を 単 な る 用 字 の 乱 れ と し て 処 理 し て は な ら な い(
U)
。 殊 に、
「 見 」 は 定 家 の 常 用 的 漢 字 で あ る が、
常 用 的 漢 字 と 雖 も、
書 写 の 情 況 や 条 件 に よ っ て は 、 そ の 用 字 を も 大 き く 左 右 す る 場 合 が あ る と い ふ こ と を 注 意 す べ き で あ ら う。
次 に、
「 り 」 の 用 字 に つ い て 見 る と、
こ れ は 漢 字・
仮 名 両 用 の 字 体 で、
用 字 上 注 意 を 要 す る 。 今、
「 b 」 の 用 ゐ ら れ た 語 彙 と 度 数 を 調 べ る と 、 表 W の 通 り で あ る 。 表 W に よ れ ぽ、
「 り 」 は、
名 詞、
動 詞(
ハ 行 活 用 の 連 用 形 語 尾 )、
形 容 詞(
語 幹 ) に 用 ゐ ら れ、
主 と し て 名 詞 と 動 詞 「 思 ひ 」 に 多 用 さ れ る 傾 向 が 窺 へ る 。 特 に 伊 勢 物 語 の 「 思 ひ 」 は、
動 詞 用 例 七一
の 約 半 数 を 占 め る が、
こ れ は、
或 い は 書 本 と し た 本 文 の 影 響 が あ っ た の か も し れ な い 。 と い ふ の は 「 思 ひ 」 の 語 数 と 「 り 」 の 用 字 度 数 と を 比 べ て 見 る と、
土 左一
四 (3
)
、
伊 勢 五一
(
33)
、
更 級 九 六 (4
)、
秀 歌=
(
1)
の 如 く で 、 伊 勢 物 語 だ け が 遙 か に 多 い か ら で あ る 。 定 家 の 「 思 ひ 」 に 対 す る 「 b 」 の 用 字 率 が、
だ い た い 二 〇 パ ー セ ソ ト 内 外 と 考 へ て み て も、
こ れ は 六 〇 パ ー セ ン ト を 超 え る 用 字 率 で あ っ て、
凡 て が 必 ず し も 定 家 独 自 の 用 字 で あ っ た と は い ひ き れ な い も の が あ る。
こ れ は 又、
伊 勢 物 語・
更゜
級 日 記 の 他 の 動 詞 や 名 詞 に つ い て も い へ る か も し れ な い。
但 し、
土 左 日 記 の 場 合 は、
貫 之 の 使 用 字 体 が 「 ひ 」 の み で あ る 点、
二 八 回 の 「 b 」 は 凡 て 定 家 独 自 の 用 字 で あ る。
と こ ろ で、
名 詞 の 中、
コ 日 」 に つ い て だ け は、
他 の 語 の 場 合 と 違 っ て、
か な り 顕 著 な 現 象 が 共 通 し て 窺 は れ る 。 特 に 土 左 日 記 に お い て は、
名 詞 で は 「 日 」 以 外 に は 用 ゐ ら れ て ゐ な い の が 注 目 さ れ る 。 従 っ て、
日 の 用 字 以 外 の 「 り 」 は、
一
往 仮 名 と 見 る こ と が で き る が、
日 の「
り 」 は 漢 字 の 草 体 で、
寧 ろ 漢 字 に 準 ず る も の と 見 る べ き で あ ら う 。 そ こ で、
日 の 表 記 を 見 る と、
表 V の 通 り で あ る 。V
表 り(一
日) の充 当率 計 ひ り 日 記 \ 表丶
丶
本、
写.
、
50〜78
% 323
4
16
9
土 左 日 記 67一
・
889e
51〜
92% 100% 185340
1
0
9一
30 12274
4220
語 記 歌 物 日 秀 勢 級 代.
伊 更 近(注 )
(1)
日付 けの 漢 字 は 除く。 土 左 目 記 の 「 日」 9 は,
「子 日」 の 「日」
2
を含む。「目 」 は漢 字 楷書 体。 ひ
(2> 土左日記 「日」の 中
,
陽の 意2s
「り」 の 中, 陽 の 意2
, 天候の意 2 を含 む。
の
なほ以下の記 述で は, 語 と して の 日をゴ チ ツ ク活
コ
字 目, 用宇 (漢 字)とし ての 日を 「日」 とする。 表V
に よ れ ば、
日 の 表 記 は 「 日・
り・
ひ・
む 」 の 四 種 で あ る が、
常 用 字 体 は 「 り 」 と 見 ら れ る 。 而 し て、
「 り 」 は も と も と 日 の 草 体 で あ る か ら、
一
往 漢 字 と 見 做 す と、
臼 は 「 日。
り 」 と 漢 字 表 記 す る の が 、 定 家 の 日 常 的 傾 向 で あ っ た と い へ よ う。
換 言 す れ ば、
日 に 「 b。
日 」 を 使 用(
充 当)
す る と い ふ 原 則 的 な 用 字 意 識 が あ っ た も の と 思 は れ る 。 こ の こ と は 、 左 の 用 字 分 布 を 見 て も、
首 肯 で き よ う。
一
13一
定 家の 用 字 と 注釈 意 識 (清 水 義 秋 ) こ れ に よ る と
、
「 ミ ル 」 の 表 記 に は、
次 の や う な 用 字 意 識 が 認 め ら れ る 。 ω 「 見 」 は 「 ミ ル 」 以 外 に は 原 則 的 に 用 ゐ な い。
「
み 」 の 仮 名 は、
「 ミ ル 」 に は 原 則 的 に 用 ゐ な い 。 の 「 ミ 」 の 仮 名 は、
「 ミ ル 」 に は 用 ゐ な い 。 ◎ 「 見 」 を 仮 名 と し て 用 ゐ た 例 は 十 指 に 足 り ず.
恣 意 的 な 用 字 と 見 て よ か ら う 。 さ て、
右 の 如 き 用 字 意 識 は、
伊 勢 物 語、
更 級 日 記、
近 代 秀 歌 に お い て は 表W
特 に 顕 著 に 窺 は れ る が 、 土 左 日 記 の 場 合 だ け、
他 と 異 な る 点 が 注 目 さ れ る 。 土 左 日 記 の 「 ミ ル 」 は 全 部 で 六一
例 あ る が、
表H
に 示 し た や う に、
そ の 分 布 は 前 半 三 八(
見 33 み5
) 後 半 二 三(
見 12 み11
) で 、 後 半 に 至 っ て 仮 名 書 き が 増 加 し、
「
.
ミ ル 」 を 「 見 ル 」 と す る 用 字 意 識 は、
大 き く 崩 れ る 。 「 み 」 の 所 見 頁 を い へ ば、
60 ら昏 73 四 η 芻 財 鼬9091
箭.
/
ー
写 本 項財
堰
・勤
[
ま 名 詞 動 詞 語 尾 度 数 169
日 16 語 左i
彙 日 記 思 ひ3
言 ひ 追 ひ 食 ひ 漂 ひ 訪 ら ひ 行 き 交 ひ (7
)
形 容 詞 語 幹 2 佗 び し 甲 斐 な し ( 2)
不 1 副 詞 0 明 1 な く ひ i合ie
:
28
伊 勢 物董
譜21
71
彙1
語 更 度 数 語 級 日 記 日 12 今 宵 3 度 2 甲 斐 齢 匂 弥 生39
(
7)
思 ひ 33 給 ひ9
言 ひ 5 逢 ひ3
惑 ひ3
疑 ひ2
佗 び2
使 ひ2
結 び 2 追 ひ 向 ひ 侍 ひ 拾 ひ 通 ひ 問 ひ 遊 び 忍 び 宣 ひ 祝 ひ(
19)
1 佗 び し28
2 OIO (3)(2)(1) 計一
n
一
93
幻 「 b 」 を 印 刷 の 都 合 上
、
仮 に 「 ひ 」 に 直 し て 掲 出 し た 。 「 り 」 の 所 用 語 を 蒐 集、
分 類 し、
そ の 使 用 度 数 と 語 彙(
数)
動 詞、
形 容 詞 は、
複 A 口 語 の 差 別 を し な い 。 従 っ て、
1070 近 代 秀 歌 彙 度 数 語 日 27 子 忍 び2
度2
葵 境 姪 匂 入 相 今 宵 行 ひ ひ ね も す(
11
)
思 ひ 4 言 ひ2
結 び 2 向 ひ 2 侍 ひ2
給 ひ 2 喜 び 2 払 ひ2
佗 び 逢 ひ 忍 び 呼 び 行 ひ 従 ひ 添 ひ 移 ろ ひ 神 さ び 拾 ひ(
18
) 恋 し 2 た び た び 315
1
00610
貝 4 病 思 ひ 彙(
2 )III
−.
」3
一
を 示 し た も の で あ る 。 そ の 語 彙 及 び 語 彙 数 は 異 語 及 び 異 語 数 と は 必 ず し も一
致 し な い。
一 12 一
第1号 第
7
巻 相模工 業 大 学紀要 ( − ) は せ べ の ゆ ぎ ま さ(
1
)
ふ ん と き
(
− )ま さ つ ら (
↓
や ぎ の や す の り(
1)
や ま ぐ ち の ち み ね ( 1)
の一
一
で あ る が 、 こ の 中 で 「 藤 原・
橘 。 仲 麿 」 の 三 人 に 漢 字 を 宛 て た の は、
最 も一
般 的 な 人 名 だ か ら で あ ら う か 。 尤 も一
般 的 と い へ ば、
「 な り ひ ら 」 な ど は 「 業 平 」 と し て も よ さ さ う に 思 ふ が、
伊 達 本 古 今 集 で は 三 九 箇 所 の 「 な り ひ ら 」 の 内、
漢 字 を 充 当 し た の が一
Q
箇 所 に 過 ぎ な い と こ ろ を 見 る と、
或 い は 仮 名 書 き が 普 通 で あ っ た の か も し れ な い 。 と い ふ よ り 、一
々 漢 字 を 宛 て る 必 要 を 認 め な い 程 の 人 名 で あ っ た と い ふ こ と で あ ら う か 。ロ
他 は 漢 字 を 充 当 す る こ と に 問 題 が あ る と 考 へ て の 仮 名 書 き で あ ら う 。 「 山り
ぐ ち の 千 み ね 」 の「
山・
千 」 な ど は 、 紛 れ よ う の な い 漢 字 と し て 宛 て た も の で あ ら う 。 因 み に 「 藤 原・
橘 」 は、
い つ れ も 所 出 最 後 の 箇 所 で 充 当 さ れ、
「 仲 麿 」 は 初 出 の 箇 所 で 充 当 さ れ て ゐ る 。 又、
「 桂 河・
住 吉 ・ 住 の え・
す み の 江 」 は 河 川 名・
地 名 に 充 当 さ れ た 漢 字 で あ る が、
土 左 日 記 中 三 九 箇 所 の 地 名 の 中 で、
特 に 定 家 の 生 活 圏 に 近 い 所 の 名 称 に 限 っ て 用 ゐ ら れ た の は、
興 味 深 い 。 な ほ 「 桂 河 」 は 初 出 の 箇 所 の 充 当(
他 の 2 は 歌)
、
「 す(
数)
み の 江 」 は 原 形 を 伝 へ る も の と し て 注 目 さ れ る 。 目 恣 意 的 漢 字 常 用 的 漢 字 や 慣 用 的 漢 字 の 埓 外 に あ る と 見 ら れ る 漢 字 で、
用 語 数 に 対 し て 使 用 ( 充 当)
度 数.
率 が 極 端 に 少 い 、 用 字 の 日 常 性 や 習 慣 性 に 乏 し い、
用 字 意 図 が 定 か で な い 等 の も の を、
仮 に 盗 意 的 漢 字 と 呼 ぶ 。 土 左 日 記 で は 事 3(
四 七)
波1
(
四 二)
行 −(
三 三)
有 − ( 二 六)
充 当 度 数・
語 数 の 順 な ど が 挙 げ ら れ よ う か 。 「 事 」 は 「 言 」 の 訓 借 で、
当 時 通 行 の 用 字 か と 思 は れ る が、
こ れ ら は い つ れ も 用 語 数 の 多 さ に 比 し て、
そ の 充 当 度 数 は 僅 か に一
、
二 回 だ け で あ り、
し か も そ の 採 択 意 図 は 不 明 で あ る 。 こ の 点甚
だ 恣 意 的 な 用 字 と い ふ 他 な い 。 「 波 」 の 如 き は、
別 に 常 用 的 漢 字 と し て の 「 浪 」 が あ る に も 拘 ら ず、
た だ一
度 だ げ 充 当 さ れ た 漢 字 と し て 注 意 を 要 す る 。 む こ れ は、
一
月 五 日 の 「 風 波 や ま ね は 猶 お な し 所 に あ り 」(
一
四 頁)
に 見え る が
、
一
月 十 六 日 の 同 文 で は、
「
風 な み や ま ね は な ほ お な し 所 に あ り 」 ≧ ≧(
辷 ≧ は 見 セ 消 チ ・ 三 四 頁)
で、
仮 名 書 き に な っ て ゐ る。
「 か せ な み 」 の 用 語 は 全 部 で 八 例 あ り、
右 の「
風 波 」 を 除 く 他 の 表 記 は、
「
風 な み 」 ( 五 例・
他 に「
例 「 か せ 」 を 「 猶 」 に 誤 写)
、
「 か せ な み 」(
一
例)
と な っ て ゐ て、
「 風塗
は な い 。 「 白 浪 」 が 二例
警
の み 充 当 さ れ て ゐ”
Q が(
前 出)
・
「 白 渉 」 は 他 の 写 本 に も 見 当 ら な い 。 さ り と て、
「 浪・
波・
な み 」 の 表 記 に 何 ら かり
の 意 識 的 な 使 ひ 分 け が あ っ た と も 見 ら れ な い 。 伊 達 本 古 今 集 に 「 藤 波 」 が 三 語 三 例 あ る が、
こ れ と て も 強 ひ て 「 浪 」 と の 違 ひ を 求 め る な ら ば、
具 象 的 な も の を 「 浪 」、
形 象 的 な も の を 「 波 」 と で も し た か と 思 は れ る が、
そ れロ
で は 土 左 日 記 の 「 風 波 」 に は 通 用 し な い 。 と ま れ、
恣 意 的 漢 字 の 最 た る も の で あ る が、
姑 く 存 疑 と し て 置 く 。 な ほ、
「 行・
有 」 は 共 に 歌 に 充 当 さ れ た 漢 字 で、
只一
回 の 採 択 が 歌 の 場 合 に 限 ら れ た と い ふ こ と は、
歌 に 対 す る 定 家 の 注 釈 意 識 の 顕 は れ と し て 注 意 さ れ て よ い。
用 字 上 注 意 す べ き 漢 字 定 家 の 漢 字 の 中 で 、 そ の 用 字 上 に[
貫 性 を 欠 き、
充 当 意 識 に 問 題 が あ る と 思 は れ る 幾 つ か の 漢 字 が あ る が、
こ こ で は、
「 見 」 と 「 目 」 に つ い て 見 る こ と に す る 。 「 見 」 は、
定 家 の 常 用 的 漢 字 と 見 ら れ る も の で あ る が、
そ の 使 用 及 び 充 当 状 況 は 表 沺 に 見 る 通 り で あ る。
、
、
、
異語数7
1325
3 みル
i
延語数 61 皿 表114
195
15 16 λル 記\
.
一
表一
・
.
本丶
写 ラ 514 ( 土 左 目 記2
10
112
(1) 194 (3
)15
(1) 伊 勢 物 語 更 級 日 記 近 代 秀 歌 (注)(1) 見 る・
見ゆ・
見 出づ・
見 送 る ・ 見 遣る 等, 複 合 語を も含め て これ ら を 「ミル 」 で表は し, 「見」 と 漢 字 表 記の もの を 「見ル1
, 仮名 表 記 の も の を 「み ル」 と し て , 夫 く の頻 度 数 を示 し た。 (2
) 表 中 ( )の 数 字は, 「見」 を 「ミ ル 」 以 外に 用ゐ た例で, 夫 e, 「せ ち 見 す く節 忌 〉」(土 左), 「見 こ 〈御 子〉」(伊 勢), 「は げ見〈励 〉」「見だれ 〈乱〉」「や見ぬ く止〉」(更 級), 「見 だ れ く乱〉」 (秀 歌 )の計
6
例 だ けで ある。一.
Ur
一
定 家の 用字と注釈 意 識 (清水義秋) 宮 秋 枝 申 地 文 に の み 用 ゐ ら れ た 同 じ 語 の 内 で 、 漢 字
・
仮 名 書 き 併 用 の も の 上 下 家 西 東 哥 雨 鳥 也 女 返 柳 仏 の や う で あ る 。 右 に よ れ ば 、 ω の 漢 字 は 歌 に 充 当 さ れ た 漢 字 で、
慣 用 的 漢 字 の 過 半 数 を 占 め て ゐ る こ と が 分 る。
こ れ は、
歌 と 地 文 と で は、
漢 字 の 充 当 意 識 に 差 が あ る と い ふ こ と、
換 言 す れ ば、
地 文 に お い て 漢 字 を 充 当 す る 意 識 よ り も、
歌 に お い て 努 め て 自 家 の 解 釈 を 示 さ う と い ふ 意 識 が、
よ り 強 く 働 い た 結 果 で あ ら う 。 畢 竟、
歌 人・
歌 学 者 と し て の 定 家 の 歌 に 対 す る 注 釈 意 識 の 顕 は れ と 見 る こ と が で き る と 思 ふ の で あ る が、
こ れ は 漢 字 の 充 当 の み な ら ず、
例 へ ばロ
の
む ○ お ひ か ぜ の ふ き ぬ る と き は ゆ く ふ ね の
(
舟 も)
ほ て う ち て こ そ う れ し か り け れ一
月 廿 六 日・
五 三 頁む
○ い ま み て ぞ み を ば ( 身 を も)
は へ に け りロ
○ ち は や ふ る か み の こ エ ろ を か つ み つ る か な し り ぬ る す み の え の ま つ よ り さ き に わ れ 二 月 五 日
・
六 九 頁む
(
神 の 心 の)
の や う に、
歌 に お い て 最 も 重 要 な 意 味 ・ 機 能 を 有 す る 助 詞 ま で、
的 に 改 竄 す る こ と に も 顕 は れ る の で あ る。
い つ れ に せ よ、
こ れ ら の 漢 字 は 用 語 数 が 少 い た め に、
漢 字 の 使 用 ( 充 当)
度 数・
率 も 低 く、
さ う し た 点 で 常 用 的 漢 字 と す る に 至 ら な い も の で あ る が、
上 の 用 語 の 所 見 箇 所 で は、
だ い た い こ れ ら の 漢 字 が 慣 用 さ れ る と い ふ 安 定 し た 傾 向 性 が 見 ら れ る こ と は、
注 意 す べ き で あ ら う 。 又 、 の 「 影・
今・
手・
名 」 は、
土 左 日 記 の 歌 で は 仮 名 書 き と な っ て ゐ る が、
伊 達 本 古 今 集 で は、
「 手 」 を 除 く 他 は、
殆 ど 常 用 的 に 充 当 さ れ て ゐ る 漢 字 で、
別 に 地 文 専 用 と い ふ 訳 で は な い。
同 様 に、
歌 に 充 当 さ れ た 漢 字 も 、 歌 に の み 用 ゐ ら れ る 訳 で は な い こ と い ふ ま で も な い 。 但 し、
「 久 方・
白 浪・
哉 」 な ど は 歌 語 の 漢 字 表 記 で あ る 。 あ る 玉 う み に か x み を い れ て 二 月 五 日。
七 三 頁(
) は 定 家 本 本 文 自 己 享 受 な ほ、
ba dC 「 女 」 は 四 例 あ る が、
原 本定 家 本 り お む な ー
i
↓
お き な ーロ
お ん な2
ー↓
同1
・
乎 ん な ーを む な 2
ー
同 1・
を ん な ーロ
む 乎 ん な71
を ん な 5・
女2
む を ん な ご ーi
↓ 女 こ 1 0 原 本 の 表 記 と 対 照 し て み る と ef 乎 ん な ご 31 ↓ 同 1・
を ん な こ 2む
9 乎 ん な わ ら は ーー
女 わ ら は 1 成 人 女 性(
婦 人)
二、
女 児一
、
女 童一
と な っ て を り、
他 は 仮 名 娠 の 意 の 「 お ん な 」 に 「 女」
を 充 当 し な か っ た の は、
偶 然 で い 。 a の 「 お む な 」 を 「 お き な 」 と し た の は、
明 ら か に 意 を 読 み c 以 下 の 「 を ん な 」 と は 異 な る 語 と 認 識 し む 尤 も、
さ う な る とb
の 「 乎 ん な 」 と f の「
乎 ん な ご 」 と 全 く 別 の 語 で あ る の に 同一
の 表 記 を 採 っ た の は 何 故 か と い ふ 疑 問 が 生 こ れ は 定 家 使 用 の「
乎 」 の 字 体 が、
「 お・
を 」 何 れ に 属 す る 仮 名 土 左 日 記 に お け る 定 家 仮 名 遣 の 大 き な 問 別 稿ー
仮 名 遣 の 場 合i
に 詳 述 し た い。
「 女 」 は、
ab を 除 い て は、
年 齢 に 拘 ら ず 女 性一
般 に つ } ・ ・ }荏
・ } 女 児 ・}
女 童 ・ の 如 く で、
書 き で あ る。
は あ る ま 取 っ て の 改 竄 と 見 ら れ る か ら、
て ゐ た で あ ら う 。 は、
ず る が、
で あ る か と い ふ こ と と 共 に(
−o)
、
題 で も あ る の で、
い つ れ に せ よ、
い て 充 当 す る と い ふ 用 字 意 識 が あ っ た と 見 る こ と に 誤 り は な か ら う 。 の 名 称 漢 字 人 名・
地 名 等 固 有 の 名 称 に 使 用 ( 充 当)
さ れ た 漢 字 を、
仮 に 名 称 漢 字 と 呼 ぶ 。 こ の 種 の 漢 字 は、
最 も 注 釈 的・
解 説 的 性 格 の 強 い 点 で、
他 の一
般 的 な 漢 字 と 異 な り、
し ば し ば 勘 記・
勘 物 に 発 展 す る 場 合 も あ る 。 土 左 日 記 で は 藤 原 橘 仲 麿(
仲 ま ろ)
桂 河 住 吉 住 の え す み の 江 が 挙 げ ら れ る 。 土 左 日 記 に 登 場 す る 人 名 は ふ ち は ら の と き ざ ね(
3)
た ち ば な の す ゑ ひ ら(
2)
あ べ の な か ま ろ (2
)
あ り は ら の な り ひ ら (2
)
こ れ た か の み こ(
1
)
こ れ も ち一 10 一
相 模工 業大 学 紀 要 第