山梨大学教育学部紀要 第 31 号 2020 年度抜刷
Consciousness of undergraduate students to achieve SDGs with “Home economics” at
elementary school
川 島 亜紀子 岡 松 恵 神 山 久 美 志 村 結 美 KAWASHIMA Akiko OKAMATSU Megumi KAMIYAMA Kumi SHIMURA Yumi
田 中 勝 時 友 裕紀子 TANAKA Masaru TOKITOMO Yukiko
SDGs 達成に向けた小学校家庭科教育に関する大学生の意識
Consciousness of undergraduate students to achieve SDGs with “Home economics” at
elementary school
川 島 亜紀子 岡 松 恵 神 山 久 美 志 村 結 美 KAWASHIMA Akiko OKAMATSU Megumi KAMIYAMA Kumi SHIMURA Yumi
田 中 勝 時 友 裕紀子 TANAKA Masaru TOKITOMO Yukiko
要旨:小学校家庭科教育における,「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Develop-ment Goals)」達成を目的とした教育(ESD:Education for Sustainable DevelopDevelop-ment)の重 要性を踏まえ,本研究では,2019 年度後期に山梨大学教育学部で開講された小学校家庭 科の指導に関する科目「家庭科内容論」の受講者に対し,SDGs と家庭科とのかかわり を意識した授業を行った。その効果検証のため,最終回授業時にオンラインによるアン ケート調査(記名式)を行った(37 名,回収率 100%)。アンケート調査の結果,授業内 で取り扱った目標に関しては8割以上の学生が「理解している」と回答し,家庭科との 関連から具体的な学習内容について考えることができていた。授業後に授業内での取り 組みにおける学生の反応およびアンケート調査結果をもとに考察し,今後の課題につい て検討した。 1. はじめに
(1) SDGs(Sustainable Development Goals)
グローバル化の進展等により,現代社会を生きる私たちの生活は大きく変化し,地球規模で貧困, 格差,紛争,気候変動,ジェンダー不平等,感染症,大気・水質汚染等々,多くの課題が噴出して いる。これらの課題に対し,解決に向けて国際的に取り組むべき重要な視点として提起されたのが, 「持続可能な開発(Sustainable Development)」 であり,それを現在,具体的に進める目標として示さ れたのが,「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」(以下, SDGs)である(荒 井他 , 2020)。 持続可能な開発とは,「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開 発」である。1992 年の環境と開発に関する国連会議において提示され,経済開発と人々のニーズを充 足し,環境を守る成長とのバランスをとらなければならないとされた ( 外務省, 2019)。この会議で は,1995 年から国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP1)を毎年開催することを決め,地球温暖 化対策を検討することになった。1997 年のCOP3で京都議定書が採択され,2019年にスペインで開か れたCOP25では地球温暖化対策推進を訴えているスウェーデンの高校生グレタ・トューンベリさんの 活動が話題となったのは,記憶に新しい ( 井元 , 2020)。
国連はその後,2000 年にMDGs(Millennium Development Goals,ミレニアム開発目標)を採択し,2015 年を期限として取り組みを進めてきた。MDGsは,貧困・社会的排除問題の解決をめざし,保健,衛 生,教育,女性のエンパワーメントなどの国際的な課題に対して,安全でより繁栄した公平な世界を 建設するために新たな国際的なパートナーシップを呼びかけた。
以上をさらに発展させ,現在取り組みが進められているのがSDGsである。SDGsは,2015年9月の 国連総会において採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 年アジェンダ」
に記載され,2030 年に向けた具体的な 17 の目標と 169 のターゲットが含まれている。「 誰ひとり取り 残さない(No one will be left behind)」をテーマに,途上国だけではなく,世界の全ての国と人々を対象 に,保健,教育などMDGsの残された課題に加え,2000年から2015年の間に顕在化してきた都市,気候 変動,格差などの解決を目指した環境・社会・経済・政治について多岐にわたる目標をあげている。 日本においても,2016 年にSDGs 推進本部が設置され,2017 年 12 月には 「SDGs アクションプラン 2018」 が策定されるなど,政府による基盤整備が進められてきた。最新は 2020 年版であり,ビジネス とイノベーション,SDGs を原動力とした地方創生,担い手としての次世代・女性のエンパワーメン トを3つの方向性として,各省庁において,積極的に取り組みが行われている ( 外務省, 2019)。
(2) ESD (Education for Sustainable Development)
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)(以下,ESD)は,学際 的かつ総合的な取り組みを通じて,持続可能な社会づくりの担い手を育む教育であり,SDGs 全体の 達成に不可欠とされている。具体的には,SDGs の目標4「質の高い教育をみんなに(全ての人に包 摂的かつ公正な質の高い教育を確保し,生涯学習の機会を促進する)」のターゲット 4.7 に明記され, SDGs全体を推進するための基礎として教育を位置づけ,実現の鍵であるとしている。 1992 年の環境と開発に関する国連会議において,「持続可能な開発に向けた教育の再編成」が必要 であるとされ,環境教育,開発教育,平和教育,人権教育などを統合して,国際的に教育に取り組む ようになったのがESD のはじまりである。その後,2002 年の「持続可能な開発に関する世界首脳会 議」において,日本政府とNGO が「国連持続可能な開発のための教育の 10 年(ESD 10 years)」を共 同提案し,同年の第 57 回国連総会で採択されて以降,ESDが名称として国際的に定着してきた(井元, 2020)。さらに,2019 年国連総会において,「ESD for 2030」が採択されている。 日本においてESDは,文部科学省がユネスコ国内委員会とともに推進しており,学校教育だけでは なく,家庭,職場,地域等のあらゆる場面において,SDGs に関する学習を奨励していくことが重要 であるとしている。学校におけるESDとしては,学習指導要領の前文と総則(2018,2019)に,「持続 可能な社会の創り手となる 」 との文言が取り入れられ,教育振興基本計画に「ESDの推進」が盛り込 まれた。 「我が国における『国連持続可能な開発のための教育の 10 年』実施計画」(平成 18 年3月 30 日決定, 平成 23 年6月3日改訂「国連持続可能な開発のための 10 年」関係省庁連絡会議)によると,ESDは, 現代社会の課題を自らの問題として捉え,身近なところから取り組む(think globally, act locally)こ とにより,それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと,そしてそれによって 持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動=持続可能な社会づくりの担い手を育む教育 と定義されている。また,ESDの学習を通して育みたい力として,①持続可能な開発に関する価値観 (人間の尊重,多様性の尊重,非排他性,機会均等,環境の尊重等),②体系的な思考力(問題や現象 の背景の理解,多面的かつ総合的なものの見方),③代替案の思考力(批判力),④データや情報の分 析能力,⑤コミュニケーション能力,⑥リーダーシップの向上等,を挙げている。 (3) 家庭科教育におけるSDGs と ESD 家庭科教育とSDGs や ESD との親和性は高く,近年,家庭科におけるSDGs や ESD に関連した授業 実践や研究が散見されるようになってきた。しかし,2013 年の中学校・高等学校家庭科教員対象調 査においては,ESD に対する関心は高いものの,その理解や実践の度合いは高いとはいえず,ESD を意識した授業実践が充分に行われていない状況であった ( 佐藤他, 2019)。その後,SDGsが策定さ れ,ライフスタイルの変容まで踏み込んだ教育が求められている現在,家庭科教育において,SDGs
やESD に関するさらなる取り組みが求められている。表1は,SDGs の目標と関連する家庭科の学習 内容例を表したものである(荒井他 , 2020 を参考に作成 )。全ての目標と家庭科の学習内容に関連が あることが認められる。 さらに表2は,SDGs の目標と新学習指導要領(2017,2018 年)で示された,家庭科の見方・考え 方との関係をまとめたものである。 表1 SDGs の目標と関連する家庭科の学習内容例 SDGsの目標 関連する家庭科の学習内容例 1 貧困をなくそう 家族・家庭生活,生活設計,保育,家庭経済 2 飢餓をゼロに 健康・安全な衣食住の生活,共生社会 3 すべての人に健康と福祉を 高齢者他福祉・共生社会 4 質の高い教育をみんなに 教育全般 5 ジェンダー平等を実現しよう 平等な社会参画,パートナーシップ,協働の子育てと家事労働 6 安全な水とトイレを世界中に 生活排水・生活ゴミ問題 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに 省エネ生活 8 働きがいも経済成長も ライフ・ワーク・バランス,過労死,生活時間他 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 生活文化の伝承と創造他 10 人や国の不平等をなくそう 協力・協働,子どもの貧困,格差 11 住み続けられるまちづくりを 住環境・バリアフリー,ユニバーサルデザイン 12 つくる責任 つかう責任 消費者教育,消費者市民社会,エシカル消費,グリーンコンシューマー 13 気候変動に具体的な対策を 地球の温暖化,環境保全,環境問題 14 海の豊かさを守ろう 地球の温暖化,環境保全,環境問題 15 陸の豊かさも守ろう 地球の温暖化,環境保全,環境問題 16 平和と公正をすべての人に 協力・協働 17 パートナーシップで目標を達成しよう 消費者市民社会、共生社会 表2 SDGs の目標と関連する家庭科の見方・考え方 家庭科の見方・考え方 取り扱う領域の例 関わりの深いSDGsの目標例 「協力・協働」 「 家族・家庭生活 」 目標 1 貧困をなくそう 目標 3 すべての人に健康と福祉を 目標 4 質の高い教育をみんなに 目標 5 ジェンダー平等を実現しよう 目標 8 働きがいも経済成長も 目標 10 人や国の不平等をなくそう 目標 11 住み続けられるまちづくりを 目標 16 平和と公正をすべての人に 「健康・快適・安全」 「衣・食・住生活」 目標 3 すべての人に健康と福祉を 目標 6 安全な水とトイレを世界中に 目標 11 住み続けられるまちづくりを 目標 12 つくる責任 つかう責任 「 生活文化の継承・創造 」 「 家族・家庭生活 」 目標 8 働きがいも経済成長も 「衣・食・住生活」 目標 10 人や国の不平等をなくそう 「消費生活・環境」 目標 11 住み続けられるまちづくりを 目標 12 つくる責任 つかう責任 目標 13 気候変動に具体的な対策を 「 持続可能な社会の構築 」 「衣・食・住生活」 目標 6 安全な水とトイレを世界中に 「消費生活・環境」 目標 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに 目標 12 つくる責任 つかう責任 目標 13 気候変動に具体的な対策を 目標 14 海の豊かさを守ろう 目標 15 陸の豊かさも守ろう 目標 17 パートナーシップで目標を達成しよう
見方・考え方の一つである「協力・協働」と特に関わりが深いものに,目標1「 貧困をなくそう 」, 目標3「すべての人に健康と福祉を」等が考えられる(表2)。主に,「 家族・家庭生活 」 に関連する 「 生活設計 」,「 高齢者等福祉 」,「保育」,「共生社会」等の学習内容と関連が認められる他,目標2「飢 餓をゼロに」においても,子どもの貧困や格差が家族・家庭や社会に与える影響を考える学習等が考 えられる。 「健康・快適・安全」の視点と関連が深いものとして,目標3「すべての人に健康と福祉を」, 目標 6「安全な水とトイレを世界中に」等があげられる(表2)。「衣・食・住生活」を中心とした学習 内容は,健康に,快適に,安全に自らの生活を送り,日々の衣食住を充実させていくことを目ざすと ともに,エコクッキングやリフォーム等,消費や環境等に配慮し,ユニバーサルデザインやバリアフ リーといった地域やまちづくりに関しても考えを深める授業展開が考えられる。 「 生活文化の継承・創造 」 の視点では,目標8「働きがいも経済成長も」, 目標 10「人や国の不平等 をなくそう」等との関連が認められる(表2)。先人の知恵や地域に根付いた生活文化,また多様な 国や地域の生活文化を大切にし,生活文化を継承し創造する資質を育むことで,現在の私たちの生活 や暮らしを大切にし,大量消費・大量廃棄の生活を見つめ直し,解決していく力をも養うことができ ると考えられる。 「 持続可能な社会の構築 」 の視点は,目標6「安全な水とトイレを世界中に」,目標7「エネルギー をみんなに そしてクリーンに」等との関連が認められる(表2)。生活において不可欠な水やエネ ルギー,そして気候,海や大地について,身近な家庭生活から実践を伴って考えを深める学習が求め られる。特に目標 12「つくる責任 つかう責任」においては,生産者,消費者の両者の責任を考える ことにより,倫理的消費等についても考えを及ぼすことができ,消費者市民の育成を目指すことがで きる(荒井他 , 2020)。 以上,家庭科の学習内容とSDGs の目標は重なる部分が多くあり,育成したい能力の目指す方向性 も似通っている。家庭科は,主体的な生活者を育成することを目標としている。SDGs で求められて いるライフスタイルの変容をめざして,具体的な生活の課題を解決する実践を伴った学習を行うこと が,SDGs の理解を深めるとともに,よりよい生活を希求する生活者を育成する家庭科の目標を達成 することになると考える。 これらを踏まえ,本研究では,小学校の教科に関する科目「家庭科内容論」において,ESDで育み たい力,ならびに,各領域での学びを踏まえて実際どのような学習内容が考えられるかを授業内で検 討したのちに,受講生のSDGsに関する認識の実態を調査する。 2. 方法 (1) 各学習内容におけるSDGs の取り扱い 本学部小学校の教科に関する科目「家庭科内容論」は,「小学校家庭科の内容について理解し,それ ぞれの領域・内容について理解を深め」,「児童をめぐる家庭,学校,地域の実態を踏まえた上での家 庭科のあり方について考える」ことを目的としている ( 岡松他, 2019)。本研究で対象とした 2019 年 度後期の授業においては,初回(オリエンテーション・小学校家庭科の目標等)において,SDGs の 概要を説明し,その後,家族・家庭生活,食生活,衣生活,消費生活・環境,住生活の順に,小学校 の家庭科の学習内容を網羅的に6名の教員がオムニバス形式で担当した(表3)。各学習内容の概要 並びに,SDGsの取り扱いについて,以下,講義の順に示す。 a) SDGs・ESD の概要 初回の授業(オリエンテーション)において,新学習指導要領の概要と ともに,SDGs と ESD の概要について,17 の目標や 169 のターゲット,地球温暖化対策推進を訴えて いるスウェーデンの高校生グレタ・トューンベリ氏等の紹介を行い,基礎的理解の向上に努めた。
b) 家族・家庭生活 「家族・家庭生活」では,まず,自分と家族とのかかわりや家庭生活,地域と の関わりを見直し,振り返ることで,自ら課題を見出すことを目的としている。その気づきを引き出 すため,家族樹形図(ジェノグラム)や家庭内の仕事について振り返り,DVD「つみきのいえ」(監 督 加藤久仁生,東宝 2008 第 81 回アカデミー賞短編アニメ賞受賞)を視聴するなどを通して,家族 や家庭の意味について考える機会を提供した。 本学習内容においては,SDGs の中でも,目標 5「ジェンダー平等を実現しよう」に着目し,現 代日本の家庭内におけるジェンダー格差につい て,教育を通じて解消するにはどのような内容が 考えられるかを考察させることを目的とした課題 を提示した。当該課題に対する学生のレポートを 分析し,ジェンダー平等に向けたESDに対する学 生の態度について検討した。その後,講義・演習 を通じて,わが国におけるジェンダー格差や教育 のあり方について学生同士で意見交換を行うとと もに,ジェンダー格差の実態について概説を行っ た。 c) 食生活 「食生活」では,学習指導要領「食 生活」の (1) 「食事の役割」,(2) 「調理の基礎」, (3) 「栄養を考えた食事」に沿って,小学校の「食生活」分野における授業についての講義ならびに 演習・実習を実施した。「調理の基礎」においては2時間(2週)の授業において,調理を行う上で 身に付けるべき技能や態度について解説するとともに,学生には調理実習において各自確認するよう 促した。各自およびグループでたてた「調理の計画」に沿って炊飯とみそ汁の調理実習を行うととも に,実習記録の提出を課題とした。 SDGs の目標について事前の解説は行わなかったが,衛生に留意した調理,環境負荷の少ない調理 については最低限の注意喚起を行った。実習の記録には「持続可能な開発目標SDGs の具体的内容に おいて,調理をする上でできることは何があるか,具体的に記載すること。」を課した。 また,持続可能な食生活に関連して,食品ロス,フードバンク(山梨),カーボンフットプリント 等の説明を行った。 d) 消費生活・環境 消費者教育推進法では,消費者教育について「消費者の自立を支援するため に行われる消費生活に関する教育(消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性 について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれに準ずる啓発活動をいう。」と定義され ている(第2条第1項)。近年の授業では,この消費者市民社会に参画する消費者の育成を目指して きた。SDGs については,特に目標 12「つくる責任 つかう責任(持続可能な生産消費形態を確保す る)」が消費生活に関わるため,この目標 12 について理解し,自らの消費行動が社会に与える影響に ついて考える授業を実施してきた。 具体的には,文部科学省「平成 30 年度連携・協働による消費者教育推進事業」の事業受託により 山梨大学が中心となって地域の消費者教育関係者と連携して作成した教材「小学校・中学校における 消費者教育:成年年齢引き下げを見据えた指導のために」注1)を用いて,売買契約の基礎を理解させ, SDGs の目標12に関わらせながら,消費者の役割,消費者の行動が社会を変える,エシカル消費(倫 理的消費)などについて概説を行った(同教材7章,pp.20 ~ 24参照)。 さらに,学生が自らの消費行動が社会に与える影響を実感し理解を深めることができるようするた 表3 2019 年度後期 「家庭科内容論」授業内容 授業回 内容 1 オリエンテーション・小学校家庭科の目標等 2 家族・家庭生活(自分の成長と家族) 3 家族・家庭生活(家庭や地域の役割他) 4 小学校における食生活に関する学習 5 被服実習1/調理の基礎 6 被服実習2/調理実習 7 身近な消費生活と環境1( 金銭・物の選択) 8 身近な消費生活と環境2( 持続可能な社会) 9 被服実習1/調理の基礎 10 被服実習2/調理実習 11 家族・ライフスタイルと住まい 12 快適な住まい 13 住まい方の工夫と実践 14 家族・家庭生活(現代の家族をめぐる課題) 15 総括 評価・まとめ
めに,エシカル消費に関するワークショップを実施し,教師としてどのように児童に教えていったら よいか考えた。 e) 衣生活 「衣生活」では,被服製作実習と講義とを1コマ(90 分)ずつ実施した。このうち講義 では,小学校の学習内容に対応させながら,“衣服の選択・購入→着装→管理→保管・廃棄”といっ た基本的な衣生活のサイクルを取り上げた。本授業での目的は,まずは基礎知識の獲得にあるが,そ の過程において自らの衣生活を見直すことにより,学生自身の衣生活の自立を進展させることを意図 している。また健康・快適・安全で豊かな衣生活を実現する視点に立ち,地球環境や世界の衣生活事 情にも関心を持ち,課題を見つけ出せることも目的としている。 2019 年度はSDGs に関連する二つの内容を取り上げた。一つは“クールビズ・ウォームビズ”で, SDGsの17の目標のうち,目標13「気候変動に具体的対策を」に関連づけることができる。もう一つ は “既製服在庫の廃棄問題”である。アパレル業界においては,売れ残った既成服は2~3年の間は 在庫として保管されるが , その後はブランド価値を守るため,たとえ新品であっても廃棄されてしま うことが多い。そのため近年では,在庫服を集め,ネームタグを付け替えることで再販する動きが出 現し,注目を集めている。この内容は,目標 12「つくる責任 つかう責任」に該当する。 学習方法としてはまずクールビズ・ウォームビズ,既製服在庫の廃棄問題について,既知の情報が あるかどうかを尋ねた。知らないものについてはスライドを用いて概説しながら,小学校における教 育的な取り組みについて考えさせた。アンケート等は実施せず,授業内で意見発表させる形とした。 f) 住生活 「住生活」では,新学習指導要領及び小学校家庭科教科書の内容と関連させて3つの テーマを設定し,授業を実施した。内容的には例年とほぼ同じである。1回目の授業では「家族・ラ イフスタイルと住まい」をテーマに,住居の間取りや空間構成から「どのような住まい方をしたいの か」「どのように家族を育みたいのか」を読み取り,住まいの基本的な機能・役割について問い直す 時間とした。教材としては3種類の平面図(サザエさんの家,私の家,住吉の長屋)を使い,平面図 の読み方,住居のつくり,住文化等の基礎事項について解説した。2回目の授業では「快適な住ま い」をテーマとし,特に「温熱環境」を取り上げ,「夏に涼しく暮らす工夫」「冬に暖かく暮らす工夫」 について小学校家庭科副読本のイラストを見ながら実践可能な方法を考える時間とした。そのうえ で,日射遮蔽・排熱・通風,断熱・気密性・換気の目的・意義・方法について,各地の住まいに見ら れる環境調整技術や住まい方の知恵に学び,季節の変化にあわせて快適に住まうことができることを 目指した。3回目の授業は第2回授業に続いて室内環境問題の内,「シックハウス症候群」「汚れの種 類と清掃」「身のまわりの整理・整頓」「採光・照明」「遮音・防音」等を取り上げ,PowerPointによる 解説のほかにグループワーク,照度測定,スマートフォンのアプリを使った生活音の聴き分け等を取 り入れた参加型とした。SDGsについては3章(1)節e) 住生活に示したとおり,簡単にふれた。 (2) 授業後アンケート調査 「家庭科内容論」の受講者 38 名のうち,最終回の授業(2020 年2月5日)に出席した 37 名(女子 学生 28 名,男子学生9名)を対象にSDGs に関する WEB アンケートを Ando, Baars, & Asari(2019) を参考に作成,実施し,全員から回答を得た(SurveyMonkey Inc. を使用)。アンケートの構成は,1) SDGs について知っている程度(よく知っている,名前は知っている,よく知らない,から一つ選 択),2)SDGsに関する情報源(テレビ,新聞等から複数選択),3)SDGsの目標についての理解度 (全く理解していない~完全に理解している,の4件法),4)SDGs の目標と家庭科の学習内容がど のくらい関連していると考えているか(全く関連していない~強く関連している,わからない,を含 む5件法),5)家庭科と関連すると考える場合,その目標と具体的な学習内容(自由記述)とした。 男女比が偏っていることから,本研究では男女差を扱わないこととし,分析にはIBM SPSS ver.26.0を
使用した。 3. 結果と考察 (1) 各学習内容における学生の反応等 a) 家族・家庭生活 SDGs の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に関連した,「現代日本の家 庭内におけるジェンダー格差について,教育を通じて解消するにはどのような内容が考えられるか」 という課題についての学生レポートを分析した(37 名分)。分析では,1)学生が認識している現在 の問題点と,2)目標を達成するために必要な教育的取り組み,の2つの視点から分類を行った(重 複回答あり)。現在の問題点としては,ほぼ全員(35 名)が性役割分業を挙げており,この理由とし て,(歴史的・文化的に)「男は仕事,女は家庭」という風習・考えが定着していることや性別による 賃金格差を挙げていた。「女だから」「男だから」といった性別による扱いにおける差(行動の制限や 与えられるものの違い等)(19 名),家庭内で発言権が性別によって異なるという意見や,性役割分 業に伴い,経済的な権力(お小遣い制)を女性が握っている,など権力差についての記述も見られた (9名)。性の多様性の排除(異性愛による家族構成に特化していること)について言及しているのは 1名のみであった。 これらの問題に対する教育的取り組みとしては,多くが「家族・家庭生活」分野で,日本のジェン ダー格差の実態を知識として学び(22 名),それを当たり前と思わずに疑う批判的思考や問題意識を 持たせること(21 名)を挙げていた。知識として示すだけでは不十分で,教員や家族が態度で示すこ との重要性を指摘する学生も多かった(順に 13 名,7名)。さらに,家庭科で学ぶ技能を定着させる ことによって,ジェンダー格差の問題を解消するとともに,生活の質を高めることができるという言 及も見られた(13 名)。授業内で家庭における仕事を取り上げたため,性役割分業に回答が偏ったが, 少数ながら,性や家族の多様性を含めた言及も見られた。伝統的家族観に対する問題意識も含めた授 業を構成する必要性が示された。 b) 食生活 実習の記録で課した「持続可能な開発目標SDGsの具体的内容において,調理をする上 でできることは何があるか,具体的に記載すること。」について,学生の記述内容の分析を行った。 回答者 36 名のうち,開発目標を掲げて記述した者は 24 名,開発目標の記述がない者が 12 名であっ た。開発目標を記述した者について,その内容を表4のように分類するとともに,記述されたキー ワードを記載した。 表4 調理をする上でできること 開発目標 回答数 キーワード 1 貧困をなくそう 3 貧困世帯の理解 2 飢餓をゼロ 12 食品ロスをなくす,地産地消,持続可能な農業 3 すべての人に健康と福祉を 1 健康な食事 6 安全な水とトイレを世界中に 8 水質汚染,洗剤量,排水を汚さない,水を大切にする 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに 3 エネルギー消費を抑える 8 働きがいも経済成長も 1 国産,地域の食品利用 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 1 フェアトレード 12 つくる責任 つかう責任 8 食べきれる量を調理する,ゴミを最小限にする 14 海の豊かさを守ろう 12 水質汚染,洗剤量,排水を汚さない 15 陸の豊かさも守ろう 4 食材を大切にする,地産地消 16 平和と公正をすべての人に 1 フェアトレード 注)複数回答を含む。
調理をする上でできることについては,複数の目標を掲げる者が多く,計 54 の目標が示された。目 標2「飢餓をゼロ」は調理をする上で自らできる「食品ロスをなくす」ことを記載した者が多く見ら れた。目標6「安全な水とトイレを世界中に」,目標 14「海の豊かさを守ろう」は調理をする際に排 水を汚さないことに留意した結果であり,目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」,目 標 12「つくる責任 つかう責任」,目標 15「陸の豊かさを守ろう」については調理をする際の電気, ガスエネルギーの節約や食材を大切することの重要性に気づいている結果であると考えられた。な お,授業中に,排水を汚さないために洗剤量を最小限にし,食品ゴミが排水に流れないよう排水口に ネットをかけること,食べられる物を捨てないこと,無駄なエネルギー消費を避けるため火加減に注 意することを説明したことから,学習内容が反映されていることが考えられる。 c) 消費生活・環境 使用した教材(注1参照)は,家庭科教員が「C 消費生活・環境」の指導を するときに,説明のポイントやワークシートなどを掲載したものである。SDGs の特に目標 12「つく る責任 つかう責任(持続可能な生産消費形態を確保する)」に関して,この教材の「7章 消費者 の権利と責任(役割)」を用いた。さらに,ACE の教材「この T シャツはどこからくるの?」を用い て,ワークショップを実施した。 授業の最後に,内容について考えたこと,教師としてどのように教えたいかを学生に記述させた。 多くの学生から,教材に掲載されている「買物はお金の投票(買物の社会的な意味)」の図や地産地 消の配慮の図などが小学生にも分かりやすい,消費者の行動が社会を変えるという意識は今までな かったが,これらの図を授業で示しながら一人一人の消費行動が社会に影響を与えていることをしっ かり教えたいという意見が出された。また,教師の言葉や説明だけでは子どもたちの行動は変わらな いので,身近な具体例を使って日常生活に生かせるよう教えたいという意見も多く出された。 こうした授業内での取り組みは,「優先的に取り組んでいきたいSDGs の目標とその理由」(表5) にも表れており,「消費生活・環境」の授業で重視した目標 12「つくる責任 つかう責任(持続可能 な生産消費形態を確保する)」を選択したのは 15 人と多かった。1位に挙げた人は7人,第2位は4 人,第3位は4人であり,その理由として,身近で取り組みやすいことが多く挙げられていた。授業 で目標 12 に関わる内容の説明の他に,ワークショップも導入して自分たちの問題として考えさせたた め,学生が身近で取り組みやすいと考えて挙げたのではないか。 d) 衣生活 「衣生活」では先述のとおりクールビズ・ウォームビズ及び既製服在庫の廃棄問題の二 つを取り上げた。まずクールビズ・ウォームビズについては,既に世の中に定着しており,学生に とっても,日常着やビジネスウェアで着用経験があるため,身近でなじみのある内容と感じたようで あった。またこれに対する教育的な取り組みとしては,小学校の学習内容である「季節に応じた日常 着の快適な着方」に繋げることができるという意見が複数挙げられた。次に,既製服在庫の廃棄問題 については既知である学生はいなかった。教育的取り組みとしては,消費生活・環境の内容と繋げら れるという意見があった。 一方,学生からは挙がらなかったが,他にも様々な取り組みや注意点が考えられる。例えばクール ビズ・ウォームビズについては,特に若者がよく利用するSPA 企業が新商品を次々と発表している。 衣服の購入に繋がるような内容については,指導の際の注意が必要であるが,本授業ではそこまで の意見は学生から挙がらなかった。また既製服在庫の廃棄問題については,本授業では解説しなかっ たが,従来から行われている古着貿易を衣服のリサイクルに関連して取り上げることができると思わ れる。また既製服在庫の廃棄問題はアパレル産業独特の問題であり,根本的には人が衣服に求める有 形・無形の価値に根差した問題であることから,「着装」授業での学びがこの問題の理解に繋がると 考えられる。また被服製作におけるリメイクといった個人的な活動と比較するような授業も考えられ る。これらのことから柔軟な考えを学生から引き出せるような工夫が必要であることが分かった。
e) 住生活 「住生活」では,SDGs の目標 11「住み続けられるまちづく り(持続可能な都市及び居住環境の 実 現 )」 と 関 連 さ せ てSDGs の 簡 単 な解説を加えた。まず,住まいづく りにおける「環境との共生」をテー マに取り上げ,環境共生住宅の考え 方・定義,要素技術,国内事例を紹 介すると共に,海外での取り組みと してフライブルク市(ドイツ)の環 境共生住宅・建築やレスター市(イ ギリス)のエコハウスを紹介した。 フライブルク市は最近,SDGs 先進都 市としても紹介されている(中口・ 熊崎, 2019)。 次に,学校でSDGs を学ぶための教材として日本ユニセフ協会が公開している「持続可能な開発目 標」副教材ポータルサイト(https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/kyozai/)に掲載の教材『私たちがつ くる持続可能な世界~SDGsをナビにして~(2019年度版)』の一部を学生に配付した(図1,2)。 この資料は中学校社会科(公民的分野)での活用を想定して作成されたものであるが,すべての校 種及び他教科での利用も想定されており,国内外の課題や取り組みがコンパクトにまとめられている ことからSDGs のガイダンス資料として有効と考えた。特に「持続可能な世界にしていくために,こ れから何をするのかを考えよう」という「ミッション!」のページ(図2)は,子どもたち一人ひと りが,これまでに学習したことを振り返り,また自身の経験や興味関心に沿って,世界を変えるため のSDGs の 17 目標の中から優先的に取り組んでいきたいと思う目標について順位を付けて3つ選び, その理由を書く内容となっており,家庭科とSDGs をつなぐ際の導入部として用いることが可能であ る。そこで家庭科内容論の受講生にもこのシートへの記入を課題とした。 受講生の記入結果を整理したのが表5である。優先的に取り組んでいきたい目標として選択した学 生が多かったのは目標2「飢餓をゼロに」(19 人),目標 12「つくる責任 つかう責任」(15 人),目標 5「ジェンダー平等を実現しよう」(14 人),目標6「安全な水とトイレを世界中に」(12 人)であっ た。第1位に選択した理由を見ていくと,「飢餓をゼロに」ではこの問題を日々の食生活を見直し個 人・家庭で実践可能なことと考え,グローバルな視点から食料問題を捉え直し,人の命や食べること の意味等へ視点を広げている。「つくる責任 つかう責任」では,身近で取り組みやすいことが選択 理由として多く挙げられている。 次に 17 目標を選択順位別に見ていくと,学生が第1位に挙げたのは 17 目標中 10 目標で,第2位は 14 目標,第3位は 16 目標であった。順位を付けることの難しさに加えて,学生の多様な考え方や価値 観がここに表れている。 この「ミッション!」という課題は,目標の達成に向けて以下の4つのステージを進みながら学び を深めていくこととしている(表6)。今回の受講生の回答から,第1ステージ(目標の選択)の結 果をもとに第2ステージ(記入した結果を用いてクラス・班で話し合う)以降へとつなげていくこと が可能である(表5,表6)。 図1 配付資料 図2 配付資料 (「ミッション!」のページ)
表5 優先的に取り組んでいきたい SDGs の目標とその理由 選択 目標 者数 1位 2位 3位 理由(1位) 1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせよ う 6 3 3 2 飢餓を終わらせ ,全ての人が一年を通して栄養の ある十分な食料を確保できるようにし ,持続可能 な農業を促進しよう 19 10 6 3 ①人 間は食 べら れなけ れば生 きられ ない ,② 自分 自身が 無駄な 買い 物をす ること があ る ,③ 食品ロ スに ついて 学び本 当に必 要な分 だけ の食品 を買い 使い切 るこ との大 切さ にあ らため て気 づき自 分でも できる ことを やっ ていこ うと思 った , ④日本 のよう に食 べ物を大量に捨てている国もあるから飢餓で困っている地域の人々のために食材を分 けるなど改善策はあると思う ,⑤食料廃棄が未だに先進国で多くあり ,見通しをもっ て使 い発展 途上 国に食 糧をま わすべ き ,⑥家 庭で の食糧 の無駄 をな くし買 いすぎ ない よう にした り保 有方法 を工夫 したり して取 り組 みやす そう ,⑦ 自分 がいち ばん取 り組 みやすいカテゴリー ,⑧人の命を守ることがいちばん大切なことで ,そのためには持 続可 能な方 法で 食糧生 産をす べき ,日 々の食 べ物 を残さ ないな ど私 たちが 最も行 動し やすい ,⑨食べることは人を幸せにするし人を元気にする ,人が活動するため健康で いるためには食事は大事 ,皆が幸せになれるようにしたい ,⑩すべての人間が平等に 栄養のある食事をとるべき 3 あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保 し,福祉を促進しよう 2 2 4 全ての人が受けられる公正で質の高い教育の完全 普及を達成し ,生涯にわたって学習できる機会を 増やそう 6 3 3 5 男女平等を達成し ,全ての女性及び女児の能力の 可能性を伸ばそう 14 4 4 6 ①性別による差別は理不尽であり理由なく人が苦しむのはよくない, ②性に対して様々 な形 がある よう になっ た ,性に とらわ れない その 人自身 の能力 や可能 性を 信じお 互い のこ とを尊 重で きたた らよい , ③身近 なテー マで あり家 庭とい ういち ばん 心の拠 り所 となるところにも関係してくる,④男女平等を教えたい 6 全ての人が安全な水とトイレを利用できるよう衛 生環境を改善し ,ずっと管理していけるようにし よう 12 5 5 2 ①使っていないときは水を止める ,油を流さないなど自分にできることが多い ,②ア フリカの地域できれいな水を飲めるところが少ない ,不衛生 ,③トイレをきれいにす れば 気持ち が晴 れてス ッキリ する ,④ 自分が ふだ ん使用 してい るも のの意 識を変 える ことで貢献できそうだから ,⑤水は生きるために必ず必要でありトイレもまた同じで , すべての人が生きるうえで必要なことに不自由してはいけない 7 全ての人が ,安くて安定した持続可能な近代的エ ネルギーを利用できるようにしよう 3 2 1 ①エネルギーには限りがあるため早急に持続可能なエネルギーを利用する必要がある, ②自分自身が無駄遣いをしてしまうことが多くある 8 誰も取り残さないで持続可能な経済成長を促進 し,全ての人が生産的で働きがいのある人間らし い仕事に就くことができるようにしよう 2 1 1
表5(続き) 優先的に取り組んでいきたい SDGs の目標とその理由 選択 目標 者数 1位 2位 3位 理由(1位) 9 災害に強いインフラを作り ,持続可能な形で産業 を発展させイノベーションを推進していこう 3 1 2 10 国内及び国家間の不平等を見直そう 2 2 11 安全で災害に強く ,持続可能な都市及び居住環境 を実現しよう 4 2 1 1 ①富 士山の 噴火 や首都 直下地 震が予 想され てい る , ②安 全な環 境で ないと 他のこ とも できない 12 持続可能な方法で生産し ,消費する取り組みを進 めていこう 15 7 4 4 ①いちばん身近で実行しやすいし ,家庭科の指導に関連している ,②いちばん身近で 取り 組みや すい , ③作る 責任使 う責任 を意識 して 利益追 求だけ でなく あら ゆる分 野に 責任 をもつ こと が大切 , ④環境 に配慮 した商 品を 買って 消費す ること で達 成され 私た ちが比較的取り組みやすい ,⑤いちばん身近で取り組みやすいもので ,必要なものだ け必 要な分 だけ を心が けた生 活をし たい ,⑥ 生産 や消費 は日頃 から 行って いる身 近な 問題 でいち ばん 取り組 みやす い ,⑦ス ーパー で地 元の食 材を買 うなど 身近 に取り 組み やすい 13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策 を講じよう 4 2 1 1 ①地 球温暖 化な ど気候 変動に よって 人や作 物に 大きな 悪影響 を与 えてし まう ,② 気候 変動で南国がなくなってしまうかもしれない 14 持続可能な開発のために海洋資源を保全し ,持続 可能な形で利用しよう 2 1 1 ①洗剤の量や節水など自分がいちばんできると思う 15 陸上の生態系や森林の保護 ・回復と持続可能な利 用 を 推 進 し , 砂 漠 化 と 土 地 の 劣 化 に 対 処 し , 生 物 多様性の損失を阻止しよう 3 2 1 16 持続可能な開発のための平和的で誰も置き去りに しない社会を促進し ,全ての人が法や制度で守ら れる社会を構築しよう 7 2 2 3 ①世 界には 法や 制度に 守られ ていな いこと が当 たり前 になっ てい る人が いる ,② 日本 では当たり前のように平和な生活ができているが世界では当たり前ではないから 17 目標の達成のために必要な手段を強化し ,持続可 能な開発にむけて世界のみんなで協力しよう 4 1 2 1 ①各目標を皆が自分とも関係があることだと認識することが達成するために最も重要 だと考える
(2) 授業後アンケート調査の結果 a) SDGs の認知度 SDGsについてどのくらい知っているかについては,「よく知っている」が全体 の 40%,「名前は知っている」が全体の 57%であった。授業で取り上げたこともあり,よく知らない と答えた学生はほとんどいなかった。先行研究では,「よく知っている(30%)」,「名前だけ知ってい る(44%)」,「知らない(26%)」であったことから,授業で取り上げたことによって認知度が高まっ た可能性もある (Ando et al., 2019)。授業によって認知度に変化があったかどうかを真に検証するため には,事前アンケートなどによって検証することが必要であろう。 b) SDGs に関する情報源 SDGs の認知度と情報源の関係を見るため,クロス集計表を作成した (表7)。その結果,授業を通してSDGs を知った人が最も多く,インターネット等,テレビから情報 を得ている人は少数であった。しかし,「よく知っている」の割合は,テレビや授業のように受動的 に情報を入手するよりも,インターネットや書籍のように主体的にアクセスする必要のあるメディア の方が高い可能性が示された。 表6 課題「ミッション!」における目標達成に向けての4ステージ ステージ1 SDGsの17目標のうち,優先して取り組むべき課題を選ぶ(個人) ステージ2 優先して取り組むべきと思った課題とその理由を発表しあう(グループ) ステージ3 持続可能な社会に向けて解決すべき課題を考える(個人) ステージ4 行動宣言「2030 年にむかってしていきたいこと」(個人) c) SDGs の目標についての理解度 SDGsの17の目標の理解度について,「完全に理解している」「や や理解している」のいずれかを選択した「理解している」と,それ以外の「理解していない」の2群 に分け,「理解している」と回答した割合を検証した(表8)。「ジェンダー平等を実現しよう」,「貧 困をなくそう」,「飢餓をゼロに」,「人や国の不平等をなくそう」,「つくる責任 つかう責任」について, ある程度以上理解していると回答した学生は全体の8割を超えていた。 d) SDGs の目標と家庭科の学習内容の関連及び具体的な学習内容 上記理解度と同様,SDGsの17 の目標と家庭科の学習内容との関連について,「強く関連している」「やや関連している」を選択した 「関連あり」,とそれ以外の「関連なし・わからない」の2群に分け,「関連あり」の回答割合を検証 した(表8)。「つくる責任 つかう責任」,「飢餓をゼロに」,「住み続けられるまちづくりを」,「ジェ 表7 SDGs 認知度と情報源 SDGsについて知っている程度 よく知っている 名前は知っている よく知らない 計 授業 12 20 1 33 テレビ 1 4 0 5 WEBサイト 2 2 0 4 ネットニュース 2 0 0 2 SNS 2 0 0 2 講演 1 1 0 2 書籍 1 0 0 1 新聞 0 0 0 0 友人 0 0 0 0 注)書籍は,「その他」に対する自由回答。
表8 SDGs の目標についての理解度および家庭科学習内容との関連度 目標についての 理解度 家庭科との 関連度 1 貧困をなくそう 84% 78% 2 飢餓をゼロに 84% 89% 3 すべての人に健康と福祉を 62% 76% 4 質の高い教育をみんなに 73% 68% 5 ジェンダー平等を実現しよう 87% 84% 6 安全な水とトイレを世界中に 65% 81% 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに 57% 84% 8 働きがいも経済成長も 49% 70% 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 38% 57% 10 人や国の不平等をなくそう 84% 68% 11 住み続けられるまちづくりを 68% 89% 12 つくる責任 つかう責任 84% 95% 13 気候変動に具体的な対策を 62% 68% 14 海の豊かさを守ろう 54% 73% 15 陸の豊かさも守ろう 46% 78% 16 平和と公正をすべての人に 65% 68% 17 パートナーシップで目標を達成しよう 65% 70% 注)理解度については,「完全に理解している」「やや理解している」のいずれかを選択した割合, 関連度については「強く関連している」「やや関連している」のいずれかを選択した割合。 ンダー平等を実現しよう」,「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」,「安全な水とトイレを世界 中に」に関して8割以上の学生が関連していると回答していた。いずれも,講義内で扱われた内容を 反映していた。 次に,「関連があるとした場合の具体的な学習内容」について記述したのは 33 名で,うち 13 名が消 費者教育分野における学習活動,10 名が食生活分野における学習活動を挙げた。その他には,家庭内 での性役割分業(5名),住環境や住まい方(3名),地域と家庭の協力に関する学習活動などが挙げ られた(表9)。ただし,具体的な学習内容の記述ではなく,多くは抽象的な概念・テーマを記載す るにとどまる回答も多かった。 表9 SDGs 達成に関連する家庭科教育の具体的内容(自由記述) 目標 学習内容 1 貧困をなくそう 消費者教育 2 飢餓をゼロに 食材を捨てないようにする工夫,食生活の分野,食品ロス,調理実習 5 ジェンダー平等を実現しよう 家事に性別は関係ないということ,家庭の仕事の役割について学ぶ, 家庭内の男女の役割,家族・家庭生活 11 住み続けられるまちづくりを 快適な住まいをつくる,地域と家庭の協力 12 つくる責任 つかう責任 消費活動,消費社会,消費者教育,消費者生活・環境,消費生活,エ シカル消費,物や金銭の使い方・選び方・買い方 13 気候変動に具体的な対策を グリーンカーテン等を作り、地球温暖化に対処しよう 14 海の豊かさを守ろう 川を汚染することは,海の汚染につながる。そのため,調理実習の際 の片付けにおいて,油を拭き取ってから食器洗いをする,ゴミが水道 に流れないようにするなどの,環境に配慮した調理を目指す。
4. まとめ 本研究は,小学校の教科に関する科目「家庭科内容論」において,家庭科教育がSDGs 達成に有用 であることを,講義等を通じて学生に理解してもらうことを目的として行った。具体的には,家庭科 教育法ならびに各領域での学びを踏まえ,受講生のSDGsに関する認識の実態について調査し,今後, 本授業科目で取りいれるべき視点や,検討すべき点について検討した。 (1) SDGs を取り入れたことによる効果 まず,オリエンテーションにおいて,SDGsやESDの概要について紹介したことにより,「家庭科= 家庭内のこと」という視点から,家庭内や自身の生活のことが,地球規模の問題解決につながること が示された。このことが,講義全体を通じて,SDGs を自分と関係のある事柄ととらえる視点を与え たと考える。 次に,家族・家庭生活分野においては,家庭内のジェンダー不平等についての現状理解を,目標 5「ジェンダー平等の実現」への第一歩として考察を促した。その結果,学生から,当たり前を疑う 批判的思考や問題意識を持たせるには,自分の家庭だけを振り返るのではなく,多様な意見を取り入 れること,また教師が多様な意見を受け入れられることができることが大事といった意見が寄せられ た。一方で,『「自分の家族が普通ではない」ということに気づいて傷つく子がいるかもしれないから 慎重にすべきだ』という意見もあり,教師と児童との間の信頼関係に気付く学生も見られた。 食生活分野においては,SDGs を意識させた調理実習を展開することによって,学生が調理をする 上で自らできることが複数あることに気づき,食品ロスや排水への配慮,エネルギーの節約など多岐 にわたって目標に向けた貢献をすることができることを理解できた。一つの取り組みが複数目標への 波及効果を持つことに気づく学生も多く,個人の配慮や努力で世界規模の問題の解決につながること を実感できたものと考えられる。 消費生活分野においては,学生から「消費者行動が社会を変えるという視点がなかった」という意 見が出された。消費行動と環境・社会問題が関係しているということが印象として大きかったこと, 教材や授業における工夫が学生の理解を促したことが,「優先的に取り組んでいきたいと思う目標に ついて」(表3)や「SDGs 達成に関連する家庭科教育の内容」(表7)において,消費生活が多く選 択されたことにつながったと考えられる。このことにより,講義で用いた教材が,大学生に対しても 有効である可能性が示された。 衣生活分野では,講義内で“クールビズ・ウォームビズ”及び “既製服在庫の廃棄問題”の二つが 取り上げられた。前者については,政府が主導したこともあり,認知度が高く,またこれに企業が参 画することによって広く知られており,後者についての認識は認められなかった。既製服を安易に購 入したり廃棄したりするという消費行動の問題は消費生活の内容で考えられるという意見も見られた が,衣生活分野においても,「着装」に関する授業や,リサイクルやリメイクといった活動なども取 り上げることで,視野を広げられる可能性が考えられた。 住生活分野では,講義内で,SDGs の目標 11「住み続けられるまちづくりを」と関連させて,環境 共生住宅の考え方や国内外の事例を紹介した。講義中に実施した学習の振り返りやSDGs の目標から 優先的に取り組んでいきたいと思う目標については,目標 11 が選択されにくい実態が示唆された。こ のことは,エコロジカルなまちづくりということが,まだ身近には感じられないという学生の実態を 反映しているものと考えられる。しかしながら,目標 17 に優先的に取り組みたいということへの具体 的理由として,「各目標を皆が自分とも関係があることだと認識することが達成するために最も重要 だと考える」と挙げられており,地球規模の問題を自分の問題としてとらえる重要性に気づくことが できていることは,取り組みをスタートするうえで大事なことであり,「身のまわりのこと」「自分の
生活に関わること」といったイメージをもつ家庭科ではあるが,そこから地球規模の問題解決につな がるということを理解できたことは有用である。 (2) アンケートを通して示された学生の実態 本研究の結果は,授業内でSDGs を取り上げなかったときのものと比較できないため,もともと学 生が理解していたのか,本講義を通じて理解が深まったのかについては結論付けることはできない。 しかしながら,授業内で取り扱った内容については,理解度が他の目標よりも高く(表6),少なか らず学生の理解に寄与したのではないかと考えられる。また,多様な目標が家庭科教育と関わると考 えていることも示唆され(表6),各分野の講義を通じて,身のまわりのことから社会変革が可能で あるということ,それを児童に教えることが必要だという認識を持つことはできたと考えられる。一 方で,児童に教えるための具体的な学習活動については,概念的な表現にとどまり,具体的な活動を 着想できるほどの理解には至っていなかったり,分野によってSDGs とのかかわりが理解しやすいも のと,そうではないものあったりするように見受けられた(表7)。実際には,家庭科で扱う全ての 内容が,SDGs へとつながりうることから,小学生でも理解できるようなテーマをそれぞれの分野で 検討し,小・中学校の教員を目指す学生の教育へつなげることが重要であろう。 (3) 本研究の限界と今後の課題 以上から,講義を通じて,家庭科教育がSDGs 達成に有用であることへの一定の理解が高まったと 考えられる。しかしながら,本研究は,半期分の講義におけるデータに過ぎず,今後も継続的な検証 が必要である。また,SDGs の達成に関しては,行動が伴うことが重要であり,やったほうがいいと 知っていても,実際にその通りに行動はしていない(意識と行動の乖離が大きい)ことは先行研究か らも示唆されている (Park and Lin, 2020; Johnstone and Tan, 2015)。したがって,今後は,行動レベルに おける変容についても視野に入れた教育を展開することが求められよう。
今回は試験的な取り組みではあったものの,教材や指導の工夫によって学生の理解が深まること, 学生の視野を広げることができることが示唆された。今後も持続可能な発展を続けていくためには, 初等教育においてSDGs 達成を目指した教育(ESD)を行っていくことがますます重要になるものと 考えられる。前青年期に培われた地球環境への関心態度は,その後も維持されることを示唆する研究 もあり (Otto et al., 2019),小学校高学年で学ぶ家庭科のESDとして果たす役割は大きいと考えられる。 このことから,今後も家庭科教育がSDGs 達成につながることを意識した授業展開としていくこと, 学生自身に主体的に試行してもらうような仕組みを工夫していくこと等が重要であろう。
5. 引用文献
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Park, Hyun Jung, and Li Min Lin. “Exploring Attitude–Behavior Gap in Sustainable Consumption: Comparison of Recycled and Upcycled Fashion Products.” Journal of Business Research, vol. 117, pp. 623-28, 2020. 佐藤裕紀子・志村結美・加賀恵子・佐藤典子・西原直枝・妹尾理子・井元りえ・楢府暢子.“家庭科 教員によるESDの授業実践の現状と課題.”日本家庭科教育学会誌, vol. 62, pp. 150-59, 2019. 【注釈】 1) 山梨大学他(2019)「小学校・中学校における消費者教育:成年年齢引き下げを見据えた指導のために」山梨県公式ホー ムページ→「くらし・防災」→「消費生活」→「消費者教育」→「『学校向け教材』をご利用ください」から,教材本文やワー クシート等がダウンロードできる。 https://www.pref.yamanashi.jp/kenminskt-c/gakkoukyouzai.html