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研究開発支出およびそのガバナンスと産業の技術的機会に関する考察 : パネルデータ分析

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研究開発支出およびそのガバナンスと産業の技術的機会に関する考察

― パネルデータ分析 ―

      馬 場 正 弘

1 はじめに

 企業の研究開発活動に対しては、そのために必要とされる企業内部およ び外部からの資金調達の容易さおよびそのコストに関する判断や、株主な どの利害関係者からのコントロールも影響を及ぼす。これに関して先に公 表した馬場[2013]においては、企業のガバナンスの面から強い制約を課 されることなしに支出することが容易な経営資源である潜在的なスラック (余剰資源)の存在およびこれらやキャッシュフローを投入することに関 する意思決定を左右する企業のガバナンス上の特徴に注目し、必要とされ るデータが利用可能な東証一部上場企業全体について、変数相互間の関係 を検討した。引き続き本稿では、技術革新に関する異なった特性を有する 業種ごとに標本を分割し、いくつかの特徴的な産業が持つ技術的機会の相 違が企業の意思決定におけるこれらの要因の作用に対して及ぼす影響の検 討を試みた結果について、馬場[2013]を補足するノートとして報告する。

2 研究開発支出とスラック、株主構成の関係

2.1 これまでの概要と本稿の計画  馬場[2013]においては、企業の研究開発活動に影響を及ぼす要因の一

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つとして、組織内での研究開発に関するコストの認識とそれに関する経営 者の意思決定のプロセスについて、企業内において厳しいコスト上の監督 なしに支出することが容易な経営資源の多寡と、それを執行する際の組織 による監督の程度に注目した。すなわち、研究開発とコーポレートガバナ ンスの関係に関する、ガバナンスが研究開発活動を支援あるいは抑制する ことで企業の研究開発資金への需要曲線を移動させる一方で、ガバナンス の強化が供給曲線の傾きを変えることで研究開発支出に影響を及ぼすとし たHubbard[1998]およびDriver and Guedes[2012]のモデルを基にし つつ1 ) 、Greve[2003]が指摘したような、潜在的なスラック(余剰資源) を内部に潤沢に保有する企業ほど、そしてこの資源を元にした研究開発へ の意思決定に際して支出を促進するような方向でのガバナンスが行われや すい企業ほど研究開発への支出は大きくなるという仮説を提示した。そし て、企業の資金面での余力を意味するスラックおよびその使用に際しての 意思決定上の要素であるコーポレートガバナンスの状態に関する特徴と研 究開発活動の積極性およびその変動との間の関係について、日本の東証一 部上場企業のデータを用いて検討を試みた。  Greve[2003]においては、企業内のある種のスラックの存在が研究開 発への支出を容易にする関係が存在することが示され2 )、またDriver and Guedes[2012]においては、より強いガバナンスが研究開発活動を抑え る傾向があることや、最高経営責任者による企業の所有という形での関与 が研究開発活動を支える方向の効果を持つことが見出されていた3 ) 。これ らについて馬場[2013]では、Driver and Guedes[2012]においてコー ポレートガバナンスそのものではないが関連する指標として用いられた株 式保有者の状況に注目し、これを説明変数とすると同時に株主構成上の特 徴によって標本集団を分割することを通じて彼らのモデルと仮説を検討し

た結果、以下のような結果を得た4 )

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て有意な効果を持ちうるが、その効果は株主構成しだいで異なり、ある種 の株主の力が強いことが研究開発活動を抑制することや、反対に促進する 場合もあることがわかった。すなわち、検討した株主構成上の特徴のうち、 外国人株主の存在は全体として企業に研究開発に関して積極的な行動をと らせるという効果を持ち、一方この比率が高い企業に標本を絞ると研究開 発がスラックの影響を受けにくいという結果となった。これらから、この ウェイトが大きな企業においては内部のスラックの有無にかかわらずリス クに対して積極的な行動がとられ、それが大株主や経営者株主といった少 数の特定株主の慎重な態度を上回る傾向があることがうかがえた。また、 この少数特定株主の影響力という作用は内部のスラックに左右されやすい 研究開発という結果をもたらし、また浮動株比率が高く市場の意思が働き やすい企業の間でもスラックに左右されやすい活動の傾向が生じることも 明らかになった。  一方、これらに関連して明らかにすることが必要なさらなる要因のひと つとして考慮されるべきなのが、当該企業が活動している産業が有してい る各種の特性からこれらの関係に対して生じている影響である。ここで検 討しているGreve[2003]の分析において業種を限定して1971 ~ 96年の 日本の造船業のデータが用いられ5 )、また関連研究のサーベイの中でいく つかの産業別計測結果における技術および市場の特性から計測結果への影 響が言及されているように6 )、個々の企業の研究開発性向やリスクに対す る態度とそれらの変化に対しては、馬場[2013]において変数として取り 上げた各種の個別企業の特性のみならず、その企業が活動の場としている 産業そのものが特徴として有する技術的機会の多寡、その産業に共通して 見られる研究活動に伴うリスクに対する態度、それぞれの産業の慣習が製 品市場や資金調達市場との間に作り上げてきた関係なども有意な影響を及 ぼすと考えられる。馬場[2013]においては、説明変数に明示されない要 因についてはパネル分析における固定効果に一括して説明を負わせ、個々

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の要因の効果について直接の検討は行わなかった。これに対して本稿では、 個々の企業が活動を行っている各産業部門に特有の技術的機会という側面 に注目してこれらの関係を捉え、同一のモデルに基づきつつもこれらの要 因の持つ役割を明示的に明らかにすることを試みる。すなわち、産業の研 究開発性向に反映される技術的機会の大小およびその他の産業固有の特徴 によって標本を分割したとき、スラック、キャッシュフロー、そして各種 株主構成が研究開発支出との間に有する関係はそれらの間でどのように異 なるだろうかという問題である。 2.2 技術的機会の効果

 Kamien and Schwartz[1982]などにあるように、研究開発活動の形態 についてそれが何によって誘発されるかという観点から分類するとき、し ばしば次の2つのタイプの仮説が提示される。まず、技術革新の基礎とな る科学的知識の役割を主に強調するテクノロジー・プッシュ仮説において は、企業が持つ技術的機会という供給側から技術革新活動に影響を及ぼす 要因が検討される。すなわちより多くの技術的機会が提供される場合ほど 技術革新活動が活発化するという経路の存在が想定され、この効果を定量 的に調べる場合、例えばその企業の従業員総数に占める研究者数の割合や 所属する産業が持つ技術集約性に関する特徴など、研究活動への資源投入 やその蓄積が指標として考えられる。もう1つは革新における経済的機会 の役割を強調するディマンド・プル仮説であり、企業が直面する需要側の 要因に注目して技術革新活動の決定要因を探るものである。これらの仮説 は、企業の内外におけるさまざまな要因が技術革新を誘発するためには、 十分な技術水準や新たな技術を生み出す素地など技術革新のための機会を 産業が豊富に有しているか否かという点および、市場がその技術革新を十 分収益的なものとするような需要状況にあるか否かという点の双方が重要

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であるということを意味している。  ディマンド・プル型の技術革新には生産や販売の段階で市場の需要がど れほどあるかが製品や工程の革新のための資金投入を決めるという側面が あるのに対し、テクノロジー・プッシュ型の技術革新の場合は、積極的な 技術的探索をもとにして応用可能な発明・発見を経て製品化を目指す決定 がなされ、成果が市場に出現するという方向を持つ。前者は市場の声が情 報となって研究開発の大きさや方向性を決めるという特性を持った産業分 野、後者はその産業や技術に製品化のための技術知識が豊富な産業分野に あてはまる。当該企業が属すると分類される産業分野がこれらのうちどち らの性格を強く持つかによって研究開発支出の意思決定の様子は異なり、 したがって本稿で検討する計測結果も産業しだいで異なりうる。例えばス ラックおよびガバナンスという面からは、豊富な技術的機会がありながら も企業内の制約によってそれに優先順位が付けられるとき、スラックが多 い企業ほど、あるいはキャッシュフローが豊富で制約が緩やかな企業ほど 研究活動は容易になると考えられる。

3 モデルとデータ

3.1 モデルの考え方  馬場[2013]および本稿において検討しているモデルは、各企業の研究 開発活動に対する支出額をリスクを伴う活動への選好の程度を表すものと して被説明変数とし、緩やかな制約のもとで利用可能な原資としての当該 企業内の各種スラックの存在によってこの企業の意思決定が影響を受ける 様子について、Greve[2003]において用いられていた要因を中心とした いくつかのスラック変数で説明するとともに、Driver and Guedes[2012] および蟻川・河西・宮島[2011]を基本としたガバナンスおよびキャッシュ

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フローに関する変数、ベースになる要因としての企業業績変数、およびそ の他の要因に関するコントロール変数を考慮するものである。そしてこれ ら以外の要因については、パネルデータ分析とすることによって固定効果 に一括することでコントロールすることを意図している。  特に本稿において明らかにしようとする関係は、これらの各変数の間の 相互関係は標本が属する産業しだいでその大きさあるいは符号条件が異な るという可能性を考慮し、同一の産業に分類される企業どうしの間に共通 する属性に注目して、各説明変数の係数の大きさと符号、および有意性に 違いが存在するという仮説の成立の有無である。  すなわち、馬場[2013]では株主構成をコーポレートガバナンスの間接 的な反映とみて、「スラック指標が大きく、キャッシュフローが潤沢な企 業ほど、研究開発支出は大きい」「株主構成上の特徴に由来する意思決定 への影響の強弱が、研究開発支出の多寡に影響を及ぼす」との仮説につい て、産業分割をしない計測においてこれらを支持する結果を得た。また 「コーポレートガバナンスが強い企業ほど、スラックあるいはキャッシュ フローの研究開発支出への効果は大きい」との仮説を検討するために、外 国人持株比率や浮動株比率などの大小で標本全体を分割して前記の仮説の 成立の有無を比較した7 )。本稿ではさらなる仮説として、これらの関係は ①研究開発活動を通じて発明・発見とそれを利用した製品開発を行うとい う技術的特徴を持つ傾向の強い製造業においてより明確である、②製造業 と非製造業あるいは競争産業と規制産業といった産業間の特徴の差異に よって影響を受ける、という予想のもとで計測を行い、後述の標本分割に よって産業間での効果の違いを明らかにすることを試みる。 3.2 データと計測方法  本稿では、これらが各企業の研究開発活動の水準自体に影響を及ぼすと

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いう可能性と活動のさらなる活発化あるいは停滞・縮小をもたらすという 可能性について検討するために、個々の企業の研究開発支出の水準および 成長率を各企業のスラック、キャッシュフロー、ガバナンスに関する指標、 およびその他のコントロール要因で説明することを試みる。すなわち、研 究開発支出(対数)LRD およびその対前年度変化率(対数階差)GRDを 被説明変数とし、Greve[2003]のイノベーション指標の決定要因である 各種のスラックおよび従業員数など規模に関する変数およびDriver and Guedes[2012]の分析における意思決定に対する企業所有と関与の程度 の面から見たコーポレートガバナンスの関連要因としての企業の株式保有 の状況に関する変数を、1期のラグを伴う説明変数とする。以前の計測と 同じく、説明変数のリストは以下の通りである。  ①スラック変数とキャッシュフロー:ポテンシャルスラックとして負債 の総資産に対する比率(対数)LDEBT、アンアブソーブドスラックとし て当座資産対負債比率(対数)LLIQ、アブソーブドスラックとして販売 管理費比率(対数)LSGAを用いる。これらはGreve[2003]における説 明変数に対応するものである。そしてこれに加えてキャッシュフローの概 念のうちから一株当たり営業キャッシュフローの増分DCF を用いる。  ②株主構成比率で見たガバナンスに関する変数:発行済株式数のうち外 国人投資家が保有している株数の割合である外国人持株比率STOCK1、保 有数10位までの大株主と役員持株および自己株式の単純合計(重複分は除 く)の割合で計算される少数特定者持株比率STOCK2、市場で流通する 可能性の高い株式の割合である浮動株比率STOCK3を用いる。これらは Driver and Guedes[2012]の検討と部分的に対応する。さらに機関投資 家の存在を考慮するためにその一部をなす投資信託持株比率STOCK4を 検討する。

 ③企業業績変数:Greve[2003]は、技術革新を決めるコントロール変 数として、企業の環境要因については産業の技術革新水準が各企業に及ぼ

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す効果という面から前年のその産業でのイノベーション件数を用い、企業 規模については従業員数(対数)や資産規模を用いた。またDriver and Guedes[2012]では、研究開発の促進に有利な点を持つとされる一方で 資源配分における経営上のコントロールの損失をもたらしうる要因として やはり企業規模が考慮された。一方で、企業規模という要因はまた、シュ ンペーター仮説として知られるように、市場支配力を高めることを通じて 市場の競争性を低下させることからイノベーションに関するマイナスの指 標となりうる一方で、イノベーションに対して好ましい効果が存在するこ とも指摘される(Aghion et al. [2005]など)ほか、外部の技術の吸収能 力や共同研究開発への参入能力を反映して自身の研究開発活動にも影響す るという研究(Cohen and Levinthal [1989]など)もあることから、効 果の方向は明らかではない。パネル分析である本稿のモデルにおいては、 これらの要因を検討するために、個々の企業の前年のイノベーションの水 準の代理変数として研究開発支出(対数)LRDを用い、短期的な市場や企 業規模の変動の効果を表す変数として売上高(対数)LSALESおよび従業 員数(対数)LEMPLを用いる。これらについては明示的なコントロール 変数としてその係数を推定するが、一方で、直面する市場構造や市場規模 などその他の諸要因については、短期的に安定していると想定して、次に 述べるように各企業の固定効果に一括する。  ④パネルデータでの変数の扱い:上記以外の、イノベーションをめぐる 産業としての特徴では捉えられない各企業の個別の技術的機会や市場支配 力という要因、およびその他の時間的に安定した要因については、Driver and Guedes[2012]同様固定効果に一括できるとして、パネル分析によっ てこれらを考慮する。なお、その際の固定効果モデルと変量効果モデルの 間の選択については、馬場[2013]における同一データでの計測結果では どの標本分割においても固定効果モデルが採択されていることから、本稿 でもこれをベースとしつつHausman検定に依拠して適切なモデルを選択

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する8 ) 。  これらの変数について、本稿で利用したデータは馬場[2013]と合わせ てある。すなわち、東証一部上場企業の単独決算ベースに基づき、2007 ~ 2009年(に始まる決算期)に関してプールしたものである9 )。データの 出所は東洋経済『会社四季報CD-ROM』2010年夏号を中心とした。なお研 究開発支出については2010年の数値は業績見込み額である。またキャッ シュフローに関する変数は連結決算ベースである。 3.3 標本の分割と検討する仮説  本稿では特に産業固有の技術的機会が持つ推定値への影響などを考慮し て、上記の個別企業のデータをそれが属する産業に注目して分割し、計測 結果を比較する。  分割に際してまず、全産業、農林水産業、鉱業・建設業・製造業、第3 次産業の区分に注目する。これは製造業と非製造業の間での研究開発支出 の企業内における重要性や優先順位の相違を考慮するためである。  また、産業間における技術的機会の相違を考慮するために、各企業が活 動を行っている産業の研究開発志向の程度について研究開発活動の集約性 と成長性によって観察を試みる。これらについては、『東洋経済統計月報』 2009年 9 月号の「上場企業の研究開発費動向」にまとめられた会社四季報 ベースによる2008年の産業別研究開発費と企業数のデータを用いた10 ) 。こ の集計において研究開発費の対前年変化率がプラスであった業種とマイナ スであった業種を見ると、プラスであった業種は医薬品の16.7%を筆頭に 以下伸び率が大きい順に食料品、運輸・倉庫関連、石油・石炭製品、小売 業、ゴム製品、繊維製品、卸売業、化学、情報・通信業、精密機械、非製 造業全体(2.8%)、ガラス・土石製品、サービス業、機械、電気・ガス業 であった。一方マイナスであった業種は減少率が最も大きい鉱業で-47%、

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以下不動産業、パルプ・紙、電気機器、鉄鋼、輸送用機器、水産・農林業 までが製造業全体での成長率(-1.2%)および全産業での成長率(-1%) を下回り、続いて建設業、非鉄金属、金属製品、その他製品の順であった。 一方、同じデータから計算した同年の1社あたりの研究開発費が大きい順 に業種を並べると、医薬品が最も大きく、輸送用機器、電気機器までが製 造業全体の値を上回り、続いてゴム製品までが全産業の値を上回り、以下 石油・石炭製品、化学、非鉄金属、運輸・倉庫関連、精密機器、繊維製品、 機械、電気・ガス業、鉄鋼、その他製品、情報・通信業、食料品、ガラス・ 土石製品、非製造業、パルプ・紙、金属製品、水産・農林業、建設業、卸 売業、鉱業、サービス業、不動産業、小売業の順であった。  これらを参考に、本稿では一般的な産業区分に加えて、上記にしたがっ て水準で見た研究開発性向が高い産業と低い産業、および研究開発の増勢 が著しい産業と停滞ないし減退が認められる産業という分割に基づく計測 を試みる。これは、これらの産業の特徴がガバナンスの効果との間に持つ 関係を検討するためである11 ) 。計測では研究開発支出の変化率が正の産業 とそれ以外の産業への分割、および1社あたり研究開発支出が全産業を上 回る産業とそれ以外という分割を行う12 ) 。  その他、本稿では特徴のあるいくつかの産業に限定した計測を行う。そ のひとつは、公的規制が存在する場合について、企業の支出とリスクに関 する意思決定に関する株主の意向がどの程度反映されやすいかに関する検 討である。いわゆる公益事業と分類される事業の供給サービスの多くは一 般の財・サービスと同様に市場機構を通じて取引されるものの、多くの サービス価格は何らかの公的介入を伴う制度によって決定され、獲得され る利潤も制約されている。規制下において企業の収益の高さが制限される 状況においては、スラックが存在することが規制をくぐり抜けてリスクを 伴う事業を容易にするならば、一般の産業よりもスラック変数の効果が明 確になるかもしれない。また、リスクに関する株主の意向よりも規制の意

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図が優先されるならば、株主構成の変数の有意性が規制産業において低下 するかもしれない。ただし、公益事業の定義は必ずしも明確ではなく13 ) ここに含まれる企業の範囲にはさらに検討の余地がある。さらにこれらの 事業は上場企業によって行われないケースも多く、東証一部上場企業の データだけでは括れない部分もあるが、本稿ではこれに該当する事業のう ち電気通信・放送事業者、電力・ガス事業者、鉄道・バス事業者、航空事 業者、海運事業者が含まれる業種として、会社四季報における業種区分に おいて情報通信、陸運、海運、空運、電気・ガス業に分類される企業を抽 出し、計測を行う。  もうひとつは、輸出性向の高さと研究集約性の関係である。例えば Hughes[1986]における旧西ドイツのように、輸出志向の強い経済にお いて産業の輸出性向と技術革新の積極性の間に有意な相互作用が存在する ことは容易に想定される14 ) 。その場合、外国市場における競争に直面する 度合いが大きい産業に属する企業ほど、馬場[2013]において全産業の計 測で認められた外国人持株比率の高さと研究開発への積極性の関係がより 強まり、反対に少数特定者や浮動株主がもたらす消極性が表れにくいとい う形で、全産業の平均的な姿からの乖離がみられるかもしれない。経済産 業省「海外事業活動基本調査」によれば2008年実績で売上高輸出比率の調 査合計は24.7%であるが、同調査においてこれを上回る輸出比率を示して いたのは生産用機械、業務用機械、輸送機械、情報通信機械、サービス業、 電気機械、汎用機械、鉄鋼の各業種であった。本稿ではこれらに相当する、 機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、サービス業、鉄鋼に属する企業 について特に取り上げた計測を行う15 ) 。

4 計測結果

 上記のデータを用いてモデルを検討した計測結果を以下に記す。参考と

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して、馬場[2013]における標本を分割しない場合のモデルの計測結果を 併記した。計測はTSP5.0によるパネルデータ分析を用いた。いずれの計 測についても、固定効果モデルと変量効果モデルの選択に関するHausman 検定の結果は変量効果モデルの妥当性を 1 ~ 5 %水準で有意に棄却したた め、各表には固定効果モデルの推定結果のみを示してある。また、TSPに よるラグランジュ乗数検定において分散均一の帰無仮説が棄却されたため、 推定結果はTSPによる不均一分散に対して頑健性のある標準誤差に基づい て評価した。  まず製造業とその他の産業の間の差異を見るために大まかな産業別に標 本分割を行った場合の結果を示す。表 1 の(1)は鉱業、建設業、製造業 からなる第2次産業に属する企業の推定結果、(2)は製造業の企業のみを 用いた推定結果、(3)は第3次産業の企業の推定結果である。(参考)は 馬場[2013]で示した全標本一括の推定結果である。会社四季報の業種区 分で水産・農林業に区分される第1次産業のみの推定は標本数の不足のた め行わなかった。全体的には、第2次産業あるいは製造業と第3次産業と の間で対照的な結果となった。すなわち、前者においては参考として示し た全産業を一括した計測結果と同様あるいはより有意性の高い関係が各変 数について得られたのに対し、後者では有意な関係がほとんど見られなく なった。特に研究開発支出の成長率GRDt +1を説明するモデルにおいてこ れは顕著であり、スラック変数に関しては負債比率LDEBTと販売管理費 LSGAにおいて有意性の改善が見られ、株主構成に関しては外国人持株比 率STOCK1が新たに 5 %水準で有意であるとともに、決定係数が全産業に 比べて大きく改善されている。研究開発支出を水準(対数値)LRDt+1で測っ たモデルについても、特に製造業において、ほとんどの変数で全産業一括 の場合よりも有意性が高まり、有意性の低かったキャッシュフローの増加 DCFも有意な正の関係を支出の意思決定に対して及ぼすことがわかった。 これらから、馬場[2013]で計測されたような企業の財務状況や株主の行

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動が研究開発支出に対して何らかの影響を及ぼすという関係が存在するの はもっぱら製造業の企業における現象であり、サービスなど非製造業の研 究開発活動はこれらとは異なるプロセスでの決定に従うことがわかる。  次に、こうした産業間の相違を製造業か否かという違いに帰するのでは なく、研究開発に対する態度あるいは産業そのものの特徴の違いがこの相 表 1 産業別の計測(固定効果モデル) LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) −0.171 0.199 −0.049 0.191 0.021 0.037 0.410 −0.928 −0.847 0.800 3.34×10−6 0.989 2193 −1.513 2.710 −0.997 2.285 0.905 1.200 1.622 −2.546 −2.029 1.508 1.821 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** * * * + (1)第2次産業 GRDt+1 係数 (t値) −2.524 0.821 −0.268 0.839 −0.029 0.043 0.993 −0.210 −0.553 1.421 1.19×10−5 0.481 2193 −4.008 2.411 −1.723 2.388 −0.629 0.461 2.069 −0.399 −0.616 1.642 1.243 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** * + * * LRDt+1 係数 (t値) −0.165 0.206 −0.014 0.214 0.041 0.024 0.432 −0.954 −0.827 1.034 1.19×10−6 0.991 1957 −1.242 2.489 −0.305 2.339 2.032 0.659 1.654 −2.505 −1.800 1.930 2.191 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * * * + * + + * (2)製造業 GRDt+1 係数 (t値) −2.684 0.994 −0.150 1.046 0.004 0.031 1.008 −0.090 −0.098 1.707 4.91×10−8 0.480 1957 −3.559 2.338 −1.196 2.366 0.085 0.272 1.979 −0.146 −0.084 1.791 0.031 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** * * * + LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) −0.264 0.065 −0.010 0.164 0.078 0.366 2.339 0.207 −0.565 2.872 −6.57×10−6 0.947 384 −1.987 0.480 −0.043 0.584 0.784 1.383 1.617 0.177 −0.260 1.127 −0.482 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * (3)第3次産業 GRDt+1 係数 (t値) −6.807 3.749 −6.617 3.820 −2.075 2.174 19.927 5.215 23.892 18.174 3.80×10−5 0.091 384 −1.623 1.192 −1.274 1.131 −1.211 0.939 1.250 0.732 1.210 0.982 0.416 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) LRDt+1 係数 (t値) −0.206 0.167 −0.0617 0.164 0.0280 0.0631 0.637 −0.754 −0.674 1.046 2.05×10−6 0.986 2591 −2.396 2.845 −1.181 2.177 1.253 1.570 2.441 −2.138 −1.536 1.779 1.011 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * ** * * * + (参考)全産業 GRDt+1 係数 (t値) −4.190 1.243 −1.004 1.368 −0.289 0.375 3.531 0.758 2.893 2.706 1.32×10−5 0.144 2591 −2.196 1.773 −1.444 1.732 −1.101 1.210 1.667 0.778 0.998 1.311 0.950 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * + + + 注)**は 1 %水準、は 5 %水準、+は10%水準で係数が有意であることを示す。以下の各表でも同様。 表 1 産業別の計測(固定効果モデル)

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違をもたらしているという可能性を検討するために、製造業と非製造業の 違いを問わずに全標本企業を研究開発活動に関するその産業の特性に従っ て二分してみた。表 2(1a)は研究開発支出の変化率が正の産業に属する 企業、(1b)は負の産業に属する企業に関する計測結果である。この変化 率を技術機会の拡大スピードと見て両者を比較すると、スラック変数およ 表 2 研究開発支出別の計測(固定効果モデル) LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) −0.274 0.101 0.005 0.105 0.035 0.198 1.059 −0.616 0.266 1.609 −8.00×10−6 0.982 1444 −2.456 1.289 0.075 0.960 1.299 1.628 3.075 −1.089 0.477 1.743 −0.727 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * ** + (1a)研究開発支出変化率が正の産業 GRDt+1 係数 (t値) −5.186 1.146 −1.129 1.411 −0.384 1.536 5.747 1.839 7.373 4.381 1.10×10−5 0.146 1444 −1.899 1.289 −1.127 1.233 −0.966 1.357 1.502 1.035 1.437 1.047 0.220 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) + LRDt+1 係数 (t値) −0.081 0.206 −0.106 0.195 0.022 0.043 0.107 −0.911 −1.928 0.035 3.01×10−6 0.990 1147 −0.861 2.836 −1.752 2.173 0.578 1.229 0.278 −2.972 −3.360 0.064 3.357 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** + * ** ** ** (1b)研究開発支出変化率が負の産業 GRDt+1 係数 (t値) −2.205 0.796 −0.462 0.825 −0.051 0.015 0.979 −0.486 −2.516 1.071 8.95×10−6 0.591 1147 −5.307 2.646 −2.580 2.505 −0.760 0.157 1.571 −1.005 −2.602 1.087 1.677 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** * * ** + LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) 0.022 0.246 −0.004 0.182 0.059 −0.033 0.212 −0.816 −1.934 0.367 2.43×10−5 0.994 677 0.407 3.910 −0.069 2.633 2.787 −0.782 1.040 −3.497 −4.432 0.742 1.173 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** ** ** ** (2a)1社あたり研究開発支出が全産業平均以上の産業 GRDt+1 係数 (t値) −2.744 1.648 −0.376 1.414 −0.064 −0.249 0.448 −0.581 −2.881 1.249 3.57×10−5 0.664 677 −4.381 3.066 −2.100 2.816 −0.951 −1.279 0.830 −1.029 −2.493 1.001 1.782 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** * ** * + LRDt+1 係数 (t値) −0.254 0.124 −0.078 0.148 0.021 0.147 0.793 −0.796 −0.291 1.244 2.14×10−6 0.979 1914 −2.671 2.056 −1.188 1.685 0.707 2.370 2.194 −1.606 −0.532 1.600 0.940 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** * + * * (2b)1社あたり研究開発支出が全産業平均未満の産業 GRDt+1 係数 (t値) −4.496 1.022 −1.178 1.308 −0.331 0.959 4.788 0.985 4.543 3.174 1.45×10−5 0.127 1914 −2.010 1.428 −1.322 1.410 −1.068 1.467 1.512 0.787 1.314 1.089 0.894 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) * 表 2 研究開発支出別の計測(固定効果モデル)

(15)

びキャッシュフロー変化の変数は産業全体の研究開発支出の変化率が負の 産業においてのみ有意であった。ここから、産業全体で研究開発活動が拡 大する産業においてスラックの存在が研究開発を促すというよりも、縮小 する産業においてスラックがその原資となることがうかがえる。各企業の 研究開発支出の成長率GRDt +1を被説明変数としたモデルにおいて決定係 数が全産業平均に比べて大きく改善されているのもこのグループであり、 これらの要因が研究開発活動の活発化のペースに寄与していることがわか る。一方、同じく表 2 の(2a)は1社あたりの研究開発支出額が全産業平 均を上回る産業に属する企業、(2b)は下回る産業に属する企業に関する 計測結果である。こちらではスラック変数の有意性が高いのは平均以上に 研究費支出が大きい産業に属する企業であり、研究指向が強いあるいは多 額の研究開発を必要とするという特性を持つグループにおいてスラックが それを支援していることがうかがえる。また成長率モデルの決定係数が高 いのもこのグループであり、これらの要因の説明力の高さを示唆する。  株主構成に関しては、外国人持株比率の高さが研究開発支出の多さに結 びつくのは支出額の変化率が正である産業と1社あたり支出が全産業を下 回る産業のみであり、これはスラック変数の係数とは逆の傾向であった。 反対に少数特定者持株比率STOCK2、浮動株比率STOCK3、キャッシュ フロー変化DCFはスラック変数と同様に研究開発支出がマイナス変化を している産業と支出自体が平均を上回る産業で有意ないし有意に近く、効 果の符号条件は全産業と同様にスラックが大きいほど支出額が多く、少数 特定者持株比率が高いほど支出額が少なく、浮動株比率が高いほど支出額 が少ないというものだった。特に浮動株比率は被説明変数を成長率とした モデルの場合にも有意であった。ここからは、1社あたり支出額は小さい が伸び率は大きいという特性を持つ産業とその他の産業の間に違いがある ことがうかがえる。  さらに、個別の産業あるいはある種の産業グループにおいて平均的な姿

(16)

からどのような乖離が存在するかを検討した。表 3 は、いくつかの特徴の ある産業を抜き出した計測結果であり、このうち(1)は新興のIT分野と いう比較的若い企業を多く含み、また他の規制産業に先んじて規制改革が 始まり競争性が高い情報通信業を抜き出したものである。これについては、 外国人持株比率が有意な正の値である他は株主構成が有意ではない点で研 表 3 いくつかの産業を抽出した計測(固定効果モデル) LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) −0.514 0.395 0.226 1.449 0.430 −0.429 6.246 1.164 0.849 9.593 8.37×10−6 0.903 134 −4.069 1.303 0.581 2.930 2.559 −0.633 1.962 0.498 0.432 1.321 0.817 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** * * (1)情報通信産業 GRDt+1 係数 (t値) −10.298 3.459 −13.837 4.632 −2.775 4.531 73.297 −6.187 29.174 88.209 1.27×10−4 0.190 134 −1.860 0.837 −1.363 0.665 −0.845 0.610 1.317 −0.193 0.974 1.049 0.638 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) + LRDt+1 係数 (t値) 0.306 −1.230 1.823 −0.620 0.179 2.023 4.668 1.959 3.775 14.100 1.24×10−3 0.997 37 2.374 −1.669 1.678 −1.641 0.972 2.306 4.287 1.042 1.816 2.300 3.152 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) + + * + * (2)陸運、海運、空運、電気・ガス業 GRDt+1 係数 (t値) −0.826 −1.167 1.760 −0.494 0.170 1.706 4.583 2.209 4.434 13.128 1.37×10−3 0.784 37 −6.562 −1.649 1.700 −1.358 0.953 2.010 4.290 1.211 2.274 2.163 3.568 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** * + + * LRD LSALES LDEBT LSGA LLIQ LEMPL STOCK1 STOCK2 STOCK3 STOCK4 DCF 自由度修正済み決定係数 標本数 説明変数 被説明変数 LRDt+1 係数 (t値) −0.014 0.242 −0.001 0.295 0.056 0.022 0.570 −1.424 −0.952 1.204 −2.00×10−5 0.989 1073 −0.219 3.769 −0.014 3.477 1.960 0.451 1.588 −2.688 −1.516 1.307 −1.182 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** * ** (3)高輸出性向産業 GRDt+1 係数 (t値) −1.989 1.079 −0.117 1.217 0.021 −0.012 0.939 −0.845 −1.598 1.030 1.66×10−5 0.559 1073 −4.750 2.649 −1.002 2.664 0.436 −0.101 1.846 −1.591 −1.851 0.777 −1.978 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ** ** ** + + * 表 3 いくつかの産業を抽出した計測(固定効果モデル)

(17)

究開発成長率が正のグループと共通する一方で、それとは異なり販売管理 費LSGAと当座資産比率LLIQが有意である。ただし研究開発支出の成長 率を説明するモデルでは有意ではなく決定係数も低い。  次に、(2)は競争市場とは異なって政府の事業規制の影響を強く受け、 また電気通信事業よりも遅れて規制の改革が始まった公益事業に該当する 企業を含む陸運、海運、空運、電気・ガス業である。このグループでは産 業全体と異なりスラック変数はほとんど有意ではなく、スラックの存在が 積極的なリスク選択に結びついていない様子が見られる。対照的に投資の 原資についてはむしろキャッシュフローの増加が正の関係を持つことが有 意にわかる。一方で株主構成については、外国人株主比率の他に、浮動株 比率STOCK3と投資信託比率STOCK4も研究開発支出水準LRDt +1と成長 率GRDt +1の双方のモデルにおいて有意な正の値であり、これは他の標本 グループにはない傾向である。これらの結果、成長率モデルでの当てはま りが良好であることも情報通信産業と異なった特徴である。  最後に、(3)は海外進出の程度の高さを海外事業展開に伴う技術ニーズ、 競争機会の拡大と結びつくものと見て、売上高に占める輸出の比率が相対 的に高い前述の6業種(機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、サービ ス業、鉄鋼)に属する企業を抽出したものである。このグループにおいて も研究開発支出の成長率を説明するモデルの決定係数は全産業よりも大き く改善され、各変数の有意性の傾向は平均以上の研究開発支出を持つグ ループに近いものだった。すなわち、売上高は研究費の伸びに有意に正の 関係を持ち、販売管理費というスラック変数も有意な正の関係が見られた。 株主構成についても、10%水準ではあるが外国人持株比率の高さと浮動株 比率の低さが研究開発支出の伸び率に寄与することがわかった。これらか ら、国際競争に直面する性格の強いこれらの業種においては積極的な投資 活動を求める株主の影響がうかがえた。ただしキャッシュフローは5%水 準で有意な負の値であり、全体の傾向とは異なった。

(18)

5 まとめ

   本稿において行った標本分割によるグループ分けに基づく計測結果につ いては、全体としては各説明変数の効果は全標本一括で推定を行った馬場 [2013]と同様で、スラックの効果、外国人株主の存在と研究開発への積 極性の関係、少数特定株主の存在と研究開発への消極性の関係などの傾向 がやはり認められた。また全産業では明確な関係が認められなかった キャッシュフロー制約による研究開発支出の増減という関係が有意に認め られるケースが見られたことも特徴である。その一方で、全産業で一括し た計測と比較して言えることは、研究開発支出およびその変化に関する企 業の意思決定と資金源ならびに株主構成から生じる制約との間の関係は産 業どうしで大きく異なるという、容易に予想される事実が確認されたとい うことである。本稿の計測の場合、特に1社当たり研究開発費で見た研究 集約的産業と非集約的産業の間の差異の存在と、研究開発費の変化率で見 た研究成長的産業と停滞的産業の間の差異の存在が認められた。ただしこ の差異は、研究集約的産業と研究成長的産業、および非集約的産業と停滞 的産業の間にそれぞれ共通の傾向があるという方向ではなく、技術的機会 の豊富さを反映する研究開発支出そのものが大きい産業に属する企業ほど スラックやキャッシュフロー変化の効果ははっきり認められるが、同様の 傾向は研究開発支出が成長する産業ではなくむしろ研究開発支出がマイナ ス成長の産業の企業において観察され、技術革新への投資が縮小する中で そのような産業ではスラックが個々の企業の研究開発活動を支えているよ うにも見える関係であった。  この他、情報通信以外の公益事業を含む業種においては、スラック変数 や外国人株式比率以外の株主構成変数の係数の有意性と符号条件がその他 の産業と異なっている様子が見られた。また、輸出依存度が高い産業に属

(19)

する企業における技術革新活動への株主構成の作用については、全体と比 べた場合の決定係数の改善と同時により有意性の高い関係が得られた。

1)Hubbard[1998], p.196およびDriver and Guedes[2012], p.1569による。 なおこの理論に基づいて彼らが設定した仮説は、「ガバナンスの水準の高ま りは研究開発集約的な企業にとっての資金制約を低減させるように作用す る」というものであるが、ガバナンスが研究開発活動を直接抑制するか支援 するかしだいで資金の需要曲線は左右どちらにもシフトしうる。一方資金の 供給曲線については、適切なガバナンスが行われる企業では投資家がいわゆ る「レモン」の問題が弱まると考えて安心するため、正の効果が予想される としている。Driver and Guedes[2012], p.1569.

2)Greve[2003]では、企業内の余剰資源であるスラックについて、組織の 短期的な操業および維持のために必要とされる水準を超過した経営資源の存 在を意味するアブソーブドスラック(absorbed slack)、十分な現金や資金調 達方法の保有を意味するアンアブソーブドスラック(unabsorbed slack)、 潜在的に提供可能な水準を下回る量の資源しか利用せずにあえて余力を残し ていることを意味するポテンシャルスラック(potential slack)の 3 種類を 想定し、それぞれを代表する財務指標について技術革新活動の積極性への影 響を検討することで、組織のスラックが増加するとき研究開発集約度が上昇 するという仮説を検証した。馬場[2013]および本稿における説明変数の選 択はこれに基づくものである。Greve[2003], pp.688, 691-2.

3)Driver and Guedes[2012]では、取締役会の構成や権限などコーポレー トガバナンスの状況を表す直接的な指標に加えて、大量株保有者やある種の 機関投資家による株式保有の存在をいっそうの監督を促しうる属性の一つと みて、経営者自身や機関投資家などによる株主としての行動が企業の研究開 発支出に及ぼす影響を検討している。馬場[2013]および本稿における説明 変数の選択はこのうち株式保有に関する変数について検討したものである。 Driver and Guedes[2012], p.1569.

4)馬場[2013], pp.16, 20-1. 5)Greve[2003], pp.689-90. 6)Greve[2003], p.696. 7)馬場[2013], p.12. 8)変量効果モデルから推定される値と固定効果モデルから推定される値が大 きく乖離するとき、モデルには特定化の誤りの可能性がある。Hausman検定

(20)

では特定化の誤りがない(変量効果が有効な推定である)という帰無仮説に 対してカイ 2 乗検定を行いこれが棄却される場合に固定効果モデルが選択さ れる。和合・伴[1995], pp.89-90参照。 9)したがって被説明変数である研究開発支出とその対前年変化率は2008 ~ 2010年のデータである。 10)『東洋経済統計月報』第69巻第9号、pp.12-17. 11)これはまた、会社四季報ベースでは企業の研究開発費のデータがすべての 年次で得られない企業が少なくないため、個々の産業を独立させた場合標本 数が不足することも理由である。 12)この『統計月報』において集計されている産業単位の研究開発費の変化率 については集計対象の企業が不変なので、変化率の数値には両年の集計にお ける企業のカバレッジの違いは影響していないと想定した。一方、研究開発 費の水準そのものについては、産業間での企業のカバレッジの違いの影響を 除くために1社あたりとした。 13)公益事業の定義について公益事業学会は、「我々の生活に日常不可欠な用 役を提供する一連の事業のことであって、それには電気、ガス、水道、鉄道、 軌道、自動車道、バス、定期船、定期航空、郵便、電気通信、放送等の諸事 業が包括される」としている。塩見英治編[2011]、p.3. 14)Hughes[1986], Chapter 10. 15)経済産業省『第39回海外事業活動基本調査』の「 1-1 本社企業に関する 集計表」に基づく。 参考文献

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工場設備の計測装置(燃料ガス発熱量計)と表示装置(新たに設置した燃料ガス 発熱量計)における燃料ガス発熱量を比較した結果を図 4-2-1-5 に示す。図

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