思考す る力 が伸び る学習 プ ログラムの開発 と効果性 の検討
∼具体と抽象の往還を促す授業の実践から∼
教育実践高度化専攻
生徒指導実践開発 コース
思考す る力 が伸 び る学習 プ ログラムの開発 と効果性 の検討
∼具体と抽象の往還を促す授業の実践から∼
教育実践高度化専攻 生徒指導実践 開発 コースP13042C
川 添 龍次 【キー ワー ド】思考 メタ認知 小学生 具体化 抽象化 【要 旨】 本研究では「具体 と抽象の往還」 といつた内的な情報操作を促す授業の実践により、子 どもの思考する力を伸ばす ことができるとい う仮説のもとに、小学生を対象 とした思考力 を向上 させ る学習プログラムの開発 と効果を検討 した。 思考力の向上には思考する技術の習得が必要であ り、その習得のためには思考そのもの を意識 しなければならない と考えられる。また、自ら考えようとい う意欲が思考には必要 であ り、思考が好きで楽 しいと思 うことが思考力の向上につながつていると考えられる。 学習プログラムの開発においては、思考そのものを意識するための可視化できるツールで ある「三本の矢」を使つて「具体 と抽象の往還」といつた内的な情報操作を促す授業を構 築 した。 さらに、本研究の学習プログラムには、忍術をイメージした「火・ 水・ 土・木」 の力を使つて 「術」を覚えていくといつた内容により、思考を楽 しく学べるといつた特徴 がある。開発 した学習プログラムの効果性は、量的データによる(1)知
能検査、 (2) 認知欲求尺度、質的データによる(3)ワ
ークシー ト・振 り返 りにおける記述文により検 討 した。(1)知
能検査の分析の結果か らは、 「具体 と抽象の往還」を伴 う検査において 数値の上昇が見出された。(2)認
知欲求尺度の分析の結果、学習プログラム実施前後に 行つた認知欲求尺度においては、6年
生に数値の上昇が見出された。(3)記
述文からは、 思考の軌跡を確認することができ、思考を意識 している記述が見 られた。 本研究で開発 した学習プログラムによつて、子 どもが 「具体 と抽象の往還」 とい う情報 操作を、意識化 して用いることができるようになつたといえる。同時に、楽 しく学ぶ とい うプログラムの特徴により思考 しようとする意欲が高まる可能性も示唆 された。本研究の 結果を受けて 「具体 と抽象の往還Jを
促す学習プログラムの内容をさらに精査す る必要が ある。また、情報操作 と意欲、思考の意識化が相互にどのような関連性があるか研究を進 めることが、思考力向上に向けた今後の課題であるといえる。【問 題】
1.学
校現場における思考力向上の実態 現代 を生きる子 ども達に とって、めま ぐるしく変化す る社会に対応す る力は重要であ り、 生活環境や価値観の多様化 に対 して 自分 自身で考 える力が必要不可欠である。PISAの
調査 結果な どによつても「論理的思考」や「批判 的思考」の重要性が指摘 されている。(山内,2008 な ど)こ
のような状況 を受けて教育現場では、文部科学省 (2011)による「言語活動の充 実に関す る指導事例集∼思考力,判 断力,表現力等の育成 に向けて∼」等 を通 じて、思考力 を育成す る様々なパ ターンの実践例が報告 されてい る。 しか し、ほとん どの実践報告 は実 施 したことによつて思考力そのものを向上 させた とは してお らず、各教科の 目標 を達成す るための提案 とその実践による子 どもの様子 の記述 にとどまっている。 山内(2008)は
、 「活用力」や 「思考力」 とい う名の下に明確な能力指針がないことを問題 とし、だか らこ そ、子 ども達が身につけるべき 「思考力」 とはいつたい何なのか可視化できなければなら ない としている。すなわち、今、学校現場で求め られているのは、各教科で しか使えない 思考力向上の実践方法ではなく、子 ども達が どう変容 し、 どんな思考力 を向上 させ ること ができたかわかる教育実践ではないだろ う力、2.思
考研究の方向性(1)歴
存るとは 認知機能の中心ない し基礎は、考えるはた らき としての思考にあると考 え られ、心理学 の中でも様々な研究がなされてきた。思考の定義は研究者によ り必ず しも一致 していない が、APA心
理学大辞典 (2013)によれば、思考は 「発想やイメージ、心的表象、あるいは 他の仮説的な思考の要素が経験 され、あるいは操作 され る認知的行動。 この意味では、思 考は想像す ること、記憶す ること、問題解決す ること、空想す ること、 自由連想法、概念 形成、また他の多 くの処理 を含む。」 とされている。またメイヤー(1978)は
、思考の一 般的な定義の基本的な考え方 として、思考を 目標達成や問題解決のために行 う一連の認知 的な情報処理であると捉 え、思考は人が問題 を解決す るときに起 こることであると考 えた。 このことか ら思考は、ある状況に対す る反射的な反応ではなく、反応 を保留 して最 も適 し た反応 をとろ うとす る複雑な内的過程であ り、その結果、判断や行動が行われ ることをさ している。 このよ うに思考 を捉 えれば、問題 を解決す るための内的な情報の操作であると 考えられ る。(2)具
体 と抽象の往還 情報 を操作す る方法 として、情報 を必要な形 に変換す ることは重要である。情報 を必要 な形 に変換す る過程 について、ハヤカワ (1972)は抽象のハシゴと呼ばれ るモデル を提示 した。そこでハヤカワは、具体的情報が抽象化 してい く過程 を8段
階で示 した。抽象化す ることで、情報 を共有可能な形に変換す ることができるとし、よ り素早 く秩序 ある方法で 抽象の段階を上 り下 りす る相互作用 を持つ人 こそ優れていると主張 している。 しか しなが ら、情報を抽象化 し、言語化す ることで概念 を獲得すれば、情報 は操作 しや す くなるが、すべての情報が概念 として昇華 されているわけではない。抽象化 、概念化 と は情報 の捨象 を伴い、何 を捨象す るかについては人によつて様々であることが予想 され る。 それは、蓄積 している情報量の違いや、捨象す る情報の選択の違いな どによ り、抽象化す る能力に個人差があるためと考えられ る。 また、抽象化 した情報 をそのまま取 り出 しても問題の解決につなが らない可能性 もある。 例 えば、友情や絆 といつた ことを人に伝 えるときには、具体的なエ ピソー ドな ど情報 を増 や して話 さなければ、なかなか理解 して もらうことはできない。逆に抽象的な情報 にま と めて取 り出す ことで、問題解決がよ り円滑に進む場面もある。喧嘩 した り協力 した りした エ ピソー ドを羅列す るだけでなく、絆が深まった とま とめることで、人によつて違 つた体 験であつても、絆 とい う抽象的な言語によ り共有す ることが可能 となる。 よつて、情報に は具体的な情報 と抽象的な情報が存在 し、必要に応 じて情報 を具体化 した り抽象化 した り しなが ら思考 していると考 えられ る。情報 を具体化 した り抽象化 した りす る過程 は円滑な 問題解決に必要不可欠な情報操作であると考 えられ る。 そ こで、本研究では上述 の情報操作 を 「具体 と抽象の往還」 と名付 け、取 り上 げる。往 還 とは 「繰 り返 し行 き来す ること」を意味 してお り、イメージな ど具体な情報 と言語化 さ れた抽象な情報 を関連付けて行 き来す る認知的活動 を指す。 「具体 と抽象の往還」は、記 憶の中にすでに存在 している概念や考え、過去の経験、現在起きている外的な刺激な どを、 具体化、抽象化 しなが ら、問題解決に向けて相互の関係 を再構成 してい く過程 に起 こる内 的な情報操作であると定義できる。(3)棚
ヒ 「具体 と抽象の往還」を伴 う情報操作によつて達成できる主な思考 として構造化が挙げ られ る。佐藤 (2013)は知識構造の形成のモデル として、階層的ネ ッ トワークモデルCollins
&Quilhan,1969)や
、関連性の強いものが相互に活性化 してい くよ うなネ ッ トワー クにな つている活性化拡散モデル (Collins8LLoftus,1975)を 挙げ、構造化 について述べている。 しか し、そ ういつた情報の因果関係 をただただ連鎖的につないでいるだけでは、た くさん の情報か ら必要なものを うま く引き出せず、目的を達成す ることができない可能性 もある。 「具体 と抽象の往還」 といつた情報操作によつて、蓄えている情報を具体 と抽象に構造化 す ることができれば、 さらに円滑な問題解決が可能 となると考 えられ る。 このよ うな具体 と抽象に構造化す るための最 も原 始的で素朴な形 として、1段
階の「具体 と抽象の往還」 が考 え られ る (図 1)。 情報の具体 と抽象のつなが り を複雑 に増や し、ピラミッ ドのよ うに構築 してい くこ とで、円滑な問題解決が可能 となる構造化が進む と考 えている。このよ うな構造化のためには「具体 と抽象 の往還」によつて、抽象化 して複数の情報を1つ
にま とめた り、具体化 して1つ
の情報 を複数 に分 けた りす る必要がある。また、その情報 が具体 と抽象において 正 しく関連付け られているか確認 した り、どの程度抽 象化 されているか比べた りしなければな らない。 図1
最も原始的で素朴な 具体と抽象の構造化(4)研
究 の仮説 このよ うな「具体 と抽象の往還」を伴 つた思考 は、多様な場面で見 られ る。文章 をわか りやす く書 くためには、言葉を具体化 した り抽象化 した りしなが ら構造化す る。友人 との 会話で意図が通 じるよ うに話すためには、具体化 した り抽象化 した りしなが ら、相手の会 話 に合わせ る。買い物をす るときにも、ま とめて考 えた り、詳 しく計算 した りと「具体 と 抽象の往還」を伴つている。道 を思い出す ときで さえ、具体的なエ ピソー ドや抽象的な方 角な どといつた情報 を うま く往還 させ なが ら思考す る。 「具体 と抽象の往還」 といつた情 報操作 を身につ けていなければ、問題 が解決できない場合があるとい うことは 日常生活か らもわかる。 このことか ら、具体 と抽象 を往還す る技術は思考に大きく影響 し、 この往還 がよ リスムーズに行われ ることによって、思考を容易に した り、高度化 した りできると考 えられ る。そこで、本研究では 「具体 と抽象の往還」 といつた情報操作の技術 を子 どもが 身につけることで、子 どもの思考力が向上す るのではないか と仮説 を立てた。(5)思
考の意識化 「具体 と抽象の往還」の技術を子 どもが認識 し、使 えるよ うにするためには、思考の過 程 を意識 させ ることが必要 となる。マイヤーズ (2013)によれば、トヴェルスキー とカー ネマン (1974)は、思考の多 くの側面は、必ず しも意識化 され ることな く直感 に従い進行 し、大概が うま くいっているとし、 ヒュー リスティック とい う問題解決 を効率的に行 うこ とのできる単純な思考方略について示 した。 しか し同時に、こ うした直感的な思考は省察 的な問題解決を行わず、情報 を瞬時に立ち上が らせ無意識に活用 し、 日標 としていた問題 解決に至 らないこともあることを、利用可能性 ヒュー リスティックの研究か ら示 した。思 考を意識化す ることの重要性については、 自分 自身の認知過程についての認知、すなわち メタ認知の研究においても語 られ ることが多い。読み、書き、数 といつた学生の成績 にお いて も、メタ認知的な考え方をす ることで向上が見 られ るといつた研究 も少 な くない。(三 宮,2008など)ま
た、 どのよ うに論理的に考 えているかだけでな く、 どのよ うに論理的思 考力 を向上 させ るかを理解す るための研究 も行われてお り、メタ認知 の研究か ら多 くの手 法の発見をもた らしている。 (ダンロスキー&メ
トカル フェ,2009など)「
具体 と抽象の 往還」 を子 どもに応用す る場合 において も、 自分 自身の思考過程 を意識的に捉 え直す こと が重要であ り、情報操作 を意識す ることによつて、効率的な問題解決や意思決定を可能に し、思考力の向上が図れ ると考 えられ る。(6)有
効な発達段階 このよ うな、経験や持 つている情報を言語にす るよ うな抽象化 を伴 う思考 を対象 とす る ためには、発達段階を考慮せねばな らない。就学前児の場合、情報の実物・ 行為的内容が 絶対的に優位であるため抽象化 を伴 う思考 は難 しい とル リヤ (1979)はい う。マイヤーズ (2013)によれば、 ピアジェの提案 した認知発達段階では、個人や社会的環境 によつて多 少の変動があるが、具体物や具体的状況 においてのみ論理的思考が可能である具体的操作 期が7歳
頃か ら11歳
頃まで、言語や記号を用いた抽象的な論理的思考 (帰納、演繹な ど) が可能 となる形式的操作期 が12歳
頃以降だ としている。能力全開の論理的推論 は青年期 まで待たれ るものの、形式的操作の思考の基礎は、 ピアジェが考 えていたよ りもやや早期 か ら始 まることも示 している。低学年児童か ら、少 しずつそ ういつた抽象化 を伴 う思考 も 観察 され、学習 の中で概念 を定義す る操作 も現れ るとしている。 この ことか ら、小学校入 学か らの6年
の間に、抽象的な思考が可能になるといえる。その過程で、子 ども達 に思考を意識 させ、活用できる技術を身につけさせ ることで、 より良い教育効果が期待できるの ではないか と考 えられ る。
(7)研
究の 目的 以上の議論に基づ き、思考を意識化できるよ うな 「具体 と抽象の往還」を促す学習プロ グラムを、小学生を対象 に して考案す る。本研究は 「具体 と抽象の往還」 といつた内的な 情報操作を促す授業の実践によ り、子 どもの思考す る力 を伸ばす ことができる とい う仮説 のもとに、思考力を向上 させ る学習 プログラムの開発 と効果の検証を 目的 としている。 【方 法】1.学
習プ ログラムの開発(1)思
考力向上に関する過去研究 本研究のよ うに具体的な情報 と抽象的な情報 を操作す ることの重要性 を提唱 している研 究者は心理学の分野に多い。 邑本(2001)は
抽象化 された文章の理解過程 を分析 し、学習 者が具体例 を生成 した り抽象化 した りして学習を進 めることが必要であるとした。抽象知 識 と具体例 との関連付 けが強化 され ることが、学習場面で有効に機能す ると考 えた。平・ 楠見 (2011)は比喩研究か ら、抽象化の過程 について論 じてお り、抽象概念 を正 しく理解 する難 しさとその重要性を示 している。 問題解決 をよ り円滑に行 うための、思考す る力を向上 させ よ うとす る研究は、 日本の教 育の中でも行われてきた。例 えば、井上 (2007)の唱えている言語論理教育は、思考指導 プログラムの1つ
であ り、論理学の基本的な規則や意味論の原則な どを教 え、子 どもの論 理的思考や批判 的思考の能力 を意図的・計画的に向上 させ よ うとい う試みである。近年で は、関西大学初等部 (2012)の教科横断的な6つ
の思考スキルの習得 と活用によ り思考力 の育成 を図つている ミューズ学習がある。 シンキングツール と呼ばれ る思考 ツール を使 つ て、思考を共通理解の しやすい視覚化 されたものにす る取 り組みである。図形の枠組み を 使 つて、頭の中にある情報を具体的に書 き込み整理 してい くことで、 自力解決ができるよ うになるとしている。(2)本
研究の学習プログラムの特徴 子 どもに 自分 自身の思考過程 を意識的に提 え直 させ るためには、直接的には観察不可能であ り、行動や 自己報告か ら推測 され うるものである思考を、可視化す ることが必要 とな る。 思考を可視化 したツール を使 つた小学生の思考力向上 をね らう研究は様々な教科で見 られ るが、本研究の学習 プログラムは国語や算数 といつた教科 に特化 した思考力 の向上を 目指す ものではない。先に述べた関西大学初等部が開発 したシンキングツール も、教科横 断型で教科 に特化 したものではなく、考 える力 といつた ことに重点を置いた ものである。 思考を共通理解 の しやすい可視化 された ものに して対話型の学習 が活性化 され ることや、 自分の考 えがメタ認知的に整理 され ることな ど、本研究の学習プログラム との共通点 も多 い。 しか しなが ら、関西大学初等部のシンキングツールは数種類 あるため、思考の場面 ご とに使い分けることが必要 とな り、 どのシンキングツール に当てはめて考 えるべ きか とい う選択が重要視 され る。違つたシンキングツール を選んで しまった場合、効果 は低い。た くさんのシンキングツール を覚えて使 つてい く過程は楽 しく、子 ども達の意欲 は高まるが、 数が多 くなればシンキングツールを選択す ることが難 しく、問題 の解決に至 らない といっ た可能性 も高 くなる。また、優れた思考 ツールである関西大学初等部のシンキングツール です ら、具体化 された情報 と抽象化 された情報 とが混在 している。子 どもによつては具体 化 と抽象化 を うま く行い、その結果をシンキングツール に書き表す ことができるか もしれ ないが、それは具体化や抽象化 といつた情報操作がサポー トされた結果ではない。思考の 結果をま とめて記述 したものであ り、思考の過程が記述 されているわけではない と考 えら れ る。思考の過程 をよ り意識できるものでなければ、決まった思考ツールに記述できるよ うになっただけで、思考す る力そのものが向上 した とは考え難い。 そこで本研究では、内的な情報操作 をメタ認知的に捉 えられ るよ うになるための訓練 と して、思考の過程 を可視化す る学習 プログラムを開発す る。 「具体 と抽象の往還」 を意識 できるよ うに具体化 と抽象化の軌跡を記す ことで、 自らの思考を振 り返ることができるよ うにな り、情報操作が円滑になるのではないだろ う力、 思考の過程を可視化す るための手 立て としては、具体化 と抽象化の軌跡 を認識 しやす くす るための補助線 を利用す る。何種 類 ものシンキングツールを開発す るのではな く、補助線 を引 くといつた方法だけで、問題 を解決できるよ うにす る。具体的な情報 と抽象的な情報の間に線 を引 くことで、情報 を具 体 と抽象に分けて確かめ られ ることができ、 「具体 と抽象の往還」 といつた情報操作の技 術が身につけやす くなると考え られ る。 また、 自ら意欲 をもつて考 えよ うとしな くては
(思
考力が向上 した とはいえない。ガヽ学生の思考力向上をね らうといつたことか ら、思考その ものを楽 しい と感 じられ るよ うにす ることも必要である。竹西 (2014)は、高校生 と中学生の認知欲求の低 さ (思考 を嫌 う程 度
)が
、 リスク過小視 を促進す る要因 としてあげ られ ることを明 らかに した。先行 きや結 果 を予測す る見通 しや想像力は、問題行動に対す る リスク認知を促進す るとしている。す なわち、思考が好 きか嫌いか とい うことが、 リスクに対す る問題解決の力 に影響 を与 えて いるとい うことである。 よつて、思考できる力があつて も、思考す ることが嫌いになつて しまった ら、問題 を解決 しよ うと考えることに抵抗 を持 つて しまい、思考力が高まった と はいえない。そ こで本研究では、思考す ることが楽 しい と感 じられ るよ うにす るために、 学習プログラムを思考の心得 を学ぶ時間 とし、忍術 をイメージした 「火・ 水・ 土・ 木」の 力で 「術」が使 えるよ うになるといつた内容 を構築 した。(3)思
考の心得 本研究で開発 した「具体 と抽象の往還」を促す学習 プログラムを「思考の心得」と呼ぶ。 「思考の心得」は小学生を対象 としているため、授業時間の45分
を1回
の学習 とし、設 定 した。今回は、全14回
(1回
45分
)の
「具体 と抽象の往還」を促す授業を作 り上げ る。14回
の授業は7回
ずつの2つ
のStepに分かれ る。Step lで は、主に基礎的な具体化 と抽象化の方法 を学べ るよ うな個人で取 り組む課題 を設定 した。Step 2で は、4∼ 5人
程 度のグループで取 り組む 「具体 と抽象の往還」´を使 つた言語活動を設定 した。また、それ ぞれの授業では、授業者が特別な指導を行 うのではな く、誰でも実施できるよ うにワーク シー トに沿つて授業が行 えるよ うに作成 した。次に、Step l、 Step 2に ついて詳述す る。Step lで は、まず具体化 と抽象化が どの よう
なものかを知 り、様々な課題で情報操作を繰 り返 し練習 できるよ うに した。 「具体 と抽象 の往還」 といつた情報操作ができなければ、具体 と抽象 に構造化す ることな どできない と 考え、
7回
の授業の うち、最初の2回
は具体化 と抽象化 といつた基本的な情報操作 に取 り 組めるような課題 を設定 し、 「具体 と抽象の往還」に慣れ させ ることを 目的 とした。3回
目の授業か らは、 「具体 と抽象の往還Jを
使 つた構造化 に向けて、分類や比較 といつたよ うな課題 に取 り組ませ、構造化の一端を経験 させ る内容 を作 り上げる。6回
目の授業では、 エ ピソー ドを思い出す ような具体化よりも言語化 してい く抽象化の方が子 ども達は苦手だ と予測 され るので、抽象化 を繰 り返す よ うな課題に取 り組む内容 を考 えた。Step lの 最後 の授業では、構造化 につながる複雑 な情報操作ができる活動 を設定す る。Step 2で は、外か らの情報 を取 り入れて構造化す るよ うな活動に取 り組 めるよ うに した。まず は、他人か ら得た情報 を操作 し、構造化 してい く授業を
2回
設定す る。情報が外部か ら入 ることで、 情報量が増 えることが予想 され、難易度 も Step lよ り上がる と考 えられ る。3回
目の授業 か らは、写真や絵、ポスター といった外部刺激によ り、新 しく情報 を関連付 けて構造化で きるよ うな内容 にす る。6回
目の授業で、 自分で構造化 した内容 を可視化す る課題 に挑戦 できるよ う設定す る。Step 2の 最後 には 「具体 と抽象の往還」 を自らの力で使用できるよ うに、構造化 した情報 を必要に応 じて選ぶ課題 に取 り組ませ る内容 を構築す る。以上のプ ログラムによつて 「具体 と抽象の往還」が促 され、複雑な情報操作が可能 とな り、情報の 構造化ができるよ うになると考 えている。 従琳温 に思考の心得のプログラムー覧 を示す)2.学
習プ ログラムの実施(1)実
施方法 本研究では、具体化や抽象化 といつた情報操作を親 しみやす く楽 しい ものにす るため、 「具体 と抽象の往還」、構造化に必要 と考えられ る情報操作を、それぞれ「火」「水」「土」 「木」 とい う4つ
の呼び名で示 した。 この4つ
は「具体 と抽象の往還」 といった情報操作 を習得す るために、具体 と抽象 をどのよ うに行 き来すれば良いかを意識できるよ う図式化 したものである。 (追補2に
それぞれの思考のイメージ例 を示す) 学習プログラムでは思考力 をわか りやす く捉 えられ るよ うに、具体 と抽象を何度 も何度 も繰 り返 し行き来 し続 ける力 を「火」、具体的な内容をま とめて抽象化 した り、抽象的な 内容 を詳 しくして具体化 した りす る力 を 「水」、同 じよ うな具体・抽象の段階で思考が行 われているか確かめる力を 「土」、 「具体 と抽象の往還」によ り、新 しい具体や抽象 を生 み出す力を「木」と表現 した。この4つ
の力について学び、活用できるよ うになることが、 子 ども達の 日標 となる。また、各課題には問題 を解決す るための術があ り、その術 を使 う ことによつて学習者 は 「具体 と抽象の往還」を何度 も繰 り返 し、思考の技術を身につけら れ るよ うになっている。 今回は、学習 プログラムのすべての授業でワークシー トを使用 した。そのワークシー ト には、必ず 「具体 と抽象の往還」が視覚的に認識できるよ うに補助線 を使つた図が示 され ている。その補助線 を使 つた図を「三本の矢」 と名付 けた。本研究で行つた学習 プ ログラ ム 「思考の心得」は 「三本の矢」を使 うことで内的な情報操作 を可視化 し、思考力の向上 をね らったプログラムであるといえる。(2)対
象・実施 日時S市
立A小
学校5年
生71名
、6年
生75名
。5年
生6年
生 ともに2クラス編成ぉ この うち各学年 1ク ラスを実験の対象 とす る。2014年
10月 10日
か ら12月
9日 まで。 週に1∼ 2時
間(45分
×2回
)程
度 のプログラムを実施。校長な らびに各学級担任、研 究推進 の委員会の了解 を得ている。3.プ
ログラム効果性検討のための測度 開発 した思考力向上のための学習プログラム「思考 の心得」の効果性 を、量的データと 質的データの両面か ら検討す る。今回の研究では、思考す る技術、思考 しよ うとす る意欲、 思考の意識化の3点
を取 り上げ、それぞれに対応 した測度 を用いる。量的データによる検 討は(1)知
能検査、(2)認
知欲求尺度により、質的デー タによる検討は(3)ワ
ーク シー ト・ 振 り返 りにおける記述文によつた。(1)知
能検査 本研究では、学習プログラムの前後 とStep l Step 2の間(2014年
10月
9日、11
月11日
、12月 18日
)に
知能検査 を実施 した。採点を行 つた後、下位検査 ごとに効果 を分析・検証する。知能検査には「教研式 新訂 錯鵠朗り知能検査」(図書文化社)を
使用 し た。「教研式 新訂 学年別知能検査」は、知能を構成す る因子 (空間関係、知覚の速度、言 語の理解、記憶、判断、数、推理、思考な どの下位検査)を
総合 して、一般知能 を測定す るものである。 しか し、検査 を構成す る各下位検査で、それぞれの知能について検査す る こともできる。 この検査は、絵画や図形、符号 といつた言語 によらない情報 を手がか りと した具体的知能の検査 と、語彙や文章な どの言語を手がか りとした抽象的知能の検査 を併 用 した ものである。 この知能検査 を用いて、「具体 と抽象の往還」を伴 う情報操作の技術が向上 したか検討 す る。下位検査では、絵や図か ら得 られ る情報 を抽象化 して考 える力や言語化 されている 情報か ら具体的にイメージ して考 える力が求め られている。情報 を1度
抽象化 してま とめ た後、再度具体化 して正 しい答 えになるか判断す るといつたよ うに、1つ
の検査で具体 と 抽象 を往還す る思考が必要 となる検査が取 り入れ られている。 よつて、この知能検査は、 本研究で意図 している「具体 と抽象の往還」 といつた情報操作ができるようになっている か判断す るために適 したものであると考 えられ る。_
(2)認
知欲求尺度 本研究で使用 した認知欲求尺度は、神 山・藤原 (1991)がCacioppo&Petty(1982)の
認知欲求尺度を基に構築 した 日本語版認知欲求尺度 を参考に、小学生用 に改定 したもので ある。認知欲求は 「考えることへの嗜好性、考 えよ うとす る動機の高 さ」であ り、質問項 目は 「頭 を使つて考 えることが好 きだ」 「難 しい問題 の方が簡単な問題 よ りや る気がおき る」な ど7項
目である。それぞれ5段
階で 「あてはまる・ややあてはまる・ どち らともい えない 。あま りあてはま らない・ あてはま らない」 を答 えさせた。尺度の作成、分析 にあ たっては、小学校1年
生か ら6年
生に認知欲求アンケー トを行つたが、その基準お よび作 成過程は別の報告に譲 る。 認知欲求尺度 においては、思考 しよ うとする意欲 について測定す る。思考 しよ うとす る 意欲は思考す る力に密接 に関係 していると捉 えられ、認知欲求を測定す ることで、思考す る力を検証することができるのではないか と考 えられ る。 また、学習プログラム実施後、意欲 の高ま りが定着 しているかを測定す るために、学習 プログラム終了後2ヶ月経つてか ら、再度認知欲求アンケー トを実施 した。(3)記
述文 子 ども達の記述 においては、情報操作の理解度 と可視化す ることで思考を意識す ること ができていたかを検証す る。学習プログラムが 「具体 と抽象の往還」 とい う内的な情報操 作を促す ことができているか、 ワークシー トに記 された思考の軌跡 と学習の振 り返 りか ら 検討す る。具体的には、1)ワ
ークシー トの課題の中で具体 と抽象に往還 している記述が 見 られ る、2)振
り返 りに思考や内的な情報操作についての記述が見 られ る、3)思
考 し ている実感が伴 う記述が見 られ る、 とい う3観
点で検討す る。 【結 果】(1)知
能検査 の結果5年
生、6年
生ともに、3回
の知能検査(1回
目はプログラム実施後、2回
目は Step lを実 施後、3回
目はStep 2を実施後)を行つた。知能検査では下位検査 として8つ
のテス トを行い、 それぞれの結果において分析 した。下位検査は6年
生が「積木、絵系列、図合、置換、計算、 乱文、論理的推理、異類語」5年
生が「積木、絵合、図合、置換、計算、乱文、類推、異類語」 である。 111回
日と2回
日、2回
日と3回
日の検査の平均点に差があるかについて `検定を実施 し 検討 した。結果 を表1∼
表4に
示す。 まず、検査1回
目と2回
目の平均値に差がみ られ るかについて ι検定を実施 した結果、6年
生の 「積木、絵系列、図合、置換、計算、乱文、論理的推理、異類語」5年
生の 「積 木、絵合、図合、乱文、類推」において5%水
準で有意差がみ られ、2回
目の平均値が高 かつた。次に、検査2回
目と3回
目の平均値に差がみ られ るかについて ι検定を実施 した 結果、6年
生の 「絵系列、置換、乱文」5年
生の 「図合、置換、計算 、乱文、異類語」に おいて5%水
準で有意差がみ られ、3回
目の平均値が高かつた。 表1
知能検査の下位検査ごとの平均値(6年
生) 1目日 28日 3回 目 下位機童 平均値 標準僣鶴 平均贅 標- 7・
3饉 標準領織 111〕0 1.740 織系列 974 1.0●3 1.■B l`蟹Ю 1312 1'盤 2麒曖 ●・16 9″ 11.14 2■71 ●‐16 2.774 2塑諄 1237 2製 Ю "3 n― 911 1ル “ 1lJ自0 11鵬 3a2 *2回目は尋:LPl終了後、3回目は嚇 了後に検定を行った 表2
知能検査の平均値の変化の検定(6年
生) 1回目と2回目の差 2回 日と3回 目の差 下位園 子 有意水準 饉 摯 覆 木 Ch芝蟹31 性系列 場013
Oκ海1 目 合 くH113 4鰯 紋 0013 鶴 緩 ・ 1題 0鵬 継 置換 計算 興類題 ‐2814 35 120.“
35表
3
知能検査の下位検査 ごとの平均値(5年
生) 1回 目 a壼 目 3国 自 下位機 = 平均鐘 標準籠麓 平均饉 標準偏差1_981 10.11 1■平均値 標準颯避口5 ●‐16 15,17 1.036 11,74 1.974 OⅢ16 1.290 1203 2麟 7 1161 潮 0・10 1.088 10.50 2●′′ 11.50 125 員麟饉 2.120 11.15 1,950 1286 2Z" *2回日はSTCPl終了後、3回目は略 了後に検定 を行 った 表4
知能検査の平均値の変化の検定(5年
生) 1回日と2回目の麓 2回 日と8回 目の羞 下位困子 噸 有意水準 饉 有意水準 ‐3.410 0虚 0‐13 0‐16 Oo16 ●‐18 ns. ● .550 ‐1.882 ns. 日合 ・2572 0。016 饉 ‐1.顕40■
0.000 ‐1.178C∞
1 0』01 紋 3.020 0藤 4傷 0.000 類推 ・1.879 興類着 ‐1.010(2)認
知欲求の結果5年
生、6年
生 ともに、認知欲求尺度を使つて年間5回
の測定(3回
目は学習プログラム実 施直前、4回
目は学習プログラム実施直後)を
行つた。認知欲求尺度では7つ
の項 目を作成 し、 それぞれの結果において分析 した。1回
日と2回
日、2回
日と3回
日、3回
日と4回
日、4回
日と5回
目のそれぞれの検査 の平均点に差があるかについて `検定を実施 し検討 した。結果 を追補3∼
追補6に
示す。 また、各項 目の値 を単純合計 し「認知欲求」 としてグラフに表 した。 (図 2、 図3) 林 ‐1.600 計算 35 34 13図
2
認知欲求の変容 (6年生) グラム糊 間 醸 図3
認知欲求の変容 (5年生) 図2、 図3の
グラフから、学習 プログラム実施前後(3回
日と4回
目)に
実施 した認知 欲求尺度において、5年
生6年
生 ともに数値の上昇が見 られた。そ こで、平均値に差がみ られ るかについて ι検定を実施 した結果、6年
生においては5%水
準で有意差がみ られ、 学習プログラム後の平均値が高かつた。 (表5、 表6)学
習 プログラム実施後2ヶ月経つ てか ら(5回
日)の
認知欲求尺度では、グラフで確認す る限 り6年
生では数値が下が り、5年
生では数値が上がっている。 しか し、学習プログラム直後(4回
日)の
認知欲求尺度 との有意差はみ られなかった。 認 知 欲 求 認 知 欲 求 14表
5
認知欲求の平均値の変化の検定 (6年生) 表6
認知欲求の平均値の変化の検定 (5年生) 6年生 5年生 t値有憲水準 tlit 有意水準 1回目と2回目の差
‐1・806 1回 目と2回目の差 2回日と3回目の差 2回目と3回目の整 1.295 3回目と4回目の差
・2.099 3回日と4回目の差
‐1.135 4回日と5回目の差 1.600 4回日と5回目の差
い.794
(3)子
どもの記述文か ら すべてのワークシー トの 「三本の矢」 に思考の軌跡 を確認す ることができた。低洋力 に より個別の支援が必要な子 ども以外のワークシー トには、意図 した 「具体 と抽象の往還」 が見 られた。学習 プログラム振 り返 りか らは、思考を可視化 した ことによ り思考 を意識 し た と解釈できる記述が見 られた。特に、今まで考えていなかつた とい う反省 と今後具体化 や抽象化 を使 つていきたい といつた 自分 自身の思考 について意識 した記述が多 く見 られ た。頭 をよく使 つた、た くさん考 えた、考え方がわかると楽 しいな ど、思考 している実感 が伴 う記述 も多 く見 られた。 また、 どうすれば具体化や抽象化ができるか、三本の矢の使 い方 についてな ど情報操作の技術についての記述 も見 られた。 (追補7で
子 ども達の記述 を具体的に例示す る) 【考 察】 本研究は 「具体 と抽象の往還」 といつた内的な情報操作を促す授業の実践によ り、子 ど もの思考す る力を伸ばす ことができるとい う仮説のもとに、思考力 を向上 させ る学習 プロ グラムの開発 と効果の検証 を 目的 としている。学習 プログラムを開発 、実施 し、効果 を検 証 した ことで(1)学
習プログラムによつて 「具体 と抽象の往還」 とい う情報操作ができ るよ うになつた結果、問題解決 に応用できるよ うにな り、知能検査に効果が見 られた と考 えられ る。(2)思
考を楽 しく学べ るといつた特徴 をもつ学習 プ ログラムによつて、思考 しよ うとす る意欲が高まった結果、6年
生の認知欲求の数値が上昇 した といえる。 (3) 子 どものワークシー ト0振り返 りか ら、思考そのものを意識す る記述が確認でき、情報操 作を円滑にするための技術 について認識 させ ることができた と考 え られ る。 よつて、本研 究で開発 した学習プログラムが思考力 を向上 させ る可能性 を十分に持 ち、その有用性 を示 したのではないか と考えられ る。 15(1)知
能検査結果の考察 「具体 と抽象の往還」を伴 う検査において数値に有意 な差が見 られたことか ら、学習プ ログラムにより「具体 と抽象の往還」 といつた情報操作ができるよ うになつた と考 えられ る。特に「絵系列」 と「乱文」の結果に影響 を与え、具体化 と抽象化 を伴 う問題 を解決す る力が伸びた と解釈できる。また今回は、思考 よりも動作による能力 に検査結果が左右 さ れ ると考えられ る「幽 について取 り上げなかった。6年
生は Step lの すべての検査の数値、Step 2では 「絵系列・乱文」の数値 において有 意な上昇が見 られた。そのため、Step 2の授業では 「絵系列・乱文」 に影響 を与 えやすい 内容であつたことが明 らかになつた。 また、 「絵系列」 と「乱文」の検査内容 は具体 より の情報操作か抽象 よ りの情報操作力勁`違 うだけで、情報 を抽象化 し具体化す るといつた一 連の情報操作は同 じものであると考 えられ、絵や図を手がか りとした 「絵系列」 と言語を 手がか りとした 「乱文」に同 じよ うに向上がみ られた といえよ う。5年
生は Step lに おいて、絵や 図を手がか りに した 「積木・ 絵合・ 図合」の数値が有意 に上昇 していた。 しか し、言語 を手がか りとした検査では 「乱文・ 動 には有意 な上昇 が見 られ るが 「計算・ 異類語」には有意 な上昇が見 られなかった。 また、Step lで 有意な 向上が見 られなかつたにもかかわ らず「計算・異類語」は Step 2で有意 な向上が見 られた。 「計算・異類語」がステ ップ1で
数値に有意 な差が見 られなかった要因 としては、検査の 内容が抽象化のみを取 り上げた問題であ り「具体 と抽象の往還」 とはやや違 つた観点 での 計測である可能性 も示唆 され る。また、知 らない言語が出て くることもあ り、問題 を解決 す るために必要な力は、思考ではな く情報の量によるところが大きいのではないか と考え られ る。 この知能検査を 「具体 と抽象の往還」か ら見てみると、絵 を言語化 し、構造化 した情報 か ら必要なものを選んで問題 を解決す ることになる絵合 と絵系列は、「具体 と抽象の往還」 によつて解決できるものであ り、学習 プ ログラムによつて点数の向上がみ られた と考えら れ る。また、乱文、類推、異類語 といつた言語を中心 としたそれぞれの検査は 「具体 と抽 象の往還」を伴 う構造化 に対応 していることも、点数の向上に関係 していると捉 えられ る。 計算や論理的推理な ど数学的な検査については、直接的な影響 を及 ぼす ものではない と考 えられ るが、思考力の育成 といつた観点か ら、間接的な影響によ り数値が変化 したのでは ないか といえる。少なか らず 「具体 と抽象の往還」を促す授業の実践 は、具体化 と抽象化 を要す る知能検査の結果 に影響 を与 えることが示された。 しか しなが ら、今回実施 した知 16能検査は同 じものを
3回
実施 しているため、回数による得点の向上が要因 として懸念 され る。繰 り返 し実施 した ことによる効果については、今後の大きな課題 である。実験群 と統 制群 を作つて効果性 を比較す ることや、知能検査の問題 を変更す ることな ど、学習プログ ラムのみの効果 を測定できる研究計画の検討が必要である。(2)認
知欲求の考察 学習プログラム実施前後(3回
目と4回
目)に
行つた認知欲求尺度 において、6年
生の 数値に上昇が見 られた。認知欲求の数値が上昇 した ことか ら、学習 プ ログラムによつて思 考 しよ うとす る意欲 が高まる可能性が示唆 された と考え られ る。6年
生においては認知欲求に有意な変化が見 られ、本研究で考案 した学習 プログラムに よる効果があつたのではないか と考えられ るが、5年
生においては認知欲求のグラフに数 値の上昇は見 られ るものの有意な変化ではなかつたため、学習プログラムによる効果 は認 められなかつた。また、学習 プログラムによる意欲 の持続性 も期待できず、定期 的に思考 を意識 した学習 が必要であると考えられ る。5年
生において認知欲求尺度の向上が見 られなかつた要因の1つ
として、思考す ること が楽 しい と思 うよ う考えた学習 プログラムであったにもかかわ らず、逆 に、思考 を意識 し たことで考 える行為そのものが難 しい と感 じた り、めん どくさい と思つた りした子 どもも いたのではないか と考 えられ る。(3)子
どもの記述文の考察 ワークシー トに記 された子 どもの記述 には、具体 と抽象を往還 した思考の軌跡が記 され てお り、学習プ ログラムが「具体 と抽象の往還」 とい う内的な情報操作 を促す ことができ ていることを示 した。また、学習の振 り返 りには 「具体化」 「抽象化」 「頭の中」 「思考 力」「考える」といつた本研究で意図 した思考 に関係 した言語が多 く見 られ、可視化す るこ とで思考 を意識す ることができた といえる。 1)ワークシー トの課題の中で具体 と抽象に往還 している記述が見 られ るかについては、 一本の矢を使つた問題 を解決する過程に、情報操作に慣れ親 しんだ と考えられ る記述が残 されていた。 しか し、14回
の学習の中で具体化 と抽象化について理解できず、内的に情 報を操作す ることができない子 どももいた。主な理由としては2つ
考 え られ る。1つ
日は、 自分の持つ情報が少な く具体 と抽象 を往還す るだけの言語やイメージを持 つていない場合 17である。特に低学力 の子 どもに見 られ、考 えようともせず 「わか らない」 とつぶや く子 ど ももいた。
2つ
目は、情報 を持 つていた としても具体 と抽象に操作す ることができない場 合である。取 り組 も うとす るが、何 を した ら良いのかわか らず、ただ言語 を羅列す るとい つた姿 も見 られた。発達段階 としては言語化 された抽象度の高い情報 の操作が可能である と判断 したが、子 どもによつてはまだ具体な情報 しか操作できない といった ことも考 えら れ る。2)振
り返 りに思考や内的な情報操作についての記述が見 られ るかについては、具体化 と抽象化 について書かれた記述文が多 く見 られたことか ら達成 していると考 え られ る。三 本の矢 を活用 しなが ら考えてみ よ うといつた記述 も多 く見 られ、三本の矢が子 ども達の思 考の助 けになっていることがわかる。Step 2の プログラムの中で、情報量が増 えることで 構造化が難 しくなることがわかる記述が 目立った。それは、 自分の情報だけでな く外部 か ら取 り入れた情報であることによ り、理解 に時間がかかることか らも生 じてい ると考 えら れ る。 しか し、 「想像が膨 らむ」 といつた記述 もあ り、 自らの情報が乏 しい子 どもに とっ ては外部か らの刺激は大変有効 な手立て とな り、 「具体 と抽象の往還」が促 され るために 必要なものであった ともいえる。3)思
考 している実感が伴 う記述については、子 どもの様々な表現で確認できた。今ま でよ りも考えた といつた内容や頭 を使 って疲れた、頭が痛い等 といつた内容が記 されてい た。 また、 自分の思考についての記述だけでな く他人の思考についての記述 も見 られ、三 本の矢によつて思考を可視化す る方法は集団での思考において重要な役割 を示 し、 自分の 思考を再認識す る手立て となつていた。 自分の思考だけでなく相手の思考 も意識できた要 因 としては、お互いの思考 が 目に見える形で三本の矢の中に構造化 され ることで、思考が 共有 され理解が進んだ といつたことが挙げ られ るのではないか と考えている。相手の思考 が見えないことによるすれ違いが多い子 ども達に とつて、思考を意識 し書 き記す ことは、 他者理解においても有用であつた といえる。(4)総
合的考察 本研究で開発 した学習プ ログラムによつて、「具体 と抽象の往還」とい う情報操作を、意 識化 して用いることができるよ うになつた といえる。同時に、楽 しく学ぶ とい うプ ログラ ムの特徴 により思考 しよ うとす る意欲が高まる可能性 も示唆 された。思考す る技術、思考 しよ うとす る意欲、思考の意識化 といつた3つ
の観点は、思考す る力の向上を 目指すための重要な観点であ り、「具体 と抽象の往還」を促す授業の実践により向上す ることが確認で きた といえよう。 今 回行 つた学習プログラム 「思考の心得」では、 「三本の矢」によ り思考の過程 を可視 化 し意識 させ ることで 「具体 と抽象の往還」 といつた内的な情報操作の過程 をメタ認知的 に捉 え られ るよ うになった と考 えられ る。 「三本 の矢」は、 自らの思考 を振 り返 り、情報 操作の技術 を身につけるための有効 な手立てであった といえる。思考す る技術 を得 ること で、子 ども達は考えることが楽 しくな り、意欲 をもつて問題 の解決に取 り組み、様 々に応 用 しよ うとする姿が見 られ るよ うになつた。思考を意識化す ることは、思考の技術 の習得 と思考 しよ うとす る意欲 の向上に影響を与えると考 えられ る。 具体化 と抽象化については、このプログラムを通 じて子 ども達 も必要性 を感 じた ことが 記述か ら認 められる。具体 と抽象に構造化 してい くことで問題解決につながることを 「具 体 と抽象の往還」を促す課題の中で実感 したのだ と考 えられ る。 しか し、抽象化 は比較的 難 しい情報操作であ り、必要性 を感 じるだけではできるよ うにな らない。抽象化が円滑に できるよ うになるためには繰 り返 し副1練が必要であることも明 らかになった。 神 山・ 藤原 (1991)は認知欲求が文章を論理的に理解す る能力 と関係 があることを示唆 している。認知欲求が高いほ ど文章を論理的に理解できるとすれば、思考力の向上は作文 の構成や言語の数に影響 を与 えると考 えられ る。実際に学習プログラムの前後 に書いた作 文にも変容が見 られ、語彙が増 えた り、抽象的な内容 を具体的な例 を挙げて説 明す るとい つた文章が書けるようになつた りした子 どももいる。また、プログラム実施後
1年
が経つ て も、作文を書 くときに 「三本の矢」 を使 つて樹形図を作成 し、具体 と抽象 を往還 しなが ら考 えを巡 らせている子 どもの姿 も見 られた。その子 どもに とつて 「三本の矢」 を活用す ることが思考の助けとなつていることは間違いない といえる。 関西大学初等部の思考力育成法は、様々なシンキングツールを使 つたものであったが、 本研究の学習プログラムでは 「三本の矢」 とい う1つ
の図のみを使用 した。た くさんのツ ールについて使い方を覚 える必要がなく、同 じツールで何度 も練習 できるため、 よ り習熟 す ると考 えられ る。 ツールの選び間違いによ り、情報操作を失敗す るとい うことも防 ぐこ とができた といえる。また、子 ども達はた くさんのツールの中か ら適 した情報操作ができ るツール を選ぶ ことによつて様々な思考 を行つたのではな く、 「三本の矢」 とい う1つ
の ツール を様々な場面に応用 して思考す ることができた とい うことである。 これは、様々な 19思考に 「具体 と抽象の往還」が関連 してお り、具体化 と抽象化 を繰 り返す ことで円滑な問 題解決につながることを示唆 していると捉 えられ る。 ハヤカ ワ (1972)は、優れた小説家や詩人の作品は、より高い レベル と低い レベルの抽 象間の絶 えぎる交互作用 を現 しているとい う。面 白い著作家、実のある話 し手、分別のあ る個人な どは、抽象のハシゴのあ らゆる段階において活動 し、よ り高い レベル と低い レベ ル を行 き来できる人であるとしている。本研究で 目指 した思考力は 「具体 と抽象の往還」 を円滑に行 える力である。ハヤカワの考 えに則 るな らば、構造化 した具体 と抽象の段階を 縦横無尽 に行き来 しなが ら考 えることができることが、思考力向上の 目標 になると捉 えら れ る。小学生の作文 を例に挙げると、抽象→具体→抽象 と主張 した意見に対 して具体な理 由や根拠 を示す ことで説得力が増 し論理的な文章 とな り、具体的なエ ピソー ドや抽象的な 内容だけを並べ るだけでは、良い作文 とはいえない とい うことである。 また、今回樹形図 を利用 したことにより作文が書けた子 ども達 もいたが、できることな らば樹形図を書かず に思考できると良い と考えられ る。すべての思考 を可視化 しなければ考 え られないのであ れば、それはまだ思考力が向上 した とは考え られない。内的な情報操作 を円滑に行 うため の副1練として、メタ認知的に自分の思考 を提 えるために 「三本の矢」は存在す る。 「具体 と抽象の往還」 を促すプログラムは思考す る力を伸ぼすために開発 された。 したがって、 書き記 し可視化することに頼 らなくても考 えられ るよ うになることこそが、本来の思考す る力の向上へ とつながつているのではないか と考え られ る。 本研究では、開発 した学習 プログラムの効果性 を、知能検査、認知欲求、記述 といった それぞれの測度 についての分析、検討 は行 つた。 しか しなが ら、知能検査 と認知欲求、そ して子 どもの記述の関連性は検討できていない。知能検査の結果か ら思考す る技術 を身に つ けた と考 えられる子 どもは、思考 しよ うとする意欲が高ま り認知欲求尺度の数値が上が るのだろ う力ゝ 思考を意識化 した と思われ る記述を残す子 どもは、知能検査の数値 も上が り思考す る技術 を得た といえるのだろ う力、 思考す る技術、思考 しよ うとす る意欲、思考 の意識化に関連性があるか研究 を進 めることが、思考力向上に向けた今後の研究の課題 と なる。 20
参考・ 引用文献
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【
追 補】
追補1
「思考の心得」プログラムー覧 器 プログラム名 熔 番勝Ol夫羹タ 0苦彗G陳郎、浦脚 なDを
読む.歌む内容は授業翻 る部分だけ。 ②黒板を使ヽヽながら全慣でパラフレーズの練雷をする。(おばあさん→年老いたつ 0自分韓 バラフレーズし、物鱗0内容はそのままに全く違う音薔に聞こえるように書きかえる。 0違う榊 ように聞こえるが、よく間くと知っている■着である"。とヽヽった物語を読み合い.楽 しむ。 古今東E∞0こと 01つのもの(爾 にもたくさんの書い方があることに気づかせる。(例えば・¨を何例か示す) 0お題睦出し、設定された時間の中で■資な言葉で言いかえるゲ‐ムに挑層サろ. 0具体的に言ったり拍象鞣 言ったりしている言葉を分類しながら全体婦 ろ. 1-3 fl■を見つけて 0たくさんの言葉が散りばめられたワ‐クシ‐卜を配市.言葉を見つけるケームに棋峨. ② 見つけた言葉を自分で理由づけしながらグル‐プに分けていく。 0とんなグループに分けることができたか発表する。 饉える1爆 えない0 0物が燃え臨 、どのように爛えるか表現させる。それは、どの程度燃えているのパ詢晴させる。 ②ぃろぃろな表現を考えさせた後、燃えろ民現と颯えない表現を1つの轍掟羅列していく。 0感想を共有しながら、どうぃった演現がどのように相手に伝わっているかを記競させる。 やりす看燎の上手 0榎棠者 佃優)の美しさを褒めたたえる。ただしl―
を使いながらほめることを伝える。 ②他の人(もの)についζl-4使
いながらはめる。 “ 薔屁■になって0職
配海し、講ませる。思 ②記事に小■出しわ けてヽヽく。 見出しなどがなぃことに気づかせる。 なぜtそのような小見出しにしたのか理由も税鯛させる。 0000聯ろう 0大きなrooooJを作ろうと促し、■葉0樹形目を作らせる. 0拍象的な言葉を具体化していき、ビラミッドのような形になるようなお題を設定し、取り組ませる。 0ピラミッドのような形0‖靴すると― えるもの)以外0言葉もあることを知る。 1つ0障モ奪えて 0各グル‐プに題を発表する。(花:月、空t冬、かえる、時計"。なυ ②超り言葉を持の中に含ド 、題を表瀾ける貯を各自で作る。作った時をグル‐プで共有する。0い
か着し合いながら、1っの詩を作威する。 2-2 お =ら0ないクtO■ 01つの書業からクモの巣のようなマップを作成する。 ②言葉を円で日な つながる■案を議でつないでいく。 (プレインストーミング) 1本道を作らなぃょうに意日させる。 紳 との遭 0地球上に磁 しないはずの生き物が何種類力発見された着をする。 ②ありえない動物G課嗜が績粘土etc。で作成したもの)の写真を1人に見せる. 0グループに言語でどんな生き物囃った力伝え、絵と文字で記踊する。(写真を■てもいいのは1人だけ) 0何穫錮かの生き物で活動した後、最後にはグループ全員が同じ写真を見て、線にする漏動にも挑潮ける。 おしoぺりな書得 0ア‐トカ‐ドを使って絵でしりとりをする. 僣自を渤 0芸楠作品を見て、感じたことを交流する。(セリフをつけるetc.) 0瑶想文を書く。 ポスター0 意味ある●麟 0ボスターを■せる。そのポスタ‐が何のポスタ‐力考えさせる.(鰐・“たばこアカンのポスタ‐) ●ポスタ‐のキャッチフレ‐ズを教える。批瀬的な愚考で自分0意■を発表させる。 0グループごとにボスタ‐― き)を配布する。グル‐プでキャッチコピーを考える。 0なぜ、そのキャッチヨビま なったoれ 着し合い0過組を発演する。 ●ことわぎ目定 0ぃろいろなことわざと意味を確露する。ことわさがどんなものだつたか頓調する◆ 0今までにないことわざを作ろうと握案し、ことわさにしたい日常生活の出来事を発表させる。 0学綴で取り上げた出来オについて1つ選びtグル‐プでことわざと意味を考えさせる。 0なぜ、そのようなことわざと意味になったのふ脱膚させる。 わたしは■でしょう 0ある場(えんびり、けしごむ、イス、上靴…etc。)になりきって3ヒントクイズを作らせる。 ②グル‐プでクイズを出し合う。3ヒントの鳳田や菫湯度はどうだったか曽し合わせる。 0自分について考た 3ヒントクイズを作らせる。 0榎槃者が回収した8ヒントタイズを波み上げ、議か考えさせる。 22追補
2
思考の心得で学習す る情報操作 名 前 イ メー ジ図 子 どもに示 した簡 略 図 火 水③ ① ①
①
O
土 抽象?
〇≧
具体01
∩ ,〇
木… …
/潔
ヽ
_
I
―
、
23項 目 追補
3
認知欲求尺度の下位 因子 ごとの平均値 (6年生) 1回 目 2回目 覇ヨロ 4コロ Sコロ 平均機 環準 “ 難 平崎饉 擦譲●r平均●e奉編 彙 平均饉 薇津 颯着 平,鶴な摯●肇 とか墜 3 71 lЮ6 3 89 96S ●46 1010 3』疇 1“ "8 3■4 1018 るだろうと 3■ “ 983 389 1157 3.77 1114 307 ,10 4でЮ 厳1:躍
ぽ 蠅3411‐5鰤
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認知欲求尺度の平均値の変化の検定 (5年生) 1回 日と2回目の螢20日と錮 目の羞38日と4回 目の腱 編 目と5B目の農 ・ ・ "l・ 有辮 嗜 有 “ ● ●― ● =薇つて●えることび好● ・ `旧 O l1 3 ‐.572 ●3. ■哺7 ●二 ‐.400 は 1.1lЮ れ, 476 ●3 、741 0ふ ‐3た o3 項 目 軍t覇雷:""“暉ム●_鱚
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