<論説>風は誰のものか? ─再生可能エネルギー法制をめぐる近時のドイツの議論を中心として─
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(2) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). に依存する選択肢はありえない。原子力発電は、予測を超える自然災害の多発 するわが国においては余りにリスクの多い選択肢だからである 3)。現在のとこ ろ取りうる選択肢は再エネしかない。再エネは出力が安定しないという大きな 問題をなお抱えているものの、その比重を大幅に増やしていくことが現在のわ が国における喫緊の課題であろう。 ところで、再エネ生産で、日本は先進国の中でも消極的であって、再エネの 総電源出力に占める比率は現在でも 16% 程度に過ぎない。これに対して、積 極的な国の一つはドイツである。彼の国では、再エネの自家発電を除く総発 電量に占める比率が 46% に達した 4)。この数値は世界的に見ても非常に高く、 ドイツでは 2035 年までにこの比率を 55 ~ 60%にまで引き上げる目標を前倒 して達成できそうな勢いである。 このように再エネ生産では優等生であるドイツではあるが、近年再エネ法制 の今後の在り方をめぐって法学者による活発な議論がなされている。以前、筆 者は拙著において、再エネ法制に関してはその展開が急であることもあってか、 あるいはともかく再エネ比率を早急に引き上げることが喫緊の課題であったこ ともあってか、日独両国とも法学者による論稿が少ない旨を指摘したが 5)、少 なくともドイツにおいては、近年法学者の積極的関与が目立ってきたように思 われる。たとえば、著名な法律月刊誌である『環境法雑誌』6)においては 2017 年 12 月号で「風は誰のものか?」という特集記事を組み、8 本もの研究者の 論稿を掲載した。ここには、本稿で後述するように刺激的な内容を含む論稿も 3)筆者は、原発廃棄物の処理問題も含めて考えれば、わが国のみならず非地震国において もこのことはあてはまると考えている。 4) 「ドイツ再エネ 46%、初めて化石燃料を上回る 19 年」 『日本経済新聞』2020 年 1 月 4 日 参照。記事で引用しているフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)の HP(https://www.ise.fraunhofer.de/)も参照。 5)髙橋寿一『再生可能エネルギーと国土利用』 (勁草書房、2016 年)序章参照。 6)Zeitschrift für Umweltrecht(以下、本稿では “ZUR” と称する) 140.
(3) 風は誰のものか?. 多く、早速、同誌の 2018 年 1 月号では前年 12 月号の中心的論稿の著者である ボイムラー(Bäumler)の見解を検討する論文が掲載されている。 上記の論稿を中心とする近年の議論は、順調に展開している(ように見え る)ドイツ再エネ法制に対してどのような問題関心をもって書かれたのであろ うか。本稿ではこれらの近時の議論についてこれまでの再エネ法制の構造や特 質と対比させながら分析・検討することを中心としたい。. (2)本稿の構成 ドイツの再エネ法制は、大きく言えば発電事業の部分と送配電事業の部分と に分けて法制度が整備されている。前者についての基幹的立法が再生可能エネ ルギー法であって、後者のそれが、エネルギー経済法である。もちろん、この 二つの法律のみでは全体像を捉え切れないが、この二つの法律は発電部門と送 配電部門の基幹的立法として最も重要な法律である。ところが、今日のドイツ では、この両者に対して、根本的批判がなされ始めている。 以下では、まず再エネ発電設備の整備に関する法制度の現下の状況とそれを めぐる議論の一端を紹介・検討する(第 2 章) 。そこでは再エネ発電が送配電 網の建設と連動しないまま建設されていることへの危惧が表明されている。次 に、送配電線の整備に関する法制度の現在の状況とそれをめぐる近年の議論の 状況の一端を紹介・検討したい(第 3 章) 。そこでは、エネルギー転換を進め る上で送配電線の整備が喫緊の課題とされているにもかかわらず、それが思う ように進まないことへの苛立ちを見て取ることができよう。第 4 章では、第 2 章でも指摘された発電設備の立地規制に関する問題を取り上げて近時の議論を 紹介・分析したい。最後に、これらのドイツでの議論が有する意味をいくつか の視角から検討し、わが国の状況との関係についても考えてみたい(第 5 章) 。 なお、一口に再エネ法制とは言っても、太陽光、風力、水力、地熱、バイオ マスで各々の法制度はかなり異なる。これらの電源の中で、ドイツで最大の比 重を占めているのが陸上風力発電であるが、それであるが故にとりわけ立地規 141.
(4) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 制を中心として多くの問題も指摘されている。そこで、本稿では再エネ法制の 中でも陸上風力発電を念頭に置きながら叙述を進めていきたい。. 2.再生可能エネルギー発電設備の整備―再生可能エネルギー法― (1)はじめに わが国がモデルとしたドイツの再エネ法制の中心が、2000 年に制定された 再生可能 エ ネ ル ギー法(Erneuerbare ─ Energien ─ Gesetz. 以下、“EEG” と 称する)である。本法は、わが国の「電気事業者による再生可能エネルギー電 気の調達に関する特別措置法」 (2012 年) (以下、 「再エネ法」と称する)に相 当する立法であって、再エネ発電を行おうとする者が、電気を生産・流通・販 売するに際して遵守することが必要な法規定やその予測可能性・計算可能性を 担保するのに必要な法規定が設けられている。 本法の特徴の一つは、規整法(Regulierungsrecht)的側面である。規整法 とは、近年の行政法学では、 「自然独占が発生するネットワーク産業分野を中 心に、当該サービス市場において事業者間の競争を創出し、かつ当該サービス の十分な質および量を確保すべくなされる、事前および事後の行政規制を取り 扱う法分野」7)と定義されている。自然独占が発生する分野であるから、電気 通信や郵便、鉄道などが典型であるが、電力も日独双方において従来は自然独 占が生じていた分野であったため、近年事業者間の競争を創出して、国民に対 して質および量のいずれにおいても適切なサービスを提供すべく、規整法制が 整備されてきている。 7)巽智彦「規整法(Regulierungsrecht)について─電気通信分野を中心に」 『成蹊法学』89 号(2018 年)252 頁。なお、その他にも、たとえば市場経済システムとの関係で規整法を 検討する山本隆司「行政法システムにおける市場経済システムの位置づけに関する試論」 森島昭夫/塩野宏編著『変動する日本社会と法』 (有斐閣、2011 年)32 頁以下、保障行政 の観点から規整法を位置づける板垣勝彦『保障行政の法理論』 (弘文堂、2013 年)48 頁以 下などがあり、いずれも興味深い。 142.
(5) 風は誰のものか?. 再エネ法制について言えば、従来大手電力会社によって独占されていた発電 事業の市場を再エネ発電事業者にも参入可能な市場に整備し直さなければなら ない。すなわち、再エネ発電事業者が生産した電力についても、市場で販売・ 流通させるようにすることが必要になるのであるが、大手の発電会社と対等な 立場で市場に参入させるためには、市場構造に対して予め一定の枠付けを行い、 私的アクターの活動に対して一定程度の規整・誘導 8)・制御(以下、これらを 併せて、 「コントロール」または「規制」と称する)を行う必要がある。そこ で EEG については、再エネ発電事業者に対して、下記のような優遇措置が講 じられた。以下、まずは優遇措置について述べていこう。. (2)優遇措置の内容―規整法的側面 再エネ発電事業者については、大手を中心とする他の発電事業者と対等な立 場で市場参入しうるようにするために、EEG によって、下記の優遇措置が定 められている 9)。 (a)優先接続義務 EEG において、接続の問題は重要な論点として意識されてきた。そして、 2004年以降この問題は「優先接続」 (Vorrangiger Anschluss, Priority Connetion) 制度によって対処されている。すなわち、送配電事業者(Netzbetreiber、以下 「系統運用者」と称することもある)は、再エネ設備を送電線に優先的に遅滞 なく接続する義務を負う旨が EEG において定められている(EEG 8 条 1 項) 。 すなわち、送配電事業者は接続を拒否できない。再エネ発電事業者は、私法上 8)近年の行政法学においては、誘導行政と規整行政は区別されるが、誘導行政が規整行政 としての性格をも有する場合があり、両者が常に画然と区別されるわけではない(板垣・ 前掲(注 7)41 頁参照。 9)本文の下記の点の詳細については、髙橋寿一「発電事業者と送配電事業者間の法律関係 ─再生可能エネルギー法制をめぐる日独比較法研究─」沖野眞巳/笠井修/銭偉栄編『比 較民法学の将来像』 (勁草書房、2020 年)479─505 頁とくに 495 頁以下参照。 143.
(6) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). も送配電事業者に対して接続請求権を有しているからである。わが国の改正前 の再エネ法(旧法)は、接続拒否を正当化する「正当な理由」を広範に認めて いたが、この点と比べると EEG の特徴は際立っている。 (b)優先給電義務 わが国の場合と同様に、ドイツにおいても送配電線が混雑する場合その他法 定の要件を満たした場合には、 出力抑制がなされる (EEG14 条) 。その場合には、 再エネ設備によって生産される電力も出力抑制されることになる。ただし、わ が国と比較した場合、下記の 2 点が特徴的である。 第一に、再エネ発電設備について出力抑制がなされる前提として、火力発電 などの従来型発電設備(konventionelle Energieerzeugungsanlagen)の出力抑 制がまずはなされなければならない。この点はわが国と同様であるが、ドイツ においては、原子力発電所もまた「従来型発電設備」に入れられている。再エ ネを最優先で供給しなければならない義務を送配電事業者は負っているので あって、これを優先給電義務という。 第二に、再エネ発電設備に関して出力抑制がなされた場合には、再エネ事 業者に生じた損失は補償される。すなわち、逸失利益(+関連する経費-節 約された経費)の 95%が補償される(同 15 条 1 項 1 文) 。ちなみに、逸失利 益が年間収益の 1%を上回る場合には、逸失利益が全額(100%)補償される こととなっている(同 15 条 1 項 2 文) 。わが国の場合は同様に再エネの促進が 再エネ法の目的とされながらも、系統混雑や需給調整のために再エネ設備の出 力抑制が必要な場合には補償が原則としてなされないことと極めて対称的であ る 10)。 (c)系統増強義務 10)わが国の状況につき、髙橋・前掲(注 9)487 頁以下参照。具体的には、発電事業者側 が補償を求めないことが契約内容となっていない場合には、電気事業者は特定契約の締 結を拒否することができる(再エネ法施行規則 14 条参照) 。 144.
(7) 風は誰のものか?. 送配電事業者に対してはさらに、送配電線の容量が不足する場合に系統増強 が義務づけられている。すなわち、再エネまたは坑内ガスから生産される電力 の買取り・送電・配電を保全するために必要がある場合において、発電希望 者(=発電事業者)の請求があったときは、系統運用者は、遅滞なく系統増 強の義務を負うことが原則とされている(EEG12 条 1 項) 。増強には、最適化 (Optimierung) 、 強化(Verstärkung) 、 拡張(Ausbau)の三種がある。 「最適化」 とは、工事ではなく機器の技術的操作によって新たな送配電能力を作り出すこ とを指す。 「強化」は、既存送配電線の内部での増強工事を指す(部品の交換 など) 。 「拡張」は、既存送配電線の外側での拡張工事を指す。たとえば、新た な送電線の敷設などが典型である。 なお、系統増強に要する費用は、すべて系統運用者が負担しなければならな い(同 17 条) 。なお、この費用は最終的には需要家に転稼されうる。 (d)優先買取義務 EEG の大きな特色の一つは、送配電事業者は、再エネ発電事業者が発電し た電気をその提供した分についてはすべて買い取らなければならず、その際、 生産費用との差額分 11)を補償として加算して買い取らなければならない、と されたことである(EEG 11 条、19 条) 。再エネ発電事業者から見れば、発電 した電気について固定価格での買取請求権を送配電事業者に対して行使するこ とができる。この買取請求権も前述した優先接続などと同様に「優先買取」と 称されており、他の発電所から生産される従来型の電気よりも優先して買取り を請求することができる(絶対的優先(Absoluter Vorrang) )12)。 以上が EEG における再エネ発電事業者の優遇措置の概要である。これらか ら気づくことは、優遇措置の手厚さである。再エネ発電事業者が電力市場にお 11)もっとも、近年では市場プレミアムや入札制度が導入され、固定価格での買取がなされ る領域は徐々に縮小している。 12)Martin Altrock/Volker Oschmann/Christian Theobald, EEG, 3. Aufl. 2011, Rdn. 36 zu § 2 (Oschmann). 145.
(8) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). いて他の発電事業者と対等に競争しうるようにその法的地位を上記の諸点で指 摘したように非常に手厚く保護している。これらの優遇措置の背後にある重要 な点は、再エネ発電事業者と送配電事業者との間の法律関係を契約関係に委ね ることなく法定債務関係として政令レヴェルまで含めて極めて詳細な規定を設 けている点であろう。これによって、再エネ発電事業者は、送配電事業者との 間での送配電や電力買取に関する各種契約関係を一切媒介することなく、前述 した義務に対応する私法上の各種の請求権を取得・行使することができるよう になる。このことの実際上の意義には極めて大きいものがあると思われる。な ぜならば、再エネ発電事業者は、制度上設置が可能とされる地域であれば、発 電所をどこに設置しても、送配電事業者に対して、接続請求権・買取請求権・ 給電請求権を有し、送配電線の容量が一杯な場合には送配電線の増強を求める 請求権までをも送配電事業者に行使することができるからである。EEG にお いては、再エネ発電事業者に対してはこのような「至れり尽くせり」の対応が 制度上構築されているのである。 このような手厚い優遇措置を設けた理由は、EEG が基本的には規整法的側 面を有することに鑑みれば、電力市場において再エネ発電事業者が他の発電事 業者と対等に競争しうる制度的環境を整備し、事業者間の競争を促すためであ るが、EEG は、もう一つの重要な目的を有していた。それは、電力の生産を、 火力発電や原子力発電などの従来型発電設備から再エネ発電設備にシフトする ことによって、地球温暖化などの各種の気候変動に対処し、放射能汚染も含め た環境汚染を回避するという目標である。すなわち、EEG は、公平な競争環 境の整備そのものを目的とするのではなく、このような公益を実現するための 手段として公平な競争市場を整備したのである 13)。. 13)EEG が、公平な市場の創出を目的とするカルテル法とは異なることを強調するものとし て、Claudio Franzius, Planungsrecht und Reglierungsrecht, ZUR 2018, S. 12 を参照。 146.
(9) 風は誰のものか?. (3)再エネ発電設備に関する立地コントロール―計画法的側面 ところで、上記の優遇措置は EEG の規整法的性格を体現しており、そし て、これが EEG の最大の特色であるのだが、他方で EEG は、再エネ発電設 備の立地をコントロールする手法も備えている。かかる手法は EEG において は、下記に示すように太陽光発電設備のみを対象としているという意味では 限定的ではあるものの、非常に有効な立地規制が設けられており、EEG の計 画法的側面を表しているといえる。本稿では、 「規整法」と対比して「計画法」 (Planungsrecht)という概念が度々出てくるが、これは、 「土地およびその上 下に展開する空間を対象として、一定の手続を踏まえて策定した計画の枠の中 で、土地利用や建築行為を行う各種のアクターを誘導、規整ないし制御する法 制度」を指す 14)。本稿の分析の対象は陸上風力発電設備ではあるが、EEG の この側面を明らかにするために多少触れておきたい 15)。 まず、確認しておくべき点は、太陽光発電設備は元々は家屋の屋根に太陽光 パネルを設置するなど家屋と一体として設置する形態から普及し始めたという 点である。他方で、メガソーラーを典型とする野外における太陽光発電設備の 設置は、規模のメリットはあるものの、周囲の土地利用とりわけ農業や環境・ 景観との調整が問題化しやすいため、野外での設置にはドイツの土地利用計画 法制は基本的には非常に慎重であったといってよい。 これに対して、EEG の 2004 年改正法で固定価格買取制度が一般に普及する ようになって以降、建設しようとしている設備が買取制度の対象となるか否か は発電事業者にとっては非常に重要な問題となる。当たり前のことであるが、 事業者は買取りの対象となるようにその立地を選定していく傾向があるからで ある。この意味で、固定価格買取制度そのものが、以下で述べるように一定の. 14)規整行政と計画行政の興味深い対比につき、板垣・前掲書(注 7)55─56 頁参照。 15)下記については、髙橋・前掲(注 5)第 5 章において詳細に分析・検討した。 147.
(10) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 立地誘導機能を果たしていることになる 16)。この点はわが国で固定価格買取 制度を定めた再エネ法との大きな違いである。わが国の場合には、再エネ法自 体は、買取請求の要件としては立地基準を全く用意しておらず、太陽光発電設 備であれば全国どこに立地しても買い取ってもらえる構造になっている。 第二に、それでは EEG は、立地をどのような方向に誘導しようとしている か。たとえば、2010 年以降、農地上で新規に設置された太陽光発電設備から 生産された電力については買取対象から外している。これは、立法理由書によ れば、 (α)食料・飼料生産のための農地利用を確保すると共に、 (β)自然・ 景観を保護し、 (γ)土地の浪費を抑止するためである 17)。そして、自然・環 境保護や各種の利害との調整の結果、太陽光発電設備の建設に際しては、今 日では、B プラン 18)の策定(通常は B プラン上での「特別地区」としての指 定)が不可欠とされ、しかも、 (α)自動車専用道路や鉄道の沿線内 110 m以 内に建設された設備、 (β)2010 年 1 月 1 日より前までに商業地区または工業 地区として指定されたエリア内に建設された設備、 (γ)経済的または軍事的 利用からの転換用地上に建設された設備、の三つの類型の土地上の設備からの 電力のみが買取りの対象とされたのである。 (α)ないし(γ)までの土地は、 いずれも自然・環境保護や各種の利害との衝突を最小限度にとどめうる土地で あって、買取り対象をこれらの土地上の太陽光発電設備から産出される電力に 限定することによって、太陽光発電設備の立地を一定の方向に誘導しようとし ているのである。 第三に、野外での太陽光発電設備については、B プランの策定を不可欠とす るということは、筆者がこれまでたびたび指摘してきたように、計画策定手続 16)この点を強調するものとして、Margarete von Oppen, Rechtliche Aspekte der Entwicklung von Photovoltaikprojekten, ZUR 2010, S. 296. 17)BT-Drs. (Bundestagsdrucksache) 17/1147, S. 10. 18)B プランについては、第 4 章(2) (a) (i)を参照。 148.
(11) 風は誰のものか?. において市民の意向が十分に斟酌されることを意味する。このことは、計画策 定者である市町村当局にとっては非常に労苦の多い作業となるが、市民の理解 を得ながら計画を策定するためには必要不可欠の作業である。そして、かかる プロセスを経て B プランが策定されることによって、市民側にとっては、計 画の受容可能性が高められることに注意したい。. (4)近年の EEG 批判 このような EEG における再エネ発電事業者に対する手厚い優遇措置は、再 エネ発電の総電力供給量における比率を高めていったが、近年になって、とり わけ一部の法学者から批判が出され始めている。その批判の矛先は下記の 3 点 に向けられている。 第一に、EEG は、再エネ発電事業者に対する優遇措置を設けているが、こ のことは、再エネ発電事業者に電気を作りたいだけ作らせてその全量を固定 価格で買い取らせることを可能とすることを意味する。換言すれば、EEG は、 再エネ生産に関しては発電事業者の全くの任意に委ねているのであって、再エ ネ発電事業者の自由かつ任意の市場参加を内容とした制度である。これでは、 国全体としての電気エネルギーの産出・供給量を予め把握することができず、 国民への電気エネルギー供給の安定的確保が担保されない。したがって、エネ ルギーの生産構造に対して一定の計画的コントロールを及ぼす規定(たとえば、 生産発展計画(Erzeugungsentwicklungsplan)の策定など)を EEG の中に導 入すべきである 19)。 19)Georg Hermes, Planungsrechtliche Sicherung einer Energiebedarfsplanung ─ ein Reformvorschlag, ZUR 2014, S. 259ff. もっとも、前注 11 で記した通り、近年は変化の 兆しがある。とくに 2017 年の EEG 改正において入札制度が導入された際に、低額での 入札者から順に一定の容量に達するまで各々の落札価格(=入札価格)で買い取ること にした(同 28 条以下) 。これによって、買取りの対象となる電力量は一定の枠内に抑制 されることとなった。もっとも、 (イ)市民発電所(たとえば、太陽光や陸上風力発電 149.
(12) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 第二に、再エネ生産が再エネ発電事業者の自由かつ任意の意思に基づいての み行われているという事実は、送配電線との関係でも重大な影響を生じさせる。 すなわち、EEG は、前述したように再エネ発電事業者との関係で、送配電線 事業者に対して接続義務や系統増強義務を課しているのであるが、再エネ発電 事業者の自由かつ任意な設備建設が許されるとするならば、この接続義務や系 統増強義務の履行は、自ずと後追い的にならざるを得ない。換言すれば、送配 電事業者は、どこで建設されるかわからない再エネ設備に関して、これらの義 務を果たさなければならないので、予め送配電線の整備・敷設計画を立てるこ とが困難となるし、他方で既設の送配電線から遠方に位置して建設された再エ ネ設備に関しても接続・系統増強義務を負うことになるため、コストの点でも 送配電事業者ひいては需要家の負担は増す 20)。 第三に、上記の諸点とも関わるが、再エネ設備の立地が計画的に行われてい るか、という疑問が提起されている。たとえば、ブレーメン大学のフランチウ ス(Franzius)によれば、風力発電設備(とりわけ陸上風力発電設備)の場合、 計画法上指定された優先地区や集中地区においては、発電事業者は発電設備を 自由に建設することができ、事業者は、地域住民との間で深刻な対立を引き起 こしている、と指摘している 21)。このことは、彼によると、EEG が再エネ発 電設備の建設を放任してきた一つの結果であると批判する。. 設備の場合には定格出力 750kW 以下と、決して小規模のものではない)の発電した電 力は引き続き固定価格での買取対象となるし、 (ロ)技術革新に伴う物財費の低下によっ て、そもそも固定価格での買取を必要としない発電事業者が増えつつあり、買取政策を 通じた電力量の抑制には一定の限界があるものと思われる。 20)Franzius, a.a.O. (Anm. 13), S. 11ff. 21)Franzius, a.a.O. (Anm. 13), S. 11─12. ちなみに、後述する集中地区や優先地区の指定に 際しては、送配電線の敷設状況は基本的には考慮されない (Franzius, a.a.O. (Anm. 13), S. 13) 。 150.
(13) 風は誰のものか?. (5)検討 近年の一部の法学者による上記の批判については、本稿での前述の記述や筆 者がこれまで研究してきた点にも関わっており、多少のコメントをしておかな ければならない。 第一に、 (4)の第一および第二の点に関しては、首肯しうる点は確かにある。 再エネ発電に関しては再エネ生産が生産者の自由に委ねられており、それであ るが故に送配電線の敷設が後追い的になっており、送配電事業者や最終消費者 の負担が増加している旨の指摘は誤りではない。EEG がこのような生産構造 をそのままにしているのは、先ずは再エネ発電事業者に対して他の発電事業者 と対等な地位を与え公平な競争市場を創出するという規整法の目的を達成する ためではある。しかし、前述したように、規整法には単に公平な競争を促す という目的のみならず、一定の社会的ないし公益的目的を実現することをもそ の機能の中に含めるのが近年の学説の理解の仕方である 22)。第一点の主張は、 エネルギー供給の安定性の確保という公益目的に資するものであるし、第二点 の主張は、送配電線敷設費用の過度な増加を防ぐことによって国民を不必要か つ過度な費用負担から軽減する、という公益目的に資するものである。各々の 論者も EEG の規整法としての性格を論じる中で上記の批判を行っている。す なわち、第一点、第二点いずれも公平な競争市場の創出に際して、国民の生存 配慮に関わる公益目的の実現をも主張しているのであって、近年の規整法の守 備範囲の中の問題として論じているのである。 第二に、 (4)の第三点に関してである。この指摘は、EEG の計画法的側面 についての批判である。前述したように、EEG は、太陽光発電設備に関して は、有効な立地誘導を行っていると評することができるが、陸上風力発電設 備に関しては指摘されている問題についてはなお解決されていないと筆者も 22)た と え ば、Oliver Lepzius, Verfassungsrechtlicher Rahmen der Regulierung, in: Michael Fehling/Matthias Ruffert (Hrsg.), Regulierungsrecht, 2010, Rdn. 2ff. zu §4. 151.
(14) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 考える。すなわち、優先地区・集中地区の制度は、広域地方計画や F プラン レベルでの指定に留まるため、どうしても規制の目が粗くなってしまう(4 (2)で後述する) 。そのため、多くの地域では、優先地区・集中地区内では目 の粗い規制しかできないため、風力発電設備が濫立する「アスパラガス化」 (Verspargelung)23)と称される事態が生じ、地域によっては住民の生活環境を 脅かす事態に至っているのである 24)。それでは、そのような事態に対処する ためには、どうすればよいのか。一方では、EEG 自体の中に新たな立地規制 を設けることが考えられ、他方では、EEG の外側で立地規制をすることが考 えられる。この点は、ドイツの土地利用計画法制の根幹に関わる問題であるの で、ここではこれ以上深入りせず、第 4 章で改めて検討したい。. 3.送配電網の整備・増強―エネルギー経済法と送電網整備迅速化法- (1)はじめに 次に、再エネ法制の中の送配電線の整備法制について取り上げる。生産され た再エネは、各地のエネルギー需要を満たすために、送配電線を通じて地域や 地方さらには全国に送り届けられる必要がある。その意味で、送配電網の整備 は、再エネ法制にとって決定的に重要な意味を持つ。送配電網の整備にとって 各国に共通する不可欠な要素は、 (イ)送配電網の整備計画の策定、 および(ロ) 計画に則した送配電網の敷設、であろう。この意味で、送配電網の整備は、計 画法が適用される領域の典型的な場面の一つである。 実際、ドイツでは、再エネ発電を計画法の観点から眺めた場合、計画法的整 備の進展が最もめざましい領域は、送配電網の整備であろう。もっとも、ドイ ツにおいても従来は送配電網の整備は必ずしも計画的に行われてきたとは言え. 23)風力発電設備の建設をアスパラガスの成長に譬えた言葉である。 24)以上の点の詳細については、髙橋・前掲(注 5)第 7 章および第 8 章参照。 152.
(15) 風は誰のものか?. ない。インフラ設備の中でもとくに高速道路網に関しては、連邦遠距離道路法 によって従前から計画的整備がなされていたが、インフラ設備の同じく代表例 である送配電網については、2001 年になって初めてエネルギー経済法 25)の中 に、高圧送電線の敷設に際して計画確定手続(後述)によることができる旨が 定められたに過ぎなかった(11a 条以下) 。 このような状況は 2000 年代以降大きく変化し始める。とりわけ北海・バルト 海の洋上風力発電や各地の太陽光・風力・バイオマス発電などから生産される再 生可能エネルギーの拡大に伴って、生産された電力を他の地域にも融通するべく 送配電網の計画的整備の必要性が強く認識されるようになったからである 26)。 そこで、連邦政府は、送配電網の整備を事業者の判断に委ねていた従来の姿 勢を転換して、政府の積極的な関与(計画的手法と規整的手法)を通じて、送 配電網の整備を実施することにした。そこでは送配電網の整備主体が事業者で あることには変わりはないが、事業者と公的機関とが協力し、 「計画を通じた 共同管理」 (Planungskondominium)によって送配電網を整備していくことと したのである 27)。 その法制度の展開と内容はかなり複雑であるが、以下、基本的内容を見てい くこととする。. 25)エネルギー経済法は、再エネに限らず電気一般、さらにはガスの供給網についても詳細 な規定を設けている。 26)2010 年 9 月 28 日の閣議決定「環境に優しく、信頼できかつ売却しうるエネルギー供給 のためのエネルギーコンセプト」 (Beschluss des Bundeskabinetts vom 28. September 2010, Energiekonzept für eine umweltschonende, zuverlässige und bezahlbare Energieversorgung)18 頁以下参照。そこではとりわけ、ドイツ北部で生産された電力 を南部に送る送電線(Stromautobahn)の建設の必要性が説かれている。 27)Martin Kment (Hrsg.), Energiewirtschaftsgesetz, 2015, Rn. 2ff. zu §12a (Posser). 153.
(16) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). (2)送配電網の整備・増強に関する法制度の概要 28) (a)エネルギー経済法 中心的法律としては、2011 年のエネルギー経済法(Energiewirtschaftsgesetz. 以下、“EnWG” と称することもある)改正法 29)が重要である。本改正は、福 島での原子力発電所の事故に起因するドイツの脱原発政策を法制度上具体化す る意味をも持っており、送配電網(とりわけ送電網)について連邦レヴェルで 初めて計画的整備を本格的に制度化したという点で画期的な意義を有する。そ の内容は下記の通りである。 (i)送電網の計画的整備 下記の 3 つの段階を経て、送電網計画が策定される。 ①市場動向予測(EnWG 12a 条) (イ)国内に 4 つある送電系統運用者(Betreiber von Übertragungsnetzen) が、共同で 2 年毎に、10 ~ 20 年を見越して需要を予測した市場動向 予測(Szenariorahmen)案を作成する。 (ロ)送電系統運用者は、市場動向予測案を規制官庁である連邦ネットワー ク庁(Bundesnetzagentur、 以下、“BNA” と称する)に提出し、 その後、 BNA がインターネットで案を公開し、意見表明の機会を付与する。 (ハ)BNA は、公衆参加(Öffentlichkeitsbeteiligung)の結果をも考慮し、 市場動向予測として認可する。 ②送電網発展計画(同 12b 条、12c 条、12d 条) (イ)送電系統運用者は、市場動向予測を踏まえて、共同で毎年、今後 10 年間で必要とされる送電網の適正化、強化、拡張のための全ての措 28)下記については、 髙橋寿一 「送配電線をめぐる法制度に関する俯瞰的考察」 『専修法学論集』 138 号(2020 年)143 頁以下において、より詳細に紹介・検討している。 29)BGBl. I S. 1690. なお、邦文では山本紗知「ドイツの新たな送電線整備法制と計画手法」 『静岡文化芸術大学研究紀要』 (2016 年)17 号 47 頁以下に詳細な紹介・分析がある。 154.
(17) 風は誰のものか?. 置を含んだ送電網発展計画(Netzentwicklungsplan)案を作成する。 (ロ)送電系統運用者 は、送電網発展計画案 を イ ン ターネット で 公開 し、 公的諸機関や公衆に対して意見表明の機会を付与する。 (ホ)送電系統運用者は、提出された意見に対する衡量の結果を添付して、 送電網発展計画案を BNA に提出する。 (ヘ)BNA は、提出された案につき環境影響評価法に基づいて環境報告書 を作成し、公的諸機関や公衆の参加手続を実施する。 (ト)BNA は、 (ヘ)の参加手続の結果を衡量した上で、送電網発展計画 として承認(Bestätigung)する。なお、承認された送電網発展計画 は争訟の対象とはならない。 ③連邦需要計画(同 12e 条) (イ)BNA は、送電網発展計画を基に、連邦需要計画(Bundesbedarfsplan) 案を作成する。そこでは、 (イ)州や国境を越える超高圧送電線、お よび(ロ)洋上風力発電設備の変電所から陸上にある送電網接続地 点までの接続送電線(Anbindungsleitungen)については記号を付し て明示し、理由書も添付しなければならない。 (ロ)BNA は、連邦需要計画案を少なくとも 3 年毎に連邦政府に提出し、 連邦政府は少なくとも 3 年毎に立法機関に提出する。 (ハ)立法機関 が 連邦需要計画 を 連邦需要計画法(Bundesbedarfsgesetz) として公布する。これによって、本法に定められている事業のエネ ルギー経済上の必要性と緊急性が確定する。この確定は送電系統運 用者に対して拘束力を有すると共に、引き続いて実施される計画確 定手続に対しても拘束力(verbindlich)を有する。 (ii)計画確定手続 送電線(110kV 以上の高圧架空送電線、洋上風力発電設備の送電網への接続 のために沿岸部では海底ケーブル・陸上では架空送電線または地中ケーブルと して敷設される高圧送電線、国境を越える直流高圧送電線など)については、 155.
(18) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 計画確定手続(Planfeststellungsverfahren)に服させることとした(EnWG 43 条 1 項)30)。計画確定手続は、関係する許認可を一つの手続ですべて行ってしまう ことにより、当該事業計画の実現可能性を高め、計画の迅速な実現を図ろうと する点に大きな特徴があるが、他方で、関係機関ないし市民参加の機会が保障 されており、かつ、あらゆる公益および私益が衡量の枠内で包括的に考慮され ることも注目すべき点である。計画確定手続は、連邦遠距離道路法、一般鉄道 法等の各個別の法律の中で規定が置かれているが、行政手続法の中にも第 5 部 「特別手続」の第 2 章として計画確定手続が規定されている(行政手続法 72 条 ないし 78 条) 。以下、計画確定手続を設ける各法律に共通する内容を一般的に 説明しておこう 31)。 ①内容 制度の概要を大雑把に述べれば、 「基本計画(ここでは連邦需要計画)に基づ く事業案の提出→事業主体による計画確定手続申請→聴聞行政庁による関係行 政機関の意見聴取→事業計画案等の縦覧→異議申出→聴聞期日の指定→聴聞(口 頭審理)→聴聞行政庁の意見提出→計画確定庁(Planfeststellungsbehörde. ここ では州の行政庁であり州法により定められる)による計画確定裁決→工事開始」 という流れになっている。計画確定裁決が出されると次の効果が発生する。 ②効力 第一は、事業計画案の許容性の最終的確定ないし宣言である。 30)高圧送電線に計画確定手続を適用することは、本文で前述したように、2001 年のエネル ギー経済法改正法ですでに実現していた。この改正の経緯については、山田洋『道路環 境の計画法理論』 (信山社、2004 年)203 頁以下に詳細な分析がある。 31)そ の 概要 に つ き、近年 の も の で は、た と え ば、Martin Ibler, Die Planfeststellung ─ Zukunfts- oder Auslaufmodell für die Planung von Höchstspannungs-Stromleitungen in Deutschland ? Manuskript, 2019, S. 6ff. がある。なお、本稿にはすでに和訳がある(山本 紗知(訳)/ 山田洋(監訳) 「計画確定─ドイツにおける超高圧送電線計画の将来モデル あるいは旧式モデル」 『独協法学』109 号(2019 年)339─370 頁) 。 156.
(19) 風は誰のものか?. 第二は、集中的効力(ないし代替的効力)である。つまり、関係行政庁が当 該事業計画について行うべきすべての公法上の許認可等の処分は、手続の中で 関係行政機関の意見として提出され処理される関係上、すべて計画確定裁決に 吸収され、裁決があれば他の一切の許認可等は必要でないとされる。いわゆる 集中効である。 第三は、権利形成的効力である。すなわち、計画確定裁決がなされると事業 者と利害関係者との間の全ての公法上の関係が確定される。 第四は、排除効が付与されていることである。すなわち、計画確定裁決の抗 告可能性が消滅した後は、事業の差止め、施設の除去・変更・利用差止めの請 求は原則として認められない。 (b)送電網整備迅速化法 (i)趣旨 送電網整備迅速化法(Netzausbaubeschleunigungsgesetz Übertragungsnetz (以下、“NABEG” と称する)vom 28. Juli 2011)32)と称する本法は、連邦需要計 画で整備することが定められた送電線の内とりわけ(α)州や国境を越える超 高圧送電線、および(β)洋上風力発電設備の変電所から陸上にある送電網接 続地点までの接続送電線の新設および変更についてのみ適用される(NABEG 2 条 1 項) 。これらの送電線の増設は、北海やバルト海の洋上風力発電設備に よって生産された電力をドイツ南部に送電するために不可欠なものであって、 エネルギー転換(Energiewende)を遂行する上で、 とりわけ高い(überragend) 公益的理由を有することから必要であるとされる(同 1 条) 。 本法の趣旨は、これらの送電線は、景観侵害や電磁波問題などでとりわけ地 域住民の批判・反発を招き、建設までに多くの時間やコストがかかっている状 況を踏まえて、増設計画に対する市民の理解を深め、手続に要する時間を短縮. 32)BGBl. I S. 1690. 157.
(20) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). しようとすることにある 33)。立法理由書によると、従来平均 10 年かかってい た手続が本法によって 4 ~ 5 年に短縮されるとされている 34)。なお、本法は、 エネルギー経済法の特別法として位置づけられる。 (ii)連邦個別計画 さて、 本法では、 上記の送電線の増設のために連邦個別計画(Bundesfachplan) を策定して、その計画の実現のために計画確定手続を用意している。まず、連 邦個別計画については、下記のような内容・手続が定められている。 ①連邦需要計画の段階では、送電線の始点と終点のみが示されていたが、連 邦個別計画では、BNA が、始点と終点を結ぶ線がある一定の幅を持った予定 路線(Trassenkorridor)を定める(NABEG 5 条) 。この段階での予定路線は 500 ~ 1,000m の大きな幅を持つ。 ② BNA は、予定路線における送電線の事業案の実現が主たる公益や私益に 反しないこと、国土整備法上の指定( 「目標」や「原則」など 35))と整合して いることなどの点を審査する(同 5 条) 。 ③連邦個別計画の策定は、事業者の申立てによって開始する。事業者が申し 立てないときは、BNA は、一定の期間内に申立てを行うように事業者を促す ことができる(同 6 条) 。 ④事業者の申立ては、代替案を含んでいなければならない(同 6 条) 。 ⑤ BNA は、 事 業 者 の 申立 て が あった 場合 に は、 遅 滞 な く 申 請 会 議 (Antragskonferenz)を開催する(同 7 条) 。申請会議では、路線選定に向けた. 33)本文上記(β)の洋上風力発電関係の接続送電線については、本法によって洋上風力 発電設備に関する投資への信頼度を高めることがとりわけ重要とされる。Vgl. BT-Drs. 17/6037, S. 2. 34)BT-Drs. 17/6037, S. 22. 35) 「目標」と「原則」に つ い て は、髙橋寿一『農地転用論』 (東京大学出版会、2001 年) 101 頁参照。 158.
(21) 風は誰のものか?. 調査枠組み(Untersuchungsrahmen)が確定されるが、その確定過程におい て必要な資料が提出されると、BNA は、他の官庁や公共機関に対して意見表 明を促し、その資料を公衆にも公開する。なお、BNA は、環境影響評価法に 基づき環境審査を行う(同 9 条)36)。 ⑥ BNA は、上記の意見表明において提起された異議について、事業者およ び異議を提起した者と口頭審理(Erörterung)を行う(同 10 条) 。 ⑦ BNA は、事業者が資料を完全に提出した後 6 か月以内に、連邦個別計画 を最終決定する。最終決定には、予定路線の経路(Verlauf) 、環境影響評価法 に基づく環境影響に関する評価および包括的説明、代替案の審査結果などが含 まれる(同 12 条) 。 ⑧上記の最終決定は、後に引き続いて実施される計画確定手続にとって拘束 力(verbindlich)を有する(同 15 条) 。 (iii)計画確定手続 上記の手続を経て策定された連邦個別計画は、計画確定手続に付され、予定 路線が具体的に決定される。手続の概要は、本法に特別の定めがない限り、先 に述べたエネルギー経済法において定められた手続が基本的には適用される (NABEG 18 条 3 項) 。したがって、全体として下記の通りとなる。 ①手続は、事業者による申立て(同 19 条)により開始する。申立ては予定 路線の一部区間でもよいが(同 18 条) 、具体的な立地地点が示される。連邦個 別計画策定に伴う法的拘束力があるので(上記(ii)⑧参照) 、たとえば予定路 線の外側での立地選定は許されない。 ②計画確定庁は、申請会議(Antragskonferenz)を開催する。申請会議では、 路線選定に向けた調査枠組み(Untersuchungsrahmen)が確定されるが、そ の過程においては、必要な資料が提出されると BNA は、他の官庁や公共機関. 36)いわゆる戦略的環境審査(Strategische Umweltprüfung)の段階での手続である。 159.
(22) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). に対して意見表明を促し、公衆にも公開される(同 20 条) 。ただし、この段階 では、公衆は意見表明権を持たない 37)。また、この段階でも環境影響評価手 続が実施される 38)。 ③事業者は、聴聞手続の実施のために、申請会議の結果を基に計画を作成し て計画確定庁に提出する(同 21 条) 。 ④計画確定庁は、事業者によるすべての資料の提出後 1 か月以内に審査を行 う(同 21 条) 。 ⑤その過程で、聴聞手続が実施される。そこでは、公共機関が意見を表明す ることができるが、連邦個別計画策定の際に出された意見は審理の対象とはな らない(同 22 条) 。 ⑥公衆参加については、当該事業によって利益を害された者は、縦覧期間経 過後 2 週間以内に異議を申し立てることができ、口頭審理も実施される(同 22 条) 。 ⑦計画確定庁は、計画の確定裁決を行う(同 24 条) 。その際、前述した(ii) ⑧で示した通り、計画確定庁の判断は、連邦個別計画の最終決定に拘束される。 なお、計画確定裁決に対しては、取消訴訟を提起することができる。 送電網に関する計画法制は、以上のように複雑な構造を有するものとなって いる。この背景としては、EU との関係や福島原発事故を契機として脱原発に 政策を転換したドイツ政府が、再エネの急速な拡大を目的として EEG で再エ ネ発電事業を促進したことに伴い送電網レヴェルでも制度的対応をする必要に 迫られたという事情がある。EnWG と NABEG の双方の法制度によって、送 配電網の整備は体系的、複層的かつ多段階的な計画法体系として整備されるに 至った。しかも、 計画の各段階ごとに詳細な規定が設けられており、 両者によっ てドイツの送配電網に関しては計画的対応が一先ずは整備されたということが 37)Alexander Schink/Andrea Versteyl/Martin Dippel, NABEG, 2015, Rd, 2 zu §20 (Kümper). 38)ただし、連邦個別計画の段階でのそれとは重複しないように配慮される。 160.
(23) 風は誰のものか?. できる。. (3)近年の EnWG・NABEG 批判 2011 年の EnWG 改正以降送電網の整備に関する計画法制が急速に展開され たが、このような動向については、計画法の研究者の一部からは、近年批判の 声が上がっている。 第一に、第 2 章で述べたように、系統増強費用については系統運用者(送配 電事業者)が負担しなければならず、再エネ発電事業者は、送配電線関係につ いては接続費用のみを負担すればよいことになっている(EEG17 条など) 。し かし、これでは、再エネ発電事業者は系統増強費用を全く負担しないため送配 電網の費用負担には無関心となり、風況の良さのみを基準として立地を選定し ていくこととなる。もし、再エネ発電事業者にも系統増強費用の一部を負担さ せることできれば、彼らは立地選定の際に周囲の送配電網の整備状況にも関心 を払わざるを得ず、送配電網の整備状況が良好な土地での立地を志向するよう になる 39)。このようにすることで、必要な系統増強費用を 50% も削減できる とする研究もあり 40)、送配電網の計画的整備と裏腹の問題として再エネ発電 事業者による費用負担の必要性が説かれている。 第二に、法制度の整備が急であったが故に、個々の論点について必ずしも学 者の十分な議論を踏まえていないものもある。たとえば、NABEG の連邦個別 計画と後続の計画確定手続との関係や連邦個別計画と国土整備法制との関係な ど、条文のみでは必ずしも明確な解釈を導き出すことができない問題がいくつ もある。このような意味での EnWG・NABEG に関する批判は各所でなされて 39)Franzius, a.a.O. (Anm.13), S. 12-13; Raphael Korbmacher, Wind ist ganz anders ! ZUR 2018, S. 280─281. 40)Sondergutachten der Monopolkommission, Energie 2017: Gezielt vorgehen, Stückwerk vermeiden, 2017, Rn. 314. 161.
(24) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). いる 41)。 第三に、送配電網について法制度の全体的な設計の仕方に対する批判である。 たとえば、イプラー(Ibler)は、送電線計画法制における計画確定手続の位 置づけ方に対して疑問を呈している。すなわち、計画確定手続は、従来は、形 成効・集中効・排除効などの強力な法的効果を伴いながらインフラ設備等の公 共施設の計画策定を迅速化することを目的として制度化されたが、送電線計画 法制の上述の法構造においては、前述したように、計画の実現にまで至るプロ セスは多段階化・分節化し、各段階で独自の市民参加手続や環境影響評価手続 が組み込まれている。その結果、計画確定は、各計画段階の最後に登場するに とどまり、実質的には単なる詳細計画ないし実施計画の機能を担っているに過 ぎない。すなわち、計画確定手続の計画法における比重が相対的に低下・縮小 してしまったのである。このような計画法制では、計画の策定ないし実現が遅 滞するのは当然である 42)。むしろ、今後の計画法制としては、計画確定手続 が当初有していた各種の性質を復活させ(たとえば、 実体的集中効の復活など) 、 複雑化しすぎた手続をより簡潔なものに再編成することが必要である。たとえ ば、イプラーは、市民参加手続や環境影響評価手続などは、部分的に過剰であ り、手続が見通しにくいものとなってしまっていると指摘している 43)。. (4)検討 上記の点も含めて、多少コメントしておきたい。 第一に、本稿では送配電網整備に関する計画法の側面を検討してきたが、 EnWG は計画法としての側面のみを有するわけではないことには注意したい。 本法では、電力自由化に伴い、電力市場での公平な競争条件を実現し確保する 41)重要な論点の学説の状況については、山本・前掲(注 29)50 頁以下参照。 42)Ibler, a.a.O. (Anm. 31), S. 10─11(山本 / 山田訳・前掲(注 31)353─354 頁) . 43)Ibler, a.a.O. (Anm. 31), S. 20(山本 / 山田訳・前掲(注 31)367 頁) . 162.
(25) 風は誰のものか?. ための各種の規整(たとえば、優先接続義務(EnWG 17 条)や系統増強義務 (同 11 条) 、送配電線の供用義務(同 20 条)が設けられている。この意味では EnWG は規整法的側面も明らかに包含している。ただし、 この側面については、 EEG が EnWG の特別法にあたるため、本稿では、EnWG の計画法的側面にの み分析の焦点を絞った。 第二に、計画法的側面については、計画の各段階で詳細な参加手続が用意さ れていることが目を引く。たとえば、州や国境を越える超高圧送電線および洋 上風力発電設備の変電所から陸上にある送電網接続地点までの接続送電線の新 設および変更については、前述した通り、EnWG と NABEG が適用される結果、 市民参加の機会は下記の通り合計 7 回にも達する(括弧内は市民参加の回数)44)。 (イ)市場動向予測(計 1 回)→(ロ)送電網発展計画(案の決定前と後 で計 2 回)→(ハ)連邦個別計画(申請会議とその後の参加手続で計 2 回) →(ニ)計画確定手続(申請会議とその後の参加手続で計 2 回) 計画がより具体化され、即地的になればなる程─すなわち(ニ)で行われる 計画確定裁決に近づけば近づく程─、実際上は市民の意見が反映されにくくな る。換言すれば、 (イ)~(ハ)の段階では、市民が意見や異議を提出するこ とによってそれが計画に反映される可能性は高くなる。このことは、計画に関 する司法審査の機会が、策定手続の最後の段階に位置する計画確定裁決までな いことと裏腹の関係に立っているということができよう。 第三に、以上のような計画策定手続を「計画策定の迅速化」という観点から 見た場合にはどうか。NABEG については、前述のように計画策定手続の迅速 化が目的とされていたが、EnWG と NABEG を併せると、市場動向予測から 始まり計画確定裁決に至るまでにいくつもの計画プロセスがあり、その各段階 で利害関係者の参加手続や環境影響評価手続が積み重なっている。かかる複層. 44)Kment, a.a.O. (Anm. 27), Rn. 11. zu §12a (Posser). 163.
(26) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 的な計画プロセスでは、計画策定手続の透明性を確保し、地域住民の間で計画 に関する受容可能性を高めるという目標は一定程度達成されるとしても、これ で迅速性が担保されるか否かについてはドイツでも議論があり、2022 年の完 成を目指す南北間の 2 基の超高圧送電線の建設を危ぶむ声も強い 45)。. 4.土地利用計画法制 (1)はじめに 最後に、上記の二つのいずれの節でも問題とされていた土地利用計画法制の 問題について検討しよう。第 1 章で述べたように、2017 年 12 月の『環境法雑 誌』では、 「風は誰のものか?」と題する特集記事を組み、興味深い多くの論 稿が寄せられた。そこでの各論稿の共通の問題意識の一つは、 〈ドイツ政府が 進めてきた「エネルギー転換」 (Energiewende)は、地域住民の再エネ設備建 設反対によって頓挫する例が近年目立っており、このままでは「エネルギー転 換」の達成が危ぶまれる、この隘路をいかにして打開するか〉というものであ る。再エネ設備とりわけ陸上風力発電設備建設に際して地域住民がその受容を 拒否している理由は、一つには、設備稼働に伴って生じる騒音、ブレード(羽 根)の影、景観侵害などの地域環境への悪影響が予想される点であるが、今一 つの理由として、再エネ発電事業者や土地所有者は、設備建設・運営によって 巨額の利益を得ることができるにもかかわらず、地域住民はその恩恵に与れな いどころか、場合によっては自分たちの土地の価値(土地価格)が減少してし まう、という不公平感が挙げられている 46)。 後者について多少敷衍しよう。再エネ発電に要した費用は、最終的には、 45)クメントやイブラーは懐疑的である。Kment, a. a. O. (Anm. 27), Rn. 11. zu §12a (Posser); Ibler, a. a. O. (Anm. 31), S. 18(山本 / 山田訳・前掲(注 31)364 頁) . 46)Michael Rodi, Das Recht der Windkraftnutzung zu Lande unter Reformdruck, ZUR 2017, S. 658. 164.
(27) 風は誰のものか?. (徐々に縮小してきたが)固定価格買取制度によって需要家に転嫁される。す なわち、費用は結局国民・市民が負担し、建設に伴い生じる地域環境への影響 については地域住民が受忍しなければならないにもかかわらず、そこから生じ る利益は特定の個人・法人に独占されてしまうという不合理・不公平である。 これが住民の受容可能性を減殺しているのだとすれば、設備建設と地域住民の 受容という双方の課題を両立させるためには、特定の個人・法人に独占されて いる再エネ発電設備から生まれる利益の一部を公的機関が徴収して、これを地 域住民に配分したり設備建設に伴い必要となる各種の整備費用に充当すること が一つの方策として考えられる 47)。 上記『環境法雑誌』においては、上記の 2 つの問題を解決するためにはいか なる土地利用計画法制を設計することが適切かという観点から、何人かの論者 が各々の専門分野に引き寄せながら考察を加えている。まず、現行法制の内容 を見てみよう。. (2)現行法制の内容 (a)土地利用計画法制 (i)概要 48) ド イ ツ で は、F プ ラ ン や B プ ラ ン な ど の 都市・土地利用計画 が 著名 で あるが、これらの計画の最上位に位置するのが国土整備計画である。国土 整備計画は連邦レヴェルのそれと州レヴェルのそれとがあるが、実質的に 重要なものは州レヴェルでの国土整備計画である。州レヴェルでの国土整 備計画 は 州国土整備計画(Landesraumordnungsplan)な い し 州発展計画 (Landesentwicklungsplan)を頂点として、各行政管区や地方組合毎に広域地 方計画(Regionalplan)が策定される。そして、この下に位置するのが市町村 47)Jelena Bäumler, Wem gehört der Wind ? ZUR 2017, S. 667. 48)以下の記述については、髙橋・前掲(注 5)147、151、 188 頁などを参照。 165.
(28) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). が策定する建設管理計画(Bauleitplan(以下、BL プランと称する) .これは市 町村全域を対象とする F プラン(Flächennutzungsplan)と主として街区を単 位として策定される B プラン(Bebauungsplan)から成る)である。国土整備 計画を頂点とし市町村の B プランに至る計画は、それぞれの計画主体が管轄 区域全域にわたってあらゆる土地利用の諸要請を比較衡量しながら策定してい くので、総合計画(Gesamtplan)と称されている。 これに対して、道路や鉄道、送電網等の各種のインフラ整備などを目的とし て、当該施設の建設・整備のための計画も策定される。この系列の計画は上記 の総合計画に対して部門計画(Fachplan)と称される。部門計画ももとより国 土整備計画の中に位置づけられるが、特定の施設等の建設のみを対象とする点 で総合計画とは別の系列に属する。部門計画については、州が主体となる場合 が多く、また、その実施のための法律が個別に制定される。たとえば、連邦遠 距離道路法、一般鉄道法、エネルギー経済法、連邦イミッシオン保護法等であ る。これらの個別の法律によって施設建設の可否が判断されていくのであるが、 その許容性の判断手法は、大きく分けると、 (イ)計画に基づく比較衡量手続 を通じて行う法制度と、 (ロ)許可手続を通じて行う法制度とがある。 (イ)は 計画策定権者が各種の利害を総合的に衡量して当該施設建設の適否を判断して いくのであるが(計画裁量) 、 (ロ)は法律に掲げる要件の充足性の有無が問わ れる。なお、 (イ)は計画確定手続を伴うものが多い。 (ii)陸上風力発電設備の建設 風力発電設備を建設するには、建設法典の計画法上の諸基準を遵守していな ければならない。ドイツでは、既成市街地や新規の市街地の外側の地域を「外 部地域」 (Außenbereich)と称しているが、通常の風力発電設備はこの外部地 域に建設されるため、建設法典 35 条の定める諸基準を遵守しなければ、州建 築法上の建築許可を得ることができない。この場合の建築許可は、当該建築 案が、公益を侵害しない場合等に例外的に出されるに過ぎず、実際に許可を 得るのは非常に厳しい(同条 2 項) 。ただし、1 項各号の定める特例建築計画 166.
(29) 風は誰のものか?. (privilegiertes Vorhaben)に該当する場合には公益への適合性要件の審査が緩 和され、建築許可を得るのが容易になる。特例建築計画としては、①農林業経 営関係施設、②造園経営関係施設、③地域に結合している電気、ガス、通信、 暖気、水、排水、商業の関係施設、④ごみ処理場等の迷惑施設、⑤核エネルギー 研究や放射性廃棄物処理施設など、従来から限られたものしか認められておら ず(35 条 1 項)49)、風力発電設備は、それ単独としては特例建築計画には含ま れていなかったが、1996 年に建設法典が改正され、特例建築計画の一つとし て位置づけられた。この改正によって、風力発電設備(水力発電設備について も同様)については、建設法典上原則として公益と対立しないこととなり、建 設法典との関係においては建設が従来よりもはるかに容易となった。 (iii)指定区域外での建築禁止 1996 年の改正法で注目すべき点は、下記の点にもある。すなわち、風力発 電設備の建設を特例建築物として認めるとしても、この改正だけでは、外部地 域に不規則的に風力発電設備が散在して建つことになってしまう。このこと は、風力発電設備のバラ建ちやスプロール化を生じさせることになり、外部地 域を保全する点で問題が大きい 50)。そこで、連邦政府は、このような国土整備、 土地利用計画ないし都市計画の観点から、風力発電設備を特例建築計画に加え る一方で、次のような規定を 35 条 3 項 3 文として新たに規定した。 4 4 4 4 4. 「第 1 項 2 号ないし 6 号に基づく建築案(特例建築計画を指す(筆者注) )は、F プランの 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4. 指定または国土整備の目標として他の場所でこれについて指定がなされている場合には、原 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4. 」 則として、公益と対立するものとする。. この規定は少々わかりにくいが、F プラン (具体的には 「特別地区」または 「集 49)建設法典 35 条については、以前立法経過も含めて詳細に検討した。高橋・前掲(注 35) 第 3 章参照。 50)法案理由書では、特例建築計画の規定のみによる処理だと、スプロールの発生の他にも、 適切な立地選定ができないことや自然・景観保護に反する場合があること、などの理由 が挙げられている。Vgl. BT-Drs. 13/2208, S. 5. 167.
(30) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 中地区」 (以下、 「集中地区」と称する)としての指定)または国土整備の目標 (具体的には(広域)地方計画上の「優先地区」 (厳密には適性地区の効果を伴っ た優先地区)または「適性地区」 (以下、両者を併せて「優先地区」と称する) としての指定)において風力発電設備が位置づけられている場合には、優先地 区や集中地区の外側での風力発電設備の建築案は公益に対立するものとして許 可を与えない旨が定められた 51)。この規定によって、F プランや国土整備計画 (州発展計画、 (広域)地方計画等)で風力発電設備の建設予定地区がどこかで 指定されれば、それ以外の地域での風力発電設備の建築案は公益に対立するも のとしてもはや特例建築計画としては認められない、すなわち当該建築案は許 されないこととなる。このような誘導措置は、わが国ではおよそ存在せず、風 力発電設備の立地の誘導手法としては非常に興味深い。 (b)特別利益の公的吸収 52) ところで、再エネ発電設備の建設・運営に伴い生じる特別な利益とは、具体 的には何であろうか。以下のものが考えられる。 第一に、風力発電設備所有者が土地上で風力発電を行うことで売電収入を得 られる。これが特別利益の中心である。 第二に、風力発電設備所有者と土地所有者とが異なる場合には、通常は前者 は後者から土地を賃借することになるが、巨額の売電収入が得られれば、当然 に土地所有者に支払われる賃料が上昇することになる。この賃料の上昇分も特 別利益である。. 51)これらの区域指定の仕方についてはその実務での運用も含めて、髙橋寿一「風力発電設 備の立地選定─国土整備計画と建設管理計画」楜澤能生/佐藤岩夫/髙橋寿一/高村学 人編著『現代都市法の構造と展望』 (日本評論社、2017 年)141 頁以下参照。 52)筆者はかつて「開発利益の公共還元」という視点からドイツの法制度を分析・検討した ことがあるが(髙橋・前掲(注 35)167 頁以下参照) 、そこで指摘した諸点は下記の記述 でも基本的には当てはまると考えている。 168.
(31) 風は誰のものか?. 第三に、第二の賃料の上昇分は、当該土地上の風力発電が生み出す収益の一 部なのであるから、賃料の上昇は当然に地価に反映される。すなわち、土地価 格が上昇するが、この上昇分も特別利益である。 なお、上記の三種類の特別利益は、売電収入が起点となっており、 〈売電収 入→賃料の上昇→土地価格の上昇〉という論理的連関にある。したがって、こ れらを特別利益として公共還元の対象とする場合でも、二重徴収にならないよ うに注意しなければならない。 これらの特別利益を現行法ではどのように扱っているのであろうか。 まず、第三の地価上昇分については、不動産税(Grundsteuer)によって徴 収することが考えられる。不動産税はわが国の固定資産税に相当するもので あって、当該不動産の有する潜在的収益力に対して課される対物税である。そ の収入は市町村に帰属する。ただし、不動産税算定の際の基準額が現実の取引 価格に比べて著しく低いため、現在の制度を前提とする限り、特別利益の公共 還元の手法としての意義は高いとは言えない。 次に、第一の売電収入であるが、現行法上これには営業税(Gewerbesteuer) が課される(収入は市町村に帰属) 。しかし、この税も、 (イ)風力発電設備の 立地市町村と風力発電設備を運営する法人本社の所在地が異なる場合には、営 業税は当該立地市町村には一部しか帰属しないし、 (ロ)通常の法人は高額の 減価償却費を計上したり節税目的もあって多額の借入金を負担しているため、 課税対象となる営業利益は僅かでしかないことが多く、この手法も特別利益の 公共還元の手法としての意義は小さい。 このように税制での対応には現行法上限界がある。また、この特別利益を、 優先地区や集中地区という都市計画上の地区指定によって私的享受が可能と なった地価上昇益すなわち計画利得(Planungsgewinn)として捉えて、都市 計画サイドから公共還元をする試みも理論的には考えられる。ただし、計画利 得の公共還元手法として現在都市計画サイドで認められている手法は、土地 区画整理事業における清算金と再開発・新開発事業に伴う調整金に限られてお 169.
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