賃料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否
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(2) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). なるが、A 事件の事案の概要を、次いでB事件の事案の概要を紹介する。. [A 事件の概要] A1 と Y1 との間で、売主を A1、買主を Y1 とする、A1 所有の土地 1、土地 3、 建物 4 の売買契約が、A1、A2 と Y1 の間で、売主を A1、A2、買主を Y1 とする、 A1、A2 が共有する土地 2 の共有持分の売買契約が締結され、それぞれ、Y1 に 対する所有権移転登記手続および共有者全員持分移転登記手続がなされた(平 成 20 年 9 月 12 日受付) 。A1 は Y1 の妻の父であり、A2 は Y1 の妻の母である。 X(A 事件の原告・控訴人、B事件の原告・控訴人兼被控訴人・被上告人)は 全国に営業所を有する、各種商品の割賦販売、リース、信用保証等を業とする 株式会社であり、 [B事件の概要]で示すように、A1 に対して求償金債権を有 している。Xは、Y1 を被告として、主位的請求として、上記各土地・建物の 売買は強制執行を免れるための通謀虚偽表示により無効であると主張して、債 権者代位権に基づく請求として、上記土地・建物に Y1 が経由している所有権 ないし持分権の移転登記の抹消登記手続を求め、予備的請求として、本件売買 契約が詐害行為に当たると主張して、その取消しおよび上記土地・建物に Y1 が経由している所有権ないし持分権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提 起した。第一審はいずれの請求も棄却した。その理由は、主位的請求について は、売買契約はもっぱら A1 の働きかけで行われたこと、上記不動産はもとも と A1 の自宅であり、売買契約の前後を通じて A1 が居住していること、それ にもかかわらず、A1 と Y1 の間で賃貸借契約が締結されていないこと、売買代 金のうち Y1 の自己資金はわずかであることなど、売買契約が不動産の所有権 を温存するための仮装のものであるとの、Xの主張に沿う事情も少なからずあ るが、A1 および A2 が上記不動産の所有権を Y1 に移転させるという効果意思 を有していなかったとまでは認定できないということである。予備的請求につ いては、上記不動産にはD銀行およびE県信用保証協会の債権のために根抵当 296.
(3) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. 権が設定されているので、一般債権者のための共同担保となるのは、根抵当権 の被担保債権を控除した残額であるところ、本件における上記不動産の価格が 上記控除額を上回ることの立証がなされていないこと、および、上記不動産に 設定されているD銀行、E県保証協会に対する根抵当権は本件売買契約の後に 弁済によって消滅しているため、一部の不動産自体の回復は認めることはでき ないが、Xは現物返還のみを求め、価格賠償を求めていないということである。 Xは控訴したが、控訴は棄却され、これに対してXから上告・上告受理申 立がなされなかったため、A 事件は、主位的請求、予備的請求とも棄却する 1 審判決が維持されることで、決着がついた。. [B事件の概要] Xは、 平成 20 年 8 月 1 日、 訴外B株式会社(以下「B社」または 「B」という) および A1 を被告として、訴外C株式会社との事業ローン契約に基づく求償金 3583 万余円およびこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める訴えを提起し、 同年 9 月 25 日、原告の請求を全部認容する判決が下された。A1 はB社の一人 株主兼代表取締役である。なお、B社は平成 20 年 5 月に経営破綻して事実上 倒産し、平成 21 年 4 月 20 日、株主総会決議により解散して、清算人に A1 が 就任した。 それに先立つ平成 16 年 10 月 20 日に、B社は Y2 株式会社(被告・控訴人兼 被控訴人・上告人。以下「Y2 社」または「Y2」という)との間で、B社が所 有する建物 5(以下「本件建物 5」または「本件建物」という)を、期間を同 年 11 月 1 日から平成 36 年 3 月 31 日まで、賃料を当分の間月額 200 万円と定 めて賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という)を締結し、Y2 社に 本件建物 5 を引き渡した。Y2 社の株式は、そのすべてをB社と A1 が保有して いる。なお、本件賃貸借契約締結当時の Y2 社の代表取締役は A1 であったが、 平成 20 年 6 月に退任し、同人の長男の妻が就任し、さらに同年 12 月に長男 297.
(4) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). に交代し、後述の本件建物 5 の売買契約締結当時の代表取締役は A1 の長男で あった。 Xは、前述の A1 およびB社に対する請求を全部認容した判決の正本を債務 名義として、本件賃貸借契約に基づく賃料債権の差押えを申し立て、これを 認容 す る 債権差押命令(以下「本件差押命令」と い う)が 平成 20 年 12 月 10 日に Y2 社に送達された。それに先行して、賃料債権の仮差押命令が同年 8 月 5 日に Y2 社に送達されている。なお、B社と Y2 社は平成 20 年 5 月 23 日に、 同年 6 月からの賃料を月額 140 万円にすることを合意し、また同月初め頃、当 月分の賃料を毎月 7 日に支払う旨、合意した。 以上のような事実関係のもとで、Xは、Y2 社に対し、平成 19 年 4 月 7 日か ら平成 21 年 6 月 7 日までに支払われるべき賃料、合計 3716 万余円の支払を求 めて、 取立訴訟を提起した(平成 20 年 5 月分までの賃料は月額 200 万円なので、 上記期間中の賃料債権の総額は 3716 万余円を大幅に超過するが、賃料債権の うち、支払期の早いものからこの額に満つるまでの支払が請求されたのであろ う。ちなみに、当初から賃料の月額を 140 万円として計算すると、上記期間で 請求額に近い額になる〈140 万円× 27 = 3780 万円〉 ) 。Y2 社は、平成 20 年 5 月分までの賃料(2800 万円)は支払っているとの弁済の抗弁、および、同社 がB社に対して有する債権を自働債権、被差押債権である賃料債権を受動債権 とする相殺の抗弁を提出した。第 1 審裁判所は弁済の抗弁を容れ、また相殺に ついては、仮差押えの効力発生前に Y2 社が取得した債権を自働債権とする相 殺の抗弁を容れ、その結果、平成 20 年 8 月末日から平成 21 年 5 月末日までに 支払われるべき賃料額の支払いを求める限度(月額 140 万円、合計 1400 万円) で請求に理由ありとして、認容し、その余の請求を棄却した。 控訴審でXは、第 1 審が弁済および相殺の抗弁の一部を容れたことを考慮し たためであろうが、請求の一部を交換的に変更し、平成 20 年 8 月 7 日支払期 分から平成 22 年 9 月 7 日支払期分までの 26 回分(140 万円× 26 = 3640 万円) および同年 10 月 7 日支払期分中 76 万余円としたため、第 1 審判決中の請求棄 298.
(5) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. 却部分は失効し、平成 21 年 6 月 7 より後の支払期分以降の賃料取立部分が、 同審において拡張された新たな請求となった。Xの請求に対して Y2 社は、平 成 21 年 1 月 8 日に本件建物 5 を含む複数の不動産の売買契約をB社との間で 締結し、同年 12 月 25 日に代金を支払ったので、B社の Y2 社に対する賃料債 権は混同により消滅した、と主張した。Y2 社は、その他、仮差押えの効力発 生後に同社がB社に対して取得した債権を自働債権とする相殺も有効であると 主張して、第 1 審の相殺に関する判断にも不服を唱えているが、この点は判示 事項と関係ないので、本稿では取り上げない。 控訴審は、賃料債権の混同による消滅の主張に関して、Xは、Y2 社が本件 建物 5 の所有権の移転を受ける以前の「平成 20 年 8 月 5 日、本件建物 5 につ いてのBの 1 審B事件被告(Y2 社のこと―筆者)に対する賃料債権を仮差押 えしており(その後本件差押命令により本執行に移行) 、上記賃料債権は第三 者の権利の目的となっているから、混同によっては消滅しない(民法 520 条た だしがき) 」との理由で、これを退け、Xの請求を認容した(口頭弁論終結時 において支払期が到来していた平成 20 年 8 月分から平成 22 年 1 月分までの 賃料債権合計 2520 万円の支払を命じるとともに、同年 2 月から 9 月まで本件 賃貸借契約の約定支払期である毎月 7 日限り各 140 万円〈140 万円× 8 = 1120 万円〉および同年 10 月 7 日限り 76 万余円〈計 1196 万余円〉については、将 来の請求として支払を命じた) 。 Y2 社は、控訴審が混同による被差押債権の消滅を認めたことを攻撃して、 上告受理申立てを行い、これが受理された(Y2 社は上告受理申立てにあたり その他の理由も主張したが、上告受理の決定において排除された) 。上告受理 申立理由は賃料債権の消滅を認めることの不当を縷々主張しているが、要する に、但書を含む民法 520 条を本件のような双務契約関係に適用して、一方の債 権のみをとらえて混同による例外として存続させると、対価性を有する一方の 債権は存続し、他方は消滅することになるので、双務契約の対価牽連性と矛盾 し、不当な結果になるということである。 299.
(6) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). 最高裁は、本件建物の所有権がB社から Y2 社に移転した後の賃料債権につ いて、原判決中その支払を命じる部分を破棄し、原審に差し戻した。. 【判旨】 「賃料債権の差押えを受けた債務者は、当該賃料債権の処分を禁止されるが、 その発生の基礎となる賃貸借契約が終了したときは、差押えの対象となる賃料 債権は以後発生しないこととなる。したがって、賃貸人が賃借人に賃貸借契約 の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は、その終 了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても、賃貸人と賃借人との人的関係、 当該建物を譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして、賃 借人において賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されない などの特段の事情がない限り、差押債権者は、第三債務者である賃借人から、 当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないというべ きである。 ……論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決のうち、上告 人に対し平成 20 年 8 月分から平成 21 年 12 月分までの賃料合計 2380 万円を超 えて金員の支払を命じた部分は破棄を免れない。そして、上記特段の事情の有 無につき更に審理を尽くさせるため、上記の部分につき、本件を原審に差し戻 すこととする。 」. 差戻後の控訴審 Xは、Y2 社もB社もともに A1 が実質的に支配している会社であること、本 件建物の売買契約は、B社が経営破綻するや、Xによる賃料債権の仮差押え、 差押えを知りながらこれを免れるために実行されたものであり、売買契約に 藉口して差押えの効力を無意味にすることを企図したものであり、Y2 社には、 本件賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されない特段の事 300.
(7) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. 情がある、と主張した。それに対して、Y2 社は以下のように主張した。同社 は「BのD銀行からの借り入れについて連帯保証をしていたものであり、D銀 行から言われるままに、平成 21 年 1 月 8 日、本件売買契約を締結したもので あって、何ら不正はない」 。 また、契約締結の時期との関連では、同社は、B 社の経営破綻後直ちにD銀行と相談し、契約締結の準備を進めていたものであ り、仮差押え、差押えはこの準備を始めた後になってなされたものであるから、 本件売買契約は賃料債権の差押えを免れるためのものではない、と主張した。 差戻後の控訴審は、以下のように判示して、上記事情の存在を否定し、差戻し に係る部分の請求を棄却した。なお、本件は差戻後の控訴審判決の確定により 最終的な決着がついた。. 【差戻後の控訴審の判旨】 「……本件売買契約は、平成 20 年 5 月にBが事実上破綻した後まもなく、B、 1 審被告、D銀行が対応を協議し、1 審被告がD銀行から融資を受けて阪南不 動産(本件建物を含む阪南市に存するB社所有の不動産のこと―評者)をBの 借入債務残高と同額の代金で買い取るとの基本的枠組みを同意したが(略― カッコ内には判決書中の「事実認定」の部分の該当箇所を示す記号が記されて いる。以下において「略」とあるのは同じ―評者) 、その後、他の債権者が阪 南不動産を仮差押えした等の事情によりその実行が遅れ、最終的な決済が平成 21 年 12 月 25 日になったというものであり(略) 、1 審原告が本件賃料債権の 差押えをした後に、1 審被告がそれを免れようとして、本件売買契約を計画し たものとは認められない。 また、……1 審被告は、本件建物の賃借人との立場で本件建物を占有利用し、 有料老人ホームを経営していたものであるところ(略) 、本件売買契約後は、 本件建物の所有者としての立場で、従前同様、本件建物を占有利用し、有料老 人ホームの経営を続けており(略) 、さらに、本件建物の売買代金については、 301.
(8) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). 1 審被告がD銀行から借り入れてBに支払い、1 審被告が上記借入金債務の返 済を続けている(略)のであるから、本件売買契約に基づく所有権の移転や代 金の支払等について実体に欠けるものでもない。 そうしてみると、Bと 1 審被告は、平成 20 年 5 月当時、その代表取締役が ともに A1 であったこと、1 審被告の株主はBと A1 のみであること、現在 1 審 被告の代表取締役は A1 の長男 A3 であることなど、両社の間に密接な人的関 係が存すること(略)等を考慮しても、1 審被告において、本件賃料債権が発 生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情が存する ものと認めることはできない。 」. 【評釈】上告審である最高裁が判決理由で述べていることは、一般論としては 正しいが、差戻後の控訴審の判断も含めて、本件における事案の処理の妥当性 には疑問がある。. 1 被差押債権の処分と被差押債権の基礎となる法律関係の処分 (1)債権の差押え・仮差押えによって債務者には差押え・仮差押えの対象 となった債権の処分が禁じられ、これに違反してなされた処分行為は差押債 権者に対抗できない。ここでいう処分行為には被差押債権の譲渡、免除ない し放棄 1)、相殺 2)等が含まれる。また、賃料債権が差し押さえられたという点 では本件と同じであるが、賃貸借契約の目的物である不動産の差押債務者以外 の者への譲渡がなされた場合についても、判例は、譲受人の賃料債権取得は差 押債権者に対抗できないとしている 3)。ただし、学説上は、この場合は、本文 で次に述べる賃料債権発生の基礎となる法律関係の処分であり、それは仮差押 えによって禁じられていないとする見解もある 4)。 なお、実務上は差押に先行して仮差押えがなされることが多いため、仮差押 後の処分行為が問題になることが多く 5)、本件でもそうである。したがって、 本件は、当然のことながら、仮差押えの効力がまず問題になる事案である(た 302.
(9) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否 ・ ・ ・. だし、 判示事項は「……差押えの効力発生後に……」となっている。傍点評者) 。 ところで、債権仮差押の執行方法につき、法文は、第三債務者に対し債務者へ の弁済を禁止するのみで、債務者に対する被差押債権の処分の禁止は規定され ていない(民保 50 条 1 項。民執 145 条 1 項と対比) 。しかし、財産権の確保と いう仮差押制度の趣旨からして、債権仮差押命令が処分禁止効を有するのは当 然のことである 6)。したがって、債権に対する仮差押えおよび差押えのいずれ においても、その効力発生後の処分行為について、それが差押債権者または仮 差押債権者に対抗できるかという同様の問題が生じる。本稿では、個別に差押 えまたは仮差押えの効力が問題になった事案に言及するときは、いずれが問題 になったかが明らかになるように表記し、一般論として論じるときは、適宜、 双方を含むことがわかるような表記方法を用いることにする。 (2)本件で争点になったのは、仮差押えがなされた債権の基礎となる法律関 係の処分が仮差押債権者の取立権に影響を及ぼすか否かであり、この点で、譲 渡、免除等の被差押債権自体の処分から問題が生じた事案とは区別される 7)。 民事執行法および民事保全法の注釈書、体系書等の多くは、かかる法律関係の 処分は差押えによって禁じられていない、と述べている 8)。 この点に関連する判例や裁判例には以下のようなものがある。 まず、売買代金債権のような一回的給付を目的とする債権に対する仮差押・ 差押後になされた、当該債権の基礎となる契約の合意解除につき、大審院判例 (ただし、公式判例集には収録されなかった)は、差押債権者に対抗できない とした 9)が、戦後の下級審裁判例の中には、この対抗を肯定し、合意解除に より被差押債権は消滅するとしたものがある 10)11)。 一方、継続的な金銭債権に関わる事案としては、給料債権を差し押さえられ た債務者・被用者がいったん退職した後、同じ雇用主に再就職した場合、差押 えの効力が再就職後の給料債権に及ぶかが争われた事案につき、判例および裁 判例は、問題を否定的に解し、差押債権者はこれを取り立てることができない としている 12)。 303.
(10) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). 2 一回的給付を目的とする債権と継続的給付を目的とする債権の違い たしかに、差押え・仮差押えは対象となった財産の処分を禁止するものであ り 13)、その対象が債権である場合、債権成立の基礎となる法律関係の処分ま で禁止するものではないことは、前述のように、多くの学説が指摘するところ である 14)。本件上告審判決の理由中、先に【判旨】として引用した箇所の冒 頭はこれに沿ったことを述べており、一般論としては正しい。 ただし、なされた処分が、形式的には被差押債権の基礎となる法律関係の処 分であっても、実質的には被差押債権自体の処分と同視できる場合に、これに よって債権が消滅し(仮)差押債権者が債権を取り立てることができなくなる との結論は、妥当性を欠く。この点からすると、仮差押え・差押えの対象が一 回的給付を目的とする債権である場合に、当該債権の基礎となる法律関係を差 押債務者と第三債務者の意思で消滅させることによって、債権自体も消滅させ ること、たとえば、売買代金債権が(仮)差し押さえられた場合に、売買契約 の合意解除によって(仮)差押債権者が取り立てをできなくなってしまうこと は、妥当でない。この場合の合意解除は、実質的には売買代金債権の免除と同 じことと言える。この実質に着目すれば、合意解除によって被差押債権を消滅 させることは、 (仮)差押えの効力に反することであり、第三債務者は(仮)差 押債権者に対して債務の消滅を主張することはできないと解すべきである 15)。 これに対して、法定解除、たとえば、債務者である売主が解除権を有していて これを行使する場合は、解除権の行使は可能であり、それにより被差押債権は 消滅すると解すべきである。なぜなら、解除権の行使自体はたしかに差押債務 者の意思によるものであるが、それを正当化する根拠が、債権執行手続( 〈仮〉 差押えとそれに引き続き行われる取立ての手続)とは別個独立に、存在するか らである。約定解除についても同様に解してよかろう 16)。 一方、 (仮)差押えの対象となる債権が継続的給付を目的とする場合には、 その基礎となる法律関係について考えられるのは合意解除ではなく解約であ る。実例としては、賃料債権が差し押さえられた場合の賃貸借契約の解約も考 304.
(11) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. えられるが、これまでに判例および下級審裁判例で争われたケースとしては、 前述のように、給料債権を差し押さえられた被用者が退職するケースがある。 賃料債権にせよ給料債権にせよ、賃貸借契約の解約または退職(雇用契約の解 約)によってそれまでに生じていた債権が遡及的に消滅するのではなく、それ 以後の債権が発生しないことになるに止まる。 この点で、一回的給付を目的と する債権の場合に、その基礎となる法律関係が消滅するならば、既に発生して いる債権の取り立てができなくなるのとは、事情が異なる 17)。しかし、差押 債権者は、解約がなされなければ、その後に発生したであろう債権を、自己の 債権の満足に充てることができた(民執 151 条)のに、それができなくなるの であるから、解約が執行を回避するための仮装の手段として行われる可能性が あることは、やはり否定できない。そして、第三債務者が差押債権者にそのよ うな仮装の解約の効果である債権の不発生を主張することが、信義則に反する と、評価される事態もあり得ることである。. 3 被差押債権の消滅か不発生か 差戻前の控訴審判決は、Y2 が行った賃料債権の混同による消滅の主張を、 本件建物 5 の所有権の移転よりも時期的に先に仮差押えの効力が発生していた ことから、 賃料債権は第三者(具体的には、 X)の権利の目的になっていたとし、 民法 520 条但書を適用して、退けた。それに対して Y2 は上告受理申立理由で、 双務契約において混同による消滅の例外を認めることの不当を主張した。この ように、差戻前の控訴審判決と Y2 側の主張は、結論においては正反対である が、被差押債権が、債権者と債務者が同一人になったことにより、消滅するか 否かが問題になっているとする点では、認識を一にしている。債権が消滅する か否かを問題にしたことから、双方とも、債権がいったんは発生したことを前 提にしていると言うことができる。 しかし、賃貸借契約の目的物の賃借人への譲渡によりその所有権が賃貸人か ら賃借人に移転した場合、これに伴い賃貸人たる地位も賃借人に移転する 18) 305.
(12) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). ため、賃借人の地位と賃貸人の地位が同一人に帰属することになり、賃貸借契 約自体が終了し、その結果賃料債権が発生しなくなると解すべきである。この 場合に、いったん発生した債権が消滅したと解するのは、正確でない 19)。こ の点で、 「……賃貸借契約が終了したときは、……賃料債権は以後発生しない こととなる」 「論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由が」あると判示した 上告審(最高裁)は、賃貸借契約の目的物の賃借人への譲渡の場合に生じる法 律関係を的確に把握したうえで、上告受理申立理由を上告人の真意に適うよう に解釈していると言える。. 4 上告審判決の正当性 要するに、賃貸人から賃借人への賃貸借契約の目的物の譲渡により、賃貸人 と賃借人の地位が同一人に帰属することになったなら、たとえ譲渡の時期が賃 料債権の(仮)差押えの効力発生後であっても、その後の賃料債権は発生せ ず、 (仮)差押債権者は基本的にこれを取り立てることができなくなる。ただ し、譲渡が執行を回避するための仮装のものであった場合には、第三債務者の 賃料債権不発生の主張が、まさに前述の賃貸借契約の仮装の解約の場合と同様 に、信義則に反する、と評価され、したがってその主張が排斥される事態も考 え得る。 以上の評者の見解は、本件上告審判決(最高裁判決)と同じ考えである。し たがって評者は、この点で、判旨に賛成する。 ただし、執行当事者である差押債権者と差押債務者の間ではなく、執行手続 における第三者に過ぎない第三債務者と差押債権者の関係に信義則を適用する ことについては、信義則の本質に反するのではないかという、疑問が生じる余 地もあろう。しかし、第三債務者と執行当事者である差押債務者・賃貸人との 人的関係や譲渡の経緯のいかんによっては、かような信義則の適用もあり得よ う。. 306.
(13) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. 5 差戻後の控訴審判決の妥当性 (1)差戻後の控訴審が、Y2 が被差押債権である賃料債権の不発生を主張す ることが、信義則上許されない特段の事情がないと判断した理由は、以下のよ うに要約できる。①売買による本件建物の移転の時期は仮差押えの効力発生後 であるが、売買は、それ以前、B社の経営破綻後間もなくから準備されていた。 ②売買契約の前後を通して Y2 社は本件建物を占有し、有料老人ホームを経営 している。③売買代金は Y2 がD銀行から借り受け、Bに支払い、Y2 はその返 済を続けている。 これらの内、まず①については、裁判所認定のとおり、仮差押え前からB社 と Y2 社の間の売買の準備がなされていたとしても、それが、経営が破綻して、 債権者から早晩執行を受けることを予想したB社および同社を事実上支配する A1 が、執行を回避するために行った可能性は否定できない。そこから言える のは、賃貸借契約の目的物の譲渡の準備が開始された時期と賃料債権の仮差押 えの効力発生時点との先後関係は、この判断のための決定的な基準にはならな いということである。 ②の、売買の前後を通じて同じ事業が経営されていたということも、上記特 段の事情の存在を否定するための、決定的根拠にはならない。あるいは、差戻 後の控訴審がこの点を根拠の一つとした背景には、Y2 が行っていた有料老人 ホームの経営は公益性の高い事業だという評価があったと、推測する余地もあ る。しかし、高齢者を対象とした事業だというだけで、公益性が高いと断じる ことはできないであろう。 ③は、むしろ上記特段の事情の存在を推認させる方向に働くと思われるが、 この点については後述する。いずれにせよ、①ないし③は上記特段の事情の存 在を否定するための根拠にはならない。 ただし、上記特段の事情のゆえに第三債務者が債権の不発生を主張し得ない ということは、取立訴訟において、賃貸借契約の目的物の譲渡による賃料債権 不発生の抗弁に対する、原告・差押債権者側の再抗弁事由であるから、原告が 307.
(14) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). 特段の事情の存在について主張・証明責任を負っており、被告・第三債務者が その不存在の証明責任を負っているわけではない 20)。したがって、上記特段 の事情の不存在が証明されなくても、原告・差押債権者がその存在を証明でき ないかぎり、その不存在が判決の前提になる。 しかしながら本件においては、第一審以来の訴訟の経過から、B社も Y2 社 もともに A1 の実質的支配下にあること、本件建物を含む阪南市内に存在する 不動産の売買のみならず、A 事件でその効力が争われた土地・建物等の売買 も、A1 ならびに同人の支配下にある法人および個人(自然人)の間で、かつ、 D銀行の主導のもとで行われたこと、さらに、D銀行がそのような画策を行っ たのは、自らの A1 およびB社に対する債権の回収を確実にするためであるこ ・ ・ ・ ・ ・ ・. とが、推認される。とくに、差戻後の控訴審における Y2 社の「D銀行から言 ・. ・. ・. ・. ・. ・. われるままに、平成 21 年 1 月 8 日、本件売買契約を締結したのであって、何 ら不正はない」 (傍点評者)との主張は、Y2 社の意図に反して、むしろ、この 推認を一層確固たるものにすると言える。また同様のことが、差戻後の控訴審 判決が特段の事情の存在を否定するための根拠とした前記③の事実についても 言える。これらのことを考慮すると、評者は、B事件のみならず A 事件の事 実関係をも含めた本件事案のもとでは、Y2 社がXに対して被差押債権である 賃料債権の不発生を主張することが、信義則上許されない特段の事情があった と、判断できると考える。 (2)私見のように、D銀行が前述の画策を行ったことを、上記特段の事情の 存在を肯定するための根拠の一つとすることに対しては、以下のような反論が 予想される。第 1 に、D銀行はB社に対して債権を有しており、権利者が権利 実現のために働くことは当然である。むしろより積極的に働いた権利者がより 有利な地位に立つことは、衡平に適っている、という反論である。第 2 に、し かも、本件建物 5 にはD銀行のために根抵当権が設定されているから、D銀行 は賃料債権からも物上代位(民 372 条・304 条)21)によって一般債権者に優先 して満足を得られるはずである、という反論である。 308.
(15) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. たしかに、自己の権利保護・実現のためにより積極的に働いた者が、より有 利な地位に立つのは、基本的に自由な取引・競争が認められる社会では、当然 のことである。また、担保権を有しているD銀行は、客観的にみれば、一般債 権者よりも優位な立場にあることも、否定できない。しかし、権利保護・実現 のためといっても、権利者は信義に適った行動をとるべきである。本件の事実 関係を顧みるならば、一般債権者であるXが、賃料債権の仮差押えおよび差押 えという、法によって債権者にその行使が認められている、正当な手段を執っ たのに対して、差押債務者であるB社の債権者であり根抵当権者でもあるD銀 行は、物上代位を含む担保権の効力を主張するという正攻法によらず、差押債 務者であるB社、第三債務者である Y2 社および両社を事実上支配している A1 を背後から動かして、賃貸借契約の目的物を売買させるという、Xの裏をかく 方法を使った。D銀行の意を受けた第三債務者である Y2 社がその効果として の賃料債権の不発生を主張するのは、やはり信義則上許されないことと評価す べきである。評者には、本件建物 5 の譲渡は、執行妨害の一種、あるいは、D 銀行の主導により、かつもっぱら同銀行の確実な債権回収のみを意図して行わ れた、事実上倒産したB社の財産の私的整理の一環にさえみえる。 もとより、D銀行が担保権の効果を主張すれば、自己の債権の回収に成功し たであろうし、その反面としてXの債権回収は頓挫したであろうことは、評者 も否定しない。あるいは、差戻後の控訴審が、一般債権者であるXを敗訴させ たのは、この点に配慮したためであるという推測も、成り立つかもしれない。 しかし、担保権者が担保権の効果を主張していないのに、裁判所がその効果を 前提として担保権者に有利な、その反面として一般債権者に不利な判断を裁判 所が下したのであるとすれば、それは公平性・中立性を欠いた措置と言わざる を得ない。 (3)差戻後の控訴審の立場に立てば、一般債権者は賃料債権の差押えに対し て、債権回収の手段として十分な機能を発揮してくれるものと、期待すること はできない。念のために付言しておくが、差戻後の控訴審判決に反対する評者 309.
(16) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). も、賃貸借契約の目的物上に担保権を持つ債権者に、物上代位を含む担保権の 効果を主張されれば、一般債権者が賃料債権の差押えから債権の回収を図る ことが難しい、むしろ現実には不可能であることは、否定しない。その点で、 担保権者の前では一般債権者はきわめて弱い立場にあることは当然である 22)。 しかし、繰り返しになるが、担保権者が正攻法で担保権を行使したならともか く、それをしていないのに、裁判所が、担保権の存在を慮って、担保権者に有 利な結果をお膳立てしたのでは、裁判所の公平性・中立性が損なわれると言わ ざるを得ない。評者が、差戻後の控訴審の判断も含めて、本件の事案の処理に 疑問を呈するのは、このためである。 1)最判昭和 44 年 11 月 6 日民集 23 巻 11 号 2009 頁(賃料債権 の 免除) 、大判明治 45 年 5 月 8 日民録 18 輯 469 頁(議員歳費の放棄) 。 2)本文で述べられているのは、差押債務者が被差押債権を自働債権として行う相殺である。 なお、第三債務者が、差押債務者に対して有する債権を自働債権、被差押債権を受動 債権として行う相殺については、判例は、自働債権が差押えの(効力発生後)に取得さ れたものでないかぎり、自働債権および受動債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に 達しさえすれば、差押後でも相殺が可能であるとしている(最大判昭和 45 年 6 月 24 日 民集 24 巻 6 号 587 頁) 。この判例を反対解釈すれば、差押えの効力発生後に取得した債 権を自働債権とする相殺はできない(それによる被差押債権消滅の効果を差押債権者に 対抗できない)ということになる。ちなみに、本件第 1 審判決および差戻前の控訴審判 決も、Y2 の相殺の抗弁につき、この判例を引用し、かつこれに従った処理をした。 3)最判平成 10 年 3 月 24 日民集 52 巻 2 号 399 頁。 4)上野泰男「判批」私法判例リマークス 1999(上)139 頁。 5)ただし、仮差押えが先行せず、たんに差押後の処分行為が問題になった事案もある。前 注(1) 、 (2) 、 (3) 、 (9) 、 (10) 、 (11) 、 (12)には関連する判例、下級審裁判例が掲げられ ているが、それらの中には、仮差押後の処分行為が問題になった事案と、差押後の処分 行為が問題になった事案とがある。 6)民事保全法施行前の文献であるが、 菊井維大『民事訴訟法(2) 』344 頁(有斐閣、1950 年) 、 賀集唱「債権差押後、債務者と第三債務者の間で被差押債権を合意解除しうるか」判タ 197 号 147 頁(1966 年)がこの旨を明言している。 7)ただし、本文でも述べたように、前掲注(3)最判平成 10 年 3 月 24 で問題になった、賃 310.
(17) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. 貸借契約の目的物の譲渡について、被差押債権自体の処分とみるべきか、その基礎とな る法律関係の処分とみるべきかについて、見解が分かれていることからも明らかなよう に、両者の境界は必ずしも明白でない。大川治「賃料債権の差押え効力発生後賃貸借契 約が終了した場合の帰趨」NBL987 号 5 頁(2012 年)は、前掲最判と本件との整合性が 問題になる、と指摘している。 8)民事執行法の文献として、鈴木忠一=三ケ月章編『注解民事執行法(4) 』413-414 頁〔稲 葉威雄〕 (第一法規、1985 年) 、 香川保一監修『注釈民事執行法(6) 』134-135 頁〔田中康久〕 (きんざい、1995 年) 、 中野貞一郎『民事執行法』672 頁(青林書院、 増補新訂 6 版、2010 年) 、 中西正ほか『民事執行・民事保全法』206 頁〔八田卓也〕 (有斐閣、2010 年) 、 福永有利『民 事執行法・民事保全法』184 頁(有斐閣、第 2 版、2011 年) 、上原敏夫 ほ か『民事執行・ 保全法』175 頁〔長谷部由起子〕 (有斐閣、第 3 版、2011 年) 、松本博之『民事執行保全法』 265-266 頁(弘文堂、2011 年)等。民事保全法の文献として、竹下守夫=藤田耕三編『注 解民事保全法(下) 』86-87 頁〔相澤哲〕 (青林書院、1998 年) 、山崎潮監修・瀬木比呂志 編集代表『注釈民事保全法(下) 』118 頁〔山崎潮〕 (民事法情報 セ ン ター、1999 年)等。 民事執行法施行前の文献としては、菊井・前掲注(6)171-172 頁、兼子一『強制執行法』 200-201 頁(酒井書店、増補、1955 年) 、鈴木忠一 ほ か 編『注解強制執行法(2) 』299-300 頁〔稲葉威雄〕 (第一法規、1985 年)等。中務俊昌「取立命令と転付命令」民事訴訟法学 会編『民事訴訟法講座第 4 巻』1181 頁(有斐閣、1955 年)も基本的に同旨であると解さ れるが、中務教授の見解については、後注(17)を参照されたい。 9)大判昭和 6 年 4 月 15 日大審院裁判例 5 巻民事 68 頁、大判昭和 12 年 7 月 8 日大審院判決 全集第 4 輯 13 号 20 頁。前者は、馬匹交換契約という、現在では聞き慣れない契約の合 意解除が問題になった事案である。後者は、売買契約の合意解除が問題になった事案で ある。 10)名古屋高判昭和 28 年 4 月 13 日下民集 4 巻 4 号 509 頁。 11)なお、東京地判平成 3 年 11 月 8 日判タ 791 号 195 頁は、機械の売買代金債権の仮差押後 に売買契約が合意解除され、売買の目的である機械が売主・差押債務者の他の債権者に 代物弁済されたことから、仮差押債権者が、自己の債権の実現が妨げられたとして、売主・ 仮差押債務者、買主・第三債務者、代物弁済を受けた者等を被告として、不法行為によ る損害賠償を請求した事案において、不法行為の成立を否定し、請求を棄却した。その 理由は、当該機械はもともと工場根抵当権の対象物件だったので、一般債権者である仮 差押権者は合意解除および代物弁済によって損害を受けていないということのようであ る。ただし、判決理由中で、仮差押えの効力として「合意解除をすることをも制限され ていたと解する余地がないわけではない」とも述べられている。この裁判例については、 野口恵三「債権仮差押後に当該債権の発生原因である売買契約を合意解除することは、 311.
(18) 横浜法学第 22 巻第 2 号(2013 年 12 月). 仮差押債権者に対する不法行為を構成するか」NBL509 号 48 頁以下(1992 年)参照。 12)最判昭和 55 年 1 月 18 日裁判集民事 129 号 37 頁=判時 956 号 59 頁、東京地裁昭和 63 年 3 月 18 日判時 1304 号 102 頁。 13)債権仮差押えにも、債務者に対する被差押債権の処分を禁止する効力があることは、前 述した(1(1) ) 。 14)注 8 に同じ。 15)賀集唱「債権差押後、債務者と第三債務者の間で被差押債権を合意解除しうるか」判タ 197 号 147 頁(1966 年)は、売買代金債権のような一回的給付を目的とする債権の仮差 押えの場合を、さらに、売主(差押債務者)の義務の履行後と履行前とに分け、履行後 においては契約の合意解除は認められず、履行前においては認められるとする。その理 由は、履行後における合意解除は債権の放棄に等しいということ、履行前においては、 かりに合意解除を認めず、仮差押債権者が第三債務者(買主)に代金を請求できるとし ても、同時履行の抗弁権の対抗を受けるであろうから、合意解除によって差押えの効力 を失わせるのも、やむを得ないということである。評者は履行前に関する理論構成には 賛成できないが、この点は、本件で問題になったことではないので、本稿では取り上げ ない。 16)丹野達『民事保全手続の実務』203 頁(酒井書店、1999 年)は、合意解除と法定解除に ついて評者と同様の結論を示している(約定解除には言及していない) 。他方、竹下= 藤田編・前掲注(8)86-87 頁〔相澤〕 、山崎監修・前掲注(8)119 頁〔山崎〕は、法定 解除、約定解除、合意解除のすべてが許されるとしている。なお、田倉整「不動産およ び有体動産以外の財産権に対する強制執行手続の研究」司法研究報告書 9 輯 3 号 37 頁 (1956 年)は「法定の手続による解除」という言葉を用いているが、文脈からすると、 法定解除、約定解除、合意解除のすべてを含む意味で用いられているようである。 17)賀集・前掲注(15)147 頁、およびその後に公表された、丹野・前掲注(16)203 頁が、 被差押債権が一回的給付を目的とするか、継続的給付を目的とするかで、分けて考えて いる。なお、中務・前掲注(8)1181 頁は、賃貸借契約の解約と売買契約の解除には異 質な面があると指摘している点では、賀集氏の論文と共通している。しかし、中務教授 は両者の異同の根拠を、賃貸借契約と賃料債権は基本権と支分権の関係にあるのに対し て、売買契約と売買代金債権とはそのような関係にないという点に求められている。ま た、中務教授は、売買契約においても、合意解除を明確に否定されているわけではない。 田倉・前掲注(16)37 頁は、中務教授の見解を批判している。 18)最判昭和 39 年 8 月 28 日民集 18 巻 7 号 1354 頁。 19)大川・前掲注(7)5 頁、松尾弘「本件判批」法セ 700 号 130 頁(2013 年)が同様の指摘 312.
(19) 料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否. を行っている。 20)すなわち、賃料債権の取立訴訟において、賃貸借契約の目的物が第三債務者・賃借人に 譲渡されたため、賃料債権が発生しないということは、抗弁事由であり、被告である第 三債務者・賃借人が主張・証明責任を負っている。賃料債権の不発生を主張することが 信義則上許されない特段の事情があるということは、上記の抗弁に対する再抗弁事由で あり、原告・差押債権者が主張・証明責任を負っている。 21)抵当権の目的である不動産の賃料債権に物上代位権が及ぶか否かについては、見解が分 れていたが、最判平成元年 10 月 27 日民集 43 巻 9 号 1070 頁はこれを肯定した。 22)大川・前掲注(7)5 頁は、債権回収を確実に行うための方策として、賃料債権のみなら ず、 賃貸借契約の目的物(収益物件)自体を仮差し押さえることなど、 種々検討している。 しかし、一般債権者は、どのような方策を執ろうとも、目的物に担保権を有する債権者 に担保権を行使されたら、結局債権の回収は困難にならざるを得ないであろう。. 〈追記〉本件については、既に注(7)で引用した大川弁護士の論稿、注(19)で引用した松 尾教授の判例解説のほか、小粥太郎教授の解説がジュリ 1453 号(平成 24 年度重要 判例解説)79 頁以下に掲載されているほか、𠮷岡伸一「賃料債権の差押えとその後 の処分の可否」銀行法務 21・759 号 1 頁(2013 年)も本件を取り上げている。. 313.
(20)
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