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アメリカにおけるエネルギー税制と1993年におけるBTU税導入の失敗(特集 環境税の財政社会学―長期的傾向と国際比較の分析から―)

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(1). アメリカにおけるエネルギー税制と 1993 年における BTU 税導入の失敗 茂  住  政 一 郎. *. 炭素税率を示した図 2 を見ると,アメリカでは,. はじめに. 炭素税ではなく,それ以外の「その他の税」の.  これまで,環境政策の研究蓄積において,ア. み実施されていることがわかる.アメリカにお. メリカの環境税やエネルギー課税の動向に注目. ける「その他の税」は,幹線道路モーター燃料,. が集まることは,欧州諸国に比べて,少なかっ. 国内線航空燃料,水上船燃料といった燃料にか. たと言ってよいだろう.それはひとえに,その. かる税,すなわちガソリン税,ディーゼル税で. 規模が,欧州諸国に比べて著しく小さいことに. あることが指摘されている(OECD[2016]) .. よるものと思われる.図 1 は,アメリカにおけ. しかし,図 2 から明らかなように,これらの課. る部門別実効炭素税率を示している.この図を. 税による平均実効炭素税率は,OECD 加盟国. 見ると, アメリカにおける排出枠価格の規模は,. の中で,極めて低い水準となっている.アメリ. 極めて小さいことがわかる.他方,アメリカで. カは,排出枠価格の規模が極めて小さく,ガソ. は,一般道路,一般道路以外道路における炭素. リン・ディーゼル税に依存した環境税・エネル. 税・エネルギー税が中心となっていることがこ. ギー課税政策を行っている.しかしその規模は,. の図からわかる.次に,各国における平均実効. 国際的に見て,極めて小さいのである.. 図 1 アメリカにおける部門別実効炭素税率. .. 実効炭素税率 (EUR/tCO2). 排出枠価格. 15. `. 産業. 業務 ・家庭. 電力. 農水産業. 20. 一般道路以外道路. 一般道路. 25. 炭素税・エネルギー税. 10 5 0. 0. 1 000 000. 2 000 000. 3 000 000. 4 000 000. 5 000 000. エネルギーを原因とするCO2 排出量の合計(単位:1000トン) 出所:OECD[2016]Effective Carbon Rates: Pricing CO 2 through Taxes and Emissions Trading System , Paris: OECD Publishing, 129 より作成。. *)横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 『エコノミア』第 69 巻第 2 号(2019 年 3 月),61-82 頁[Economia Vol. 69 No.2(March 2019),pp. 61-82].

(2) . 図 2 各国における道路部門の平均実効炭素税率. .. 平均実効炭素税率 (EUR/tCO2). その他の税 ' 炭素税 ‘. 排出枠価格. ロシア. メキシコ. ブラジル. アメリカ. インドネシア. カナダ. インド. 中国. ニュージーランド. チリ. オーストラリア. ポーランド. 南アフリカ. スペイン. アルゼンチン. ハンガリ—. ルクセンブルク. スロベニア. スロバキア. 韓国. エストニア. ポルトガル. アイスランド. オーストリア. ベルギー. フランス. チェコ. 日本. スウェーデン. デンマーク. フィンランド. アイルランド. トルコ. ドイツ. ノルウェー. オランダ. イスラエル. ギリシャ. スイス. イタリア. イギリス. 300 250 200 150 100 50 0. 出所:OECD[2016]Effective Carbon Rates: Pricing CO 2 through Taxes and Emissions Trading System, Paris: OECD Publishing, 146 より作成。.  国家の経済政策の一部門である環境政策は,. そのような税制の下で,連邦政府は,財政需要. 国家の財政運営を基礎として行われる(例えば. を満たすことができるほど十分な財源を調達す. 田代・萩原・金澤[2011] ) .アメリカという国. ることができず,巨額の累積債務を抱える事態. 家の財政は,直接支出と租税負担の規模が国際. に陥っているのである 4).. 的にみて極めて小さいという特徴がある.直接.  他方,アメリカ財政は,控除や税額控除といっ. 支出については,とりわけ,社会支出の小ささ. た税負担を軽減する租税優遇措置を政府による. がしばしば指摘されてきた 1).本稿と関連のあ. 間接的な支出と捉える「租税支出」に依存する. る連邦環境政策支出もまた,表 1 の「2015 財政. 国家であると評価されてきた 5).しかし,環境. 年度の連邦エネルギー・天然資源・環境関連歳. 政策については,このような評価は当てはまら. 出」が示す通り,アメリカ連邦財政支出全体の. ない.表 2 を見ると, 「2015 財政年度エネルギー. 1% 程度という極めて小さな規模しか行われてい. 目的及び天然資源・環境目的租税支出」の規模. ない.またアメリカは,多くの事務を行なって. は,健康,所得保障,商業及び住宅といった他. いる州・地方政府に対する連邦政府からの一般. の目的の租税支出と比べると,極めて小さいこ. 補助金の形態をとった財政調整制度をもたず,. とがわかる.すなわち,連邦段階の環境政策に. 特定補助金,あるいはブロック補助金の形態を とった連邦補助金しか採用されていない 2).さ らに,連邦税制については,個人・法人所得税 を基幹税とし,個別消費税が導入されている一 方,多くの先進国と異なり,連邦段階での付加 価値税が導入されていないという特徴がある 3). 1)この点については,Katz[2008]Skocpol[1995] を見よ. 2)このようなアメリカにおける政府間財政関 係の特質については,Morgan and Davies[2008] Walker[2000]川瀬[2012]片桐[2005]小泉[2004] が参考になる.. 3)この点については, Brownlee[2016]関口[2015] Steuerle[2008]が参考になる.アメリカの連邦段 階で,なぜ付加価値税が導入されていないのかと いう歴史的経緯については,James[2015]Prasad [2012]が詳しい. 4)以上のアメリカ財政の特質の概説については, 茂住[2018]を参観されたい. 5)このような財政の観点から見たアメリカの特 質は, 「隠れた福祉国家」としばしば表現される (Howard[1997]) .しかし,近年,この特質を,国 家財政の民主主義的統治という観点から,きわめ て批判的に捉える研究が蓄積を増している.当座, Bartels[2016]Faricy[2013]Mettler[2011]が参 考になる..

(3) . 表 1 2015 財政年度エネルギー・天然資源・環境関. 表 2 2015 財政年度連邦租税支出推計値. 連歳出. (単位:100 万ドル) (単位:100 万ドル). 実績値 エネルギー エネルギー供給 4,704 エネルギー保全 1,187 緊急時エネルギー準備 449 エネルギー情報・政策・ 495 規制 小計 6,838 天然資源・環境 水資源 7,760 保護区域管理 10,519 再生資源 3,501 環境汚染抑制 7,241 その他 7,013 小計 36,034 連邦歳出総計 3,688,292. 歳出総計に占 める割合 0.13% 0.03% 0.01% 0.01% 0.19% 0.21% 0.29% 0.09% 0.20% 0.19% 0.98% 100.00%. 出所:Office of Management and Budget [https://obamawhitehouse.archives.gov/omb/budget/ (最終閲覧 2017 年 2 月 16 日)。 Historicals]. 限ってみれば,アメリカでは,直接支出,租税 支出,どちらを通じても極めて小さな規模の事 業しか行われていないのである 6).. 職能 教育・訓練・雇用およ び社会サービス 健康 所得保障 社会保障 国防 国際関係 一般科学・宇宙及び技 術 エネルギー 天然資源及び環境 農業 商業及び住宅 輸送・交通 地域社会及び地域開発 一般目的財政補助 退役軍人給付及びサー ビス 利払い費 総計. 実績値. 総計に対する 割合. 90,140. 7.3%. 233,383 216,640 39,100 13,680 80,150. 18.9% 17.6% 3.2% 1.1% 6.5%. 13,610. 1.1%. 4,550 1,960 1,960 443,650 3,930 2,610 77,860. 0.4% 0.2% 0.2% 36.0% 0.3% 0.2% 6.3%. 8,110. 0.7%. 1,020 1,232,353. 0.1% 100.0%. 出所:Office of Management and Budget, "Tax Expenditure Spreadsheet," Table 14.1 [https://obamawhitehouse.archives.gov/omb/budget/ (最終閲覧 2017 年 2 月 16 日)。 Supplemental/].  これまで, アメリカでは, 環境対策・エネルギー 対策を民間部門が行う伝統が強く,市場メカニ. られてきた(OECD[2016]) .しかし近年,アメ. ズムに基づいた政策が採用される傾向にあるた. リカにおいて,環境政策論の研究蓄積の中で,. め,企業や消費者にとって増税となる環境税や. 炭素税・エネルギー税の財政政策の手段として. 新たなエネルギー課税が実施されにくいと考え. の可能性に関する議論が高まりを見せている.. 6)ただし,ここでの記述は,連邦政府に対象を 限定していることに注意されたい.州政府の段階で は,それぞれが異なった環境政策を行っていること は,よく知られている.最も有名な事例としては, カリフォルニア州における取り組みがある.他方, 租税支出について,連邦・州政府の段階では,共通 して,海上での石油・ガス生産費用に対する控除, 税額控除の適用が認められている.連邦政府独自の 制度としては,電力施設,環境汚染抑制施設建設費 用に対する控除や特別償却制度などがある.また, 各州政府において,独自の租税支出の制度を持つ州 政府がいくつかある.そのような州には,アラスカ, カリフォルニア,コロラド,ケンタッキー,ルイジ アナ,オクラホマ,ペンシルヴェニア,テキサス, ウェスト・ヴァージニア,ワイオミングが含まれる (OECD[2012:369ff.]) .. 調達された新たな財源を,これらの課税の租税. 例えば,炭素税やエネルギー税の導入によって 負担の逆進性を緩和する「財政的配当」として, 低所得層向け政府支出に充てることがしばしば 主張されてきた(Parry[2015]Parry, Ploeg, and Williams[2012] ) .また,炭素税・エネルギー課. 税といった環境税を,租税支出を縮小あるいは 廃止するような措置と組み合わせ,連邦税制の 財源調達能力,公平性,効率性の改善を重視し た包括的税制改正の一部として実施することが 提案されてきた(Gale, Brown, and Saltiel[2015]) . すなわち,アメリカの連邦段階においても,エ ネルギー課税の活用とその充実は,環境政策の.

(4) . 観点からのみならず,財政政策の観点からも,. 性の妨げとなるという各方面からの批判を招い. その重要性を増しつつあると言えるだろう.. たという二点が指摘されてきた.第一の点につ.  さて,アメリカの連邦段階において,環境税. いては,クリントンの経済顧問たちが 1994 財. の一つと評価される新たなエネルギー課税が提. 政年度予算案を策定する際,支出削減や富裕層. 案された時期がある.それが,1993 年に発足し. 増税に加えて,連邦段階の一般消費税提案を含. たクリントン政権期である.1980 年代までの国. まないと,既存の政府事業の持続と赤字削減の. 際的な地球温暖化対策の議論の高まりに伴い,. 目標を達成することは不可能だと考え,クリン. 炭素税を中心としたエネルギー税の導入に関す. トンに BTU 税提案を勧告したことが先行研究. る議論が,アメリカ国内でも高まりを見せてい. に よ っ て 明 ら か に さ れ て き た(Geschwind. た.そのような状況下で,クリントン政権副大. [2017] ) .第二の点については,以上のクリン. 統領に就任したアル・ゴア(Al Gore, Democrat̶. トン政権の意図が,BTU 税の逆進性に対する. Tennessee)は,石炭,石油,天然ガス及び原子. 議 会 内 民 主 党 か ら の 反 発(Brownlee[2016]. 力といったあらゆる形態のエネルギーによって. Merrill and Schizer[2010]Eskridge, Frickey, and. 産出された熱量を英国熱量単位(British Thermal. Garrett[2004]) ,エネルギー消費と経済効率性. Units:BTU)で測定し,それに従って消費者と. を阻害しうるという,製造業者,農家,航空業. 企業のエネルギー使用に課税する「BTU 税」の. 界,エネルギー源(石炭,石油)産出州や消費. 提案をクリントンに勧告した.この BTU 税は,. 量の多い州の議員( 特に中南部,西部 )からの. 1993 年 2 月 17 日,クリントン政権が提案した. 批判を招いたことが指摘されてきた(Ippolito. 1994 財政年度予算案に含まれていた.この予算. [2012]Morgan[2009]Goulder[1994]Lee[1994]) .. 案は,赤字削減,長期的な投資促進,及び短期. さらに,これらの反発に対応するため,下院案. 的な景気刺激策の組み合わせとして提案され. に追加された多くの免税措置が,それらの効果. た.そのうち,赤字削減策は,歳出抑制と増税. や適用の有無に伴う不公平性を理由として,上. によるものであり,5 年間で約 7000 億ドルの財. 院では批判の対象となり,BTU 税が廃案に追. 源を確保し,その三分の二を連邦予算赤字削減. い込まれる要因の一つとなったことが指摘され. に,残りを長期的投資・短期的景気刺激策の財. て き た の で あ る(Fischer, Morgenstern, and. 源に充てることが目的とされていた.BTU 税は,. Richardson[2015] ) .. この増税策の一部として提案された.しかし,.  以上の見方に対して,本稿の論点は以下の二. BTU 税は結果的に廃案に追い込まれ,1 ガロン. つである.第一に,クリントン政権期において,. あたり 4.3 セントのガソリン増税に置き換えら. BTU 税に与えられた位置づけがいかにして変. れることとなった.そして,BTU 税は,租税政. 化したのかという点である.実は,今日のアメ. 策の環境政策としての利用に失敗した,アメリ. リカにおいて,ほぼ唯一の環境目的のエネル. カ財政史及び環境政策史の一部として位置づけ. ギー課税といえるガソリン税は,1970 年代か. られることとなったのである.本稿では,アメ. ら 80 年代にかけて,増税論議の対象となって. リカにおける環境税政策の特質に鑑み,以上の. いた.1970 年代のガソリン増税論議は,民主. BTU 税の廃案過程を分析していくこととする.. 党による逆進性批判のため実現しなかった.そ.  クリントン政権期における BTU 税の提案と. の一方で,連邦財政の状況が極めて悪化した. 廃案については,①クリントン政権が BTU 税. 1980 年代のレーガン政権期においては,ガソ. の環境・エネルギー保全目的の側面ではなく,. リン増税が財政健全化のための方策の一つとし. むしろ財源調達手段としての側面を強調してい. て提案され,実現したという経緯がある.また,. たこと,②そのような BTU 税の提案が,税負. 1992 年大統領選挙時,クリントンは租税負担. 担の逆進性を強め,エネルギー使用や経済効率. の逆進性を理由にガソリン増税に反対していた.

(5) . という指摘の一方で(Geschwind[2017:185]) ,. 業に対する租税優遇措置の提供だった.この時. 当時の赤字削減と環境保全に対する機運が,. 期に提供された租税優遇措置の中心は,労働費. BTU 税を中心とした増税提案へとクリントン. 用,原材料の調達や供給,修繕費用などの無形. 政権を進ませたという対照的な指摘が行われて. の掘削諸費用(Intangible Drilling Costs:IDCs). いる(Brownlee[2016:222]) .以上の点を踏ま. 控除及び減耗控除の適用といった措置であっ. えると,当時の財政状況,環境政策に関する議. た.. 論,及び各政策主体のエネルギー課税に対する.  このような連邦エネルギー税政策の焦点は,. 見方との関連で,クリントン政権が BTU 税提. 1970 年代におけるいくつかの出来事が契機と. 案に至る経緯とその意図を再検討する必要があ. なり,劇的に移り変わることとなる.まず,連. るだろう.. 邦財政赤字の急速な拡大,及び特定の産業にの.  第二の論点は,国際比較の観点から見た,. み利益を与える租税優遇措置の性格に対する批. BTU 税の廃案過程の検討である.これまで,. 判が高まっていた.第二に,人々の間で,環境. 欧州各国において,環境税の導入と再分配や産. 汚染の認識と環境の悪化に対する懸念が広まり. 業政策との調整が行われてきたことがしばしば. を見せていた.更に,1973 年の第一次石油危. 指摘されてきた(倉地[2017]島村[2017]佐藤. 機の発生以降,エネルギー市場における諸問題. [2016]) .これに対して,アメリカでは,同様. がアメリカ経済に波及し,スタグフレーション,. の議論は行われてこなかったと一方では言われ. エネルギー不足,生産費用の上昇,石油輸入依. ている(Geschwind[2017]) .しかし, 他方では,. 存の強まりが起こっていた.そして,このよう. クリントン政権期における BTU 税導入の失敗. な経済的な混乱は,失業や貧困,人々の生活の. が,当該期における租税優遇措置を通じた民間. 圧迫といった,経済社会的諸問題の悪化につな. 投資刺激の試みの妨げになったという指摘があ. がっていった 7).以上の状況下で,国内の石油・. る(Morgan[2009:176]) .また日本においては,. ガス産業に対する政治的な支えは,少しずつ掘. 地方独自課税としての森林・水源環境税を巡っ. り崩されていった.同時に,連邦政府は,石油・. て,その目的税的性格の是非,及びその税収に. ガス産業に対する租税優遇措置が生む税収の損. よって進められる政策の実施主体のあり方が議. 失を,徐々に正当化できなくなっていったので. 論されてきた(諸富・沼尾編[2012]藤田[2001]) .. ある(Lazzari[2008]) .. 以上の点を踏まえると,環境税を巡る「二重の.  そのため,1977 年に発足した民主党ジミー・. 配当」論と環境政策の主体のあり方に関する議. カーター(Jimmy Carter)政権の下で,連邦政府. 論を踏まえ,廃案に追い込まれる過程で,クリ. のエネルギー税政策は転換を迫られることと. ントン政権の BTU 税提案の意図が各政策主体. なった.1978 年エネルギー課税法(The Energy. によってどのように評価されたのかを検討する. Tax Act of 1978)では,IDCs 控除及び減耗控除. 必要があるだろう. 以上の問題意識に基づいて,. といった石油・ガス産業に対する主要な租税優. 本稿では,BTU 税の提案から廃案までの過程. 遇措置の縮小・廃止,化石燃料(特に石油,ガス,. を追跡していくこととする. 1.クリントン政権発足以前のエネルギー課税の 動向と連邦財政の状況.  1918 年から 1970 年代までのアメリカ連邦政 府段階におけるエネルギー税政策の焦点は,石 油とガスの生産,及び利用を促進することだっ た.そのために採用されたのは,石油・ガス産. 及び石炭)の使用を抑制するためのいくつかの新. たな個別消費課税,及び燃費の比較的悪い大型 自動車両の売り上げに課税する「燃料多消費車 税(gas-guzzler tax) 」が実施された.1980 年には, 原油価格の高騰による石油会社の利潤の一部を 7)この時期のアメリカにおける社会政策の動 向と社会的状況の関連については,茂住[2018] Katz[2008]を参観されたい..

(6) . 吸い上げる超過利潤税(windfall profit tax:WPT). た.1990 年包括的予算調整法(Omnibus Budget. が導入された.同年の包括的環境的反応・補償・. Reconciliation Act of 1990: OBRA90)において,. 責任法(Comprehensive Environmental Response,. エネルギー保全と赤字削減を目的とした 1 ガロ. Compensation, and Liability Act of 1980)では,ア. ンあたり 5 セントのガソリン増税と燃料多消費. メリカ国内の製油所で受領された原油に対する. 車税の倍加が行われた.その一方,OBRA90 で. 個別消費課税が実施された 8).さらに, 同法では,. は,①石油・ガス企業に対して,国内に残留し. エネルギー保全や再生可能燃料などの代替的な. ている石油資源の増進回収目的支出に対する. 燃料の開発,及びエネルギー効率性と代替的燃. 10%の税額控除,減耗償却控除の制限緩和と. 料技術の商業化を促進する目的の租税優遇措置. いった租税優遇措置が,②代替的な燃料につい. が多く導入された .以上のように,1970 年代. ては,非在来型燃料に対する税額控除の拡大と,. 後半にかけて,連邦段階のエネルギー税政策は,. 自動車両燃料として利用されるエタノールの小. 石油・ガス産業の享受していた租税優遇措置の. 規模生産者に対する税額控除が導入された.ま. 縮小や廃止,石油とガスを中心とした従来の化. た,1992 年エネルギー政策法(Energy Policy. 9). 石燃料の利用を罰する個別消費税の導入,及び. Act of 1992)では,①風力及びバイオマスシス. エネルギー保全と代替的燃料の発展を目的とし. テムによって発生した電力に対する,1 キロ. た租税優遇措置の導入へと,その方向性の転換. ワット時あたり 1.5 セントの税額控除,②クリー. が図られたのである.. ン燃料で動く乗り物の費用に対する最大 2000.  これに対して,ロナルド・レーガン(Ronald. ドルの控除,③アルコール燃料に対する免税範. Reagan)は,石油とガスの発展,エネルギー. 囲の拡大,④非在来型エネルギー源の生産に対. 保全,代替的燃料の供給を促進する目的でエネ. する税額控除が導入された(Lazzari[2008]) .. ルギー課税を利用することに反対する姿勢を示. ブッシュ政権期において,連邦段階の環境税・. していた.そのため, 彼が大統領に就任すると,. エネルギー税政策は,石油とガスの供給や使用. 1982 年には再生不可能な技術の大部分の形態. を抑制する目的の課税強化,エネルギー保全や. に対する法人向けエネルギー税額控除の大部分. 代替的エネルギー源の開発や利用を促進する目. が,1985 年には,その他法人向けエネルギー. 的の租税優遇措置を導入する傾向にあった.さ. 関連税額控除,及び居住設備向けエネルギー税. らに,この時期には,エネルギー課税に財源調. 額控除が廃止された.さらに,1988 年には,. 達手段としての役割が付け加えられることと. WPT が廃止されたのである 10).. なったのである..  しかし,1989 年に発足したジョージ・ブッ シュ(George H. W. Bush)政権は,1970 年代同 様,エネルギー保全と代替的燃料に焦点が当て られたエネルギー課税政策へと回帰していっ 8)結果的に,この個別消費課税は,1995 年に廃 止されることとなった. 9)カーター政権期におけるエネルギー政策に ついては,Biven[2002]を参観されたい.また, 1970 年代における石油危機に伴うアメリカ政治経 済の混乱については Jacobs[2016]が参考になる. 10)レーガン政権期における税制改正とその評 価については,Mozumi[2018]Brownlee[2016] Steuerle[2008]を見よ.また,1980 年代のエネ ルギー保全政策とエネルギー税政策については Geschwind[2017]及び Nivola[1986]が詳しい.. 2.1990 年代初頭までの国際的な環境税政策の 動きとクリントン政権の発足.  アメリカ国内では,以上のようなエネルギー税 政策が行われていたにも関わらず,クリントン政 権発足前の主要なエネルギー源は,未だ石油, ガス,及び石炭だった.特に,国内で生産され た石炭の多くが国内の発電施設で利用されてお り,その割合は国内の発電所の約 55%に上って いた.その一方で,国民の約 60%が石炭使用の 増加に反対を示していた.様々な石炭関連協会 が,人々が石炭から連想するものを調査した際 には,落盤事故,ぼた山,酸性雨,黒肺塵症,.

(7) . ススで汚れた空,二酸化炭素,労働者に対する. で出版された彼らの政策綱領集,「人々を第一. 暴力的な扱い,メタンガスの爆発などといった印. に(Putting People First)」で,彼らは,租税政策,. 象が挙げられる状況だった.また, 上述のように,. エネルギー政策及び環境政策の方向性を,初め. 70 年代や 80 年代においては,輸送インフラの改. て明確に示した.租税政策の方向性として,彼. 善や財政赤字削減のために,アメリカでも石油. らはまず,①最も富裕な国民に公平な税負担を. 輸入料金やガソリン税,及びその他石油製品に. 支払わせること,②国内の生産設備を閉じ,雇. 対する課税を引き上げる努力が試みられてきた.. 用を海外に移動させているアメリカ企業の租税. しかし,そのことが海外の安いエネルギー源へ. 優遇措置を終わらせること,③過剰な企業の費. の依存を招き,貿易赤字の大幅な悪化,有害な. 用控除を縮小あるいは廃止すること,④税法を. 温室効果ガスの発生による環境汚染の要因と. 有利に操作し,公平な税負担を潜り抜けている. なっていると指摘されていたのである 11).. 海外企業を制裁することといった,増収をもた.  このような状況で,ゴアは 1992 年の時点で,. らす措置の提案に言及していた.次に,民間投. 炭素税を含む様々な二酸化炭素排出抑制策を提. 資を促進する戦略の一環として,①国内におけ. 唱している存在として知られていた.石炭産出. る新規生産設備への投資を促進するための投資. 州では,クリントンが大統領に就任した場合,. 税額控除,②中小企業と起業家に対して,新規. ゴアの存在を理由として,地球温暖化の原因と. 事業における長期投資によるリスクを負った者. 考えられている二酸化炭素排出量を抑制する炭. に対して 50%の除外措置の提供,③調査研究. 素税が提案されると予想されていた.しかし炭. に対する税額控除の恒久化が掲げられていた.. 素税の実施は,伝統的に民主党を支持し,彼ら. さらに,家族を強化し,全ての国民が労働でき. に投票してきた鉱山業者や労働者の生活水準を. るようにし, 「私たちが知っている形の福祉を終. 引き下げる可能性があり,彼らが民主党への投. わらせる」ために, ①勤労所得税額控除(Earned. 票を考え直しかねないと予想されていた. .. Income Tax Credit: EITC)を拡大し,貧困線と. 12). そのため,1992 年大統領選挙時,クリントンは,. 世帯の所得の間の違いを拡大させ,EITC の適. 環境保全を目的としたエネルギー課税の提案を. 用範囲をパートタイマーにまで拡大し,労働イ. 考えていたが,それを前面に押し出すことを避. ンセンティブを拡大すること,②高所得層増税. けていた.その際,クリントンとゴアの経済政. による増収を代替財源として,児童税額控除と. 策の計画に対する記者会見の質問応答集では,. 所得税率引き下げのどちらかを選択することを. 彼らは炭素税を提案する予定はないということ. 可能とし,中間層の税負担を引き下げることが. を強調することが確認されるほどだったのであ. 掲げられていた.以上の租税政策は,財政健全. る 13).. 化と政府事業の財源調達,及び中間層の負担軽.  1992 年 9 月 12 日,クリントンとゴアの連名. 減を目的として,「人々を第一に」に含まれて. 11)Alan E. Groves,“Enemy of Coal Use,” Evansville Courier Journal , August 8, 1992, National Security Council, Speechwriting Of fice, and Rober t Boorstin,“Carbon Tax,”Clinton Digital Librar y , accessed May 2, 2018, http://clinton. presidentiallibraries.us/items/show/10331. 12)Ibid. 13)"Carbon Tax," Undated, National Security Council, Speechwriting Office, and Robert Boorstin, “Carbon Tax,”Clinton Digital Librar y , accessed May 2, 2018, http://clinton.presidentiallibraries.us/ items/show/10331.. いたのである(Clinton and Gore[1992:3ff.]) .  クリントンとゴアはまた,過去 12 年間の共和 党政権期のエネルギー政策が,①非常に多くの 石油・ガス生産者及び掘削会社を倒産させ,国 民の失業を招いたこと,②石油・ガス輸入の増 加が将来の世代に空前の負債とエネルギー源の 海外への依存をもたらしたと批判していた.環 境政策について,彼らは,①固形の毒性廃棄物 と大気及び水質汚染を減らすこと,②自然の景 観と環境保護意識の重要性を保持すること,③.

(8) . 汚染者を罰すると同時に,環境保全及びグリー. いた.その際,ゴアは,石油と天然ガスにも課. ン化を行う営利的実践を促進すること,④国際. 税されるが,最も環境汚染の引き起こす燃料で. 的な環境保全について指導的な立場となるこ. ある石炭の使用にも打撃を与えるという理由か. と,⑤化石燃料の使用とオゾン層を破壊する化. ら,BTU 税が環境的に最も健全であると主張し. 学物質の排出を抑制することを目的として掲げ. ていた.また彼は,このようなエネルギー課税. ていた.そこでクリントンとゴアは,エネルギー. の実施は,アメリカを環境問題の国際的な先導. 保全と再生可能エネルギーの利用を促進する租. 役に押し上げうると同時に,BTU 税を含む大胆. 税優遇措置を提供する一方,大気汚染物質とエ. な増税案は,ビジネスマン,ウォール・ストリー. ネルギー浪費を罰するような課税を組み合わせ. ト,議員,メディア,及び学術関係者全てに対. た,税収中立的な税制改正の実施を公約として. して,クリントン陣営が財政健全化に真剣に取. 掲げていた.この時点では,クリントンのエネ. り組む姿勢であるということを納得させると主. ルギー課税案は,財源調達を目的としたもので. 張していた 14).そこでクリントンは,ゴアの主. はなかった.むしろ,税収中立的なエネルギー. 張に鑑み,BTU 税の提案に関する調査研究をベ. 課税の実施によって,再利用可能な製品の市場. ンツェンに依頼した.こうして BBET と BTU. を創出し拡大すること,天然ガスのような新た. 税は,環境保護,エネルギー保全,財源調達の. な燃料の選択肢を増やすこと,水力発電,太陽. ための手段として,クリントン政権内の議論に. 光,風力といったような再生可能エネルギーの. 浮上したのである(Woodward[1994:88ff.]) .. 利用を促進すること,及び環境保護を促進する.  同時期,議会内外における環境問題の専門家. と同時に経済成長を実現させることをその目的. は,政権と同様の考えの下,様々な形の燃料に. ] として掲げていたのである(Ibid.[1992:89ff. ) .. 対する課税の必要性に言及していた.天然資源. 3.クリントン政権内外でのエネルギー課税に 対する評価.  1992 年 11 月 3 日の当選 後,クリントンは,. 保 護 協 会(Natural Resources Conser vation Community of Use)上級研究員ダン・ラショフ. (Dan Lashof)は,エネルギー課税は「 (連邦財政 赤字と環境問題:引用者注)双方の問題を同時に. 彼の政策顧問たちとともに,自身の政策綱領の. 解決することができる政策」であり, 「非常に魅. 内容の具体化を開始した.クリントン政権の税. 力的なものである」と述べていた.世界資源機. 制改正は,赤字削減策と「人々を第一に」で提. 構(World Resources Institute)局長ロジャー・ダ. 案されていた政府事業と中間層減税のための増. ワー(Roger Dower)は, 「エネルギー課税は,. 税として考えられていた.その起草に中心的に. 生産物や貯蓄に対する課税を引き下げることに. 関わっていたのは,財務長官に内定していたロ. よって,また赤字を削減することによって,経. イド・ベンツェン(Lloyd Bentsen)とゴアだった.. 済を助けるために利用されうる」ものであり,. 1993 年 1 月 7 日の経済政策顧問とクリントンの. インフラ整備,包括的医療保険の提供,教育の. 会合でベンツェンが提案したのは,富裕層に対. 改善といったクリントンの選挙公約に含まれて. する個人所得増税,法人所得税率引き上げ,煙. いた事業の財源調達を可能にすると述べてい. 草税及び酒税増税,企業の飲食費控除の縮小,. た.さらに,エネルギー課税支持層の急先鋒で. 1 ガロンあたり 4 セントのガソリン増税だった. 以上の組み合わせによって,5 年間で最大 2500 億ドルの増収が見込まれていた.同日に行われ たゴアの報告では, 「広い課税ベースをもつエ ネルギー課税(broad-based energy tax: BBET) 」 として,BTU 税を含む広範な選択肢が示されて. 14)B. ウッドワードによると,ゴアは,欧州諸 国や日本が,アメリカがエネルギー課税を実施し た場合,彼ら自身も同じ政策を採用すると述べて いたことから,BTU 税のようなエネルギー課税は, アメリカを国際的な環境問題の先導役に押し上げ うると考えていた(Woodward[1994:88ff.])..

(9) . あった民主党下院議員のピート・スターク(Pete. 院 内 国 歳 入 委 員 会(Committee on Ways and. Stark, Democrat̶California)は, 「政府の財源と. Means: CWM) と 上 院 財 政 委 員 会(Senate. 環境汚染者に対する課税に対する人々の支持が,. Finance Committee: SFC)における審議を通過す. 最終的に議会をエネルギー税の採用へと導くだ. る必要があった.この時,クリントン政権は,. ろう」と好意的な評価を述べていたのである. .. BBET の抱える負担の逆進性や,特定の地域に.  この時,環境問題専門家の間で最も支持され. 対する負担の集中の可能性に関する批判を懸念. ていたのは,地球温暖化の要因と考えられてい. していた.そのためこの段階で,クリントンは,. た二酸化炭素排出にかかる炭素税だった.しか. BBET の提案は低中所得層の納税者向けの減税. し,炭素税は,ウェスト・ヴァージニア,ワイ. との組み合わせで提案されなければならない. オミング,テキサス及びノース・ダコタといっ. と,公に述べていたのである 17).. 15). た,エネルギー集約産業の生産する財やサービ スの規模の大きい州や,都市部より長い距離を. 4.財源調達手段としての BTU 税の採用と提案. 運転する人々の住む田園地帯,他の地域より高.  ところが,財政健全化の達成という公約が,. 額な暖房料金が必要な北部諸州といった地域で. クリントン政権の政策立案を大きく制約するこ. は,大規模な量のエネルギーを生産し,購入す. ととなった.1993 年 1 月 13 日の政策顧問の会. る必要があるため,炭素税がこれら特定の地域. 合において,大統領府に新設された国家経済委. に相対的により重い負担を強いると予想されて. 員会(National Economic Council: NEC)副委員. いた. .また,炭素税は,核燃料,太陽光及. 長に内定していたジーン・スパーリング(Gene. び水力発電に伴って排出される二酸化炭素には. Sperling)が,景気の動向を踏まえた上で予算. 課税されないという問題点が指摘されていた.. の見積もりを修正すると,1997 年度までの予. さらに,炭素税は,石炭に経済活動を依存して. 算赤字が約 500 億ドル増加すると報告してい. いる州の議員から,広い範囲の産業や利害集団. た.この予想は,中間層減税や大規模の公共投. に打撃を与えると,強烈な反対が出ることが予. 資事業といったクリントンの選挙公約の実現が. 想されていたのである.. 困難であることを意味していた.もし,その困.  BTU 税は,以上の批判や問題点を乗り越え. 難が現実のものとなれば,BBET の提案は,中. ることのできる方策であると評価されていた.. 間層に最も負担を強いるだけのものとなりう. 炭素税より BTU 税を好む環境問題専門家は,. る.しかしスパーリングは,BBET がなければ,. この課税の形態が,鉱山,鉱泉,あるいは港湾. 連邦財政赤字は 1997 年までに 2500 億ドルまで. に加えて,太陽光や原子力,水力発電所のプラ. 増えると予想していた.もし BBET が採用さ. ントについても課税の対象となる点を好意的に. れなければ,中間層減税と政府事業の財源調達,. 評価していた.しかし,BTU 税を含むいかな. 財政再建,全てが不可能になりかねなかったの. る BBET の法案も,その成立のためには,下. である(Woodward[1994:94]) .. 16).  そのため,クリントン政権は,税制改正案の 15)Jon Healey,“Deficit, Environmental Worries Push Fuel Taxes to Forefront,”Congressional Quarterly Weekly Report , January 9, 1993, 73-74. 16)Hazel R. O Leary to Thomas McLarty,“Weekly Report,”March 19, 1993, History of the Department of Energy and Clinton Administration Histor y Project,“[Energy̶1993 White House Weekly Reports] [1],”Clinton Digital Library , accessed April 27, 2018, https://clinton.presidentiallibraries.us/ items/show/4645.. 修正に着手せねばならなかった.1 月 25 日, クリントンの政策顧問の会合では,①失業率は 7.3% で,製造業の能力は 78.4% しか使用されて おらず,全ての資源が活用された場合,約 4% 生産が増加すること,②そのため景気刺激策が 17)Jon Healey,“Deficit, Environmental Worries Push Fuel Taxes to Forefront,”Congressional Quarterly Weekly Report , January 9, 1993, 73-74..

(10) . 必要であるが,他方で赤字削減策の実施が緊要. 輸入手数料以外の BBET は,財政金融政策によ. であること,③赤字削減策が購買力を経済から. る経済成長抑制効果の相殺が可能であるとみら. 奪い去る前に経済を成長させなくてはならない. れており,石油輸入手数料と従価税以外は,イ. こと,④連邦準備が赤字削減策の景気抑制効果. ンフレーションが進行するにつれて,税収が減. を相殺するよう,利子率引き下げなどの拡張的. 少すると予想されていた. 「燃料市場」 の欄では,. な金融政策を行うのは赤字削減が実現されてか. 石炭と石油に対する影響が比較されていた.こ. らだろうということ,⑥したがって,赤字削減. の欄を見ると,従価税は物価に与える影響が最. 策をまず実施し,信用緩和が始まり,それらが. も大きく,炭素税は石炭に対して最も重く負担. 実際に効果を発揮することを連邦準備が確認し. がのしかかり,ガソリン税は石油のみにかかる. た段階で景気刺激策を行う必要があるだろうと. ということが懸念される一方,BTU 税は石炭に. 考えられていた.この時,歳出抑制に次いで予. 対する影響が従価税と炭素税の中間と予想され. 算赤字削減のための方策として挙げられていた. ていた. 「環境」の欄では,炭素税と石油輸入. のは増税だった.この増税のうち,高所得層増. 手数料が最も大きな二酸化炭素削減効果をもつ. 税,ガソリン増税,法人向け租税優遇措置の縮. とみられていた.しかし,税収確保の効率性と. 小・廃止の提案は既定路線となっていた.しか. いう観点からは,BTU 税が最も高く評価されて. し,これらの措置だけでは,1997 財政年度に. いた. 「競争力」の観点からは,ガソリン税は消. おける赤字削減額の目標と比べて,約 230 億ド. 費に最も影響を与え,石油輸入手数料は,他国. ルの収入不足が発生することが予想されてい. の要求の結果,免税措置が導入され,税収が減. た.そのため,クリントンの政策顧問たちは,. 少すると予想されていた.他方, 従価税, BTU 税,. この差額を埋めるために BBET の提案が必要. 炭素税は,エネルギー集約型企業は,損害を被. であると結論付けたのである. .. 18). るものの,それ以外の企業は財政赤字削減に.  この BBET を含む赤字削減策について,ベン. よって多少の利益を得るとみられていた.さら. ツェンを中心として,財務省内で詳細な分析が. に, 「その他」の欄では,従価税と BTU 税,炭. 行われた.大統領府内の行政管理予算局(Office. 素税は,所得と地域に従って税負担の配分は同. of Management and Budget)局長レオン・パネッ. 程度となることが予想されていたが,ガソリン. タ(Leon Panetta)は,いくつかの形態のエネル. 税と石油輸入手数料は,BTU 税より税負担が逆. ギー課税がもたらす影響の比較の結果を報告書. 進的となり,地域的な統一性を持たないと予想. にまとめ,クリントンに送付していた 19).表 3. されていたのである.. では,BBET によってもたらされる影響が比較.  表 4 では,各 BBET がエネルギー価格に与え. されていた. 「経済成長」の欄において,石油. る影響の予想が比較されていた.これを見ると,. 18) “Economic and Budget Briefing III,”January 25, 1993, National Security Council, Speechwriting Office, and Robert Boorstin,“Economic Program [2],”Clinton Digital Librar y , accessed April 26, 2018, https://clinton.presidentiallibraries.us/items/ show/10001. 19)Leon E. Panetta to the President Clinton, “Your Questions on the Budget,”February 1, 1993, Histor y of the National Economic Council and Clinton Administration Histor y Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],”Clinton Digital Librar y , accessed April 17, 2018, https://clinton. presidentiallibraries.us/items/show/4810.. 石炭,天然ガスの生産者価格に与える影響はほ. 2000 年において,どの BBET も,おおよそ,石油, とんどないか,価格が引き下げられることが予 想されていた.その一方で,最終消費段階での 各種エネルギー価格に与える影響を見ると,ど の BBET も一定程度の価格上昇をもたらすと予 想されていた.エネルギー源別にみていくと, 石炭については,炭素税,BTU 税,および従価 税(販売開始時) ,石油輸入手数料の順に価格を 引き上げると予想されていた.ガソリンについ ては,ガソリン税,石油輸入手数料,従価税(最.

(11) . 表 3 エネルギー課税の予想される効果の比較 経済成長. 燃料市場 環境 競争力 その他 他の選択肢より最も 石油に重い負担がか 経済に対する 販売開始時点 かり、石炭に対する 影響はほぼ同 での従価税 負担が最も軽い。物 じ。拡張的金 価に与える影響が最 二酸化炭素排出削減 融政策あるい も大きい。 効果はほぼ同様であ エネルギー集約型企業 は財政政策に 課税ベースにエネル る が、BTU 税 が 最 は損害を被る。それ以 よって相殺さ ギーと同様に資本も も税収確保の効率性 外は、赤字削減によっ 所得と地域に れ な い 限 り、 含まれるため、燃料 が高い。加えて、自 て 多 少 の 利 益 を 受 け 従って、税負 最終消費段階 全ての課税が 市場に対する影響が 動車の利用に関連す る。競争力の低下は、担の配分は同 での従価税 短期的な経済 最も小さい。物価に る環境費用を削減す EC 及び日本と協調す じようになる。 成長を抑制す 与える影響が最も大 る効果が期待される。ることによって回避す る。従価税は きい。 ることができる。 一定の税収を 石炭に対する影響は もたらし、そ BTU 税 従価税と炭素税の中 の他の課税で 間。 はインフレ調 石炭に対する最も重 二酸化炭素排出に最 整がない限 炭素税 い負担。 も焦点が絞られる。 り、その税収 自動車利用削減効果 は下落してい 生産とは対照的に、全 が最も期待される ガソリン税 くだろう。 石油にのみかかる。 ての選択肢の中で、最 が、二酸化炭素削減 も消費に影響を与える。BTU 税より多 効果は最も小さい。 少逆進的とな 国内の石油生産業者 GATT 及び NAFTA に り、地域的な エネルギー価格に対 は、棚ぼたの利益を 関連する問題を想定し 統一性がな 金融政策によ する影響が最も大き 石油輸入手数 得る。掘削は大きく て、イギリス、ベネズ い。 る調整が最も いため、短期的には 料 増えるだろうが、生 エラ、メキシコ、カナ 困難。 最も二酸化炭素削減 産の増加はそれほど ダは免税措置を要求し 効果が大きい。 ではない。 てくるだろう。 出所:"Comparison of Alternative Energy Taxes," Undated, Histor y of the National Economic Council and Clinton Administration History Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],”Clinton Digital Library , accessed April 17, 2018, https://clinton.presidentiallibraries.us/items/show/4810.. 終消費段階 )の順に価格を引き上げ,それ以外. くなると予想されていたのである.. は同程度と予想されていた.家庭で消費される.  以上の調査結果に従って,政権内の BBET. 石油については,石油輸入手数料が最も大きな. 採用の議論を主導したのは,NEC 委員長ロバー. 影響を与えるが,それ以外はガソリン税を除い. ト・ルービン(Robert Rubin)とベンツェンだっ. て同等の影響力を持つと見られていた.天然ガ. た.ルービンは,エネルギー課税による増収が,. スと電力について,ガソリン税はほとんど価格. 予算赤字を減らす一方で,連邦政府の必要とし. に影響を与えず,石油輸入手数料の影響は不確. ている政策の提供を可能にし,エネルギーの効. 定か,小規模だと予想されていた.それ以外の. 率的な利用と環境的安全的コストを反映した燃. BBET が天然ガスと電力の価格に与える影響は,. 料の利用を促進すると主張していた.彼は,石. おおよそ同程度である予想されていた.最後に,. 炭に最も重い負担を課す炭素税,狭い範囲にの. 表 5 を見ると,多少の幅はあるものの,二酸化. み負担を課すガソリン・ディーゼル税や輸入手. 炭素排出量の変化率の最大予想値は,石油輸入. 数料に比べ,従価税と BTU 税の二つの形態は,. 手数料,炭素税,BTU 税,従価税(販売開始時) ,. 産業部門や地域を超えて広く課税することが可. 従価税(最終消費段階) ,ガソリン税の順に大き. 能で,比較的低い税率で所与の収入目標を達成.

(12) . 表 4 各エネルギー課税がエネルギー価格に与える影響の予想 2000 年における生産者価格 従価税 2000 年基 従価税 BTU税 1990年 炭素税 礎的予想 (販売開始時)(最終消費時) 石油(原油) バレル 20.03 22.95 0.0% -1.0% -0.5% -0.4% 石炭(坑口) 米トン 21.71 26.45 -0.4% -0.1% -0.2% -0.4% 天然ガス(坑口)千立法フィート 1.71 2.58 -0.8% -0.5% -0.4% 0.0% 2000 年における最終消費段階での価格 従価税 2000 年基 従価税 BTU税 1990年 炭素税 礎的予想 (販売開始時)(最終消費時) 石炭(公益施設)米トン 31.32 34.38 17.7% 12.2% 0.0% 20.1∼36.7% ガソリン(小売)ガロン 1.26 1.44 2.6% 2.6% 4.5% 3.4% 石油(家庭) ガロン 1.12 1.08 3.7% 3.7% 4.5% 4.4% 天然ガス(家庭)千立法フィート 6.10 8.90 4.3% 4.3% 4.6% 4.2% 電力(住居) キロワット 0.08 0.80 5.8% 5.8% 5.3% 5.3% □. ロ. I. 自動車 石油輸入 燃料税 手数料 -1.1% -4.1% 0.0% -0.2% 0.4% -4.3% 自動車 石油輸入 燃料税 手数料 0.0% 1.6% 12.5% 11.7% -0.3% 15.9% 0.1% -1.5∼8.8% 0.0% 1.5%. 出所:"Alternative Energy Taxes: Energy Market, Environmental, and Economy-wide Impacts," Undated, History of the National Economic Council and Clinton Administration History Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],” Clinton Digital Library , accessed April 17, 2018, https://clinton.presidentiallibraries.us/items/show/4810.. 表 5 二酸化炭素排出量の変化率. 1990 2000. 基礎的な排出量 の予想. BTU 税. 1,349 1,497. -1.4∼-2.1%. 基礎的予想からの変化 従価税 従価税 炭素税 (販売開始時)(最終消費段階) -1.5∼-2.0%. -1.1∼-1.3%. ガソリン税 石油輸入手数料. -1.3∼-2.5% -0.6∼-1.1%. -2.3∼-3.0%. 出所:"Alternative Energy Taxes: Energy Market, Environmental, and Economy-wide Impacts," Undated, History of the National Economic Council and Clinton Administration History Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],” Clinton Digital Library , accessed April 17, 2018, https://clinton.presidentiallibraries.us/items/show/4810.. でき,実体経済への影響を制限することができ.  他方,ベンツェンは,2 月 12 日に開かれたエ. ると考えていた.また,ルービンは,BBET に. ネルギー課税の採用について会合で,BBET の. よる税負担の増加は,税収の一部を個人所得税. 採用について報告していた. この時ベンツェンは,. や賃金税の形での中間層向け税負担軽減措置な. BTU 税の増収効果と大気を著しく汚染する燃料. どで「払い戻す」ことによって相殺することが. の利用を抑制する効果について報告していた.ま. 可能だと考えていた.さらに彼は,エネルギー. た彼は, 「全ての消費にかかる課税対象の広い課. 課税の導入は,「貯蓄,投資及び労働の努力に. 税」は,税収の調達,貯蓄拡大,経済の活性化. 対する見返りに対する付属的な利益とともに,. に寄与すると強調していた.しかしそのような課. アメリカ経済を所得ベース(の課税:引用者注). 税の実施は,税務行政上著しい困難を伴うため,. から消費ベースの課税へ移行させることを促進. 反対していた.これに対して BTU 税は,エネル. する」とクリントンに伝えていたのである 20).. ギー消費にのみ課税されるので,同様の目的を追. 20)Robert E. Rubin to the President,“Energy Tax Decision Memorandum,”Febr uar y 5, 1993, Histor y of the National Economic Council and Clinton Administration Histor y Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],”Clinton Digital Librar y , accessed April 17, 2018, https://clinton. presidentiallibraries.us/items/show/4810.. 求することが可能な一方,一般消費税より税務行 政上の優位性を保つとベンツェンは考えていた. そのため,連邦段階における一般消費税導入へ のステップとして, 「私たちは手始めに,BTU 税 から始めるべきである」とクリントンに勧告して ] いたのである(Woodward.[1994:95ff. ) ..

(13) .  以上の検討の結果,最終的に,様々な形態の. クリントンは BTU 税を提案する際, 「累積債務. BBET のうち,BTU 税とガソリン増税が政権の. の削減の促進と同時に,環境汚染を抑制し,エ. 増税策の一部として採用されることとなった. ネルギー効率性を促進し,この国の経済的な独. .1993 年 2 月 17 日,クリントン政権の予算. 立をも促進するため,そして,あらゆる地域を. 21). 案の一部として BTU 税とガソリン増税が提案. 差別的に扱わないため,赤字を引き下げるため. された.ガソリン増税の内容は,1 ガロンあた. の収入を私たちにもたらす最も良い方策とし. り 2.5 セントの税率引き上げであり,1993 年か. て」 BTU 税を採用すると述べていた.続けて, 「炭. ら 98 年における増収額は 78 億ドルと見積もら. 素税とは異なり,石炭に経済活動を依存する州. れていた. にそれほど厳しくなく,ガソリン税とは異なり,. .他方,BTU 税の提案内容は,ア. 22). メリカ国内における化石燃料(石油,天然ガス,. 通勤のために両距離を運転する人々にそれほど. 及び石炭)の消費,水力及び原子力発電によっ. 重くなく,従価税とも異なり,エネルギー源の. て生じた熱量を BTU で測定し,それに従って. 価格が上昇した時に税負担が上昇しない」こと. 課税するものだった.徴税される時点(collection. を BTU 税の利点として強調していた.クリント. point)は,石油の精製所,電力と精製された石. ンは,環境・エネルギー保全政策としての役割. 油 製 品 の 輸 入 時 点, 天 然 ガ ス の 輸 送 管 路. を持つ一方で,民間部門の経済活動を妨げるこ. (pipeline) ,石炭の坑口,及び水力・原子力発電. となく,地域間で公平な税負担をもたらし,財. 設備とされ,基本的な税率は 100 万 BTU あたり. 政再建に寄与しうる増税策として,BTU 税を提. 25.7 セントとさ 93 年から 98 年にかけて,約 728. 案したのである 24).. 億ドルの増収をもたらすと予想されていた.  クリントン政権の予算案に含まれていた増税. .. 23). 21)このようなクリントン政権の動きに対して は,国外から好意的な評価が寄せられていた.1993 年 1 月 28 日,欧州共同体(European Community: EC)委員会は, 「最近アメリカ政府によって発表さ れた,真剣かつ効率的に,世界のエネルギー・環境 問題に取り組む意思を示す宣言を歓迎する.EC に とって特に喜ばしいのは,新しいアメリカの政権 が,実行可能性のある環境及びエネルギー税に関 する方策を考案していることである.EC はすでに そのような方策を容認しているが,それらは『条件 付きの約款』なのである」という声明を発表して いた("Alternative Energy Taxes: Energy Market, Environmental, and Economy-wide Impacts," Undated, History of the National Economic Council and Clinton Administration History Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],”Clinton Digital Librar y , accessed April 17, 2018, https://clinton. presidentiallibraries.us/items/show/4810.) . 22) “A Look at the Highlights of Clinton Tax Proposals,”Congressional Quarterly Weekly Report , February 20, 1993, 362. 23)Rober t E. Rubin to the President,“Energy Tax Decision Memorandum,”Febr uar y 5, 1993, Histor y of the National Economic Council and Clinton Administration Histor y Project,“NEC – Deficit Reduction Plan of 1993 [1],”Clinton Digital Librar y , accessed November 29, 2018, https:// clinton.presidentiallibraries.us/items/show/4810.. 案 は, 全 体 で,1993 年 か ら 98 年 に か け て, 3570 億ドルの増収をもたらすと見積もられてい た.BTU 税によってもたらされると予想されて いた約 728 億ドルの増収額は,同時に提案され ていた個人所得税最高税率の 31% から 36% への 引き上げ によって 生じると予 想され ていた, 1232 億ドルの増収に次ぐ規模だった 25).財務省 は,BTU 税が完全に発効される予定の 1997 年 には,年収 3 万ドルから 5 万ドルの世帯は一ヶ 月あたり約 17 ドル,年収 5 万ドルから 7 万 5000 ドルの世帯では 2 倍以上,エネルギーに支払う 額が増加すると予想していた.また,税制改正 の打撃を最も受けるのは年収 20 万ドル以上の世 帯であり,その世帯では,ひと月あたり平均 1198 ドル,エネルギーに支払う額が増加すると, 24)William J. Clinton,  "Address Before a Joint Session of Congress on Administration Goals," Februar y 17, 1993,  Online by Gerhard Peters and John T. Woolley, The American Presidency Project (http://www.presidency.ucsb.edu/ws/?pid=47232). 25)“A Look at the Highlights…of Clinton Tax Proposals,”Congressional Quar terly Weekly Report , February 20, 1993, 362-363..

(14) . 財務省は予想していた.さらに,クリントン政. 研究開発,雇用の促進を目的とした法人向けの. 権は,1 ガロンあたりのガソリンの価格を 7.5 セ. 租税優遇措置の提供 30),低所得層の住宅税額. ント,家庭暖房用石油を 1 ガロンあたり 8.25 セ. 控除,自営業の医療保険費用の 25%控除,及. ント,1 キロ立方フィートあたりの天然ガスの価. び雇用者提供教育補助に対する租税優遇措置が. 格を 26.25 セント,家庭の平均電気料金をひと. 提案された.以上の組み合わせは,1993 − 98. 月あたり 2.25 ドル,BTU 税が上昇させると予想. 年において,総計 3280 億ドルの赤字削減効果. していた.そして,夫婦合算の年収が 4 万ドル. をもたらすと見積もられていた 31).確かに,. の 4 人家族という平均的な家庭では,ひと月当. この予算案は,税制改正による増収を財源とし. たり約 10 ドル,エネルギー費用が上昇すると財. て,インフラ整備や技術開発,教育,職業訓練,. 務省は予想していたのである. 就学前教育,失業給付拡大といった,低中所得. .. 26).  このような BTU 税を含むクリントン政権の予. 層を受益者とする支出を含んでいた 32).しか. 算案は, 「人々を第一に」の内容とは乖離したも. し,税制改正案全体を見ると,低所得層の税負. のとなっていた.予算制約を理由として, 「人々. 担を軽減し,中高所得層及び法人により重い税. を第一に」に含まれていた中間層減税,医療保. 負担を課す増税として提案されていた.BTU. 険改革,福祉改革の提案は,予算案から除かれ. 税とガソリン増税は,このような性格の税制改. ていた.税制改正は,増税措置と租税優遇措置. 正案の一部として提案されたのである.. の拡大の組み合わせとして提案されていた.増 税措置は,個人・法人所得税の最高税率引き上. 5.BTU 税の廃案過程. げと付加税率の適用,及び控除の整理や租税優.  クリントン政権の 1993 年予算提案は,議会内. 遇措置の縮小・廃止. ,社会保障給付課税の拡. 共和党,民主党双方から激しい反発を受けた.1. 27). ,BTU 税とガソリン増税,及び相続税の最. 月の上院公聴会で,パネッタは,この赤字削減. 高税率の 53%から 55%への引き上げを含んでい. 策は,歳出削減と増税の割合を 2 対 1 で組み合. た.一方,減税として,EITC の拡充. わせたものになると述べていた.しかし,2 月. 大. 28). ,投資や. 29). 26)David S. Cloud,“Clinton s Energy Tax Plan Hit by Blast of Cold Air,”Congressional Quarterly Weekly Report , February 27, 1993, 450-451. 27)個人所得増税としては,最高税率の 31% から 36% への引き上げ,課税所得 25 万ドル以上の納税 者に対する 10%の付加税率の適用,項目別控除の 上限と人的控除の段階的除去の恒久化,多くの控除 やその他租税優遇措置の適用を申請する個人が最低 限の税負担を支払うことを確実なものとするよう構 築された代替的最低税(Alternative Minimum Tax: AMT)の増税,食事と不動産費用に対する移動費 用控除の廃止が提案されていた.法人所得税につい て,最高税率の 34% から 36% への引き上げ,1500 万ドル以上の法人に対する 3%の付加税率の適用, 100 万ドルの上限を法人の費用控除に対する 100 万 ドルの上限の適用が提案された. 28)社会保障給付に対する課税の対象を,50% から 85%へ拡大することが提案されていた. 29)1992 年においては,一年あたり調整総所得 2 万 2370 ドル以下の世帯が制度の対象とされてい たが,調整総所得 2 万 8500 ドル未満の子供一人の 世帯,子供二人の世帯で 3 万ドル以下,9000 ドル 以下の夫婦のみの世帯へと,対象とされる範囲を. 17 日のクリントンの予算提案では,増税 3280 億 ドル,3750 億ドルの歳出削減,合計 7040 億ド ルの赤字削減計画案となっており,おおよそ 1 対 1 の割合となっていた.さらに,この赤字 削減策の額に加え,歳出の増加及び減税案を勘 案 す る と, 歳 出 削 減 が 1930 億 ド ル, 増 税 が 2800 億ドルとなり,その割合は, 1 対 1.5 となり, 増税の方が歳出削減を上回る計算となってい 拡大することが提案された.総額で 283 億ドルの 増額が見込まれていた. 30)7%の投資税額控除,新規発行株式利益 50% キャピタルゲイン除去の 5 年間の継続,研究開発 税額控除の時限的適用(1994 年 12 月まで),特定 雇用税額控除などが提案されていた. 31)“A Look at the Highlights of Clinton s Tax Proposals,”Congressional Quarterly Almanac 103th Congress, 1st Session, 1993, 86-87. 32)“Clinton Thr ows Down the Gauntlet,”. Congressional Quarterly Almanac 103th Congress, 1st Session, 1993, 85-86..

(15) . た.上院予算委員会(Senate Budget Committee:. の BTU 税提案は, 「政府により多くの財源をも. SBC)の委員であったピート・ドメニチ(Pete. たらす一方で,家族をより貧しくし,貯蓄や投. Domenici, Republican̶New Mexico)は, 「私. 資のための資金を減少させる」と批判していた.. は本当に失望した・・・これは雇用を創出する. そして,そのことは,GDP の減少,雇用の破壊,. 計画ではない,これは劇的に税負担を増す計画. 貿易収支悪化,低中所得層の生活の圧迫を招く. だ」と,政権の予算案を批判していた.下院予. と批判していた 35).上院エネルギー天然資源委. 算委員会(House Budget Committee: HBC)委員. 員. で あ っ た ジ ョ ン・ ケ ー シ ッ ク(John Kasich,. Committee)委員長ベネット・ジョンストン(J.. Republican̶Ohio)は,クリントンの予算案が. Bennett Johnston, Democrat̶Louisiana)は,2 月. 会(Senate Energy and Natural Resources. 増税に著しく依存しており,議会に増税の容認. 24 日の公聴会で, 「赤字に対処することが目的で. を求める前に,歳出削減の規模を拡大すべきで. ある」のだから,クリントンは BTU 税の提案を. あると主張していた.結果的に,議会による. 取り下げ,714 億ドルの増収を,連邦段階での売. 4 月 1 日に可決された 1994 財政年度予算決議. 上税など,他の収入源から上げるべきであると. 案は,これらの声を反映して,クリントン政権. 批判していた.出身州のアラバマが発電を著しく. の提案に約 500 億ドルの歳出削減が追加され. 石 炭 に 頼 っ て い た リ チ ャ ード・ シ ェ ル ビ ー. た.この削減は,新たに政権が提案した教育,. (Richard Shelby, Democrat̶Alabama)は,BTU. 職業訓練,医療,高速道路関連事業,児童の栄. 税は費用の全てを消費者に転嫁できない産業と. 養摂取及び就学前教育事業目的の裁量的経費の. エネルギー生産者の経済活動を妨げると批判し. 削減によるものだった 33).予算決議の段階で,. ていた.また,SFC 委員であったケント・コンラッ. クリントン政権は,歳出側面での低所得層向け. ド(Kent Conrad, Democrat̶North Dakota)は,. 及び中間層向けの事業の拡充や提供を断念せざ. 同州の人口の 25% 近くが農園や飼育場に住んで. るを得なかったのである.. おり,彼らにとって BTU 税は,煩わしい負担と.  他方,BTU 税は,クリントンの予算提案直後. な りう る と 批 判 し て い た(Woodward[1994:. から,その影響を受ける産業界,及び予算案が. 180] ) .さらに,水力発電が盛んなオレゴン州出. 速やかに通過することを望む議員からの反対に. 身の共和党議員マーク・ハットフィールド(Mark. あった.アメリカ石油協会(American Petroleum. Hatfield, Republican̶Oregon)は,BTU 税が水力. Institute)代表チャールズ・ディボナ(Charles J.. 発電の価格を 40%上昇させ, 「北西部の経済を. DiBona)は, 「エネルギー消費全体が減少するこ. 崩壊させる」と主張していた 36).以上の批判に. とによって,BTU 税は 70 万の雇用を破壊し,国. もかかわらず,4 月 1 日に成立した 1994 財政年. 民総生産を 350 億ドル,平均的な世帯に対して,. 度予算決議案では,クリントン政権の BTU 税. 一年あたり 475 ドルの追加費用をかける」と,ま た,政権は BTU 税の平均的な家庭に対する税負 担の増加を低く見積もっていると批判していた. 「健全な経済のための市民(Citizens for a Sound 34) Economy) 」は,中間層減税を伴わない状態で. 33) “Budget Resolution Embraces Clinton Plan,”. Congressional Quarterly Almanac, 103th Congress 1st Session, 1993, 102-107.. 34) 「健全な経済のための市民(Citizens for a Sound Economy) 」は,保守的な政治集団であり, 自由市場と制限された政府,及び公共政策に関す る行動主義への最も高い水準での個人的参加のた. めの草の根運動を行う多数の市民による集団と自 らを謳っている.後の,いわゆるティーパーティ ー運動の中心的な役割を担った集団でもある. 35)Paul G. Merski,“Clinton s BTU Tax to Drain Energy from Families and the Economy,”April 13, 1993, National Security Council, Speechwriting Of fice, and Rober t Boorstin,“New Direction̶ BTU [British Thermal Unit] Tax,”Clinton Digital Librar y , accessed April 17, 2018, https://clinton. presidentiallibraries.us/items/show/9964. 36)David S. Cloud,“Clinton s Energy Tax Plan Hit by Blast of Cold Air,”Congressional Quarterly Weekly Report , February 27, 1993, 450-451..

(16) . 提案は全く修正を加えられない状態で両院を通. は,クリントン政権の BTU 税提案は,徴税の. 過したのである 37).. 時点を可能な限り消費者から遠ざけようとして.  しかし,予算調整法案の審議に入ると,クリ. おり,生産者や配給業者に対して,彼らが負担. ントン政権は,二つの側面から,BTU 税に対. を転嫁できないような課税を押し付けるのは不. する批判に対応する必要に迫られた.まず,エ. 公平だと批判していた.例えば,CWM 委員の. ネルギー産業や彼らの支持を受ける議員は,自. マイケル・アンドリュース(Michael A. Andrews,. らの取り扱うエネルギー源や自分の出身州にお. Democrat̶Texas)は,BTU 税は, 「適切な時点. いて中心的なエネルギー産業,あるいは生活必. で適用されなければ,石油・ガス産業における. 需品として見なされているエネルギー源に対す. 数千の雇用を犠牲にしうる」と政権の案を批判. る租税優遇措置の導入を政権に対して要求して. していた.また,天然ガスが輸送管路を通った. いた.クリントン政権にとって,728 億ドルと. 時点で徴収することとしていた政権案に対し. 見積もられていた BTU 税による新たな増収は,. て,SFC 委員デイヴィッド・ボーレン(David. 彼らの赤字削減策にとって重要だった.また政. Boren, Democrat̶Oklahoma)は,輸送管路を経. 権側は,以上のような要求を行う議員たちが,. 営する企業と天然ガスを生産する企業が異なる. より大きな税制改正案を支持し, 「可能な限り. 場合,前者が後者にその税負担分を後転させる. 強力な経済政策パッケージを通過させる」こと. 可能性を指摘し,これが実際に行われれば,一. を望んでいた.そのため,クリントン政権は,. 夜にしてオクラホマ州内で稼働している天然ガ. ①より重い原油を回収するために地中に再注入. スを分離させる油井の多くを閉鎖させる事態に. される天然ガスを免税対象にし,②冬の厳しい. なりかねないと批判していた.更に,国内の石. ニューイングランド地方の議員からの圧力に対. 油精製産業は,原油の方が最終的に生成された. 応する形で,家庭暖房用石油に対する税率を引. 石油より BTU が高いこと,そのことが国内の. き下げ 38),③コネチカット,サウス・ダコタ,. 石油企業が精製済みの石油製品を課税逃れのた. ノース・ダコタ,モンタナといった農業州出身. めに輸入することを促す可能性を指摘してい. の民主党員の批判に対応する形で,トウモロコ. た.そのため彼らは,精製された石油製品が販. シから得られるアルコール燃料であるエタノー. 売のために取り出された時点など,可能な限り. ル,天然ガスから精製されるメタノールに対す. 徴税の時点を消費者に近づけ,天然ガス採掘会. る租税優遇措置を追加した.そして以上の租税. 社や石油業者を課税から逃れさせることを主張. 優遇措置による減収額を相殺するため,石炭,. していたのである.. 天然ガス,石油製品の末販売の在庫に対する課.  そのため,上述の租税優遇措置の追加と同じ. 税等の措置が追加されたのである 39).. 理由で,クリントン政権は,天然ガスについて.  他方,産業界の代表や彼らを擁護する議員達. は,地域のガス配給会社に渡った時点で徴税す. 37) “Budget Resolution Embraces Clinton Plan,”. Congressional Quarterly Almanac 103th Congress, 1st Session, 1993, 102-107.. 38)元々は,他の石油製品に対する提案と同じく, 家庭用ヒーター用燃料油に対しては,100 万 BTU あたり 34.2 セントの税率で課税されることとなって いたが,CWM はこれを 25.7 セントまで引き下げた. 39)David S. Cloud,“Clinton Revises Energy Tax in Bid for Support,”Congressional Quarterly Weekly Repor t , April 10, 1993, 910, 912;“Energy Tax Plan Modified,”The New York Times , April 2, 1993, D16.. ること,また,石油については,原油が精製機 に入った段階で課税するという原案に代えて, 精製された石油が精製機を離れた時点で課税す るという変更を政権案に加えた.また,石炭に 対する課税の政権案は,坑口を出た段階で課税 されることに対する不満に対応する形で,最終 利用者が石炭を受領した段階で課税するという 形に変更されたのである 40).  ところが,政権による BTU 税の免税措置の追 加は,その対象から外されたエネルギー産業,.

表 4  各エネルギー課税がエネルギー価格に与える影響の予想 2000 年における生産者価格 1990年 2000 年基 礎的予想 BTU税 従価税 (販売開始時) 従価税 (最終消費時) 炭素税 自動車燃料税 石油輸入手数料 石油(原油) バレル 20.03 22.95 0.0% -1.0% -0.5% -0.4% -1.1% -4.1% 石炭(坑口) 米トン 21.71 26.45 -0.4% -0.1% -0.2% -0.4% 0.0% -0.2% 天然ガス(坑口)千立法フィート 1.71 2.58

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