<論文>音楽教育における身体的表現活動の実践的な指導のあり方と分析方法—ドイツ・オスナブリュック大学音楽学部での講義内容を通して—
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(2) 音楽教育における身体的表現活動の実践的な指導のあり方と分析方法. 60 名の学生が在籍しており、学生の大半が将来教員に. 月の2学期にわたって、週に1回(月曜2限)「基礎学. なることを志望している。教員免許状の取得は必須では. 校における音楽と身体的表現活動」の授業を受講した。. ないが、2016 年度に入学した学生を見ても9割の学生. 授業を担当するのは基礎学校において教員経験を持ち、. が教職課程を履修している。教職課程は校種に応じて基. 初等・中等教育に関する音楽教育学が専門のバーンハー. 礎学校、実科学校及び基幹学校、あるいはギムナジウム. ド・ミュスゲンス Bernhard Müßgens 教授であった。シ. の3つに分かれており、学生はどれか1つを選択し、大. ラバスでは、講義の中心テーマを「授業における身体的. 学院にて修士号を取得することが免許状を取得する上で. 表現活動 Tanz im Unterricht」とし、「身体的表現活動. 必要となる 5。. を活用した音楽教育の在り方に対する考察を深めるこ. 同大学のカリキュラムでは、学生が専攻や取得する教. と」を目的に、特に「学生が基礎学校を訪問し、児童と. 員免許状に応じて、必修科目のほか、テーマごとに振り. 共に身体的表現活動を行う実践を重視」すると明記して. 分けられた領域の講義群(モジュール)から、自身の関. いた 9。. 心に合わせて講義を選択し単位を取得するモジュール制. 受講学生は 20 人程度で、授業は大きく2つに分けて、. 度を取っている。学士号の取得には 180 単位を必要と. 大学内の教室にて行う講義と、大学付近の基礎学校の体. するが、音楽学部の場合、9つのモジュールがあり、卒. 育館にて児童と共に身体的表現活動を行う実践との二部. 業までに 52 の講義から 60 の単位を取得する必要があ. 構成であった。なお、講義でも、まずは学生同士による. 6. る 。森本(2011)は、モジュール制度について、テー. 身体的表現活動の実践を行った上で、その分析を行って. マに沿って分けられた領域を学生が選択し、そこに含ま. いた。. れる講義群の中からさらに任意に講義を決定できる、自. 授業で行う身体的表現活動は主に3種類あり、行う順. 由度の高いカリキュラムであることを指摘している。ま. に、2人のペア・グループ活動、複数のペア・グループ. た、同大学も含めニーダーザクセン州の総合大学では指. が集まり6人から8人ほどで行うグループ活動、そして. 定された学部については、2つの学科の学士号の取得を. 参加者全員で行う全体での活動である。2人のペア活動. 7. 課している 。このように、学生の自主性を尊重したカ. では、言葉を発しないノンバーバル・コミュニケーショ. リキュラムに加え、2学科の専攻を卒業要件としている. ンを行う。たとえば、音楽に合わせてペアの一方が自由. ことから、教員養成課程では専門性に加え幅広い教養を. に手足を上げ下げしたり、身体を丸めたりするのを、ペ. 養おうとしていることがわかる。. アの相手は同じように模倣していく 10。また、ペアの児. 音楽教育科目群に属する講義をみると、2016 年度の. 童と大学生が同じ方向を向いて前後に並び、ペアの一方. 前期では 12 の講義、後期では 15 の講義が開講され、. が目を閉じて、ペアの相手の合図(肩をたたくなど)に. とりわけ身体的表現活動をテーマとした講義は前期に4. 従って歩き、他のペア・グループとぶつからないように. つ、後期に3つ開講されている。特に1年を通して開講. 教室内を歩き回るなどの活動があった。. されている3つの講義、「基礎学校における音楽と身体 8. 次のグループ活動では、音楽を聴いて連想されるイ. 的表現活動 Musik und Tanz in der Grundschule」 、「特. メージをグループで話し合い、それを自由に身体で表現. 別な支援を必要とする児童に対する音楽と動き Musik. する創作活動を行う。児童と大学生が協力して、音楽か. und Bewegung für Grundschulkinder mit Förderbedarf」 、. ら連想されるテーマに合わせて1分程度の即興のダンス. 「総合学校での音楽と身体的表現活動 Musik und Tanz in der Gesamtschule」はそれぞれ学生が取得しようとする. のような表現を考え、発表する。他のグループは、何を 表現している動きなのかを考えながら観察する。. 教員免許状の校種に応じて必修である。本稿では、この. 授業の最後には、クラス全体での活動として、音楽に. うち初等教育における身体的表現活動を対象とした授業. 合わせて決まったステップを踏むフォークダンスのよう. である「基礎学校における音楽と身体的表現活動」の講. なダンスを皆で行う。その後、振り返りの時間があり、. 義内容を具体的に見ていきたい。. 大学生と児童が主にペア活動やグループ活動について、 各人が身体をどのように動かしたか、動かしながらどの. 3.「基礎学校における音楽と身体的表現活動」の講義内容 私は 2014 年 10 月~ 2015 年2月および4月から7. 150. ように感じたか等、身体の動かし方や感情について感想・ 評価を話し合い、全体で共有する時間を設けていた。.
(3) 0. 0. 本講義では3週間に一度程度のペースで、基礎学校で. 分析結果以上に、学生が児童の身体的表現活動をどのよ. の児童との身体的表現活動を行い、実践的な学びを重視. うに感じ取り言語化するのか、分析の過程に重点を置い. していた。長期的に児童とふれあい、児童一人ひとりの. ていることが分かる。. 0. 0. 性格が分かってくると、それぞれの身体的表現の特徴や. 二点目は、体の筋肉の緊張・弛緩の変化を表す「テ. 変化なども観察できるようになってくる。そして重要な. ンションフロー Tension flow」に着目することである。. のは、そうして観察した(あるいはみずから身体を動か. LMA では運動を構成する要素を4つ(流れ Flow、空間. した)身体的表現をかならず言語化することにある。身. Space、力性 Weight、時間 Time)に区分し、「エフォー. 体で知覚・感受したことを言語化する振り返りを繰り返. ト effort」と呼んでいるが、KMP ではこのうち「流れ」. し行うことで、身体的な音楽の感受・表現を観察・分析し、. をより詳細に観察するため、筋肉を縮める動き(筋肉の. 言葉にする訓練になる。それがひいては身体的表現を評. 緊張/バウンドフロー bound flow)と筋肉を緩める動. 価する能力を養うことへつながっていくと考えられる。. き(筋肉の弛緩/フリーフロー free flow)の交替を「テ ンションフロー」として見ていく。このバウンド/フ. 4. KMP を用いた分析・評価の観点 身体的表現活動の分析・評価では、「ケステンバー. リーを基本として運動の特性を二項対立で見ていくのが KMP の特徴である。表1のように、体の動きは、空間、. グ ム ー ブ メ ン ト プ ロ フ ィ ー ル Kestenberg Movement. 力性、時間のいずれの観点からみたときも、筋肉の伸縮. Profile(以下 KMP)」の概念を用いることが大きな特. に鑑みて緊張させる方向性の場合は「攻撃的 fighting」、. 徴である。KMP とは、ポーランド系アメリカ人の精. 逆に弛緩させる方向性の場合は「陶酔的 indulging」に. 神科医師ユディス・ケステンバーグ Judith Kestenberg. 二分される(崎山 2010:21-26, 岡田 2014:161)12。. (1910-1999)が提唱した運動分析理論で、ヨーロッパ のモダン・ダンスの祖の1人、ルドルフ・フォン・ラバ ン Rudolf von Laban(1879—1958)らが提唱していた 「ラバン身体動作表現理論 Laban Movement Studies(以 下 LMA)」に発達心理学的観点を加え、子どもの外面的 な身体の動きから内面的な心理的側面を分析することを 目的とした理論である。「基礎学校における音楽と身体 的表現活動」の講義では KMP を本格的に学習すること はなかったが、身体的表現活動を分析する観点として KMP を参照していた 11。 児童の身体的表現活動を観察・分析するにあたり、講 義で重視していたのが、第一に身振りや顔の表情等も含 めた身体的表現を「形容詞」を使って言語化すること、 第二に体の筋肉の緊張・弛緩(テンションフロー)に注 目すること、第三に空間の使い方(シェイプフロー)に 注目することであった。 一点目、身体的表現活動の言語化は、観察した活動を 「無邪気な unschuldig」、「軽やかな leicht」、「自発的な spontan」等と形容詞によって分析していく。専門的な 用語は必要ないので、学生にも十分取り組むことができ る手法である。複雑な動きをどのように言葉にするか、 人によって捉え方も異なり、難しい面もあるが、授業で は少数の学生による分析を基本に、まずはなるべく多く の言葉を用いて身体表現を言い表すように促していた。. 攻撃的 陶酔的 (Fighting) (Indulging) バウンドフロー フリーフロー テンションフロー (bound flow) (free flow) 空間 集中(direct) 散漫(indirect) 重たさ 軽さ 力性 エフォート (strength) (lightness) 加速 減速 時間 (acceleration) (deceleration) 表1テンションフローとエフォートにおける運動の特性 運動の特性. 三点目は、LMA で「キネスフェア(個人運動空間)」 と呼ぶ、空間における身体の位置づけに着目すること である。KMP ではこれを「シェイプフロー Shape flow」 と呼び、縦・横・奥行きの三次元の空間での体の動きを みる。表2のように、横の軸の水平面 horizontal(身体 を輪切りにする方向に広がる平面)には前後・左右の動 きが相当し、体をぎゅっと縮める「狭まる」動き(攻撃的) に対して、体をリラックスさせる「広がる」動き(陶酔 的)がある。縦の軸の前額面 vertical(身体を左右に分 断する面)には上下・左右の動きが相当し、体に力を入 れて「上方へ」伸ばす動き(攻撃的)に対して、体の力 を抜いて「下方へ」垂れる動き(陶酔的)がある。奥行 きの軸の矢状面 sagittal(身体を前後に分断する面)に は前後・上下の動きが相当し、体を硬くして体を引き「後. 教育デザイン研究 第8号(2017年1月) 151.
(4) 音楽教育における身体的表現活動の実践的な指導のあり方と分析方法. 退する」動き(攻撃的)に対して、体の力を抜いて体を 前のめりに「前進する」動き(陶酔的)がある。. 水平面の動き. 認知的側面 社会的側面 • 集中する 狭まる動き • 選別する • 親密な • 減少する、 縮小する (攻撃的) • 少数を好む エフォート:集中 • 柔軟性のある • 心がオープンな (陶酔的) エフォート:散漫 広がる動き. • 冒険心のある • 社交的な. ペア・グループの関係性:コミュニケーション、信頼性 表3「水平面」におけるシェイプフロー及び「空間」の エフォートを結びつけた分析 「前額面」における動きは、表4のように「力性」と 結びつけて分析できるが、「下方へ」の動き、「力性」で は「重たさ strength」(ただし運動の特性としては攻撃 的と陶酔的で逆である)を観察した場合、物事をじっ くりと考え、真相解明につき進む意志の強さがある 一方で、ストレスや絶望感等を見て取れるとしている 表2シェイプフローにおける運動の特性(講義資料を基. (Kestenberg Amighi 1996:167) 。「 上 方 へ 」 の 動 き、. に筆者作成). 「力性」では「軽さ lightness」を観察した場合、その人. この3点目の「シェイプフロー」は「エフォート」の 観察結果と結びつけることで観察対象者の動きだけでな く内面(認知的・社会的側面)をも分析可能としている ことが KMP の大きな特徴である。ここでは KMP のテ キスト(Kestenberg Amighi 1996)と、講義で使用し た資料を引用・訳出しながら、内容をまとめていく。 まず、表3のように「水平面」における動きは「空 間」と結びつけて分析できるが、「狭まる」動き、つま り「空間」では一点へと「集中 direct」する動きを観察 した場合、その人は少数の相手との親密な関係を好んだ り、ある一つの物事に集中したり、一つの物事を選別し て行う性向があると分析できるとしている(Kestenberg Amighi 1996:164)。逆に「広がる」動き、つまり「空間」 では四方八方へと広がるような「散漫 indirect」な動き を観察した場合、その人は心を開いた状態で、何事にも チャレンジする冒険心を持ち合わせていたり、物事を広 い視野から一般化して考えたりすると分析できるとして いる(Kestenberg Amighi 1996:165)。このように「水 平面」のシェイプフローと「空間」のエフォートから読 み取ることができるのは、主に人間同士の関係性で、コ ミュニケーションや他者への信頼の有無が分析・評価で きるとある(Kestenberg Amighi 1996:165) 。. 152. はひらめき型で、自分に自信がある一方で、現実離れし た、理想ばかり追い求める性向等を分析できるとしてい る(Kestenberg Amighi 1996:169) 。このように「前 額面」のシェィプフローと「力性」のエフォートから読 み取ることができるのは、主に対象者の「自我」に対す る意識で、権威や主張の強さなどを分析・評価できると ある(Kestenberg Amighi 1996:169) 。. 前額面の動き. 認知的側面. 社会的側面. ・直感に従う ・誇らしげな ・信頼する 上方へ ・理想的な (攻撃的) ・刺激を与える ・現実離れした エフォート:軽さ ・ 物 事 の 真 相 を 解 ・ストレスを感じた ・絶望感・謙虚な 明する 下方へ (陶酔的) ・優先順位を考える ・意志の強さ エフォート:重たさ ・横柄な 自我:権威・主張の表れ 表4「前額面」におけるシェイプフロー及び「力性」の エフォートを結びつけた分析 最後に、 「矢状面」における動きは、表5のように「時 間」と結びつけて分析できるが、 「後退する」動き、 「時間」 では動きを速める「加速 acceleration」を観察した場合、.
(5) その人は自身の行為を振り返り、新たな考え方を見つけ. 過程・結果を説明すると、他の学生は分析結果に客観性. たりする一方で、人との距離をおこうとする性向が見. があるか討論しながら、クラス全体で考察を進めていく。. て取れるとしている(Kestenberg Amighi 1996:171) 。. 図1は、分析・評価の実例の1つで、女子児童 A のペ. 逆に、「前進する」動き、「時間」では動きを緩める「減. ア活動とグループ活動での身体的表現活動を、一緒にペア. 速 deceleration」を観察した場合、着実に自分の行う. 活動を行った学生らが分析・評価したものである。模造紙. 行動に責任を持って取り組む様子や、計画的に捗る性. の左上に「テンションフロー Bewegungsfluss」 、左下にエ. 向が見て取れるとしている(Kestenberg Amighi1996:. フォートの「力性 Kraft」 、 右上に「空間 Raum」 、 右下に「時. 173)。このように「矢状面」のシェイプフローと「時間」. 間 Zeit」と大きく4つの分析観点が書かれている。. のエフォートから読み取ることができるのは、観察対象. ちなみに、この女子児童 A は活発・快活な子で、ノ. 者の決断力や自信の表れ等である(Kestenberg Amighi. ンバーバル・コミュニケーション活動のうち、ペアの学. 1996:173) 。. 生と動作をお互いに模倣する活動では、素早い動きで、 手足を上下に大きく振り動かしながら、ぴょんぴょん飛. 矢状面の動き. 認知的側面. 社会的側面 ・ 新たな考えを見 ・自省する つける 後退する ・再び検討する ・ 距 離・ 隔 た り を (攻撃的) ・接触を断つ 設ける エフォート: 「加速」 ・過去に固執する ・遂行する ・学習・研究する ・熱心な様子 ・ 前もった行動を 前進する ・目標を立てる する (陶酔的) ・結果を予測する エフォート: 「減速」・ 常 に 前 を 向 い て いる 決断力、自信、リーダーシップなど. び跳ねていた。また、目を閉じた相手の行動を導く活動. 表5「矢状面」におけるシェイプフロー及び「時間」の. ように腕を大きく振ったり、ボールを蹴るかのように足. エフォートを結びつけた分析. を思い切り蹴り上げたり、全身を使って表現する様子が. では、きちんと周りを見ながら、目を閉じた大学生に対 して手で肩をたたくなど的確な指示を出し、肩をたたく 強さを調節しながら周りの壁や人に衝突することなくス ムーズに動いていた。さらに、常に大学生に向かってア イコンタクトを取ったり、顔の表情で積極的に感情を訴 えかけたりする様子も見て取れた。その後のグループ活 動では、BGM に合わせて「サッカーゲーム」というテー マを表現していたが、A はサッカー選手の動きを表現す るため、元気よく走り回りながら相手に合図を送るかの. 多く見受けられた。 5. 学生による身体的表現活動の分析・評価. 分析結果を詳しくみると、左上の「テンションフロー」. それでは講義において大学生が実際に行った分析例を. では、「フリーフロー」、つまり筋肉を締め付けることな. 取り上げながら、児童の身体的表現活動をどのように分. く自由な流れの中で活動を行っているとして、その様子. 析・評価するか見ていきたい。. を「身体の中心からのエネルギーを用いて軽やかに、人. 講義では、LMA と KMP の身体分析理論を概説した参. を誘うように」と形容している。ここでは活動の特性を. 考書(Bender 2007)で理論を学習する傍ら、小学校で. 大きく「バウンド」か「フリー」かに分けた上で、観察. の教育実践を併行して行い、その翌週には授業の観察記. 結果をいくつかの形容詞によって言語化している。. 録と録画資料を用いて、児童の身体的表現活動の分析・ 評価を行っていた。 90 分の講義の中で、大学生は一人あるいは二人一組で、. 左下の「力性」では、「軽さ」と「上方への動き」(前 額面のシェイプフロー)の動きの組み合わせが観察でき るとし、「自分自身に自信を持った」様子がみられ、「心. 対象とする児童の身体的表現活動を分析・評価し、その. に悩みがない状態」と分析している。ここでは A の動. 結果を模造紙に書き込んでいく。模造紙は分析の観点ご. きを「力性」(軽さ)とシェイプフロー(上方へ)の観. とに、 「テンションフロー」 、エフォートの「空間」 、 「力性」 、. 点から読み解くことで A の内面の状態(自我)まで分. 「時間」の4つに区分し、それぞれの観点で観察したこ とを書き込む。各学生の分析・評価結果は、クラス全体. 析している。 右上の「空間」では、「集中」と「狭まる動き」(水平. で共有し、考察する。分析結果を書いた模造紙をもとに、. 面のシェイプフロー)の組み合わせが観察でき、空間内. 各学生が活動の記録映像を他の学生にも見せながら分析. 全体を探る様子から「散漫」と「広がる動き」も観察で. 教育デザイン研究 第8号(2017年1月) 153.
(6) 音楽教育における身体的表現活動の実践的な指導のあり方と分析方法. きるとしている。本来はここで他者(大学生)との関係. り、KMP を導入する利点は、分析の観点の明確化と標. 性を分析することも可能なはずであるが、本事例ではそ. 準化、つまり、身体的表現活動を誰もが同じ観点から分. れ以上の分析はなされていない。. 析できる点にある。具体的には、動きを生む要因となる. 最後に、右下の「時間」では、 「減速」と「前方への動き」. 「エフォート」(空間、力性、時間)と「テンションフ. (矢状面のシェイプフロー)の組み合わせ、さらには「加. ロー」、そしてどのように空間上を移動しているか、空. 速」と「前方への動き」の組みあわせもみられ、動きの. 間上の動きの方向を位置付ける「シェイプフロー」をみ. 変化を楽しんでいる様子が観察できるとしている。また、. ていくが、これらの観点がややもすると印象的な記述に. 他のグループの意見では、こうした動きから A の自身. なりかねない身体的表現の分析・評価を一定の基準に基. に満ちた様子を「リーダーシップがある」と分析してい. づいて行うことを可能にしているといってよい。そして. た。以上のような4つの観点からの分析結果をふまえ、. 実際には KMP に倣って各観点の要素を観察させながら. 模造紙の下部には「総合的な評価・考察 Fazit」として「自. も、現実的な方法として、まずは形容詞等の言葉で動き. 分自身の内面を表に表現しようとすることや、新しく発. を記述するやり方を取っていることが功を奏しているよ. 見したものを自分の中に取り込もうとする自主性・積極. うに思われる。というのも、KMP の分析手法自体はか. 性のある様子が観察できる」と総括している。. なり専門的で、長期にわたる訓練を必要とする。そこで KMP の分析手法を本格的に用いるのではなく、あくま でも概念を援用しながら、自由記述で身体的表現を言語 化させているからである。こうすることで、大学生を始 め、KMP の理論や分析手法を修める暇のない教員も取 り組みやすくなるに違いない。 もっとも、自由記述による分析は、分析者の主観に左 右されるため客観性に欠けるという批判もあるかもしれな い。この分析の客観性という点に関して、講義では学生が 複数回にわたり同一の児童の身体的表現活動を観察し、分 析・評価を行った後、学生同士で分析結果を討論しあい考 察する時間を多く設けていた。KMP の理論を根拠としな. 写真1児童 A の身体的表現活動の分析の実例 6. 考察・今後の課題 ここまでみてきたように、音楽科における身体的表現. がら、分析結果を複数の目で精査していくことによって、 その精度も上がることだろう。したがって、分析・評価が うまくいくか否かは、自由記述の後の意見交換そして討論・ 考察の時間の充実度にもよるといってよい。. 活動を考える上で、オスナブリュック大学音楽学部の授. KMP の理論の導入に課題(あるいはそれを越えた可能. 業(基礎学校における音楽と身体的表現活動)は、将来. 性)があるとすれば、身体の動きに心理的側面を踏まえ. 教員となる大学生が身体的表現活動を理論と実践の両面. た意味づけを行うことによって、児童理解を深めるとい. から学ぶことができる一つのモデルケースといってよ. う KMP の特徴こそにあるかもしれない。つまり、KMP. い。まず、実践の面では、基礎学校の児童と一緒に身体. の理論や概念が可能にするのは、身体的表現の詳細な分. 的表現活動を継続的に行うプログラムが多く取り組まれ. 析とそこから読み取ることができる内面(認知的・社会. ているが、これは日本においても教員養成系の大学のカ. 的側面)であるが、ではそれらがいったい音楽とどのよ. リキュラムにおいて附属学校や協力校等の現場との関係. うに関わっているのか、児童の音楽的能力をどのように. の強化を図っているであろうし、今後も促進していくべ. 評価すればよいのか、音楽性との関係はまた別の観点が. きことだろう。. 必要だからである。したがって、音楽科の身体的表現活. 他方、理論の面では、身体的表現活動の分析・評価の. 動の分析手法としては再考の余地があるともいえる。. 方法として KMP の理論や概念を一部取り入れることの. 以上、本稿では身体的表現活動の実践と分析・評価方. 是非が論点となる。オスナブリュック大学の例をみる限. 法をめぐって、オスナブリュック大学音楽学部の講義の. 154.
(7) 事例をみてきたが、その実践的な学びと、KMP の理論・. Movement Profile の記譜における学びの過程と分析. 概念を援用した方法は、日本の音楽教育へも大きな示唆. 対象者への調律に関する検討」『武庫川女子大学紀要. を与えると思う。今後は KMP の理論の訳読・解釈を進. 人文・社会科学編』第 60 巻 , pp.63-70.. めながら、日本の教員にも分かりやすい訳語を再考し、. ・ スモール , クリストファー(2011) 『ミュージッキン. 音楽科における身体的表現活動のよりよい分析・評価方. グ——音楽は〈行為〉である』野澤豊一 , 西島千尋(訳). 法を考えていきたい。. 水声社. ・ 多胡綾花(2013)「『身体表現あそび』の実践状況. 引用・参考文献 ・ Bender, Susanne(2007). Die Psychophysische. Bedeutung der Bewegung: ein Handbuch der Laban Bewegungsanalyse und des Kestenberg Movement Profiles. Berlin: Logos Berlin . ・ Kestenberg Amighi, Janet(1996). The Meaning of. Movement: Developmental and Clinical Perspectives of the Kestenberg Movement Profile. Oxford: Routledge. ・ 衛藤晶子(2007)「『音楽的な感受』を育てるために 身体表現を組み入れた授業構成−−『音楽的な感受』 から『鑑賞の能力』への発展過程に注目して」『日本 学校音楽教育実践学会紀要』第 11 巻 , pp.159-167. ・岡田暁生(2003) 『ピアノを弾く身体』春秋社 . ・ 岡田もえ子(2014)「身体表現のスタイル—ラバンの 動きの分析と文体論の融合の可能性の示唆」『専修人 文論集』第 94 巻 , pp.149-184. ・ 岡部裕美(2009)「『音楽表現』におけるリトミック の実践——身体を楽器にした音楽表現を中心に」『千 葉大学教育学部研究紀要』第 57 巻 , pp.379-384. ・ 桑原章寧(2004)「小学校音楽科の身体表現活動にお. と実践上の問題点について」『湘北紀要』第 34 巻 , pp.51-73. ・ 日本教育音楽協会『教育音楽−小学版』音楽之友社 . 第 61 巻1号〜第 71 巻9号 . ・森本剛(2011) 「単位制度から見る教授学習・カリキュ ラム」 『京都大学高等教育研究』第 17 巻 , pp.162172. ・文部科学省 (2008a) 『小学校学習指導要領解説 音楽編』 教育芸術社 . ・ 文部科学省(2008b)『中学校学習指導要領解説 音楽 編』教育芸術社 . ・文部科学省(2010) 『中学校学習指導要領 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_ detail/_icsFiles/afieldfile/2011/04/11/1298356_6.pdf( 1 本稿では、 「身体的表現活動」を内容に鑑みて英語で “physical expressive activities” と表記するが、学習指導要 領英語版では、“physical music-making activities”( 文部科 学省 2010) と表記されている。 2 本稿では音楽に伴う身体活動全般を、学習指導要領の文 言に倣って「身体的表現活動」と呼んでいく。なお、学. けるカリキュラムの構想」『日本学校音楽教育実践学. 習指導要領の解説によれば、 身体的表現活動には「指揮、. 会紀要』第 8 巻 . pp.164-172.. 舞踏、形式にとらわれない自由な身体的表現など」 (文. ・ 桑原章寧(2010)「身体をかかわらせた鑑賞活動の評. 部科学省 2008:78-79)が含まれ、特に「形式にとら. 価に関する実践的研究—活動経過に伴う知覚・感受の. われない自由な身体的表現」に関しては「感じ取った音. 内容分析を通して」『日本学校音楽教育実践学会紀要』. 楽の表情や雰囲気などについて、即興的に身体を動かし. 第 14 巻 , pp.164-165.. て表現する活動」 (文部科学省 2008:79)とある。. ・ 崎山ゆかり(2009)「子どもの動きの評価法に関する. 3 岡部(2009)は、エミール・ジャック=ダルクローズ. 基礎的研究——ダンスセラピーにおける Kestenberg. が提唱したリトミックの身体活動を通じて音楽の基礎. Movement Profile を手がかりにして」『武庫川女子大. 能力を獲得するとしている。また、桑原(2004)は、. 学紀要 . 人文・社会科学編』第 57 巻 , pp.19-26.. 知覚された音楽の諸要素を身体で表現することにより、. ・ 崎 山 ゆ か り , 中 め ぐ み(2010) 「Kestenberg. 子どもは多様な動きを行う過程のなかで音楽の形式的. Movement Profile における運動分析専門用語の解釈. 側面と内容的側面を結びつけて音楽理解を図ることを. に関する検討」『武庫川女子大学紀要 . 人文・社会科. 可能にするとしている。. 学編』第 58 巻 ,pp.13-21. ・ 崎 山 ゆ か り , 中 め ぐ み(2012) 「Kestenberg. 4 オスナブリュック大学音楽学部では以下の 7 つの授業 科目群が開講されている:1) 「初心者のための導入. 教育デザイン研究 第8号(2017年1月) 155.
(8) 音楽教育における身体的表現活動の実践的な指導のあり方と分析方法. Einführung Veranstaltung für Studie Anfänger( 2) 」 (音. るが、日本語の用法にみられるような、ある特定の舞踊. 楽に関する基礎的内容の学習) 、2) 「音楽史 Historische. の様式(フォークダンス、社交ダンス等)を指すだけ. Musikwissenschaft( 8) 」 、 3) 「 音 楽 教 育 Musik. でなく、より広義の身体活動(たとえば手遊びのよう. Pädagogik und Didaktik(12) 」 、 4) 「 音 楽 実 技 Musik. な活動)をも含んでいる。実際、講義では、音楽を聴き、. Praxis(10) 」 、 5) 「音楽理論 Musik Theorie(14) 」 、 6) 「体. 身体を用いて自由に表現する活動を行っていた。. 系的音楽学 Systematische Musikwissenschaft(13) 」 、7) 「アンサンブル Musiziergemeinscaften(6) 」 (括弧内は 開講する授業数). 9 シラバスの全文は以下の通りである(オスナブリュッ ク 大 学 学 生 専 用 ホ ー ム ペ ー ジ Universität Osnabrück Stud.IP から引用・拙訳) : 「講義の目標は、普段の学. 5 ドイツの学校制度については、まず初等教育の「基礎. 校生活の授業実践の中で、学生が自主的な音楽教育に. 学校 Grundschule(ドイツの初等教育は4年制が一般的. 対する考えや姿勢を深め、クラス共同での省察を行う. で、日本の小学校第1学年から第4学年に相当) 」があ. ものである。講義の中心に『Tanz im Unterricht 授業. り、中等教育は三分岐型学校教育制度を導入しており、. における身体的表現活動』を位置付けており、大学生. 次の3つの校種によって在学する期間や卒業後の進路. は小学生と共に身体的表現活動を活用した授業実践を. が異なる: 「ギムナジウム Gymnasium(9年制で、大学. 行っていく。授業の考案や授業実践、そして授業の評. へ進学する生徒が多い) 」 、 「実科学校 Realschule(6年. 価・分析を一貫して行いながら、小学校における授. 制で、中級の技術者等の養成が目指される) 」 、 「基幹学. 業経験を多く積んでいく。Ziele des Seminars sind die. 校 Hauptschule(5年制で、卒業後直ちに就職する学生. Vertiefungung des selbständigen musikpädagogischen. が多い) 」 。また、近年、実科学校と基幹学校を統合した. Denkens und Handelns und der gemeinschaftlichen und. 「総合学校 Gesamtschule」という学校が存在する。. kollegialen Reflexion konkreter Unterrichtserfahrungen im. 6 音楽学部は大きく分けて4つの授業科目群に属する9個. Schulalltag. Im Mittelpunkt steht am Beispiel eines Projekts. のモジュールからカリキュラムが構成されている。 「A. zum Thema "Tanz im Unterricht" die Zusammenarbeit. 音楽史」の授業科目群にはモジュールとして、 「A 1: 音. mit einer Grundschulklasse.Die Studierenden haben dabei. 楽史 I」や「A 2: 音楽史 II」 、 「A 3: 音楽史 III」があり、. die Möglichkeit, alltagsnahe Unterrichtserfahrungen. それぞれに属する講義が複数開講されている。 「B 体系. zu sammeln, indem sie gemeinsam Unterricht planen,. 的音楽学」には「B 1:音楽と人々」として、主に音楽. durchführen und auswerten.」. 教育の講義が位置付けられており、 「B 2: 音響学と電子. 10 同講義にて身体的表現活動を行う際に使用する音楽は、. 技術」として、主に音響学あるいは電子機器を用いて. 自然の音(川の流れる音や風の音等)を始め、 様々なジャ. 学ぶ講義が開講されている。 「C 音楽理論」として「C 1:. ンルの音楽を用い、拍子やリズム、曲の調子が異なった. 音楽の基礎」ではソルフェージュや音楽理論の講義が行. 5分ほどの楽曲を3種類、講義中に繰り返し再生してい. われ、 「C 2: 文体論」として楽曲分析に関する講義が行. た。その中でもとくに、ウォルター・ドナルドソン. われている。 「D 音楽実技」では、 「D 1: 器楽演奏」と「D 2: アンサンブル」に関する講義が行われる。. 11 たとえば KMP では、分析手法として、筋肉の緊張・弛緩 を記譜するフローライティングや運動の要素を表す KMP. 7 オスナブリュック大学では、社会科学系(法・政治・経. フォーム等が存在するが、それらは長期にわたる訓練が必. 済等) 、人文科学系(文学・史学・哲学・神学等) 、理学. 要であると示されている(崎山 2012:63-70.) 。そのため. 系(数学・物理・化学・生物・地学等) 、教育学系(教. 講義では専門的な分析手法は取り入れていなかった。. 育・体育学等) 、芸術系(音楽・美術等)などの学部学. 12 KMP に関する概念の日本語訳は崎山(2009, 2010)に. 科が存在する。その中でも、2つの学科の学士号の取. 拠った。 「攻撃的/陶酔的」という訳語は決して分かり. 得を必要とする学部は、音楽の他、ドイツ語学、英語学、. やすいものではないが、KMP の概念の訳語の難しさに. フランス語学、イタリア語学、ラテン語学、教育学、哲学、. 関しては、崎山が指摘している通り、まずは KMP の概. 歴史学、社会学、カトリック神学、プロテスタント神学、. 念自体が独自なため理論と共に理解する必要があり、そ. 情報科学、生物学、化学、物理学等である。. れを日本語で一言で訳出することは不可能と言ってよ. 8「Tanz」とはドイツ語で「ダンス」を意味する単語であ. 156. い(崎山 2010:20, 2012:69) 。.
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