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判決形成過程における判例拘束の影響に関する一考察

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Academic year: 2021

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(1)判決形成過程における判例拘束の影響に関する一考察 重村博美. TheI n f l u e n c eo f“S t a r eD e c i s i s" i nD e c i s i o nMakingP r o c e s s H i r o m i S h i g e m u r a Whatd o e st h eJ u d g ehanddownad e c i s i onw i t ha sac r i t e r i o n ?J a p a n e s eC o n s t i t u t i o nA r t . 7 6山 p r o v i d e dt h a tt h e o n l yl awandc o n s c i e n c e" . However ,抗 i sr e q u e s t e dt of o l l o wt h ep a s tsamek i n do fj u d i c i a lp r e c e d e n t J u d g ei sbounded“ S t a r eDec i s i s"h a sonaj u d g ea n dt h e t h a tSupremeC o u r tg a v ea sap r a c t i c a lm a t t e r . 1c o n s i d e rwhatk i n do fi n f l u e n c e“ n a t i o no fas i d et a k i n ga仕i a lbyt h i sr e p o r t .. Key防' o rd Judge ,S t a r eD e c i s i s ,D e c i s i o nMakingP r o c e s s ,J c ψa n e s eC o n s t i t u t i o nArt . 7 6. はじめに. すとの指摘 4あり 、判例が本来もっその意味を超えて作 用していることも否定できない。. 近年、わが国の裁判所に求められる役割は、拡大の. わが国において、裁判官の判断基準は何に求められる. 一途である。事実認定ならびに法解釈・適用といった司. のか。そしてわが国の裁判官の判決に至る意思形成で、. 法権がもっ本来的な役割に限定されることなく、いわゆ. 判例が裁判官をどのように拘束するのか。もし、裁判官. る現代型訴訟や形策形成訴訟にまで及ぶ 1。また、 2009. がこれまでのよ うに人事権などを通じて裁判所内部の. 年に実施される裁判員制度は、これまでの裁判と相違す. 統制をなし、判例に依拠し続けることを強要される状況. る新たな裁判形式が取り入れられることとなった。この. が継続するならば、 一義的な判断に終始し、司法制度改. 制度の導入は、国民と裁判官が共同して裁判をおこなう. 革審議会意見書が示唆する判決への「国民の意見の反. もので、国民の意見を裁判結果に反映させることにある。. 映」はなしえないであろう 。また、違憲立法審査権の活. では、裁判官の判決に至る意思形成は、どのようにな. 性化という視点からすると、憲法判断に際し、裁判官が. されるのであろうか。 日本国憲法 7 6条 3項は、裁判官. 柔軟な姿勢で判断をすることを、判例拘束が抑止させる. は「法と良心のみに拘束される 」と規定し、制定法主義. 可能性すらあるのではなし 1かと考える。. であることを宣明している。 しかし、実際問題として、. 本稿では、これら問題意識のもとに、判例拘束が、裁. 「法的安定性の確保」のため裁判官の依拠する判断基準. 判官の判決形成過程にどのように影響を及ぼしている. には「判例」が挙げられ、裁判官はそれに「事実上」拘. のかについて明らかにする 。まず、判例拘束についての. 束されている 2。 とはいえ、引用した先例と当該事件と. 概説的な説明をおこなう 。また、半Ij例が主に形成される. の間との関連性が不明確 3であることや、「安定性」を追. 最高裁判所でどのように判断がおこなわれるのかにつ. 及するあまり最高裁判所判決に従わない下級裁判所裁. いて、裁判官の意思形成決定に大きく係わる最高裁判所. 判官に対して人事(転置・給与)などの面で不利益を課. 調査官との関係性をまじえ検討する 。さらに、わが国の 憲法判例動向からみた判例の取扱における問題点につ いて若干の検討をおこなう 。最後にまとめとして、今般 の司法制度改革審議会意見書で、も検討課題のーっとさ れたアメリカ合衆国のロークラーク制度について、その. *近畿大学工業高等専門学校. 果たす役割と裁判官に対する影響力について示し、わが. 総合システム工学科. 国に対する示唆としたい。. -7 5.

(2) 1 判例拘束をめぐる問題. く、下級裁判所裁判官が判例に拘束されることを前提と した記述もみられる 。例えば、「国の裁判官としてのあ. (1)概略. るべき法解釈は、当該事件が将来最高裁判所に係属した. 判例とは、「本来は、裁判の先例をいい、判決として. ならば、最高裁判所が下すであろう法解釈Jであり、「下. 繰り返されたものJ5とされる。そして、「ある事件に対. 級裁判所裁判官としては、それを予測した上で当該事件. して一定の判決が下されると、その判決で示された一般. について裁判をしなければならなしリとする見解. 的基準が先例として規範化され、その後の同種の事件に. また、「下級裁判所裁判官が最高裁判所の判断に従うこ. おいても同じ内容の判決が下されるようになる 。このよ. とは、裁判官の地位に伴う当然の職責」とされ、それら. うな判決が繰り返されることによって、その先例的機能. は「裁判官の独立を侵害しない J 12とする見解などで. は一層安定したものとなり、いわゆる判例法・裁判官法. ある。. 1 1や 、. これら見解は、下級裁判所裁判官に最高裁判所判例に. が形成される J6としづ 。 また、判例は、事実上法源としての意味をもっ。刑事. 暗黙のうちに従うことを求めており、それが最高裁判所. 訴訟法 405条 2号 ・ 3号は、判例を上告理由として挙げ. 事務総局を頂点とするキャリア裁判官制度を通じた形. られるなど、裁判官の判断基準のーっとして確立をして. であることを示している。具体的には、最高裁判所事務. いる。このことから、判例が「事実上の拘束力」をもっ. 総局から裁判官会議や裁判官協議会を通じて「事務局見. と指摘されているのであるにまた、このことは、下級. 解」といった形であるとされる. 裁判所裁判官にあてはまるとみられる。 「審級制をとる. 6条 3項で規定された「法 記述に反して、日本国憲法 7. 訴訟制度のもとにおいては、最高裁判所の判例がもつべ. と良心のみに拘束される」とする裁判官の職権の独立が、. き判例統一の機能やこれによって法的安定をはかるべ. 侵害される可能性を否定できない。. 。そこには、前述の. 13. き必要性を軽視することはできない。とくに最高裁大法. では、最高裁判所事務総局とは、どのような機関なの. 廷による判断、しかもその度重なる同旨の判断内容は、. であろうか。最高裁判所事務総局の設置の根拠は、裁判. 実務上最も尊重され、下級審に対し、特に事実上の拘束. 所法 1 3条に明記されているが、そこには 「 最高裁判所. 力が認められなければならないと考えられる J8 との見. の庶務を掌らせるため、最高裁判所に事務総局を置く j. 解がみられるのである 。. と規定するに過ぎない。しかし、設置の経緯からみると、. とはいえ、わが国では、明治時代にドイツ、フランス. その実情が見えてくる。日本国憲法ならびに裁判所法制. に倣って法制度がつくられたとしづ経緯から制定法主. 定に際して 「 司法権の独立」を確保する目的から、人事. 義を採用. 9しており、また当然に、日本国憲法において. 権ならびに予算権といった「司法行政権Jに関わる事項. 裁判官に対する「職権の独立」も保障されている。これ. を明治憲法下の司法省から最高裁判所に移した際、裁判. らのことから、同種の事件で、 あっても、裁判官により異. 官の人事権を、実質的に最高裁判所事務総局による選任. なる判決がだされる可能性も十分にある。つまり、同一. に委ねた 14。その権限を用い、最高裁判所判例に従わな. の法律判断に対して一つの裁判所がすで、に判断をだ、 し. い裁判官に対して配転ならびに昇給などで不利益を課. ていても、他の裁判所が自己の判断が正しいと思えば遠. したとされているのである. 慮なく判断をすることも可能. 1 0 であるとしづ帰結とな. ろう 。. 15. 現在では、最高裁判所規則の制定 評価. 1 6 により、裁判官. 1 7 に対する開示はなされるようになったものの、. それ以前、どのような基準で評価がなされているのかに ついても明らかで、 はなかった。そのため、判例に従わな. (2) 裁判官の職権の独立と判例拘束. だが、最高裁判所は、下級裁判所間での判例の相違に. い裁判官に対する不利益とし 1う疑念が生まれたのであ. ついて否定的な見方をする。それは下級裁判所裁判官全. る。このことが、本来の目的であるところの「法適用の. てが、最高裁判所の判例に一律に従うことにより、「法. 安定性」を超えて、別の方向に作用をしたと考えられる. 適用の安定性Jが確保され、下級裁判所間での判例相違. ようになったので、 ある 。. はないと捉えていることである。確かに、裁判を受ける. 2 最高裁判所の判決形成過程における問題. 国民の側からいえば、強制的に管轄の定まる裁判所によ って裁判結果の差異が生じる事を防ぐために、判例拘束 が必要とされるという理由づけも成り立つ。. (1)最高裁判所の判決形成過程. しかし、実際には、そのようなそのようなものではな. 下級裁判所裁判官を事実上拘束するとされる最高裁. -76-.

(3) 判所判決は、どのような過程で形成されるのであろうか。. 般的な調査のために配置されているのは、最高裁判所調. 最高裁判所において事件が受理されると、 「 あらかじめ. 査官のみである 。最高裁判所に調査官を配置することに. 定められた順序に従って第一小法廷から第三小法廷ま. つき、最高裁判所事務総局が発行した『裁判所法逐条解. でのいずれかの小法廷に分配され、それと同時に主任裁. (最高裁判所が)取り 説』は、次のように説明をする。 r. 判官とその事件を担当する最高裁判所調査官が決まる 1. 扱う事件は、主に、上告事件で、 あって、法律的判断を主. 1 8とされる。調査官の配置ないし事務配分は、①事件の. とするものであるが、最高裁判所の裁判における判断は、. 種類に応じて一定の裁判所調査官に割り当てる方式、②. 当該事件について拘束力を有することはもとより、一般. 事件受理の順序に従し 1逐次裁判所に割り当てる方式、③. 的にも、事実上、判例として、広く、かつ長く、全国各. 特定の法廷または部に特定の裁判所調査官を配置する. 裁判所の指標として尊重されるものであるばかりでは. 方式のいずれかであるが、現在、最高裁判所では、事件. なく、法令の合憲・違憲性に関する判断は、立法及び行. 毎に主任の調査官が割り当てられているとする. 政、ひいては一国の施設全体にも影響を及ぼすものであ. 1 90. このような形式を採用しているには、理由があるとす. るから、その判断を下すに際しては、法令、判例などそ. る。わが国の最高裁判所は、通常の事件の上告審として. の他の法律問題の調査が、徹底的に、あますことなくさ. の機能と、最終的な憲法解釈者としての機能と、その両. れなければならない。これを、きわめて制限された数の. 方を兼ね備えている。そのため、わが国では近年漸減傾. 裁判官ですることは、事実上不可能であるから、最高裁. 9年度には 450万件余の事 向にはあるとはいえ、平成 1. 判所に裁判所調査官が配置されることは、当然で、 ある j. 件が上告され審理対象となっている. 24と し 1う。. 20。最高裁判所の負. 担を減少させ、憲法判断をしやすくする環境を整えるた. しかし、ここで、 本稿の関心に従ってすすめるならば、. めに、わが国では平成 8年に、民事訴訟において、アメ. 調査官を配置することの是非ではなく、それがキャリア. リカ同様の上告受理制度. 裁判官によって構成されていることである 。 とはいえ、. 21 が設けられたが、最高裁判. 所における負担は、アメリカ以上であることには変わり. キャリア裁判官制度自体を問題視するのでもない。調査. ない 220. 官が判例に熟練した人物で構成されるため、まず「判例. これを最高裁判所 1 5人の裁判官だけで判断すること. ありき Jの判例に添った形での判断が主となりがちで、. は、当然困難が生じる。最高裁判所における負担超過の. 新たな法創造(法政策機能)をすることを困難にする可. 状況は、その発足当初から生じており、それが一因とな. 能性があることにあるといえるのではなし、かとする点. り司法消極主義とよばれる状況を生みだしたといえる 。. である。. 明治憲法下における大審院は、憲法解釈権を持たなかっ. 調査官を裁判官でもって構成することについては、裁. たが、それでも 30人ほどの裁判官が在籍していた。そ. 判所法附則 3項に規定がある。 「当分の間・・裁判官を. こで、わが国では最高裁判所調査官を配して、裁判官の. もって調査官に充てることができる J25とするが、それ. 「補助 J機関としての役割を持たせ. 2 3 また、判決起案. などの任務も担うようになったので、 ある. 以上の具体的な職務内容や職務方法を詳細に規定した 法令はない. O. 260. 4 0歳代を中心とする 実際、調査官は r. しかし、最高裁判所調査官が、キャリア裁判官により. 現役の優秀な高等・地方裁判官」が任ぜられ、 30数名. 構成されていることは、判例を重視する傾向を助長させ. から構成されていると い う 27。しかも、これら最高裁判. た。以下では、最高裁判所調査官が最高裁判所判決に及. 所調査官を任じられた裁判官は、キャリア裁判官制度の. ぼす影響について検討する。. なかでも優秀な人物であり、判例に熟知した人物で構成 されているのである 。調査官の任務は、法律問題の調査. ( 2 )裁判官の意思形成過程における最高裁判所調査官. に留まらず、判決文の起案についても最高裁判所調査官. の役割. が関与する. 調査官の配置ならびに役割について裁判所法 57条 1. でも参画をし、 「 調査官解説」といった形で解説をおこ. 28290. また、判例集搭載か否かの判断に際し. 項は「最高裁判所、各高等裁判所及び地方裁判所に裁判. なう 。時として、判決の方向性さえも決定づけることに. 官調査官を置く」と規定する。そして、調査官の役割は、. もなる。その一例として、議員定数不均衡訴訟で事情判. 「裁判官の命を受けて、事件(地方裁判所においては、. 決がだされた経緯を示した園部逸夫元最高裁判所裁判. 工業所有権又は租税に関する事件に限る)の審理及び裁. 官の著述がある。 これによると、「定数訴訟の事情判決. 同 2項)ものとする 。 判に関して必要な調査を掌る J (. 的制度は、日本の裁判史上稀有の英才で、あった中村治朗. とはいえ、現在、専門的知見を有する調査官以外に、一. 裁判官が、最高裁判所首席調査官在任当時考案したもの. -7 7.

(4) で、あって J との指摘 30をしている。. 1 6年の行政事件訴訟法の改正が契機とされる平成 1 7年 の在外選挙権訴訟. このような形で、判決形成過程に最高裁判所調査官が. 3 6や平成. 20年の国籍法違憲判決 37. 積極的に係わっていく事に対して批判があがったのは、. にみられるような積極的判断が近時散見されるように. いうまでもない。 「調査官裁判といわれるほどに、裁判. なったが、日本国憲法制定以来 60年間を概観すると、. 所の草稿を全面的に調査官に依頼することはないでは. 総じて司法消極主義だといわれてきた。このことは、最. ない、と 一部から、うわさされているような実態 J31が. 高裁判所に本来的に求められている「人権の砦 Jとして. あることさえも指摘されたのである。最高裁判所事務総. の役割を放棄しているとの批判に大きくさらされたの. 局が説明するように、最高裁判所調査官の役割が「裁判. である。 しかも、最高裁判所判例が集積をされるにつれ、裁判. 事務の処理に関して裁判官を補助すべき職員」で、・・ 通常の場合、その役割が「その配属されている法廷また. 所が示す違憲立法審査権行使に適用される基準内容に. は部(に属する裁判所で構成する受訴裁判所)に係属す. ついての検討. る事件に関して、必要な法律問題を調査J32するもので. の理由づけの不明確さが露呈されてきたといえるので. あるとすれば、裁判官ならびに調査官それぞれの役割だ. はなし 1かとの見方がなされてきた. けでなく、調査官と裁判官との聞の双方の関係性が問題. 判決理由(すなわち多数意見、多数意見にみられる特徴). 視されることになるであろう 。. として、 引用する先例がなぜ当該事件に該当し、理由の. 38 がなされてくると、その適用に際して. 39 。その一例として、. 根拠となるのか明確ではないとされる例として、「当裁. 3 憲法判例動向からみた若干の検討. 判所の先例に徴して明らかである Jといった判例引用が なされたことが挙げられている. 。また、憲法判断基準. 40. についても、例えば、津地鎮祭訴訟. さて、日本国憲法 81条で規定された違憲立法審査権. 41 におけるレモン. 42 の採用など、アメリカで展開された審査基準. を裁判所が行使するにあたり、判例拘束はどのように影. テスト. 響したのであろうか。. を精激化せずに機械的当てはめをなし、安易に判断をす ることの問題も指摘 43されてきた。. わが国の司法制度の固有の特徴は、「等質性・統一性」 であるといわれる。最高裁判所は、このことを司法制度. さらに、これまで多 くの憲法訴訟に関する最高裁判所. 改革に対する 基本的立場を表明した『二十一世紀の司法. の判断は、「立法裁量論」や「統治行為論」の採用をす. 制度を考える』 のなかで述べている 。 「司法運営に当た. ることによって、立法・行政部門(政治部門)の行為を. っては、全国的に統一された制度のもとで、等質な司法. 追認する形をとってきた。裁判所の中でもその審査方式. サービスを提供し、等しく公正な裁判を実現することが. についての基本的な枠組みがほぼ固まったこと. 重視されている J33。 この 「 等質性・統一性」を追求す. 政治部門に一定の判断の判断基準の枠. るとき、それを確実にするには、やはり裁判官を最高裁. に繋がったのである。. 44 は 、. 45 を認めること. 判所の判例に拘束させること が、最も近道となる。最高. その反面、最高裁判所は、立法裁量を用いつつも「人. 裁判所は、それをキャリア裁判官制度の下で、自身が実. 権の砦」としての側面をのぞかせることもある。その一. 質的にもつ配転・昇給などに関する人事権を通じて、イ. 例として、「朝日訴訟 J46が挙げられよう 。 とはいえ、. ンフォーマルにそれを実行しようょしたのである. 傍論による判断は、「事件の論点についての判断で、 はな. 34 0. それに加え、最高裁判所が「等質性・統一 性Jに固執. い説示 J47であるとする見解が示すとおり、たとえその. し、裁判官が判例に拘束されるあまりに、時代の要請に. 説示が原告にとって望ましいもので、あったとしても、実. あった判断がなされているか、としづ問題が当然に生じ. 際には法的拘束力は存在しないために、判例としての意. た。憲法や法律は一定の社会的・政治的条件の中で制定. 味はなさないのである。. されたものであり、これらの多くは、時の経過とともに、. これらのことから「傍論」が、裁判所の意見の一つ で 、. 現実の事態に対応し得ない時代遅れなものとなるのか、. ありながら、裁判外での影響を期待して、すなわち訴訟. 特に、憲. 運動といった形で、世間の注目を引かせることに意義を. プライパ、ンーの権利や環境権など. 5条をめぐ 見出した。事実、朝日訴訟後の一連の憲法 2. 又は正義に反するものとなえざるをえない 法問題に対しては. 35. 0. 「新しい人権」と呼ばれる領域も主張され、それが国民. る訴訟である堀木訴訟 48・岡田訴訟 49などでは、朝日訴. の間でも容認されてくると、裁判所は、判例の枠を越え. 訟の判例における判断手法が踏襲されており、法律上の. て法創造機能すらも同時に求められるからである。. 問題は、何ら解決をみていない。 しかし、訴訟運動の高. わが国の憲法判断に対する最高裁判所の態度は、平成. まり・判決などが複合的に作用し、生活扶助額の引き上. t. 門 ,. nHU.

(5) げや老齢福祉年金における夫婦受給制限の削除などに. 述した近時の積極的判断事例により、その見方を積極主. おいて、政治部門に影響を与えることで、問題解決を図. 義に転換させることにもなった。その反面、裁判官の判. らざるを得なかったのである。また、「なお書き」ある. 断についての「裁量Jの幅、すなわち、し 1かなる審査基. いは「ちなみに」といった形で一般的な法律論を展開し. 準によって適切に判断すべきかの問題がクローズアッ. たりする場合も散見される。例えば、非嫡出子の法定相. プされた。. 続分の差別規定をめぐる判決. 50 も、合憲判決で、はあっ. そもそも司法権に求められている役割は何か。司法権. たが、規定の合理性を疑問視する多数判決も示され、議. の正当性を確保するためには、 「国民的基盤」を得るこ. 論がなされた、ということもある 。これら例は、判例の. 6条 1項が規定するように、裁 とに他ならない。憲法 7. 枠組みを超えた政策形成的な判断の例ではあるが、それ. 判官は「法と良心Jのみに拘束されるとしづ原則を揺る. が 「 人権の砦」としての裁判所本来の役割を果たしたも. がすことなく、また、司法制度改革審議会意見書が指し. のであるとは、言いがたい。. 示すように、多様な国民の意見を調整しつつも、それを. つまり、判例としづ裁判所で支配的に用いられている. 反映する判決をすることが、最も重要視されよう 。これ. 解釈手法が、裁判官の裁量の幅を狭め、積極的な判断を. まで同様に、最高裁判所事務総局を頂点とするキャリア. 困難にしてしまっているのである。裁判官に判例を遵守. システムのもとで、判例に裁判官を拘束させるようなシ. するというコンセンサスが存在する場合に、それを無視. ステムを維持し続けるならば、法創造機能を積極的に行. して自分の立場を押し出すことには相当強い非難を浴. 使することは困難な道筋となろう 。 では、どのようにすれば、その環境がつくられるのか。. びることが予想される 。とれが、裁判官個人のプレステ ージに反比例をすることにもなるのである. 5 1 。 これは、. 違憲立法審査権を積極的に行使し、法創造機能を障陪無. 裁判官倫理にも係わる事であるが、半Ij例に拘束されるこ. く営むとされるアメソカ合衆国では、ロ ース クールを卒. とについて、裁判官がどのような立場をとるかは、究極. 業して間もない者によって構成されるロークラークが、. 的にはその裁判官のもつ裁判観、とくに判例の拘束力へ. ロースクールで、学んだ法理論を駆使し強し 1自己主張を. の見方によって異なる. する傾向が指摘され、その結果、裁判官に対して有形 ・. 52 。特に、憲法判断においては、. 裁判官の判断に解釈の余地が多く含まれることから、判. 無形に影響をもたらしているという. 例に対しどのような態度で臨むかは、当然、問題となろ. 官の判断を法理論の解釈にのみ傾倒させる可能性も皆. う。そのとき、裁判官をどのような基準で選ぶのかが、. 無ではない。また、ロークラーク個人がもっ政治的・党. 憲法判断の方向性を大きく作用する 。. 派的影響も無視できない。しかも、連邦最高裁判所にお. 5 3 0. そのため、裁判. アメリカでは、裁判官選任過程に政党・利益団体など. いては、裁量上告制度の導入により、ロークラークがそ. が政治的影響力を及ぼす傾向が顕著に見られ、それによ. の一次的な事件選択をおこなうため、その判断が裁判所. り、判決に影響を及ぼしていることは周知の事実である。. の行方を大きく作用することにもなる 。というのも、 上. しかし、二大政党制を敷くアメリカでは、その政権交代. 告受理の基準は「重大な連邦問題」が提起された場合、. が、多様な意見の反映を可能とし、判決に対する政治的. もしくは「裁判所聞に解釈の相違」が発生している場合. 影響を緩和しているともいわれる。わが国では二大政党. 同という「あいまいなもの」であるためである。. 制への移行の兆しはあるものの、事実上、一党支配が続. しかし、そのあいまいさがローククラークの事件選択. いており、判決に対する裁判所内の影響力は未だはかり. の「裁量Jの幅を広げ、連邦最高裁判所における政策形. しれない。判例が裁判官に及ぼす影響を今一度、考える. 成機能を高めることにも寄与したのである。アメリカ合. べきであろう 。. 衆国では、半Ij例法主義をとりつつも、判例に絶対的に拘 束されない柔軟な対応が、それを可能にしたのである 。. おわりに. 今般の司法制度改革意見書は、調査官の充実の必要性 を示唆している. 55 。これは、アメリカのロークラーク制. 本稿では、裁判官の判決形成過程において判例拘束が. 度を意識したものである。法科大学院卒業後の進路の選. そのように作用しているのか、また判例拘束のもとにだ. 択肢の一つで、あり、アメリカのロークラーク同様に実地. された判断にどのような問題点があるのかについて、検. 体験をすることによって、法曹として必要な素養を身に. 言サをおこなった。. つけることがその目的の一つに挙げられる。. 違憲立法審査権が憲法上規定されて以来、司法消極主. わが国において、調査官として現状キャリア裁判官が. 義といわれていた最高裁判所をめぐる一連の状況は、前. あたるのは、暫定的なことのはずである。最高裁判所に. -79-.

(6) おいては、上告件数の膨大さから、キャリア裁判官とし ての豊富な知識や経験を有する調査官も必要とされる が、やはり違憲立法審査権の活性化という面から見ると、 調査官を裁判官以外に求めることも一案であると考え る。. 注 1 現代型訴訟の問題一般については、田中成明「私法・ 公法の<共同>と司法の機能-現代型訴訟を素材に-J 法社会学 6 6巻 6 6頁以下参照 ( 2 0 0 7 ) 2 判例拘束の問題について、中野次雄編『判例とその読 み方[改訂版1]。一般的な法学の教科書においても、こ の本は「わが国における判例と実務について座右におい て適宜参照することを勧める Jとする記述(佐藤幸治・ 鈴木茂嗣・田中成明・前田達郎『法律学入門~ (田中執 0 9頁(有斐閣、 1 9 9 4 ) があるように、判例全 筆分) 2 般についての一般的な見解を示したものとして知られ る。また、「きわめて説得力のある議論であり、その後 多くの同調者を得ている Jとする見解も見られる 。その ほかの判例拘束性に関わる論稿として、畑博行「憲法判 例変更の問題点J 法経論叢 2 4巻 4・5号 1頁以下 ( 1 9 7 4 )、 高橋一修「判例拘束性と憲法判断の変更 j 芦部信喜『憲 法訴訟第 3 巻~ 1 3 9頁以下(有斐閣、 1 9 8 7 )、樋口陽 一・栗城書夫著『憲法と裁判~ 9 1頁以下(樋口執筆分) 9 8 8 ) など。 (法律文化社、 1 3 の点につき、戸松秀典「最高裁判所の憲法判例におけ る先例参照の手法J~高柳信一先生古稀記念論集現代 憲法の諸相~ 1 9 7頁(法律文化社、 1 9 9 2 )。また、第 7 3 回日本公法学会 ( 2 0 0 8年 1 0月 1 1日)における同報告 「憲法訴訟の理論」、ならびに、その他の憲法・行政訴 訟をめぐる諸報告は、本稿作成において大きな刺激を受 けたことはいうまでもない。 4 このことは、 1 9 7 0年代のいわゆる「司法の危機J を 通じて顕著となった。この問題について、和田英夫『最 高裁判所論~ (日本評論社、 1 9 7 1 ) 参照。 5 ~新版法律学辞典~ 1 0 0 5頁(有斐閣、 1 9 7 6 )0 中野・ 前掲注 (2) 6頁、では、次のように説明をする。「裁 判所の判断であるが、それはのちに別の事件を裁判する ときに先例となるような性質の判断)J を指すとしづ。 0. 6 佐藤幸治・竹下守夫・井上正仁『司法制度改革~. 2 0 9. 頁(有斐閣、 2 0 0 2 )。 7 判例の拘束力について、「事実上J か「法的」なもの かについては、大きな論争を巻き起こした。兼子一 「 上 1頁。 また、佐 級審の裁判の拘束力」民事法研究 2巻 8 藤幸治『憲法訴訟と司法権~ 2 6 2頁以下(日本評論社、 1 9 8 4 )。 この点につき、最高裁判所事務総局による『裁 判所法逐条解説』は、「英米法系の諸国においては、一 般に、上級裁判所の判決に表明された法律解釈適用上の 意見が下級裁判所を拘束するとし、う判例の一般的効力 が認められているが、わが国においては、裁判所構成法 以来、そのような効力は認められておらず・・」として その拘束力を限定している。最高裁判所事務総局『裁判 所法逐条解説(上H 3 6頁以下 ( 1 9 6 9 )0 8 東京地判昭和 5 5年 3月 1 4日刑裁月報 1 2巻 3号 1 3 3 頁。 9 判例拘束の沿革について、山田卓生「日本における判 例拘束性J法学新報 1 0 3巻 1 1号 8 1頁以下 ( 1 9 9 7 )。と. -8 0. れによると、明治 8年の太政官布告 1 0 3号裁判事務心 得第 4条において「判例の法源性が否定」され、現在ま でこの規定は、公式には否定されていないとしづ o 1 0 中野・前掲 ( 2 )1 6頁。 1 1 小林充「刑事実務と下級審判例」判例タイムズ 5 8 8 号1 2頁。 また、樋口・栗城・前掲 ( 2 )9 1頁以下(樋 口執筆部分)。 1 2 中野次雄「判例の拘束力についての一考察」判例タ イムズ 1 5 0号 2 2 5頁 ( 1 9 6 3 )。 1 3 斉藤岩夫「司法の(統一性)と ( 非統一性〉 日独 裁判所の司法観の比較と司法改革の課題-J 法社会学 5 2巻 1 4 7頁 ( 2 0 0 0 )。 14 最高裁判所事務総局設立の経緯については、潮見俊 隆「日本の司法制度」東京大学社会科学研究所編著『戦 後改革 4 司法制度~42 ・ 43 頁(東京大学出版会、 1975) 。 1 5 これら批判に対して、町田; 最高裁判所長官は、新任 裁判官に対する訓示で「ヒラメ裁判官」になるなとの発 言をしている 。朝日新聞 2 0 0 4年 1 0月 1 9日朝刊参照。 1 6 裁判官の人事評価に関する規則 j 平成 1 6年 1月 7 日最高裁判所規則第一号。 1 7 裁判官の人事評価制度の概要や論点について、柳志 郎「裁判官の人事制度の見直し」自由と正義 5 3巻 2号 ( 2 0 0 2 )、飯孝行「裁判官の評価制度の明確化を求めて」 3巻 9号 7 4頁以下 ( 2 0 0 2 ) など。 自由と正義 5 1 8 中野・前掲注 ( 2 )9 9頁。 19 園部逸夫『最高裁判所十年~ 3 0 7頁(有斐閣、 2 0 01 )。. 2 0 h t t p : / / w w w . c o u r t s . g o . i p / s i h o t o k e i /g r a ph/pd f l B1 9No1 斗』占(平成 2 0年 1 0月 6日現在)。平成 1 5年の全事 件の新受件数は、 6 0 0万件超であったが、現在は 4 5 0 万件にまで落ち込んでいる。この現象は、民事・刑事事 件の件数が大幅に減少したことによる 。 21 アメリカにおけるサーシオレイライ制度について、 「法の支配」との整合性の観点、から検討したものとして、 拙稿「アメリカにおけるサーシオレイライ制度の展開と 法の支配」近畿大学法学 4 9巻 4号 5 9頁 ( 2 0 0 2 )。 22 連邦最高裁判所では、年々数ノく一セントの単位で新 0 0 6年開廷期では 8 8 5 7 受件数が増加の傾向にある 。 2 件が上告され、そのなかで 7 8件が審理された。 2 0 0 5 年開廷期は、 8 7件が審理された。. h t t p : / / w w w . s u p r e m e c o u r t u s . g o v / p u b l i c i n f o / v e a r -e nd/2 r -e n d r e p o r t . p d f(平成 2 0年 1 0月 6日現在)。 0 0 7 v e a 23 最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説(中. H. 248-249頁 24. 同上。. 2 5裁判所法附則昭和 2 4年 6月 1日法律 1 7 7条による 追加。 田中真次「最高裁調査官制度について j 判例タイム ズ2 0 1号 1 0 3頁以下。 もっとも、首席調査官について 3年 1 2月 2日施行の「最高裁判所首席調査 は、昭和 4 官に関する規則」が制定されているが、その内容は単に 「最高裁調査官の事務を総括」することを職務とすると する内容が示されているだけである 。 2 7園部・前掲注 ( 1 9 )3 0 6・ 3 0 7頁。 2 8 マイケル・ K ・ヤング「アメリカの連邦最高裁判所 awc l a r k ) とその影響を中心とし ロー・クラーク(I 9 7 9アメリカ法 1頁 ( 1 9 7 9 )。 てJ 1 29 特に、最高裁判所の判例となる多数意見・法廷意見 の第一次草案は、調査官の手による事が原則であるとす る。その理由は、特定の裁判官の個性のにじみでている 2 6.

(7) ものよりも、客観的な叙述で主観性の希薄なものが望ま しいといえ、やや官僚作文的な傾向に流れるとはいえ、 調査官がその個性を殺して書く案を基礎とするほうが よいとされているように思われるからだとする見解も ある 。伊藤正巳『裁判官と学者の問Jl 87-88頁(有斐 閣 、 1 9 9 3 )。 30 園部・前掲注 ( 1 9 ) 307頁。また衆議員議員定数不 1年 4月 1 4日民集 30巻 3号 均衡訴訟(最大判昭和 5 223頁)。 3 1 斉藤秀夫「西ドイツよりみた日本の裁判制度」慶浜 先生追悼記念論文集『法と法学教育Jl427頁(勤草書房、. 本稿は、前回に引き続き、近畿大学工業高等専門学校の 助成(別枠研究費)、並びに近畿大学における学外研修 の機会を得て、作成をした。. 1 9 6 2 )。 ( 2 3 ) 252頁。 1 2月 8日、司法制度改革審議会第 8回配布. 32 最高裁判所事務総局・前掲注. 33 1 999年. 資料「司法制度改革に関する裁判所の基本的な考え方」 。 ( 4 )1 5 8頁以下。 35 畑・前掲注 ( 2 ) 5-7頁。 36 最大判平成 1 7年 9月 1 4日. 民 集 59巻 7号 2087頁。 3 7 最大判平成 2 0年 6月 4日。 38 さしあたり、ジュリスト 1 037号 「 特 集 違 憲 審 査 制 1 9 9 4 )。 またそのなかの、藤井俊夫「憲法判 の現在 J ( 断における審査基準の役害リ」ジュリスト 1 037号 34頁 以下。 3 9 例えば、紙谷雅子編『日本国憲法を読み直すJl (日本 0 0 0 )、松井茂記「最高裁判所の憲法判例 経済新聞社、 2 の半世紀」佐藤幸治・初宿秀典・大石異編『憲法五十年 9 9 8 ) の展望 II-自由と秩序 -J l 203頁以下(有斐閣、 1 など。 40 戸松・前出 ( 3 ) 日本公法学会報告用レジュメ 。初宿 秀典「最高裁判例における先例参照の手法」法律時報 56巻 1号 76頁 ( 1 9 8 4 )0 41 最大判昭和 5 2年 7月 1 3日民集 31巻 4号 533頁。 34 和田・前掲注. Lemon双 Kurtzman, 403U.S.602( 1 9 7 1 ) .. 42. 43 渋谷秀樹「司法の現状分析一公法学の影響憲法訴. 3頁 ( 2 0 01 ) 訟一」公法研究 63号 7 44 高橋滋「行政訴訟をめぐる裁判例の動向と課題j 法 2 0 0 7 )。 曹時報 59巻 8号 ( 45 渋谷・前掲注 ( 4 3 ) 83頁。 46 朝日訴訟」とは、原告が上告提起後死亡したため 「本件訴訟は、・・上告人の死亡により終了した」との 判決のあと、「なお、念のために・.J という書き出し 1巻 5 で、生活扶助基準について判断を下した。民集 2 号1 043頁。 47 中野・前掲注 ( 2 ) 37-39頁。 48 最大判昭和 5 7年 7月 7日民集 36巻 7号 1235頁。 49 最判昭和 5 7年 1 2月 7日訟月 29巻 6号 1 1 2 1頁。 50 最判平成 7年 7月 5日民集 4 9巻 4号 1789頁。 5 1 棚瀬孝雄『紛争と裁判の法社会学Jl 1 3 2頁(法律文 化 ネ 土 、 1 9 9 2 ) 52 伊藤・前掲注 ( 2 9 ) 62-69頁。 53 アメリカ合衆国におけるロークラークの制度意義と 問題点について、拙稿「アメリカ合衆国におけるローク 1巻 1号 69頁 ラーク制度と裁判官J 近畿大学法学 5 0. 0. ( 2 0 0 3 )。. 91291,1254( 1 ) ,1 2 5 2 .連邦最高裁判所にお ける裁判官の裁量について、拙稿・注 ( 2 1 ) 7374頁以 下。 55 佐藤、竹下、井上編・前掲 ( 6 ) ・309頁。 542 8U.S.C.. -81-.

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