博 士 学 位 論 文
薬剤の揮発性成分分散と有害暴露回避による
抗がん剤除染に関する研究
近 畿 大 学 大 学 院
薬学研究科 薬学専攻
塚 本 あ ゆ み
i 目 次 序 論 ... 1 第 1 章 消 炎 鎮 痛 パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を同 時 保 存 した際 の成 分 移 行 性 に関 する研 究 Ⅰ.緒 言 ... 2 Ⅱ.方 法 ... 3 1.使 用 薬 剤 および有 効 成 分 ... 3 2.パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 評 価 ... 3 Ⅲ.結 果 ... 5 1.HPLC-PDA によるパップ剤 および軟 膏 剤 中 薬 物 解 析 ... 5 2.MS パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 解 析 ... 7 3.IMC パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 解 析 ... 9 Ⅳ.考 察 ... 10 Ⅴ.小 括 ... 13 第 2 章 オゾンガスを用 いたヌクレオシド系 抗 がん剤 の除 染 Ⅰ.緒 言 ... 14 Ⅱ.方 法 ... 15 1.評 価 使 用 薬 剤 および有 効 成 分 ... 15 2.オゾンガスへの暴 露 ... 15 3.HPLC 装 置 、測 定 条 件 ... 16 Ⅲ.結 果 ... 17 Ⅳ.考 察 ... 20 Ⅴ.小 括 ... 21 総 括 ... 22 結 論 ... 24 引 用 文 献 ... 25 主 論 文 ... 27 謝 辞
1 序 論 薬 剤 は 様 々 な特 性 を有 し てお り、 溶 解 性 、 吸 湿 性 、 融 点(分 解 点 )、沸 点 、 凝 固 点 、酸 塩 基 解 離 定 数 、分 配 係 数 など物 理 化 学 的 性 質 は多 岐 にわたる。 その 物 性 の 揮 発 性 は常 温 常 圧 で大 気 中 に 容 易 に 揮 発 す ることであ り、 揮 発 性 の高 いフェノール類 は医 薬 品 としても使 用 されている。揮 発 性 薬 剤 は適 切 な使 用 では問 題 とならないが、環 境 中 へ放 出 されると成 分 の減 弱 および不 要 な人 への化 学 物 質 過 敏 症 などの悪 影 響 を及 ぼすことが考 えられる。医 薬 品 の 揮 発 性 に関 する報 告 は少 なく、その特 性 を明 確 にすることは適 正 な保 管 方 法 および外 部 への影 響 を知 る上 で、基 本 的 事 項 であると思 われる。 さらに薬 剤 を不 要 とする健 常 人 にはいかなる医 薬 品 であっても暴 露 すること で 有 害 作 用 をも た ら す 可 能 性 が あ り、 特 に 揮 発 性 の 高 い 医 薬 品 で 暴 露 し や すいことから、様 々な条 件 下 において、暴 露 により有 害 性 を示 す物 質 を触 れる ことなく無 害 に処 理 できる方 法 を構 築 することは極 めて重 要 である。 薬 剤 の空 気 中 への分 散 の程 度 を検 証 するため、今 回 、第 1 章 で消 炎 鎮 痛 パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を同 時 保 存 した際 の成 分 移 行 性 に関 する研 究 を、 また健 常 人 には有 害 である抗 がん剤 暴 露 対 策 の研 究 として、第 2 章 でオゾン ガスを用 い たヌ クレオシド系 抗 がん剤 の 除 染 に 関 する 研 究 につい て得 られ た 成 果 を報 告 する。
2 第 1 章 消 炎 鎮 痛 パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を同 時 保 存 した際 の成 分 移 行 性 に関 す る研 究 Ⅰ.緒 言 複 数 の薬 剤 を処 方 されている高 齢 者 は、使 用 していない残 薬 も含 め、用 法 用 量 等 の記 載 のある薬 袋 で保 管 しておらず、処 方 日 等 の有 効 ・使 用 期 限 情 報 が不 明 で、「使 用 してもよいか」等 を問 い合 わせすることは珍 しくない 1)。また、 菓 子 箱 、缶 など温 度 や湿 度 などの影 響 を受 けやすい環 境 下 で複 数 の医 薬 品 を一 緒 に 保 管 して いることも あり、 開 封 後 の 医 薬 品 を同 じ 症 状 が 出 た時 に 使 用 する患 者 も存 在 する 1)。この場 合 、医 薬 品 の分 解 などによる薬 効 の減 弱 や、 性 質 の変 化 等 に加 えて、現 在 使 用 薬 剤 との相 互 作 用 が問 題 になるケ ースも 危 惧 される。このように、利 便 性 の面 等 から自 己 流 の管 理 をしている患 者 も多 く見 受 けられ、軟 膏 剤 と開 封 済 みの湿 布 剤 をともにビニール袋 に入 れ保 管 し ている患 者 も少 なくない。しかし、内 服 薬 とは異 なり、パップ剤 に関 しては成 分 の物 理 化 学 的 性 質 を考 慮 した保 管 方 法 に関 する報 告 が少 なく 2)、これらの背 景 から、薬 剤 師 が患 者 の医 薬 品 管 理 や残 薬 の実 態 を把 握 し、適 切 な医 薬 品 の管 理 ・残 薬 の取 扱 いを支 援 することは超 高 齢 社 会 を迎 える我 が国 において 極 めて重 要 である。そのため、製 剤 間 の成 分 移 行 性 に関 する検 討 は新 規 性 が高 く、臨 床 の現 場 においても非 常 に有 用 と思 われることから、消 炎 鎮 痛 パッ プ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を同 時 保 存 した際 の成 分 移 行 性 について検 討 を行 った。
3 Ⅱ.方 法 1.使 用 薬 剤 および有 効 成 分 パップ剤 は臨 床 で多 用 されており損 傷 皮 膚 への使 用 に注 意 が必 要 な非 ス テロイド性 抗 炎 症 薬 (NSAIDs 製 剤 )、MS 冷 シップ「タイホウ」(20 g/枚 :主 薬 サリチル酸 メチル 0.4 g/枚 、MS パップ剤 ;大 鵬 薬 品 工 業 (株 )、大 阪 )とカトレ ップ®パップ 70 mg(14 g/枚 :主 薬 インドメタシン 70 mg/枚 、IMC パップ剤 ;帝 國 製 薬 (株 )、大 阪 )を用 いた。また、痔 疾 用 軟 膏 剤 には臨 床 で汎 用 されてお り一 般 的 な容 器 であるポリエチレン製 チューブ(アルミラミネートなし)にて保 存 さ れ る 、 強 力 ポ ス テ リ ザ ン® 軟 膏 ( 2 g/ 個 : 主 薬 大 腸 菌 死 菌 浮 遊 液 0.163 mL/g、ヒドロコルチゾン 2.5 mg/g、HC 軟 膏 ;マルホ(株 )、大 阪 )とアルミラミネ ートが施 されたポリエチレン製 チューブが用 いられる、ネリプロクト® 軟 膏 (2 g/ 個 :主 薬 ジフルコルトロン吉 草 酸 エステル 0.1 mg/g およびリドカイン 20 mg/g、 DFV-L 軟 膏 ;バイエル薬 品 (株 )、大 阪 )を選 択 した。確 認 定 量 用 のサリチル 酸 メ チ ル ( キ シ ダ 化 学 ( 株 ) 、 大 阪 ) 、 イ ン ド メ タ シ ン ( 東 京 化 成 工 業 ( 株 ) 、 東 京 )、成 分 同 定 用 のヒドロコルチゾン(東 京 化 成 工 業 (株 ))、フェノール(和 光 純 薬 工 業 (株 )、大 阪 )、分 析 用 のリン酸 二 水 素 ナトリウム、リン酸 水 素 二 ナトリ ウム、メタノール(キシダ化 学 (株 ))は特 級 および高 速 液 体 クロマトグラフ用 試 薬 を使 用 した。 2.パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 評 価 MS パップ剤 または IMC パップ剤 1 枚 を含 む蓋 付 きの褐 色 瓶 内 (800 mL) に、ラミネートフィルムで個 装 された未 開 封 の状 態 の各 痔 疾 用 軟 膏 剤 (3 個 )を 製 剤 同 士 が密 着 しないように設 置 し、室 温 で 20~40 週 間 密 封 保 管 した。本 研 究 では 4 種 の組 み合 わせについて検 討 を行 った(組 み合 わせ:1. HC 軟 膏 と MS パップ剤 、2.HC 軟 膏 と IMC パップ剤 、3.DFV-L 軟 膏 と MS パップ剤 、 4.DFV-L 軟 膏 と IMC パップ剤 )。軟 膏 剤 からの成 分 抽 出 (HC 軟 膏 抽 出 液 お よび DFV-L 軟 膏 抽 出 液 )および成 分 量 の測 定 は以 下 のようにして行 った。 各 時 系 列 で保 管 した HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 2g/本 を搾 り出 し混 合 した
4 後 、0.2g を共 栓 付 試 験 管 に取 り、水 :メタノール=1:4 液 10 mL で抽 出 したも のを撹 拌 し、超 音 波 処 理 (38℃、15 min)を行 った。その後 、3,000 rpm で 20 min 遠 心 分 離 を行 い、上 清 を 0.45μm メンブランフィルターでろ過 後 、高 速 液 体 クロマ ト グ ラフ ィ ー (HPLC)法 にて定 量 した。流 速 0.5mL/min、カラム温 度 40℃、フォトダイオードアレイ(PDA)検 出 器 (SPD-M20A:(株 )島 津 製 作 所 、 京 都 )で 190~800nm の波 長 範 囲 の二 次 元 クロマトグラムを検 出 し、紫 外 検 出 器 (SPD-20A:(株 )島 津 製 作 所 )で検 出 波 長 254 nm においてサリチル酸 メチル、インドメタシンを定 量 した。移 動 相 は HC 軟 膏 の測 定 には 10mM リン 酸 緩 衝 液 (pH 5.89):メタノール=30:70、DFV-L 軟 膏 には 10 mM リン酸 緩 衝 液 (pH 5.89):メタノール=40:60 をそれぞれ使 用 した。定 量 には、サリチル 酸 メ チ ル (1、10、 100、250、 500 μg/mL)およびイン ドメタシン( 1、10、 25、50 μg/mL)濃 度 を用 いた絶 対 検 量 線 法 に従 った(サリチル酸 メチル、r2 = 0.998; インドメタシン、r2 = 0.999)。
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Ⅲ.結 果
1.HPLC-PDA によるパップ剤 および軟 膏 剤 中 薬 物 解 析
図 1A、B には HC 軟 膏 抽 出 液 (A)および DFV-L 軟 膏 抽 出 液 (B)の PDA
3 次 元 検 出 チャートを示 す。HC 軟 膏 抽 出 液 では 7.1 min に添 加 物 フェノー ル 、8.1min に 主 成 分 で あ る ヒ ド ロ コ ル チ ゾ ン の ピ ー ク が 認 め ら れ ( 図 1A ) 、 DFV-L 軟 膏 抽 出 液 では 32.0 min に主 成 分 であるリドカインが検 出 できた(図 1B)。図 1C、D には HC 軟 膏 抽 出 液 検 出 用 の HPLC-PDA 条 件 下 における サリチル酸 メチル標 準 品 (C)とインドメタシン標 準 品 (D)の PDA 3 次 元 検 出 チ ャートを示 す。MS パッ プ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチルは 10.4 min に (図 1C)、IMC パップ剤 の主 成 分 であるインドメタシンのピークは 8.5 min 付 近 で確 認 できた(図 1D)。また、図 1E、F には DFV-L 軟 膏 抽 出 液 検 出 用 の HPLC-PDA 条 件 下 におけるサリチル酸 メチル標 準 品 (E)、インドメタシン標 準 品 (F)の PDA 3 次 元 検 出 チャートを示 す。サリチル酸 メチルとインドメタシンの ピークはそれぞれ 25.8 min、27.7 min にて検 出 できた。
6 図 1 各 種 パップ剤 および軟 膏 剤 における HPLC-PDA3 次 元 薬 物 検 出 チャート A:HC 軟 膏 抽 出 液 の検 出 チャート B:DFV-L 軟 膏 抽 出 液 の検 出 チャート C:HC 軟 膏 抽 出 液 測 定 条 件 下 におけるサリチル酸 メチル標 準 品 の検 出 チャ ート(100μg/mL) D:HC 軟 膏 抽 出 液 測 定 条 件 下 におけるインドメタシン標 準 品 の検 出 チャート(50μg/mL) E:DFV-L 軟 膏 抽 出 液 測 定 条 件 下 におけるサ リチル酸 メチル標 準 品 の検 出 チャート(100μg/mL) F:DFV-L 軟 膏 抽 出 液 測 定 条 件 下 におけるインドメタシン標 準 品 の検 出 チャート(50μg/mL) D C E F A B
7 2.MS パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 解 析 図 2A、B は MS パップ剤 と HC 軟 膏 (A)または DFV-L 軟 膏 (B)同 時 保 管 時 における代 表 的 PDA 3 次 元 検 出 チャートを、図 2C、D は HC 軟 膏 (C)また はDFV-L 軟 膏 (D)中 へのサリチル酸 メチル混 入 量 の経 時 的 変 化 を示 す。MS パップ剤 と HC 軟 膏 同 時 保 管 2 週 目 以 降 では軟 膏 剤 中 に MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチル(10.4 min のピーク、図 2A)がみられた。また、同 時 保 管 2 週 ~4 週 間 で急 激 な薬 物 移 行 が認 められ、その量 は 2、3、4 週 間 で それぞれ0.12、2.02、4.48mg/個 と直 線 的 に増 加 した。その後 、同 時 保 管 5 週 ~6 週 以 降 では緩 徐 な増 加 となり、40 週 (5.68 mg/個 )までほぼ一 定 値 を示 し た(図 2C)。MS パップ剤 と DFV-L 軟 膏 同 時 保 管 時 においては、同 時 保 管 1 週 目 以 降 で MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチルのピーク(25.8min) が認 められた(図 2B および D)。また、同 時 保 管 1 週 ~4 週 までの移 行 量 と 比 較 し、同 時 保 管 6 週 ~20 週 ではその増 加 は緩 徐 であった。さらに同 時 保 管 における HC 軟 膏 、DFV-L 軟 膏 ともに軽 い芳 香 性 の臭 気 が認 められた。
8 図 2 同 時 保 管 時 における MS パップ剤 から各 種 軟 膏 剤 への サリチル酸 メチル混 入 の危 険 性 評 価 A:MS パップ剤 および HC 軟 膏 同 時 保 管 4 週 間 後 における PDA3 次 元 検 出 チャート B:MS パップ剤 および DFV-L 軟 膏 同 時 保 管 4 週 間 後 における PDA3 次 元 検 出 チャート C:MS パップ剤 および HC 軟 膏 同 時 保 管 時 による サリチル酸 メチルの経 時 的 移 行 量 D:MS パップ剤 および DFV-L 軟 膏 同 時 保 管 時 によるサリチル酸 メチルの経 時 的 移 行 量 データは平 均±標 準 偏 差 と して表 した(n=3) C D B A
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3.IMC パップ剤 から軟 膏 剤 への成 分 移 行 性 解 析
図 3A、B は IMC パップ剤 と HC 軟 膏 (A)または DFV-L 軟 膏 (B)同 時 保
管 時 における代 表 的 PDA 3 次 元 検 出 チャートを示 す。HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 ともに 40 週 間 IMC パップ剤 と同 時 保 管 した際 にもインドメタシンの混 入 量 は HPLC の検 出 限 界 値 (0.36 μg/mL)未 満 であった。 図 3 同 時 保 管 時 における IMC パップ剤 から各 種 軟 膏 剤 への インドメタシン混 入 の危 険 性 評 価 A:IMC パップ剤 および HC 軟 膏 同 時 保 管 40 週 間 後 における PDA3 次 元 検 出 チャート B:IMC パップ剤 および DFV-L 軟 膏 同 時 保 管 40 週 間 後 におけ る PDA3 次 元 検 出 チャート B A
10 Ⅳ.考 察 まず、MS パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 の同 時 保 管 について検 討 したところ、HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 の両 軟 膏 剤 から MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチ ル酸 メチルが2 週 目 までは未 検 出 あるいは低 値 であったが、それ以 降 、明 らか な移 行 が認 められた(図 2)。2 週 目 まで HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 の両 軟 膏 剤 へのサリチル酸 メチルの移 行 は未 検 出 あるいは低 値 であったことから、移 行 には保 管 容 器 (800 mL)に MS パップ剤 から揮 発 したサリチル酸 メチルがあ る一 定 の濃 度 に充 満 する必 要 性 が示 唆 された。一 方 、サリチル酸 メチル移 行 量 は20 週 までの同 じ保 管 期 間 で比 較 したところ、DFV-L 軟 膏 より HC 軟 膏 で 高 値 であった。今 回 用 いた痔 疾 用 軟 膏 剤 の両 製 剤 の容 器 を比 較 してみると、 HC 軟 膏 の容 器 はポリエチレン製 チューブ(アルミラミネートなし)であったが、 DFV-L 軟 膏 ではポリエチレン・アルミラミネートチューブが用 いられていた。これ らアルミラミネートは透 湿 性 が低 く、バリア能 が高 い材 質 である。従 って、容 器 の材 質 の違 いがMS パップ剤 から DFV-L 軟 膏 への低 い成 分 移 行 性 あるいは 緩 徐 に 移 行 していることに関 与 しているものと示 唆 された。本 研 究 にお いて、 HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 のデータ収 集 期 間 が異 なるが、サリチル酸 メチル の移 行 について HC 軟 膏 は約 5 週 間 で容 器 内 において濃 度 平 衡 により移 行 割 合 はほぼ上 限 に達 したと思 われる。しかしながら、DFV-L 軟 膏 では 20 週 間 においても移 行 が上 昇 傾 向 であり、さらに継 続 保 管 することによって移 行 濃 度 は緩 徐 に増 加 する可 能 性 が示 唆 された。これら MS パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 との同 時 保 管 の結 果 とは異 なり、IMC パップ剤 の主 成 分 インドメタシンは HC 軟 膏 またはDFV-L 軟 膏 剤 への移 行 が認 められなかった(図 3)。パップ剤 の成 分 が痔 疾 用 軟 膏 剤 のポリエチレン容 器 を通 過 する際 に重 要 な要 因 として、揮 発 性 が高 いことが考 えられる。通 常 、蒸 気 圧 が高 い物 質 は揮 発 性 が高 く、サリ チル酸 メチルは比 較 的 大 きな蒸 気 圧 (6 Pa:20℃)を有 しており、揮 発 性 が高 い物 質 である。一 方 、インドメタシンはイオン性 物 質 であり3)、分 子 間 相 互 作 用 が働 くために揮 発 しにくい。またインドメタシンはサリチル酸 メチルの 2 倍 以 上 の分 子 量 を有 しており、一 般 的 に、分 子 量 が大 きい物 質 はその結 合 力 から沸 点 が高 く揮 発 しにくいことが知 られている。これらの知 見 から、揮 発 性 の違 いが MS パップ剤 と IMC パップ剤 の成 分 移 行 性 の違 いにかかわっているものと考
11 えられる。一 方 、本 研 究 で対 象 とした MS パップ剤 および IMC パップ剤 の両 方 に添 加 されている l-メントール(分 子 量 156.27)、さらに MS パップ剤 中 に 含 まれる dl-カンフル(分 子 量 152.23)もまたサリチル酸 メチルと同 程 度 の分 子 量 を有 した揮 発 性 物 質 であるが、軟 膏 内 への移 行 は認 められなかった。これ ら要 因 の 1 つとして製 剤 中 における含 有 量 が考 えられた。MS パップ剤 のサリ チ ル 酸 メ チ ル 含 有 量 は 、2 % ( w/w ) で あ る の に 対 し 、 l- メ ン ト ー ル は 0.3 % (w/w)、dカンフルは 0.5%(w/w)と少 量 であった。また、IMC パップ剤 中 の l-メントール含 有 量 は非 公 開 であったものの、l-メントールは蒸 気 圧 が 1.06 Pa (20℃)とサリチル酸 メチルの約 1/6 と低 値 であった。従 って、本 研 究 において l-メントールと dl-カンフルの成 分 が検 出 されなかった理 由 として、これら含 有 量 ま た は 揮 発 性 が 関 与 す る も の と 示 唆 さ れ た 。 サ リ チ ル 酸 系 製 剤 局 所 注 射 剤 (ネオビタカイン®注 )でサリチル酸 ナトリウム 1.5~7.5 mg/回 が通 常 用 量 (添 付 文 書 )であることから、投 与 経 路 は異 なるが今 回 の研 究 結 果 でサリチル酸 メチ ルが約 5 mg/個 (2 g)移 行 した痔 疾 用 軟 膏 剤 を使 用 することは、初 回 通 過 効 果 を受 け ない直 腸 からの吸 収 によって臨 床 的 な効 果 が 示 される量 であり、粘 膜 刺 激 お よび血 管 収 縮 作 用 による痔 疾 患 の 悪 化 および喘 息 患 者 の発 作 誘 発 の可 能 性 が示 唆 された。現 在 MS パップ剤 をはじめサリチル酸 メチルを含 有 する湿 布 剤 は幾 つか市 販 されている。なかでもOTC 医 薬 品 のパップ剤 に含 有 されるサリチル酸 メチルは、医 療 用 医 薬 品 の湿 布 剤 と比 較 し高 量 であるものが 存 在 し、市 販 OTC サリチル酸 メチルパップ剤 (サロンパス Ae®)では主 薬 含 有 量 が6.29%(w/w)と今 回 用 いた MS パップ剤 のそれの 3 倍 以 上 のサリチル酸 メチルが含 まれている。 そのため、ポリエチレン容 器 が用 いられる軟 膏 製 剤 と これらの OTC 医 薬 品 を同 時 保 管 した際 には、高 量 のサリチル酸 メチルが軟 膏 内 へ移 行 することが類 推 できる。 また、保 険 薬 局 等 でもらうビニール袋 や引 き 出 しのなかなどに使 用 中 の内 服 薬 や外 用 薬 を色 々な状 況 でまとめて保 管 して いる患 者 は多 く見 受 けられる。今 回 の研 究 では室 温 下 における密 封 性 の高 い ガラス瓶 で保 存 した際 の移 行 性 で検 証 したことから、日 常 生 活 における医 薬 品 の保 管 状 態 は様 々であり、さらに、冷 所 あるいは苛 酷 な条 件 等 の温 度 変 化 における影 響 を一 律 に結 論 付 けることはできないことは研 究 限 界 である。しか し、医 薬 品 を密 封 性 の低 いビニール袋 や引 き出 しと密 封 性 の高 い缶 で保 管 し
12 た場 合 において、程 度 は異 なると思 われるが意 図 せぬコンタミネーションが示 唆 さ れ たこ と は 、 開 封 後 の 医 薬 品 を 別 に 保 管 す る な ど 適 切 な 医 薬 品 管 理 が 重 要 であることが示 され、このような複 数 のパップ剤 を一 カ所 にまとめ保 管 する 方 法 は、製 剤 間 の成 分 移 行 を伴 うものと推 察 される。痔 疾 用 軟 膏 剤 が処 方 さ れている患 者 に対 して、使 用 している OTC 医 薬 品 外 用 薬 までも把 握 したうえ で、服 薬 指 導 、薬 剤 管 理 指 導 を行 うのは困 難 であるが、現 在 使 用 中 あるいは 家 で保 管 している湿 布 剤 等 についてもしっかりと聞 き取 りを行 い、保 管 に関 し て説 明 することが重 要 と思 われる。さらに、痔 疾 用 軟 膏 剤 容 器 の材 質 に使 用 されているポリエチレンは、数 あ るプラスチック材 料 の なかでも酸 素 ・ 炭 酸 ガス 透 過 度 (単 位 :cc/m2・24h/atm)が比 較 的 大 きいことが知 られている4)。大 部 分 の点 滴 静 注 用 バック等 は容 器 の材 質 がポリエチレン製 であるため、患 者 個 人 の保 管 のみならず病 院 等 の調 剤 室 においても、揮 発 性 の高 い成 分 を含 有 す る製 剤 とポリエチレン製 の容 器 が用 いられた薬 剤 を保 管 する際 は、成 分 移 行 に十 分 留 意 する必 要 が示 唆 される。また、ポリエチレンよりも酸 素 透 過 度 、炭 酸 ガス透 過 度 が高 く、輸 液 や PTP シート等 材 質 として汎 用 されているポリプロ ピレンについても揮 発 性 の高 いサリチル酸 メチル等 の成 分 移 行 が起 こる可 能 性 があり、ポリプロピレンについても同 様 の検 討 していくことは重 要 な課 題 であ ると思 われる。そのため、今 後 、サリチル酸 メチルだけでなくほかの揮 発 性 物 質 や各 種 材 質 等 において、多 方 面 から検 討 していくことが必 要 である。
13 Ⅴ.小 括 1.MS パップ剤 と HC 軟 膏 同 時 保 管 2 週 目 以 降 に、MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチルが軟 膏 剤 中 に移 行 した。 2.MS パップ剤 と DFV-L 軟 膏 同 時 保 管 1 週 目 以 降 に、MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチルが軟 膏 剤 中 に移 行 した。 3.IMC パップ剤 の主 成 分 インドメタシンは HC 軟 膏 または DFV-L 軟 膏 剤 へ の移 行 が認 められなかった。 以 上 より、揮 発 性 の高 いサリチル酸 メチルを含 む MS パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 (HC 軟 膏 、DFV-L 軟 膏 )を同 時 保 管 した際 には、成 分 移 行 性 の危 険 性 が 生 じることを明 らかとした。
14 第 2 章 オゾンガスを用 いたヌクレオシド系 抗 がん剤 の除 染 Ⅰ.緒 言 第 1 章 の研 究 において、揮 発 性 の高 い成 分 を含 む薬 剤 と同 時 保 管 した薬 剤 に、成 分 が移 行 することが判 明 した。第 2 章 では、発 がん性 および催 奇 性 を持 つ抗 がん剤 への医 療 従 事 者 における暴 露 が問 題 となっている点 から、ヌ クレオシド抗 がん剤 の汚 染 除 去 剤 としてオゾンガスの適 用 性 についての検 討 を行 った。 がんの治 療 に用 いられている抗 がん剤 は、がん細 胞 に対 しては増 殖 抑 制 効 果 がある一 方 で、正 常 細 胞 には悪 影 響 を及 ぼすことが知 られている。抗 がん 剤 の 多 く は 発 がん性 ・ 催 奇 形 性 を持 ち、 生 殖 毒 性 、 遺 伝 毒 性 お よび 臓 器 毒 性 を引 き起 こす。高 頻 度 に抗 がん剤 に曝 露 されると尿 から変 異 原 性 物 質 が検 出 されていることや、染 色 体 に異 常 が生 じることから、医 療 従 事 者 への健 康 リ スクが懸 念 されている 5)。これらの毒 性 は、医 療 従 事 者 の染 色 体 異 常 をもたら すとされており、後 ろ向 き研 究 とメタアナリシスにより、化 学 療 法 曝 露 と自 然 流 産 との関 連 が明 らかになった 6,7)。抗 がん剤 を扱 う医 療 従 事 者 の末 梢 血 にお ける第 5 染 色 体 および第 7 染 色 体 異 常 の発 現 は、非 曝 露 者 と比 較 して高 か った 8)。抗 がん剤 への職 業 暴 露 を最 小 限 に抑 えるために、National Institute
of Occupational Safety and Health(NIOSH)Alert は、日 常 的 な清 掃 、除 染 、
廃 棄 物 処 理 などに関 する勧 告 を行 っており 9)、有 害 な薬 物 の取 り扱 いに関 す
る The American Society of Health System Pharmacists(ASHP)のガイドライ ンでは、有 害 な薬 物 を失 活 さ せず、汚 染 を広 げる可 能 性 があるアルコールを 用 いて表 面 除 染 と洗 浄 を推 奨 している 10)。除 染 したい抗 がん剤 にあわせて薬 液 を選 択 する必 要 があるが、次 亜 塩 素 酸 ナトリウム溶 液 での拭 き取 りは、多 く の有 害 な薬 物 の強 力 な不 活 性 化 剤 として推 奨 され、続 いて界 面 活 性 剤 でふ き取 り、チオ硫 酸 塩 で中 和 する。しかし、安 全 キャビネットのプレナムのような人 の手 が届 かない範 囲 は、拭 き取 り方 法 では除 染 できない。このことから有 効 、 簡 便 かつ経 済 性 に優 れた抗 がん剤 の除 去 方 法 が求 められている。そこで、殺 菌 作 用 と有 機 物 分 解 作 用 をあわせもつオゾンガスを用 いて抗 がん剤 が分 解 で
15 きるか検 討 を行 った。オゾンガスは、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)およびバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)による汚 染 を低 減 する ための殺 菌 剤 である 11,12)。ガスとしての特 性 により、プレナムなどの人 の手 が 届 かない範 囲 を含 むあらゆる場 所 に届 き、使 用 後 に除 去 または中 和 する必 要 はない。本 研 究 では、医 療 従 事 者 の抗 がん剤 暴 露 を防 止 するため、ヌクレオ シド抗 がん剤 の汚 染 除 去 剤 としてオゾンガスの適 用 性 について報 告 する。 Ⅱ.方 法 1.使 用 薬 剤 および有 効 成 分 抗 がん剤 は、キロサイド N 注 (20mL/A:シタラビン 40mg 含 有 ;日 本 新 薬 (株 ))、5-フルオロウラシル(5-FU)注 (5mL/A:フルオロウラシル 250mg 含 有 ; 協 和 発 酵 キリン(株 ))を用 いた。オゾンガスは Handy Clean(タムラテコ(株 )) を用 いて生 成 した。 2.オゾンガスへの暴 露 シタラビン 200μg またはフルオロウラシル 500μg をステンレス鋼 プレート上 に 滴 下 し、室 温 下 で乾 燥 させた後 、作 成 したプレートを実 験 室 に入 れ、オゾンガ スを抗 がん剤 に暴 露 した。湿 度 センサ ES2HB(Omron、京 都 )で実 験 室 内 の 湿 度 を測 定 し、超 音 波 加 湿 器 ボトルキューブ(Topland、静 岡 )を用 いて加 湿 した。非 処 理 のコントロール群 のプレートは、オゾンに暴 露 させず別 の実 験 室 に入 れた。 オゾン 暴 露 レベ ルは、オゾン 濃 度 (ppm)と曝 露 時 間 (min)の積 で ある CT 値 (ppm・min)として評 価 した。特 に断 りのない限 り、オゾン濃 度 および 湿 度 をそれぞれ 35ppm および 90%に保 った状 態 で暴 露 させ、CT を 80,000 に設 定 した。設 定 した CT 値 に達 した後 、オゾンガスを活 性 炭 で不 活 性 化 した。 プレート上 の抗 がん剤 は精 製 水 を含 んだ脱 脂 綿 を用 いて拭 き取 り回 収 し、残 存 する抗 がん剤 の量 を HPLC で分 析 した。すべてのデータは n=3 の平 均 とし て示 す。
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3.HPLC 装 置 、測 定 条 件
流 速 1mL/min、カラム(Capcell pak C18 MG II:資 生 堂 )、カラム温 度 40 ℃、
紫 外 線 検 出 器 (SPD-6AV:(株 )島 津 製 作 所 )で検 出 波 長 254 nm においてシ タ ラ ビ ン 、 フ ル オ ロ ウ ラ シ ル を 定 量 し 、 解 析 ソ フ ト (Chromato-PRO : Run Time Corporation)を用 いて解 析 した。移 動 相 はシタラビンの測 定 には 10mmol / L
リン酸 緩 衝 液 (pH5.0):アセトニトリル=95:5、フルオロウラシルには 50mmol /
17 Ⅲ.結 果 シタラビンは、CT 値 の増 加 とともに減 少 し、40,000ppm・min を超 えて検 出 されなかった(図 4)。次 に、抗 がん剤 に対 するオゾンの最 大 濃 度 の影 響 を調 べ、CT 値 の有 用 性 を明 らかにした(図 5)。最 大 オゾン濃 度 を 20、40、60ppm に設 定 し、実 験 中 に CT 値 が 10,000ppm・min に達 した時 点 でオゾン暴 露 を 終 了 し、 非 処 理 コ ントロ ール 群 は 100%とした。シタラビンはオゾン暴 露 後 約 50%に減 少 し、オゾンの最 大 濃 度 とは無 関 係 に群 間 で差 異 は見 られなかった。 オゾン暴 露 後 のシタラビン濃 度 に対 する湿 度 の影 響 を表 1 に示 す。湿 度 70% で の シ タ ラ ビ ン 濃 度 は 非 処 理 コ ン ト ロ ー ル 群 と 比 較 し 88.2% であ っ た 。 湿 度 80%では、シタラビンはコントロール群 と比 較 し 2.9%に減 少 し、湿 度 90%では 検 出 されなかった。様 々な湿 度 条 件 下 でオゾンに暴 露 した後 のフルオロウラシ ルのレベルを表 2 に示 す。オゾンは湿 度 70%ではフルオロウラシルに影 響 を与 えなかったが、湿 度 80%ではコントロール群 と比 較 し 13%に減 少 し、湿 度 90% では検 出 されなかった。 図 4 CT 値 とシタラビン残 存 率 の関 係 データは平 均±標 準 偏 差 として表 した(n=3)
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図 5 オゾン最 大 濃 度 におけるオゾン暴 露 後 のシタラビン残 存 率
データは平 均±標 準 偏 差 として表 した(n=3)
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表 2 オゾン暴 露 後 のフルオロウラシル残 存 率 に対 する湿 度 の影 響
20 Ⅳ.考 察 本 研 究 では、オゾンガスがヌクレオシド抗 がん剤 であるシタラビンおよびフル オロウラシルを分 解 することが示 されている。オゾンによる分 解 はCT に依 存 し、 オゾンの最 大 濃 度 に依 存 しない。オゾンの濃 度 が一 定 に保 たれている場 合 、 オゾンによる分 解 は時 間 依 存 性 である。さらに、湿 度 が高 いと抗 がん剤 の分 解 が促 進 される。オゾンは水 の存 在 下 で、オゾンよりも酸 化 還 元 電 位 と反 応 性 が 高 いヒドロキシルラジカルに変 換 される 13)ため、湿 度 の上 昇 により抗 がん剤 の 酸 化 反 応 が促 進 する可 能 性 がある。これらの結 果 より、オゾンガスが抗 がん剤 の除 染 剤 の候 補 となる可 能 性 があることを示 唆 している。オゾンガスは、上 述 した通 り抗 がん剤 分 解 に対 し利 点 があ る。これは、ヌクレオシド系 抗 がん剤 に 対 するオゾンガスの除 染 効 果 についての最 初 の報 告 である。今 後 、抗 がん剤 の除 染 剤 としてのオゾンの適 用 性 に関 するさらなる研 究 が計 画 されており、オ ゾンの他 の抗 がん剤 とのさらなる研 究 が必 要 とされている。
21 Ⅴ.小 括 1.シタラビンはオゾン暴 露 後 約 50%に減 少 し、オゾンの最 大 濃 度 とは無 関 係 であった。 2.シタラビン、フルオロウラシル共 に、高 湿 度 下 でオゾンに暴 露 すると分 解 が 促 進 された。 以 上 より、オゾンガスは、ヌクレオシド抗 がん剤 を CT 依 存 的 および湿 度 依 存 的 に分 解 したことが実 証 された。
22 総 括 1.消 炎 鎮 痛 パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を同 時 保 存 した際 の成 分 移 行 性 に関 する研 究 内 服 薬 とは異 なりパップ剤 に関 しては成 分 の物 理 化 学 的 性 質 を考 慮 した保 管 方 法 に関 する報 告 が少 ないことから、消 炎 鎮 痛 パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 を 同 時 保 存 した際 の、成 分 移 行 性 について検 討 を行 った。MS パップ剤 と痔 疾 用 軟 膏 剤 の同 時 保 管 について検 討 したところ、HC 軟 膏 および DFV-L 軟 膏 の両 軟 膏 剤 から MS パップ剤 の主 成 分 であるサリチル酸 メチルが 2 週 目 まで は未 検 出 あるいは低 値 であったが、それ以 降 明 らかな移 行 が認 められた。サリ チル酸 メチル移 行 量 は20 週 までの同 じ保 管 期 間 で比 較 したところ、DFV-L 軟 膏 より HC 軟 膏 で高 値 であった。一 方 、IMC パップ剤 の主 成 分 インドメタシン は HPLC の検 出 限 界 値 (0.36 μg/mL)未 満 であり、HC 軟 膏 または DFV-L 軟 膏 剤 への移 行 が認 められなかった。これは、HC 軟 膏 の容 器 はポリエチレン製 であったが、DFV-L 軟 膏 ではポリエチレンおよび透 湿 性 が低 く、バリア能 が高 い ア ル ミ ラ ミ ネ ー ト チ ュ ー ブ が 用 い ら れ て い た こ と か ら 、 容 器 の 材 質 の 違 い が MS パップ剤 から DFV-L 軟 膏 への低 い成 分 移 行 性 あるいは緩 徐 に移 行 して いることに関 与 しているものと示 唆 された。またインドメタシンはサリチル酸 メチ ルの 2 倍 以 上 の分 子 量 を有 しており揮 発 しにくいことから、揮 発 性 の違 いが MS パップ剤 と IMC パップ剤 の成 分 移 行 性 の違 いにかかわっているものと考 えられる。これらの結 果 から、容 器 の材 質 の透 過 性 や成 分 の揮 発 性 を考 慮 し、 保 管 場 所 等 適 切 な医 薬 品 管 理 について検 討 し患 者 に指 導 する必 要 があるこ とが示 唆 された。 次 に、医 療 従 事 者 の暴 露 が問 題 となっている抗 がん剤 の除 染 剤 としてオゾ ンガスの適 応 についての検 討 を行 った。 2.オゾンガスを用 いたヌクレオシド系 抗 がん剤 の除 染 が んの 治 療 に 用 い ら れ て い る 抗 が ん 剤 は 、 が ん 細 胞 に 対 し て は 増 殖 抑 制 効 果 がある一 方 で、正 常 細 胞 には悪 影 響 を及 ぼすことが知 られており、医 療 従 事 者 への健 康 リスクが懸 念 されている。従 来 の抗 がん剤 除 去 方 法 では非 常 に手 間 がかり、安 全 キャビネット内 や床 など人 の手 が届 く範 囲 でしか抗 がん剤
23 を除 去 することが出 来 ない。このことから有 効 、簡 便 かつ経 済 性 に優 れた抗 が ん剤 の除 去 方 法 が求 められている。そこで、殺 菌 作 用 と有 機 物 分 解 作 用 をあ わせもつオゾンガスを用 いて抗 がん剤 が分 解 できるか検 討 を行 った。シタラビ ンは CT 値 の増 加 とともに減 少 し、40,000ppm・min を超 えて検 出 されず、シタ ラビンはオゾンの最 大 濃 度 とは無 関 係 に、オゾン暴 露 後 約 50%に減 少 した。 湿 度 80%では、シタラビンはコントロール群 と比 較 し 2.9%に減 少 し、湿 度 90% では検 出 されなかった。フルオロウラシルの場 合 、湿 度 80%ではコントロール 群 と比 較 し 13%に減 少 し、湿 度 90%では検 出 されなかった。これらの結 果 より、 オゾンガスがヌクレオシド抗 がん剤 であるシタラビンおよびフルオロウラシルを分 解 することが示 され、オゾンガスが抗 がん剤 の除 染 剤 となりうることを示 唆 して いる。
24 結 論 1.揮 発 性 が高 いサリチル酸 メチルを主 成 分 とする MS パップ剤 と、湿 性 が低 く、バリア能 が高 い材 質 であるアルミラミネートとポリエチレンが用 いられてい る DFV-L 軟 膏 または酸 素 ・炭 酸 ガス透 過 度 が比 較 的 大 きいポリエチレン製 容 器 の HC 軟 膏 と同 時 保 管 した際 、軟 膏 剤 中 にサリチル酸 メチルの移 行 が 見 られ、サリチル酸 メチル移 行 量 は 20 週 までの同 じ保 管 期 間 で比 較 したと ころ、DFV-L 軟 膏 より HC 軟 膏 で高 値 であった。そのため、容 器 の材 質 の違 いが成 分 移 行 性 に関 与 していると示 された。 2.揮 発 しにくいインドメタシンを主 成 分 とする IMC パップ剤 は HC 軟 膏 または DFV-L 軟 膏 剤 への移 行 が認 められなかったことから、容 器 の材 質 の違 いだ けでなく、成 分 の揮 発 性 の違 いも移 行 性 に関 与 していることが示 された。 3.ヌクレオシド系 抗 がん剤 であるシタラビンをオゾンに暴 露 させると、CT 値 の 増 加 とともにシタラビンは減 少 し、40,000ppm・min を超 えて検 出 されず、オ ゾンの最 大 濃 度 とは無 関 係 にオゾン暴 露 後 シタラビンは約 50%に減 少 した。 このことから、オゾンによる分 解 は CT に依 存 し、オゾンの最 大 濃 度 に依 存 せず、オゾンの濃 度 が一 定 に保 たれている場 合 、オゾンによる分 解 は時 間 依 存 性 であると示 された。 4.オゾン暴 露 中 の湿 度 70%におけるシタラビン濃 度 はコントロール群 と比 較 し 88.2%、湿 度 80%では 2.9%に減 少 、湿 度 90%では検 出 されなかった。次 に、フルオロウラシル濃 度 は湿 度 70%の場 合 影 響 を受 けなかったが、湿 度 80%では 13%に減 少 、湿 度 90%では検 出 されなかった。このことから、湿 度 が高 いとオゾンによる抗 がん剤 の分 解 が促 進 されることが示 された。 本 研 究 結 果 により、薬 剤 の空 気 中 への分 散 の可 能 性 および抗 がん剤 暴 露 対 策 と して オゾン を 用 い た除 染 の 可 能 性 が 示 さ れ 、 今 後 の 薬 剤 管 理 の 適 正 化 および有 害 物 質 除 去 の簡 素 化 に進 展 すると考 えられる。
25 引 用 文 献 1)辻 野 靖 彦 , 三 木 昌 子 , 堀 里 子 , 佐 藤 宏 樹 , 佐 々木 豊 明 , 澤 田 康 文 , 患 者 宅 における残 薬 の保 管 状 況 調 査 のための手 法 の開 発 と予 備 的 調 査, 薬 と臨 床, 2013, 62, 520-529. 2)風 間 成 孔 , 成 形 パップ剤 の GMP と安 定 性 試 験 , Therapeutic Research, 1988, 8, 259-262.
3)Kanebako M, Inagi T, Takayama K, Transdermal delivery of
indomethacin by iontophoresis, Biol Pharm Bull, 2002, 25, 779-782. 4)安 田 武 夫 , プラスチック材 料 の各 種 特 性 の試 験 法 と評 価 結 果 (5):プラス
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26
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decontamination technologies for Clostridium difficile in the healthcare environment. J Hosp Infect. 2011, 77, 199–203.
12)Aydogan A, Gurol MD. Application of gaseous ozone for inactivation of bacillus subtilis spores. J Air Waste Manage Assoc. 2006, 56, 179–85. 13)United States Environmental Protection Agency. Alternative
27 主 論 文 本 論 文 の内 容 は以 下 の学 術 雑 誌 に公 表 した。 第 1 章 小 竹 武 , 松 本 優 里 香 , 塚 本 あゆみ, 井 上 知 美 , 石 渡 俊 二 , 草 薙 みか, 板 野 千 賀 , 大 里 恭 章 , 伊 藤 吉 将 , 長 井 紀 章 . 消 炎 鎮 痛 パップ剤 の適 正 保 管 に関 する研 究 :痔 疾 用 軟 膏 剤 への成 分 混 入 の可 能 性. 医 療 薬 学, 41(11),786-792, 2015. 第 2 章
Tsukamoto A, Ishiwata S, Kajimoto A, Murata R, Kitano R, Inoue T, Kotake T.
Application of ozone gas for decontamination of nucleoside anticancer. Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences. 2, 26, 1-4, 2016.
謝 辞 本 研 究 を行 うに際 し、御 懇 切 なる御 指 導 、御 助 言 を賜 りました近 畿 大 学 薬 学 部 小 竹 武 教 授 に心 より感 謝 いたします。 本 研 究 を進 めるにあたり、終 始 適 切 な御 助 言 を賜 りました近 畿 大 学 薬 学 部 石 渡 俊 二 准 教 授 、長 井 紀 章 准 教 授 、伊 藤 吉 将 前 准 教 授 に感 謝 申 し上 げます。 本 研 究 を実 施 するにあたり、御 協 力 賜 りました堺 市 立 総 合 医 療 センター 石 坂 敏 彦 先 生 、安 井 友 佳 子 先 生 に感 謝 いたします。 本 研 究 に御 協 力 いただきました八 尾 徳 洲 会 病 院 および近 畿 大 学 薬 学 部 臨 床 薬 学 部 門 医 療 薬 剤 学 分 野 の諸 氏 に感 謝 いたします。 最 後 に、本 論 文 を執 筆 するにあたり、御 高 閲 ならびに御 助 言 いただきました 近 畿 大 学 薬 学 部 髙 田 充 隆 教 授 、西 田 升 三 教 授 に深 く感 謝 いたしま す。