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日野氏ら2012 07 12付けJST宛告発別紙pdf 最近の更新履歴 wwwforumtohoku3rd

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(1)

別紙

井上明久氏(東北大学前総長)らの学術的にきわめて不適切な、原点が示されない圧縮 応力‐ひずみ曲線とそれから求めた機械的性質

概要

(独)科学技術振興機構(JST)の資金提供を受けた、創造科学技術推進事業(ERATO) の井上過冷金属プロジェクトは、強度や延性などの機械的性質が優れたバルク金属ガラ スを見出したことが最も重要な成果であったと考えられる。ところが、同プロジェクト の成果評価報告書に記載された論文には、

1)機械的性質を算出する根拠の圧縮応力-ひずみ曲線に応力の0(ゼロ)の位置、 つまり原点が示されないものが多数存在する。学術的に極めて不適切なこのよ うな応力‐ひずみ曲線は、オリジナルの応力‐ひずみ曲線を改ざんして作成さ れた疑いがある。

2)応力の0点が示されてない圧縮応力‐ひずみ曲線は、実験データの不都合な部 分を示さないために作成された可能性(隠蔽工作の疑い)がある。

3)応力の0点が不明の応力‐ひずみ曲線から、破断強度や全破断ひずみは算出で きないにも拘わらず、具体的な数値が記載されているケースがある。

4) 応力の0点が不明な応力‐ひずみ曲線からでも算出可能な破断塑性ひずみの数 値が、著者の意向に沿うように変更(改ざんが疑われる)されて記載されてい るケースがある。

このような学術的に極めて不適切で理解不能な事項は、研究資金を提供し、井上プロ ジェクトで成果が上がったと認定した JST の名誉と信用を著しく損ねていると考えら れる。

井上氏らの研究不正の疑惑対象論文は以下の通りである。なお、論文名の前の片括 弧の数字{例8)}は参考文献の番号に対応し、著者名の後の両かぎ括弧内の数字{例

[13]}は、JST ERATO 追跡評価用資料 井上過冷金属プロジェクト(19972002

4.3.1 代表的論文29編の論文番号に対応する。 告発対象論文(主として応力の0点が示されない論文) 8) Materials Transactions 43(2002) 708-711

T. Zhang and A. Inoue [13]

9) Materials Transactions JIM, 40(2001)1149-1151 A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka [4] 10) J. Materials Research 16(2001)2836-2844

A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaki 11) Acta Materialia 49(2001) 2645-2652

(2)

A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka [3] 12) Materials Transactions 43(2002)1952-1956 A. Inoue, W. Zhang and T. Zhang [11] 13) Materials Transactions 43(2002)2342-2345 W. Zhang and A. Inoue

14) Materials Transactions 42(2001)1805-1812 A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka 15) Materials Transactions 45(2004)584-587 A. Inoue and W. Zhang [19]

16) J. Materials Research 21(2006)234-241 W. Zhang and A. Inoue [29]

はじめに

二重投稿を主な理由として取り下げられた井上明久氏(東北大学前総長)らのAPL論 文

1)

を詳細に検討したところ機械的性質の数値が著者の主張に沿うように変更(改ざん が疑われる)されていることが判明した。そこで、研究資金の提供元のJST

2)

、関連論 文の発行元の日本金属学会

3)

および勤務先の東北大学

4)

に、井上氏らを研究不正の疑い で告発した。ところが、ねつ造・改ざんが疑われるAPL論文などは、JSTの井上過冷金 属プロジェクト(以下、井上プロジェクトと呼ぶ)の追跡評価用資料(追跡調査報告書)

5)

に記載された被引用件数の多い代表的論文、つまり主要論文27編(以下、主要論文 27編と呼ぶ)に含まれないことが、告発後に判明した。主要論文27編に含まれていな いとは言え、井上プロジェクトの根幹にかかわる重大な研究不正疑惑が新たに発見され たのだから、JSTはこの告発を看過することはないだろうと、その対応を重大な関心を 持って見守っている。

ところで、二重投稿を主な理由とした別の研究不正告発

6

に対して、JSTの調査チ ーム(御園生委員会)は、井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査報告書

7)

で、「研 究倫理の観点から不適切な事例があることは非常に遺憾であるが、それらは、本研究プ ロジェクトの成果の主要部分を危うくするものではないと判断される。」と記している。 これは、以下に述べるような理由によって、井上プロジェクトの成果の主要部分を危う くする研究不正には当たらないと判断したことに起因するようである。すなわち、主要 論文27編に二重投稿が指摘されているものが6編含まれるが、そのうち元論文は5件、 取り消し論文は1件である。元論文は他論文の著作権を侵害していないので、つまり言 わば被害者であって加害者ではないから、その内容は否定されない。他方、取り消しに よって1つの主要論文の内容は否定されたが、この論文の元論文は別の主要論文であり、 こちらは否定されていない。したがって、主要論文の主要な成果は何も否定されていな

(3)

い。これが、御園生委員会の見解と思われる。

また御園生委員会は、調査報告書の別の箇所で、この27編の「主要論文」の一つ として、調査報告書の成文化時点(2012118日)では、データのねつ造や改ざん に関わる研究不正告発がされていないことを根拠に、井上プロジェクトの「中核をな す成果が揺らぐことはない」、ともしている。

そこで、もし仮に井上プロジェクトの成果の主要部分、例えば追跡評価用資料の主 要論文27編に研究不正が見出されれば、上記のJSTによる研究成果確認調査報告書は 否定され、新たな対応に迫られると考えられる。そこで、主要論文27編の内容に、大 きな関心が持たれる。

井上プロジェクトは、過冷金属の安定性の限界とその結晶化の原因を探求し、新た な物質科学の創出と新規機能を持った金属材料の創製をねらいとして実施された

5)

と 記されている。具体的な研究テーマとして、①金属ガラスの構造解明、②金属ガラスの 大きな過冷却度発現の機構解明、③金属ガラスの基礎物性解明、④新規合金組成の探索、

⑤金属ガラス作製のための支配因子の明確化と新規工業材料としての有用な物性探索、

―の5 項目が掲げられて研究が推進され、その成果は学術論文として公表されている。 井上プロジェクトの追跡評価用資料

5)

によれば、748 件の論文が発表(748 編のうち、 60 編以上が重複7))され、その中の被引用件数の多い 29 編(2 編の重複を除くと 27 編)が主要論文であるとされている。井上氏らの論文は自己引用率が非常に高(約75%) いので、被引用件数の多い論文が第三者から必ずしも高く評価されたとは言えない。し かし、被引用件数の多い論文は、井上氏ら自身が重要と考えた論文、あるいはプロジェ クトの主要な成果と評価した論文であることは確実と思われる。そこで、主要論文 27 編が、上記の5個の研究テーマのいずれに該当するか知るために文献調査を行った。

主要論文27編のうち23編が研究論文で、4編が解説論文である。23編の研究論文の 題目に、機械的性質、強度、塑性、圧縮、引張、変形のキーワードが含まれるものは 19 編にのぼる。これらの論文には、ガラス相の生成や熱的安定性等も記載されている が、主題はあくまでも強度や延性などを中心とした機械的性質である。23 編の研究論 文のうち、1編は熱処理によって準結晶が生成する論文で、準結晶析出によるバルク金 属ガラスの強度増大に関する APL 論文等(前回の研究不正告発対象論文)の先駆論文 である。他方、機械的性質以外を研究した研究論文は主要論文 23編のうち、わずか3 編に過ぎない。4編の解説論文のうち3編は、やはり機械的性質を紹介している。さら に、プロジェクト期間(19972002)に公表された主要研究論文11編に注目すれば(注: これらが、井上プロジェクトの本来の成果と考えることは、常識的だと見做せる)、10 編は機械的性質を主題とし、他の1編は準結晶生成の論文である。すなわち、井上プロ ジェクトの成果の中核と考えられる研究論文 11 編の中心課題は、優れた機械的性質を 有するバルク金属ガラスの探索であった。これらの事実は、井上プロジェクトの最も大 きな成果は、「新規機能を持った金属材料の創製をねらい、新規工業材料としての有用

(4)

な物性探索を行って、機械的性質の優れたバルク金属ガラスを見出したことにある」と 考えてよいことを如実に物語る。

本稿では、井上プロジェクトの追跡調査報告書に記載された主要論文27編を中心 に、JSTから資金提供を受けて行われた関連論文を含めて、バルク金属ガラスについて 報告された機械的性質が適切・的確に導き出されたか否かを検討し、研究不正の存否を 考える。

検討結果

図1は、バルク金属ガラスNi53Nb20Ti10Zr8Co6Cu3合金(数字は原子%で表した構成元 素の組成)の引張応力-ひずみ曲線(a)と圧縮応力‐ひずみ曲線(b[MT論文

8)

Fig. 5 を再掲]と、それに本稿における説明に必要な補助線を書き入れた図である。圧縮試験

片は2 mm直径x4 mm高さである。図1には、応力とひずみの原点(0)が明示され、

かつ二つの応力‐ひずみ曲線の間に分割記号が付されている。これらは学術論文の図面 の 書 き 方 と し て は ほ ぼ 妥 当 で あ る 。 図 の キ ャ プ シ ョ ン と 本 文 で 、 図 1 を 応 力 ‐ 伸 び

elongation)曲線と記しているが、圧縮試験の場合、試料は縮むから 伸び(elongation) と書くのは間違いである。また、単位長さあたりの変形量の議論だから横軸は伸びでな く、ひずみ(strain)とすべきである。このような極めて初歩的な誤りと思われる表現が

2700MPa*

2600MPa

2.1%*

1.8%

図 1

(5)

用いられている理由は不明である。

応力‐ひずみ曲線の破断点から垂線をおろし、ひずみ軸と交わる点と原点(0)との 差は、全破断ひずみ(=弾性ひずみ+塑性ひずみ)である。しかし、井上氏らはこの全 破断ひずみに相当する量を「弾性伸び(ひずみ)を含む、伸び(ひずみ)」と呼んでい る。つまり、井上氏らの使用している用語は金属材料の機械的性質に関する一般の定義 と異なるので注意が必要である。また、図1で、破断点からひずみ軸に向かって矢印が 記されているが、インストロン試験機を用いた圧縮試験では、この矢印のような線は得 られない。おそらく矢印は破壊を意味する補助線と思われるが、補助線を実験データと 同じ太さと形式の線で示すことは、論文の読者に大きな誤解を招く恐れがあるので、学 術論文のデータ記載法としては不適切である。

図1の応力‐ひずみ曲線は、引張 (a)の場合も圧縮(b)の場合も、最初、ほぼ直線的な 変化を示す。すなわち、弾性変形し、ほとんど塑性変形せずに破断する。ここで、破断 強度は、破断点における応力と応力の原点との応力の差である。図1の引張応力‐ひず み曲線(a)では、引張破断強度は2400 MPa 2800 MPaのほぼ中間、つまり 約2600 MPa と読み取ることができる。他方、全破断ひずみは、先に述べたように、破断点から降ろ した垂線がひずみ軸と交わる点とひずみの0点との差であり、図 1 のデータより、約

1.8 %と読み取ることができる。ところが, MT論文

8)

には、引張破断強度は2600 MPa

はなく 2700 MPa, そして弾性伸びを含む引張破断伸び(全破断ひずみに相当する数

値)は1.8 %ではなく2.1%と記載されている。この違いを理解するために、これらの大

きさを図1に青色の破線で書き込んだ。ところで、MT論文

8)

の題目は、「3000 MPaの 高い強度を持つ新しいバルクガラスNi 基合金」であり、高強度が主題である。また、 井上氏らは破断強度や全破断ひずみに相当する数値が大きいバルク金属ガラスを目指 して研究を展開している。図1に見られるように、MT論文

8)

に記載の引張破断強度と 弾性伸びを含む引張破断伸びの数値は、応力‐ひずみ曲線から求められる数値に比べ大 きな値となっているが、これは井上氏らの研究目的の趣旨に沿う方向への変更であり、 改ざんと疑われる。

図2(次ページ)はバルク金属ガラスCu60Zr30Ti10合金の圧縮応力‐ひずみ曲線(a) と引張応力‐ひずみ曲線(b)MT論文

9

Fig. 4 を再掲)および、それに本稿で説明に

必要な補助線を加えた図である。本文とキャプションには、Cu60Zr20Ti20合金の応力‐ ひずみ曲線も示すと記されているが、実際にはそのデータは示されていない。図2で注 目される点は、応力が500 MPa以下の部分が示されていない、つまり応力の0点が不明 なことである。他方、ひずみ軸は、圧縮試験(a)では 0%の原点からではなく 0.5%以上 が、そして引張試験(b)では0%以上が示されている。応力とひずみの0点が示されてい ない図2の圧縮応力‐ひずみ曲線から、破断強度、弾性ひずみおよび全破断ひずみの数 値を算出ですることはできない。それにも拘わらず、このMT論文

9

には、圧縮破断強 度と圧縮弾性ひずみに相当する数値が明記されている。このMT論文

9

に記載された数

(6)

値はねつ造と疑われる。

他方、破断塑性ひずみは、応力とひずみの0点が不明でも、参考値程度に、算出可能 である。その理由は、破断塑性ひずみは、弾性域の直線的な応力‐ひずみ曲線とそれに 破断点から平行に引いた直線が、それぞれひずみ軸と交わる2点の間隔、つまりひずみ の差に相当し、応力とひずみの原点とは直接的に関係しないからである。図2から、圧 縮試験と引張試験の破断塑性ひずみの値は、それぞれほぼ1.1% とほぼ0%と算出で きる。しかし、MT論文にはそれぞれ 1.7%0.4%と明記されている。その大きさを、 図2に書き込んだ。応力‐ひずみ曲線から求められる値に比べて、破断塑性ひずみは大 きな数値が論文に記載されており、図1の場合と同様に改ざんと疑われる。

図3はバルク金属ガラスCu60Hf30Ti10合金とバルク金属ガラスCu60Hf25Ti15合金の円柱

棒(2㎜直径x 4 mm高さ)の圧縮応力‐ひずみ曲線(JMR

10)

Fig. 9 を再掲)と、そ れに説明に必要な補助線を書き加えた図である。このJMR論文

10)

は、JSTの資金援 助を受けて行われ、しかもプロジェクト期間内に公表されたが、主要論文27編には含 まれない。なお、このJMR論文は、理由については明確な公告はないが、先行して公

(7)

図3

表された主要論文27編の1つであるActaMat論文

11)

の内容とかなり重複しているので、 二重投稿を主な理由に取り下げ措置(Retraction)されたと考えられることが、電子ジ ャーナルにより確認できる。

Cu60Hf30Ti10合金の破断塑性ひずみは、前述の方法に基づいて 0.8%と算出されるが、 これはJMR論文

1 0 )

に記載の数値と一致する。他方、同様な方法で求めたCu60Hf25Ti15 合金の破断塑性ひずみは、1.3%と算出されるが、JMR論文

10)

には 1.6%と記されてい る。両者の値を図3に記入した。論文に記載された破断塑性ひずみの値 1.6%は、実測 値より0.3%も大きく、読み取り誤差として説明できる範囲の問題ではない。以上より、 バルク金属ガラスCu60Hf25Ti15合金の破断塑性ひずみは、著者の意向に沿うような大き な数値に変更されているので、改ざんが疑われる。

応力の原点(σ= 0 MPa)が示されない応力‐ひずみ曲線がどのように描かれたか、図 3を用いて探ってみる。インストロン試験機を用いた材料試験では、試験片に負荷した

0* 0**

1.6%

1.3%

(8)

荷重とクロスヘッドの移動量の関係を測定し、それぞれを単位面積当たりと単位長さ当 たりに換算して応力‐ひずみ曲線を得る。これを「オリジナルの応力‐ひずみ曲線」と 呼ぶ。「オリジナルの応力‐ひずみ曲線」には、応力とひずみの原点(σ= 0 MPa、およ びε= 0%)が必ず存在するはずである。ところが、図3の応力軸の原点は500 MPaであ るから、「オリジナルの応力‐ひずみ曲線」とは明らかに異なる。そこで、仮定(1)「オ リジナルの応力‐ひずみ曲線」の 500 MPa以下の部分を単に削除して図3 を作成した か否かを検討する。このように仮定すれば、図3のひずみ軸を 500MPa分相当だけ下方 に移動し、これと応力軸との交わる点が、応力とひずみの原点(σ= 0 MPa、およびε=0%) となる。この原点を図面に書き込んだ(0*と表示)。その上で、Cu60Hf30Ti10合金の応力- ひずみ曲線を低応力側まで延長すればひずみ軸と交わる。しかし、その交点は、応力と ひずみの原(0)点でなく、ひずみの値が物理的にあり得ない負となる。したがって、 仮定(1)500MPa 以下の部分を単に削除したことでは、図3の圧縮応力-ひずみ曲線が 得られることを説明できない。

次に、図3で、ひずみ軸の0点が記されていることに着目し、これを基準にして応力 軸の0点の位置が決まるか否か検討する。すなわち、仮定(2)図3のCu60Hf30Ti10合金 の応力-ひずみ曲線をひずみが 0%まで延長し、それが応力軸と交わる点が応力の原点

(σ= 0 MPa)となる可能性を検討する。この応力の原点を 0**で示す。しかし、この 応力の原点と500 MPaの差は約200 MPaに相当し、応力軸の全体の目盛が不均等になる。 そのような応力-ひずみ曲線から求めた応力値は、当然ながら物理量として意味を持た ない。したがって、仮定(2)Cu60Hf30Ti10合金の応力‐ひずみ曲線をひずみ=0%まで 延長した点を応力=0 MPa とすることでも、図3の応力‐ひずみ曲線が作成できること を説明できない。以上の検討から明らかなように、図3の圧縮応力‐ひずみ曲線は、

(9)

「オリジナルの応力‐ひずみ曲線」からそのまま導かれたものではなく、何らかの操作 が施されていることは確実である。すなわちその操作に改ざんが疑われる。これまで検 討してきたJMR論文

10)

は、先に述べたように二重投稿を主な理由で取り下げ措置がな されたが、その元論文であり、主要論文27編に含まれるActaMat論文

11)

にも、ほぼ同 様の研究不正疑惑が存在する。

応力‐ひずみ曲線の表す学術的な意味やその重要性を認識するはずの研究者が、応 力の0点を示さない圧縮応力‐ひずみ曲線を学術論文に多数投稿すること自体が、極め て理解しがたいことである。そのようにせざるを得ない何らかの理由が存在する可能性 が考えられる。応力の原点が存在しない圧縮応力‐ひずみ曲線が作成された理由が推測 できる二つの圧縮応力‐ひずみ曲線を以下に示す。

図4は、バルク金属ガラスNi60Nb20Ti15Zr5 合金(2 mm直径)の圧縮応力‐ひずみ曲 線 [MT論文

12]

Fig. 5の再掲]を示す。図4は図3と同様に、応力の原点は500MPaで、 ひずみの原点は0%である。応力の0点が示されないので、破断強度、弾性ひずみおよ び全破断ひずみの数値を算出できない。それにも拘わらず、論文には、圧縮破断強度と 圧縮弾性ひずみの数値が記されている。これらの数値は根拠がないので、ねつ造が疑わ れる。

図 5

図5はバルク金属ガラスNi60Nb25Ti15合金(1.5㎜直径)の圧縮応力‐ひずみ曲線 [MT 論文

13)

Fig. 7 の再掲]を示す。なお、この論文はJSTの資金援助を受けて行われ、し

かもプロジェクト期間内に公表されたが、主要論文27編には含まれない。図5では、 応力とひずみの原(0)点がともに明示されている。この応力‐ひずみ曲線の傾きは原

(10)

点付近で非常に小さいが、公称ひずみ(Nominal strain)の増大につれて次第に大きくなる、 つまり大きく湾曲する。公称ひずみが約 2.5%以上で、応力‐ひずみ曲線はほぼ直線と なる。ここで、図4と図5を比べると、図5の応力‐ひずみ曲線の500 MPa 以上の部 分が図4の応力‐ひずみ曲線に酷似することが注目される。両合金の化学組成がよく似 ているから、ほぼ同じ形状と大きさの圧縮応力‐ひずみ曲線が得られることは、学術的 視点から考えても極めて常識的な、妥当な考え方であろう。以上の検討より、500 MPa 以下が示されない図4の圧縮応力‐ひずみ曲線は、原点付近で大きく湾曲すると強く示 唆される。圧縮応力‐ひずみ曲線の500 MPa以下で、0点付近が大きく湾曲することは、 例えば、バルク金属ガラスCu60Zr40Cu45Zr55の圧縮応力‐ひずみ曲線

14)

が、500 MPa

1000 MPaの間でかなり湾曲しており、500 MPa以下ではさらに大きく湾曲することが

推測されることからも支持される。

圧縮試験が適切・正常に行われていれば、図1(b)と同様に、圧縮応力‐ひずみ曲線 は原点付近で直線的変化を示すはずである。原点付近で大きく湾曲した圧縮応力‐ひず み曲線は、圧縮試験が適切・正常に行われなかったことの証である。原点付近で大きく 湾曲した圧縮応力‐ひずみ曲線を見れば、論文のレフェリーは圧縮試験が正しく行われ なかったと考えて、論文掲載を拒否する公算が高い。そこで、原点付近の大きく湾曲し た部分を示さないように、500 MPa以下の部分を削除したとすれば、応力の0点が示さ れない、学術的に理解不能で、きわめて不適切な応力‐ひずみ曲線が、多くの論文

920)

に掲載されている理由が、一応は理解できる。このように考えれば、応力の0点が示さ れない理由について、一定の理解ができるが、実験データの不都合な部分の削除は間違 いなく重大な研究不正に相当する。もし、この推測が誤りというなら、井上氏らは多く の論文に記載されているバルク金属ガラスの圧縮応力‐ひずみ曲線で 500 MPa以下が 示されない理由を科学的、合理的に説明する必要があると思われる。

図6

(11)

図 6 は 、(a) バ ル ク 金 属 ガ ラ スZr55Ni5Cu30Al10 (As-Q), (b)バ ル ク 金 属 ガ ラ ス Zr60Cu20Pd10Ag5(as-Q)、および (c) 複相Zr60Cu20Pd10Ag5 (ガラス中への析出物の体積分 率Vf=20%)の圧縮応力‐ひずみ曲線[MSE 論文

21]

Fig. 9の再掲] を示す。この応力‐ ひずみ曲線の(a) (b)では、破断点からひずみ軸に垂直に実線が引かれているが、圧縮 試験では、このように破断後に応力が一挙に0 まで低下することはない。したがって、 これらの実線は、実験データでないので除外して考える必要がある。図6の圧縮応力‐ ひずみ曲線(b)(c)にはギザギザ(顕著な凹凸)、つまりセレーション(鋸歯状曲線)が 観察される。このようなセレーションは、変形あるいは破断が不均一に起こる場合に認 められる現象である。ところで、図6(c)の応力‐ひずみ曲線を見れば、セレーションを 生じつつ破断が非常に緩慢に起こることが分かる。また、図6(b)の応力‐ひずみ曲線 は、図(a)(c)の中間と考えられるから、破壊がかなり緩慢に起こった結果と思われる。 井上氏らは、このMSE論文

21)

で、これらの現象を塑性変形と記しているが、その根拠 は示されていない。セレーションは、座屈(折れ曲がり現象)、あるいは圧縮試験片の 上下端面付近のゆっくりした破壊によって生じた可能性がある。

井上氏らの圧縮試験片のサイズは、殆どの場合、2 ㎜直径、4 ㎜長さ(高さ)で、 場合によっては 1.01.5 ㎜直径である。機械加工によって、12 ㎜直径の圧縮試験片 を精度よく作製して、しかも正確に圧縮試験することは、一般に非常に難しい。その理 由は圧縮試験では試料の端面に垂直に、しかも試料の中心に荷重を連続的に負荷しない 限り、座屈(折れ曲がり現象)や、圧縮試験片上下端面付近の破壊が起こり易いからで ある。直径が2㎜以下の小さな試験片の圧縮試験では、座屈が起こり易いと考えられる。 塑性変形に見える挙動も、試料の座屈(折れ曲がりによって、正確に試料の端面の中心 に垂直方向に連続負荷ができなくなる)、あるいは弾性変形の途中で試験片上下端面付 近の破壊が緩慢に起こった可能性が十分予想され、それを容易には否定できないと考え られる。このような疑問点の解明は、もちろん著者の責任である。もし、図2~図6な どで示されているバルク金属ガラスの圧縮応力‐ひずみ曲線で認められる、応力がほぼ 一定のままひずみが増大する現象は、座屈あるいは試験片上下端面付近の緩慢な破壊で ないと言うならば、井上氏はその根拠を科学的、合理的に説明する必要があると思われ る。あるいは、正確な圧縮試験を公開で行うことによって、疑念を晴らすことが求めら れるであろう。

おわりに

井上プロジェクトの眼目は、井上過冷金属プロジェクトの追跡評価用資料に記された 主要論文27編のうち、プロジェクト期間(19972002)に公表された主要研究論文11 編の中心課題が示すように、優れた機械的性質を持つバルク金属ガラスを見出したこと

(12)

にあると考えられる。しかし、その優れた機械的性質を持つバルク金属ガラスを裏付け る根拠となる圧縮応力‐ひずみ曲線には、応力の0点(原点)が示されていない、学術 的に説明できないきわめて不適切な論文が多数

9-20)

見出せる。これらは、オリジナルの 圧縮応力‐ひずみ曲線から正しく導かれたものではない、つまり改ざんが疑われる。 応力の原点が示されない圧縮応力‐ひずみ曲線は、圧縮試験そのものが的確に行われず、 そのために生じたと思われる不都合な実験データを論文で示さないで済ませるために 作成された可能性が推論される。また、応力の0点が不明では、破断強度や破断ひずみ の数値は計算できないにも拘わらず、論文に具体的な数値が明記されている点もきわめ て不可解である。さらに、応力の0点が不明でも算出可能な破断に至るまでの塑性ひず みの値は、著者の主張に沿うように、大きな数値に変更、つまり改ざんが疑われるケー スが認められる。また、論文に記載された機械的性質の数値が適切に導かれたか否かを 検証するのに不可欠な、応力‐ひずみ曲線が全く示されていない論文

22-24)

も存在す る。さらに、引張試験では認められず、圧縮試験でのみ認められる塑性変形と説明され ている現象は、座屈あるいは試験片上下端面付近の緩慢な破断による可能性を否定でき ない。これらの事項は学術的にきわめて不適切である。したがって、()科学技術振興 機構(JST)の資金提供を受けたERATOの井上過冷金属プロジェクトは「優れたバルク 金属ガラの研究成果が得られており、指摘された一部の研究上の問題点があっても、そ の成果に影響を及ぼすものではない」というJSTチーム調査報告には、少なからぬ影響 を与えると言わざるを得ないと結論できる。

参考文献

1 Applied Physics Letters76(2000)967

A. Inoue, M. N. Chen T. Sakurai, T. Zhang, J. Saida and M. Matsushita 2 JST告発(2012321日)

3 東北大学告発(2012328日) 4 日本金属学会告発(201249日)

5 JST ERARO 井上過冷金属研究プロジェクト追跡評価用資料(追跡調査報告書)

6 JST告発(2011831日)

7 JST井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査報告書

8 Materials Transactions 43(2002) 708-711 T. Zhang and A. Inoue

9 Materials Transactions JIM, 40(2001)1149-1151 A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka 10 J. Materials Research 16(2001)2836-2844 A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaki

(13)

11 Acta Materialia,49(2001) 2645-2652

A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka 12 Materials Transactions 43(2002)1952-1956

A. Inoue, W. Zhang and T. Zhang

13 Materials Transactions 43(2002)2342-2345 A. W. Zhang and A. Inoue

14 Materials Transactions 45(2004)584-587 A. Inoue and W. Zhang

15 Materials Transactions 42(2001)1805-1812 A. Inoue, W. Zhang, T. Zhang and K. Kurosaka 16 J. Materials Research 21(2006)234-241

W. Zhang and A. Inoue

17 Materials Transactions 43(2002)1767-1770 W. Zhang, S. Ishihara and A. Inoue

18 Materials Transactions 44(2003)2220-2223 W. Zhang and A. Inoue

19 Materials Transactions 44(2003)2346-2349 W. Zhang and A. Inoue

20 Materials Transactions 45(2004)584-587 W. Zhang and A. Inoue

21 Materials Science and Engineering A304/306(2001) 1-10 A. Inoue

22 Materials Transactions JIM,40(1999)42-51 C. Fan, A. Takeuchi and A. Inoue

23 Materials Transactions 43(2002)2921-2925 A. Inoue W. Zhang

24 Applied Physics Letters 85(2004)4911 B. Shen, A. Inoue and C. Chang

参照

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