刑法学の視点から「あるべき移植医療」を追究する

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刑法学の視点から「あるべき移植医療」を追究する

大学院法学研究科 教授

城下

し ろ し た

裕二

ゆうじ

(法学部法学課程)

専門分野 : 刑法

研究のキーワード : 刑法,生体移植,脳死,量刑,裁判員制度

HPアドレス : http://www.juris.hokudai.ac.jp/

刑法(学)とは、どのような学問なのですか?

刑法は、ひとことでいえば「犯罪と刑罰に関する法律」です。刑法学で研究対象となる

ことがらは多岐にわたりますが、いずれも究極的には「犯罪とは何か」「刑罰は、何のため

に科せられるのか」という根本問題につながるものです。

私自身は、大学1年のときに履修した法学演習で、死刑制度の是非について議論をした

ことがきっかけとなり、特に「刑罰は、何のために科せられるのか」という、「刑罰の正当

化根拠」に関心をもってきました。「刑罰の正当化根拠」論は、たとえば「この被告人には、

どれくらいの重さの刑罰を科すことが適当か」という、「量刑」問題にも大きな影響をも

たらします。諸外国では、量刑に関して刑法に詳細な規定を設けているところもあります

が、日本の刑法には、量刑についての一般的な基準がありません。そこで大学院博士後期

課程のときには、量刑基準はいかにあるべきか、という問題を研究テーマにして論文を書

きました。皆さんもご存じのように、日本で2009年から導入された裁判員制度では、裁判

官とともに一般市民が、有罪・無罪の決定だけでなく量刑判断にも関与することになり、

量刑基準のあり方が近年クローズ・アップされてきました。院生のときに取り組んだ研究

内容を改めて思い起こしながら、現代的な課題を検討するときに役立てています。

最近は、どのようなことを研究しているのですか?

ここ数年、科学研究費補助金の助成を受けながら、「生体移植の刑事規制」に関する研

究を行っています。臓器移植は、「死体からの移植」と、「生体からの移植」に大別されま

すが、日本の場合は、いわゆる脳死状態からの移植を認めた「臓器の移植に関する法律」

(臓器移植法)の成立までに長い年月を要したことと、死体からの移植のためのドナー(提

供者)不足という事情から、生体からの移植(生体移植)が移植医療の中心となってきま

した。たとえば、2010年の国内における腎臓移植1484件中、1276件(86.0%)が生体か

らの移植となっています。

ところが、臓器移植法は、基本的に死体からの移植についての法律であり、生体移植に

関しては、日本には法的ルールはありません。わずかに、学会の指針、厚生労働省のガイ

ドラインなどがあるのみです。しかし、移植医療の中心を占める生体移植が公正・公平に

行われるためには、何らかの法的規制が必要ではないでしょうか。こうした問題意識から、

移植専門医・厚生労働省の関係者にヒアリングを行い、また、アメリカ・ヨーロッパの制

度も参考にしながら、生体移植についての法的規制のあり方を検討しているところです。

出身高校:北海道札幌南高校 最終学歴:北海道大学大学院法学研究科

法と倫理

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おそらく皆さんのなかには、「なぜ、刑法と臓器移植が関係するのだろう?」と疑問に思

う方もいらっしゃるでしょう。たとえば、何の理由もなく死体に傷をつけるならば、「死体

損壊罪」という犯罪になります。臓器移植法によって死体からの移植が公的に認められた

ということは、実は、「犯罪にならないための条件が決められた」ということなのです。逆

にいえば、臓器移植法を守ることなく移植を行うならば、犯罪になる可能性があるという

ことです。生体移植も同様です。健康な人から臓器を摘出するという行為は、形式的には

「傷害罪」になりうるものです。ただ、一定の条件を満たして行われるのならば、犯罪に

はなりません。しかし、その「条件」は、いまだに法律の形としては存在しないのです。

この研究は、私たちの生活とどのように関わりますか?

2006年11月に、愛媛県ならびに近隣県内の病院で、腎臓病の患者から腎臓を摘出して、

これを別の腎臓病患者に移植していたことが明らかになりました。関連学会は、ドナーに

とってもレシピエント(移植を受ける者)にとっても危険な方法であるとして、非難の声

明を発表しました。これに対して、移植を実施した医師側は「たとえ病気の腎臓であって

も、移植を受けたい人にとっては朗報であり、ドナー不足を解消するためにはやむを得な

い方法だ」として強く反論しており、その後も同様の手術を行っています。

たしかに、「臓器を提供したい人」と「臓器の移植を受けたい人」がいるなら、法的な規

制などせずに、あとは当事者間の合意があるかぎりは自由に移植を認めるべきである、と

いう考え方もあるでしょう。しかし、医学的にみて安全性に疑問のある方法を放置してお

いてよいのか、法的規制なしに当事者の自由にまかせてしまうと、臓器売買に発展しやす

く、人体が取引の対象になってしまうのではないかといった批判もありえます。

こうした問題は、臓器移植に限らず、医療のさまざまな側面に及びます。私たちが何ら

かの形で医療の恩恵を受けるときにも、患者の権利をいかにして守るべきか、医師の裁量

はどこまで認められるべきか、といったことが関わってきます。刑法学が問題解決のため

にどのような貢献ができるのか、これからも考え続けたいと思っています。

参考書

(1) 町野朔・山本輝之・辰井聡子(編),『移植医療のこれから』,信山社(2011)

(2) 城下裕二(編),『生体移植と法』,日本評論社(2009)

(3) 城下裕二,「第8章 生体移植」,倉持武・丸山英二(責任編集)『シリーズ生命倫理学

・第3巻 脳死・移植医療』,136-155頁,丸善出版(2012)

左:ヨーロッパ7か国の臓器 移植を調整す る ユ ーロ トラ ンスプラント(オランダ)にお けるインタビュー調査 右:生体移植に関する拙著 (参考文献(2)(3))

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参照

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