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金融論
unit 19貨幣の役割と金融政策
貨幣の機能と銀行の役割
貨幣とは何か?
経済取引にかかわる何らかの価値を保証した金融証書。 そうした金融証書は、内部貨幣と外部貨幣に大別される。
貨幣の機能と銀行の役割
内部貨幣 (inside money)とは、民間の経済取引の中から自然 発生的に生まれてきた貨幣であり、具体的には手形・小切手 といった借用証書 (IOU)がこれにあたる。
外部貨幣 (outside money)とは、国家が通貨であると宣言す るとともに、国内において通貨としての通用力を与えた貨幣 である。
取引をスムーズにすることを目的として、国家・政府によっ て民間の活動の外から経済に注入されるという特徴を外部貨 幣は持っている。
貨幣の機能と銀行の役割
外部貨幣の歴史は、金銀といった貴金属と交換が保証された 兌換紙幣であった時代もある。
現在の通貨は、兌換のない法定不換紙幣(fiat money) という 位置づけである。
貨幣の機能と銀行の役割
内部貨幣と外部貨幣の違い 強制通用力
内部貨幣は外部貨幣によって決済されるという特徴、つまり、 支払い完了性を持っている。
決済とは
決済とは、何らかの対価を払って経済取引を完了すること たとえば、手形・債券に代表される借用証書は、最終的には 現金の授受によって決済される。
外部貨幣の持っているこうした性質は、支払い完了性 (ファ イナリティ、finality)と呼ばれる。
内部貨幣も外部貨幣も、経済取引をスムーズにする上で必然 的に発生する証書であることは共通しているが、強制通用 力と支払い完了性を与えられているのは外部貨幣のみで ある。
この外部貨幣を一元的に管理・コントロールすることができ る唯一の機関が中央銀行であり、この機能から中央銀行が行
現金通貨と預金通貨
民間銀行の役割について考える。 外部貨幣の代表的なものは、
一万円札 五千円札 千円札 などの現金通貨。
決済手段として用いるものは現金通貨だけではない。 たとえば、銀行振込による決済も行うことができる。 つまり、銀行預金も決済手段として用いることができる。 この意味で、銀行預金を預金通貨と呼ぶ。
現金通貨と預金通貨
後に説明する信用創造というメカニズムによって、民間銀行 は預金通貨をつくりだすことができる。
銀行の機能は、
預金者から集めた資金を企業に貸し出すという金融仲介機能 銀行預金による決済機能
の2つがある。
銀行間で決済のために資金移動が行われるシステムを決済シ ステムと呼ぶ。
銀行の決済システム
銀行を介しての資金決済を具体的に考える。
ある個人aが遠方に住んでいる個人bに送金することを考 える。
個人aはみずからが開設しているA銀行の口座から、個人b が開設しているB銀行の口座へ送金する。
こうした資金決済は1日に限っても莫大な件数・金額になる。 さらにこのような資金移動の結果、各銀行間で一時的な資金 の貸し借りが発生する。
短期金融市場とは、決済によって生じた資金の過不足を賄う 銀行間の資金調達・運用の場である。
銀行の決済システム
銀行規制の緩和とナローバンク
決済機能はこれまで独占的に銀行に与えられていた機能で あったが、近年の規制緩和によって、銀行以外の企業も決済 に参入できるようになった。
コンビニで、公共料金のみならず、さまざまな支払いができ るようになったのはその一例である。
銀行は、多数の預金者から小口・短期の資金を集め、企業に 大口・長期で貸し出すことで、預金金利と貸出金利の差額か ら収益を得ている。
このプロセスにおいて、銀行は情報生産、資産変換という役 割を果たしている。
これは金融仲介の機能の例である。
銀行規制の緩和とナローバンク
このように、銀行は資金決済と金融仲介という2つの機能を 保有してきた。
しかし、最近では銀行がこれら2つの機能とも保有する必然 性は希薄になってきた。
たとえばセブン銀行は金融仲介を行わず、資金決済に特化し た新しい銀行である。
このように、これまでの銀行の一部の機能のみに特化した銀 行やそのあり方として、ナローバンク(narrow banks) とも呼 ばれる。
中央銀行当座預金
金融政策において、貨幣の機能と銀行の役割はどのように位 置づけられるのか。
金融政策を理解する上で、第一に知っておかなければならな いのは、中央銀行当座預金の役割である。
日本においては日本銀行当座預金がこれにあたり、通常、日 銀当預と呼ばれている。
各種金融機関は日本銀行に当座預金口座を開設しており、と くに銀行間の貸借・資金決済は最終的にこの日銀当座預金を 介して行われている。
日銀当座預金のもっとも重要な特徴は利息ゼロの預入れ金で あるということである。
中央銀行当座預金
金融政策は、この日銀当座預金を介して行われている。 金融政策の主要な手段である金融調節(オペレーション) は 次のように実施される。
短期金融市場で資金が不足しているとき、中央銀行が手形や 債券を民間銀行から買い入れることを資金供給のためのオペ レーションという。この結果、民間銀行の日銀当座預金の残 高は増加することになる。
逆に短期金融市場で資金過剰であるとき、中央銀行が手形・債 券を民間銀行に売却することにより、金融市場から資金を吸 収することを資金吸収のためのオペレーションという。この 結果、民間銀行の日銀当座預金の残高は減少することになる。
中央銀行当座預金
日本では準備預金制度が採用されており、銀行に代表される 預金取扱い金融機関は、預金の一定比率を中央銀行当座預金 残高として積み立てておかねばならない。
この比率を準備率といい、義務づけられた最低金額を所要準 備額、あるいは法定準備金額という。
準備率を引き上げれば、民間銀行が所要準備額として積み立 てる金額が増加し、貸出に回す資金が相対的に減少すること になり、金融を引き締める効果が発生する。
ただし、準備率の変更はほとんどない。
中央銀行当座預金
最後に中央銀行が民間銀行に資金を貸し出す時の金利を「基 準割引率および基準貸付利率」と呼ぶ。
かつては、公定歩合と呼ばれ、日本銀行が政策的に決定でき る金利として重要な意味を持っていた。
現在は、短期金融市場であるコール市場で決定する利子率で ある無担保コールレートを、オペレーションによって目標金 利に誘導することが金融政策の主要な手段となっており、
「基準割引率および基準貸付利率」はその無担保コールレー トの上限を画する役割を担っている。
信用創造
銀行貸出によってどのようなことが起こるかを、詳しく考 える。
このとき注意すべきことは、銀行は集めた預金を金庫に保管 しているわけではない、ということである。
集めた預金のうち、少なくとも一部を金庫から出して、誰か に貸し出さなければ、銀行貸出はできない。
一方で、預金者は好きなときに自分の預金を引き出したり、 自分の支払いの決済に使ったりすることができる。
銀行は、預金の全てを金庫で保管していては銀行貸出ができ ないし、すべてを貸し出してしまっては預金者の引出しに応 じることができない。
そこで預金のある割合を準備として保管し、残りを銀行貸出 として、利益の見込める会社に貸し出すと考えよう。
信用創造
預金通貨の総量は、銀行預金の総量であるが、それは単純に 最初に資金が余剰していて銀行に預金した人の資金の総量で はない。
以下ではそのことを詳しく見ていこう。
信用創造
いま、A銀行が預金量Sを集めたとする。
A銀行は、β の割合を準備として持ち、残りを貸し出すと する。
A銀行の銀行貸出は(1 − β)S となる。 A銀行は、A社にすべて貸し出すとしよう。
信用創造
A社は、なんらかの理由があって (1 − β)S をA銀行から借 りた。
その理由はさまざまであろうが、通常は金庫にいれておくた めではない。
多くの場合は、支払いに備えるためである。
会社の支払いは、投資、原材料の購入、賃金の支払いなどさ まざまな理由が考えられるが、ここでは投資としてB社から 機械設備を購入したと考えよう。
信用創造
機械設備の販売契約の決済の結果として、(1 − β)S はB社 に支払われる。
この際、B社がB銀行に銀行口座を持っているとすれば、こ の(1 − β)S は、B銀行の(B社が持つ)預金となる。
信用創造
B銀行では、新たに集まった預金 (1 − β)S をそのまま金庫 に眠らせることはしない。
A銀行と同様に、一定の準備を持ち、それ以外を貸出にする。 ここではA銀行と同じβの割合の準備を持ち、残りを貸し出 すものとする。
信用創造
A銀行からB銀行への、貸出→ 支払い→ 預金 →貸出、と いう連鎖は、B銀行をこえて止まることはない。
結果として、A銀行が受け入れたSという預金は、銀行シス テムの貸出機能を通じて、銀行全体の預金量S
D = S + (1 − β)S + (1 − β)2S + (1 − β)3S + · · ·
になることがわかる。
このようなSからDへの預金量の増加を信用創造と呼ぶ。
信用創造
銀行全体の預金量Sは次のようにして求まる。
D = S + (1 − β)S + (1 − β)2S + (1 − β)3S + · · · (1 − β)D = (1 − β)S + (1 − β)2S + (1 − β)3S + · · ·
βD = S
D = 1
βS
例えば、準備の割合を10%とすると(β = 0.1)、信用創造に よって銀行全体の預金量Dは、最初に受け入れた預金Sの 10倍となる。
信用創造
ここで考えた銀行の準備は、銀行保有の現金と、中央銀行当 座預金として準備されている。
中央銀行当座預金は、すなわち日銀当座預金である。 銀行の預金以外に、民間保有の現金も存在する。 それらの関係を示したものが図19-3である。
信用創造
信用創造
マネタリー・ベース(ハイパワード・マネーあるいはベース・ マネーともいう)とは、日銀当座預金と流通現金とを合計し たものである。
すなわち、日本銀行が供給している通貨を指している。 それに対してマネー・サプライとは、金融部門から経済全体 に供給されている通貨の総量をいう。
銀行の預金は預金通貨であるから、マネー・サプライには、 銀行の信用創造メカニズムによってつくりだされた預金の全 体が含まれる。
信用創造
中央銀行が供給するマネタリー・ベースと銀行部門で生み出 されるマネー・サプライの関係に注目すると、金融政策の見 地から信用創造は次のように応用される。
M = C + D (マネー・サプライ=民間保有の現金+民間保 有の預金)
H = C + R (マネタリー・ベース=民間保有の現金+銀行保 有の準備)
M H =
C + D C + R =
C/D + 1 C/D + R/D =
γ + 1 γ + β ≡ µ
先ほどの銀行のみでの信用創造を考えた場合はγ = 0のケー スを考えたことになる。
マネー・サプライのコントロール
µを信用創造乗数(貨幣乗数)と呼ぶ。
この信用創造乗数muは、0 < β < 1であることから、1よ りも大きな値をとる。
したがって、中央銀行がマネタリー・ベースを増加させるこ とによって、信用創造乗数倍のマネー・サプライを生み出す ことが可能になる。
中央銀行は、先に述べたオペレーションによって民間銀行の もつ中央銀行当座預金を増加させることができる。
逆に、マネタリー・ベースを減少させることによって、信用 創造乗数倍のマネー・サプライを減らすこともできる。 マネー・サプライをコントロールすることによって、日本銀 行は物価をコントロールすることができることを意味する。
マネー・サプライのコントロール
経済が正常な状態であるならば、図19-4に描かれる図式が 金融政策として機能する。
これは、2段階アプローチと呼ばれる金融政策の運営手段で ある。
マネー・サプライのコントロール
マネー・サプライのコントロール
中央銀行は、マネタリー・ベースマネーをオペレーションに よってコントロールすることによって、マネー・サプライを コントロールする。