東北地域での Sahana 活用に関する現地調査報告
2012
年4
月6
日Sahana Japan Team
【はじめに】
2011
年3
月11
日に発生した東日本大震災では、複数の地方自治体がSahana
を活用した被災者救 援活動を行った。このドキュメントは、これらの自治体で、どのように
Sahana
が利用され、またどのような課題があったのかを 明らかにし、今後も発生し得る災害時の被災者救援のためにSahana
を活用する事を検討する行政組織やNPO
団体、あるいはSahana
の開発に携わる国内外の技術者の参考としてもらう目的で、昨年11月にSahana Japan Team
が関西学院大学と共同で実施した岩手県陸前高田市と山形県のSahana
担当者に対するヒアリング調査をまとめたものである。
【目次】
1.
岩手県...
1.
概要...
2.
導入の経緯...
3.
陸前高田市でのSahana
活用の詳細... ...
1.
活用規模...
2. Sahana
を活用した物資配送の流れ...
4.
評価...
1.
全般的な評価...
2. Sahana
を利用した事によるメリット...
3.
今回のSahana
活用での問題点・改善要望...
4.
今後の活用に向けて...
2.
山形県...
1.
概要...
2.
導入の経緯...
3.
利用イメージ...
4.
評価...
5.
今後の活用に向けて...
【岩手県】
1. 概要
岩手県では東北地方太平洋沖地震に伴って発生した大津波により、沿岸部の市町村に壊滅的な被害がもた らされ、地震発生前の想定をはるかに超える住民が避難所での避難生活を余儀なくされた。
これらの避難者に救援物資を届けるため、避難所ごとの避難者人数や必要とされる物資を把握する事を目 的とし、岩手県庁の災害対策本部が主導して、陸前高田市を中心に、山田町・大槌町・大船渡市の各市町で
Sahana
を導入した。
Sahana
を導入した市町では、エリア内の避難所にタブレット端末を配布し、端末にインストールされた専用アプリを用いて避難者自身がデータを入力し、各市町の物資配布担当者が日本
IBM
の提供したクラウドサー バー上にインストールされたSahana
を用いて情報を集約した。使用期間は
6
月1
日から8
月10
日までの約2
ヶ月間である。2. 導入の経緯
震災発生当初から避難者への救援物資の配送業務を担っていた自衛隊が撤退し、業務を各市町が引き継ぐ 際、物資ニーズの収集のため、岩手県庁の災害対策本部が中心となって
Sahana
の導入を進めた。そして日本
IBM
がSahana Japan Team
と協力して、Sahana
を稼働させるためのクラウドサーバーの提供やタブレット端末用の専用アプリの開発を行った。
震災発生当初は災害派遣の自衛隊員が避難所を巡回して、それぞれの避難所ごとの避難者の数や 支援物資に対するニーズを、被災者から直接聞きとっていた。
だが、それは災害派遣の本旨である自衛隊でなければ成し得ない救援活動とは言えず、業務を自衛 隊から自治体に引き継ぐ必要があった。しかし被災自治体には十分な人手がなく、情報収集の代替手 段が必要になっていた。
岩手県立大学は、ソフトウェア情報学部の村山教授を中心に、災害関連情報の収集や提供、インター ネット接続環境の整備支援など、県内の
ICT
支援のハブとなっていた。4月頃、この岩手県立大学に県庁の災害対策本部から物資ニーズを把握するためのシステムを開発 するよう依頼があり、ちょうど同じタイミングで日本
IBM
からSahana
の存在を紹介された事から、こ れを提案した。
NTT
ドコモは、避難所などの通信環境の確保のため、岩手県にタブレット端末を提供した。このタブ レット端末を活用し、各避難所に設置した端末に避難者自身で情報を入力する事になり、日本IBM
がSahana
に接続するアンドロイドアプリを短期間で開発した。開発したアプリをタブレット端末にインストールし、クラウドサーバーに
Sahana
をセットアップするま でを日本IBM
が行い、5月25日に自衛隊が端末を避難所に配布、6月1日から本運用が開始された。7
月20
日に自衛隊が撤収した以降は情報収集をSahana
に一本化した。その後、仮設住宅が整備され順次避難所が集約されていったため、8月
10
日でSahana
の使用 を終了した。3.陸前高田市での Sahana 活用の詳細
3.1. 活用規模
岩手県内で
Sahana
が導入された市町のうち、本格的に利用されたのは陸前高田市と大槌町で、利用規 模は陸前高田市が最も大きかった。
Sahana
は、各避難所の避難者の人数・状況の把握と配布物資のうち日用品の要請に利用された。一方物資のうち食料品は、備蓄が無く配送拠点の給食センターに送られて来たものをその日のうちに人数按分して発 送していたため、物資要請の対象外とした。
Sahana
による支援対象の避難者数は、Sahana
導入直後(6月1日)で避難所83
箇所、宿泊避難者2267
人、避難所に物資を受け取りにきていた在宅被災者3832
人である。仮設住宅などへの移動により7月 26日時点では598
名(内宿泊287
名)に減少した。(Sahana
入力データより)配送規模としては、
Sahana
導入当初(自衛隊が配送を担当)は配送系統6ルート(Sahana
導入前最大 時で8
系統)。自衛隊撤収後は4
ルート(市職員2
系統・運送会社委託2
系統)。1
系統あたりトラック1,2
台で朝夕に配送した。3.2. Sahana 活用による物資配送の詳細な流れ
1.
各避難所の代表者が、避難所に設置されているタブレット端末に、避難者の人数や必要な物資(日用 品)を入力する。2.
入力された情報がIBM
クラウド上で稼働するSahana
に送られる。3.
市の集計担当者が、毎日定時にSahana
にアクセスして全避難所の避難所状況、物資ニーズの各 データをXLS
形式でダウンロードする。4. Excel
を用いて、陸前高田分かつ前日締切り以降分を抽出し、列幅、ページ設定等の加工整形後、配送センターへメールまたは
USB
メモリーで受け渡す。5.
配送センターでは受け取ったExcel
ファイルをもとに配送地区ごとに物資を仕分けし、Excel
ファイル の物資の仕分け状況を更新して返送する。6.
翌朝、配送担当(当初は自衛隊、後に市職員・運送会社)が物資を避難所へ配送する7.
市の集計担当者が、配送センターから返送されたExcel
をもとに、Sahana
上の物資要請データか ら配送済み分を削除する。4. 評価
4.1.全般的な評価
複数の市町で導入されたが市町ごとに活用度合いが大きく異なっており、陸前高田市で最も活用された。被 災規模の小さい市町では電話と紙とのオペレーションだけでも対応できており、
Sahana
に乗り換えることにあ まりメリットが無かったと思われる。今回ヒアリングした運用担当者によると、支援対象の避難所数が
10
箇所以下の場合や配送系統が1
系統 で回れるケースであればシステム化するメリットはあまりないが、配送系統が増えて2
系統、3
系統になると何 らかのシステムで管理する必要があるという事だった。高齢者中心の避難所の中にはあまり利用されていなかったところも有り、中には全く利用されていなかった 避難所も
3,4
箇所有った。一方、概ね40歳代までの若い避難者が居る避難所では比較的活用されていた。 既に2ヶ月以上にわたって、巡回してくる自衛隊員に口頭で伝えれば翌日持ってきてもらえる、というフローが できており、また仮設住宅が建ち始め避難所が解消に向かっているという時期であったため、システムを利用す る被災者には新しいシステムに切り替える事に対して抵抗感が有ったようだ。避難所に電気と通信回線が復旧したタイミングで導入されていれば、今回よりもさらに有効に活用されたと 思われる。
4.2. Sahana を利用した事によるメリット
避難所での入力段階から情報が電子化されているため、集計作業が省力化された。また避難所ごとの避難 者の人数と、物資の要請内容を関連付けて、全体状況を把握することができた。
一方物資の要請を行う避難者の側でも、タブレット端末から24時間いつでも必要な物資を入力する事ができ、 また対面では伝えにくい品も要請しやくすくなったというメリットがあった。
また、それまでは避難者はどのような物資が配布してもらえるのか分からず、思いつくものを口頭で依頼して いたが、タブレットで選択肢が明示されるため、どのような物資が要請できるのかが分かるようになった。
4.3. 今回導入された システムの要改善点
タブレットアプリの要改善点
物資の要請を入力し送信を行った後、送信結果が表示されなかったため、きちんとデータが送られた かどうか分からなかった。また要請の取り消しや修正もできなかった。
また自分の過去に行った要請データを見る事が出来なかったので、自分で覚えておかなければ、前 回何を要請したかも分からなかった。
物資要請の入力の際に毎回必ず、避難所の人数情報を入力する必要があったが、非常に手間がか かり前回入力した値のまま、次へ次へとスキップするなどしたため、実態と異なる人数情報が送られて きたケースが少なからずあった。
集計側の Sahana での要改善点
今回、岩手県向けにカスタマイズし提供された
Sahana
では、要請物資のレコードに未配送/
配送 済みのフラグが無く、物資を配送した後随時当該レコードを削除していった。そのため、
Excel
に出力したデータは残っているが、Sahana
上でデータを通期集計するなどはで きなかった。また、今回は
Sahana
を避難所の物資ニーズの収集に限定して使用したが、在庫管理や配送先の 仕分けなどと連動した運営や、県から各市町村への物資の配送にも利用する事ができれば、システム 導入の効果がより高まったと思われる。物資カタログに関して
今回の運用では、予め県の災害対策本部で用意した物資カタログを用いたが、実際の配送業務ある いは要請を行う際の都合があまり考慮されずに項目が作られていたため、実際の配送業務を行う際に 混乱が生じた。
災害時に継続的に必要となる物資の項目を、発注時・配送時に迷う事なく特定できるように予め練り こんで用意しておく必要がある。
また、タブレット端末の物資要請用の画面で、現在配布可能ではない物も含め、予め用意された物資 カタログが全て表示されていたため、要請を行なっても配布されないケースがあった。
要請実行画面では、その時点で配送できるものだけを表示するのが望ましい。
4.4. 今後の Sahana 活用に向けて
災害発生時には災害救助法に基づき迅速な支援が行われるが、事後に救援費用の集計が必要になる。その ため被災地ではいつどの避難所に被災者が何人いてどのような物資を配布していたかの集計を非常に大きな 手間をかけて行なっている。
予め災害救助費集計の基礎データとなる事を見据えてシステムが作られていると非常に有効なものとなると 思われる。
災害時に被災者からの情報収集を
Sahana
だけに一本化する事は危険と思われる。故障時や上手く使えな い等の場合に、そのことを伝えることすらできないケースも有りうる。市役所職員が巡回するなど公の人間がフォ ローする事が必要となる。システムの必要性は災害発生直後が最も高いが、電気や通信といったライフラインが復旧しなければ使えな い。端末もどれぐらい迅速にセットアップして配れるかが重要になる。衛星電話との連携は有効と思われる。
【山形県】
1. 概要
東日本大震災の後、福島県で発生した原子力発電所事故の影響で、山形県内にも多数の住民が避難してき た。
これらの避難者の情報を管理・トラッキングする目的で
Sahana
が導入された。しかし導入を進めていた途 中で、避難者支援のスキームが計画段階とは大きく変化した事から、有効に活用されるには至らなかった。2. 導入の経緯
県内に避難してきた避難者の情報を管理するための手段を必要としていた山形県庁の支援チームが
Sahana
の導入を主導し、日本IBM
がシステムのカスタマイズなどの支援を行った。山形県では、以前から災害に備えた対応計画を持っていたが、今回福島から原発事故被災者が大 量に避難してくるという想定外の事態が生じたため、手探りでの対応を迫られた。
山形県に避難してきた避難者の情報は、当初は各市町村から県庁に集め
Excel
を使って集計・集 約していたが、情報をより良く管理するための方法を模索していた。複数の提案の中から検討した結果、日本
IBM
の提案したSahana
を避難者のトラッキングに活用 する事になった。Sahana
を選択した理由は、Sahana
の持つ機能が避難者の名簿管理に使えそう だと判断した事と、インドネシアの災害救援で活用実績があると聞いたためである。1箇所の避難所で数週間試験的に運用を行い、フィードバックに基づき
IBM
がシステムのカスタマイ ズを行った。5月上旬頃から学校・体育館等の市町村設置の公的避難所を解消し、ホテル・旅館・民間借り上げ 住宅等(二次避難所)に避難者を移動させる事になり、この二次避難スキームのもとで
6
月上旬から9
月頃まで正式稼働させた。しかし、公的施設とは異なりホテル・旅館民間アパート等では
PC
利用環境にばらつきがあり、また 操作できる人を確保することも難しく、避難者のトラッキングのために殆ど活用できなかった。民間アパートなどに移動した避難者への情報伝達の手段として、
Sahana
に登録された避難者の 電話番号を元にSMS
で通知を行う事も検討されたが、キャリア側が携帯電話相互間以外でのショー トメールの利用を認めていなかった為、実現できなかった。3. 計画時の利用イメージ
•
各避難所に設置されたPC
端末を用いて、山形県用のSahana
サイトにアクセスし、避難者の名簿・ 避難所への入退所を入力する。•
福島県の担当者が、自県からの避難者がどこに避難しているかを把握・追跡する。4. 評価
今回山形県では、
Sahana
が利用できるようになった時期が遅すぎたため、避難者を支援する仕組みがシス テムの計画段階と変わってしまい、実際の支援業務の中で有効に活用される事ができなかった。早期に導入さ れていれば有効に活用できたと思われる。5.今後の Sahana 活用に向けて
総務省の避難者情報システムなど被災者の情報を管理するためのシステムが複数存在し、それぞれに対応 する事が難しかった。今後「国のシステムも
Sahana
で」という事になればシステムを統一でき、被災地での救 援・復興業務の効率化に繋がると思われる。少なくてもそれぞれのシステム相互間のデータインタフェースは必 要であろう。今回ヒアリングした担当者によると、望まれるシステムは、何処で何があったかを現場で入力し見れるようなも の。何処に関係するかチェックを入れて関係者にアラートできればなおよい。現場で人の動きをきちんと把握しつ つ、後で災害救助法の事務に使うなど、柔軟に利用できる事が望ましい。
【おわりに】
お話を伺った方々から、「今後起こりうる災害に備えて、今回経験したことをフィードバックして協力したい」と いう申し出も頂いており、
Sahana Japan Team
として、東日本大震災での経験を生かしSahana
がさらに 被災者救援に有効なものとなるよう取り組みを進めていきたい。岩手県陸前高田市および山形県の
Sahana
担当者の方々を始め、今回のヒアリング調査に協力頂いた皆 様に改めて感謝いたします。また今回の「東北地域での
Sahana
活用に関する現地調査」を実施するにあたり、「2011
年度関西学院 大学大学共同研究(東日本大震災関連共同研究)」の協力を得ました。ここに謝意を表します。この作品はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示