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深海に存在する膨大な魚類資源

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Academic year: 2017

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深海に存在する膨大な魚類資源

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 准教授

安間

洋樹

(水産学部海洋資源科学科)

専門分野 : 水産資源学

研究のキーワード : 魚類,水産学,中深層性魚類,海洋生態系,定量化 HP アドレス : http://finfo.fish.hokudai.ac.jp/

何について研究しているのですか?

外洋の深度2001000mの中深層と呼ばれる層には、表層の数十倍にも達する魚類バイ オマスが存在すると考えられています。中深層性魚類(写真1)には、光のほとんど届か ない深海で自らが発光してコミュニケーションをとることや、大きな水圧変化に対応でき る特殊な鰾(うきぶくろ)構造を持つことなど、多くの特徴的な生態が見られます。中で も、夜間に餌の多い表層へ大移動して摂餌する日周鉛直移動は、表層と中深層の物質循環 において大きな役割を果たしていると考えられています。近年、海洋生態系のより深い理 解のため、また、来るべき資源枯渇に向けた未利用資源として、中深層にどんな魚種が、 どれくらいの量で存在するのかを正確に把握することの重要性が叫ばれています。

私の研究では、中深層性魚類の量を測る(定量化)技術の開発を行っています。また、 この技術を用い、主に太平洋海域において、日周鉛直移動の有無や規模、地理的分布の季 節変動などを定量的にモニタリングする手法へと発展させています。

どんな装置を使って、どんな実験をしているのですか?

定量化とは、ある海域における個体数(又は重量)を示すことです。しかし、深い海の 中は直接見て観察することができませんし、カメラなどを使っても広い範囲での観察は不 可能です。また、水中では光や電波の減衰が激しく、レーザー光や電波による計測もでき ません。これに対し、音は水中での減衰が少なく、空気中の約4倍の速度で伝搬すること から、音響測深器や魚群探知機等、海洋計測の多くの場面で利用されています。私の研究

写真1 太平洋の代表的な中深層性魚類

出身高校:日本大学第一高校(東京都) 最終学歴:東京大学大学院農学生命科学研究科

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でも、この音響計測技術が中深層の魚を「見る」ための主要な方法として使われています。 音響計測では、海中に超音波を発し、反射してきた音の強さや性質により、魚種や魚群 量、分布深度を推定します。中深層性魚類の定量化を実現するうえで必要不可欠なのは、 計量魚群探知機という音響計測機器です。計量魚群探知機は、漁業でも使われる通常の魚 群探知機を高精度化したもので、複数の周波数の超音波を送受信できることや、条件が良 ければ、個体単位での音響反射を探知することも可能です。

水中から反射してきた超音波は、様々な生物の反射波が合成されたものです。この合成 成分を種ごとの周波数特性をもとに振り分け、それぞれの種の一個体辺りの反射強度で割 ると個体数を求めることができます。この、種ごとの周波数特性や反射強度は、音響反射 の主要要因である鰾の形態や魚体の形状、遊泳姿勢、筋肉の化学成分組成といったパラメー タにより知ることができます。そのため、ある魚種の定量化技術を確立するためには、解 剖、組織観察、行動観察といった様々な実験も必要となります。

図1はエコーグラムといい、計量魚群探 知機で得られた昼夜別の音響反射を画像化 したものです。ここでは、道東沖の主要な 中深層性魚種であるトドハダカの例を示し ます。2周波の反射情報をもとに、ターゲッ トのトドハダカを他の主要生物であるオキ アミやスケトウダラと分離しています。分 離後のエコーグラムをもとに、それぞれの 個体数を求めることも可能です。この調査 では、当海域のトドハダカのバイオマスが 従来考えられていた量の数十~数百倍に及 んでいること、本種が夜間に300m近い大 規模な鉛直移動を行っていることが明らか となりました。この結果は、本海域の生態 系構造の概念を大きく変えるものとなり、 国内外より多くの反響をいただいています。

次に何を目指しますか?

見えない海の中を探るわけですから、より精度の高い定量化は音響計測のみでは実現で きません。音響計測自体の高精度化はもちろんですが、直下の中深層性魚類の種組成や分 布密度をできるだけ忠実に再現できるような採集ギアの開発や、生体を観察する技術の確 立も同時に行う必要があります。

また、言うまでもなく量を知ることは最終的な目標ではありません。ある魚種の資源量 変動は他の生物との相互関係や環境変動の結果として現れます。中深層性魚類の時空間的 な量的変動をとらえ、それが表層を含めた海洋生態系や漁業に影響を及ぼすメカニズムを 明らかにしていくことが、今後の課題だと考えています。

図1 2つの周波数で得られた昼夜のエコーグラム(上2 段)と分離後のトドハダカの音響反射(下段)。昼間の生息 深度は約300m、夜間に表層へ上昇しているのがわかる。

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参照

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