経済変動論
第 6 章 ( 前半 )
高尾 築
青森公立大学 経営経済学部
講師
2017/06/15
0. アウトライン
第 6 章 閉鎖経済での長期の経済分析 (教科書 pp.130-152)
(前半)
1. マクロ経済モデル
2. 財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
3. 政府の経済活動とマクロ経済
4. 比較静学
(後半)
5. 貨幣市場の均衡: 物価水準の決定
6. 長期の均衡
1.マクロ経済モデル
1. マクロ経済モデル
これまでの分析
ch.2: (実質)所得{Y1, Y2}, (実質)利子率{r }etc.が所与
⇒ 消費水準(実質値)がどのように決定されるか? ch.3: 実質利子率,資本減耗率etc.が所与
⇒ 投資水準(実質値)がどのように決定されるか? (ch.4): (資産価格の決定について) Skip
(ch.5:) (物価水準の決定について) Skip
を学習した. 現実の経済では,消費,投資, GDP(所得),利子率
etc...は独立して決定されるわけでは無く,相互に影響しながら
決定される.
このような相互作用を考慮した分析を行うためには,一般均衡 モデル(マクロ経済モデル)を構築する必要がある.
1.マクロ経済モデル
(教科書 p.131) 各市場のつながり
1.マクロ経済モデル
本章での分析の重要な仮定
(0) 2期間モデル,財の種類は1種類(消費財にも投資財にもな
りうる)
(1)生産要素は資本だけ 労働市場は考察しない (2)不確実性は存在しない
各経済主体 (家計や企業) は第 1 期目の期首において第 2 期目に 何が起きるか確実に理解できる (している)[補足: 各経済主体 (家計や企業) の意思決定のタイミングは第 1 期のみ]
(3)長期の分析
すべての市場で需給が一致している
⇔短期: 必ずしもすべての市場で需要と供給が一致するとは限 らない状況 ⇐ 何らかの理由により価格調整メカニズムがうま く機能しないため
(4)閉鎖経済
1.マクロ経済モデル
.
経済主体にとって所与の変数 (外生変数 ⇐ モデル分析をする上で
既に決まっている変数)
.
.
. . . .
.
.
K
1: 第 1 期の資本ストック
G
1, G
2: 第 1 期, 第 2 期の政府支出
T
1, T
2: 第 1 期, 第 2 期の税収
M
1, M
2: 第 1 期, 第 2 期の名目貨幣供給量
. マクロ経済モデルで決定される変数
(内生変数 ⇐ モデル分析の解として決まる変数)
.
.
.
.
Y
1, Y
2: 第 1 期, 第 2 期の実質 GDP
r : 実質利子率
P , P : 第 1 期, 第 2 期の物価水準
1.マクロ経済モデル
( 補足 ) 物価水準について
実質値と名目値
本講義のこれまでの分析(ch2, ch3, ch4)では,財の価格= 1と して,財の価格は時間を通じて変わらないと仮定して考察して いた(説明していた).
2年次のマクロ経済学で学習したように,現実のマクロ経済変 数には名目値と実質値が存在する.
これまでの講義では,議論の簡単化のために,
{C1, C2, Y1, Y2, I , r}の値が名目値であるのか実質値であるのか は正確には説明していなかった(暗黙のうちには実質値と説明 していたが...)
⇒ 正確にいえば,例えばC1は第1期の実質消費水準を意味
1.マクロ経済モデル
補足つづき
名目値で書いた消費,所得,投資の水準をそれぞれ,
名目消費水準: ˜ C
1, ˜ C
2 ⇐ ex. ˜C1“チルダ シー イチ”と呼ぶ名目所得水準: ˜ Y
1, ˜ Y
2名目投資水準: ˜I
と表記して,第1期,第2期の物価水準がそれぞれ{P1, P2}であるとする と,実質値で書いた消費,所得, 投資の水準はそれぞれ以下のように表記 できる:
実質消費水準: C
1=
˜
C
1P
1, C
2=
˜
C
2P
2実質所得水準: Y
1=
˜
Y
1P
1, Y
2=
˜
Y
2P
21.マクロ経済モデル
補足つづき
本章の 5 節でみていくように,
長期の分析では名目貨幣供給量の増減は経済の物価水準
({P
1, P
2}) のみに影響を与える.
つまり, 長期の分析では, 名目貨幣供給量の増減は経済の物価
水準に影響を与えるだけで, 実質変数 ({C
1, C
2, Y
1, Y
2, I , r}) の
決定には影響しない.
理論的に長期の経済を分析する際には,
(1)実質変数の値がまず市場均衡において決定
⇓
(2)そして,実質変数の値と貨幣供給量に応じて物価水準が決定
1.マクロ経済モデル
補足つづき
つまり, 物価水準の決定と実質変数の決定を切り離して分析が
可能
⇐ これを「古典派の二分法」と呼ぶ.
したがって,これまでの授業で出てきた消費,所得,投資水準お よび利子率は正確には全て実質値(実質消費,実質所得,実質投 資水準および実質利子率)を意味していることに注意されたい (以降の分析も同様).
また以降の分析で新規に出る(外生変数である)政府支出や税 収etcの値も全て実質値であることに注意が必要である.
1.マクロ経済モデル
本講義で単純に,
「消費」,「所得」, 「利子率」
としている場合には,
正確には,
「実質消費」,「実質所得」, 「実質利子率」
を意味していることに注意してほしい.
1.マクロ経済モデル
以降の分析
Step 1: 政府の経済活動は捨象する.
家計,企業の経済活動を同時に考慮し,財,資金市場の均衡を通 じて,第1期と第2期の実質消費,実質GDPおよび実質利子率 がどのようにして決定されるかを分析する.
Step 2: 政府の経済活動を導入する.
家計,企業,および政府の経済活動を同時に考慮し,財,資金市 場の均衡を通じて,第1期と第2期の実質消費,実質GDPおよ び実質利子率がどのようにして決定されるかを分析する.
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
2.1 財市場の均衡
財市場
現実の経済では異なる技術をもった様々な企業が,異なる財を 生産している.
しかし分析の簡単化のため,以降では経済全体を代表する1つ の企業が利用可能な資本ストックを全て用いて1種類の財を生 産することを仮定.
(労働投入etcは捨象して分析を行う)
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
企業の生産関数: Y = F (K )
(F
′(.) < 0, F
′′(.) > 0)
第 1 期の実質 GDP の決定
第1期の資本K1(所与)⇒ (6.1)式より,第1期のGDPが(自動的に)決定
Y1 = F (K1) (6.1)
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
第 2 期の実質 GDP の決定
第1期の投資水準Iが決定⇒ 第2期の資本ストックK2が決定
ch.3で学習したように,第1期の投資水準は実質利子率rに 依存
I(r ): rについて減少関数 (I′(r ) < 0) 第2期の資本ストックK2(内生変数)
⇒ 第2期のGDPが決定(以下では簡単化のため,資本減耗は 無いと仮定)
K2= K1+ I (r ) (6.2)
Y2 = F (K2) = F (K1+ I (r )) ≡ Y2(r ) (6.3)
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
第 1 期の財市場の均衡
総需要Y1d:Yd
1 = C1+ I (6.4)
総供給=第1期の実質GDP(Y1) 第1期の財市場均衡条件:
Y1 = C1+ I (6.5)
第 2 期の財市場の均衡
総需要Y2d:Yd
2 = C2
総供給=第2期の実質GDP(Y2) 第2期の財市場均衡条件:
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
2.2 資金市場の均衡
資金市場
資金の供給⇐ 家計の貯蓄水準: S = Y1− C1 資金の需要⇐ 企業の投資水準: I
資金市場の均衡条件
S = I (6.7)
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
貯蓄関数 (ch2 の議論参照)
S = S(r , Y
1, Y
2)
r: 実質利子率
Y1: 第1期の実質GDP(実質国内総所得) Y2: 第2期の実質GDP(実質国内総所得)
S(r , Y1, Y2): 貯蓄水準Sが{r , Y1, Y2}の関数であることを意味
.
∂S(r ,Y1,Y2) .∂r
> 0: r の上昇 ⇒ S の増加
※代替効果 >所得効果となることを仮定した場合
∂S(r ,Y1,Y2)
∂Y1
> 0: Y
1の上昇 ⇒ S の増加
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
第 1 期の実質 GDP(Y
1) は第 1 期の資本ストック K
1(所与) の水
準から自動的に決定
第 2 期の実質 GDP(Y
2) は実質利子率に依存:
Y
2(r ) ⇒ S(r , Y
1, Y
2(r ))
. 実質利子率 r が貯蓄 S に与える影響まとめ
.
.
. . . .
.
.
第 1 の効果 (直接効果): r の上昇 ⇒ S の増加 (直接効果)
第 2 の効果 (間接効果): r の上昇 ⇒ I の減少
⇒ K
2の減少 ⇒ Y
2の減少 ⇒ S の増加
第 1 の効果と第 2 の効果を総合すると, 実質利子率 (r) の上昇
は貯蓄を増やす
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
設備投資 ⇐ 実質利子率の減少関数 (ch3 参照)
I = I (r ), I
′(r ) < 0
(6.7) 式の資金市場の均衡条件:
S (r , Y
1, Y
2(r )) = I (r ) (6.8)
資金市場の均衡において実質利子率rの値(均衡実質利子率) が決定される. 言い換えると,資金の需要と供給が一致するよ うに均衡実質利子率が決定される.
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
(教科書 p.137) 図 6.2 資金市場の均衡
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
2.3 均衡実質 GDP の決定
.
... .
.
.
第 1 期: K
1(所与)⇒ 第 1 期の均衡 GDP(Y
1∗) が自動的に決定
第 2 期:
資金市場の均衡条件より, 均衡実質利子率 (r
∗) が決定
⇒ 均衡投資水準 I
∗が決定
⇒ 均衡資本ストック水準 K
2∗が決定
⇒ 第 2 期の均衡 GDP[Y
2∗= F (K
2∗)] が決定
2.財・資金市場の均衡と実質 GDP の決定
.
... .
.
.
財市場均衡条件より,
第 1 期の均衡消費水準 (C
1∗) は C
1∗= Y
1∗− I
∗で決定される
同様に,
第 2 期の均衡消費水準 (C
2∗) は, C
2∗= Y
2∗で決定される
3.政府の経済活動とマクロ経済
3.1 政府部門の導入
政府部門の導入
以降の分析では,政府の経済活動も考慮に入れる.
政府支出を賄うために,税収だけでは不足する分を国債の発行 で資金調達することを考慮する.
3.政府の経済活動とマクロ経済
3.2 政府部門の予算制約
政府部門の予算制約
第1期の予算制約式:B = G1− T1 (6.11)
B: 国債発行額, G1: 第 1 期の政府支出, T1: 第 1 期の租税 第2期の予算制約式
T2 = (1 + r )B + G2 (6.12)
r: 実質利子率, G2: 第 2 期の政府支出, T2: 第 2 期の租税 2期間モデルを考察しているので, 第 2 期目に政府は必ず家計 の持っている国債を全て償還しなければならない. すなわち, 償還に必要な資金 B, 利息分 rB, 第 2 期目に行う政府支出 G2を 全て第 2 期の税収 T2で賄う必要がある.
3.政府の経済活動とマクロ経済
異時点間の政府の予算制約式
(6.11)⇒(6.12)に代入T2 = (1 + r )(G1− T1) + G2
⇔ G1+ G2
1 + r = T1+ T2 1 + r (左辺)政府支出の割引現在価値の総和 (右辺)税収の割引現在価値の総和 両者が一致することを意味
3.政府の経済活動とマクロ経済
3.3 政府部門を考慮に入れた場合の資金市場の
均衡と実質 GDP の決定
第 1 期の財市場均衡条件
Y
1= C
1+ I + G
1(6.13)
貯蓄 S
S
= (Y
1− T
1) − C
1(6.14)
(6.13) を変形
Y
1−T
1− C
1= I + G
1−T
1(6.12) を代入
S
= I + G
1− T
1(6.15)
3.政府の経済活動とマクロ経済
(6.15) 式の意味
民間貯蓄(S),すなわち民間の資金余剰によって企業の投資(企 業の資金需要)+政府の財政赤字(政府の資金需要)が賄われて いる.
(6.15) 式を変形,
S(r , Y1− T1, Y2(r ) − T2)
+ T
1− G
1= I (r ) (6.16)
S(r , Y1− T1, Y2(r ) − T2): 多変数関数を意味していることに 注意
Y1− T1: 第1期の(実質)可処分所得 Y2− T2: 第2期の(実質)可処分所得
家計が実際に消費(貯蓄)に用いることのできる所得(可処分所 得)は課税分だけ減少することに注意.
3.政府の経済活動とマクロ経済
(教科書 p.141) 図 6.3 資金市場の均衡 (財政黒字の場合)
3.政府の経済活動とマクロ経済
資金市場の均衡 (財政赤字の場合)
4.比較静学分析
4. 比較静学分析
. 比較静学
.
.
. . . .
.
.外生変数の変化が内生変数に与える影響を分析すること
財政赤字の拡大の効果
第1期の政府支出が増加: ∆G1 >0
∆G1: 第 1 期の政府支出が増加分を表す 第1期の税収T1は変化しない場合を考察 第1期の政府の予算制約式: B = G1− T1より, この時国債発行額が∆B = ∆G1だけ増加する
∆B: 国債発行額の増加分を表す
追加発行された国債の償還方法は以下の2通り: (1)第 2 期目の増税 (T2の増加)
4.比較静学分析
(1)第 2 期目の増税の場合
(a)第1期目に∆G1の政府支出増加 (b)第2期目に(1 + r )∆G1の増税. (a: 直接効果)
⇒ (6.16)式のT1− G1を減少させる
⇒ (6.16)式の左辺の値を減少させる(すなわち資金供給を減少
させる⇒ 資金供給曲線を左シフトさせる) (b: 間接効果)
⇒ 第2期目の租税T2が∆T2 = (1 + r )∆G1増加
⇒ 家計にとって,第2期目の可処分所得Y2− T2が減少
⇒ 家計は消費を平準化するために貯蓄を増加させる.
⇒ (6.16)式の左辺の値を増加させる(すなわち資金供給を増加
させる⇒ 資金供給曲線を右シフトさせる)
4.比較静学分析
(2) 第 2 期目の政府支出の削減 (G2の減少) の場合 (a)第1期目に∆G1の政府支出増加
(b)第2期目に政府支出を低下: ∆G2 = −(1 + r )∆G1 (a: 直接効果)
⇒ (6.16)式のT1− G1を減少させる
⇒ (6.16)式の左辺の値を減少させる(すなわち資金供給を減少
させる⇒ 資金供給曲線を左シフトさせる) (b: 間接効果なし)
4.比較静学分析
(教科書 p.143) 図 6.4 財政赤字の拡大
4.比較静学分析
生産技術の改善
研究開発や海外からの新しい生産技術の導入により将来の生産 技術が改善されたとする. 具体的には,第2期の生産技術が F(K2)から以下のように変化した場合を考える:
AF(K2), A > 1
(1)将来の生産技術の上昇 ⇒ 将来の資本の限界生産力 ↑
⇒ 任意のrについて投資 ↑ ⇒ 資金需要曲線を右シフト (2)将来の生産技術の上昇 ⇒ Y2の上昇 ⇒ 資金供給曲線を左 シフト
(2)の効果が支配的であれば,次ページの図のようになる.
4.比較静学分析
(教科書 p.144) 図 6.5 生産技術ショック
4.比較静学分析
(教科書 p.144) 図 6.6 時間選好率の上昇