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日本のバイオ業界におけるベンチャー企業の現 状と課題 ―海外におけるバイオベンチャー企業の状況との比較を通じて―

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1 . はじめに

この1 −2 年の間、日本のバイオ業界は、今後の大き な発展のための助走をようやく始めた。このレポートで は、日本のバイオベンチャー企業の現状分析ならびに課 題考察を、海外におけるバイオベンチャー企業の状況と の比較を通じて行う。

2 . 欧米のバイオ業界におけるベンチャーの現状

まず、欧米のバイオベンチャー企業の動向に注目する。

欧米における企業数、雇用、研究開発費

アメリカでは、バイオベンチャーの企業数が2 0 0 2 年 の時点で1 , 4 6 6 社に達し、そのうち公開企業も 3 1 8 社と

なっている(表1 参照)。一方、ヨーロッパでは、企業

数は同時期に1 , 8 7 8 社とアメリカを上回るものの、公開

企業数は1 0 2 社と低い水準である。雇用水準はアメリカ において約2 0 万人、ヨーロッパにおいて8 万人強、研究 開発費はアメリカで2 0 5 億ドル、ヨーロッパで 7 7 億ド ルと、それぞれの地域において雇用創出ならびに投資に 寄与している。

鈍化した成長

しかし、2 0 0 0 年以降、欧米におけるバイオ産業の成 長は鈍化した。その顕著な例が、公開企業数の低下であ る。アメリカでは、2 0 0 0 年から2 0 0 0 2 年にかけて、公 開 企 業 数 は 3 3 9 社 か ら 3 1 8 社 に 低 下 し て い る 。 I P O (i n i t i a l pu bl i c of f er i n g ;新規株式公開)の数も2 0 0 0 年の 5 8 社に比べ 2 0 0 2 年には4 社にしかすぎなかった。 同様にヨーロッパにおいても、公開企業数は1 0 7 社から 1 0 2社に低下している。

また、アメリカ市場に注目して、その時価総額合計の 時系列的な推移を見ると、2 0 0 0年の約3 , 5 0 0億ドルをピ

64 2004.9.3. no.234

tokugikon

慶應義塾大学大学院ビジネススクール 助教授

中村 洋

ベンチャー企業における 特許戦略

特集

日本のバイオ業界における

ベンチャー企業の現状と課題

−海外におけるバイオベンチャー企業の状況との比較を通じて−

表1:バイオベンチャー企業の欧米比較

出所:Ernst & Y oung

企業数 公開企業数 雇用数(人) 研究開発費

2000 1,379

339 174,000 137億ドル

2002 1,466

318 194,600 205億ドル

2000 1,734

107 67,445 55億ドル

2002 1,878

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表2 では、日本で 2 0 0 4 年7 月末までに上場を果たした バイオベンチャー企業1 0 社を挙げている。その時価総 額合計も 4 , 0 0 0 億 円 弱 ( 2 0 0 4 年8 月6 日現在)となり、 2 0 0 4 年3 月時点のアメリカの時価総額3 , 1 1 0 億ドル(約 3 4兆円)の約1 %にとどまる。

同様に、売上の比較で見ても、バイオベンチャー企業 の売上上位 1 0 0 社のうち、日本企業が占める割合は6 社

にしか過ぎない(表3 参照)。その他の地域では、約三

分の二がアメリカに本拠を持ち、カナダを含めた北米地 域で見ると 7 1 社に達する。その他は、ヨーロッパが2 0 社、オーストラリアが3 社を占める。

3 . 格差の要因:アメリカとの比較

これだけの格差はなぜ生じたのは、なぜであろうか。 特にアメリカとの比較を通じて、「モノ」、「カネ」、「ヒ

ト」、「情報」の観点から、格差の要因の整理を行う。

3 .1 モノ:産学連携の推進

産 学 連 携 の 推 進 に よ り 、 大 学 に お い て 産 業 化 に 直 接 つ な が る シ ー ズ ( モ ノ ) の 研 究 が 進 め ら れ る 。 ア メ リ カ で は 、1 9 8 1 年 に 施 行 さ れ た バ イ = ド ー ル 法 ( B a y h =D o l e A c t ) が 産 学 連 携 促 進 の 契 機 と な っ た 。

バ イ = ド ー ル 法 は 、 連 邦 政 府 が 大 学 に 研 究 予 算 を 配 分 し て い た 場 合 、 そ の 成 果 と し て 得 ら れ た 発 明 等 の 権 利 保 持 を 大 学 が 選 択 で き る よ う に し た 。 大 学 は 、 T L O (T ec h n ol og y L i c en si n g O r g a n i z a t i on :技術移転機 関 ) を 使 っ て 、 大 学 で 生 ま れ た 発 明 の 特 許 申 請 と 、 特 許 化 さ れ た 知 的 資 産 の 企 業 へ の 移 転 を 行 う 。 移 転 の 対 価 と し て ロ イ ヤ リ テ ィ を 稼 ぎ 、 そ の 一 部 は 大 学 の 研 究 活 動 に 還 元 さ れ る 。 そ し て 、 そ の 資 金 が 新 た な 研 究 成 果 を 生 み 出 す と い う 好 循 環 が 生 み 出 さ れ た 。 ま た 、 発 明 者 に も 個 人 的 に 配 分 さ れ 、 研 究 者 が 産 業 化 に 貢 献 す

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表2:日本で上場したバイオベンチャー企業

出所:新聞報道などから作成。

注:プレシジョン・システム・サイエンス、アンジェスMG、そーせいは連結決算、その他は単独決算。

企業名

インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス プレシジョン・システム・サイエンス

アンジェスM G トランスジェニック メディビック メディネット

オンコセラピー・サイエンス 総合医科学研究所

DNA チップ研究所 そーせい

上場した年月

2 0 0 0年1 2月 2 0 0 1年2月 2 0 0 2年9月 2 0 0 2年1 2月 2 0 0 3年9月 2 0 0 3年1 0月 2 0 0 3年1 2月 2 0 0 3年1 2月 2 0 0 4年3月 2 0 0 4年7月

時価総額(億円) (2004年8月6日現在)

60 95 517 96 127 486 712 1,160 99 3 7 7

売上(億円) (直近の決算から)

26.2 25.1 24.5 5.7 4.8 16.6 15.8 6.7 18.1 2.3 合計 3 , 7 3 0

表3:全世界における売上上位バイオベンチャーの割合(2 0 0 3)

出所:日本を除く数値は、Med A d New s(J uly 2003)から。日本を含む数値は、Med A d New s(J uly 2003)と日本の公開ベンチャー企業の各社財 務資料を基に作成。

日本 − 6社 ヨーロッパ

20社 20社 豪州・NZ

3社 3社 北米地域

77社 71社 カナダ

7社 6社 アメリカ

70社 65社 売上上位100社(2003日本を除く)

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て 新 興 企 業 の 資 金 調 達 の 場 と し て マ ザ ー ズ や ナ ス ダ ッ ク・ジャパン(現ヘラクレス)の開設が行われ2 )

、バイ オベンチャー企業への投資環境が整備されることが期待 されている。

ただ、これまで堅調であったバイオベンチャー企業の 株価が、2 0 0 4 年度に入って軟調である(表4 参照)。こ の傾向が一時的なものかどうかの判断は現時点では難し い。ただ明らかな点は、アメリカ市場でもそうであった ように、資金調達が容易な時期はなかなか長続きしない ことである。そのことを前提とした企業戦略の立案・遂行 ならびに政策支援が必要であることはいうまでもない。

3 .3 ヒト:産学間の人材交流と製薬企業からの人材流出

ベンチャー経営の中核になるのは、やはり人材である。

しかし、日本においては欧米に比べ、バイオベンチャー 企 業 へ の 人 材 の 流 出 は こ れ ま で あ ま り 進 ん で こ な か っ た。ここでは、その要因として、産学間の人材交流と製 薬企業からの人材流出が少ないことに注目する。

前者の産学間の人材交流の不足については、アメリカ では大学の企業の人材交流が盛んで、多くの優秀な若手

の研究者が大学を離れてバイオベンチャー企業に勤めて いる。後者に関し、製薬企業の研究開発者はバイオ、医 薬品、臨床開発、薬事に関する専門知識を持つことから、 バイオベンチャー企業にとっては是非獲得したい人材で ある。欧米においては、 1 9 8 0 年代後半から大手製薬企 業同士のM &A ・合併が進み、その結果として有能な人 材のベンチャー企業への流出があった。

一 方 、 日 本 で は 、 産 学 間 の 人 材 交 流 や 製 薬 企 業 間 の M & A が進まず、バイオベンチャー企業への人材流出が 比較的進まなかった。

3 .4 情報:クラスター形成

バイオベンチャー企業が欲するモノ、ヒト、カネに関 す る 情 報 は 、 ベ ン チ ャ ー 企 業 の み な ら ず 製 薬 企 業 、 大 学・研究機関が集積するクラスターにおいて集まりやす い。つまり、クラスターには、人材や資金が集まりやす く、ベンチャー企業の形成が促進される。そして、その 魅力によりさらに人材や資金が引きつけられるという好 循環が生まれている。

アメリカにおいては、ボストン近郊、サンフランシス

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2)ただ、日本経済の低迷や I T バブルの崩壊により、 2 0 0 2年には米国ナスダックのナスダック・ジャパンからの撤退が決定され、名称

もヘラクレスに変更された。

表4:最近のバイオベンチャー企業の株価変化

注:新聞記事などから作成。そーせいは2004年7月末に上場のため計算を行っていない。

インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス プレシジョン・システム・サイエンス

アンジェスM G トランスジェニック メディビック メディネット

オンコセラピー・サイエンス 総合医科学研究所

DNA チップ研究所 そーせい

バイオベンチャー企業平均 日経平均

上場した市場

マザーズ ヘラクレス

マザーズ マザーズ マザーズ マザーズ マザーズ マザーズ マザーズ マザーズ

株価変化率 (04年4月末―8月6日)

約1/3低下 約50%低下 約1/4低下 約1/3低下 約40%低下 約40%低下 約40%低下 約20%低下 約50%低下

− 約40%低下 約10%低下

株価変化率 (04年6月末―8月6日)

約20%低下 約1/4低下 約1/4低下 約1/4低下 約40%低下 約30%低下 約1/3低下 約1/6低下 約40%低下

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コ周辺、シアトル周辺、サンディエゴ周辺等に主要なク ラスターが形成されている

3 )

。シリコンバレーのように スタンフォード大学を中心に自然発生的に形成されたク ラスターもあれば、テキサスのオースティンのように地 方自治政府とテキサス大学が中心となって人為的に形成 されたクラスターもある。

日本においては、 2 0 0 0 年ごろから東京ベイエリア、 関西、北海道などを中心にクラスター形成が行われつあ る現状であり、欧米に比べ遅れている。

4 . おわりに:さらなる環境整備促進と海外の活用

これまで述べてきたように、日本のバイオベンチャー 企業のさらなる育成には、産学連携によるモノの創出、 ヒトの育成、カネの確保、クラスターの形成が必要不可 欠である。欧米に比べ遅れたが、日本でも様々な施策が 実行に移りつつある。しかし、今後も欧米に負けないた めの施策のさらなる充実が必要である。

ただ、ベンチャー企業を取り巻く環境が急に改善する わけでもない。したがって、日本のバイオベンチャー企 業は、海外企業との提携や拠点確保により、海外の豊富 な経営資源や良好な環境をいかに有効に活用するかも考 えなければならない。

主要参考文献

〔 1 〕 A UT M ( A s s oc ia t ion of Univ e rs it y T e c hnolog y Manag ers)L ic ensing S urv ey 2002.

〔 2 〕 Biot e c hnolog y Indust ry Org a niz a t ion( h t t p : / / w w w . bio.org ).〔2004年8月アクセス〕

〔 3 〕 C ort rig ht , J . a nd H. Ma y e r, 2 0 0 2 , "S ig ns of lif e : T he g row t h of biot e c hnolog y c e nt e rs in t he U.S .," T he Brooking s Inst it ut ion, C ent er on urban and met ropolit an polic y .

〔4〕Ernst & Y oung , A nnual report s on t he biot ec hnolog y . 〔 5 〕 T he E urope a n a ssoc ia t ion f or bioindust ry ( h t t p : / /

w w w .europa-bio.be)〔2004年8月アクセス〕

〔6〕Med A d New s (J uly , 2003).

〔 7 〕 Na t iona l Inst it ut e of Hea lt h( h t t p : / / w w w . n i h . g o v / ). 〔2004年8月アクセス〕

〔8〕青井倫一・中村洋「アメリカ医薬品市場における外 部環境変化と研究開発型製薬企業への影響」−日本 の制度と製薬企業に対するインプリケーション−.医 療と社会.2003.

〔9〕バイオインダストリー協会 . 2 0 0 3年バイオベンチャー 統計報告書.2004.

3)C ortright and M ayer(2002)

p

ro f i l e

中村 洋(なかむら ひろし) 一橋大学経済学部卒業

ス タ ン フ ォ ー ド 大 学 経 済 学 博 士 課 程 修 了

(P h . D)

参照

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