ト ビニタイ 文化の集団構成と 生計戦略
―北海道東部における「中世アイ ヌ社会」成立に至る一階梯―
大 西 秀 之
博士(文学)
総 合 研 究 大 学 院 大 学
文 化 科 学 研 究 科
地 域 文 化 学 専 攻
平成 16 年度
(2004 年度)
目 次
序文 … … … 1
第一章:トビニタイ文化の研究意義 … … … 4
Ⅰ.問題の所在と本論の射程 1.問題の所在 4 2.本論の射程 8
Ⅱ.研究史の回顧と課題の把握 1.研究前史 11
2.トビニタイ土器の発見と編年の確立 15 3.接触・融合の背景 18
4.トビニタイ文化成立の追究 20
Ⅲ.新たな研究視座
1.接触・融合の集団間関係 22 2.文化変容の歴史的背景 25
第二章:トビニタイ文化の主体者 … … … 29
Ⅰ.集団間関係へのアプローチ
1.集団間関係の解明に向けて 29 2.欧米における研究展開 31 3.日本における研究展開 35 4.アプローチの方向性 40
Ⅱ.トビニタイ土器に伴う「擦文式土器」の製作者 1.検討資料と属性の抽出 42
2.「擦文式土器」の分類 47 3.模倣品の性格と分布 54
4.「擦文式土器」の製作地、製作者 59
Ⅲ.トビニタイ土器製作集団と擦文文化集団の集団間関係 1.製作技術受容の背景 62
2.擦文文化集団との関係 65 3.前期における状況 67 4.後期における状況 70
Ⅳ.トビニタイ文化の住居址構造と居住者 1.トビニタイ文化の住居址 74
2.二つの現象の背景 85 3.住居址の居住者 87 4.更なる理解に向けて 91
第三章:トビニタイ文化なる現象の追究 … … … 93
Ⅰ.集落遺跡の立地パターン 1.トビニタイ文化の把握に向けて 93 2.立地環境の類型化と検討 94 3.オホーツク文化、擦文文化の遺跡立地 98 4.トビニタイ文化の遺跡立地の性格 107 Ⅱ.遺物組成にみるトゥールキット 1.遺物組成の内容 110 2.オホーツク文化、擦文文化との比較 113 Ⅲ.トビニタイ文化なる現象 1.生業活動の追究 120 2.擦文文化との接触、交流の要因 131 3.トビニタイ文化の基本的性格 135 第四章:歴史的事象としてのトビニタイ文化 … … … … 137
Ⅰ.トビニタイ文化の成立の背景 1.生計戦略の確立 137 2.擦文文化との交渉の背景 145 Ⅱ.列島史への位置づけ 1.トビニタイ文化のヒストリー 149 2.列島史的動向と辺境への影響 152 Ⅲ.アイヌ文化にとっての歴史的意義 1.「中世アイヌ期」との連続性 157 2.トビニタイ文化が果たした役割 162 結語 … … … … 169
註 … … … … 172
引用・参考文献 … … … … 183
あとがき … … … … 194
凡例
1.本論は、著者の既発表の著作3編が収録されている。収録に際しては、加筆、修正を加えるとと
もに用語、表記を統一し、図表も改めて作成し全体の統一を計った。 2.図表、註は、それぞれ章ごとに番号を付記した。
3.挿図の縮尺等は、図版ごとに提示した。
4.著者が作成したもの以外の図表は、部分的な加筆、修正を加えた場合でも、すべて出典を明記し た。
5.人名、地名、遺跡、遺構等の名称は、原則として原典の報告書・学術論文等の記載に従った。 6.引用文献の出典は、すべて本文中に[八幡 1966]のように提示した。これは、[姓 発表年]を
表している。引用の該当頁を示す場合には、[河野 1955:8-9]のように発表年の後に該当箇所を示 した。
7.同じ著者が同一年に複数の論文を発表している場合には、[大井1972a]、[大井1972b]のように 発表年の末尾にアルファベットを付記して区別した。なお、アルファベットは、本論中での引用順 序とした。
8.同姓の著者が他にいる場合であっても、出版年が異なり、混同のおそれのない限りにおいて、姓 のみを記すのみにとどめた。なお、著者が同姓で同年に出版された著作があり、混同のおそれのあ る場合、[菊池俊彦1978]、「菊池徹夫1978」のように姓と名を表記した。
9.文献の著者名が個人ではなく、団体や機関などである場合、たとえば東京大学文学部考古学研究 室は、[東京大学1972]のように可能な範囲で名称を短縮した。
10.文献の著者が 2∼3 名の場合には、邦文なら[金盛・村田・松田 1981]のように、外国文なら
[Friendrich & Mardin 1970]と表記した。ただし、著者が 4 名以上になる場合、「野村ほか1982」、
「Horai et al」のように省略形を用いた。
11.同一論文を連続して使用する場合も、[大井 1970:57]、[大井 1970:57-60]と表記し、省略形を 使用しない。
図表一覧
第二章図:Fig.Ⅱ-1 トビニタイ土器と擦文式土器 30 第二章図:Fig.Ⅱ-2 トビニタイ土器が出土した主要遺跡 43 第二章図:Fig.Ⅱ-3 施文原体 46
第二章図:Fig.Ⅱ-4 頸部文様帯の施文順序 46 第二章図:Fig.Ⅱ-5 器面調整 47
第二章図:Fig.Ⅱ-6 施文順序Cの擦文式土器 50 第二章図:Fig.Ⅱ-7 オタフク岩洞窟出土資料 52 第二章図:Fig.Ⅱ-8 ピラガ丘遺跡第Ⅲ地点出土資料 54 第二章図:Fig.Ⅱ-9 施文具の使い方 55
第二章図:Fig.Ⅱ-10 施文のタイミング 55 第二章図:Fig.Ⅱ-11 文様帯下端へのミガキ 56 第二章図:Fig.Ⅱ-12 PR型模倣品とOT型模倣品 57 第二章図:Fig.Ⅱ-13 OT型模倣品の杯・高杯 57 第二章図:Fig.Ⅱ-14 PR型・OT型の分布 58 第二章図:Fig.Ⅱ-15 各遺跡の時期区分 59
第二章図:Fig.Ⅱ-16 須藤遺跡15号竪穴出土資料 61 第二章図:Fig.Ⅱ-17 前期における土器群の組成 68 第二章図:Fig.Ⅱ-18 後期における土器群の組成 71
第二章図:Fig.Ⅱ-19 オホーツク文化と擦文文化の住居址 76
第二章図:Fig.Ⅱ-20 オホーツク文化住居址内の遺物分布と世帯構成 77 第二章図:Fig.Ⅱ-21 平面プラン 77
第二章図:Fig.Ⅱ-22 オホーツク文化後期の方形プラン住居址 79 第二章図:Fig.Ⅱ-23 柱穴の配置構造 79
第二章図:Fig.Ⅱ-24 オホーツク文化住居址の柱穴配置 81 第二章図:Fig.Ⅱ-25 構造cに分類された住居址 82 第二章図:Fig.Ⅱ-26 貼床と骨塚 84
第二章図:Fig.Ⅱ-27 「融合型式」的な住居址 87 第二章図:Fig.Ⅱ-28 石囲炉と竈が併設された住居址 88 第二章図:Fig.Ⅱ-29 エリアⅠにおける集落遺跡の状況 89 第二章表:Table.Ⅱ-1 各個体の属性 45
第二章表:Table.Ⅱ-2 同時期の擦文式土器の属性 48-49 第二章表:Table.Ⅱ-3 属性の組合せ 51
第二章表:Table.Ⅱ-4 前期における土器群の組成 68 第二章表:Table.Ⅱ-5 後期における土器群の組成 71 第二章表:Table.Ⅱ-6 主軸(長軸)長 75
第二章表:Table.Ⅱ-7 平面プラン 78
第二章表:Table.Ⅱ-8 平面プランの時期別傾向 78 第二章表:Table.Ⅱ-9 柱穴の配置構造 80
第二章表:Table.Ⅱ-10 柱穴配置構造の時期別傾向 80 第二章表:Table.Ⅱ-11 火気施設 83
第二章表:Table.Ⅱ-12 火気施設の時期別傾向 83
第二章表:付表 住居址属性観察結果 92
第三章図:Fig.Ⅲ-1 本章で検討するトビニタイ文化の遺跡 95 第三章図:Fig.Ⅲ-2 トビニタイ文化の遺跡立地 97
第三章図:Fig.Ⅲ-3 本章で検討するオホーツク文化の遺跡 99 第三章図:Fig.Ⅲ-4 オホーツク文化集落遺跡の立地三類型 101 第三章図:Fig.Ⅲ-5 石狩低地帯の擦文文化遺跡 103
第三章図:Fig.Ⅲ-6 柏木川流域の擦文文化遺跡分布 104 第三章図:Fig.Ⅲ-7 常呂川下流域の擦文文化遺跡 106 第三章図:Fig.Ⅲ-8 トビニタイ文化の遺物組成 111 第三章図:Fig.Ⅲ-9 オホーツク文化の遺物組成 115 第三章図:Fig.Ⅲ-10 擦文文化の遺物組成 117 第三章図:Fig.Ⅲ-11 須藤遺跡出土の鞴羽口 119 第三章図:Fig.Ⅲ-12 トビニタイ文化に伴う刀子 133 第三章図:Fig.Ⅲ-13 擦文文化(中期以降)に伴う刀子 134 第三章表:Table.Ⅲ-1 トビニタイ文化の遺跡立地 96 第三章表:Table.Ⅲ-2 オホーツク文化の遺跡立地 99
第三章表:Table.Ⅲ-3 石狩低地帯における擦文文化の遺跡立地 103 第三章表:Table.Ⅲ-4 常呂川下流域における擦文文化の遺跡立地 105 第三章表:Table.Ⅲ-5 トビニタイ文化の遺物組成 111
第三章表:Table.Ⅲ-6 トビニタイ文化の時期別の遺物組成 112 第三章表:Table.Ⅲ-7 オホーツク文化の遺物組成 114
第三章表:Table.Ⅲ-8 須藤遺跡の動物遺存体 122 第三章表:Table.Ⅲ-9 オタフク岩洞窟の動物遺存体 124
第三章表:Table.Ⅲ-10 伊茶仁カリカリウス遺跡の動物・植物遺存体 125 第四章図:Fig.Ⅳ-1 香深井A遺跡の生業カレンダー 137
第四章図:Fig.Ⅳ-2 礼文島におけるオホーツク文化のセトルメントパターン 138 第四章図:Fig.Ⅳ-3 オホーツク文化の遺跡分布の変遷 139
第四章図:Fig.Ⅳ-4 貼付文分布圏における遺跡ごとのサケ類の出現頻度 140 第四章図:Fig.Ⅳ-5 気候変動とオホーツク文化の分布 141
第四章図:Fig.Ⅳ-6 紀元後2000年間の世界各地の気温変化 143 第四章図:Fig.Ⅳ-7 海氷が長期間接岸する地域 144
第四章図:Fig.Ⅳ-8 トビニタイ文化前期における擦文文化の遺跡分布 146 第四章図:Fig.Ⅳ-9 東北地方における 7∼10 世紀にかけての製鉄遺跡 153 第四章図:Fig.Ⅳ-10 北海道における毛皮猟対象鳥獣の現生分布 160
序 文
A.D.5∼10 世紀を前後する時期の北海道には、オホーツク文化と今日呼称される、日本
列 島 史 上 ひ と き わ 異 彩 を 放 つ 先 史 文 化 が 展 開 し て い た 。 オ ホ ー ツ ク 文 化 は 、 北 方 海 域 に 適 応 し た 生 計 戦 略 や 居 住 形 態 に 立 脚 す る と と も に 、 ア ム ー ル 河 中 流 域 を 中 心 と す る 北 東 ア ジ ア 大 陸 部 と の 交 渉 を 維 持 し つ つ 、 サ ハ リ ン か ら 千 島 列 島 に ま で 分 布 し て い た こ と が 、 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 の 調 査 ・ 研 究 か ら 提 起 さ れ て い る 。 さ ら に 、 そ の 担 い 手 達 は 、 北 海 道 の 在 来 集 団 と は 形 質 的 ・ 遺 伝 的 に 系 統 を 異 に す る サ ハ リ ン か ら の 渡 来 集 団 で あ っ た こ と が 、 自 然 人 類 学 な ど の 調 査 ・ 研 究 に よ っ て 明 ら か に な っ て き た 。 そ れ ゆ え 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 北 海 道 へ の 拡 散 は 、 日 本 列 島 に お け る 最 後 の モ ン ゴ ロ イ ド 集 団 の 移 動 と し て 位 置 づ け ら れ て い る 。
い っ ぽ う 、 同 時 期 の 北 海 道 に は 、 終 末 期 の 続 縄 文 文 化 か ら 擦 文 文 化 に 至 る 、 現 在 の ア イ ヌ の 人 々 と 直 接 的 に 系 譜 が 繋 が る 集 団 に よ っ て 担 わ れ た 先 史 文 化 が 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 分 布 圏 を 異 に し つ つ 併 存 し て い た 。 こ の 系 譜 に 連 な る 先 史 文 化 は 、 生 計 戦 略 や 居 住 形 態 の み な ら ず 、 形 質 的 ・ 遺 伝 的 に も オ ホ ー ツ ク 文 化 と は 別 系 統 の グ ル ー プ に よ っ て 担 わ れ て い た も の で あ っ た 。 こ の よ う に 、 同 時 期 の 北 海 道 に は 、 形 質 的 ・ 遺 伝 的 に 系 統 を 異 に す る 集 団 に よ っ て 担 わ れ た 、 ま っ た く 様 相 を 異 に す る 二 つ の 先 史 文 化 が 展 開 し て い た の で あ る 。
こ れ ら 二 つ の 先 史 文 化 は 、10 世紀前後に至るまで、ほとんど相互に交渉することなく併 存 し た 後 、 突 如 と し て オ ホ ー ツ ク 文 化 が 擦 文 文 化 に 同 化 ・ 吸 収 さ れ る こ と に よ っ て 終 焉 を 迎 え る 。 と と も に 、 こ う し た オ ホ ー ツ ク 文 化 の 擦 文 文 化 へ の 同 化 ・ 吸 収 は 、 そ の 過 程 に お い て 、 両 文 化 の 要 素 を 併 せ 備 え る 「 接 触 様 式 」 な い し 「 融 合 型 式 」 と い う べ き 性 格 の 考 古 資 料 を 遺 し て い る 。ま た 、「 接 触 様 式 」・「 融 合 型 式 」と さ れ る 資 料 は 、北 海 道 の 東 部 と 北 部 に お い て 、 そ れ ぞ れ 様 相 を 異 に す る も の が 確 認 さ れ て い る 。 わ け て も 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と も 呼 称 さ れ る 道 東 部 の 「 接 触 様 式 」・「 融 合 型 式 」 は 、 調 査 事 例 が 比 較 的 多 く 、 資 料 数 に も 恵 ま れ て い る こ と か ら 、 日 本 列 島 史 に お い て 類 例 の な い 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 と い う 相 異 な る 性 格 を 備 え た 二 つ の 先 史 文 化 の 担 い 手 達 が 、 接 触 ・ 融 合 を 果 た し た 歴 史 的 コ ン テ ク ス ト を 解 き 明 か す 資 料 と し て 注 目 さ れ 研 究 が 進 め ら れ て き た 。
も っ と も 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 研 究 意 義 は 、 単 に 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 を 対 象 と し た 個 別 研 究 の 枠 に と ど ま る も の で は な い 。 と い う の は 、 ひ と つ の 地 域 の な か で 一 定 の 期 間 併 存 し て い た 、 異 な る 適 応 戦 略 を 保 持 す る 異 系 統 の 集 団 が 接 触 ・ 融 合 を 遂 げ た 要 因 を 追 究 す る こ と は 、 人 類 学 や 歴 史 学 な ど に 跨 る 人 類 史 的 視 座 に 位 置 づ け る べ き テ ー マ と な り う る か ら で あ る 。 実 際 、 異 系 統 集 団 の 接 触 ・ 融 合 、 異 な る 生 計 戦 略 の 選 択 な ど 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 絡 む 研 究 は 、日 本 列 島 史 に お い て 鑑 み る な ら ば 、「 縄 文 」か ら「 弥 生 」へ の 移 行 に 対 比 し う る ケ ー ス ス タ デ ィ と も な る 。
さ ら に 、ト ビ ニ タ イ 文 化 に は 、今 ひ と つ の 解 明 す べ き 重 要 な 課 題 が 指 摘 で き る 。そ れ は 、
「 中 世 ア イ ヌ 期 」 な ど と 一 般 に 呼 称 さ れ る 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 の 終 末 後 の 北 海 道 に 成 立 し た 社 会 的・歴 史 的 状 況 と の 関 係 性 で あ る 。と り わ け 、「 中 世 ア イ ヌ 期 」の 形 成 に お け る 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 影 響 や 役 割 な ど を 問 う こ と は 、 今 日 ま で 続 く ア イ ヌ の 人 々 の 文 化 や 歴 史 を 考 え る 上 で も 必 須 の 課 題 と い え よ う 。 加 え て 、 こ の 問 い は 、 と も す れ ば 「 謎 の 氷 海 民 文 化 」 な ど と い っ た 表 象 の み に 囚 わ れ か ね な い オ ホ ー ツ ク 文 化 を 、 具 体 的 な 形 で 北 海 道 を 中 心 と す る 日 本 列 島 北 部 地 域 の 歴 史 に 位 置 づ け る と 同 時 に 、 ア イ ヌ の 人 々 の 歴 史 や 文 化 の ひ と つ と し て の 認 識 を 促 す も の と な る 。
し か し な が ら 、わ ず か な 例 外 を 除 き 、こ れ ま で の ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 す る 研 究 の 大 勢 は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 変 容 や 終 末 の 追 究 に 終 始 し 、 同 研 究 が 孕 む 歴 史 的 な 意 義 と 可 能 性 を 十 全 に 考 慮 し て き た と は い え な い 。 し か も 、 そ こ で の 議 論 の 多 く は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 集 団 と 擦 文 文 化 集 団 の 接 触 ・ 融 合 が 生 起 し た こ と を 追 認 し て い る に 過 ぎ ず 、 ま っ た く の 異 系 統 と 想 定 さ れ る 二 集 団 が 、 い か な る 社 会 状 況 の 下 、 ど の よ う な プ ロ セ ス を 経 て 接 触 ・ 融 合 を 遂 げ た の か 、 と い う 具 体 像 を 描 き 出 す ま で に は 至 っ て い な い 。 さ ら に は 、 両 集 団 の 接 触 ・ 融 合 と い う 側 面 に 議 論 が 集 中 す る 反 面 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 生 計 戦 略 が 変 容 し た 要 因 を は じ め 究 明 す べ き 課 題 が 山 積 さ れ て い る 。
以 上 の よ う な 課 題 を 踏 ま え 、本 論 で は 、道 東 部 に お け る オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の「 接 触 様 式 」・「 融 合 型 式 」 と さ れ る ト ビ ニ タ イ 文 化 を 対 象 と し 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 擦 文 文 化 へ の 同 化 ・ 吸 収 が 生 起 し た 要 因 の 追 究 に つ と め る 。 と り わ け 、 本 論 で は 、 両 集 団 間 に 形 成 さ れ て い た 集 団 間 関 係 を 描 出 す る と と も に 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 生 計 戦 略 の 変 容 と い う 観 点 か ら 検 討 を 加 え る こ と に よ っ て 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 歴 史 事 象 の す べ て が 、 擦 文 文 化 集 団 と の 接 触 ・ 融 合 だ け で 説 明 さ れ う る の か 否 か 、 そ う で な け れ ば 他 に ど ん な 要 因 が 働 い て い た の か 、 と い う 問 い を 解 明 し て ゆ く 。
具 体 的 に は 、 ま ず 、 こ れ ま で の ト ビ ニ タ イ 文 化 研 究 を 再 検 討 し 、 な に が 何 処 ま で 明 ら か に さ れ 、 ど の よ う な 課 題 が 遺 さ れ て い る の か を 概 観 す る 。 こ こ で は 、 筆 者 自 身 に よ る 研 究 成 果 を 交 え 、 本 論 の 目 的 に 絡 む 研 究 史 の 整 理 に つ と め る 。 次 い で 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 要 素 を 併 せ 備 え る 考 古 資 料 の 分 析 、 検 討 を 通 し て 、 道 東 部 に お け る オ ホ ー ツ ク 文 化 の 後 裔 で あ る ト ビ ニ タ イ 土 器 製 作 集 団 と 擦 文 文 化 集 団 が 接 触 ・ 融 合 を 果 た し た 社 会 状 況 の 解 明 を 試 み る 。 と く に 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 担 っ て い た の が 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 ど ち ら の 出 自 集 団 が 主 体 で あ っ た の か 、 を 議 論 の 焦 点 と す る 。 そ の 上 で 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 生 計 戦 略 の 復 元 を 試 み る な か か ら 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と の 差 異 や 擦 文 文 化 か ら の 影 響 に つ い て の 地 域 的 、 時 間 的 な 変 遷 を 明 ら か に す る 。 こ れ ら の 検 討 か ら 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 生 計 戦 略 の 成 立 に 関 わ る 諸 要 素 を 包 括 的 に 読 み 解 く こ と に よ っ て 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 が 擦 文 文 化 に 同 化 ・ 吸 収 さ れ て ゆ く プ ロ セ ス の 背 景 に 控 え る 歴 史 的 要 因 に つ い て 仮 説 を 提 起 す る 。
な お 、 こ こ で い う 歴 史 的 要 因 と は 、 社 会 ・ 文 化 的 側 面 の み な ら ず 、 自 然 環 境 の 変 動 な ど も 含 意 し て い る 。 こ の た め 、 本 論 は 、 第 一 意 義 的 に は 考 古 資 料 を 対 象 と し た 分 析 に も と づ く も の で あ る が 、 関 連 す る 事 項 に お い て 隣 接 科 学 の 研 究 成 果 、 デ ー タ な ど を 積 極 的 に 参 照 す る 。 も っ と も 、 そ れ ら を 無 批 判 に 利 用 す る の で は な く 、 あ く ま で も 異 な る 研 究 対 象 、 方 法 、 理 論 か ら 導 か れ た 仮 説 な い し は 問 題 提 起 と し て 留 保 し た 上 で 、 考 古 資 料 を 対 象 と し た 先 史 人 類 学 的 研 究 に よ る 検 証 に つ と め る 。 む し ろ 、 こ う し た 立 場 を 採 る に よ っ て 、 他 分 野 の 研 究 成 果 、 デ ー タ の 相 互 検 証 を 試 み る 。
ト ビ ニ タ イ 文 化 研 究 は 、 従 来 、 そ の 特 異 な キ ャ ラ ク タ ー ゆ え に 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 集 団 間 関 係 に の み 議 論 が 集 中 し て き た 、 と い っ て も 過 言 で は な い 。 す で に 指 摘 し た よ う に 、 本 論 も ま た 、 異 な る 適 応 戦 略 を 保 持 す る 異 系 統 集 団 の 接 触 ・ 融 合 に 関 す る ひ と つ の ケ ー ス ス タ デ ィ と な る だ ろ う 。 だ が 、 こ こ で の 目 的 は 、 異 系 統 集 団 の 集 団 間 関 係 を 叙 述 す る こ と に あ る の で は な く 、 あ く ま で も 、 両 集 団 の 接 触 ・ 融 合 が 生 起 し た 歴 史 的 要 因 の 解 明 で あ る 。 こ の よ う な 目 的 の 下 、 本 論 で は 、 環 境 変 動 を も 含 ん だ 、 古 代 末 か ら 中 世 併 行 期 初 頭 に か け て の 歴 史 的 イ ベ ン ト を 視 野 に 入 れ な が ら 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 事 象 を 読 み 解 く こ と に よ っ て 、 北 東 ア ジ ア の 一 地 域 で あ る 北 海 道 に 生 起 し た 人 類 史 と し て 理 解 す る と 同 時 に 、 ア イ ヌ の 人 々 の 歴 史 に お い て 果 た し た 意 義 や 役 割 を 追 究 す る 。
第 一 章 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 研 究 意 義
Ⅰ . 問 題 の 所 在 と 本 論 の 射 程
1 . 問 題 の 所 在
北 海 道 東 部 地 域 の み に 分 布 が 限 ら れ る に も 関 わ ら ず 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、 北 東 ア ジ ア 地 域 や 日 本 列 島 北 部 地 域 を 対 象 と し た 先 史 時 代 研 究 に お け る 、 ひ と つ の 主 要 な 研 究 対 象 と し て 注 目 を 集 め て き た 。 と い う の も 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、 異 系 統 出 自 で あ り な が ら 古 代 末 か ら 中 世 併 行 期 初 頭 の 北 海 道 に 併 存 し て い た 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 集 団 と 擦 文 文 化 集 団 の 接 触 ・ 融 合 を 顕 す も の と し て 調 査・研 究 が な さ れ て き た た め で あ る 。加 え て 、ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、
「 中 世 ア イ ヌ 期 」
1)
の 直 前 の 時 期 に 位 置 づ け ら れ る こ と か ら 、古 代 末 か ら 中 世 併 行 期 以 降 の 北 海 道 を 中 心 と す る 日 本 列 島 北 部 地 域 の 社 会 形 成 を 解 明 す る 上 で 、 研 究 領 域 の 枠 を 超 え た テ ー マ と し て 探 究 す べ き 問 題 を 孕 ん で い る 。
以 上 を 考 慮 に 入 れ 、 こ こ で は 、 ま ず 本 論 と の 関 連 に お い て 把 握 す べ き 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 わ る 研 究 上 の 課 題 を 提 起 す る 。 と と も に 、 本 論 の な か で 取 り 上 げ る 、 主 要 な 検 討 対 象 に つ い て 、 現 在 ま で の 研 究 成 果 を 踏 ま え 若 干 の 概 念 的 な 整 理 を 試 み る 。 こ れ に よ り 、 本 論 に お い て 、 な に が 問 題 と さ れ 、 ど の よ う な 目 的 や 意 図 か ら 分 析 ・ 検 討 が な さ れ よ う と し て い る か を 明 瞭 に し 、 以 後 の 議 論 の 方 向 性 を し め し て お く 。
は じ め に 、 本 論 で は 、 特 定 の 研 究 者 に よ っ て 概 念 規 定 さ れ た 用 語 を 引 用 す る ケ ー ス を 除 き 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 接 触 ・ 融 合 に よ っ て 生 起 し た と さ れ る 、 道 東 部 に お け る 一 群 の 資 料 を 、 一 貫 し て ト ビ ニ タ イ 文 化 と 表 記 す る 。 だ が 、 今 後 繰 り 返 し 提 起 す る よ う に 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 概 念 規 定 す る た め に は 、 解 消 し な け れ ば な ら な い 問 題 が 存 在 し て い る 。 ま た 、 結 論 を 先 取 り す る な ら ば 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 概 念 規 定 に 関 わ る 問 題 の 解 消 こ そ が 、 本 論 に お け る 主 要 課 題 の ひ と つ と い え る 。
ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う タ ー ム を 最 初 に 使 用 し た の は 、 考 古 学 者 の 藤 本 強 で あ る [ 藤 本 1979a]。 も っ と も 、 後 述 す る 研 究 史 の 概 観 に お い て も 示 唆 す る よ う に 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 相 当 す る 考 古 資 料 の 存 在 は 、藤 本 に よ る 提 唱 以 前 か ら 、数 多 く の 研 究 者 に よ っ て 認 知 さ れ 、
少 な か ら ず 調 査 ・ 研 究 が な さ れ て い た [e.g. 石附 1969;大井 1970;菊池 1972]。 た だ 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 が 提 唱 さ れ る ま で は 、「 接 触 様 式 」 や 「 融 合 型 式 」
2)
を 始 め と す る 様 々 な 呼 称 が 不 統 一 な ま ま 流 布 し て い た 。 こ の よ う な 背 景 も あ り 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 明 示 的 な 呼 称 が 受 け 入 れ ら れ 、 急 速 に 研 究 者 の 間 で 使 用 さ れ 定 着 し た の で あ る 。
と こ ろ で 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 提 唱 す る に 当 た り 、 藤 本 は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と の 対 比 に お い て 、 遺 物 や 遺 構 な ど の 内 容 か ら 「 社 会 ・ 文 化 の 根 幹 に お け る 部 分 に お い て も 大 き く 異 な っ て い る 」と 推 測 さ れ る た め 、「 同 一 文 化 と し て 取 り 扱 い え な い 」と の 判 断 を 下 す と と も に 、
「 擦 文 文 化 か ら の 要 素 は き わ め て 稀 薄 で あ る 」 と 指 摘 し 、 擦 文 文 化 の 影 響 を 過 大 に 捉 え る こ と を 戒 め て い る[ 藤 本 1979a:23]。こ う し た 判 断・評 価 に 依 拠 し 、藤 本 は 、ト ビ ニ タ イ 文 化 な る 呼 称 を 使 用 し た の で あ る 。
し か し な が ら 、 現 在 使 用 さ れ て い る ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、 藤 本 の 概 念 規 定 に 従 っ た テ ク ニ カ ル タ ー ム と し て 定 着 し て い る わ け で は な い 。 む し ろ 、 現 在 の 一 般 的 な 使 わ れ 方 は 、 多 分 に 提 唱 者 の 意 図 に 反 し た も の と な っ て い る 。 結 局 の と こ ろ 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、 道 東 部 に お け る オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 接 触 ・ 融 合 を 窺 わ せ る 、 一 群 の 資 料 あ る い は 個 別 の 資 料 に 対 し て 用 い ら れ て い る に 過 ぎ な い 、 と い う の が 実 情 で あ る 。
さ ら に 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 評 価 に つ い て も 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 終 末 期 の 様 相 と 捉 え る も の [ 大 井 1970]、 擦 文 文 化 の 一 形 態 と み な す も の [ 山 浦 1983;澤井 1992]、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と も 擦 文 文 化 と も 異 な る 独 自 の 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス と 位 置 づ け る も の [ 藤 本 1979a]、 な ど と い っ た 相 異 な る 見 解 が 未 解 消 の ま ま 存 立 し て い る 。 ま た 、 こ の 背 景 に は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 成 立 を 、 擦 文 文 化 に よ る オ ホ ー ツ ク 文 化 の 同 化 ・ 吸 収 と い う 外 的 要 因 に
求 め る 説[ 大 井 1970]と、オホーツク文化の生業システムの崩壊という内的要因に求める
説 [ 藤 本 1979a]が介在している。したがって、現在存立しているトビニタイ文化の評価
は 、 そ の 成 立 を ど う 考 え る の か 、 ま た 考 古 資 料 の 総 体 と し て 構 築 し た 先 史 文 化 を ど の よ う な も の と し て 判 断 す る の か 、 と い う レ ベ ル や 判 断 基 準 を 異 に す る 問 題 が 複 雑 に 絡 み 合 っ た 様 相 を 呈 し て い る 。
上 記 の 問 題 を 解 消 す る た め に は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と さ れ る 考 古 資 料 の 分 析 ・ 検 討 を お こ な う こ と に よ っ て 、 そ の 性 格 や 内 容 を 明 ら か に す る こ と が 必 須 と な る だ ろ う 。 詳 細 は 項 を 改 め て 述 べ る が 、 具 体 的 な 課 題 と し て 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 が 成 立 、 展 開 し た 要 因 の 解 明 を 射 程 に 入 れ 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 接 触 ・ 融 合 に お け る 集 団 間 関 係 や 生 存 基 盤 と な る 生 計 戦 略 な ど の 究 明 が 想 定 さ れ る 。 い ず れ に せ よ 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 具 体 像 を 解 明 す る な
か か ら 、 既 存 の 見 解 が 依 拠 し て き た 論 拠 や 想 定 を 検 証 す る こ と の み が 、 相 対 立 す る 評 価 を 解 消 す る た め の 唯 一 の 選 択 肢 で あ る 、 と い っ て も 過 言 で は な い だ ろ う 。
い っ ぽ う 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 わ る 研 究 課 題 と し て 、 列 島 史 や 北 東 ア ジ ア 史 な ど の 枠 組 み に 位 置 づ け 、 歴 史 事 象 と し て 読 み 解 こ う と す る 試 み が 乏 し か っ た 、 と い う 傾 向 が 指 摘 で き る 。 こ れ ま で の ト ビ ニ タ イ 文 化 像 は 、 と も す れ ば 従 来 型 の 「 狩 猟 採 集 民 社 会 」 を イ メ ー ジ さ せ る よ う な 、 先 史 文 化 と し て 描 か れ て い た 感 が 否 め な い 。 だ が 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 が 展 開 し た の は 、 更 新 世 の 旧 石 器 時 代 や 完 新 世 初 頭 の 縄 文 時 代 な ど で は な く 、 周 辺 を 「 国 家 」 を 始 め と す る 政 治 勢 力 に 取 り 囲 ま れ る と と も に 、 中 国 大 陸 と 日 本 列 島 を 取 り 結 ぶ 商 品 経 済 の ネ ッ ト ワ ー ク が 確 立 し つ つ あ っ た 、 古 代 末 か ら 中 世 初 頭 に か け て の 時 期 で あ る 。 こ う し た 時 代 状 況 を 無 視 し て 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 列 島 史 や 北 東 ア ジ ア 史 の な か に 位 置 づ け る こ と な ど 、 今 日 の 研 究 動 向 を 勘 案 す る 限 り ほ と ん ど 不 可 能 で あ る 。
実 際 、1990 年代以降、文献史学を中心に、古代から近世までの北海道を含む日本列島北
部 地 域 の 社 会 形 成 を 、 列 島 史 の み な ら ず 北 東 ア ジ ア 史 の 枠 組 み の な か で 読 み 直 し て ゆ こ う と す る 研 究 が 積 極 的 に 推 進 さ れ て い る 。 加 え て 、 そ こ で は 、 従 来 、 文 献 史 学 の 枠 外 と さ れ て き た 、 人 類 学 や 考 古 学 な ど に お け る 研 究 成 果 に つ い て も 位 置 づ け が な さ れ る よ う に な っ て き た[e.g. 菊池 1994;関口 1992;鈴木靖民 1996;簑島 2001]。他 方 、こ う し た 文 献 史 学 の 潮 流 と 連 動 す る よ う に 、 人 類 学 や 考 古 学 に お い て も 、 文 献 史 学 の 研 究 成 果 を 参 照 し 、 自 ら の 研 究 領 域 の 分 析 、検 討 、解 釈 に 援 用 し よ う と す る 試 み が 少 な か ら ず 提 起 さ れ て い る[e.g. 工 藤 1992;大塚 1995;佐々木 1996;大井 2004]。
そ う い っ た 意 味 で 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 す る 研 究 は 、 今 日 の 歴 史 学 や 人 類 学 の 研 究 動 向 か ら 取 り 残 さ れ て し ま っ て い る 。 た だ 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と 不 可 分 の 関 係 に あ る 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 を 対 象 と し た 研 究 に 目 を 転 じ れ ば 、 本 州 や 大 陸 と の 関 連 は 重 要 な 課 題 と し て 注 目 さ れ て い る 。
と り わ け 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 は 、 大 陸 部 や 本 州 に 由 来 す る ― と 想 定 さ れ る ― 遺 物 な ど が 認 め ら れ る こ と か ら 、 本 格 的 な 研 究 が 開 始 さ れ た 初 期 の 段 階 か ら 、 周 辺 地 域 と の 具 体 的 な 交 流 関 係 の あ り 方 に 関 す る 論 議 が な さ れ て き た [ 米 村 1935;稲生 1936;名取 1948;駒 井 1948]。 そ の 後 も 、 大 陸 部 や 本 州 と の 関 係 は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 研 究 に お け る 主 要 な ト ピ ッ ク と し て 、様 々 な 研 究 者 に よ っ て 多 数 の 論 考 が 提 起 さ れ て ゆ く[e.g. 大塚ほか 1975;加 藤 1975;天野 1977;1978a;菊池 1979a]。 な か で も 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 資 料 を 大 陸 側 の 考 古 資 料 や 文 献 史 料 と 比 較 検 討 し た 、 菊 池 俊 彦 な ど の 研 究 に よ っ て 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 大 陸
部 と の 直 接 的 な 関 係 が 明 ら か に な っ て き た [ 菊 池 1995;2004]。 ま た 、 近 年 で は 、 既 存 の 成 果 を 踏 ま え つ つ 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 に 認 め ら れ る 大 陸 製 品 の 供 給 地 や 移 入 ル ー ト の 解 明 な ど が 試 み ら れ て い る [e.g. 山田ほか 1995;高畠 1998;臼杵 2000]。
こ れ に 対 し て 、 擦 文 文 化 を 対 象 と し た 研 究 で は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 ほ ど 周 辺 地 域 と の 関 係 が 積 極 的 に 論 議 さ れ て き た わ け で は な か っ た 。だ が 、1990 年代に入り、前述の文献史学を 中 心 と し た 潮 流 に 呼 応 す る か た ち で 、 東 北 地 方 以 南 の 本 州 に お け る 古 代 末 か ら 中 世 に か け て の 政 治 体 制 の 変 動 や 商 品 経 済 の 確 立 を 視 野 に 入 れ 、 擦 文 文 化 の 成 立 か ら 展 開 さ ら に 終 末 ま で を 読 み 解 い て い こ う と す る 研 究 が 、 一 躍 、 中 心 的 な 課 題 と し て 推 進 さ れ る よ う に な る
[e.g. 鈴木 1994;2003;越田 1996;山浦 2000]。 現 在 、 こ の 種 の 研 究 は 、 瀬 川 拓 郎 な ど が 精 力 的 に 論 考 を 発 表 し て い る [ 瀬 川 1996a;1996b;1997;1999]。
以 上 の よ う に 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 を 対 象 と し た 研 究 で は 、 大 陸 部 や 本 州 な ど の 周 辺 地 域 の 社 会 的 ・ 歴 史 的 動 向 を 踏 ま え つ つ 、 具 体 的 な 交 流 関 係 の あ り 方 が 追 究 さ れ て き た 。 だ が 注 意 す べ き は 、 ど れ ほ ど 具 体 的 に 交 流 の あ り 方 を 明 ら か に し た と し て も 、 そ れ の み で は 、 考 古 資 料 か ら 導 か れ る 現 象 面 を 跡 づ け て い る に 過 ぎ ず 、 必 ず し も 本 来 目 的 と す べ き 対 象 そ の も の の 理 解 を 深 め る と は 限 ら な い 、 と い う 点 で あ る 。 さ ら に は 、 そ う し た 結 果 を 、 た だ 列 島 史 や 北 東 ア ジ ア 史 な ど の 巨 視 的 な 展 開 の な か に 位 置 づ け て も 、 結 局 は 既 存 の 理 解 の 枠 組 み に 回 収 さ れ て し ま う 危 険 性 が 高 い 。
こ の 問 題 と の 関 連 で 注 目 す べ き も の と し て 、大 塚 和 義 に よ る 議 論 が あ げ ら れ る 。大 塚 は 、 一 連 の 論 考 の な か で 、 本 州 や 大 陸 部 の 政 治 的 ・ 経 済 的 な 動 向 を 視 野 に 入 れ つ つ オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 を 論 じ る な か で 、 単 に 周 辺 地 域 と の 関 係 性 を 指 摘 す る だ け で な く 、 そ れ ぞ れ の 社 会 組 織 や 集 団 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ な ど が 形 成 ・ 再 生 産 さ れ た 可 能 性 を 示 唆 し て い る
[ 大 塚 1992;1993;2002]3)。さ ら に 、大 塚 は 、こ れ ら の 議 論 を も と に 、ア イ ヌ の 人 々 の 文 化 や 歴 史 に お い て 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 が 果 た し た 役 割 や 意 義 に つ い て も 論 究 し て い る [ 大 塚 1992:319-322;1993:59;2002:64-69]。
こ う し た 大 塚 の 提 言 を 踏 ま え る な ら ば 、 大 陸 部 や 本 州 な ど と の 交 流 関 係 が 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 そ れ ぞ れ の 社 会 や 集 団 に 対 し て 、 い か な る 意 義 や 役 割 を 果 た し 、 ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ し た の か 、 そ し て そ れ が ト ビ ニ タ イ 文 化 の 成 立 、 展 開 に ど う 関 連 す る の か 、 な ど が 究 明 す べ き 問 題 と な る だ ろ う 。 こ れ ら の 問 題 を 究 明 す る こ と は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 が 成 立 、 展 開 し た 要 因 を 、 列 島 史 や 北 東 ア ジ ア 史 の な か で 読 み 解 く こ と に 繋 が る と と も に 、 ひ い て は ア イ ヌ の 人 々 の 歴 史 に 位 置 づ け る 糸 口 と も な る だ ろ う 。こ の よ う な 問 題 意 識 の 下 、
本 論 で は 、 周 辺 地 域 の 歴 史 的 コ ン テ ク ス ト に 位 置 づ け な が ら 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 性 格 や 歴 史 的 意 義 の 追 究 を 試 み る 。
2 . 本 論 の 射 程
こ こ で は 、 前 述 の 問 題 提 起 に も と づ き 、 本 論 に お い て 議 論 す る 主 要 な 検 討 課 題 を し め す と と も に 最 終 的 な 目 的 を 提 示 す る 。 ま た 併 せ て 、 本 論 で 取 り 扱 う 資 料 や デ ー タ お よ び 方 法 論 的 な 立 場 に つ い て 説 明 を 加 え る 。
本 論 で 主 要 な 対 象 と す る ト ビ ニ タ イ 文 化 は 、 あ く ま で も 考 古 資 料 に よ っ て 構 築 さ れ た 概 念 で あ る 。 ま た 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 す る 研 究 は 、 こ れ ま で 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 が 中 心 と な っ て 推 進 さ れ て き た 。 こ の た め 、 本 論 で も 、 考 古 資 料 を 第 一 義 的 な 分 析 ・ 検 討 の 対 象 と す る 。 だ が 、 こ れ は 、 決 し て 、 考 古 資 料 の 分 析 ・ 検 討 の み に 議 論 を 終 始 す る こ と を 意 味 し て い る わ け で は な い 。
本 論 の 目 的 を 一 言 で 述 べ る な ら ば 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と さ れ る 歴 史 事 象 を 担 っ た 人 々 の 営 み を 、生 態 史 的
4)
・ 文 化 史 的 な モ ノ グ ラ フ と し て 描 出 す る こ と で あ る 。 そ れ ゆ え 、 本 論 で は 、 考 古 資 料 か ら 導 か れ た 一 次 的 な デ ー タ の 検 証 や 解 釈 に お い て 、 可 能 な 限 り 隣 接 領 域 の デ ー タ や 研 究 成 果 の 参 照 を 試 み る 。 と く に 、 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 で は 明 ら か に す る こ と が 困 難 な 、 当 時 の 生 態 環 境 や 周 辺 地 域 の 政 治 的 社 会 的 状 況 に 関 す る 、 環 境 科 学 ・ 第 四 紀 学 の デ ー タ や 文 献 史 学 の 成 果 な ど を 解 釈 に 導 入 し 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 歴 史 事 象 に ア プ ロ ー チ す る 。
上 記 の よ う な 主 題 と な る 目 的 に 対 し 、 本 論 で は 、 以 下 の よ う な 検 討 課 題 を 中 心 に 議 論 を 進 め て ゆ く 。 ま ず 取 り 組 む べ き 主 要 な 課 題 と し て 、 相 互 に 背 反 す る ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 評 価 の 解 消 が あ げ ら れ る 。
ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 評 価 は 、 前 掲 の 「 問 題 の 所 在 」 に お い て も 指 摘 し た よ う に 、 そ れ ぞ れ の 議 論 に お け る 判 断 レ ベ ル に 齟 齬 が 認 め ら れ る も の で あ っ た 。 だ が 、 ど れ ほ ど 齟 齬 を 明 ら か に し 、 そ れ ら を 並 べ 立 て た と し て も 、 た だ 判 断 基 準 の 違 い を 指 摘 し て い る に 過 ぎ な い な ら ば 、 結 局 は 議 論 が 噛 み 合 わ な い ま ま 平 行 線 を 辿 る 危 険 が 少 な く な い 。 む し ろ 、 そ う し た 齟 齬 を 解 消 す る た め に は 、 そ れ ぞ れ の 評 価 を 下 す 論 拠 と さ れ た 、 資 料 や デ ー タ の 側 こ そ を 検 証 す べ き だ ろ う 。 つ ま り 、 既 存 の 対 立 を 解 消 す る た め に 最 も 求 め ら れ て い る こ と は 、 概 念 的 な 判 断 基 準 の 齟 齬 を 暴 き 立 て る こ と で は な く 、 資 料 や デ ー タ の 分 析 ・ 検 討 か ら ト ビ ニ タ イ 文 化 の 性 格 を 把 握 し た 上 で 、 改 め て 個 々 の 評 価 が 妥 当 で あ る か 否 か 判 断 す る こ
と で あ る 。
そ こ で 問 題 と な る の が 、 考 古 資 料 や デ ー タ か ら 導 き 出 す べ き 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 性 格 で あ る 。 と い う の は 、 ど れ ほ ど ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 わ る 資 料 や デ ー タ を 検 討 し た と し て も 、 問 題 設 定 ― す な わ ち 究 明 す べ き 「 性 格 」 の 内 容 ― が な か っ た な ら ば 、 な ん ら 意 義 の あ る も の と は な ら な い か ら で あ る 。
こ う し た こ と を 考 慮 し 、 本 論 で は 、 ま ず ト ビ ニ タ イ 文 化 を 担 っ た 集 団 が 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 ど ち ら の 系 譜 に 位 置 づ け ら れ る 人 々 で あ っ た の か 解 明 を 試 み る 。こ の 試 み は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 集 団 や 擦 文 文 化 集 団 と の 系 譜 関 係 の 把 握 を 目 的 と し 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 担 っ て い た 集 団 の 出 自 系 統 や 構 成 を 追 究 す る も の で あ る 。 ま た 、 こ こ で は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の ど ち ら の 出 自 系 統 が 多 か っ た の か 、 と い う 単 純 な 量 的 評 価 よ り も 、 い ず れ の 出 自 系 統 に 属 す る 人 物 が ト ビ ニ タ イ 文 化 の 主 体 的 な 担 い 手 で あ っ た の か 、 と い う 質 的 な 評 価 に つ い て の 理 解 に つ と め る 。
ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 既 存 の 評 価 は 、 総 体 と し て の 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス (cultural complex)の系譜を問題としてきた反面、どちらの出自系統の集団が担っていたのか、また
仮 に 二 つ の 出 自 系 統 の 集 団 に よ っ て 構 成 さ れ て い た の な ら ば 、 ど れ ぐ ら い の 比 率 で ど ち ら が 主 体 的 に 担 っ て い た の か 、 な ど と い っ た 系 譜 関 係 を 考 え る 上 で 不 可 欠 と な る 、 担 い 手 に 関 わ る 問 い に 十 分 な 回 答 を 提 示 し て こ な か っ た 。 そ れ ゆ え 、 上 記 の 課 題 は 、 既 存 の 評 価 が 看 過 し て き た 問 い を 補 完 す る と 同 時 に 、 そ れ ら 自 体 の 妥 当 性 を 問 う た め の 判 断 材 料 と も な る 。 さ ら に 付 言 す る な ら ば 、 こ の 課 題 の 論 究 は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 成 立 、 展 開 の 考 察 に お い て 不 可 欠 と さ れ る 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 接 触 ・ 融 合 な ど の 集 団 間 関 係 の 理 解 に も 繋 が る も の で あ る 。
次 い で 課 題 と す る の は 、 生 業 活 動 を 中 心 と す る 生 計 戦 略 の 解 明 で あ る 。 こ れ も 、 既 存 の 評 価 が 十 分 に 検 討 し て こ な か っ た 側 面 で あ る 。 生 計 戦 略 は 、 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 に お い て 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス を 設 定 、規 定 す る 上 で 、最 も 重 要 視 さ れ る 要 素 の ひ と つ で あ る
5)
。に も か か わ ら ず 、ト ビ ニ タ イ 文 化 の 生 計 戦 略 に つ い て は 、藤 本 強 の 論 考[ 藤 本 1979a]以降、 わ ず か な 論 考 に お い て 部 分 的 な 言 及 が 認 め ら れ る[ 椙 田 1992;澤井 1992]程度で、本格的 な 究 明 が な さ れ て こ な か っ た 。 他 方 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 形 成 に 関 与 し た と さ れ る 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 生 計 戦 略 に は 、 相 当 な 違 い が あ っ た と 想 定 さ れ て い る [cf. 大 井 1988;藤本 1982]。
上 記 の こ と を 考 慮 す る な ら ば 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 生 計 戦 略 を 解 明 す る と と も に 、 オ ホ ー
ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 と 比 較 検 討 す る こ と に よ っ て 、 そ の 生 計 戦 略 が ど ち ら の 系 譜 に 位 置 づ け う る か 考 察 を 加 え る こ と が 求 め ら れ る だ ろ う 。 こ れ も ま た 、 既 存 の ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 評 価 を 再 考 す る 上 で 、 必 須 の 課 題 で あ る と い え る 。
以 上 、 こ こ ま で に 提 起 し た 二 つ の 課 題 は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 対 す る 既 存 の 評 価 に 関 わ る 課 題 と 直 接 関 連 す る も の で あ っ た 。 と は い え 、 対 象 と す る 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス の 担 い 手 で あ る 集 団 の 出 自 系 統 や 生 業 活 動 な ど 基 盤 と な る 生 計 戦 略 を 追 究 す る こ と は 、 そ の 性 格 を 明 ら か に す る た め の 至 極 一 般 的 な 問 題 設 定 と い え よ う 。 本 論 に お い て も 、 こ れ ら 二 つ の 課 題 の 第 一 義 的 な 目 的 は 、 既 存 の 相 対 立 す る 評 価 の 解 消 で は な く 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と さ れ る 、 考 古 資 料 か ら 構 築 さ れ た 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス の 性 格 の 把 握 に こ そ あ り 、 そ の 逆 で は な い こ と を 付 言 し て お く 。
こ の よ う に 、 本 論 で は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 集 団 と 擦 文 文 化 集 団 ど ち ら が 接 触 ・ 融 合 に 主 体 的 な 役 割 を 担 っ た の か 、 ま た 基 盤 と な っ た 生 計 戦 略 は い か な る も の で あ っ た の か 、 と い う 二 つ の 課 題 の 追 究 を 通 し て ト ビ ニ タ イ 文 化 の 性 格 の 把 握 を 試 み る 。 そ の 上 で 、 最 後 に 課 題 と す る の が 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 歴 史 事 象 を 、 生 態 環 境 か ら 社 会 ・ 文 化 的 要 因 ま で を 含 め た 歴 史 的 コ ン テ ク ス ト に 位 置 づ け 読 み 解 く こ と で あ る 。
と こ ろ で 、 本 論 に お い て 第 一 義 的 な 検 討 対 象 と す る 、 考 古 遺 物 と は 、 人 間 活 動 の 物 象 化 さ れ た 痕 跡 に ほ か な ら な い 。 で あ る な ら ば 、 そ こ か ら 直 接 的 に 導 き 出 さ れ る 情 報 は 、 堆 積 後 の 自 然 的 営 為 に 起 因 す る も の を 除 く と 、 あ く ま で も 遺 物 、 遺 構 、 遺 跡 を 形 成 し 廃 棄 し た 人 間 の 活 動 と な る 。 こ う し た 活 動 は 、 な ん ら か の 歴 史 叙 述 に 位 置 づ け ら れ る 以 前 の 、 一 過 的 な 出 来 事 に 過 ぎ ず 、 そ の 逆 で は な い
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。 む し ろ 、 人 間 の 歴 史 と は 、 す べ か ら く 、 一 過 的 で あ る 様 々 な 活 動 が 累 積 し た 結 果 を 、 あ る 観 点 か ら 意 味 づ け た も の と い え る 。
以 上 を 考 慮 に 入 れ 、 本 論 で は 、 生 態 環 境 や 周 辺 地 域 の 政 治 社 会 的 状 況 な ど の 歴 史 的 動 向 が 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 を 担 っ た 人 々 の 活 動 に 対 し て 、 い か な る 影 響 を 及 ぼ し た か 、 と い う 問 い を 中 心 に 論 じ る こ と と す る 。 こ の 選 択 は 、 考 古 資 料 や デ ー タ か ら 読 み 解 い た 成 果 を 、 安 易 に 既 知 の 歴 史 叙 述 の 流 れ の な か に 当 て 嵌 め 、 そ こ に 合 う 都 合 の 良 い 解 釈 に 陥 る こ と の 回 避 を 目 的 と し て い る 。 と い う の は 、 こ う し た 解 釈 は 、 往 々 に し て 、 考 古 資 料 で は 検 証 で き な い も の と な る 傾 向 が 窺 え る か ら で あ る 。
も っ と も 、 本 論 に お い て 、 考 古 資 料 以 外 の 資 料 ・ デ ー タ を 用 い た 考 察 な ど を 、 一 切 お こ な わ な い と い う わ け で は な い 。 た だ 、 そ の 場 合 、 ど こ ま で が 考 古 資 料 の 分 析 ・ 検 討 に も と づ く も の で 、 ど こ か ら が 考 古 資 料 で は 検 証 で き な い 推 測 を 含 む も の な の か 、 を で き る 限 り
明 示 す る 。 さ ら に 、 直 接 的 に は 検 証 で き な い と し て も 、 間 接 的 で あ れ 考 古 資 料 に よ る 検 証 の 可 能 性 を 確 保 す る よ う に つ と め る 。
上 記 の 方 法 論 的 立 場 に 立 脚 し つ つ 、 本 論 で は 、 考 古 資 料 を 遺 し た 人 間 活 動 を 分 析 ・ 検 討 の 主 軸 と し 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 の 成 立 、 展 開 に 当 時 の 生 態 環 境 や 周 辺 地 域 の 政 治 社 会 的 状 況 が 、 ど の よ う な 影 響 を 直 接 的 ・ 間 接 的 に 及 ぼ し て い た の か 、 を 読 み 解 い て ゆ く 。 と く に 、 そ こ で は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 と 擦 文 文 化 の 接 触 ・ 融 合 や 生 計 戦 略 の 成 立 な ど の 要 因 と の 関 連 に つ い て 分 析 ・ 検 討 を 加 え る 。 こ う し た 分 析 ・ 検 討 を 通 し て 、 本 論 で は 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 と い う 歴 史 事 象 を 、 北 東 ア ジ ア の 一 地 域 で あ る 北 海 道 に 生 起 し た 人 類 史 と し て 理 解 す る と 同 時 に 、ア イ ヌ の 人 々 の 文 化 や 歴 史
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の な か に 位 置 づ け 、そ の 歴 史 的 意 義 を 最 終 的 に 提 起 す る 。
Ⅱ . 研 究 史 の 回 顧 と 課 題 の 把 握
1 . 研 究 前 史
本 論 の 目 的 や 意 図 を 明 確 に す る た め 、 前 節 で は 、 研 究 史 的 な 文 脈 を 一 旦 捨 象 し 、 問 題 点 の 大 枠 を 提 起 し た 。 た だ 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 連 す る 調 査 ・ 研 究 は 、 研 究 者 人 口 が 限 ら れ て い る こ と か ら 十 分 な 数 と は い え な い ま で も 、 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 を 中 心 に ま と ま っ た 論 考 や 報 告 が 継 続 的 に 提 起 さ れ て い る 。 ま た 、 内 容 的 に も 、 個 別 資 料 の 分 析 事 例 か ら 全 体 像 を 描 き 出 そ う と し た 論 考 に 至 る ま で 、 比 較 的 バ ラ エ テ ィ に 富 ん で い る 。
こ う し た こ と を 考 慮 し 、 以 下 で は 、 研 究 史 を 概 観 し 、 ト ビ ニ タ イ 文 化 に 関 す る 研 究 の 展 開 を 辿 る な か か ら 、 改 め て 、 な に が ど こ ま で 明 に さ れ 、 ど の よ う な 課 題 が 存 在 し て い る か を 提 示 す る 。 ま た 、 そ う し た 研 究 を 支 え た 背 景 に つ い て も 理 解 す べ く 、 北 海 道 に お け る 先 史 時 代 研 究 の 黎 明 期 か ら 検 討 を 始 め る こ と に よ っ て 、 前 節 で 十 分 に 論 じ る こ と が で き な か っ た オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 に つ い て も 言 及 す る 。
( 1 ) 北 海 道 に お け る 先 史 時 代 研 究 の 黎 明
北 海 道 を 中 心 と す る 日 本 列 島 北 部 地 域 に お け る 先 史 時 代 研 究 は 、 近 代 的 な 科 学 と し て の 人 類 学 ・ 考 古 学 の 導 入 と と も に 開 始 さ れ た 。 黎 明 期 の 人 類 学 ・ 考 古 学 が 、 北 海 道 と そ の 周 辺 地 域 の 研 究 に 向 か っ た 理 由 は 、 近 代 国 民 国 家 と し て の 「 日 本 」 に お い て 、 歴 史 的 、 社 会 的 に 「 他 者 」 と し て 位 置 づ け ら れ て い た 、 ア イ ヌ の 人 々 の 存 在 が 大 き か っ た こ と は い う ま で も な い 。 さ ら に 、「 日 本 人 」 の 起 源 に 関 わ る 「 人 種 ・ 民 族 論 争 」[ 寺 田 1975:43-61;工藤
1979]に拘泥していった黎明期の人類学・考古学にとって、アイヌの人々と文化が存立す
る 北 海 道 と そ の 周 辺 地 域 は 、 単 な る 日 本 列 島 の 一 地 域 で は な く 、 最 も 重 要 な 研 究 対 象 の ひ と つ で あ っ た 、 と い っ て も 過 言 で は な い 。
こ う し た 傾 向 は 、 そ の 後 も 、 北 海 道 を 含 む 北 方 地 域 の 先 史 時 代 研 究 の な か で 受 け 継 が れ て い っ た 。 実 際 、 現 在 に お い て も 、 ア イ ヌ の 人 々 の 形 質 的 ・ 遺 伝 的 な 起 源 や 系 統 を 遡 ろ う と す る 自 然 人 類 学 的 研 究 で は 、 北 方 地 域 の 先 史 時 代 研 究 に お け る 主 要 な ト ピ ッ ク と し て 展 開 さ れ て い る 。 だ が 、 黎 明 期 に お け る 北 海 道 の 先 史 時 代 研 究 の す べ て が 、 必 ず し も ア イ ヌ の 人 々 や 文 化 と の 関 連 の み か ら 展 開 さ れ た と い う わ け で は な か っ た 。 ア イ ヌ の 人 々 や 文 化 と の 関 連 か ら 、 北 海 道 の 先 史 時 代 に 関 心 を 持 っ て い た の は 、 ほ と ん ど 中 央 の ア カ デ ミ ズ ム に 属 す る 研 究 者 達 で あ っ た 。 こ れ に 対 し て 、 北 海 道 在 地 の 研 究 者 の 多 く は 、 人 類 学 や 考 古 学 の 専 門 家 で は な い 北 海 道 開 拓 の た め に 赴 任 し た 御 用 学 者 や 行 政 官 で あ っ た た め 、 人 種 ・ 民 族 論 争 に 参 画 し た 河 野 常 吉 [ 河 野 1908a;1908b;1908c]などを除けば、明確かつ具体 的 な 研 究 目 的 と し て 、 ア イ ヌ の 人 々 や 文 化 が 位 置 づ け ら れ て い た わ け で は な か っ た か ら で あ る
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こ の た め 、 黎 明 期 の 北 海 道 に お け る 先 史 時 代 研 究 の 少 な か ら ず の も の が 、 博 物 学 的 な 関 心 に も と づ く 資 料 収 集 的 な 調 査・研 究 で あ っ た こ と は 否 め な い 。た だ 反 面 、こ う し た 調 査 ・ 研 究 に よ っ て 、 数 多 く の 考 古 資 料 や 民 俗 資 料 が 収 集 さ れ 、 北 海 道 に お け る 先 史 時 代 研 究 を 進 展 す る た め の 基 礎 が 準 備 さ れ る こ と と な っ た 。
オ ホ ー ツ ク 文 化 や 擦 文 文 化 と い っ た 先 史 文 化 が 設 定 さ れ 、 今 日 に 繋 が る 北 海 道 の 先 史 時 代 研 究 が お こ な わ れ る よ う に な る の が 1930 年代である。1930 年代は、北海道の先史時代 研 究 に と っ て 、 飛 躍 を 遂 げ る 画 期 で あ っ た 。 と い う の は 、 時 間 的 ・ 空 間 的 単 位 と し て の 土 器 型 式 が 数 多 く 設 定 さ れ 、 北 海 道 に お け る 縄 文 時 代 以 降 の 編 年 や 時 代 区 分 が 整 備 さ れ て ゆ く の が 、 ま さ に こ の 時 期 だ か ら で あ る 。
土 器 型 式 の 設 定 と そ れ に も と づ く 編 年 、 時 代 区 分 は 、 河 野 広 道 や 名 取 武 光 と い っ た 北 海 道 に お い て 調 査 ・ 研 究 に 携 わ っ て き た 研 究 者 達 に よ っ て 主 に 展 開 さ れ て い っ た [e.g. 河野 1935a;名取 1939]。も っ と も 、そ れ は 、北 海 道 の み で 独 自 に お こ な わ れ た 研 究 展 開 で は な い 。 軌 を 一 に し て 、 縄 文 土 器 や 弥 生 土 器 な ど を 対 象 と し た 編 年 研 究 が 全 国 的 に 推 進 さ れ て お り [e.g. 山内 1937;森本・小林 1938]、 同 時 期 の 日 本 の 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 を 特 徴 づ け る 大 き な 一 つ の 潮 流 で あ っ た と い え る 。
上 述 の よ う な 潮 流 は 、 明 治 期 の 国 民 国 家 形 成 に 絡 む イ デ オ ロ ギ ー 的 な 影 響 の 下 に 展 開 さ
れ て い た 人 種・民 族 論 争 の 収 束 後 、日 本 の 人 類 学・考 古 学 に お い て 高 ま り を み せ て い た「 実 証 主 義 科 学 」 推 進 の 気 運 に 支 え ら れ て い た と い え る だ ろ う [cf. 林 1987:114-129]。 先 史 人 類 学 ・ 考 古 学 に お い て 編 年 研 究 が 推 進 さ れ た よ う に 、 自 然 人 類 学 に お い て も 遺 伝 的 、 身 体 的 特 質 に よ っ て 、 旧 日 本 領 内 の 本 国 か ら 植 民 地 を 含 め た 各 地 域 の 「 人 種 」 や 「 民 族 」 を 分 類 し て ゆ こ う と す る 研 究 が[e.g. 荒瀬 1933;浅谷 1933;村山 1933;金関 1934;長崎 1935; 島 1935;稗田 1935]ほぼ同時期に提起されるようになる。無論、これらの研究の背景には、 植 民 地 主 義 政 策 に よ る 領 土 拡 張 が 不 可 分 に 存 在 し て は い た が 、 第 一 意 義 的 に は 「 実 証 主 義 科 学 」 に 沿 う 実 践 で あ っ た
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「 実 証 主 義 科 学 」 推 進 の 気 運 が 、 日 本 の 人 類 学 ・ 考 古 学 に 与 え た 影 響 を 端 的 に 述 べ る な ら ば 、 そ の 研 究 目 的 が 、 ひ と ま ず 他 の 様 々 な 社 会 的 コ ン テ ク ス ト か ら 切 り 離 さ れ 、 独 自 の 専 門 用 語 と 方 法 論 を 備 え た 科 学 的 言 説 の な か で 、 自 己 完 結 的 に お こ な わ れ る よ う に な っ た こ と が あ げ ら れ る
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。北 海 道 の 先 史 時 代 研 究 に お い て も 、こ の 時 期 以 降 、短 絡 的 に「 ア イ ヌ 文 化 」 と 関 連 づ け て 個 別 断 片 的 な 資 料 を 説 明 し よ う と す る も の は 、 少 な く と も 表 面 上 は 姿 を 消 し 、 先 史 人 類 学 的 ・ 考 古 学 的 な 方 法 論 に よ っ て 構 築 さ れ た 独 自 の 時 代 区 分 や 文 化 概 念 を も と に 研 究 、叙 述 が 開 始 さ れ る よ う に な る
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。土 器 型 式 は い う ま で も な く 、今 日 、北 海 道 の 先 史 時 代 研 究 に お い て 使 用 さ れ て い る 時 代 区 分 や 文 化 概 念 な ど の ほ と ん ど が 、 こ の よ う な 研 究 史 的 背 景 の な か か ら 提 起 さ れ て い っ た 。
( 2 ) オ ホ ー ツ ク 文 化 ・ 擦 文 文 化 研 究 の 開 始
オ ホ ー ツ ク 文 化 お よ び 擦 文 文 化 に 関 す る 研 究 も ま た 、1930 年代における土器型式の設定 か ら 始 ま る 。ま ず 、1931 年に新岡武彦によって擦文式土器[新岡 1931:14]が、翌 1932 年 に 河 野 広 道 に よ っ て オ ホ ー ツ ク 式 土 器 [ 河 野 1933:19]が、それぞれ提唱されている。こ れ 以 降 、 オ ホ ー ツ ク 式 土 器 、 擦 文 式 土 器 と い う 型 式 名 が 定 着 す る と と も に 、 そ れ ぞ れ の 編 年 的 位 置 や 空 間 的 分 布 が 追 究 さ れ て ゆ く 。
さ ら に 付 言 す る な ら ば 、 オ ホ ー ツ ク 式 土 器 、 擦 文 式 土 器 の 提 唱 は 、 単 に 時 間 的 ・ 空 間 的 単 位 と し て の 土 器 型 式 の 設 定 に と ど ま る も の で は な か っ た 。 と い う の は 、 そ れ ぞ れ の 土 器 型 式 に 共 伴 す る 考 古 資 料 の 総 体 を 、 北 海 道 以 外 は い う ま で も な く 、 北 海 道 に お け る 縄 文 時 代 や 続 縄 文 時 代 な ど の も の と も 性 格 を 異 に す る 、 独 自 の 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス と し て 理 解 し よ う と す る 見 解 が 、 す で に こ の 時 期 か ら 形 成 さ れ て い た か ら で あ る [ 河 野 1935a;河野・ 名 取 1938]。
ま た 、 こ う し た 見 解 は 、 考 古 資 料 を 分 析 対 象 と し て い た 研 究 者 の み な ら ず 、 同 時 期 の 古
人 骨 に 関 心 を 持 っ て い た 自 然 人 類 学 の 研 究 者 達 に も 共 有 さ れ て い た こ と が 、 清 野 謙 次 や 児 玉 作 左 衛 門 の 論 考 な ど か ら 窺 わ れ る [ 清 野 1933;児玉 1937]。 土 器 型 式 が 設 定 さ れ る の と 時 期 を 前 後 し て 、 先 史 時 代 の 北 海 道 に ア イ ヌ の 人 々 と は 異 な る 形 質 的 特 徴 を 備 え る 集 団 が 展 開 し て い た こ と が 、 北 方 地 域 に 関 心 を 持 つ 自 然 人 類 学 者 に よ っ て 想 定 さ れ て い た [ 石 澤 1931]12)。そ れ ゆ え 、既 述 の よ う な 見 解 は 、先 史 人 類 学・考 古 学 の 議 論 を 受 け た 結 果 と い う よ り も 、 自 然 人 類 学 的 研 究 の 進 展 か ら も 導 き 出 さ れ て い た と い え る 。
以 上 の よ う に 、 オ ホ ー ツ ク 式 土 器 お よ び 擦 文 式 土 器 は 、 そ れ ぞ れ 型 式 が 設 定 さ れ た 当 初 か ら 、 日 本 列 島 に お け る 他 の ど の 時 代 、 地 域 に も 類 例 を み な い 、 特 有 の 文 化 コ ン プ レ ッ ク ス を 代 表 す る も の で あ る 、 と い う 理 解 が 北 方 地 域 の 先 史 時 代 研 究 に 携 わ る 人 類 学 者 ・ 考 古 学 者 達 の 間 で 共 有 さ れ て い た 。 た だ 、 そ の 内 容 に つ い て の 理 解 の あ り 方 に は 、 両 者 の 間 に 格 段 の 差 が あ っ た 。
オ ホ ー ツ ク 文 化 に つ い て は 、 土 器 、 骨 角 器 、 金 属 器 な ど の 考 古 資 料 の 検 討 か ら 、 北 東 ア ジ ア や 極 北 地 域 と の 強 い 関 連 が 窺 わ れ る こ と 、 高 度 な 海 洋 適 応 に 立 脚 す る 生 業 技 術 を 有 し て い る こ と 、な ど が 幾 人 か の 研 究 者 に よ っ て 想 定 さ れ て い た[ 米 村 1935;稲生 1936;名取 1936]。ま た 、サ ハ リ ン や 千 島 列 島 に お け る 調 査 に よ っ て 、オ ホ ー ツ ク 文 化 の 分 布 圏 が 、サ ハ リ ン か ら 北 海 道 の オ ホ ー ツ ク 海 沿 岸 を 経 て 千 島 列 島 に 至 る ま で の 、 広 範 な 地 域 に わ た る こ と が 明 ら か に な っ て い た [e.g. 馬場 1934;岡・馬場 1938;新岡 1940]。 他 方 、 自 然 人 類 学 的 見 地 か ら は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 集 団 が 、 近 代 以 降 の 北 海 道 ア イ ヌ の 人 々 と は 形 質 を 大 き く 異 に す る と い う 重 要 な 提 起 が な さ れ て い る [ 児 玉 1937]。 こ れ ら の 想 定 は 、 ほ ぼ 今 日 の 理 解 に 通 じ る も の で あ り 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 の 研 究 は 、 こ の 時 期 に 基 礎 づ け ら れ て い た と み な す こ と が で き る 。
い っ ぽ う 、 擦 文 文 化 に 関 し て は 、 同 時 期 、 北 海 道 在 来 の 続 縄 文 文 化 と の 連 続 性 が 漠 然 と 想 定 さ れ て い た 以 外 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 ほ ど 具 体 的 な 理 解 が 形 成 さ れ て い た と は い え な い 。 そ の 理 由 と し て は 、 オ ホ ー ツ ク 文 化 に 比 べ て 、 擦 文 文 化 の 内 容 を 直 接 窺 い 知 れ る よ う な 資 料 が ほ と ん ど 得 ら れ な い こ と 、 ま た そ う し た 限 ら れ た 資 料 か ら 社 会 的 ・ 文 化 的 側 面 に ア プ ロ ー チ す る 方 法 的 視 座 を 欠 い て い た こ と が あ げ ら れ る 。 藤 本 強 が 指 摘 し て い る よ う に 、 擦 文 文 化 の 内 容 の 解 明 は 、1960 ∼ 70 年 代 に な っ て 本 格 的 に 開 始 さ れ た と い え る [ 藤 本 1982:222]。 極 論 す る な ら ば 、1960 年代以前の擦文文化の理解は、外来的な要素の強いオ ホ ー ツ ク 文 化 に 対 置 し て 、 北 海 道 在 地 の 系 譜 に 位 置 づ け る と い う ネ ガ テ ィ ブ な 性 格 づ け の 域 を 出 る も の で は な か っ た 、 と み な す べ き だ ろ う 。