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金属 Vol.86 (2016) No.3฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀71 (267)

齋藤 文良・矢野 雅文 

5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる

論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

論 説

はじめに

 2007 年末に匿名投書をきっかけに表沙汰になっ た井上明久氏(当時:東北大学総長)を著者とする 論文に関する不正疑惑は,いまだに解消されてい るとは言い難い.その主たる理由は,東北大学の

「研究不正とは言えない,問題ない」という類の報 告,あるいは日本金属学会の科学的裏づけがない 唐突な訂正(Erratum)記事・編集委員会公告では, 誰もが公正な措置であると十分納得できる結果と なっていないからである.しかも,ほとんどの大 学や研究機関に設けられている「研究活動におけ る不正行為への対応(ガイドライン)」が示す,「疑 惑を指摘された論文の実験結果に関する説明責任 は,再現実験による立証を含め,著者にある」こ とが実行されていないからである.例えば,井上 氏はこれまで一度も不正疑惑解消のための公式説 明を自らが行っていないし,10 年以上前の研究で, すでに関連装置がなくノウハウを持つ研究者もい ないこと等を理由に再現実験の実施も試みようと もしない.むしろ再現実験を避けている.このよ うな研究不正疑惑の解消には明らかに不適切だと 思われる措置が続いていることに加えて,さらに 次々と明らかにされた井上氏を著者とする論文不 正疑惑の数が非常に多いことも特徴である.  本稿は井上氏の論文に認められる不正疑惑の全 てを示すのではなく,論文に報告されている5 つ の実験データのうち4つが不正だと考えられる論

文を例示することにする.その理由は,このよう な論文に関する告発でさえ,東北大学は公正な科 学的調査を行う姿勢を示さず,告発を門前払いに したこと,この不正疑惑論文を成果に含む研究プ ロジェクトに資金を提供した新技術事業団(現: 科学技術振興機構,以下JST と称する)も沈黙し たままだからである.これでは事実上の組織的な 不正隠蔽であり,我が国の学術の危機が強く感じ られる.したがって,筆者らは,井上氏の論文に 認められる不正疑惑の実態を本誌の読者の方々に 把握いただき,ご判断を仰ぎたいと考えた次第で ある.金属材料分野で生じている不正疑惑を放置 し続けることは,当該分野の将来にとって好まし くないので,我々の間違い・勘違い等については 遠慮なくご指摘いただくとともに,ぜひ疑惑解消 にご協力いただきたいと考えている.

東北大学への研究不正が疑われる

論文の告発

告発の背景などについて

 まず筆者らが下記の告発対象論文(以下Scripta01 年論文と称する)の告発に至った背景について示 す.

告発対象論文(以下,Scripta01 年論文と称する) PREPARAION AND MECHANICAL PROPERTIES OF NANOQUASICRYSTALLINE BASE BULK ALLOYS(参考訳:ナノ準結晶基バルク合金の作

(2)

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

製と機械的性質)

A. Inoue, T. Zhang, S. Ishihara, J. Saida and M. Matsushita:

Scripta Materialia, Vol.44 (2001), pp.1615-1619. (Received August 25, 2000; Accepted in revised form December 13, 2000).

 我々が把握しているだけで10 編を超える論文 が,すでに二重投稿(重複投稿ともいう)を理由 に「取り下げ」あるいは「取り消し」措置が広告 されている.公式の「取り下げ」あるいは「取り 消し」措置がまだとられていないが,明らかに二 重投稿が疑われる論文は10 編を超えており,そ の合計は20 編を超えていることも判明している.  筆者らは,そのような二重投稿の疑いが指摘さ れている論文の実験データ,引用文献などを,東 北大学の部局長(当時)の責任として,研究者の 視点から真摯に検討を試みた.その結果,同じ写 真や図面などが複数の論文に単純に使用されてい るのではなく,また「うっかり写真(あるいは図 面)を取り違えた」とか,「元論文の引用を失念し た」などの説明では,偶然が重なり過ぎでとても 起こり得ないケースを複数確認した.その中でも Scripta01 年論文は,その最たるものと判定できる 論文である.そのような事実を確認しながら放置 することは,我が国の学術水準の信用を失わせか ねないと判断し,告発に踏み切った.

  な お,Scripta01 年 論 文 は,2000 年 8 月 20∼ 25 日に仙台で開催された第 5 回ナノ構造材料に 関するInternational Conference on Nanostructured Materials(NANO 2000)の国際会議報告論文である ことが確認されている.この国際会議の主催者ら は,他の国際会議と同様に,提出された国際会議 報告論文の原稿を,あらかじめ準備している編集 委員(国際会議報告論文集の表紙には,A. Inoue, N. Niihara, R. D. Shull, E. Matsubara,4 名の名前が記 載されている)を中心に査読し,必要に応じて論文 執筆者に戻して修正等をした上で,掲載決定をし ている.当該Scripta01 年論文も付されている記録 から,原稿の投稿日は August 25, 2000 で,査読の

意見を取り入れて最終的に修正原稿が提出されて, December 13, 2000 に掲載可と判定されたことがわ かる.もちろん,国際会議報告論文だから,二重 投稿が許されるとか,不正疑惑が多少含まれてい ても許されるなどということは決してない.

Scripta01 年論文を研究不正として告発する 主たる3つの理由

 筆者らは,2013 年 11 月 22 日付で,Scripta01 年 論文に研究不正疑惑がある理由を示して東北大学 に告発した.JST にも同じ内容を提出した.まず, 研究不正が強く疑われるとの判断に至ったポイン トを示す.

 この井上氏を筆頭著者とするScripta01 年論文 は,5 つの実験データ(図・写真)で構成されている. Fig.1 は Pd を含む Zr 基合金のリボン(薄帯)試料, Fig.2 は Pd を 10%含む Zr 基合金バルク試料に関 する実験データ,Fig.3 および Fig.4 は,Ag を 5% 含むZr 基合金のバルク試料に関する実験データで ある.Fig.5 は Ag を 5%含む Zr 基合金に関する実 験データであるが,試料形状はリボンなのか,バ ルクなのかは明記されていない.Scripta01 年論文 に使われている5 つのうち少なくとも 4 つの実験 データは,どれもが他の論文で使用されている図・ 写真と同一,あるいは一部を使用した事実が認め られる.それにも拘わらず,Scripta01 年論文に与 えられている6 つの参考文献には,元論文が全く 含まれていない.実はこれだけでも,研究倫理違 反と判定できる.ただし,筆者らは,主として以 下の3 つの根拠を付して,Scripta 01 年論文には研 究不正が濃厚であることを東北大学(およびJST) に告発した.

 Scripta01 年論文の元論文とみなせる参照論文 を,以下に,略称とともに投稿日順に列記する.

参照論文(投稿日順) MT99 年 A 論文

Mechanical Properties of Bulk Amorphous Zr-Al-Cu- Ni-Ag Alloys Containing Nanoscale Quasicrystalline Particles(参考訳:ナノスケール準結晶粒子を含

(3)

金属 Vol.86 (2016) No.3฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀73

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

(269) む Zr-Al-Cu-Ni-Ag 系バルクアモルファス合金の機

械的性質)

Inoue Akihisa, Tao Zhang, Mun Wei Chen and Toshio Sakurai:

Mater. Trans. JIM, Vol.40, No.12(1999), pp.1382-1389. (Received June 17, 1999: In Final Form October 4,1999)

MT99 年 B 論文

High Strength and Good Ductility of Bulk Quasicrystalline Base Alloys in Zr65Al7.5Ni10Cu17.5−xPdx

System(参考訳:高強度・高靱性のバルク準結晶 基Zr65Al7.5Ni10Cu17.5−xPdx系合金)

Inoue Akihisa, Tao Zhang, Junji Saida, Mitsuhide Matsushita, Mun Wei Chen and Toshio Sakurai: Mater. Trans. JIM, Vol.40, No.10 (1999), pp.1137-1143. (Received July 7, 1999: In Final Form August 17,1999)

MT00 年 A 論文

Nucleation and Growth Kinetics of Nano Icosahedral Quasicrystalline Phase in Zr65Al7.5Ni10Cu17.5−xPdx(x

=5,10 and 17.5)Glassy Alloys(参考訳:Zr65Al7.5Ni10

Cu17.5−xPdx系ガラス合金(x=5,10 および 17.5) におけ る二十面体準結晶相の核生成および成長の動力学) Junji Saida, Mitsuhide Matsushita and Akihisa Inoue: Mater. Trans. JIM, Vol.41, No.11 (2000), pp.1505-1510. (Received May 19, 2000: Accepted July 12,2000)

MT00 年 B 論文

Enhancement of Strength and Ductility in Zr- Based Bulk Amorphous Alloys by Precipitation of Quasicrystalline Phase(参考訳:準結晶相の析出 によるZr 基バルクアモルファス合金の強度・靱性 の向上)

Akihisa Inoue, Tao Zhang, Junji Saida and Mitsuhide Matsushita:

Mater. Trans. JIM, Vol.41, No.11 (2000), pp.1511-1520. (Received June 5, 2000: Accepted September 4, 2000)

 なお,Scripta01 年論文の Fig.5 も Scripta01 年 論文より後で公表された下記のMT01 年論文との 間に,科学的に理解できない点が複数認められる が,やや複雑なので,本稿では触れないことにす る.理系分野では,「先行して報告した(Scripta01 年)論文の実験データを,後ほど行った詳細な実 験データに基づいて,改めて投稿・公表した(MT01 年)論文で修正する」ことは,珍しいことではない. しかしMT01 年論文を読む限り,Scripta01 年論文 の引用はないし,先行して発表した論文のデータ を後続論文で再検討したという形跡が確認できな い.

MT01 年論文

Superplastic Deformation of Supercooled Liquid in Zr-Based Bulk Glassy Alloys Containing Nano- Quasicrystalline Particles(参考訳:ナノ準結晶粒 子を含むZr 基バルクガラス合金の過冷却液体にお ける超塑性変形)

Satoru Ishihara and Akihisa Inoue:

Mater. Trans. Vol.42, No.8 (2001), pp.1517-1522. (Received February 20, 2001: Accepted July 3, 2001)

〈不正の根拠理由∼その1〉

 図1 に,「Pd を 5%含む Zr 基合金を温度 725K で18s(秒)焼鈍処理したデータ」として示されて いるScripta01 年論文の Fig.1 に関連する不自然な 点をまとめて示す.まず,Scripta01 年論文の Fig.1 は,(a) の明視野 TEM 像,(b) の制限視野回折パター ンおよび代表的なリングの指数付け表,それにナ ノビーム回折パターンの5 回対称を(c),3 回対称 を(d),2 回対称を(e)の 3 つのデータで構成され ている.このScripta01 年論文の Fig.1 には,以下 の問題点が確認できる.

 (1)図 1 のとおり Scripta01 年論文の Fig.1(a) のTEM 明視野像は,合金組成も熱処理時間も異 なるMT99 年 B 論文のFig.3(a)に与えられている

「Pd を 10%含む Zr 基ガラス合金を温度 705K で 60 秒焼鈍処理した TEM 明視野像」と同一と考え

(4)

74฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀金属 Vol.86 (2016) No.3 論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

(270) られる.ここで,Scripta01 年論文 Fig.1(a)が「Pd

を5%」ではなく,「Pd を 10%」の誤記だったと仮 定しても,Scripta01 年論文 Fig.1(c)∼(e)に示す 3 種類のナノビーム回折パターンは,MT99 年 B 論 文のFig.4(Pd を 10%含む Zr 基合金)に与えられ ているデータとは同一でないので,説明文の誤記 とは考え難い.

 (2)図 1 に示すとおり Scripta01 年論文 Fig.1(c)

∼(e)のナノビーム回折パターンの 3 点セットは, MT00 年 B 論文のFig.4 に与えられている 10%の Pd を含む Zr 基合金(温度 705K,時間 60 秒)につ いて報告されている3 点セットのデータとの同一 性が確認できる.しかし,Scripta01 年論文 Fig.1 の説明文に与えられている焼鈍条件(725K, 18s) は,MT00 年 B 論文のFig.4 の説明文に与えられて いる焼鈍条件(705K, 60s)と異なる.なお,MT00 年B論文のFig.4(a) TEM明視野像(705K, 60s)は,

MT00 年 A 論文のFig.5(f)705K, 30s)と同一と考 えられるが,焼鈍時間が一方は60s,他方は 30s と一致しない.

 これらの結果は,Scripta01 年論文の Fig.1 は, 説明文のとおり「5%の Pd を含む Zr 基ガラス合金 を温度725K で 18 秒焼鈍処理したデータ」である ことを示す客観的根拠が認められないことを意味 する.むしろ複数のデータを組み合わせて,あた かもオリジナルであると偽装したものであり,「捏 造」に相当する.

 なお,驚くべきことに,Scripta01 年論文 Fig.1(a)

∼(e)の全体は,「Pd を 10%含む Zr 基ガラス合金, 温度705K で 60 秒焼鈍処理したデータ」として, さらに別の論文(Materials Science and Engineering, Vol.294/296 (2000), 727-735 の Fig.9)に報告済みで あること,しかもその同論文のFig.9 に明らかな加 工がなされている(改ざん)証拠が認められること MT99年論文 Fig.3(a)

10%Pd, 705K, 60s

MT00A論文 Fig.5(f) 10%Pd, 705K, 30s

MT00B論文

MT99 年 B 論文 Fig.3(a) 10% Pd, 705K, 60s

MT00 年 A 論文 Fig.5(f) 10% Pd, 705K, 30s

Scrata01 年論文 5% Pd, 725K, 18s

MT00 年 B 論文 10% Pd, 705K, 60s

図1 Scripta 01 年論文の Fig.1(Pd を 5%含む Zr 基合金;725K,18s)の他論文データとの関係における不自然な点

(5)

金属 Vol.86 (2016) No.3฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀75

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

(271) を付記しておく.

〈不正の根拠理由∼その2〉

 図2(A)に,Scripta01 年論文の Fig.2 として「Pd を10%含む Zr 基合金の圧縮試験で得た応力−歪 曲線」と,図2(B)にその元データと考えられる MT99 年 B 論文のFig.6 を示す.図 2 の(A)と(B) との比較からも明らかなように,Scripta01 年論文 の Fig.2 には,as-cast(glassy)あるいは熱処理条件 705K 60s に(quasicrystalline)との添え書きが加え られているが,両者は同一データだと判断できる. しかし,Scripta01 年論文の参考文献にも本文にも, MT99 年 B 論文との関係を示す記述は一切ない. Scripta01 年論文の Fig.2 に添え書きがあるという ことは,オリジナル図面が変更されている証拠で あり,単純に同じ図面を使用してしまった,引用 文献を忘れたとの説明は通用しないことを意味す る.すなわち,Scripta01 年論文の Fig.2 は,オリ ジナル図面を「改ざん」し,あたかもオリジナルで あると偽装したものであり,研究不正である.

〈不正の根拠理由∼その3〉

 Scripta01 年論文の Fig.3 としての「Ag を 5%含 むZr 基合金の機械的性質に関する結果」と,その 元データと考えられるMT99 年 A 論文のFig.11 を 比較すると,この2 つの図は基本的に同一である ことが確認できる.基本的に同一と表現したのは, 図縦軸の伸びεfの表記部分のみが一方が“ε(%)f ”, 他方が“εf/ %とわずかに異なっているからである. また,図の説明文が以下のように異なっている.

Scripta01 年論文 Fig.3 の説明文:

Mechanical properties (Young’s modulus, tensile fracture strength and elongation)as a function of volume fraction of icosahedral phase for cast bulk glassy Zr65Al7.5Ni10Cu12.5Ag5 alloy annealed at 730 K for different periods.(参考訳:鋳造バルクガラス Zr65Al7.5Ni10Cu12.5Ag5合金の機械的性質(ヤング率, 引張破壊強度および伸び)に関する正二十面体準 結晶相の体積率の関数としての変化;温度730 K

で異なる時間で焼鈍した場合)

MT99 年 A 論文のFig.11 の説明文:

Vickers hardness(Hv, Young’s modulus (E), tensile fracture strength(σfand tensile fracture elongation (εfas a function of volume fraction (Vf) of quasicrystalline phase for the cast bulk glassy Zr65Al7.5Ni10Cu12.5Ag5 rods annealed for 60 to 120 s at 730 K and 750 K. (参考訳:鋳造バルクガラス Zr65Al7.5Ni10Cu12.5Ag5棒のビッカース硬さ(Hv

ヤング率(E),引張破壊強度(σf)および引張破壊

伸び(εf)に関する準結晶相の体積率(Vf)の関数と しての変化;温度730K および 750K で,60 秒∼ 120 秒焼鈍した場合)

 この比較から,Scripta01 年論文の Fig.3 では, 焼鈍条件が温度730 K で,異なる時間で焼鈍した としか書いていないので,少なくとも元データに 相当するMT99 年 A 論文のFig.11 の焼鈍条件で

1 (A)

(B)

図2 Pd を 10%含む Zr 基合金の圧縮試験データ(応力

−歪曲線).(A)Scripta 01 年論文の Fig.2 と(B)MT99 年

B 論文の Fig.6

(6)

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

ある温度730K および 750K で,60 秒∼120 秒の 時間で焼鈍したとは明らかに異なる.この事実は, Scripta01 年論文の Fig.3 は,温度 750K の実験結 果を含まないことを意味する.なお,Scripta01 年 論文のAg を 5%含む Zr 基合金の引張試験後の破 断面に関するFig.4 は,その元データと考えられる MT99 年 A 論文のFig.12 で報告されている 4 枚の 写真のうちの2 枚(c)および(d)と同一であること が確認できるが,引用はない.

 このようにScripta01 年論文の Fig.3 ならびに Fig.4 は,それらの元データと考えられるデータと 基本的に同一のものが使われているが,Scripta01 年論文の参考文献にも本文にも,元論文(MT99 年A 論文)との関係を示す記述は一切ない.さら にScripta01 年論文の Fig.3 の伸び εfの表記部分が

εf/ %であり,元論文のε(%)から変更されているf こと,ならびに図の説明文が変更されていて,少 なくとも温度750K の実験結果を含まないことを 意味する.一方,Scripta01 年論文 Fig.4 の 2 枚の 写真は,その元データと考えられるMT99 年 A 論 文Fig.12 に提供されている 4 枚の写真の(c)およ び(d)の 2 枚で,4 枚のうちから 2 枚という選択 変更がなされている.要約すると,①Scripta01 年論文のFig.3 の図および説明文がオリジナル図 およびその説明文の内容から変更されている,② Scripta01 年論文の Fig.4 は,オリジナル図の 4 枚 から2 枚へと選択変更されている,の2点から, 単純に同じ図面を使用してしまった,引用文献を 忘れたとの説明は通用しないことがわかる.すな わち,Scripta01 年論文の Fig.3 および Fig.4 は, あたかもオリジナルであると偽装したものであり, これは2 つの図とも「改ざん」に相当する.

告発に対する東北大学(研究担当理事)から の回答

 筆者らの2013 年 11 月 22 日付の告発に対して, 初期対応委員会に基づく検討結果であるとする東 北大学の回答は,2014 年 9 月 16 日であった.要 した時間は実に約10 ヶ月余である.東北大学が 自ら定めた研究不正ガイドライン(平成19 年 3 月

1 日制定)では,告発から 30 日以内に本調査を行 うか否かを決定しなければならないとある.それ にも拘わらず,告発書提出からなんと約10 か月

(300 日)というガイドラインにある期間の10 倍も の時間を要した.その上で,“本調査の必要性がな い”との告発不受理=「門前払い」である.東北大 学は,不正認定しない口実を長時間かけて考えて いたとしか思えないのである.科学論文の不正疑 惑は,学術分野の常識に従って,真摯かつ公平に, そして迅速に措置するしかないのにである.しか も,告発不受理の理由は,なんと筆者らが不正の 根拠理由に挙げた“その1”∼“その 3”に相当する 指摘事項は,いずれも,“過去に科学技術振興機 構(以下JST と略記する)に対して行われた告発と 内容が類似しており,調査の上,研究不正に当た らないことが確認されたから”であった.さらに, Scripta01 年論文の Fig.5(伸びと歪速度の関係)に 認められる不可思議な点に関する指摘事項は,“研 究の途中の段階のデータを国際会議で発表し,そ の後追加実験を行って補完したデータを原著論文 として発表したことに起因するものであり,不正 行為には当たらない.”であった.これらの回答が 本当に告発を門前払いにできる正当な理由として 妥当なのであろうか? 大いに疑問であり,大学当 局に反論を送り抗議している.

東北大学の誤った措置と信頼回復に向けて の申し入れ

 ガイドラインに則った筆者らの告発は,「ガイド ライン」に従って措置すればよいだけのことであ る.告発を受付け調査に着手する前に,告発が誹 謗中傷になっていないか等のチェックは必要であ ろうが,事実と異なる判定をして,すでに扱った 告発と類似だとして過去の不適格な委員から構成 される調査委員会(この委員会については後述す る)の結果に基づいて,不正行為に当たらないと 告発を門前払いすることは,最高学府である東北 大学の研究不正行為に対処する姿勢とは思えない, 極めて不当な措置である.その回答内容も極めて 非科学的・非論理的であり,到底受け入れること

(7)

金属 Vol.86 (2016) No.3฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀฀77

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

(273) はできないものであった.大学の回答書が非科学 的・非論理的である理由の一部を紹介すると,以 下のとおりである.

 まず,回答書において,「初期対応委員会」は, 筆者らの告発は,過去にJST に対して行われた告 発と内容が類似しており,…としている.しかし, この文章は類似とみなせても同じではないことを 認めたものでもある.事実,筆者らが過去にJST に対して行った通報の要点は,「Scripta01 年論文 の図は,先行公表されている論文との重複が認め られる二重投稿状態と考えられること,しかも, 図の説明文に違いがあること等を指摘し,研究資 金提供・管理団体として東北大学に対して適切な 指導を仰いだ」ものであって,本稿で紹介した研 究不正に関する告発とは同一ではない.それにも かかわらず,東北大学は類似を同一とみなして,“過 去にJST への回答書(平成 24 年 7 月 24 日付)の 3.

(8)①および②において,以下のとおり検討結果が 示されている”と回答してきたのであった.ここ にも東北大学が告発を真摯に十分検討しないまま, 告発を何とか門前払いすることに腐心する姿が浮 かび上がる.さらに,東北大学からの回答(検討結 果例1,2)を例示すると,以下のとおりである.

 検討結果例1:「図の重複使用に関しては文献が 引用されておらず,不十分な記述といわざるを得 ない.」,「同一図に対して,図の説明文が異なる試 料で異なる焼鈍条件となっている.論文から判断 する限り,組成表示の誤りである可能性が高い.」

(原文そのまま)

 検討結果例2:「図の重複使用に関しては文献が 引用されておらず,不十分な記述と言わざるを得 ない.」「論文1(本告発では Scripta01 年論文)の Fig.3 の説明文の記述が省略され,説明不足である ことは否めないが,不正とまでは言えない.」(原 文そのまま)

 東北大学が上記の回答に記載している,JST へ なされた回答書(平成24 年 7 月 24 日付)なるもの は,何なのか疑問である.JST に通知した筆者ら

に対して,JST が東北大学から回答書を受領した か否か,その結果を踏まえてJST としてどのよう に措置したかさえも連絡されていない.JST への 通知に対して,JST が東北大学へ調査依頼したよ うであるが,そこで真摯に公平な調査が行われた かも確認できないし,公表もされていない代物で ある.公表できないような委員会報告(回答書) の内容を持ち出すことそのものが,ガイドライン に則った告発に対する措置として極めて不適切で ある.東北大学が,過去の委員会報告云々を理由 にしたのであえて申し添えるが,この回答書に関 わった委員会については,本誌4 月号に記載する が,被告発者(井上明久氏)の共同研究者や被任命 者という,この種の委員会委員としては不適格者 が多数含まれていたことを指摘しておく.  告発対象論文(Scripta01 年論文)の Fig.1 は,井 上氏ら自身のものではあるが,既発表の複数の論 文の実験データを組み合わせたことが確認できる ので,新しいデータを装ったとの不正疑惑であっ て,二重投稿問題とは全く別物である.世間に公 表できるレベルの調査もしないで「組成表示の誤 りの可能性が高い」等と矮小化した結論付けがど うしてできるのか,全く理解できない.また,も し組成表示の誤記の可能性があるならば,少なく とも正しい標記の写真を被告発者(井上氏ら)に 提示させ,告発者( 筆 者ら)にも確認させること が本来の姿であろう.告発内容を十分に検証せず に,告発内容が類似であるなどと一方的に決め付 け,しかもまったく的外れな内容を回答してきた. 繰り返すが,公正性さえ確認できない過去のJST への回答書(公開されていない)で検討済みである ことを理由にすることは,言語道断である.また, 東北大学が主張するように,同一のデータが報告 されている元論文について引用されていないこと を「不十分な記述といわざるを得ないとか,説明 不足は否めないで片付けて,不正とまでは言えな い」では,世の中の研究不正はすべてが不正では なくなってしまう.Scripta01 年論文における図そ のもの,あるいは図の説明文が,オリジナルデー タの内容から変更(改ざん)されていることを無視

(8)

論説 5 つの図のうち 4 つに改ざん疑惑が認められる論文とその指摘に対する大学の不適切な対応

した今回の回答書がナンセンスであることに,東 北大学は気付くべきである.

 前記の通り,東北大学からの回答書は,非科学 的内容に満ちているばかりでなく,公正性に著し く欠けているといわざるを得ない.そもそも「初 期対応委員会」なるものは,東北大学のガイドラ インにはない.この委員会は,ガイドラインの運 用の充実を図るためとして,平成21 年 6 月 15 日 の理事裁定を根拠にしたものである.初期対応委 員会の所掌は,告発の受付,告発等に係る被告発 者への警告,その他,初期対応に必要な協議であ り,不正に相当するか否かの調査を行う組織では ない.それにもかかわらず,初期対応委員会が告 発の内容を曲解し,その上で科学的根拠・検証デー タも示さずに,過去の不公正な委員会での回答内 容を中途半端に引用し,告発を門前払いするとい うのは余りにも暴挙という他ない.このような理 由から,東北大学には,「大学が自ら定めている研 究不正ガイドラインに則り,誹謗中傷でなく科学 的合理的理由が付され,かつ顕名でなされた筆者 らの告発に対しては,真摯に告発を受け付け,公 正な調査委員会にて厳正に調査されることを強く 求める.」と,文書で申し入れた.しかし,これに 対する返答は,抗議を申し入れてから1 年以上経 過した現時点でもない.

おわりに

 不正疑惑が認められるScripta01 年論文は,Pd あるいはAg を含む Zr 基ガラス合金中に微細な 準結晶相を析出させることで,その機械的性質の 改善向上が認められる内容である.試料は,直径 3mm∼4mm の円柱棒状あるいは薄帯状の Zr 基ガ ラス合金であり,このようなZr 基ガラス合金試料 は,銅鋳型鋳造法あるいはメルトスピニング法に

より容易に作製可能なものである.また,熱処理 条件,例えば(725K,18s)あるいは(705K,60s) 等によって第二相(準結晶)を析出させる実験,な らびにそれらの試料に関する示差走査熱量計によ るDSC 曲線の測定も,とくに難しい実験ではなく, むしろ,簡便な実験の範疇と考えられる.このよ うな実験は,例えば,金属材料の分野で,我が国 のみならず世界にその名を知られている東北大学 金属材料研究所においては,ただちに実験できる と思われる.もし,Scripta01 年論文あるいは比較 参照論文のオリジナル試料,実験記録などが保管 されておらず,疑惑に対して客観的で科学的に合 理性ある説明が困難であるならば,Scripta01 年論 文の著者ら,あるいは当該論文の研究が行われた 金属材料研究所は,ぜひとも再現実験をして疑惑 の解明をしていただきたい.10 年以上前の論文だ から云々の議論等は通用しない.なぜなら例えば, 日本経済新聞(2011.7.21)の「池上彰の大岡山通信」 でも紹介されているように,理系の科学論文では, 論文に報告されている実験結果は,論文に記載さ れている手法で誰がやっても(実験誤差の範囲で) 再現できるものであって,はじめて真実だと認め られるはずだからである.実験科学の研究者とし て「再現性は極めて困難であるが,確率的に作製 不可能とは言えない」等の議論は論外である.なお, 読者のご判断・ご意見はいかがであろうか.

さいとう・ふみお SAITO Fumio

1972 山形大学大学院修士課程修了,山形大学工学部助手,横浜 国立大学講師・助教授などを経て,1991 東北大学教授(選研, 多元研),2005-2010 多元研所長,2012 退職,同年 東北大学 名誉教授.工学博士.専門:粉砕とメカノケミストリー,粉体 精製工学.

やの・まさふみ YANO Masafumi

1974 九州大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学,日本学 術振興会奨励研究員,東京大学薬学部助手・講師・助教授を経て, 1992 東北大学電気通信研究所教授,2007.4-2010.3 電気通信研 究所所長,2010 退職,東北大学名誉教授.薬学博士.専門:生 体システム情報学.

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