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組織科学 Vol.50No.1 : 36-51 (2016)

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  特集/多様性とリーダーシップ

多様性とリーダーシップ:マインドフルネス・

コンパッションからのアプローチ

  飯塚 まり(同志社大学大学院 ビジネス研究科 教授)

  キーワード

マインドフルネス,コンパッション,リーダーシップ,ダイバーシティ,禅

Ⅰ.はじめに

欧米では,マインドフルネス革命(Boyce et al., 2011;Picket, Feb. 3, 2014),マインドフルネ ス・ムーブメントが起こっている.実にアメリカ の総人口の 8.0 パーセント(大谷,2016),労働 者の 13 パーセント(Olano et al., 2015)が,何 らかのマインドフルネスの実践をしている.これ は,近年,脳の画像研究などによって,マインド フルネスの有効性が科学的に証明されてきたこと や,宗教との関係が強調されなくなったことによ る.医療はもとより,心理学,医学,産業,スポ ーツ,福祉,教育等の,社会の様々な場面での, マインドフルネスの活用が始まっている(Barbez-at & Bush, 2011;Geles, Aug. 24, 2012;Geles,

2015;Harifax, 2008; 大 谷,2016; サ ン ガ, 2015;Willson, 2014).我が国においても,マイ ンドフルネスは,2016 年に入り急速に,雑誌や テレビなどのメディアを通じて社会や企業に紹介

されている.

世界的には,様々な科学分野での学術論文も爆 発的に増加しているものの,マインドフルネス研 究は,経営学においては,これからの分野であ る.しかしながら,マインドフルネスが人間に与 える影響力が大きく,組織研究にとっては,「マ インドフルネス」は(「パーソナリティ」や「ア イデンティティ」のような)根幹的構成概念 (root construct)となる可能性があるといわれて

いる(Good et al., 2016).

マインドフルネスは,広範な影響を経営に及ぼ す可能性があると考えられるが,特に,リーダー シップ研修という観点から語られることが多い. しかしながら,実際の組織での研究は難しく,そ の有効性に関しては,現時点では,実証研究はな されていない(Good et al., 2016).

本稿では,多様性とリーダーシップに考慮しつ つ,マインドフルネスをベースとしたリーダーシ ップ研修としては先行事例である,Google 社で 開発された Search Inside of Yourself(以後 SIY)

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について,分析・考察する.筆者は,2015 年,4 回渡米し,その間のモニタリングも含め 10 ヵ月 間にわたる SIY の指導者養成プログラムを受け る機会を得た.SIY の背景,開発運営者,指導者 育成方法などを含め述べる.

SIY では,マインドフルネスは,EQ と関連づ けられてプログラムが構成されている(SIYLI,

2015a;Tan, 2014).多様性とリーダーシップの 観点では,①明晰な知覚から引き出される,自 己・他者の状況や感情の認識,反応柔軟性からも たらされる自己統制,②自他の文化的な違いや, 多様性を超えた深い人間愛,の 2 点から考察す る.前者は,気づきの部分であり,「マインドフ ルネス」に該当するが,後者は,思いやり,慈悲 などとも訳される「コンパッション」がキーワー ドとなる.そこには,仏教の持つ人間の平等観を ベースに,広大な心や自他の境界のない意識へと いざなうアプローチが,EQ と関連づけて出現す る.多様な背景を持つ人々を包み込み,利他のた めに働くことに喜びを持つ観音菩薩のようなリー ダーシップということであろうか.そして,そこ にダボス会議で発表された,コンパッションの科 学的根拠が示される(Singer, 2015a, 2015b).

本稿では,まず,マインドフルネスとは何かと いうことについて体験として理解されるように述 べ,次に,多様性とリーダーシップという観点か ら,マインドフルネスの働きについて述べる.そ のうえで,マインドフルネス・ムーブメントの動 向に関して,国内外の動向と,日本文化との関 係,マインドフルネスへの注意や懸念について述 べる.そして,これらの背景を明らかにしたうえ で,SIY の分析を行う.マインドフルネスやコン パッションは,人間の心のみならず,身体にも影 響を与えることが科学的に証明されている.その ため,リーダーシップや経営のみならず,今後の 地球に住まう人類の行く末にもかかわると信じる 人たちもいるほどである(Jacob & Brinkerhoff,

2009).そこで,最後に,日本において,マイン ドフルネスをベースとしたリーダーシップ研修を 企業組織や MBA の教育に導入する際の注意点や ポイント,今後の動向について,近未来の AI や

人間拡張工学との関係,グローバル社会との関係 も含め私見を述べる.

Ⅱ.マインドフルネスとは何か

日本マインドフルネス学会では,マインドフル ネスを「今,この瞬間の体験に意図的に意識を向 け,評価をせずに,とらわれのない状態で,ただ 観ること(“観る”は,見る,聞く,嗅ぐ,味わ う,触れる,さらにそれらによって生じる心の働 きをも観る,という意味)」と定義づけている (日本マインドフルネス学会,2016).しかし,実 のところ,マインドフルネスの定義,特に操作定 義は,その源流である仏教の瞑想が,サマタ瞑想 やヴィパッサナー瞑想,禅やチベットの瞑想など 多様であり,また,心の内のことでもあるため, 未だ確立はされていない(青野,2014;Good et al., 2016;大谷,2014).

マインドフルネスは,「心を無にする」ことで はないし(Verni, 2015),「心を満たす」ことで もない.また,マインドフルネスは,いわゆる 「リラックス」のための方法ではないし(Gunara-tana, 1992;Verni, 2015),また,超能力者にな ったり,「スピリチュアル」な神秘体験でもない (Gunaratana, 1992).マインドフルネスは,瞑想 や禅と関連はしているが,同義語ではない.ま た,マインドフルネスは,過去のネガティブな思 い出をポジティブに思い直すことではないし,ま してや,ポジティブ思考で心を満たす努力をする ことではない.

では,マインドフルネス「今,この瞬間の体験 に意図的に意識を向け,評価をせずに,とらわれ のない状態で,ただ観ること」とはどういうこと か.マインドフルネスの体験は,実は,とても簡 単だ.本稿の論を進めるためにも,SIY でも使用 している説明で,マインドフルネスを今すぐに体 験できる仕方を述べる(SIYLI, 2015a).

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き,まるで自分がいま,この世に生まれてきたば かりの赤ん坊か,地球に初めてやってきた宇宙人 になったつもりで,はじめての心で,好奇心をも ってゆっくりと「それ」を見る.そこには,何が 見えるだろう.赤み,青白い部分,斑点,深みの 違う線,盛り上がり,黒い点,つや,不思議な隆 起,温かみというようなものが見えるのではない だろうか.はじめての心で観る「それ」には,好 きも嫌いも,評価はなく,ただ「それ」に対する 好奇心と気づきがあるのではないだろうか.

しかし,考えてみると,右手は,生まれてから ずっと自分と一緒にあったわけだから,自分の人 生の長さと同じだけ毎日見てきたもののはずであ る.しかし,今まで,このように自分の右手を観 たことがあっただろうか(ほとんどの人はなかっ たはずである).私たちは,右手をわざわざ意識 することなく,右手で用を足している.すなわ ち,「それ」に右手というラベルをつけ,それだ けであって「それ」から発せられている色や形と いった情報をいちいち観察し認識することはな い.

このように,多くの場合,私たちは,何かをな そうとするときには,無意識に右手を動かしてお り,それは「自動操縦モード」と言われるもので ある.マインドフルネスは,今,この瞬間の体験 に意図的に意識を向けることにより,知覚を明晰 化させ,気づきを促す.そして,「自動操縦モー ド」を一旦解除させる.また,これは,何かをな そうと動いている「すること」モード(Doing モ ード)から,「今,この瞬間」を経験する「ある こと」モード(Being モード)へと切り替わるこ とも指している(熊野,2012;Verni, 2015).

また,マインドフルネスの「今,この瞬間」の 経験には,五感以外に,自分の心を観ることも含 む.例えば,今,右手の肌の色に気が付いて,心 が驚いたかもしれない.その驚きという心の動き に自分が気が付いたならば,それは,そういう自 分の心の観察(モニタリング)をした「メタ認 知」と言われるものとなる(大谷,2014;熊野,

2012).

別の言い方をしてみよう.私たちは,直接的な

体験(「それ(右手)」)は,身体感覚(五感:視 覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚)ないしは感情とし て経験する.そして「それ」を,区別し,知覚す るのが,純粋な思考(「右手」)である.ところ が,次に純粋な思考についての思考が出てくる. このような状況を,マインドワンダリングとい う.この思考は,今を離れ,過去の記憶や未来に 関するもので,そうしたときに,私たちは評価を 入れてしまう.この二次的な思考は,注意をしな い限り,勝手にどんどん思考を推し進めてしま い,感情を巻き込んで,後悔や不安が増大してし まう.マインドワンダリングの際の思考や情動 は,「今,この瞬間」の現実ではなく,心のエネ ルギーを使わせる妄想であるともいえる(熊野,

2007).

マインドフルネスができてくると,明晰な認知 から,自己認識がおこり,妄想にとらわれること なく,どのような反応をとればよいのか柔軟に観 ることができるようになり,そして,その場,そ の場で,最も適切な対応をするための自己統制が 機能してくる.すなわち,明晰な認知→自己認識 →反応柔軟性→自己統制のサイクルを回すことが できるようになってくる.これが,マインドフル ネスと多様性,リーダーシップを考えるうえで重 要になる.

Ⅲ.マインドフルネスの働き:多様性とリー

ダーシップ

マインドフルネスに関する学術文献は,経営学 においては,これからというところだが,Har-vard Business Review が 2014 年 3 月 の Elen Langer の記事の掲載を皮切りとして,2015 年か ら 2016 年に,マインドフルネスに関する多くの 記事やブログ記事を載せ出した(Langer, 2014). ま た,2016 年 1 月 に Journal of Management に “Contemplating Mindfulness at Work: An Inte-grative Review”が掲載され,経営学のメインス トリームでもマインドフルネスが語られるように なってきた(Good et al., 2016).

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いて注意と気づきという大きな説明をしたうえ で,マインドフルネスは,注意に作用し,それ が,ヒトの認知,情動,行動,身体の 4 領域に作 用するとしている.そのうえで,組織にとっての 作用としては,パフォーマンス,人間関係,ウェ ルビーイング(個人や社会の幸福)に関係すると 整理されている.マインドフルネスは,非常に広 範囲に,また,複合的に影響すると考えられる (Good et al., 2016).

このような流れを受け,高等教育においても, スタンフォード大学が瞑想センターを建設するほ ど重要視したり(マーフィー重松,2016),ビジ ネススクールの教育においても,ニューヨーク大 学において,マインドフルネスを積極的に取り入 れた教育がスタートしている(Kim & Shy, 2015).

多様性とリーダーシップを考えるとき,マイン ドフルネスは,どう役に立つのだろう.ジェンダ ーに関しては,女性のほうが男性よりも鬱になり やすいことを考えると,マインドフルネスが役に 立つということは十分に考えられる(Cabrera,

2016).また,女性リーダーには,男性的に振る 舞うと嫌われ,女性的に振る舞うと尊敬されない が,男性的にかつマインドフルに振る舞うと,尊 敬されるという研究もある(Kawakami et al.,

2002).

しかし,一番,多様性とリーダーシップと関係 が強いのは,マインドフルネスが気づきを与える という点であろう.私たちは,文化という筋書 (スクリプト)の中で自動操縦的に情報を取捨選 択している.しかし,マインドフルネスは,明晰 な認知を可能にし,自分が今まで気が付いていな かった情報にもアクセスすることを可能にする. また,自分とは違うバックグラウンドを持つ他者 に対して,私たちは,自動操縦モードでは,カテ ゴリー付け(例:あの人はアフリカの人だ)やス テレオタイピング(例:アフリカの人はゆっくり している),勝手な理由づけ(例:あの人が昇進 しないのは,アフリカの人なのでテキパキしてい ないからだ),評価(例:アフリカの人は,この 会社には適さない)や感情(例:アフリカの人と 一緒に働くのはいやだ)にとらわれがちになる

(Thomas & Inkson, 2009).しかし,そういう思 考や感情を自分でモニタリングすることにより, マインドフルネスでは,明晰な認知→自己認識か ら,自分の自動操縦的な思考や感情に気づき,反 応柔軟性→自己統制を行うことができる.

また,このプロセスの中で,自己認識ととも に,他者の思考や感情も明晰に知覚できるように なり,「今,この瞬間」に集中することにより, 過去への後悔や未来への不安などの妄想に囚われ ないで,様々な反応のオプションが見えてくる. よって,反応の選択の幅が広がり,より効果的 に,明晰な認知→自己認識→反応柔軟性→自己統 制を行うことができる(Thomas & Inkson, 2009).

このような点から,異文化コミュニケーション によるアウェアネスの実践(岩田,2014)や,中 国に学生を連れていく準備段階としてのクロスカ ルチャー教育への応用(Tuleja, 2014)なども報 告されている.また,多様性ということでは,自 分の文化とは違う対応を必要とし,不確実性に対 応する場面が多いだろうが,マインドフルネス は,一瞬,一瞬に注意を向けることにより,不確 実性に対する耐性をあげ,また,今までは気が付 かなかったようなオプションに目を開かせ,適応 力を向上させると考えられるため,有効であり, グローバルリーダーに必要な能力だという意見も ある(Chandwani & Kedia, 2015).

Ⅳ.マインドフルネス・ムーブメントの広がり

マインドフルネスはアメリカ文化に深く入り込 んでいる(Wilson, 2014).アメリカにおけるマ インドフルネスの大衆化には,第二次世界大戦以 後のアメリカにおける東洋思想の広がりという土 壌がある.1960 年代から 70 年代には禅がブーム になり,1980 年代からはチベット仏教,1990 年 代には上座仏教が広まった(青野,2014).

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伊藤,2016).サンフランシスコ禅センターは, 後に述べる SIY の共同開発者であり,Search In-side of Yourself Leadership Institute(SIYLI) のマーク・レッサーをはじめとする主要な人物 や,コンパッションで有名なウパヤ禅センターの ジョアン・ハリファックス老師などにも影響を与 えている.

これとは別に,禅の世界で,マインドフルネ ス・ムーブメントを大きく進めたのは,ベトナム 出身の禅僧,ティク・ナット・ハン師である.か れのマインドフルネスは,社会の平和のために は,個々人の内なる平和が出発点になるという考 え方で,社会参加仏教(engaged Buddhism)と 言われ,人々の心をつかんだ(大谷,2014).

また,禅と並行して,テーラワーダ仏教のヴィ パッサナー瞑想が導入され,これがマインドフル ネス瞑想の柱となっていく(青野,2014;藤田,

2014;大谷,2014).

このような動きの中で,マサチューセッツ大学 医学部附属病院のジョン・カバットジンは,テー ラワーダ仏教の枠組みとヨガを組み合わせたマイ ンドフルネスストレス低減法(MBSR)というプ ログラムを作った(貝谷・熊野・越川,2016;大 谷,2016).これは,病院という公的な機関で行 うので宗教的色彩を排除した 8 週間のプログラム であり,その効果が検証されている(井上, 2016;大谷,2016).また,その後,心理療法の 世界でマインドフルネス認知行動療法が作られ, これが,認知行動療法の第三の波と言われている (伊藤,2016;熊野,2012).

また,1990 年前後から,ダライ・ラマ師と科 学者たちが,2500 年にわたる仏教の心の理解を 認知・神経科学の両面から検証しようとする動き をおこし,マインド・アンド・ライフ・インステ ィチュートが創設される.ダライ・ラマ師の協力 のもと,脳科学者のリチャード・デービッドソン が瞑想と脳の研究を MRI を使って行い,脳の可 塑性の研究の進展とも合わせ,マインドフルネ ス・ムーブメントの広がりに拍車をかけた(永 沢,2016b;永沢・藤田,2016;大谷,2014).

アメリカにおける大衆化されたマインドフルネ

スには,いくつかの特徴がある.

① 仏教から瞑想などの心の技術が切り離され て い る( 宗 教 色 の 排 除 )( 大 谷,2014,

2016).

② その過程で,上座部,大乗(禅やチベット 仏教)など,色々な仏教の瞑想が,バラバ ラにされ,自由に組み合わされてパッケー ジ化されている(例えば,Harifax〔2008〕 の中では,本国であれば修行を長く進めな ければ教えてもらえないような瞑想法が, 公開されている)(Harifax, 2008;中川,

2016).

③ 科学的検証に力が入れられて,人々にとっ て,受け入れやすくなっている(大谷,

2014,2016).

④ ベトナムやチベットという背景を受け,世 界の平和や秩序,社会への関心がみられ る.この系統のマインドフルネスは,自己 の心の探求や気づきを組織や社会にまで展 開する,『学習する組織』,『出現する未 来』,『U 理論』のピーター・センゲやオッ ト ー・ シ ャ ー マ ン 達 の MIT グ ル ー プ (Senge, 2005;Senge et al., 2006;Sharm-er, 2009;Sharmer & Kauf2006;Sharm-er, 2013),ダ ライ・ラマ師の思想(辻村,2006b)やブ ータンや国連,OECD の幸福度の指標の 議論(永沢,2016c;岡部,2015;上田, 2016)にもつながるが,紙幅の関係で, 本稿では述べない.

⑤ マインドフルネスが,社会の様々なところ で使われている.宗教はもとより,教育 (高等教育・学校),心理療法・身心医療, ターミナルケア,ビジネス・組織・リーダ ーシップ,司法・社会変革,平和活動・紛 争解決,コミュニティ開発などでの応用が さ れ て い る(Barbezat & Bush, 2011; Boyce, 2011;Geles, 2015;Willson,

2014).

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ている.なんでもかんでもマインドフルネ スをつけて売るという商業化が著しく, 揶 揄 さ れ る ほ ど で あ る(Geles, Mar. 20,

2016;Willson, 2014).

マインドフルネスの広がりは,英国や,その他 の国々でも顕著である.例えば英国では,議会が マインドフルネスをしたり,学校でのマインドフ ルネス教育実験が行われたりしている(Mindful-ness All

-

Party Parliament Group, 2015;Hudson & Lawton, 2016).このように欧米では,マイン ドフルネスは,一つの産業といえるほどの盛り上 がりを見せている.

日本においては,欧米由来のマインドフルネス は,2010 年に日本マインドフルライフ協会が設 立され,2013 年には,日本マインドフルネス学 会が設立されている(藤田,2014).NHK でも, 「おはよう日本」(2014 年 11 月),「NHK スペシ ャル」(2016 年 6 月),「サイエンス ZERO」(2016 年 7 月),「ためしてガッテン」(2016 年 9 月予定) と 放 映 が 続 い て い る. ま た,『PRESIDENT』 (2016 年 4 月 4 日 号 ) や 日 本 経 済 新 聞 の 記 事 (2016 年 8 月 9 日)以外にも,一般を対象とした 雑誌,例えば,『Tarzan』(2016 年 6 月 23 日号) や『anan』(2016 年 7 月 20 日号)でも取り上げ られるなど,2016 年に入りマインドフルネスに 対しての注目が集まり,大衆化が始まっている. また,このような動きを受け,マインドフルネス は日本の仏教の在り方にも影響を与えようとして いる(藤田・山下,2013;山下,2014).

Ⅴ.マインドフルネスの練習

マインドフルネスの練習には,どういうものが あるのだろうか.後述する SIY のプログラムを はじめ,マインドフルネスをビジネスへ応用する リーダーシップ研修でも,カバットジンのマイン ドフルネスストレス低減法の練習が標準となるの で,ここに紹介する(井上,2016;Gunaratana,

1992;Verni, 2015;Tan, 2012;Kabat

-

Zin, 1990).

① 呼吸の瞑想:まず,どうしてこの瞑想を行

うのかの意図を心の中で確認し,呼吸をた どり,その時の意識は,呼吸に集中しつつ も,オープンで,平静な意識である.やが て,気が散り,マインドワンダリングが起 こり,過去の思いや,心配をしたり,未来 のことを空想したりする.それに気が付い て(メタ認知),再び,意識を呼吸に集中 させる.その時には,マインドワンダリン グをした自分に対して,自己批判をするの ではなく,優しい気持ちと好奇心をもっ て,接する.また,マインドワンダリング がおこるので,メタ認知し,注意を息に戻 すということを繰り返す.

② 歩く瞑想:一歩ずつ,小さなステップでよ いので,ゆっくりゆっくりと歩く.足を出 すという動き,筋肉,重力,空気,重心の 移動,足が地に着くときの感覚など体内の 感覚に焦点を当てる.

③ レーズンエクササイズ(食べる瞑想):一 粒の干ぶどうを時間をかけてゆっくりと食 べる.まず,干ぶどうを手に取り出し,見 て,匂いをかいだりしてから,ほんの少し ずつ食べ,口中の感覚の変化などに焦点を あてる.

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Ⅵ.日本文化とマインドフルネス

現在,日本で言われているマインドフルネス は,欧米から逆輸入されたものである.しかし, 日本文化は,禅の影響を受けているものも多く, マインドフルネスは,多くの日本文化に散見され る(鈴木,2005).

例えば,戦国時代から江戸時代の初期にかけて 活躍した禅僧の沢庵は,剣豪,柳生但馬守の師で あったが,柳生宗則宛の手紙「不動智神妙録」を 書き,剣禅一如について述べている.その中で は,有心の心,無心の心という記述があり,「有 心の心と申すは,妄心と同事にて,有心とはある こころと読む文字にて,何事にても一方へ思い詰 める所なり.心に思う事ありて分別思案が生ずる 程に,有心の心と申し候」「無心の心と申すは, ……固まり定まりたる事なく,分別も思案も何も 無き時の心,総身にのびひろごりて,全体に行き 渡る心を無心と申す也」とあり,要するに命の取 り合いとなる剣の試合において,相手の出方に対 して思考をしてしまうと負けてしまうが,マイン ドフルネスな心の在り方でいることが,明晰な知 覚→自己認識→反応柔軟性→自己統制(適切な剣 の対応)を引き出し,柳生新陰流の極意となると いうことを言っている(沢庵,2011,p. 80).剣 道以外にも合気道など,日本の武術とマインドフ ルネスの関連は深い(Lothes, 2013).

日本の文化は,日常の所作でも「道」にしてし まうが,これらの「道」には,マインドフルネス を基本としているものが多い.例えば,茶道で は,五感を通じて茶室のしつらえ,茶や菓子や食 事・動作や作法などを楽しみ,人々が集う茶会で は,所作や作法の中に,知覚→自己認識→反応柔 軟性→自己統制(適切な主と客の対応)の要素が 入っている(岡本,1999)(マインドフルネスと 平和運動については,本稿では詳しくは述べない が,茶道の裏千家 15 代家元であった鵬おう雲うん斎さい氏の 行っている「一椀からピースフルネスを」の活動 にも通じるものがある〔千,2003〕).

また,能の世界では,世阿弥の言葉に,「離り見けん

の見」という言葉や,「目もく前ぜん心しん後ご」という言葉が あるように,ある役を演じている自分を離れた客 席から見ていたり,自分の眼は前を見ていても心 は後ろにおいてあるというような,メタ認知(知 覚→自己認識)が演者には求められ,そこから, 反応柔軟性→自己統制によって,よい舞台が作ら れる(鎌田,2016).香道は,嗅覚の知覚をベー スにしているし,華道は,例えば,「薔薇」を薔 薇というラベル付で見るのではなく,その色,花 弁,大きさ,形,つや,香,生命力などを,その まま知覚することによって,花,自分,宇宙を表 現していく芸術である.また,日本で発達し,世 界的にもひろまった俳句は,短く,瞬間,瞬間を 知覚し切り取り,五・七・五の言葉に凝縮させて いく(Nugent, 2011).

長々と日本文化のマインドフルネス的要素につ いて述べたのには,理由がある.意識されたかど うかは別として,昔の日本のリーダーの多くは, 武道や文化芸術の分野における「道」に何らかの 接触をし,影響を受けてきた(例えば,有斐斎弘 道館の理事であり,京菓子老舗老松の当主で茶人 でもある太田達氏によれば,20 ~ 30 年前までは 京都のビジネス界で茶道をたしなまないリーダー はいなかった,との話である).リーダーシップ 教育と銘打っていなくても,昔の日本のリーダー には,マインドフルネスの要素を持つ訓練に接す る機会があり,それによって,自己認識からくる 胆力や平常心,他者とのコミュニケーションにお ける多様な考え方を持つ他者を包み込む大きさ や,腹芸と言われるようなものを培ってきたので はないかと思われる.そして,それは,いわゆる 「リーダーシップ研修」のような個人の利エ益ゴや即 効性を求めていなかったからこそ,かえって効果 的であった可能性もある.日本におけるマインド フルネスを使ったリーダーシップ研修を考えると き,文化的素養について考慮する必要があるだろ う.

Ⅶ.世俗化したマインドフルネスへの懸念

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は導入期であるということもあり,その効用が強 調されているが,マインドフルネスや瞑想には注 意点や批判もある.特に,マインドフルネスが流 行し,産業として成り立ち,商業主義が席巻して いる中では,心配な点も出てくる.

まず,瞑想についてであるが,マインドフルネ スは,安全とされてはいるが,それでも,トラウ マ記憶に対してのコーピング能力など,個人によ っての安全性の問題や,禁忌がある(大谷,

2014).

また,そもそも,瞑想は,昔から経験を積んだ 師について行う活動であり,軽く 1 日 5 分の瞑想 をしている分には問題ないかもしれないが,深い 瞑想を長時間するような場合には,自分に適した 師を探すということが重要になってくる.禅病と いう言葉があり,白隠禅師でさえも禅病になった というように,瞑想から気分が悪くなったりする 可 能 性 も あ る( 斉 藤,2003; 鈴 木,1999). ま た,瞑想によって,大きく人生を変えたくなり, 現実社会での困難に直面するということも考えら れる.そのような際にも,適切なアドバイスを与 えることのできる経験者が必要となる.果たして 日本には,そういう経験者がいるのであろうか. (大谷,2014).

また,世俗化したマインドフルネスは,現代資 本主義の価値観の中で,集中力やパフォーマンス の向上といった個人の利エ益ゴに訴えてひろまってお り,それに対しての懸念も表明されている.極端 な例であるが,マインドフルネスは,兵士にも応 用されているが,マインドフルネスで不安を解消 させて殺戮をすることが望ましいのかという疑問 がある.

マインドフルネスは,本来は「悟り」や,人間 の高度な精神性や進化と関連する知恵であるが, 一番大切なことを忘れているのではないかという 疑問が出されている.「「日本のマインドフルネ ス」 に向かって」という論文で,曹洞宗国際セン ター所長の藤田一照師は,マインドフルネスは, 世俗化しすぎたために,ただ単なる注意のスキル としてとらえられており,本来は,「凡夫が仏 (覚者)に成るという仏教の大きな宗教的ヴィジ

ョンの中で洗練・深化されてきたサティが,その 世俗的な有効利用の可能性を探る過程で高い理想 や目的を失って,凡夫のための注意力の増進,ス トレス低減の自己修養(self

-

help)メソッドにな ってしまったのではあまりにも惜しいといわなけ ればなるまい」(藤田,2014,p. 25)と述べてい る.

加えて,藤田は,「観察対象が自分とは別に存 在しているというのは仏教の観点からすれば根本 的に誤った考えであり,(中略)二元論的マイン ドフルネスはその性格からして自我行,有為的 (人工的)行為であらざるを得ず,貪り,怒り, 無知が入りこんできて,葛藤や困難,無理強い, 焦り,悲壮感といったさまざまな実修上の不都合 が生じてくることになる……」(藤田,2014,p.

26)と心配する.この問題に関しては,藤田以 外にも,欧米でも,懸念が出されている(Dunne,

2011).

凡夫の筆者の理解ではあるが,マインドフルネ スによって,自動操縦や感情の条件付けから,気 づくことによって解放された「わたし(という意 識)」は,(現象世界である身体,思考,感情とい った空のレベルではなく),その「わたし(とい う意識)」の奥に沈潜する人間存在の真の本性と しての,もっと広大な心,自他の境界のない(統 一)意識に至ることができるのかもしれない.そ の「悟りへ至る道」の部分を,世俗化したマイン ドフルネスでは切り捨てているのではないかとい う危惧なのであろう.

では,これらの心配に対して,最も世俗的なマ インドフルネスの応用ともいえるリーダシップ研 修は,どのように対応しているのであろうか.そ して,それは,今後,マインドフルネスを応用し た多様性とリーダーシップの訓練を考えていくう えで,どういう意味があるのだろうか.

Ⅷ.サーチ・インサイド・ユアセルフ研修

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行している.SIY は,多様性にピンポイントをあ てたものではないのだが,研修は,多様性の中で のリーダーシップ開発に大変役立つ内容となって いる.

この研修は,以前は MBSR にならって 8 週間 で行っていたそうだが,なかなか社員の継続的な 参加が得られないことから,2 日間の集中となっ ている.元 Google 社員で,この開発に携わった チャディー・メン・タムが同名の書籍ともしてい る(Tan, 2012).この 2 日間の研修を Google 社 以外にも広げるために,サーチ・インサイド・ユ アセルフ・リーダーシップ・インスティチュート (以後 SIYLI)が設立された(Guelles, 2015:サ ンガ,2015).一般向けのセミナーの指導者養成 プログラムは,2014 年に 35 名,2015 年に 65 名 を対象に行われ,現在は停止している.

筆者は,2015 年に,SIYLI の行う指導者養成 プログラムに参加する機会を得,2 月から 12 月 までの間に,4 回,各 4 日間,合計 16 日間のセ ミナーを受けた.また,その間には,スカイプに よるモニタリングなども頻繁に行われた.今後, 日本で,マインドフルネスをベースとしたリーダ ーシップ研修の導入を考えていくうえでも,先に 述べた多様性とリーダーシップという意味でも, 役に立つと思うので,この研修や,SIYLI の性格 について,指導者養成プログラムで見えてきたこ とについて詳しく紹介する.

1.SIY と禅

SIY のプログラムを作って,運営しているの は,いったい誰なのか.SIYLI の CEO は,マー ク・レッサーという曹洞宗の禅僧で,サンフラン シスコ禅センターに長くかかわり,また,カリフ ォルニアのタサハラ禅センターの運営をしていた 人で,他の関係者も禅関係者が多い.ノーマン・ フィッシャーというスタンフォード大学の卒業式 のスピーチに招かれるような,有名な禅僧もかか わっている.Google という看板を掲げつつも, あまりに禅関係者が多く,禅の普及・仏法の布教 をしているのではないかとも思えてくる.

指導者養成プログラムへの選抜方法も,最低条

件として,2000 時間以上(毎日,1 時間瞑想をし ていても,5 年半かかる)の瞑想経験があること と,少なくとも何回か,7 日から 10 日間のお籠 り修行(瞑想合宿)を経験していることが条件と された(筆者の瞑想経験は,2000 時間もなかっ たので,この基準の適用は,緩やかだったのかも しれない).書類審査以外に,自己アピールを, 5 分間のビデオにして YouTube にアップし,審 査された.2015 年度は,世界中から応募があり, 高い倍率であったとのことであるが,多くは,仏 教関係者や MBSR のトレーナーであった.マイ ンドフルネスの世界では,非常に有名な WEB ベ ースの有料瞑想アプリサイトであるヘッドスペー スの創業者や,シリコンバレーの世界的 IT 企業 へのマインドフルネスの導入を行っている人など も参加していた.セミナー中には,全く自然に, 仏教の集団を表す「サンガ」という言葉が出, 「Dharma(法・仏法)」という言葉が,参加者の

中から出ていた.

はじめに,ノーマン・フィッシャーの作った SIY を教えるための 7 つの原則というものを教 えられた(SIYLI, 2015b).以下に記すが,これ は,セミナー講師に対するものというよりは,禅 の修行者に対するもののように,筆者には思え た.

① 仕事を愛すること

ただ単に知識やスキルを伝えるのではなく,マ インドフルネスと EQ を企業や組織に持ち込むこ とを愛すること.

② 仕事(修行)をすること

毎日,瞑想し,時には,お籠りをし,マインド フルネスと EQ を取り入れて日常を送ること.

③ 仕事に対して初心の心でいること

常に学び,成長し,疑問を持ち続けること.エ キスパートになってはいけない.道に驚き続ける ことで,師になっていく.

④ 自分の痛みを感じつながっていること(苦 を知る)

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者の苦を知る)

たとえ,他者が,その人の痛みや苦しみについ て語っていないときでも,他者の苦とつながって いること.他者の苦に対して慈悲,慈愛の心で接 し,その心に基づいて教えること.

⑥ 他者を頼ること

いかに自分は他人に頼って生きているかを認識 し,セミナーでも参加者を頼って,参加者に応じ てセミナーを行うこと.

⑦ シンプルにすること

時を経るにつれ,多くのことを語らずとも,自 己の在り方がすべてを語るように,シンプルにし ていくこと.他人の面倒を見るように,自分の面 倒も見ること.

2.SIY のプログラムの構造

SIY は,マインドフルネス,脳神経科学,そ して EQ を組み合わせたものである.EQ の提唱 者,ゴールドマンによると,EQ は,自己認識, 自己統制,モチベーション,共感,社会的技能の 5 つから構成される.ゴールドマンによると EQ の中でも自己認識は他の構成要素の基本となるも のである(Goldman, 1996).チャディー・メン・ タンは,自己認識はマインドフルネスによって訓 練することができ,よって,EQ をマインドフル ネスによって訓練することができると考えた (Tan, 2012).また,マインドフルネスに関連す る脳神経科学の知見を語ることにより,SIY は, 瞑想や慈悲を扱っていても,宗教色を排除し科学 に訴えることで Google 社のエンジニアにも受け 入れやすいものとなっている(SIYLI, 2015a;

Tan, 2012).

2 日間の SIY は,大きく 4 つの部分から構成 されている.1 日目の午前中は,マインドフルネ スと EQ についての導入,1 日目の午後に EQ の 自己認識と自己統制,2 日目の午前中に,EQ の モチベーションと共感,午後に EQ の社会的技能 も含めて,今までやってきたことの統合をし,リ ーダーシップへとまとめていく.これらすべての 段階にマインドフルネスのエクササイズが段階を 追って配置されている.

SIY のプログラムについて分析してみると, 前半と後半の 2 つに分けて考えることができる. 前半は,EQ の自己認識,EQ の自己統制の部分 で,この部分は,マインドフルネスの明晰な知覚 →自己認識→反応柔軟性→自己統制が機能する部 分であり,二元論の世界である.

この前半の部分は,前述した,多様性とリーダ ーシップのコンテクストで考えると,マインドフ ルネスが文化の自動操縦を止めるという部分に対 応する.

一方,後半のモチベーション,共感,そして, コンパッションと統合としてのリーダーシップの 部分は,(参加者にはそれとわからないように, 非常に巧妙に隠されているのだが)マインドフル ネスを超えた「悟り(一元論)へ至る道」に導く ような世界であり,欲を手放し,自他の区別なく (少なくとも他者をアイデンティティレベルで受 け入れ),広大な意識の一部としての自分を感 じ,慈悲や菩提心のある菩薩としてのリーダーへ いざなうことを,脳科学の説明や実修を通して行 うという構造になっている.

この後半部分は,多様性とリーダーシップのコ ンテクストで考えると,仏教というものの持つ, 根源的な平等観や宗教的ヴィジョンに触れるもの である.本質的な人間としての生き方,道,悟 り,というような奥行きをもたらすものである. 上記のことを念頭に,詳しく見ていく.なお, 以下の説明において,いちいち参照はつけない が,日本語翻訳の多くは,タンの 2016 年版の邦 訳と用語を統一している(タン,2016).

32日間のプログラムの実際

1 日目午前中 導入

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EQ に関する脳神経の働き(思考脳と情動脳,情 動の統制,偏桃体ハイジャック)は,マインドフ ルネスの練習によって変化させられ,EQ を向上 させることができる.

実修としては,まず,注意の訓練として,呼吸 の瞑想を行う.時間を決めてとにかく書くという ジャーナリングを行い,相手にマインドフルな注 意を向けて,聞くこと(傾聴)を行う.

1 日目午後 自己認識

自己認識は,EQ の根幹となる領域である.私 たちの身体は,私たちの感情に対しての重要な情 報を与えてくれる.私たちは,マインドフルな注 意を自分の身体に向けることによって,自己認識 することができる.見方を実存(私は)から,身 体的気づき(経験)へシフトさせる(「私は怒り そのものだ」ではなく,「私は身体で怒りを経験 している」というふうに).

実修としては,ボディスキャン,ジャーナリン グを行い,相手にマインドフルな注意を向けて聞 きつつ,自分の状態もモニタリングしたあと,相 手に話の内容を返してあげる,マインドフルな会 話を行う.

1 日目午後 自己統制

自己統制は,衝動から選択へということであ る.そのために,情動の統制の神経モデルを理解 し,情動を誘発(トリガー)されるような場面へ の対処を学ぶ.身体反応としての情動に気が付 き,どのように反応するかを選択する.

実修としては,SBNRR:Stop, Breath, Notice, Reflect, Respond(停止する,呼吸する,気づ く,よく考える,反応する)を行う.

1 日目で,明晰な知覚→自己認識→反応柔軟性 →自己統制が完結する.

2 日目午前中 モチベーション

モチベーションとしては,過去の記憶や,社会 の要請などからくる目的(すなわち自動操縦の目 的)ではなく,自分の価値観から生じる内発的な 動機付けが重要である.私たちは自分の価値と自

分がアラインメントできているかどうかを自己認 識によって知ることができる.

実修としては,自分の価値観を明確化させる実 修,将来ヴィジョンに関する実修(過去の延長で はなく,最高に素晴らしい 5 年後の未来について 書き,それを他の人と話し合う)を行う.この部 分は,非常に深読みをすれば,自分の価値観がと ても深いところでは,なにか広大なものとつなが っているということに気が付き,一元論への目覚 めとなる可能性がある.

また,レジリエンスのための瞑想を行う.この 瞑想では,自分の失敗経験,成功経験とその時の 感情を想起させ,その身体感覚の変化を経験させ ることにより,失敗や成功に対して,それは記憶 に感情が被さって経験する,身体感覚の変化でし かないのだという気づきを与える.この部分も, 非常に深読みをすれば,失敗や成功を達観して, 一喜一憂しなくなることにより,欲や執着を手放 す方向へいざなっている.

2 日目の午前中 共感

共感は,自己認識によって生み出される.自分 の感情に対しての自己認識(身体・情動の認識) と,どうしてそういうふうに感じているのか(思 考やメンタルプロセスについての認識)が高まる と,他人の感情や情動に対して理解しやすくな る.

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2 日目の午後 社会的技能として,今までやって きたことの統合,コンパッション,リーダーシップ

コンパッションは,慈悲,思いやり,とも訳さ れる.これは,チベットのダライ・ラマ師が一番 強調しているテーマである(永沢,2016a;辻 村,2016a).コンパッションについて,SIY で は,「他者の苦しみに対する気遣いの感覚と,そ の苦しみが取り除かれるようにしたいという強い 願望を伴う心の状態である」と,ダライ・ラマ師 の通訳をしていた人の説明を紹介している(タ ン,2016,p. 290).コンパッションは,共感と は別物で,共感に反応する脳の部位と,コンパッ ションの部位は別である(Klimecki et al., 2014; Singer & Klimecki, 2014).トレーニングをする ことによってコンパッションを感じる脳の部位を 強めることができる(ヒトをコンパッションにす ることができる)という研究がなされている (Singer, 2015a).また,タニア・シンガーは,こ の実験結果を,ダボス会議で発表するなど,コン パッションの経済の可能性についても,国際的に 影響力のある場で語られている(Singer, 2015b). 実修としては,コンパッションについてのジャ ーナリング,「やっかいな会話」(Patton, Stone,

Heen, 1999),マインドフルネスと EQ を日常生 活にどう応用し継続させるか,そして,自分はど ういうリーダーか,というプレゼンテーションを 行わせる.「やっかいな会話」の実修の中では, 単なる傾聴を超えて,相手のアイデンティティに まで思いをはせる練習をする.これも,深読みで はあるが,相手のアイデンティティを考えるとい うことは,相手の存在すべてを好き嫌いなく受け 入れるという心的態度に通じ,非二元的な自他の 認識に通じるものである.

また,SIY では,EQ の文脈でコンパッション が紹介されているが,EQ の推奨者であるダニエ ル・ゴールマンは,ダライ・ラマ師とも近しく, 師からコンパッションについて学んでおり,EQ とコンパッションは相性がよい(Ovans, 2015). なお,コンパッションについて付記しておくと, マインドフルネス認知行動療法でも,セルフ・コ ンパッション(優しさ kindness,人間みな同じ

という感覚,およびマインドフルネス)が取り入 れられ,その有効性が認められている(伊藤,

2016).

4.SIY プログラムとマインドフルネスに対す る懸念

世俗化したマインドフルネスに対する懸念につ いて,先に述べたが,SIY プログラムは,それに どう対応しているのであろうか.

まず,瞑想は師について行うものだと述べた が,SIY で紹介される瞑想は,わざと軽いところ で止めて,導入に徹している,という印象を持っ た. ま た, ト ラ ウ マ に 触 れ る 可 能 性 の あ る SBNRR やレジリエンスのための瞑想のあとに は,情動レベルまでにも配慮をした傾聴を配置す ることで,思わぬ事故が起こるのを予防してい る.また,指導者には,瞑想の経験を条件とした うえで,養成訓練を行っている.

資本主義の中,物質主義の中でのマインドフル ネスではないか,という批判に対してはどうだろ う.SIY は,個人の利エ益ゴを意識的に強調して,そ こへ脳科学の話を入れ,瞑想などへの恐怖を弱め て,プログラムへの参加者を募るようにしている とみることもできる.ある意味,SIY は,資本主 義の中で物欲,金銭欲にまみれ苦悩する凡夫へ の,仏教からの誘いと考えることもできる.しか し,SIY の価格設定など,注意して今後の進展を 見ていくべき問題もある.

藤田(2014, 2016a, 2016b)などが出した,二 元論ではないかという批判に対しては,SIY の中 では,深読みをすれば,コンパッションを入れる ことにより,一元論へいざなうような実修が,後 半を占めている.サンフランシスコ禅センター関 係者が中心となって考え抜いたプログラムであ る.

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なお,筆者は,2015 年に,トレーニングの一 環として,SIY を,日本人社会人 MBA 学生に対 しては日本語で,また,留学生の MBA 学生に対 しては英語で行い,好評であった.2016 年には, 留学生に対しては,茶会を行うなど,日本なりの マインドフルネスの授業を試みている.

Ⅸ.最後に

本稿では,多様性とリーダーシップに考慮しつ つ,マインドフルネスに基づくリーダーシップ研 修としては,先行事例である Google 社で開発さ れた SIY について,その背景,プログラムの構 造,開発運営者,指導者の育成方法などのコンテ クストも含め,詳しく分析・考察した.

マインドフルネスには,禅が深くかかわってい るが,世俗的マインドフルネスには,心配な面も 指摘されている.その中には,①瞑想には注意が 必要であり,経験者が指導する必要がある,②現 代資本主義の物質的価値観の中で,本来は悟りへ 至る道のためのマインドフルネスが,個人の利エ益ゴ に訴えて広まっている,③注意のスキルとしての マインドフルネスでは,観察対象が自分とは別で あるという二元論が前提となっているが,それは 仏教の観点からは根本的に誤った考えである.

このような問題を抱えながらも,SIY は,基本 的には禅の関係者を中心として作られ運営されて いるプログラムである.SIY を分析してみると, ①深い瞑想はあえてしないようにしており,瞑想 経験者でないと指導させないようにしている,② わざと,個人の利エ益ゴを刺激して,凡夫をマインド フルネスやコンパッションの覚者への道(仏教の ビジョン)に誘っているふしがある,③プログラ ムの前半は,二元論的マインドフルネスを行って いるが,後半は,EQ のもと,一元論につながる 様々なアプローチがとられ,広大な心,自他の境 界のない意識につながり,コンパッションへとい ざなうアプローチとなっている.

多様性とリーダーシップに関して考えると, SIY は,二段構えで作用すると考えられる.す なわち,前半のマインドフルネスでは,先に述べ

た,明晰な認知→自己認識→反応柔軟性→自己統 制が機能している.しかし,そこには,自他の区 別がある.SIY 後半にみられるのは,仏教の持つ 人間の平等観をベースに,自他の境界のない意 識,コンパッションへといざなうアプローチであ る.多様な背景を持つ人を包み込むリーダーシッ プという点で,強力であり奥深い.なお,マイン ドフルネスやコンパッションを強調したリーダー シップは,サーバント・リーダーシップや,トラ ンスフォメーショナル・リーダーシップとも関係 が深いことを指摘しておく(Good, 2016).

さて,マインドフルネスを多様性とリーダーシ ップのためのトレーニングとして活かしていくた めに,日本の企業やビジネススクールは,どうす べきだろうか? 以下,必要と思われることを述 べておきたい.

① マインドフルネスを正しく理解する マインドフルネスは,産業化しており,消費財 となり,効果についても過大な期待をもたせる宣 伝もある.そのような潮流の中では,マインドフ ルネスの問題点や懸念についての認識が必要であ る.マインドフルネスを正しく理解することが肝 心で,そのためにも,生活の中にマインドフルネ スを取り入れ,自分の人生の中で体験していくこ とが大切である.

② 日本文化のもつマインドフルネスの強み, それゆえの難しさを理解する

日本文化には,マインドフルネス的要素が散見 される.昔のリーダーシップは,このような文化 の中で,自然に身につくものとしてはぐくまれて きた.このようなものが,社会の中にあり,わざ わざリーダーシップ研修と銘打たなくても経験 し,日常に取り入れられることは,日本の強みで ある.しかし,伝統的な文化の中で,形骸化され ているものもあり,マインドフルネスという面か らは,アップデートが必要なものもある.文化が あるゆえの難しさを認識しておくことの必要性で ある.

③ コンパッションの重要性

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ンを加えることにより,広大な心,自他の区別の ない境地になるべく近づいていくことが,ことに 多様性とリーダーシップの観点からは重要であ る.

④ 開発と検証作業

実際に,日本人に向いた内容の,多様性に配慮 した,マインドフルネスとコンパッションを使っ たリーダーシップトレーニングを開発,実施し, 検証作業を行うことが必要である.

⑤ 指導者,研究者の養成機関

④を行うために,日本において決定的に不足し ているのは,指導者と(体験のある)研究者の養 成である.SIY のトレーナー養成のプログラムに 入るのには,最低でも 2000 時間の瞑想経験を必 要とすると記したが,瞑想を含むプログラムの指 導者は,一朝一夕には養成できない.また,マイ ンド・アンド・ライフ・インスティチュートが瞑 想と科学の発展に果たした役割について述べた が,ハーバード,スタンフォード,オックスフォ ード,UC バークレーなど,欧米のトップ大学に は,同じような趣旨の研究所や教育機関ができて いる.研究者の養成とともに,指導者の養成も行 う機関が必要である.

⑥ グローバルなウェルビーイングの議論に注 意を払う

紙幅の関係から,本稿では述べなかったが,マ インドフルネスやコンパッションは,ダボス会議 でセッションが設けられるなど,世界的なウェル ビーイング(個人だけではなく,社会も含む幸 福)の議論や思想に影響を与えている(Scharm-er, Jan. 14, 2014).グローバルには,国連の持続 可能な開発目標は 2016 年から 2030 年までの人類 の課題解決目標であるが,日本や先進国も含み, その中にも,ウェルビーイングが盛り込まれてい る(UN, 2016).達成状況が指数化されるなどの 動きもあり,議論の動向に注意を払う必要があ る.

⑦ AI や人間拡張工学など,今後の技術的動 向に注意を払う

現時点でのマインドフルネスの大衆化は,動画 や瞑想アプリの開発など,技術の進展とも関連が

深い.例えば,positive computing という考え方 があり,今後は,AI や人間拡張工学との動向に よって,例えば,自分の瞑想状態のバイオフィー ドバックや,ウェアラブルによるマインドフルネ スやコンパッションの訓練が一気に進むことも考 えられる.それが,急速に人間の意識や潜在能 力,ウェルビーイングを向上させることになるか もしれず,AI やロボティクスで先行しているの が Google 社であることも興味深い(Calvo & Pe-ters, 2014;稲見,2016;宮地,2016).マインド フルネスは,人類の意識の進化とともに,将来そ れを制するのはいったい誰なのか,という問題と もつながる.

謝辞

同志社大学中川吉晴教授の授業や,2016 年 3 月 29 日に 開催された同志社大学 Well-being リサーチセンター設立 準備セミナー「日本発ウェルビーイング論を考える」での 発表者諸氏に,多くのヒントを頂戴した.また,本研究は 部分的にオムロン基金の補助を受けて行われた.

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参照

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