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ゲーム理論と財政:電波オークションの薦め

安田 洋祐

初出: 2011 年 2 月

情報化社会の進展とともに,情報インフラとして公共電波の重要性が増してい る.通信サービスのカギを握る電波周波数を公正かつ効率的に割り当てる方法と して,日本でも「電波オークション」の導入が検討されている.電波オークション で先行した米欧のケースを検証し,メリットを探ってみよう.

希少な公共財である電波の利用免許をオークションで販売するというアイデア は,世界各国で実践され,成功を収めてきた.そのオークションの分析や制度設 計で活躍してきたのが,経済学で戦略的な意思決定問題を扱う「ゲーム理論」と 呼ばれる分野だ.

オークションは半世紀ほど前から積極的に研究が進められ,1996 年の故ウィリ アム・ビックリー米コロンビア大学教授,2007 年のロジャー・マイヤーソン米シ カゴ大学教授の 2 人が,ゲーム理論を使ったオークション分析の功績でノーベル 経済学賞を受賞した.

理論から実践への転機が訪れたのは 1994 年である.米国の連邦通信委員会が ゲーム理論の専門家に依頼し,電波の割り当てをオークション方式に変更したの だ.それまでは,米国でも日本の現行制度と同様,政府が事業計画を基に直接事 業者を選んでいた.

新たなオークション方式は,割り当てプロセスを短縮化・透明化し,収益性の 高い企業の参入を実現するという本来の目的に加え,莫大な政府収入をもたらし た.予想外のオークション収入は大きな社会的関心を集め,当時の米紙「ニュー ヨーク・タイムズ」でも「史上最高のオークション」の見出しで,大々的に取り 上げられた.

本稿は『日経ビジネス』(2011 年 2 月 28 日号)「気鋭の論点」に掲載された記事 (構成:広野 彩子) を転載したものです.

やすだ・ようすけ — 政策研究大学院大学助教授.2002 年東京大学経済学部卒.2007 年,米 プリンストン大学経済学部博士課程修了 (Ph.D.),同年から現職.専門はゲーム理論とマーケット デザイン.編著書に『学校選択制のデザイン — ゲーム理論アプローチ』(NTT 出版) がある.

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政府にとって有望な収入源に

2000年度,2001 年度には欧州各国で,第 3 世代携帯電話の周波数がオークショ ンを通じて販売された.オークション設計に専門家が積極的に参加した英国やド イツでは,国民 1 人当たりで 7 万∼8 万円,GDP(国内総生産) 比で 2.5% に及ぶ政 府収入があった.これは,日本の人口や GDP で換算すると約 10 兆円に上る.電 波オークションを活用している国々にとって,期待される莫大な政府収入は大き な利点の 1 つだ.

電波オークションの魅力はこれだけにとどまらない.所得税や法人税,消費税な どに代表される通常の税収は,金額に応じてその一定割合を課す税方式だが,オー クションによる免許販売は,一括課金だという違いがある.標準的なミクロ経済 学が教えるように,前者は税の存在が個々の経済主体のインセンティブをゆがめ 非効率性を生じさせるが,後者は既に払ってしまった埋没費用 (サンクコスト) と なるため,落札企業の経済活動には影響を与えない.電波オークションは,莫大 な政府収入をもたらし,かつ経済活動にはゆがみをもたらさないという望ましい 性質を兼ね備えているのである.

オークションの仕組みは,電力,国債,不動産の売買や公共調達など私たちの 暮らしに活用されている.そこでは,ゲーム理論で培われた学術知見が生かされ るとともに,理論が想定していなかった現実問題に応えるべく,制度設計を改善 する努力が日々積み重ねられている.無数に存在する制度の中から適切なものを 選びうまく機能させるには,こうした実務と理論の融合が不可欠であろう.

現在,民主党政権は第 4 世代携帯電話の周波数割り当てに,オークション方式 の導入を検討している.ぜひ,各国の経験を生かすとともに,積極的に専門家の 意見を取り入れて制度設計してほしい.深刻な財政問題を抱える日本政府にとっ ても,大きな助けとなるに違いない.

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参照

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