日系海外現地法人の経済活動規模、および販売・調達動向の推計
∗「海外事業活動基本調査」による母集団推計の試み
独立行政法人経済産業研究所 松浦寿幸
1. はじめに
1980 年代、1990 年代を通じて、国境間の経済活動が活発化するという意味での経済のグ ローバル化が急速に進んできた。とりわけ、プラザ合意以降、日本企業による海外直接投 資が拡大し、製造業企業の生産拠点の海外移転が進展した。それに伴い、日本企業の海外 進出行動が国内外の多数の研究者、政策担当者の関心を集めている。たとえば、国内にお いては、アセアン諸国や中国などの低い労働コストを求めて移転する直接投資が、国内の 工場閉鎖を招き、雇用問題をより悪化させているのではないかという、いわいる「産業空 洞化」の議論が関心をあつめてきた。一方で、直接投資を受け入れる国々、特に東アジア 諸国では、多国籍企業による生産・流通ネットワークの構築が、産業育成や貿易の拡大に 大きな影響を与えており、こちらも国内外で高い関心を集めている。
今回、上記のような諸問題を分析するために、経済産業省調査統計部によって実施され ている「海外事業活動基本調査」の個票を、海外現地法人レベルで時系列にリンクするこ とで欠損データを補完し、日系海外現地法人の経済活動規模を、より詳細な国・地域別、 業種別に推計する作業を行った。同時に、多国籍企業による生産・流通ネットワークを統 計的に把握するため、海外進出企業の販売先別・調達先別の売上高・仕入高を整理する作 業を行った。本稿では、その推計方法と報告し、90 年代の日系海外現地法人の動向を概観 する。
2. データについて
わが国企業の海外現地法人の経済活動に関しては、1970 年より通商産業省(現経済産業 省)「海外事業活動基本調査」によって調査が行われてきた。しかしながら、「海外事業活
∗ 本稿における推計作業は、経済産業研究所における「マイクロ・データ整備研究プロジェ クト」、ならびに「日本企業の国際化研究会」の一環として行われた。プロジェクトの参加 者である、浦田秀次郎教授(早稲田大学、経済産業研究所ファカルティフェロー)、深尾京 司教授(一橋大学、経済産業研究所ファカルティフェロー)、清田耕造助教授(横浜国立大 学、経済産業研究所ファカルティフェロー)、伊藤恵子専任講師(専修大学)から貴重なコ メントを頂いた。また、海外事業活動調査の個票利用申請にあたり、高橋睦春氏(経済産 業省調査統計部)、木下善雄氏(経済産業研究所計量分析データ担当マネージャー)から、 推計作業において、高橋悠也氏(経済産業研究所リサーチアシスタント、慶應義塾大学研 究助手)から多大なご支援を頂いた。ここに記して謝意を表したい。ただし、本稿に示さ れている意見は筆者の属する機関の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤り はすべて筆者個人に属する。
動基本調査」(これ以後、海事調査と呼ぶ)は、承認統計であるため、質問票の回収率が 6 割前後1と低く、異時点間で比較した場合にサンプルに含まれる企業が異なるため、調査項 目によっては不安定な動きを示す経済変数も少なくないことが指摘されている2。したがっ て、日本企業全体の海外活動を時系列的に分析することも困難を伴うことが知られている。 そこで、これらの問題に対処するために、たとえば、深尾・森田・富山(1998)、深尾・袁 (2001)では、本社レベルで相手先国別・業種別に各年の現地法人の従業者数と売上高をパネ ル・データ化し、非回答の年度について内・外挿を行い、日本企業の海外現地法人の母集 団推計を行っている。しかし、残念ながら、先行研究で推計されているのは売上高と従業 員数に限定されており、近年、研究者や政策担当者の注目を集めている多国籍企業による 国際的生産・流通ネットワークの展開を分析するために不可欠である、販売先別売上高や 調達先別仕入高等が推計されていない。そこで、本研究では、1989 年度(1990 年実施)か ら2000 年度(2001 年実施)の海事調査の個票データを利用して、日本企業の海外現地法 人の売上高、従業員数に加えて、販売先別売上高、調達先別仕入高の推計を行った。 推計にあたっては、先行研究である深尾・森田・富山(1998)、深尾・袁(2001)を参考にし つつ、推計の精度を向上させるために海外現地法人ベースでパネル・データを作成した。
3. 海外現地法人のパネル・データ作成
以下では、パネル・データ作成の詳細を報告する。
本社コードの統一
はじめに、本社企業調査票の情報を用いて、親会社のコードの統一作業を行った。海事 調査では、多くの企業の場合、同一名称の企業には同一のコードが割り当てられている。 しかし、一部の企業について、企業名称は同一であるが会社コードが異なる企業や、会社 コードは同一であるが名称が異なる企業がみられた。そこで、前者については、本社の規 模や現地法人の情報を用いてチェックし、同一企業であればコードを統一した。後者につ いては、東洋経済「会社四季報」等で社名変更の有無をチェックした。
現地法人コードの統一
現地法人ついては、同一企業であっても毎年異なる番号が割り振られている。そこで、 現地企業の名称を手がかりに、海事調査の現地法人データを時系列に接続し、各々の現地 法人に対して永久企業番号を割り振る作業を行った。ただし、現地法人の名称は、表記方 法の違い(カナ表記かアルファベット表記、略称表記の有無)や名称変更のため、企業名 称のみで必ずしも機械的にすべての企業データセットを時系列に接続することはできない。
1 「わが国企業の海外事業活動」によると、第 20 回調査(1989 年度対象)から第 31 回調 査(2000 年度対象)までの回収率の平均は 58%であった。
2 たとえば、木村・安藤(2004)、深尾・袁(2001)を参照のこと。
そこで、企業名称で機械的に時系列接続できないデータについては、所在国や親会社でソ ートした後、設立年次や業種、企業規模を参考に、丹念にデータを照合させ、データの時 系列接続作業を行った。
産業分類の調整
海事調査における産業格付けは、調査票記入者の申告に依存しており、申告の際の産業 分類は、時代とともに変化してきている。そこで、現地法人データを時系列接続して利用 する際には、産業分類を調整しておく必要がある。今回の推計作業で利用する1989 年度対 象調査から2000 年度対象調査までの間に 2 回産業分類が変更になっているので、これらの 最大公約数をとるかたちで、「統一産業コード」を設定した。(付表参照)
現地法人データを時系列接続し業種コードを「統一産業コード」に置き換えてみると、 同じ企業であっても業種が変更になっている企業が散見された。これは主たる事業活動が 変更されたことに伴い業種分類が変ったと考えることもできる。しかし、中には、似た業 種の間を何度も往復するような不自然な業種変更もみられる。そこで、2 回以上業種が変更 になっている現地法人の場合は、いちばん多く回答された業種に統一した。
設立年次・資本参加年の修正
同一親企業に属する同一の現地法人であれば、設立年次や資本参加年は固有の値をとる と考えられる。しかし、海事調査の現地法人データを時系列接続してみると、同一企業で あっても調査時点によって異なる設立年次が回答されているケースがみられた3。
このような事態が発生する具体的な理由を特定化することは難しいが、企業の記入担当 者が「設立年次」を、現地政府に登記した年と解釈するか、実際に操業を開始した年と解 釈するか、などの主観的な認識の差異に依存している可能性もある。データを時系列にリ ンクさせて利用するにあたって、設立年次が変動するのは都合が悪い。そこで、当該企業 のデータの観測期間中、もっとも頻繁に回答されている設立年(すなわち設立年の最頻値) を当該企業の設立年とした。
退出企業の確認
現地法人の撤退は、「操業の状態」に関する質問項目の「清算」や「撤退・移転」から特 定できる場合がある。しかし、過去に調査票が提出されていたが、その後「清算」や「撤 退・移転」の申告がないまま調査票が提出されなくなった現地法人も少なくない。また、 そもそも日本の親会社が倒産した場合や合併した場合は、調査票が提出されない。そこで、 まず、「操業の状態」に関する質問項目で「清算」や「撤退・移転」が確認できるもの、親 会社の倒産・合併があったものを、退出した企業として「退出年次」を定義した。これに
3 経済産業省の「企業活動基本調査」の個票データを時系列接続し、パネル・データとして 利用する際にも同様の問題に直面することが松浦・清田(2004)で指摘されている。
加えて、過去に調査票が提出されたことがあるが、その後、調査票が提出されなくなった 現地法人については東洋経済「海外進出企業総覧」を用いて当該企業が存続しているか否 かをチェックした。東洋経済「海外進出企業総覧」は毎年発行されているので、各年度版 を用いてチェックするのが望ましいが、時間的な都合もあり2001 年版と 1996 年版のみを 利用した4。具体的には、東洋経済「海外進出企業総覧」に当該現地子会社情報が記載され ていれば存続企業、記載されていなければそれ以前に撤退したものとした。「退出年次」は、 海事調査に最後に当該現地法人の調査票が提出された年の翌年とした。
販売先比率と調達先比率の調整
海事調査には、売上高と仕入高の販売先別、調達先別の内訳についての質問項目がある。 内訳は、「現地市場」、「日本」、「第三国」の3地域に分割されており、さらに「第三国」は、 基本調査の年は5地域に、動向調査の年は3地域に分割されている。(表1参照)これらの 調査項目を整理すれば、海外現地法人の販売・調達行動の特性を明らかにすることができ る。ただし、データを整理するにあたり、「第三国」の内訳については欠損値が多いので今 回は利用を見送った。また、「現地市場」、「日本」、「第三国」についても欠損値となってい たり、内訳の合計が、売上高総計を超えていたり、総計に満たない箇所も少なくないので、 以下の手順により販売先比率、仕入先比率を定義した。
(1) 3地域(「現地市場」、「日本」、「第三国」)の販売地域別売上高に記載がある場合、各地 域の比率を、販売地域別売上高/3地域の販売地域別売上高の合計、として求めた。 (2) 3地域のうち、ある1地域の売上が欠損値となっている場合は、売上の合計値から2地
域の売上の合計値を差し引いた残差を当該地域の売上とした。
(3) 3地域のうち、ある1地域の売上のみが記載されており、残りの2地域の値が欠損値と なっている場合は、売上について記載のある地域の売上高/売上高総計が0.9 以上であ れば、当該地域への販売比率を100%とした。0.9 未満の場合、異常値として欠損値扱 いとした。これは、売上高総計から唯一記載のある地域の売上高を差し引いた額は本来、 残り2地域に分割されるはずであるが、その2地域の比率に関する情報が無く分割でき ないので情報として意味がないものと考える。
4 東洋経済「海外進出企業総覧」の調査方法は、アンケート調査に加えて、プレスリリース や有価証券報告書、電話取材などでデータを補足している。しかし、アンケートが未回答 の場合で、周辺情報が得られないときは前年度のデータをそのまま掲載している。したが って、東洋経済「海外進出企業総覧」に記載があるか無いかだけで判断するのは問題が無 いわけではない。先行研究では、郭・洞口[1993]による日系現地法人の残存率が用いられて おり、我々もその方法を踏襲することも検討した。しかし、郭・洞口[1993]で対象となって いるのは1975 年∼90 年における撤退であり、我々の分析対象である 90 年代とは事情が異 なると考え、残存率は利用しなかった。
表1.販売先・調達先に関する調査項目
売上高 仕入高
現地向け 現地向け
日本向け 日本向け
第3国向け 第3国向け
アジア アジア
北米 北米
欧州 欧州
中東 中東
中南米 中南米
アフリカ アフリカ
オセアニア オセアニア
※ 網掛け部分は基本調査のときのみ。
4. 内挿と外挿による母集団推計
次に、完成したパネル・データを用いて欠損データを内挿・外挿することで母集団推計 する方法について報告する。
内挿と外挿
内挿は、現地子会社レベルで、回答のあった2 時点に挟まれた回答の無い年の従業員数、 売上高、出資比率、仕入比率(仕入額/売上高)、販売先比率(販売先別売上高/売上高)、 調達先比率(調達先別仕入高/仕入高)を線形補間によって求めた。
外挿は、設立年次にさかのぼるものと直近に向けたものとで分けて考える必要がある。 まず、設立年次にさかのぼる外挿は、設立年次における従業員数、売上高をともにゼロと して、そこから一定数ずつ従業者、売上高が増加したと考え線形補間を行った。直近に向 けた外挿は、「退出年次」がわかるものについては、「退出」の前年までは最後にデータが 報告された年の従業員と売上高が維持されていたと考え、「退出年次」以降はゼロとした。
「退出年次」が特定できない企業はすべて存続していると考え、最後にデータが報告され ている年の従業員数と売上高を挿入していった。
出資比率、仕入比率、販売先比率、調達先比率の外挿は、設立年次にさかのぼるもので あっても、直近に向けたものであっても、最後に報告されているデータから計算される仕 入比率をそのまま挿入した。
集計作業について
こうして推計した個別企業の売上高と従業員、仕入比率を用いて、国別業種別の集計値 を計算した。集計の際の業種分類は「統一業種コード」を用いた場合、海外進出があまり 活発ではない業種で標本数が少なくなってしまう。今回の推計作業では、集計用の分類と して海外進出が活発でない業種を中心に、いくつかの部門を統合した「集計用業種コード」
を設定した。(付表参照)
集計作業は、各調査項目を国別業種別に足し合わせることによって行われる。ただし、 国別業種別に売上仕入比率や仕入高の調達先比率、売上高の販売先比率を計算する際は、 個票データレベルで全く記入の無い現地法人のデータが少なくないので、単純に集計値ど うしの割り算で比率を求めることは適切ではない。ここでは、海事調査報告書と同様に、 売上仕入比率、仕入高の調達先比率、売上高の販売先比率が定義できるサンプルで仕入額 推計値と売上高推計値を計算しなおし、これらの推計値を分母として国別業種別の比率を 計算した。
推計値の精度について
現状では、わが国の海外現地法人を全数調査した統計が存在しないので、今回の推計結 果の精度を評価するためには他の類似の統計調査と比較する方法しかない。ここでは、米 国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis、以下、BEA)の対内直接投資統計5、 および東洋経済「海外進出企業総覧」各年度版のデータとの比較を行った。
表2は、在米日系企業の経済活動規模をBEA の対内直接投資統計と我々の推計値で比較 したものである。売上高と従業者数は、いずれも出資比率10%以上の日系法人が対象であ るが、BEA の統計では単独 10%以上であるのに対して、海事調査では日本側出資比率合計 が10%以上の法人を対象としている。したがって、海事調査のほうがカバレッジは広い。 売上高については、我々の推計値が5757 億ドルであるのに対して
BEA では 4800 億ドルとなっている。従業者数をみると、我々の推計値は 82 万 6000 人で あるのに対して、BEA では 82 万 7000 人であり、カバレッジの違いを考えると、我々の推 計は若干少ないといえる。BEA データでは、過半所有現地法人の業種別の従業者数の数値 が公表されているので、海事調査についても同じ概念で従業者数を計算し、比較してみた。 この場合は、いずれの産業でも概ね両者は近い値になっている。とりわけ、繊維、産業用 機械・装置製造業、輸送機械製造業、卸小売業では、BEA の値と我々の推計値はかなり近 い値になっている。産業別のデータにおける両者の従業者数の差は、日米の直接投資統計 における業種格付け方法の違いによるものと考えられる。
5 Bureau of Economic Analysis の Foreign Direct Investment in the U.S.: Financial and Operating Data for U.S. Affiliates of Foreign Multinational Companies を用いた。
表2.BEA 米国対内直接投資統計との比較 推計値 BEA data 売上高 575,672 479,937
従業員数 826.2 827.7
業種別従業員数(過半保有現地法人のみ)
農林水産業 0.8 1.2
鉱業 0.4 0.2
食料品 25.5 15.6
繊維、革製品 7.0 7.7
プラスチック・ゴム 56.3 46.8
窯業・土石 14.7 13.5
化学工業 32.3 26.5
一次金属 27.2 18.1
金属製品 4.4 12.4
産業用機械・装置 28.8 26.5
電気機械 115.0 87.4
輸送機械 111.8 99.1
卸小売 175.1 176.4
※ いずれも2000 年の数値。
単位:売上高は100 万ドル、従業員数は 1000 人。
次に、東洋経済「海外進出企業総覧」による国別集計値との比較を試みた。表3は、東 洋経済「海外進出企業総覧」による企業数、従業員数を我々の推計値と比較したものであ る。企業数では、東洋経済の値が我々の推計値を上回っている。一方、従業員数では、両 者の値はかなり近いものとなっている。両者の企業数が乖離する理由としては、東洋経済
「海外進出企業総覧」では金融業を親会社とする海外現地法人が含まれている点、確実に 存続しているか不明な現地法人も含まれている可能性ある点が考えられる。
表3.東洋経済「海外進出企業総覧」との比較(1998 年)
企業数 従業者数
推計値 東洋経済 推計値 東洋経済
韓国 457 646 84 80
中国 1992 2588 540 467
台湾 848 1149 137 122
香港 1075 1544 108 132
タイ 1130 1469 336 338
シンガポール 1046 1453 77 79
マレーシア 768 1028 259 219
イギリス 843 1207 150 99
アメリカ 3808 5454 835 625 単位:従業員数1000 人
5. 海外現地法人の経済活動規模
では、母集団推計値を用いて日本企業の海外子会社の経済活動状況を概観してみよう。
図1は、日本の海外現地法人の従業者数の推移を示している。1996 年以降、海外現地法人 の従業者数の伸びは鈍化しているものの、依然としてゆるやかな増加傾向にあり、2000 年 には全産業で387 万人、製造業のみでみても 300 万人に達している。
図1.海外現地法人の従業員数の推移
1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500
89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
全産業 製造業
単位:1000人
また、売上規模で見ると、製造業海外現地法人の売上高は1993 年に日本の輸出額を上回 った後、97 年には 60 兆円を越えた後、98 年、99 年は減少に転じたが 2000 年には再び増 加に転じている。従業員数、売上高のいずれの指標で見ても日本の海外現地法人の経済活 動規模はここ10 年でおよそ 2 倍に急拡大したことがわかる。(図2)
図2.日系製造業海外現地法人の売上高と日本の輸出額の推移
30000 40000 50000 60000 70000
89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
日系製造業海外法人の売上高 日本の輸出額
単位:10 億円、出所:「日本貿易統計」、現地法人売上高は著者推計。
表4では、海外現地法人の地域シェアの推移が示されている。売上高シェアでみると、 欧州で低下し、アジアで増加していることがわかる。従業者数シェアでみても同様の傾向 がみてとれるが、同じアジア諸国でも NIES では低下傾向にあるのに対し、中国のシェア 拡大が著しいことがわかる。
業種別に売上高シェアの変化をみると(表5)、自動車、民生用電機、化学のシェアが比 較的高いが、このうち民生用電機は低下傾向であり、一方で電子部品のシェア拡大が著し い。
表4.海外現地法人の地域シェアの変化
売上高 従業員数
1990 1995 2000 1990 1995 2000 NIE S 13.5% 16.6% 16.0% 19.6% 13.3% 10.6% AS E AN 4.7% 7.6% 7.2% 22.9% 27.3% 27.7%
中国 0.2% 1.1% 2.5% 2.5% 10.2% 15.2%
その他アジア 0.4% 0.5% 0.7% 2.0% 2.0% 3.5% アメリカ 40.1% 39.0% 41.0% 26.1% 23.6% 21.3%
カナダ 2.3% 1.7% 2.6% 1.7% 1.2% 1.1%
中南米 3.0% 3.9% 3.7% 8.2% 6.5% 5.8%
ヨーロッパ 30.8% 25.0% 21.3% 12.6% 11.8% 10.9%
中東 0.7% 0.7% 0.9% 0.5% 0.5% 0.4%
オセアニア 4.0% 3.8% 3.6% 3.2% 2.8% 2.5%
アフリカ 0.2% 0.3% 0.3% 0.7% 0.7% 0.9%
表5.海外現地法人の業種別売上高シェアの推移 1990 1995 2000
繊維 1.9% 2.1% 1.8%
化学工業 9.5% 8.9% 10.3%
一次金属 6.5% 5.8% 5.7%
金属製品 0.7% 0.7% 0.7%
産業用機械・装置 5.5% 5.2% 4.5%
事務用・サービス用機器 4.1% 1.2% 1.4%
民生用電気機械 13.4% 11.4% 10.1%
電子計算機・電子応用装置 5.5% 6.5% 6.3%
通信機械 2.1% 1.7% 2.4%
電子機器用・通信機器用部品 6.0% 9.8% 10.6%
その他電気機器 2.6% 1.9% 2.8%
自動車・同付属品 25.4% 26.9% 26.3%
その他輸送機械 1.9% 2.9% 3.3%
精密機械 1.8% 1.7% 2.1%
その他製造業 13.2% 13.3% 11.8%
6. 海外現地法人の経済活動の日米比較
このような日系海外現地法人の特性は、他国の多国籍企業とどのような違いがみられる のだろうか。海外現地法人活動規模を米国のそれと比較することで比較してみたい6。(表6)
日本企業の海外現地法人の活動規模は、1998 年時点で、米国の水準とくらべて、法人数 では3分の2、売上は約半分、従業員数は、約4 割程度である。一方、1989 年から 2002 年の変化で見ると、米国では、法人数・従業員数の伸び率は 40%程度なのに対して、日本 の場合、法人数で40%、売上高・従業員数では、およそ 2 倍、もしくはそれ以上に拡大し ている。ここから、日系海外法人の経済活動規模がいかに急激なものであったかがわかる。
6 なお、ここでの数値は米国の統計と定義を揃えるために、海外現地法人を日本側過半出資 企業(Majority Owned Affiliates)に絞っている。
表6.海外現地法人の経済規模の日米比較 World All OEC D
L atin Americ a
Non OEC D Asia
Afric a Middle East
現地法人数
日系 1989 9,211 5,618 610 2,876 60 30 1998 14,179 7,515 767 5,609 156 51 米系 1989 15,381 10,937 2,409 1,282 397 187 1998 21,335 14,480 3,345 2,449 511 233 売上高 (単位:10ドル)
日系 1989 660 550 19 89 0 2
1998 1,102 833 32 229 2 7
米系 1989 1,161 964 99 68 13 9
1998 2,028 1,553 231 201 21 9
従業員数 (単位:1000人)
日系 1989 1,189 603 113 467 2 1
1998 2,679 1,236 99 1,322 7 3
米系 1989 5,114 3,582 962 393 81 69
1998 6,900 4,433 1,416 827 111 50 注:ここでの海外現地法人は、出資比率50%以上の法人に限定している。
出所:日系企業については筆者推計。米系企業は、Hanson, Mataloni, and Slaughter(2001) より。
表7.海外現地法人活動規模の地域シェアの日米比較 All OEC D
L atin Americ a
Non OEC D Asia
Afric a Middle E ast
現地法人数
日系 1989 61.0% 6.6% 31.2% 0.7% 0.3% 1998 53.0% 5.4% 39.6% 1.1% 0.4% 米系 1989 71.7% 15.8% 8.4% 2.6% 1.2% 1998 68.2% 15.7% 11.5% 2.4% 1.1% 売上高
日系 1989 83.3% 2.8% 13.4% 0.1% 0.3% 1998 75.6% 2.9% 20.8% 0.1% 0.6% 米系 1989 83.5% 8.6% 5.9% 1.1% 0.8% 1998 76.8% 11.4% 10.0% 1.0% 0.5% 従業員数
日系 1989 50.7% 9.5% 39.3% 0.1% 0.1% 1998 46.2% 3.7% 49.3% 0.3% 0.1% 米系 1989 70.4% 18.9% 7.7% 1.6% 1.4% 1998 64.3% 20.6% 12.0% 1.6% 0.7% 注:表6の注参照。
地域シェアをみると(表7参照)、米国では法人数、売上、従業員数のいずれもOECD 諸
国に集中している。それに対して、日系企業では、売上高については米系企業と同様であ るが、従業員数と法人数はアジアでのシェアが大きい。1989 年から 2002 年にかけて、日 米のいずれにおいても、OECD 諸国でのシェアが低下し、非 OECD 諸国である途上国のシ ェアが上昇している。特に日本企業のアジアでのシェアの拡大は著しく、法人数8.4%ポイ ント、売上7.4%ポイント、従業員数 10%ポイントの増加となっている。
次に、日系および米系の海外現地活動状況を業種別に比較してみた。(表8)まず、米系 においても、海外現地法人の大部分が製造業であるが、そのシェアは日系のほうが大きく なっている。たとえば、米系における製造業の比率は、雇用で見ると 58%、売上でみると 47%であるが、日系では売上では 35%だが、雇用では 79%に達する。これは、地域別シェ アでみたように、日本企業の場合、比較的賃金の安い非OECD 諸国のシェアが大きいこと から、低賃金諸国で労働集約的な生産を行う海外法人が多いことを示唆していると考えら れる。
製造業の内訳をみていくと、日本企業の場合、電器機械産業のシェアがいずれの指標で も大きくなっている。たとえば、法人数では米系で4.1%に対して、日系では 12.2%、従業 員数では日系で10.5%であるのに対して、日系では 32.7%にものぼる。製造業以外の産業 で日米の違いをみると、日系では石油産業の売上シェアが低い一方で、卸売業の売上シェ アが高い。また、金融業についても、日本企業については、いずれの指標で見ても全産業 に占めるシェアが米国に比べて低い。この原因は、海事調査では、親会社が金融業に属す る法人については調査対象に含まれていないに起因している。すなわち、ここでの金融業 とは、非金融法人を親会社とする海外金融業子会社のみであるので、日本のシェアは相対 的に低くなっているのである。
これまでみてきたように、日系海外現地法人の経済活動規模は米国企業のそれと比べる とさほど大きくない。しかし、米国企業の場合、第二次大戦前から海外展開が始まり、そ の後、ゆっくりと進展してきたことに比べると、ここわずか10 年程でその経済規模は急拡 大したことが確認できた。また、日本の場合は、その進出地域や業種をみるとアジアでの 製造部門の拡大が著しいことが際立っている。
表8.海外現地法人活動規模の業種シェアの日米比較(1998)
合計 食品 化学 鉄鋼・金属 一般機械 電気機械 輸送機械
その他 製造業
現地法人数 日系 0.5% 45.4% 2.4% 5.5% 3.7% 5.2% 12.2% 5.3% 11.0% 28.6% 5.5% 16.5% 3.6%
米系 6.5% 36.7% 3.1% 8.4% 3.1% 5.0% 4.1% 2.5% 10.5% 23.1% 15.1% 12.3% 6.2% 売上高 日系 0.4% 35.0% 0.9% 2.7% 1.6% 2.7% 12.9% 10.0% 4.2% 55.4% 1.3% 7.2% 0.8%
米系 11.5% 47.0% 5.4% 8.9% 1.7% 8.1% 5.1% 10.1% 7.8% 20.7% 7.2% 6.7% 6.8% 従業員数 日系 0.0% 79.0% 2.8% 4.3% 3.8% 4.6% 32.7% 13.4% 17.4% 13.1% 0.9% 5.8% 1.2%
米系 2.6% 57.6% 6.3% 7.9% 2.8% 8.2% 10.5% 9.3% 12.8% 8.3% 3.2% 14.0% 14.4%
サービス
Other Indsutry 石油産業
製造業
卸売小売業
金融保険・ 不動産
注:表7の注参照。
表9.海外現地法人の売上・仕入の販売先・調達先比率
現地販売率 日本向け輸出比率 日本以外への輸出比率 現地調達率
1990 1995 2000 1990 1995 2000 1990 1995 2000 1990 1995 2000 AS E AN
繊維 54.7% 43.4% 36.0% 10.3% 15.1% 14.6% 35.0% 41.5% 49.4% 40.0% 51.4% 38.0% 電気機械 36.8% 26.3% 23.4% 13.3% 23.9% 31.5% 49.9% 49.8% 45.1% 35.5% 36.5% 34.1% 輸送機械 67.8% 85.9% 58.9% 1.5% 3.5% 10.7% 30.7% 10.6% 30.4% 36.1% 36.5% 49.0% 中国
繊維 31.7% 32.4% 52.5% 48.0% 54.7% 33.7% 20.3% 12.9% 13.8% 36.9% 30.5% 51.0% 電気機械 39.9% 35.7% 35.8% 24.6% 28.3% 20.8% 35.5% 36.0% 43.4% 25.8% 36.4% 39.3% 輸送機械 19.6% 36.2% 24.5% 29.0% 26.7% 48.6% 51.4% 37.1% 26.9% 6.7% 17.5% 19.0% NIE S
繊維 67.3% 61.7% 77.0% 16.5% 20.8% 4.1% 16.2% 17.5% 18.9% 51.8% 39.6% 56.7% 電気機械 43.7% 46.7% 50.0% 18.0% 20.2% 21.0% 38.3% 33.1% 29.0% 42.7% 32.8% 31.9% 輸送機械 74.3% 82.8% 77.8% 3.5% 1.6% 2.8% 22.2% 15.6% 19.4% 54.7% 55.2% 67.5% アメリカ
繊維 95.7% 93.4% 92.4% 0.0% 0.5% 0.1% 4.3% 6.1% 7.5% 64.3% 71.0% 78.6% 電気機械 87.6% 84.3% 88.9% 2.7% 3.4% 3.0% 9.7% 12.3% 8.1% 25.9% 32.8% 26.6% 輸送機械 83.4% 75.6% 92.6% 1.3% 2.6% 0.6% 15.3% 21.8% 6.8% 58.3% 58.5% 63.3%
7. 販売・調達行動の動向
次に、海外現地法人の輸出・輸入動向についてみてみよう。(表9)まず、NIES では、 1990 年段階では電気機械の現地販売率が低かったが、やがて上昇している。同時に、日本 以外への輸出比率が低下している。その一方で、中国における海外現地法人の場合、電気 機械の日本以外への輸出比率が上昇傾向にあり、日本企業の輸出基地として機能が NIES から中国へと変りつつあることが推測できる。また、中国では、かつては繊維製造業で輸 出比率が高かったが、近年は現地販売率が増加傾向にある。ここから中国の日系現地法人 は、中国の経済発展に伴い中国国内への販売を拡大させていることがわかる。
一方、東アジア諸国と異なり、米国の場合は、ここで掲載したいずれの業種でも現地販 売率が90%前後であり、時系列的な変化はみられない。
現地調達率ではどんな特徴が見られるだろうか。まず、輸送機械については、いずれの 地域でも現地調達率が上昇している。輸送機械の中でも自動車産業では、部品メーカーと の関係が重要な役割を果たすと言われているが、この10 年間で現地における部品メーカー の技術力が向上し、中間財の現地調達が増えてきているのかもしれない。電機機械製造業 の現地調達率についても、中国では1990 年から 2000 年までの 10 年で約 14%ポイント上 昇を遂げている。
以上でみてきたように、販売先別比率、調達先別比率のいずれにおいても、アジア諸国 では大きな変動がみられ、1990 年代を通じて海外現地法人の役割が変化してきていること をわかった。
8. むすびにかえて
本稿では、経済産業省調査統計部「海外事業活動基本調査」の個票データを現地法人レ ベルで時系列にリンクさせ、欠損データを推計することにより、日本企業の海外現地法人 の母集団推計を行った。さらに、推計されたデータから1990 年代の日本企業の海外進出状 況、およびその経済活動規模、販売・調達動向を概観した。
日系海外現地法人の経済活動規模は、米系海外現地法人のそれと比べると、未だ半分程度 の規模であるが、1990 年代を通じて米系法人の 2 倍以上の成長率で急成長していることが 分かった。また、販売先別売上高、調達先別仕入高を国別・業種別に比較すると、東アジ ア諸国では、1990 年代を通じて大きな変動がみられ、海外現地法人の役割が変化してきて いることをわかった。また、業種や地域のシェアに注目すると、日本の場合は、アジアで の製造部門の拡大が著しいことが際立っている。
最後に、今後の推計作業についての課題とデータを利用した研究の可能性について述べ て締めくくりとしたい。まず、今回の推計作業では、売上高・仕入高の販売先、調達先を 3地域まで細分化する形で推計作業を行ったが、さらに詳細なデータが得られるのでより 細かい分類で推計作業を行いたい。また、「基本調査」では「同一グループ内取引の比率」 についてのデータも得られるので、これを組み合わせることで、海外現地法人の販売・調
達動向をより詳細に把握できるようになる。分析に関しては、これらのデータセットを使 うことで、どのような要因が、国際的な工程間分業を促進させるのか、または、現地調達 を拡大させるのかを計量分析することが可能になる。また、各国に進出している日系企業 の属性指標を詳細な業種で整理することで、地域の日系企業集積と海外現地法人の立地に ついての計量分析が可能になると考えられる。
海外直接投資に関する新しい経済分析の可能性の扉が、今、開かれようとしているので ある。
参考文献
Gordon H. Hanson, Raymond J. Mataloni, Jr. and Matthew J. Slaughter (2001)
“Expansion Strategies of U.S. Multinational Firms” NBER Working Paper No. 8433
Kimura Fukunari and Ando Mitsuyo (2003) “Fragmentation and Agglomeration Matter: Japanese Multinationals in Latin America and East Asia”, North American Journal of Economics and Finance Vol.14, Issue 3:287-317.
郭賢泰・洞口治夫(1993)「撤退の研究」『海外進出企業総覧 1993 年版 国別編』東洋経 済新報社
木村福成・安藤光代(2004)「東アジアの国際的生産・流通ネットワーク 日本企業のマイ クロ・データを用いた統計的把握の試み」『経済統計研究』Vol.32, No.3 経済産業調査会
深尾京司・袁堂軍(2001)「個票データのパネル化と内・外挿による海外事業活動基本調査・ 動向調査の母集団推計:1985-98 年度」『海外事業活動調査・外資系企業活動の動向データ などに基づく分析研究』国際貿易投資研究所
深尾京司・森田陽子・富山雅代(1998)「海外事業活動基本調査・動向調査の母集団推計」
『海外事業活動調査データなどに基づく分析研究』国際貿易投資研究所
松浦寿幸・清田耕造(2004)「『企業活動基本調査』パネル・データの作成・利用について: 経済分析への応用とデータ整備の課題」経済産業研究所Policy Discussion Paper. 04-P-004
付表 推計で用いた業種コード
統一業種コード 集計用コード
1 農業 1 農林水産業
2 林業 1
3 漁・水産業 1
4 金属鉱業 2 鉱業
5 非金属鉱物 2
6 石炭・亜炭 2
7 原油・天然ガス 2
8 製糸・紡績 3 繊維
9 衣服・その他繊維 3
10 製材・木製品 4 その他製造業
11 家具・装備品 4
12 紙・パルプ・紙加工品 4
13 出版・印刷 4
14 化学肥料 5 化学
15 無機化学基礎製品 5
16 有機化学基礎製品 5
17 化学繊維 5
18 医薬品 5
19 化学最終製品 5
20 石油・石炭製品 4 その他製造業
21 ゴム製品 4
22 なめし革・皮革 4
23 ガラス・ガラス製品 4
24 セメント・セメント製品 4
25 その他窯業・土石 4
26 銑鉄・粗鋼・鋼材 6 一次金属
27 鋳鍛贓品・その他 6
28 非鉄金属製錬・精製 6
29 非鉄金属加工品 6
30 金属製品 7 金属製品
31 産業用機械・装置 8 産業用機械・装置
32 事務用・サービス用機器 9 事務用・サービス用機器
33 民生用電気機械 10 民生用電気機械
34 電子計算機・電子応用装置 11 電子計算機・電子応用装置
35 通信機械 12 通信機械
36 電子機器用・通信機器用部品 13 電子機器用・通信機器用部品
37 その他電気機器 14 その他電気機器
38 自動車・同付属品 15 自動車・同付属品
39 その他輸送機械 16 その他輸送機械
40 精密機械 17 精密機械
41 プラスチック製品 4 その他製造業
42 その他製造工業品 4
43 食料品製造業 4
44 建設業 19 その他非製造業
45 卸小売業 18 卸小売業
46 金融・保険 19 その他非製造業
47 不動産仲介 19
48 運輸・通信・電気・ガス・水道 19
49 その他 19