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第1 2 回 イ ンスリ ンと グルカ ゴン
による代謝の制御
日紫喜 光良
基礎生化学講義
2010.6.29
概要
• イ ンスリ ン
• グルカ ゴン
イラストレーテッド生化学第23章に相当
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肝・ 脂肪組織・ 筋・ 脳が代謝の主役
イラストレーテッド生化学 図23.1
相互に関連
ホルモンによっ て
自律神経系によっ て
血液中を循環する代謝物
のレベルによっ て
イ ンスリ ン
図23.2
膵臓のラ ンゲルハンス島
β 細胞
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イ ンスリ ンの構造
図23.3
A 鎖と B 鎖
ジスルフ ィ ド 結合
プレプロイ ンスリ ン
プロイ ンスリ ン イ ンスリ ン
小胞体( E R ) にて
シグナルペプチド
ゴルジ装置にて
Cペプチド
(SS結合形成)
( S S 結合)
(活性を有する) Cペプチド:半減 期長い
イ ンスリ ンが分泌さ れるまで
核 細胞質
E R ゴルジ 分泌顆粒
細
胞
外
mRNAの合成
(転写)
核膜孔を通って 細胞質へ
リボソームでタンパク 質合成(翻訳)
N末端のシグナルペ プチドによってERに
(図23.4より)
シグナルペプチド が膜を貫通
ペプチド鎖は内腔へ 伸長し、プレプロイン スリンを形成
シグナルペプチドが切 り離されプロインスリ ンを形成
ゴルジ装置への輸送
Cペプチドを切断し インスリンを形成
分泌顆粒に 保存
エクソサイトーシスに よってインスリンとCペ プチドを放出
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イ ンスリ ンの分解
• イ ンスリ ナーゼ
– 主に肝臓と 腎臓に存在
• イ ンスリ ンの血中半減期: 6 分
• C ペプチド はより 長い半減期を持つので、 イ ン
スリ ンの分泌を確認するための診断に用いら
れる。
イ ンスリ ン分泌の調節
肝臓での糖新生 組織でのグルコ ース
の利用
グルカ ゴン イ ンスリ ン
促進 促進
コントロール
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グルカ ゴンと イ ンスリ ンの拮抗する効果
図23.5
高炭水化物食を摂取後の、 血糖( 上) 、
イ ンスリ ン( 中) 、 グルカ ゴン( 下) の変動
イ ンスリ ンの分泌は、 血中グルコ ース
濃度の増加がひきがねと なっ て起こ る
イ ンスリ ン分泌を刺激 / 抑制するも の
• 刺激するも の
– 血中グルコ ース濃度の上昇
– アミ ノ 酸
• と く にアルギニン
– 胃・ 腸管ホルモン
• コ レシスト キニン( C C K ) 、 G I P
• 抑制するも の
– 血中アド レナリ ン濃度の上昇
• 交感神経の刺激によっ て副腎髄質から 分泌
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β 細胞から のイ ンスリ ン放出の調節
図23.6などより 毛細血管
肝臓へ
イ ンスリ ン合成( 転写、
翻訳、 翻訳後修飾)
分泌顆粒のエク ソ
サイ ト ーシス
グルコ ース
アミ ノ 酸
グルコース
トランスポーター グルコキナーゼ
によるリン酸化 グルコース濃度の 上昇を検知
アド レナリ ン
+
+
−
−
代謝へのイ ンスリ ンの効果
• 炭水化物代謝: エネルギーの貯蔵( 肝、 筋、
脂肪組織)
– グリ コ ーゲン合成の増加( 肝、 筋)
– 血中から のグルコ ース取り 込みの増加( 筋、 脂肪
組織)
– 糖新生と グリ コ ーゲン分解の抑制( 肝)
• 脂質代謝
– ト リ アシルグリ セロール( T A G ) 分解の減少
– T A G 生成の増加
• タ ンパク 質合成の増加
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イ ンスリ ン作用のメ カ ニズム
図23.7より
レセプタ ーチ
ロシンキナー
ゼの活性化
インスリンレセプター
β サブユニットの 自己リン酸化
3.レセプターチロシ ンキナーゼが他のタ ンパク質(たとえば Insulin Receptor Substrate (IRS)をリ ン酸化
4.多くのシグナル伝 達パスウェイを活性化 5.生物学的作用を発揮
α 鎖とβ 鎖
インスリンが結合
活性化さ れるシグナル伝達パスウェ イ
• Insulin Receptor Substrate (IRS) のリ ン酸
化から 始まる
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イ ンスリ ンの細胞膜への作用
( 筋、 脂肪組織)
インスリンの結合 グルコーストランスポー
ター(GLUT-4)の動員
グルコース取込増加 インスリン濃度
→動員解除→ 細胞内プール に戻る
Vesicleが結合しエンド ソームを形成
各組織でのグルコ ース輸送の特徴
イ ンスリ
ン感受
性
イ ンスリ
ン非感
受性
能動輸送
促進輸送( 作ら れた濃度
勾配に従っ た拡散)
多く の組織( 筋、
脂肪組織など)
赤血球
白血球
レンズ
角膜
肝臓
脳
小腸上皮
腎尿細管
脈絡叢
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イ ンスリ ンの分解
• レセプタ ーに結合し たイ ンスリ ンは細胞内部
に取り 込まれて、 リ ソ ゾームで分解さ れる。
• レセプタ ーは再利用さ れる。
イ ンスリ ンの作用の経過
• 数秒以内: グルコ ースト ラ ンスポータ ーによる
細胞への取込の増加
• 数分から 数時間: すでに存在するタ ンパク 質
のリ ン酸化状態の変化
• 数時間から 数日: 代謝に関係する酵素タ ンパ
ク 質の産生の増加( グルコ キナーゼ、 ホスホ
フ ルク ト キナーゼ、 ピルビン酸キナーゼなど)
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グルカ ゴンのはたら き
イ ンスリ ン
図23.10より
グルカ ゴン
アド レナリ ン
グリ コ ーゲン分解
糖新生
ケト ン体産生
脂肪分解
抑制 亢進
α 細胞から のグルカ ゴン分泌の調節
肝臓へ
グルカ ゴン合成( 転写、
翻訳、 翻訳後修飾)
分泌顆粒のエク ソ
サイ ト ーシス
グルコ ース
アミ ノ 酸
グルコース濃度の 上昇
アド レナリ ン
−
+
グルコース濃度
+
の低下
+
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グルカ ゴン分泌促進の要因
• 血中グルコ ース濃度の低下
– 夜間など、 絶食時
• アミ ノ 酸
– イ ンスリ ン分泌による急激な血糖の低下を防ぐ
• アド レナリ ン
– 交感神経が副腎髄質を刺激
– スト レス時
グルカ ゴン分泌を抑制する要因
• 血糖の上昇
• イ ンスリ ン分泌
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グルカ ゴンの代謝への効果
• 炭水化物代謝: 肝臓への作用
– グリ コ ーゲン分解の亢進
– 糖新生の亢進
• 脂質代謝: 脂肪組織への作用
– 脂肪分解の亢進→血中脂肪酸の増加
– →肝臓でのケト ン体の産生亢進
• タ ンパク 質代謝: 肝臓への作用
– 血中から のアミ ノ 酸回収の亢進
– →糖新生の亢進
– →血中アミ ノ 酸濃度の低下
グルカ ゴン作用のメ カ ニズム( 1 )
グルカ ゴン
アデニル酸シク
ラ ーゼの活性化
cAMP
グルカ ゴンがレセプタ ーに結合
細胞質側のアデニル酸シク
ラ ーゼを活性化
A T P から cAMP を生成
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グルカ ゴン作用のメ カ ニズム( 2 )
図23.12より
cAMP 依存性プロテイ ンキナーゼの活性化
特定の酵素をリ ン酸化
酵素を活性化または不活性化
生物学的作用 活性化(例):グリコーゲ
ンフォスフォリラーゼ
(肝)
不活性化(例):グリ コーゲンシンターゼ
(肝)
低血糖時の反応( 1 )
血糖
(mg/dl)
<85mg/dl: インスリン分泌低下
<68mg/dl: アドレナリンとグルカゴン の産生が増加
<66mg/dl: 成長ホルモンの産生が増加
<60mg/dl: コルチゾールの産生が増加
<55mg/dl: アドレナリン性症状が出現 不安、動悸、振戦、発汗
<50mg/dl: 神経性糖欠乏症が出現 頭痛、せん妄、発語不明瞭、痙攣、 昏睡、死亡
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低血糖時の反応( 2 )
図23.13より
強度の低血糖(<40mg/dl)刺激
視床下部の血糖調節中枢
下垂体
アドレナリン作動性自律神経系
ACTH 副腎皮質
コルチゾール
副腎髄質
アドレナリン
膵臓
グルカゴン ノルアドレナリン
低血糖の種類
• イ ンスリ ン誘発性
– イ ンスリ ン治療中の患者におきる。 最も 頻度高い。
– グルカ ゴンの注射が必要
• 食後低血糖
– イ ンスリ ンの大量分泌、
• 空腹時低血糖
– 比較的まれだが、 肝機能低下やイ ンスリ ン産生腫瘍に
伴っ て起こ るこ と がある。
• アルコ ール性
– N A D H 過剰状態→オキサロ酢酸、 ピルビン酸の減少→
糖新生の抑制
– イ ンスリ ン使用中の患者ではと く に危険
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アルコ ールによる糖新生の阻害
エタノール非摂取時 エタノール摂取時
NADHの増加により、糖新生 の中間代謝物が減少し、糖新 生が抑制される。
エタノール代謝により、 肝細胞の細胞質に
NADHが増加
ジスルフィラム 図23.15