人獣共通感染症のコントロールを目指して

医療

人獣共通感染症のコントロールを目指して

人獣共通感染症リサーチセンター 教授

東 秀明

ひ が し ひ で あ き

専門分野 ： 分子生物学，細菌学

研究のキーワード ： 感染症，炭疽，毒素，分子立体構造，タンパク質 HP アドレス ： http:// www.hokudai.ac.jp/czc/immun/

何を目指しているのですか？

「人獣共通感染症」という言葉を聞いたことがありますか？その字が示すとおり、人と 動物の間で相互に感染する微生物が引き起こす感染症です。人獣共通感染症として、ウイ ルス感染が原因のインフルエンザや狂犬病、細菌感染によって引き起こされる結核、ペス トなどが例に上げられ、人に感染症を引き起こす微生物の半分は動物にも感染すると考え られています。私たちの研究室では、細菌感染によって引き起こされる人獣共通感染症、 特に炭疽症のコントロールを目指して研究を進めています。炭疽は、炭疽菌の感染により 発症します。ヒトでは皮膚、呼吸器や消化器に組織傷害を引き起こし、呼吸器や消化器へ の感染を放置すると、致死率は₉₀％を超える非常に怖い病気です。近年の日本国内では、 ほとんど感染例が報告されていませんが、東南アジアやアフリカ諸国においては野生動物、 家畜及び人への感染が頻発しており、年間発生件数はヒトで２万人、家畜では₁₀₀万頭に 達すると推定されています。また、炭疽菌は

耐熱性の芽胞を形成する細菌のため、生物兵 器やバイオテロに使われる可能性が高く、実 際、₂₀₀₁年にアメリカで炭疽菌入りの手紙が 送付され５名の人が死亡するという事件が発 生しました。しかし、このような状況のもと でも、炭疽菌感染に対する有効かつ安全な予 防手段は未だ確立されていません。私たちは、 炭疽の予防及び診断法の開発を通して、炭疽 発生国におけるDisease control^{を目指して} います。

どんなことをしているのですか？

出身高校：福岡県立小倉高校 最終学歴：長崎大学大学院薬学研究科

図１ 人獣共通感染症リサーチセンター ザンビア拠 点 BSL-3 施設

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うための封じ込め施設（_BSL-3）が設置されてい ます（図１）。そのザンビアでは、乾季になるとカ バをはじめとした野生動物の不審死が数多く確認 され、その死因は人獣共通感染症の一つである「炭 疽」が疑われていましたが、その原因究明は行わ れていませんでした（図２）。そこで私たちは、炭 疽の分子診断法をザンビアへ導入し、不審死した 野生動物が炭疽菌に感染していたことを、毒素発 現に関わる遺伝子の同定および炭疽菌を単離する ことで明らかにしました（図３）。現在、私たちが 導入した炭疽分子診断 法を用いて、野生動物、 家畜及び土壌における 炭疽菌汚染の実態調査 が進められており、ザ ンビアにおける炭疽対 策に貢献しました。

次に何を目指しますか？

炭疽菌は、宿主細胞に強い毒性を示す毒素タンパク質を産生します。これまでに炭疽毒 素を抗原とした抗炭疽ワクチンの開発が進められてきましたが、その強い毒性のためワク チン開発には至っていません。そこで私たちは、炭疽菌毒素の分子立体構造情報を基にし た分子構造計算を行い、毒素タンパク質の抗原性を維持し、かつ副作用が軽減された人工 タンパク質の設計を進め、新たな抗炭疽ワクチン抗原の開 発を試みています（図４及び５）。このような計算科学と分 子生物学を合わせたアプローチは、炭疽ワクチンの開発の みならず、多くの疾病に対する新規予防及び治療法の開発 に繋がると考えています。

図２ 乾季に多発するカバの不審死（ザンビア共 和国）

図３ 野生動物より単離された炭疽菌 （右図：グラム染色像）

図４ 炭疽菌毒素タンパク質の構造 図５ In silico 分子モデリングによって得ら れた人工タンパク質の構造

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