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バブル・デフレ期の地方財政――財政赤字と地域間格差

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12

バブル・デフレ期の地方財政

――財政赤字と地域間格差

土居丈朗

要 旨

本稿は,1980 年代後半のバブル期から 1990 年代前半のバブル崩壊期,そ して 1990 年代後半以降のデフレ期を通じて,わが国の地方財政において, 財政赤字と地域間格差がどのように推移し,どのような要因が作用していた かを分析することを目的とする.

まず,国民経済計算体系(SNA)から見たわが国の地方政府の財政構造 について,一般政府内の部門内移転をも含めて要因分解を行ったところ,財 政の持続可能性と密接に関連する基礎的財政収支で見ると,地方政府の基礎 的財政収支対 GDP 比は,1990 年代は赤字だったが,その後 2000 年代には 黒字化した.これは,中央政府からの財政移転が近年減少しているなかで, 中央政府からの財政移転の抑制をてこに地方歳出が削減された結果といえる.

(2)

効果(reranking effect)とは,再分配前所得で見た個人の順位と再分配後 所得で見た世帯の順位が入れ替わる効果を表しており,値が大きいほど再分 配政策の前後で所得の多寡の順位が入れ替わる度合いが大きいことを意味す る.順位変動効果を表す指標として,Atkinson-Plotnick 係数を用いた.

そして,地方財政の決算統計を用いた分析によると,地方税のジニ係数は, 1980 年代後半のバブル期には地域間税収格差が拡大したが,1990 年代前半 のバブル崩壊期には,景気後退の影響で急激にジニ係数が低下し,戦後のな かでも過去に例がないほど地方税収の地域間格差が縮小した.1990 年代後 半以降のデフレ期にはジニ係数がもっとも低くなっていたが,2003 年以降 の三位一体改革での税源移譲と同時期の景気回復で都市部で税収が増加し始 めたことがあって,2004 年度以降ジニ係数は上昇傾向に転じている.近年, 地方税収の地域間格差が政治的にも顕著に唱えられるようになったことと符 合する結果である.しかし,近年の地方税のジニ係数は上昇しているものの, 依然バブル期以前の 1980 年代前半よりも低く,バブル期の水準にははるか に及ばない.この結果を見れば,地方税の地域間格差は,少しばかり拡大傾 向になったというにすぎず,格差拡大をことさらに騒ぎ立てる状況にはない.

地方税に加えて財政移転を含めた地方一般財源を都道府県単位で 1 人当た りの額の分布から導いたジニ係数を見ると,再分配後にはジニ係数が低下し ていた.再分配後のジニ係数は 1980 年代後半以降ほとんど変わらず,おお むね 0.1 である.たしかに,地方税収には地域間格差があるとはいえ,1980 年代後半以降は一般財源で見ると都道府県間では同程度に是正されていたと いえる.

次に,Kakwani 係数は,地方交付税について係数は負で,その絶対値が 大きいことから,逆進性がより強いことが示されている.地方交付税の再分 配 効 果 と し て 強 く 逆 進 的 に 再 分 配 さ れ て い た と い え る.Reynolds-Smolensky 係数は,地方税のジニ係数の変化に大きく影響を受けて変動し ていたことが示された.Atkinson-Plotnick 係数は,1980 年代後半から 2000 年度ごろまで上昇傾向で,正の値が大きくなっている.つまり,バブル期以 降,国からの財政移転によって,順位移動効果が強まっていることがわかる.

(3)

1

はじめに

本稿は,1980 年代後半のバブル期から 1990 年代前半のバブル崩壊期,そ して 1990 年代後半以降のデフレ期を通じて,わが国の地方財政がどのよう に展開したかについて,財政赤字と地域間格差に焦点を当て分析することを 目的とする.

1990 年代以降のわが国の財政は,政府債務が未曾有の規模に累増する局 面であった.図表 12 1 は,国民経済計算体系(SNA)ベースで見た一般政 府の粗債務残高対 GDP 比を示している.とくに,地方財政に焦点を当てる と,地方政府の粗債務残高対 GDP 比は,1980 年代後半は対 GDP 比で 15% 程度だったが,1990 年代以降上昇し,ピーク時の 2004 年度末には 37%に達 した.その後は低下に転じている.

そして,フローで見た財政赤字である純貸出/純借入(1989 年度までは 貯蓄投資差額)を見たのが,図表 12 2 である.

ここで,中央政府と地方政府の間の取引に焦点を当てよう.近年注目され ている基礎的財政収支(=純貸出/純借入+支払利子受取利子)を SNA

ベースで見ると,図表 12 3 に示されているように,2006 年度において基礎 的財政収支対 GDP 比は,中央政府がマイナス 2.5%,地方政府がプラス 0.9%である.地方政府が中央政府から受け取った財政移転(純)の対 GDP 比が約 6.2%(31.6 兆円)である.これを差し引く形で求めた「財政移転 前」の基礎的財政収支は,図表 12 3 に示されているように,中央政府がプ ラス 3.38%,地方政府がマイナス 5.05%である.このことからすれば,目 下の中央政府と地方政府の基礎的財政収支対 GDP 比は,地方政府に黒字が 偏っている状況にあるといえる.

(4)

0

0 5 10 15 20 25 30 35 40

20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220

1980 85 90 95 2000 05

(%) (%)

(年度末)

地方政府 中央政府

社会保障基金 地方政府(再掲・右目盛)

図表 12 1 政府債務対 GDP 比

−8 −6 −4 −2 0 2 4

1980 85 90 95 2000 05

(%)

(年度)

中央政府 地方政府 社会保障基金

図表 12 2 純貸出/純借入対 GDP 比

図表 12 3 SNA で見た基礎的財政収支対 GDP 比(2006 年度)

中央政府 地方政府

財政移転前 3.38% ▲ 5.05%

財政移転対 GDP 比 6.17% → ← 0.26%

財政移転後 ▲ 2.53% 0.86%

(5)

中央政府と地方政府における財政収支や債務残高の多寡は,政府間財政移転 の動向にも影響を受けるといえる.そこで,第 2 節では,わが国の地方財政 に関して,SNA を用いて歳出歳入の構造,そして財政収支の動向を分析す る.

中央政府から地方政府への財政移転を大規模に行うことの背景には,わが 国の地方政府(地方公共団体)の間に,税収の地域間格差が大きいとの認識 がある.都市部と農村部の地方公共団体の間には,地域間の税収格差がある ことは,以前から指摘されてきたところである.

たとえば,総務省『平成 20 年度 地方財政白書』によると,2006 年度決 算で都道府県別に見た人口 1 人当たりの地方税収では,もっとも多い東京都 ともっとも少ない沖縄県の間で,3.1 倍の格差がある.これを税目別に,先 と同様に格差の度合いを計ると,個人住民税は 3.3 倍,固定資産税は 2.3 倍, 地方消費税は 1.9 倍(これらの税目のいずれも,最大は東京都で最小は沖縄 県)なのに対し,法人住民税と法人事業税を合わせた地方法人 2 税は 6.1 倍 (最大は東京都で最小は高知県と長崎県)となっている.地域間の税収格差 は,地域間の経済格差(所得格差)とともに,地方法人 2 税(法人住民税と 事業税)の地域間格差が大きいことが主因となっていると考えられる.

しかし,この税収格差を財政運営面で放置しているわけではない.わが国 の地方財政制度には,地方交付税などの中央政府から地方政府への財政移転 があり,これらに税収格差をならす役割が期待されている.その結果,地域 間の税収格差は相当程度ならされているものと考えられる.

(6)

2

SNA から見た日本の地方財政

1)

2.1 一般政府内外の取引

SNA から見た公的部門への資金の流れについては,これまで『国民経済 計算年報』で十分に明らかにされてこなかった.とくに,一般政府内部(中 央政府・地方政府・社会保障基金相互間)の取引は,受取と支払いの純計を 示されていても,受取と支払いそれぞれは明らかにされていなかった.そう した状況下で,本間ほか[1989]や本間・跡田[1991]などでは,財政統計等を 用いて一般政府内部の取引を明らかにしようとする取り組みがなされてきた.

この度,内閣府経済社会総合研究所『平成 18 年版国民経済計算年報』で, 1996 年度以降について一般政府内部の取引の計数が,初めて公式に示され た.図表 12 4 では 2006 年度における一般政府内部の取引を要約した計数を 示している2)

そこで,中央政府と地方政府において,どのような要因で基礎的財政収支 が発生したかについて,支出と収入の項目をそれぞれ分解して詳細に考察し よう.

地方政府の収入と支出について見てみよう.地方政府の収入について,項 目別に対 GDP 比で示したのが,図表 12 5 である.図表 12 5 でも,基礎的 財政収支の定義に基づき,中央政府の収入に含まれる受取利子は計上してい ない.図表 12 5 を見ると,地方政府の収入は,中央政府からの経常移転の 受取が最大の収入項目となっており,ついで生産・輸入品に課される税が多 くなっている.地方政府における生産・輸入品に課される税には,地方消費 税だけでなく,固定資産税も含まれ,時期による変動が少ない収入項目に

1) 以下の図は,次の特殊要因を除去して示している.1998 年度は,国鉄清算事業団,国有林野 事業特別会計から一般会計への債務継承(約 27 兆円)による,一般政府から非金融法人企業へ の資本移転がある.また,2003 年度以降は,代行返上にともなう厚生年金基金から厚生保険特 別会計への積立金の移管(2003 年度約 3.5 兆円,2004 年度約 5.4 兆円)による,金融機関から 一般政府への資本移転がある.2005 年度には,道路関係四公団(日本道路公団,首都高速道路 公団,阪神高速道路公団,本州四国連絡橋公団:非金融法人企業)の民営化にともなう旧四公団 から日本高速道路保有・債務返済機構(一般政府)への資産・負債の承継が土地の購入(純) (約 9.3 兆円)等として計上されている.2006 年度については,財政融資資金特別会計(公的金 融機関)から国債整理基金特別会計(一般政府)への繰入れが資本移転(受取)(12 兆円)とし て計上されている.この修正は,本稿を通じて採用している.

(7)

なっている.地方政府の所得・富等に課される経常税には,道府県民税,市 町村民税,自動車関係諸税などが含まれる.

地方政府の支出(支払利子を除く)と図表 12 5 の収入(受取利子を除く), そしてその差額である基礎的財政収支について,項目別に対 GDP 比で示し たのが,図表 12 6 である.基礎的財政収支の定義に基づき,図表 12 6 には,

28629.4 2584.0 16813.9 2.1 58211.1 3.0 ※ 82187.6 62.0 60394.9 3719.3 40236.3 808.8 25861.4 5698.5 84.2

1256.4 6322.2 91.12.0 0.0

41.8 30.2

純貸出 −17463.0

純貸出 −1062.4 純貸出

899.9

(単位:10億円) 上段:経常取引 下段:資本取引 59091.5

1601.1

中央政府

地方政府 社会保障基金

図表 12 4 一般政府部門別受け払い(2006 年度)

出所) 内閣府経済社会総合研究所『平成 20 年版国民経済計算年報』 注) ※ 厚生年金基金の厚生年金代行部分積立金返上の影響を除去.

1990 1995 2000 2005 0 2 4 10 8 6 12 14 16

生産・輸入品に課される税 所得・富等に課される経常税 中央政府からの経常移転の受取 他の経常移転の受取 中央政府からの資本移転の受取 その他の資本移転の受取 (%)

(年度)

図表 12 5 地方政府の収入(除受取利子)(対 GDP 比)

(8)

中央政府の支出に含まれる支払利子は計上していない.図表 12 6 での折れ 線グラフの経常受取計と受取合計は,図表 12 5 の棒グラフを転記する形で ここに示している.図表 12 6 を見ると,地方政府の支出は,最終消費支出 が最大の項目となっている.

直近において対 GDP 比で見ると,地方政府の最終消費支出は約 8%であ り,図表 12 10(p. 411)で示した中央政府の最終消費支出(約 2%)に比べ て約 4 倍の大きさとなっている.また,地方政府の(純)固定資本形成は, 1990 年代後半には対 GDP 比で 2%を超える大きさであったが,近年の地方 歳出削減の取り組みで地方単独事業が抑制されていることを反映して,2006 年度の対 GDP 比は 0.0036%となっている(粗固定資本形成は 12 兆 2,969 億円,純固定資本形成は 184 億円).

ちなみに,図表 12 7 には,地方政府の資本勘定における収支の推移を示 している.これによると,1990 年代後半以降,地方政府の公的固定資本形

1990 1995 2000 2005(年度) −4

2 0 −2 4 10 8 6 12 14 16 18 (%)

中央政府への経常移転の支払 社会保障基金への経常移転の支払 補助金 最終消費支出

他の経常移転の支払 中央政府への資本移転の支払 純固定資本形成 土地の購入(純)

他の資本移転の支払 経常受取計 受取合計 プライマリー・バランス 純貸出/純借入

図表 12 6 地方政府の支出(除支払利子)と基礎的財政収支(対 GDP 比)

(9)

成は減少傾向にあり,2006 年度には純固定資本形成の額はほぼゼロとなっ ている.

図表 12 10 と同様に,図表 12 6 で受取合計の比率から支出合計の比率を 差し引いたのが,折れ線グラフのプライマリー・バランス(基礎的財政収 支)である.これを見ると,地方政府の基礎的財政収支対 GDP 比は,1996 年度の約 1.5%の赤字がもっとも大きく,その後 2000 年度には基礎的財政 収支が黒字化し,2002 年度と 2003 年度に再び赤字となるが,図表 12 6 で も示したように,2004 年度には黒字となったことがわかる.図表 12 5 で見 たように,中央政府からの財政移転が近年減少しているなかで,基礎的財政 収支を黒字化できたことは,中央政府からの財政移転の抑制を梃子に地方歳 出の削減が行われたことに結果といえる.

ちなみに,前述の純貸出/純借入の対 GDP 比の推移を示すと,1996 年度 の 2.5%の赤字(支払超過)から改善して,2000∼2003 年度には 1%前後の 赤字(支払超過)で推移し,2004 年度は 0.55%の赤字(支払超過)と改善 している.

地方政府の基礎的財政収支の変動要因を分析するべく,対前年度比の変化 額を収入と支出の各項目でとったものが,図表 12 8 である.図表 12 8 によ ると,この時期一貫して,純固定資本形成の減少が基礎的財政収支の改善に 相当程度寄与していることがわかる.また,1999 年度には,中央政府から の経常移転の受取の増加が,地方政府の基礎的財政収支の改善に大きくして いることも観察される.中央政府からの経常移転の受取は,2000 年度以降 は減少したため地方の基礎的財政収支の悪化要因となっているが,それにも まして純固定資本形成の減少があったために,中央政府の経常移転の受取の 減少ほどには基礎的財政収支は悪化せず,2004 年度には逆に収支を改善す ることに成功している.この間,地方政府の最終消費支出(とくに地方公務 員人件費)はあまり大きな変動要因とはなっていないこともうかがえる.

(10)

1990 1995 2000 2005(年度) −0.50.0

1.5 1.0 0.5 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 5.5 6.0 6.5 (%)

中央政府への資本移転の支払 純固定資本形成 土地の購入(純) 他の資本移転の支払 資本受取

図表 12 7 地方政府の資本勘定の収支

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005(年度) −8

−4

−6 −2 2

0 4 6 8 (兆円)

生産・輸入品に課せられる税 所得・富等に課せられる経常税 中央政府からの経常移転の受取 他の経常移転の受取 中央政府からの資本移転の受取 その他の資本移転の受取 中央政府への経常移転の支払 社会保障基金への経常移転の支払 補助金 最終消費支出

他の経常移転の支払 中央政府への資本移転の支払 純固定資本形成 土地の購入(純)

他の資本移転の支払 プライマリー・バランス

図表 12 8 地方政府の基礎的財政収支の対前年度比変化額と要因分解

(11)

1990 1995 2000 2005(年度) −8

−2 −4 −6 0 12 10 8 6 4 2 14 16 18 (%)

地方政府への経常移転の支払 社会保障基金への経常移転の支払 補助金 最終消費支出

他の経常移転の支払 地方政府への資本移転の支払 純固定資本形成 土地の購入(純)

他の資本移転の支払 経常受取計 受取合計 プライマリー・バランス 純貸出/純借入

図表 12 10 中央政府の支出(除支払利子)と基礎的財政収支(対 GDP 比)

出所) 内閣府経済社会総合研究所『平成 20 年版国民経済計算年報』

1990 1995 2000 2005(年度) 0

2 4 10 8 6 12 14 16 (%)

生産・輸入品に課される税 所得・富等に課される経常税 他の経常移転の受取 地方政府からの資本移転の受取 資本税 その他の資本移転の受取

図表 12 9 中央政府の収入(除受取利子)(対 GDP 比)

(12)

印紙収入などが含まれ,所得・富等に課される経常税には,所得税,法人税, 自動車関係諸税,日銀納付金などが含まれる.なお,資本税には,相続税・ 贈与税が含まれる.このことからも類推できるように,生産・輸入品に課さ れる税の対 GDP 比は約 4%で安定的に推移しているが,所得・富等に課さ れる経常税の対 GDP 比は時期によって変動している.

中央政府の支出(支払利子を除く)と図表 12 9 の収入(受取利子を除く), そしてその差額である基礎的財政収支について,項目別に対 GDP 比で示し たのが,図表 12 10 である.同様に,中央政府についてのものは,図表 12 11 に示している.基礎的財政収支の定義に基づき,図表 12 10 には,中央 政府の支出に含まれる支払利子は計上していない.図表 12 10 での折れ線グ ラフの経常受取計と受取合計は,図表 12 9 の棒グラフを転記する形でここ

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005(年度) −14

−12 −10 −8 −4 −6 −2 2 0 4 6 8 (兆円)

生産・輸入品に課せられる税 所得・富等に課せられる経常税 他の経常移転の受取 地方政府からの資本移転の受取 資本税 その他の資本移転の受取 地方政府への経常移転の支払 社会保障基金への経常移転の支払 補助金 最終消費支出

他の経常移転の支払 地方政府への資本移転の支払 純固定資本形成 土地の購入(純)

他の資本移転の支払 プライマリー・バランス

図表 12 11 中央政府の基礎的財政収支の対前年度比変化額と要因分解

(13)

に示している.図表 12 10 を見ると,中央政府の支出は,前述のように,地 方政府への経常移転の支払が最大の項目となっている.また,中央政府の最 終消費支出や社会保障基金への経常移転の支払もついで比率が大きな支出項 目となっている.

折れ線グラフの受取合計の比率から,支出の棒グラフの合計の比率を差し 引いたのが,折れ線グラフのプライマリー・バランス(基礎的財政収支)で ある.これを見ると,中央政府の基礎的財政収支対 GDP 比は,1999 年度に 約 6%の赤字ともっとも大きくなったが,その後マイナス 5%前後を推移し, 2004 年度には約 4%まで改善したことがわかる.折れ線グラフで示された受 取合計の対 GDP 比はさほど上昇していないことから見ると,この基礎的財 政収支の改善は支出項目の抑制によるところが大きいことが示唆される.と くに,図表 12 10 では,「三位一体改革」の時期における地方政府への財政 移転の抑制が観察され,1990 年代後半に対 GDP 比が約 5%から約 6%に上 昇したが,近年には約 5%とかつての水準まで低下している.

ちなみに,前述の純貸出/純借入(かつての貯蓄投資差額)の対 GDP 比 の推移を示すと,1996 年度の約 4%の赤字(支払超過)から 1999 年度には 約 8%の赤字(支払超過)へと悪化したが,近年は改善傾向にあって,2004 年度は約 5%強の赤字(支払超過)となっている.

3

地方財政と地域間格差

3.1 地域間格差のとらえ方

地方税や地方交付税,国庫支出金等の政府間財政移転に関して,地域間格 差を分析した先行研究には,菅原[2000],伊多場[2002],田平[2003]などが ある.

これらの研究では,各地域の住民の立場から,県民所得を再分配前所得と 見なして,そこから地方税が課税されることを控除し,政府間財政移転を受 け取ったことを加算して,「再分配後」の所得と見なして,地域間格差を分 析しているのがほとんどである.

(14)

えないからである.

そこで,本稿では,近年(必ずしも学術的ではないが)自治体間の格差拡 大を懸念する向きがあることを踏まえ,地域間の地方税収格差が政府間財政 移転でどの程度是正されたかを分析することで,地域間格差の動向を明らか にした.先行研究と本稿の差異をより技術的に説明すれば,先行研究のほと んどが,1 人当たり県民所得の(都道府県間)分布を再分配前所得の分布と しているのに対し,本稿では 1 人当たり地方税収(道府県税+市町村税)の

(都道府県間)分布を再分配前所得の分布としているところである. 地域間格差を測る指標として,先行研究でも多く用いられているジニ係数 を用いる.以下では,Lambert[2001]を参考にして,ジニ係数とその変動要

因の分解を行う.説明の便宜上,連続的に所得が分布する状況を考え,N

人いる個人の所得x>0 が,分布関数F(x),確率密度関数f(x)と表され

る形で分布しているとする.μをこの平均所得とする.累積度数p∈(0, 1)

は,p=F(y)となる所得水準yがただ 1 つ存在するものとする.このとき,

ローレンツ曲線L(p)は,

L(p) =

x f(x)dx

μ

と定義される.そして,ジニ係数Gは,

G= 1 − 2

L(p)dp= − 1 + 2

y F(y)f(y)dy

μ

と定義される.

ちなみに,離散型の分布の場合,個人iの所得xx<x<⋯<xと並

べられるとして,このジニ係数は

G= ∑

xx

2Nμ

と表される.

(15)

て,t(x)と表されるとし,その平均純負担額をμとすると,純負担のロー

レンツ曲線L(p)は,

L(p) =

t(x)f(x)dx

μμ

と定義される.そして,純負担の集中度係数Cは,

C= 1 − 2

L(p)dp

と定義される.この集中度係数は,再分配前の所得の順位で並べられた場合 の純負担のジニ係数ということもできる.

そこで,純負担の集中度係数から再分配前所得のジニ係数を控除した値は, Kakwani[1977]で提示された Kakwani 係数(K)と呼ばれており,

K=VG

と定義される.ここでの Kakwani 係数は,再分配政策が累進的であれば正 の値を,逆進的であれば負の値をとる形で定義している3)

その再分配政策が施された結果,各個人の再分配後の所得をz(=xt(x))とし,その分布関数F(z),確率密度関数f(z)と表される形で分布

しているとする.μをこの平均所得とする.累積度数q∈(0,1)は,q=

F(w)となる所得水準wがただ 1 つ存在するものとする.このとき,ロー

レンツ曲線L(p)は,

L(q) =

z f(z)dz

μ

と定義される.そして,ジニ係数Gは,

G= 1 − 2

L(q)dq

と定義される.

そこで,再分配前所得のジニ係数Gと再分配後所得のジニ係数Gの差

(16)

をとることで,再分配政策によるジニ係数の変化,つまり政策が所得再分配 として影響を与えた度合いを測ることができる.これは,Reynolds and Smolensky[1977]で提示された Reynolds-Smolensky 係数(Π)と呼んでお

り,

Π=GG

と定義される.Reynolds-Smolensky 係数が大きいほど,再分配前に比べて 再分配後のジニ係数が大きく低下していることを意味するから,その政策の 再分配効果が大きいことを意味する.

そして,Creedy[1998]で示されているように,Kakwani 係数と Reynolds-Smolensky 係数との間には,

Π=

α

1 −α

KR

ただし,αは再分配政策の相対的規模を表し

αNμ Nμ

= μ μ

となる.Rは順位移動効果(reranking effect)を意味し,

RGC

と表される.ここでCは,再分配後所得の集中度係数(再分配前の所得の

順位で並べられた場合の再分配後所得のジニ係数)である.順位移動効果と は,再分配前所得で見た個人の順位と再分配後所得で見た世帯の順位が入れ 替わる効果を表しており,Rの値が大きいほど再分配政策の前後で所得の多

寡の順位が入れ替わる度合いが大きいことを意味する.

(17)

順位移動効果について,さらに Creedy[1998]で示されているように,At-kinson[1970]と Plotnick[1981]で提示された Atkinson-Plotnick 係数P

P=GC 2G

と用いると,順位変動効果Rは,

R= 2GP

と表すことができる.そこで,本稿では,順位変動効果を表す指標として, Atkinson-Plotnick 係数を用いることとする.

3.2 わが国の地方財政におけるジニ係数

そこで,前節であげた格差を測る指標を用いて,わが国の地方財政におい て地域間格差がどのように推移したかを分析しよう.本稿では,分析対象を 都道府県単位として地域間格差を考察する.2000 年以降,わが国では市町 村において合併が数多く行われたため,市町村を単位として分析した場合, 合併によって格差の度合いが変化してしまう.それを避けるには,行政区域 がほぼ変更していない都道府県を単位とする4).ただ,都道府県下には市町 村があって,市町村でも地方税を徴収し,地方交付税や国庫支出金が配分さ れている.そこで,本稿では,地域間格差の分析は都道府県を単位とするが, 対象とする会計は都道府県と市町村の普通会計を合わせたものとする5)

まず,都道府県単位で,道府県税と市町村税の合計を人口 1 人当たりで見 てジニ係数を測ったのが,図表 12 12 である.図表 12 12 のなかの「地方 税」と示されたものである.本稿の分析の主眼となる期間は 1980 年代後半 以降だが,ジニ係数の大きさを比較する意味で,1955 年度以降の値を示し ている.

4) 分析期間のなかで,県境を越えた市町村合併(たとえば,かつて長野県に属していた旧山口村 が岐阜県中津川市と合併する)も例外的にはあるが,分析結果には大きな影響を与えるとは考え にくいため,その影響は捨象する.

(18)

図表 12 12 によると,地方税のジニ係数は,1980 年代後半のバブル期に は,都市部で好況の影響で税収が増加したこともあって上昇して地域間税収 格差が拡大しているが,1990 年代前半のバブル崩壊期には,景気後退の影 響で急激にジニ係数が低下し,戦後のなかでも過去に例がないほど地方税収 の地域間格差が縮小した.1990 年代後半以降のデフレ期にはジニ係数が もっとも低くなっていたが,2003 年以降の三位一体改革での税源移譲と同 時期の景気回復で都市部で税収が増加し始めたことがあって,2004 年度以 降ジニ係数上昇に転じている.近年,地方税収の地域間格差が政治的にも顕 著に唱えられるようになったことと符合する結果である.

しかし,近年の地方税のジニ係数は上昇しているものの,依然バブル期以 前の 1980 年代前半よりも低く,バブル期の水準にははるかに及ばない.こ の結果を見れば,地方税の地域間格差は,少しばかり拡大傾向になったとい うにすぎず,格差拡大をことさらに騒ぎ立てる状況にはない.

次に,地方税に加えて,地方譲与税,地方交付税(1999 年度以降は地方 特例交付金も含む)を含めた,地方一般財源を都道府県単位で 1 人当たりの 額の分布から導いたジニ係数を示したのが,図表 12 12 の「一般財源」であ る.地方税と同様,都道府県と市町村が受け取った額を合算している.これ を見ると,地方譲与税と地方交付税(1999 年度以降は地方特例交付金も含 む)により,再分配後にはジニ係数が低下していることがわかる.再分配後 のジニ係数は 1980 年代後半以降ほとんど変わらず,おおむね 0.1 である. たしかに,地方税収には地域間格差があるとはいえ,1980 年代後半以降は 一般財源で見ると都道府県間では同程度に是正されていたといえる.

ちなみに,一般財源に加えて,特定財源のうち国からの財政移転である国 庫支出金を含めて,1 人当たりの額の分布から導いたジニ係数を示したのが, 図表 12 12 の「一般財源+国庫支出金」である.先と同様,都道府県と市町

村が受け取った額を合算している.これを見ると,国庫支出金を含めたジニ 係数は,1970 年代後半から 1980 年代前半に乖離した時期があるものの, 1980 年代後半以降では「一般財源」と同程度であったことがわかる.

(19)

12 で見たようにジニ係数は大きく変化していないことから,図表 12 13 に ある Reynolds-Smolensky 係数は地方税のジニ係数の変化に大きく影響を受 けているといえる.

次に,それぞれの再分配の財源がどのような再分配の傾向があるかを見た Kakwani 係数を見てみよう.地方譲与税,地方交付税(1999 年度以降は地 方特例交付金も含む),国庫支出金を 1 人当たりの額で見た Kakwani 係数を 示したのが,図表 12 14 である.これによると,地方譲与税,地方交付税 (1999 年度以降は地方特例交付金も含む),国庫支出金とも,Kakwani 係数 は負の値を示しており,逆進的に分配されていたといえる.つまり,地方税 収が少ない都道府県により多くこれらの財源が分配されていた.そして,そ のうち,地方交付税が,Kakwani 係数の絶対値が大きいことから,逆進性 がより強いことが示されている.地方交付税の再分配効果として強く逆進的 に(税収格差をならす形で)再分配されていたといえる.

ちなみに,地方譲与税で 1989 年度から 1996 年度までその前後の時期と異 なる傾向を示しているのは,消費譲与税があったからで,1997 年度以降は これが地方消費税となっており,その制度変更が係数の値に反映している. また,近年の変化は,三位一体改革に関連した税源移譲に関連して,暫定的 な仕組みとして所得譲与税が導入されたことによるものである.

そして,順位移動効果として,Atkinson-Plotnick 係数で測るとどうなる かを見よう.再分配前の 1 人当たり地方税収と比べて,再分配後の 1 人当た

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3

1955 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

地方税 一般財源 一般財源+国庫支出金

図表 12 12 ジニ係数

(20)

−0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0 0.2 0.4 0.6

1955 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

一般財源+国庫支出金 一般財源

図表 12 15 Atkinson-Plotnick 係数

出所) 筆者作成.

−0.7 −0.6 −0.5 −0.4 −0.3 −0.2 −0.1 0

1955 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

地方交付税

地方譲与税 国庫支出金

図表 12 14 Kakwani 係数

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

1955 60 65 70 75 80 85 90 95 2000 05(年)

一般財源 一般財源+国庫支出金

(21)

り一般財源,または 1 人当たり一般財源+国庫支出金についての

Atkinson-Plotnick 係数の推移を示したのが,図表 12 15 である.これを見ると,「一 般財源」も「一般財源+国庫支出金」も,1980 年代後半から 2000 年度ごろ

までは,Atkinson-Plotnick 係数は上昇傾向で,正の値が大きくなっている. つまり,バブル期以降,国からの財政移転によって,順位移動効果が強まっ ていることがわかる.これは,財務総合政策研究所[2001]の分析結果を裏づ けるものである.

2000 年度以降では,Atkinson-Plotnick 係数は低下しており,三位一体改 革での議論を踏まえた予算編成の影響が現れているものと考えられる.

4

まとめ

本稿では,1980 年代後半のバブル期から 1990 年代前半のバブル崩壊期, そして 1990 年代後半以降のデフレ期を通じて,わが国の地方財政において, 財政赤字と地域間格差がどのように推移し,どのような要因が作用していた かを分析した.

まず,国民経済計算体系(SNA)から見たわが国の地方政府の財政構造 について,一般政府内の部門内移転をも含めて要因分解を行ったところ,地 方政府の財政収支は,バブル期には改善するが,1992 年度以降赤字になっ た.そして,財政の持続可能性と密接に関連する基礎的財政収支で見ると, 地方政府の基礎的財政収支対 GDP 比は,1996 年度の約 1.5%の赤字がもっ とも大きく,その後 2000 年度には基礎的財政収支が黒字化し,2002 年度と 2003 年度に再び赤字となるが,2004 年度には黒字となったことがわかる. 中央政府からの財政移転が近年減少しているなかで,地方政府の基礎的財政 収支が黒字化したことは,中央政府からの財政移転の抑制をてこに地方歳出 の削減が行われたことに結果といえる.

(22)

配後のジニ係数が大きく低下していることを意味するから,その政策の再分 配効果が大きいことを意味する.順位移動効果(reranking effect)とは, 再分配前所得で見た個人の順位と再分配後所得で見た世帯の順位が入れ替わ る効果を表しており,値が大きいほど再分配政策の前後で所得の多寡の順位 が入れ替わる度合いが大きいことを意味する.順位変動効果を表す指標とし て,Atkinson-Plotnick 係数を用いた.

そして,地方財政の決算統計を用いた分析によると,地方税のジニ係数は, 1980 年代後半のバブル期には,都市部で好況の影響で税収が増加したこと もあって上昇して地域間税収格差が拡大しているが,1990 年代前半のバブ ル崩壊期には,景気後退の影響で急激にジニ係数が低下し,戦後のなかでも 過去に例がないほど地方税収の地域間格差が縮小した.1990 年代後半以降 のデフレ期にはジニ係数がもっとも低くなっていたが,2003 年以降の三位 一体改革での税源移譲と同時期の景気回復で都市部で税収が増加し始めたこ とがあって,2004 年度以降ジニ係数は上昇傾向に転じている.近年,地方 税収の地域間格差が政治的にも顕著に唱えられるようになったことと符合す る結果である.しかし,近年の地方税のジニ係数は上昇しているものの,依 然バブル期以前の 1980 年代前半よりも低く,バブル期の水準にははるかに 及ばない.この結果を見れば,地方税の地域間格差は,少しばかり拡大傾向 になったというにすぎず,格差拡大をことさらに騒ぎ立てる状況にはない. 地方税に加えて,地方譲与税,地方交付税(1999 年度以降は地方特例交 付金も含む)を含めた,地方一般財源を都道府県単位で 1 人当たりの額の分 布から導いたジニ係数を見ると,地方譲与税と地方交付税(1999 年度以降 は地方特例交付金も含む)により,再分配後にはジニ係数が低下していた. 再分配後のジニ係数は 1980 年代後半以降ほとんど変わらず,おおむね 0.1 である.たしかに,地方税収には地域間格差があるとはいえ,1980 年代後 半以降は一般財源で見ると都道府県間では同程度に是正されていたといえる.

(23)

代後半から 2000 年度ころまで上昇傾向で,正の値が大きくなっている.つ まり,バブル期以降,国からの財政移転によって,順位移動効果が強まって いることがわかる.

今後は,地域間格差に対応する政策は,こうした客観的な指標に基づいて 対応することが求められよう.

参考文献

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財務総合政策研究所[2001],『主要国の地方税財政制度調査報告書』.

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15 32.

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土肥原洋・増淵勝彦・丸山雅章・長谷川秀司[2006],「国民経済計算から見た日本経済の 新動向」ESRI Discussion Paper Series No. 167.

本間正明・斉藤慎・跡田直澄・高林喜久生・橋本元秀・二木高志・長尾知幸・楠本喜己・ 松田正弘・古河久人・桝永慎一郎[1989],「調査資料:新 SNA と制度会計」『フィナン シャル・レビュー』第 9 号.

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Creedy, J. [1998], , Edward Elgar.

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参照

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