2013年 7 月 20 日(土)
若手人権問題研究会第 4 回勉強会 菅原絵美(大阪大学)
国際犯罪への企業の加担に関する法的考察
はじめに
人権侵害(国際犯罪)の企業加担に対する国際社会の対応(安全保障理事会、人権理事会など) 「国際法上の企業の責任」
⇒国際法(国際人権法および国際人道法)を順守する法的義務を企業は負うのか(実体的側面)
⇒国際法上、企業に義務違反の責任(民事責任/刑事責任)を問えるのか(実体的側面)
⇒国際レベルで、企業に義務違反および法的責任を問うことができるのか(手続的側面)
*国際人権法を尊重する企業の責任:
国連ビジネスと人権に関する指導原則( 2011 年 6 月 HRC 承認)による「立法論」的アプローチで 対応。
*国際人道法を順守する企業の義務/責任(企業の刑事責任)は十分に整理されていない。
1.企業の加担( complicity )とは
●1967年以降に占領されたパレスチナの地域の人権状況に関する特別報告者( R. Falk )
特別報告者の 2012 年報告1 において、イスラエル政府の入植行為をジュネーブ条約(第 4 条約)第 45 条(移送・立ち退き)違反とし、関与する企業 13 社に対し、国際犯罪(戦争犯罪)に触れなが ら批判、勧告。国際赤十字委員会( ICRC )2 の見解を引用し、企業の業務としての行為であっても従 業員は国際犯罪から免除されないとする。
①企業の国際犯罪への直接的な加担 ②物質的な援助による間接的な加担
キャタピラー社およびボルボ社は、イスラエル政府に対しブルドーザーや建設機械、バスなど自 社製品を提供し、パレスチナ人の家屋、学校、果樹園、オリーブ畑や農作地の破壊や分離壁の建 設、パレスチナ人政治犯の占領地(入植地)からイスラエル刑務所への移送などに使用されてき た。メキシコの Cemex 社は入植地の新たな建設物用の資材(セメント、コンクリートなど)の 提供を行う。
③金銭的な援助による間接的な加担
2.国際刑事法と企業
(1)企業の刑事責任を巡る実行の変遷
① 国際軍事裁判所憲章(ニュルンベルク憲章)第 9 条3
ドイツ企業の戦争犯罪および人道に対する罪に対する責任が問われたケース( Farben 事件4 な ど)
⇒犯罪組織と宣言することにより、何千もの他の従業員の刑事責任が問われることが懸念され、 企業による犯罪行為に関与した個人の刑事責任を問う論理構成となった。
② 国際刑事裁判所規程起草過程における企業の刑事責任の否定
「第 25 条個人の刑事責任」に対し、仏代表より「法人の刑事責任」導入の提案。
* 5) 罪を犯したと宣言された組織は刑罰を受ける。刑罰としては罰金および没収のみ。
1 A/67/379.
2 1949年 8 月 12 日のジュネーブ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第一 追加議定書)第 5 条により、ジュネーブ条約上の人道的活動を行う権限を認められている。また国際人 道法の守護者として、人道規則の定期的な再評価を行う監視機能を果たしている。
3 “At the trial of any individual member of any group or organization the Tribunal may declare (in connection with any act of which the individual may be convicted) that the group or organization of which the individual was a member was a criminal organization.”
4 The Farben Case, 7-8 Trials of War Criminals.
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2013年 7 月 20 日(土)
若手人権問題研究会第 4 回勉強会 菅原絵美(大阪大学)
⇒法人の刑事責任と補完性の原則
企業の刑事責任の制度のない国々(ドイツ等)が補完性の原則による導入の「強制」を懸念。 (2)国際犯罪への加担に対する企業代表者の刑事責任
① 幇助( Aiding and Abetting )
1) 客観的要素:実質性/作為および不作為
犯罪遂行に実質的 (substantial) な効果をもたらす実行の支援、精神的援助または奨励を提供し ている場合。
支援と犯罪遂行との間に因果関係があること、また支援が犯罪の実行の前提条件となっているこ とまでを求めるものではない。また支援は犯罪行為の前後および行為と同時に行われうる。 2) 主観的要素
支援の提供が主犯による犯罪実行を手助けすることを知っていた場合。 幇助罪の成立には、主犯と故意を共有する必要はない。
*ローマ規程第 25 条 3 項 (c) が求める主観的要素(犯罪実行を手助けする目的)は、同規程第 30 条が求める主観的要素(故意におよび認識して客観的な要素を実行する場合)より要求が 高い。
② 共謀( common purpose liability )
共謀は規程上ないが、共同犯罪意図(Joint Criminal Enterprise)として正犯と判断
③ 上官責任
3.考察
・国際犯罪への加担が問題となる場合、企業は国際人道法を順守する(法的)義務を負う。
⇒企業の刑事責任を問うことはできない。
⇒国際犯罪へ関与した従業員の刑事責任としては、幇助、共同犯罪意図(JCE)、上官責任を問いう る。
・従業員の幇助罪に関する主観的要件の立証:物質的な援助による間接的な加担の場合
オランダの Van Anraat 事件( 2007 年)では、サダムフセイン政権へのマスタード・ガス(化 学兵器)製造のための化学薬品の提供が戦争犯罪に当たるとして有罪判決。
裁判所は被告人が化学薬品の最終到着地がイラクでありそこで使用されることを知っていたと判断。 被告人は繊維産業で使用されるものと思っていたと反論したが、繊維プラントを製造するための施 設がイラクにはないこと、取引先と最終到着地について工作する被告人のメールが証拠となり幇助 罪と認定。
⇔国際犯罪への幇助罪の故意は、国内基準である未必の故意 (dolus eventualis) で足りるとした。
(ローマ規程第 25 条 3 項 (c) の「犯罪実行を手助けする目的」の基準に比べるとより広い余 地。)
・国際犯罪を行った従業員の刑事責任と企業の責任との橋渡し?
企業による国際法違反の幇助を証明するには、 1) 主犯が国際法に違反したこと、 2) 被告が当該 違反を知っていること、 3) 被告が違反を援助する意図をもって行動したこと、すなわち被告が 当該違反を援助するために特に行動したこと、 4) 被告の行為が犯罪遂行の成功に大きく寄与し たこと、 5) 被告が自らの行為が当該違反を援助したことを認識していること。
【参考文献】
International Commission of Jurists, “Corporate Complicity & Legal Accountability: vol2 Criminal Law and International Crimes” (2008), http://icj.wpengine.netdna-cdn.com/wp- content/uploads/2012/06/Vol.2-Corporate-legal-accountability-thematic-report-2008.pdf. Wim Huisman & Elies van Sliedregt, “Rogue Traders: Dutch Businessmen, International Crimes and Corporate Complicity”, Journal of International Criminal Justice 8(2010), 3,
pp. 803-828.
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2013年 7 月 20 日(土)
若手人権問題研究会第 4 回勉強会 菅原絵美(大阪大学) 稲角光恵「人権侵害及び国際犯罪に関わる国際法上の企業の責任」『法政論叢』245号( 2012 年) 稲角光恵「米国国内裁判のスーダン長老教会事件とキオベル事件に見る国際法上の企業責任」『金沢法 学』 53 巻 2 号( 2011 年)
竹村仁美「国際刑事法におけるJCE(Joint Criminal Enterprise)の概念( 1 )( 2 ・完)」『一 橋法学』第 6 巻 2 号( 2007 年)、 3 号( 2007 年)
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