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金属Vol86 No9847pdf 最近の更新履歴 wwwforumtohoku3rd

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(1)

青木  清 

最先端研究論文の不正疑惑と名誉毀損裁判

―キャップ鋳造法による 30mm 直径の

ガラス合金棒作製 ( 07 年論文) の検証―

はじめに

 井上明久東北大学前総長(現 城西国際大学教 授,なお,本稿はすべて敬称略)が著者の96 年論1)07 年論文2)に,捏造ないし改ざんの疑いが あると,日野秀逸東北大学名誉教授らが東北大学 に告発した記事をホームぺ−ジ(HP)3)に掲載した ことにより名誉が傷つけられたと,井上らが訴え た損害賠償裁判は,最高裁が上告を却下し,名誉 毀損を認めた仙台高裁判決が確定した4).  井上の研究不正疑惑は96 年論文を含む 4 論文 に捏造改ざんの疑いがあると07 年に匿名投書が告 発したことに端を発する.96 年論文は,吸引鋳造 法で直径30mm,長さ 50mm の Zr55Al10Ni5Cu30

ルクガラス合金を作製したと報告し,バルク金属 ガラスが注目される契機となった.この試料サイ ズは20 年後の今日でも世界記録である.

 匿名告発に関して,東北大学は予備調査と本調 査を行い,96 年論文の吸引鋳造法と鋳造原理が同 一のキャップ鋳造法(07 年論文)によって同等の 試料が作製されたことから,96 年論文に再現性が 認められ,研究不正はないとの報告書を作成し公 表した5)6).しかし,科学的合理性に著しく欠けた 報告書であるとの疑問と批判の声があがった.批 判を抑えつけようとしたことで,逆にこの問題に 関心が集まり,日野らのグループをはじめとして, 個人やグループが井上論文を調査し,その結果, 多くの捏造改ざん,多重投稿等が発覚し,告発さ れた.なお,井上研究不正疑惑に関しては,日野

らが著書で解説している7)8)

 07 年論文は匿名投書の告発に含まれないが,東 北大学対応委員会により96 年論文の再現性を担保 する論文とされたので日野らが詳しく調べた.本 稿では裁判によって明らかになった事実を含めて, 07 年論文の疑問点について検討する.ところで, 07 年論文は,アブストラクトに「1cm を超える直 径を有するバルクガラス合金を作製するために, 様々な鋳造方法が開発された.Zr55Cu30Ni5Al10合 金の最大直径は,銅鋳型鋳造法では16mm,傾角 鋳造法では20mm であった.さらに大きなバル クガラス合金を作製する目的で,鋳造材上部の冷 却速度を増加させるために傾角鋳造法を改良した キャップ鋳造法を開発した」と記す(下線は筆者, 以下同様).すなわち,1cm をさらに超えた,大き なバルクガラス合金の作製が07 論文の主題であ る.同様に,匿名投書が告発した4 論文も全て大 きなバルクガラス合金の作製が主題である.

キャップ鋳造法で直径 30mm のバ

ルク金属ガラス棒が作製できたか?

 図1 はキャップ鋳造法のベースである傾角鋳造 法の模式図を示す(02 年論文の Fig.2 の再掲)9) アーク溶解は外熱方式であるため完全溶解が困難 であるが,鋳込み中に溶湯を再加熱する傾角鋳造 法によって完全溶解が可能になったとされる.と ころが,傾角鋳造法は,通常の金型鋳造法と同様 に,鋳型に接触しない,最後に凝固するインゴッ ト上部の冷却能が低く,ガラス化が難しい問題点

(2)

がある.井上と横山嘉彦東北大准教授(当時)らは, 傾角鋳造で大きい冷却速度を得られるように,溶 湯の上部を銅製キャップで加圧・冷却するキャッ プ鋳造法を開発した.図2 は傾角鋳造法を改良し たキャップ鋳造法の模式図(07 年論文の Fig.1 の再 掲)を示す.

 図3(a)はキャップ鋳造法で作製した直径 30mm のZ55Cu30Ni5Al10ガラス合金棒の外観写真(07 年論 文のFig.4(a)の再掲)を示す.図 3(b)は同ガラス 棒の底面から10mm の位置で切断した横断面の写 真(07 年論文の Fig.4(b)の再掲)である.図 3(b) はこの断面に結晶粒子が存在しないことを示し, さらに,この断面を測定したX線回折図形(Fig.4

(c),本稿では省略)にブラッグピークが見られな いことから,単一のガラス相が形成されたと井上 らは判定した.しかし,試料の一部がガラスであ ることを確かめただけで,直径30mm,長さ不詳 のバルク金属ガラスが作製できたと結論するのは

誤りである.07 年論文は,バルク金属ガラス作製 と銘打つが,直径とともに重要な肝心の試料長さ が記されていない.写真に付された物差し(スケー ル)から,長さは約30mm と読み取れる.直径は 30mm と同一であるから,07 年論文の試料の体積 と重量は96 年論文の約 60%に過ぎない.大きな サイズの試料の作製が困難なバルク金属ガラス研 究では,小さなサイズの試料が作製できても,大 きなサイズの試料の再現性を保証しない.したがっ て,07 年論文が 96 年論文に再現性がある根拠で あるとする対応委員会報告書は試料サイズの視点 より誤りであると考えられる.

 論文の趣旨から,キャップ鋳造法に関する07 年 論文は,インゴットの上部を調べることが不可欠 であるが,調べていない.調べていないにも関わ らず,試料全体がガラスであると結論したのは, 虚偽である.このような疑問と批判を日野らが示 したのに対して,裁判の終盤で,07 年論文の筆頭 著者の横山は,インゴットの上部を調べていない

図2 キャップ鋳造法の模式図,

図3

図3 キャップ鋳造で作製した直径30mm の Z55Cu30Ni5Al10

ガラス合金棒の外観写真(a)と同合金ガラス棒の底面か

ら10mm の位置の点線に沿った横断面の写真(b).

図1 傾角鋳造法の模式図.

(3)

にも関わらず,07 年論文を書いたのは,科学的に 不十分で不適切であったとして,日本金属学会に 同論文の撤回を文書で申し入れた.論文が取り下 げられた事実は確認できないが,筆頭著者が撤回 を申し入れたことはきわめて重い.07 年論文で直 径30mm のバルク金属ガラスが作製できていない と同等だからである.

裁判で捏造改ざんの疑義は払拭さ

れたか?

4 分割写真問題−中心の定まらない断面写真  07 年論文について,日野らが名誉毀損に問われ たのは,「井上総長の研究不正疑惑の解消を要望す る会(フォーラム)のホームページ(HP)に掲載さ れた,以下の記述である.

「図4(b)は,そもそも作製された試料の正確な 断面写真と言えるのか疑問です.中心を定める ことができないので,直径3.0cm のガラス棒の 断面写真は,断面の中心部分を削除した編集写 真ではないか,という疑問が生じます.論文著 者は図4(b)のオリジナル(実物)を示し,図 4(b) の画像が正確に切断面を再現した画像であるこ とを証明する必要があります.論文の著者によっ てこの証明がなされない限り,この論文には捏 造ないし改竄があると断定せざるを得ません」.

 下線を引いた部分が,日野らの疑義の核心であ るにもかかわらず,以下に示すように,最初に告 発した日本金属学会の回答10)のみならず,東北大 学の回答11)も,この疑問に答えず,完全に無視し た.読者諸氏が以下の事実を知れば,日野らの疑 問は正当であり,名誉毀損は到底成り立たないこ とを理解していただけるだろうと思う.

 東北大学宛ての告発12)では,07 年論文の Fig.4

a)と(b)(本稿の図3(a)と(b)に対応)が掲載され ている.日野らは合成写真を試料断面の説明に用 いたことに疑義を呈した上で,以下のように断面 写真は円の中心が定まらないことを指摘した.

 図4(a)と(b)は,東北大宛ての告発書の図 4(a) と(b)の再掲である.説明文は以下のように記さ れている.

「図中の補助線は中心を求めるために引いた弦の 垂直二等分線であり,直径2.0 cm のガラス棒の 画像ではこれら4 本の垂直二等分線が一点で交 わっているのに対して,直径3.0cm の合成写真 では中心を定めることができません.」

この記述に引き続いて,名誉毀損に問われた文言 が記されている.

 直径2.0cm の試料は垂直二等分線が一点で交わ るから断面は円である.しかし直径3.0cm の試料 はそれらが交わらないので中心が定まらない.よっ て断面は円ではない.ところで,図4(b)の 左 図 には,インゴットの中心に棒状の物体が見える. インゴットに近い部分はインゴットに似た色合い と凹凸を示すが,途中で色合いが異なる.したがっ

図4 円柱状金属ガラスの外観写真と断面写真.直径

20mm(a),直径 30mm(b).

a)

b)

(4)

てこの棒状の物体は合金ではない,つまり異物の 可能性がある.この異物はインゴットの奥まで突 き刺さっているように見えるが,仮にこのような 見解が正しければ,試料全体がガラスであること が怪しくなる.このように,断面写真が円でない 理由として,断面の中心部分を削除した編集写真 ではないかと日野らは疑った.

 日野らは東北大学に告発する前に,日本金属学 会にもほぼ同様な告発を行ったが,加藤会長は回 答で,図4(b)が合成写真であることは認めたもの の,疑義の核心である,「中心を定めることができ ない」,や「断面の中心部分を削除した編集写真」 との疑問には一切回答しなかった.そこで,日野 らは東北大学に対して告発を行った.

東北大学の回答も「中心を定めることができない」 を完全に無視

 東北大学の飯島敏夫理事は,外部委員報告(委 員長:竹内伸東京理科大学長(当時))を踏まえて 対応委員会で検討した結果,不正行為があったと する科学的合理的理由とは認めらないと判断し, 本告発については受けつけないと回答11)した.と ころで,外部委員報告の該当部分は以下の通りで ある.

「③直径30mm 円柱状ガラス棒の断面写真が真 円でない合成写真への疑問:これについては, 資料2.713)14)のT. Kajitani 論文への回答で被告 発者らの見解が示されている.回答論文には告 発者が断面の中心部分を削除した合成写真では ないかとの疑問を投げかけた組み写真に用いら れたサンプルを広角で捉えたものが掲載されて おり,委員も写真を確認した.断面の中心部分 を削除した合成写真であるとする疑義には科学 的,合理的根拠がない.」

 梶谷論文は,「図4(b)がなぜ 4 つの断片から構 成された一種のパッチワーク(組み合わせ)写真で あるのか理解できない.垂直と水平に直線的な境 界,あるいは折り目がはっきり見える.」―と疑問

を呈した.これに対して,井上回答論文は「図4 が個々の写真の直線的な境界を示す単純な事実は, 我々がオリジナル像を誤魔化そうと試みなかった ことを立証する.」と記す.すなわち,4 分割写真 を問題にしており,「中心が定まらない」には全く 触れていない.

 一般に写真は対象物を忠実に写すと考えられる から,断面写真が円でなければ,撮影対象の試料 も円でないと考えるのは自然である.図4(b)は 断面に結晶が存在しないことを示す根拠であるか ら,一枚の写真を用いるのが普通であり,合成写 真を使うのは不適切,不自然である.なぜならば, 合成(分割)写真は,不都合な部分をカットして, 編集された可能性が否定できないからである.日 野らの疑いを晴らすには,井上がオリジナル試料 を外部委員に示して,断面が円であることを示す のが最適であった.論文作成(07 年 7 月)から調査 委員会(09 年 10 月)まで,約 2 年しか経っておら ず,試料は保管されているはずである.外部調査 委員が写真を見ただけで,試料の検討をすること もなく,「問題はない」と結論したことは,疑問で ある.ところが後に述べるように,07 年論文の筆 頭著者である横山は,試料を廃棄していた.また 横山は,外部委員が「問題ない」としたことを否定 する多くの証言をした.外部調査が不十分であっ たことは明らかである.

「中心が定まらない」のは,断面写真が縦長

(8%弱)のためであった

 図4(b)の断面写真は中心が定まらない,つまり 円でないことは,日野らは垂直二等分線を引いて 作図し,具体的,かつ明瞭に示した.しかし専門 家集団の日本金属学会も,また専門家である外部 委員もこの問題を無視した.極めて理解しがたい ことである.この問題は研究不正に直結すると考 えて,あえて無視したのではないかと疑われても やむを得ないだろう.

 この問題に関して裁判を提起後,沈黙を守って いた井上側は,裁判の途中で,横山が陳述書15) を提出した.それには,

(5)

「論文掲載写真(図4(b))については,組み上げ た写真を原稿に貼り付ける工程で,写真の縦横 比の確認を失念したため,若干縦長(8%弱)に なってしまっています.」

と記されている.

 図4(b)が縦長(8%弱)ということは,断面が円 でないということだから,図4(b) の画像が正確に 切断面を再現した画像でないとの,日野らの指摘 は正鵠を射ていた.名誉毀損に該当する事実の摘 示はないと思われる.

 組み写真の作成手順について記した同陳述書の 以下の文章,すなわち「切り出した1 から 4 までの 写真における各辺の長さが異なるのは,組み合わ せたときに欠ける部分がないように充分に重なり あうように切り出したためです」および「継ぎ目の 整合性を可能な限り調整していきます.」の下線部 分は看過できない.4 枚に分割撮影した写真を組 み合わせて円形断面を再現させる手順はきわめて 単純で,継ぎ目の整合性を可能な限り調整しなけ ればならない必然性や,欠ける部分や重なり合う 部分が生じる余地などない.継ぎ目の整合性を可 能な限り調整することは,文科省のガイドランに よれば,改ざん,すなわち,変更する操作を行い, 真正でないものに加工するに相当する注)と考えら れる.

 井上らは,組写真の作製段階でなく,組写真作 製後,当該組み上げた写真を原稿に貼り付ける工 程で,8%弱の縦横の差が発生したのだから問題な

いと弁明する.しかし,組写真を作製する段階と それを貼り付ける段階で8%弱の縦横の比の差が 発生しても,両者で得られた写真は区別できない. このような弁明は無意味である.また,組写真作 製段階では,縦横比の設定が正しかったものが, 原稿に貼り付ける段階で,縦横比を1 にすること を失念したとの陳述は信じがたい.断面写真が8% 縦長であることは,コンピュータを使って写真(研 究資料)を変更(拡大・縮小)する操作を行い,真 正でないもの(円でない)に加工したことに相当す るから,明らかに改ざんである.

 ところで,8%縦長であることと,「欠ける部分 がないように充分に重なりあうように切り出し」 および「継ぎ目の整合性を可能な限り調整」は非整 合である.したがって,図4(b)は,単に 8%縦長 だけであるとは信じられないことを付記する.  07 年論文に関する疑惑が指摘された初期の段階 で,「このようなコンピュータ操作を行ったため, 縦横比の設定を失念し,外観写真が8%縦長にな る誤りがあった」との訂正論文を自発的に出せば,

「故意によるものではないことが根拠をもって明ら かにされた」と言える可能性があるかもしれない. しかし,裁判の途中まで沈黙していたのだから, 井上の故意でないとの弁明は一般には通用しない と考えられる.なお,この点に関する訂正も日本 金属学会欧文誌等で公表していない.日野らの疑 問,批判は正当であると思われる.

新に発覚した捏造改ざん疑惑ー

断面組織写真の流用の疑い

 図5 はアーク溶解した 4 元 Zr55Cu30Ni5Al10高純

度合金の25g インゴットの外観写真(a),その断 面写真(b)とガラス領域の SEM 像(c)である(07 年論文のFig.2 の一部を再掲).

 図6 はアーク溶解した 3 元 Zr50Cu40Al10高純度

合金の20g インゴット断面の光学顕微鏡写真(a), および拡大部分像(b)∼(f)である(別の 07 年論 文16)のFig.2 の再掲).図 5(b)と図 6(a)を比較す ると,両者が酷似することに気が付く.同じ大き

注)文科省ガイドライン(06 年 8 月 8 日)は,不正行為

について,以下のように記す.

不正行為は,発表された研究成果の中に示されたデー タや調査結果等のねつ造と改ざん,および盗用である. ただし,故意によるものではないことが根拠をもって 明らかにされたものは不正行為にはらない.

(イ)改ざん

 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い,デー タ,研究活動によって得られた結果等を真正でないも のに加工すること.

(捏造と盗用については引用せず.)

(6)

さになるように拡大縮小コピーし,重ね合わせる と二つの写真は一致する.よって,図5(b)と図 6(a)は同一試料の同一写真であると考えられる. すなわち,4 元合金の切断面の微細組織写真(図 5

(b))に,組成の異なる 3 元系合金のそれ(図 6(a)) を流用したことが疑われる.これは捏造改ざんで ある.この疑問に対して,横山は「写真を取り違 えたと思っています」.「大震災に伴う水漏れ事故 で研究室がダメージを受けて当時の関連試料の多 くを廃棄してしまったので,オリジナル試料が保

管されていません」と回答した.ところで,東北 大学発行の「研究者の作法−科学への愛と誇りを 持って 東北大学研究推進審議会平成16 年 4 月」 は,関連記録も保管し,事後検証が可能にしましょ う.―と明記する.写真を取り違えたと弁明する なら,それを証明する必要がある.本来の写真や, 本来の試料を示さなければ,故意によるものでは ないことが根拠をもって明らかにされたとは言え ない.当時の関連試料の多くを廃棄してしまった ことは,潔白を証明する証拠を自ら捨てたと同等 である.火災による消失ならばやむを得ないが, 水漏れ事故では,水の中から取り出す,あるいは 水が引いてから,作製試料や実験ノートを取り出 すことは可能である.横山は07 年論文の筆頭著者 であり,この論文に関する日野らの疑問を名誉毀 損として訴えた当初の原告でもある.07 年論文の 関連試料が,きわめて重要であることは十分に認 識しているはずである.それにもかかわらず,廃 棄したことは容易には信じることができない.こ のように07 年論文には,円の中心が定められない こと以外にも,研究不正が疑われる事実が存在す る.疑いは払拭されないままである.

6 アーク溶解した3 元 Zr50Cu40Al10高純度合金の20g インゴットの断面写真(a),および拡大 SEM 像(b)∼(f). 図5 アーク溶解した4 元 Zr55Cu30Ni5Al10高純度合金の

25g インゴット(約 150 質量 ppm の酸素を含む)の外観

写真(a),断面写真(b)およびガラス領域の SEM 像(c).

(7)

まとめ

 名誉毀損裁判の対象である,キャップ鋳造に より直径30mm,長さ不詳(約 30mm と推測)の Zr55Cu30Ni5Al10ガラス合金棒を作製したとされる, 井上,横山らの07 年論文を検討した.キャップ鋳 造法はインゴットの上部の冷却能を高めるために, 傾角鋳造した溶湯を銅製のキャップで加圧・冷却 する方法である.上部を調べることが不可欠であ るにも関わらず,底面から10mm の位置がガラス であることを確かめただけで,合金全体がガラス であるかのように論文を書いたのは不適切である. これを認めて筆頭著者の横山が07 年論文の取り下 げを出版元の日本金属学会に申請したことは,直 径30mm,長さ約 30mm のバルク金属ガラスの 作製が筆頭執筆者によって否定されたと同然であ る.他方,日野らは円の中心が定まらないことか ら,断面の中心部分を削除した編集写真ではない かと疑った.中心が定まらないことは,弦の垂直 二等分線が一点で交わらないことで,具体的に示 したにもかかわらず,告発を受け取った日本金属 学会と東北大学は無視した.裁判の途中で井上側 は,操作ミスにより約8%縦長であることを認め た.試料断面が円でないから中心が定まらないの が当然であり,日野らの疑問,批判が正当であった. しかしそれでも仙台高裁判決は名誉毀損を認めた. 07 年論文は,先行する論文で既発表の組成の異な る母合金の微細組織写真と酷似する写真が掲載さ れている.写真の流用つまり,捏造改ざんが疑わ れる.写真を取り違えたと弁明したが,説得力に 欠ける.07 年論文は不適切な内容の論文であるの みならず,論文自体の信憑性が疑われる問題点を 抱えている事態は依然として続いている.

参考文献および出典等

1) A. Inoue and T. Zhang: Fabrication of Bulk Glassy Zr55Al10Ni5Cu30 Alloy of 30 mm in Diameter by a Suction Casting Method,Materials Transactions, JIM, 37 No.2 (1996), 185-187.

2) Y. Yokoyama, E. Mund, A. Inoue and L. Schultz: Production of Zr55Cu30Ni5Al10 Glassy Alloy Rod of 30 mm Diameter by a Cap-Cast Technique,Materials Transactions, 48 No.12 (2007), 3190-3192.

3) 「 井 上 総 長 の 研 究 不 正 疑 惑 の 解 消 を 要 望 す る 会( フ ォ ー ラ ム )」 (http://sites.google.com./site/ httpwwwforumtohoku3rd/)

4) 平成25年(ネ)第413号 同第413号 損害賠償等(本

訴)・損害賠償(反訴)請求控訴,同控訴付帯控訴事

5) 東北大学匿名投書に関する対応・調査委員会:「井 上総長に係る研究不正等の疑義に関する匿名投書への 対応・調査委員会報告書」2007 年 12 月 25 日. 6) 東北大学理事庄子哲雄:「井上総長に係る匿名投書

への対応・調査委員会における報告書の公表後におけ

る関連研究と再現性について」,2008 年 1 月 31 日.

7) 日野秀逸,大村泉,高橋禮二郎,松井恵:「東北大

学総長 おやめください 研究不正と大学の私物化」,

社会評論社,2011 年 3 月発行.

8) 日野秀逸,大村泉,高橋禮二郎,松井恵:「研究不 正と国立大学法人化の影―東北大学再生への提言と前

総長の罪」,社会評論社,2012 年 11 月発行.

9) Y. Yokoyama, K. Fukaura and A. Inoue: Crystal structure and mechanical properties of Zr-Cu-Ni-Al bulk glassy alloys, Intermetallics, 10 (2002), 1113-1124. 10) 2019 年 8 月 17 日付,加藤雅治日本金属学会会長か

ら日野らへの回答.

11) 2009 年 11 月 20 日付,東北大学飯島敏夫理事から 日野らへの回答.

12) 2009 年 10 月 9 日付,日野らから東北大学宛ての告 発.

13) T. Kajitani: Mater. Trans., 50 No.10 (2009), 2502. 14) Y. Yokoyama and A. Inoue: Mater. Trans., 50 No.10

(2009), 2504. 15) 甲第 23 号証 .

16) Y. Yokoyama, H. Fredriksson, H. Yasuda, H. Yasuda and A. Inoue :Glassy Solidification Criterion of Zr50Cu40Al10 Alloy, Materials Transactions, 48 No.6 (2007), 1363-1372.

あおき・きよし AOKI Kiyoshi

東北大学工学部金属工学科卒業,同大学大学院修士課程および 博士課程修了.工学博士.日本学術振興会奨励研究員,東北大 学金属材料研究所助手,助教授を経て北見工業大学教授,現在 北見工業大学名誉教授.専門:金属材料工学および水素エネル ギー材料.

参照

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