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要旨集 第10回冬の研究大会 日本音楽芸術マネジメント学会 JaSMAM第10回研究大会要旨集

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(1)

会場 A(S-503) 会場 B(S-504) 会場 C(S-505) 9:30〜 受付 

10:00

〜10:40

1A 研究報告 中川 俊宏・上田 順

劇場・音楽堂と芸術団体の提携の事 例研究

1B 研究報告 市川 恵・佐野 靖

地域と大学の連携によるワークショ ップ実践の成果と課題―青森県「ア ートスクール」を事例として

1C 研究報告 中原 朋哉

日本のオーケストラに対する公的支 援制度の現状と課題

10:45

〜11:25

2A 研究報告

米屋 尚子・布目 藍人

公共劇場スタッフの働き方改革に向 けて

2B 研究報告

梶田 美香・林 健次郎

公立文化施設におけるアウトリーチ に関する実態調査

―愛知県内に焦点を絞って

2C 研究報告

閔 鎭京韓国の国主導による地域文化政策Ⅰ

―光州広域市「アジア文化中心都 市」を事例に

11:30

〜12:10

3A 研究報告 佐藤 絢子・西田 紘子

アートマネジメント人材育成を目的 とした企画実践の場の検討―大学 と公立文化施設の連携事例として

3B 研究報告 伊志嶺 絵里子

音楽アウトリーチの評価方法に関す る一考察

3C 研究報告 角 美弥子

地方公共団体における文化財保護条 例の差異と指定状況の関連について 12:10

〜13:00 昼休憩

13:00

〜13:40

4A 研究報告 明石 理孝

クラシック音楽ファンの裾野拡大に 関する考察

4B 研究報告

閔 鎭京韓国の文化影響評価制度の意義と課 題―「光州広域市東区都市再生事 業」を事例に

4C 研究報告 細谷 由希

東京音楽学校における能楽教育につ いて―大正・昭和初期を中心に

13:45

〜14:25

5A 現場レポート

(公財)青山音楽財団(戎谷 紀子・青 山 桃子・青山 敦)

音楽演奏家育成の統合的取り組みと その課題―青山音楽財団の助成事 業事例からの学び (〜 14:15)

5B 研究報告 朝倉 由希

芸術文化事業の社会的意義を評価す る方法の国際的なリサーチ

5C 研究報告 山本 美紀

戦前の民間ホール主導による子供の 趣味教育とネットワーク―機関誌

『アサヒカイカン・コドモの本』と現 場との関わりをめぐって

14:35

〜18:00

シンポジウム「伝統芸能の未来のために ─文化財継承施策の新展開に向けて─」  【総合司会】    中川 俊宏  武蔵野音楽大学教授

第 1 部:基調講演「文化財保護制度の見直しと伝統芸能の振興」       山﨑 秀保  文化庁文化財部長

第 2 部:パネルディスカッション

 【パネリスト】    梅若 玄祥  能楽師、重要無形文化財保持者(各個認定)、日本芸術院会員 門脇 幸恵  国立演芸場営業課主任

齊藤 裕嗣  東京文化財研究所客員研究員

日本音楽芸術マネジメント学会

第10回冬の研究大会 要旨集

日程●2017年12月16日(土)

会場●武蔵野音楽大学江古田キャンパス

プログラム

(2)

 わが国の伝統芸能は、それぞれに発展の歴史や取り巻く社会情勢を異にするにしても、現在、いずれの分野においても「絶滅 危惧種」と揶揄されるほどその継承、発展は極めて深刻な課題に直面している。後継者の養成・確保、観客の育成、資金や上演 機会の確保などは共通する喫緊の課題であり、さらに例えば能楽等では現行の文化財保護法上その保護の手法が無形文化財と有 形文化財に分断されているため、芸能そのものとそれを支える舞台道具や楽器等を総合的に保存継承していくための制度的取組 みを進める必要性、あるいは地域の民俗芸能では地縁的結び付きの高い芸能とそれに関連する用具類等をその基盤となる地域を 特色づける関連文化財群のなかで総合的な保存活用を図る必要性等、それぞれの分野の特性に即したさまざまな課題が強く指摘 されている。

 現在、国では最近の急激な社会構造の変化を踏まえ、最も重要な社会基盤のひとつである文化遺産のより的確な保存と活用の 方策の改善をめざし、現行の文化財保護制度の見直しをはじめさまざまな新施策の展開が検討されていると伝えられている。  こうした経緯、タイミングを踏まえ、政策担当者、実演家、研究者等によるシンポジウム(基調講演及びパネルディスカッショ ン)を開催し、伝統芸能の伝承者の声を直接伺いつつ、伝統芸能の確実な継承、発展を目指して、国や自治体レベルでの今後の 文化財継承施策に反映させる提言につなげるようにしたい。

 平成 23 年度から同 26 年度にかけて実施してきたアンケート調査のデータをもとに、昨年度の第 9 回研究大会において「劇場・ 音楽堂と芸術団体の提携に関する論点の整理」を研究報告した。それをもとに、本年度刊行の「音楽芸術マネジメント」第 9 号 に同名の研究ノートが掲載される予定であるが、今回は、昨年度論点整理した提携のあり方のうち、我々が「双方向タイプ」と 名付けた提携が成立する条件を、実例に即して論じる。具体的には、ティアラこうとう(江東公会堂)と東京シティ・フィルハー モニック管弦楽団および東京シティ・バレエ団の提携に焦点を当てて、各施設・団体の担当者へのインタビュー等を通して得ら れた回答をもとに、三者の提携が良好な状態で推移してきている要因を分析し、「双方向タイプ」の提携を進める上での条件や 留意点などを検証する。

 2016 年度に芸団協が実施した「実演家、劇場・舞台スタッフの就労環境改善に関する調査研究」の結果について報告する。  本調査は、少子高齢化が進み、人口縮減社会が到来した我が国において、実演芸術分野で女性や高齢者が活躍できるような就 労環境にするにはどうしたらよいかという問題意識のもと、公共劇場舞台技術者連絡会(公技連)加盟 21 館の全従事者、なら びに日本舞台監督協会、(一社)日本舞台音響家協会、(公社)日本照明家協会の会員を調査対象に、主として劇場で働くスタッ フの就労環境の改善に向けて当事者等の意識調査を行ったものである。

1A 研究報告

劇場・音楽堂と芸術団体の提携の事例研究

中川 俊宏・上田 順 武蔵野音楽大学

2A 研究報告

公共劇場スタッフの働き方改革に向けて

米屋 尚子・布目 藍人 (公社)日本芸能実演家団体協議会 実演芸術振興部

発表要旨●会場 A

シンポジウム「伝統芸能の未来のために ─文化財継承施策の新展開に向けて─」趣旨

(3)

 1980 年代以降、日本では全国各地に公立文化施設の設置が増え、1990 年代に入るとアートマネジメントに携わる人材の必 要性が認識されるようになった。それに伴い、当該分野に関連した教育を行う教育機関も増えている。九州大学ではアクロス 福岡との連携のもとで、学生が継続的かつ主体的に実践できる機会として「ミュージック☆ファクトリー」という活動が行われ てきた。ミュージック☆ファクトリーとは、アクロス福岡 1 階にあるコミュニケーションエリア(カフェスペース)において 月に 1 度開催される 30 分の入場無料コンサートシリーズである。2007 年に始動し、学生の手によってこれまで 9 年間で 70 以上の企画が実施されている(cf.2017)。本研究は、近年、社会やアートマネジメントをめぐる環境が変化する中で、ミュー ジック☆ファクトリーの活動意義を見直すことを目的とする。具体的には、過去 7 年間の来場者アンケートの分析や企画実践の PDCA サイクルの検討、関係者への聞き取り等を通して、大学と公立文化施設の連携事例として、学生がアートマネジメントを 実践する場としてのあり方を考察する。アートマネジメントの役割として、芸術文化の作り手と受け手を繋ぐことが挙げられる が、ミュージック☆ファクトリーでは、無料でアーティストとそのパフォーマンスに出会えることに、通りがかりを含む多くの 来場者が満足している。その点に邂逅型のコンサートとしての意義が見出せる一方、活動の位置づけが変化する中で、当初から 継続しているシステムが現在の学生にとって制約と負担の大きいものとなっている可能性がある。そこで、理論的な学習と組み 合わせたより適切なフィードバックの必要性等について検証するとともに、そのための関係者の連携強化を課題として導き出し たい。また、公演の制作過程のうち企画内容や当日の運営が重視されてきたが、公演やアーティストの広報面にも工夫の余地が 認められるだろう。

 これまで開催したコンサートを通じて得られた効果・課題・各種データを踏まえ、クラシック音楽ファンの裾野拡大というテー マについて環境認識・課題と要因・具体的解決策の観点から考察する。

 単なるコンサートの集客方法ではなく無関心層のファン化について考察することにより、クラシック音楽に携わる人々の活動 の継続的発展に貢献することを目的とする。

1.コンサートを通じて得られた裾野拡大の効果、課題、各種データについて 2.クラシック音楽を取り巻く環境認識

今後、消費者の購買行動に影響を与え得る要因と影響について。  (1)IoT、人口知能、ビッグデータ

 (2)人口ピラミッドの推移と生活への影響  (3)国家・自治体財政と助成金を含めた各種制度 3.課題と原因

クラシック音楽ファンの裾野拡大にあたっての現状、課題及びその原因について。  (1)消費者の購買行動の理解

3A 研究報告

アートマネジメント人材育成を目的とした企画実践の場の検討

─大学と公立文化施設の連携事例として

佐藤 絢子・西田 紘子 九州大学大学院

4A 研究報告

クラシック音楽ファンの裾野拡大に関する考察

明石 理孝 クラシック音楽の「調べ」 主宰

(4)

 (3)上記(1)(2)の実践に活用可能な具体的理論   ①イノベーション(シュンペータ)

  ② AIDMA の法則(サミュエル・ローランド・ホール)   ③ Jobs to be done 理論(クリステンセン)

  ④ C/P バランス理論(梅澤)

 (4)IT 技術の活用(他業界での導入例)

 青山音楽記念館(バロックザール)は「音楽を愛する若者たちを応援したい」という願いから、1987 年、京都上桂の地に建 設された席数 200 席のクラシック音楽ホールである。その運営を行う公益財団法人青山音楽財団は、青山音楽記念館を基盤に、 一流の演奏家を紹介する「主催公演事業」、演奏会を開催する若者達を応援する「助成公演」、「奨学金」、「青山音楽賞」の創設など、 音楽に関わる様々な事業を行ってきた。

 各制度の概要は下記のとおりである。助成公演は、新人音楽家や音楽を志す人々の活動を支援するため、青山音楽記念館を使 用し、条件を満たした演奏会を開催する演奏家に対してホール利用料を助成する。奨学金は、当財団が指定した音楽大学又は音 楽学部に在籍する優秀な学生への給付である。青山音楽賞は、青山音楽記念館での演奏会から優秀な公演を選考し、個人または 団体を表彰する制度である。

 当財団は、これらを有機的に活用して、音楽家支援を企図しているが、各事業を連携した総合的な支援を提供できているとは 言い難い。また、近年の少子化や聴衆の高齢化といった外部環境の変化にも直面している。本現場レポートでは、各事業の今ま での成果と現状を報告し、各事業の個別課題をふまえ、事業間の連携、さらには他の非営利組織等との連携による演奏家への効 果的な支援のあり方について展望を述べる。

 本研究の目的は、平成 29 年 11 月 25 日〜 26 日に青森県の主催により東京藝術大学との連携で行われる文化振興事業「アー トスクール」での音楽(合唱)ワークショップの実践の成果と課題を検証することである。

 「アートスクール」は、青森県の「文化芸術による創造のまちづくり推進事業」のひとつであり、芸術系専門の高等教育機関 のない青森県において、先端の芸術表現に触れてもらおうという企画趣旨のもと平成 28 年度から始まった。今年度は、「文化 芸術を志すチャレンジ精神に富んだ人財の育成」という目的のもと、「美術」及び「音楽(合唱)」の2部門が開催され、日々芸 術活動に取り組んでいる青森県内の高校生約 30 名を対象に、青森公立大学にて 1 泊 2 日の合宿形式で行われる。音楽(合唱)ワー クショップは、発声技法、邦人作曲家の合唱作品の魅力と楽しさ、日本の歌の歌い方の 3 つのプログラムから構成されている。  このような大学と地域・社会との連携の中で展開される文化芸術事業において、大学側はその知的財産や人的資源をいかに活 用し、地域課題に応える実践や研究の提供を通して、地域創生に貢献できるかという視点が、昨今の重要な課題のひとつであろ う。そして、このようなワークショップ実践を評価する視点として、ワークショップ実践者が地域課題に対して、どのようなワー クショップデザインを構築、展開し、地域にどのような学びを残したのか、そして、参加者はそれをどのように享受したのかと いう、ワークショップ実践における学びの質を問うことが必要である。

1B 研究報告

地域と大学の連携によるワークショップ実践の成果と課題

─青森県「アートスクール」を事例として

市川 恵 早稲田大学   佐野 靖 東京藝術大学

発表要旨●会場 B

5A 現場レポート

音楽演奏家育成の統合的取り組みとその課題

─青山音楽財団の助成事業事例からの学び

公益財団法人青山音楽財団(戎谷 紀子・青山 桃子・青山 敦)

(5)

 そこで本研究では、参加者へのアンケート調査及び、インタビュー調査の他、ワークショップ実践内容の分析、企画者 ( 主催者 ) 及びワークショップ実践者への省察に関するインタビュー調査を行なう。ワークショップ参加者、実践者、企画者のそれぞれの 立場から複合的にアートスクールの成果と課題について検討する。

 1990 年代後半に日本にアウトリーチという用語がその概念と共に導入されてから約 20 年という年月が経過した。この間、 教育分野や福祉分野を始点として、公立文化施設を主な実施主体としたアウトリーチが数多く行われてきた。背景には、アウト リーチと関連する法律の制定や改訂、また、観光やまちづくりとの積極的な関係性を意識するようになった政策的姿勢などがあ り、アウトリーチは一定の定着を経て、概念の拡大が求められる時代に入ったかのように見受けられる。

 しかしながら、アウトリーチ実施率は(公立文化施設協会、2015)、都道府県の 38.1%に対し、10 万人以下の町村では 11.5%と 3.5 倍程の差があり、未だ不十分なアウトリーチ実施状況にあるのが現状だ。要因は複合的であろうが、これまでアウ トリーチで課題とされてきたコーディネーター不足や劇場職員のノウハウ不足などに今後も取り組むことでこの差が圧縮されて いくのだろうか。20 年が経過した現在、実施率の低さはアウトリーチ自体の認知度の低さや文化施設側の人材不足とは直結し ない。今こそ、導入当初から長期的目線が求められてきた、域内のシステム構築やアーティスト育成を考えるべきではないだろ うか。

 そこで、名古屋芸術大学と愛知県芸術劇場は、公立文化施設とアーティストの両者にアウトリーチに関する実態調査を共同で 行うこととした。発表時は、まだ調査期間中だが、中から公立文化施設を対象とした調査の中間報告をする。

 近年、日本においては、各地域の文化施設やオーケストラ団体、大学、NPO 等によって、多彩なアウトリーチやワークショッ プ事業が展開されている。また、これらの事業は、単なる芸術文化の普及啓発という枠組みにとどまらず、教育や福祉活動、地 域連携活動なども含意することで、多様な役割が期待されるようになった。

 しかしながら、これらの事業の評価方法については、今まで十分に検討されてきたとはいえない。アウトリーチやワークショッ プという形式を模倣するにとどまった事例や、事業目的が提供する側と受け入れ先とで共有されていないケース等も散見される 中、これらの事業における評価方法とその活用法を検討していくことが今後の課題になってくるだろう。

 以上のことから、本研究では、認定 NPO 法人トリトン・アーツ・ネットワークといわき芸術文化交流館で行われている小学 校を対象にした音楽アウトリーチに関する追跡調査を実施し、その結果をもとに、アウトリーチの評価方法に関する考察を行う。 追跡調査は、1 年ないし 2 年前にアウトリーチを経験した小学生を対象にアンケート調査を実施し、アウトリーチを振り返って みたときの印象や、経験する前後でどのような変化があったか等を記入してもらった。

 筆者のこれまでの調査によると、各公立文化施設等で行われている現在の音楽アウトリーチの評価方法は、アウトリーチを実 施した直後に対象者へアンケート用紙を配布したり、担当者や実演家等へのヒアリングが行われているのが現状である。しかし、 更に追跡調査を実施することで、アウトリーチの効果をより正確に把握することが可能になるのではないだろうか。また、それ

2B 研究報告

公立文化施設におけるアウトリーチに関する実態調査─愛知県内に焦点を絞って

梶田 美香 名古屋芸術大学   林 健次郎 愛知県芸術劇場、公益財団法人愛知県文化振興事業団

3B 研究報告

音楽アウトリーチの評価方法に関する一考察

伊志嶺 絵里子 東京藝術大学

(6)

 2003 年に盧武鉉政権の発足とともに文化領域の重要戦略、「文化影響評価(Cultural Impact Assessment)に関する制度 の導入」が掲げられ、その制度・実現化について検討が重ねられた。しかし、実施までには至らず、2013 年に朴槿恵政権になっ て、文化に関する国民の権利と国及び地方自治団体の責任を規定した「文化基本法」の制定に当たり、再び文化影響評価制度に 関する議論が行われた。本法の第 5 条(国と地方自治団体の責務)の4項には「国と地方自治団体が各種事業計画と政策を立 てる際に文化的観点から国民の生活の質に及ぼす影響について評価し、文化的価値が社会的に広がるようにするためのものであ る。」と明記され、昨年 2016 年から評価制度が本格的に実施されている。

 文化体育観光部(国の文化政策担当)が評価を担当し、文化への肯定的な影響を強化・拡大させ、否定的な影響を最小化する 方策を提示することになっている。

 2016 年には国の国土交通部・農林畜産食品部・教育部・文化財庁、自治体等が実施・計画している 15 事業を対象に、文化 影響評価を行っている。その中で本研究では、国土交通部所管で取り組んでいる「光州広域市東区都市再生事業」の文化影響評 価に着目した。本事業は、国立アジア文化殿堂(文化体育観光部所管)を拠点に、文化的都市再生を通じて、元都心の性格を回 復し、光州のアイディンティティを確立することを狙いとしている。この文化施設周辺のまちづくり事業に文化影響評価を行う ことによって、実際的に地域に文化的価値を反映し、高めようとする試みが窺える。

 本研究では、韓国において文化影響評価制度が導入された背景及び実施状況や評価方法を述べた上で、「光州広域市東区都市 再生事業」の文化影響評価の内容を象徴的な事例とし、文化影響評価制度の意義や課題を明らかにする。

 芸術文化事業がもたらす様々な効果を客観的に示すことの重要性が指摘されて久しい。経済的なインパクトについては数値的 に示すことが可能であり、経済波及効果の測定等の手法も文化事業に対して多く用いられている。一方、芸術文化事業の効果や 成果は、経済的側面だけではなく社会的・文化的意義を示していくことが本来的には重要である。しかしながら、その手法につ いてはいまだ明確に確立されているとは言い難い。本発表では、芸術文化事業に関して社会的・文化的意義をどのように評価・ 測定しているかということに関し、イギリスやアメリカにおける実態をリサーチし、今後日本でも芸術文化の社会的意義や文化 的意義に関するエビデンスを積み上げていく際の参考となる資料を提供する。

 日本では、少子高齢化が進み、西暦 2100 年には人口が現在の半数ほどになるという予測がある。これに伴い、芸術に対する 公的支援は更に減少していくことが考えられる。本稿では、まず日本のオーケストラにかかる様々な経費と収支構造について確 認し、どのような公演の種類の、どの費目に公的支援が必要とされているのか確認する。また、ボウモル&ボウエンが著書(1966) において「ベートーヴェンの弦楽四重奏を演奏するための経費は当時と現在と変わっていない」と指摘したことから、その仕組 みが誤解されがちな、室内楽やアマチュア団体との収支構造と比較する。次に、これまで文化経済学や財政学によって述べられ てきた、芸術に対する公的支援の根拠とそれらの課題に触れ、日本のプロフェッショナル・オーケストラに対する政府、日本芸

1C 研究報告

日本のオーケストラに対する公的支援制度の現状と課題

中原 朋哉 静岡文化芸術大学大学院文化政策研究科修士課程/シンフォニエッタ静岡 芸術監督・指揮者

発表要旨●会場 C

5B 研究報告

芸術文化事業の社会的意義を評価する方法の国際的なリサーチ

朝倉 由希 文化庁地域文化創生本部 総括・政策研究グループ 4B 研究報告

韓国の文化影響評価制度の意義と課題―「光州広域市東区都市再生事業」を事例に

閔 鎭京 北海道教育大学

(7)

術文化振興会(芸術文化振興基金)、自治体による公的支援の現状と課題について、複数のオーケストラ、自治体に対する調査 結果をもとに報告する。そして、オーケストラが演奏会を行うまでのプロセスと、聴衆が演奏会を聴くまでのプロセスにおいて、 現状の公的支援制度がそれぞれのプロセスにおいてどのように機能しているか整理する。その上で、財源が減少すると予測され る日本において、今後、どのような公的支援制度が望ましいのか、具体的な方法と、その可能性を提起する。

 韓国の文化政策は国主導の性格が著しく、それぞれの大統領・政権の特徴・国策との関連性が際立っている。本研究では、地 域文化政策に対しても国主導の政策が関係している点に着目し、その歴史的変遷を追う。特に、国主導の政策で、注目されてい る「アジア文化中心都市 光州広域市」を事例として取り上げる。

 盧武鉉政権では、国政目標のひとつである「地域均衡発展」を基礎に、文化政策の基本理念にも「地域分権」を掲げ、それに 関連するプロジェクトとして「文化中心都市」事業を立ち上げた。「文化」を通じて国土の均衡ある発展の新しいモデルを創出 する国策である。地域の特色に合わせて、光州の「アジア文化中心都市」、全州の「伝統文化中心都市」、慶州の「歴史文化中心 都市」、釜山の「映像文化中心都市」が事業対象となった。特に、大統領選挙の盧武鉉マニフェストにおいて、“芸郷の光州” を 文化首都として育成すると宣言し、2003 年 5 月には「光州をアジアの文化芸術のメッカに育成する」と発表したため、光州へ の取り組みは格別であった。2006 年 9 月 27 日に「アジア文化中心都市造成に関する特別法」が制定され、翌年 2007 年 7 月 には “世界に向けたアジア文化の窓―文化からアジアと世界へ” と掲げられた「アジア文化中心都市造成総合計画」が作られた。 実施期間は 2004 年から 2023 年までの長期にわたり、国立アジア文化殿堂の建設等が盛り込まれ、2015 年 11 月に開館した。  本研究では、国が地域文化政策に関わることになった政策的背景及び変遷、光州市に対する国の政策の取り組みの現状を把握 し、国主導による地域文化政策の課題を導き出す。

 全国で行われる民俗芸能大会のうち、北海道・東北ブロック大会は北海道と東北六県の民俗芸能の周知及び保存と伝承の理解 と協力を得ることを目的として開催されており、この大会に出演するのは基本的に国及び道県で文化財指定された芸能となって いる。その出演状況を見ると、北海道のアイヌの古式舞踊の出演数は、他の県の複数回出演数が多くても2〜3回に対し、17 回にも及んでいる。これは、実際の指定数に各道県で大きな差異があることによる。北海道では、国指定の民俗芸能はアイヌ古 式舞踊のみであり、道指定の民俗芸能が松前神楽をはじめ7件で、他の 6 県の中で最少の山形県の三分の一、最多の青森県の八 分の一である。この偏りは各道県の歴史的背景に加え、文化財保護の基盤となる条例や仕組み、取り組み等にも関連するのでは ないかと考える。青森県は県独自の「県技芸」指定を行い、また秋田県では、県で記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化 財を指定している。これらを踏まえ、各道県の文化財条例及び施策について比較検討を行い、またその影響を考えるものである。 今回は研究の起点となった北海道・東北ブロックを対象とする。併せて、地方の文化財保護条例における無形文化財と民俗無形 文化財の位置付けの考察についても言及する。

3C 研究報告

地方公共団体における文化財保護条例の差異と指定状況の関連について

角 美弥子 北海道教育大学 2C 研究報告

韓国の国主導による地域文化政策Ⅰ─光州広域市「アジア文化中心都市」を事例に

閔 鎭京 北海道教育大学

(8)

1887(明治 20)年に開校した。教習の対象となったのは洋楽が中心であるが、選科の扱いで邦楽(当初は山田流箏曲)の教習 も行われた。1936(昭和 11)年には本科として邦楽科が設置され、その中には能楽も含まれていた。

 これまで私は、能楽の振興と継承を考察する前提として、明治以降における能楽の社会との関係と位置づけ、および近代の 能楽保護活動と戦後の文化財政策における対応について研究を進めてきた。能楽が国家によって保護される対象となったのは、 1950(昭和 25)年制定の文化財保護法が最初である。しかし、東京音楽学校の教習科目に能楽が加えられたことは、能楽が社 会的に価値のある存在として公的に認められた契機の一つとして考えることもできる。

同校での能楽に関する科目の教習は、1912(大正元)年に選科としての能楽囃子科の設置に始まる。ここでの生徒の養成は能 楽会(能楽保護組織)に委託された。それ以前から能楽会では、池内信嘉が囃子方の人材不足を解決するために囃子方養成事業 を行っていた。また、1931(昭和 6)年に、その能楽囃子科とは別に選科に能楽(観世流謡)が加えられ、1933(昭和 8)年 には女子生徒が入学する。当時は、女性が能楽を演じるということに反対の意見が多い時代であったが、東京音楽学校の能楽科 では女子生徒の養成を積極的に行った。同校での能楽科目の教習は、能楽の保護や、能楽そのもののあり方に、少なからず影響 を与えたと考えられる。

 しかし、これまでの能楽研究において、東京音楽学校における能楽教育を主題とする研究は少ない。そこで本研究では、同校 での能楽に関する科目の設置の背景と意図、そこでの教育実態を明らかにする。さらに、それが当時の能楽界に与えた影響を分 析し、能楽界における同校での能楽教育の位置づけを考察する。

 『アサヒカイカン・コドモの本』は、1926 年(大正 15 年)10 月に大阪中之島にオープンした朝日会館の子供対象企画の機 関誌である。朝日会館では初期より子供のための企画枠を持っており、具体的な「現場」としては、「アサヒ・コドモの會」(以 下「コドモの會」)と、「アサヒ・コドモ・芸術院(アテネ)」(以下「コドモ・アテネ」)があった。本発表は、ホールと読者、 また読者間をつなぐネットワーク作りを通し、子供の趣味教育を志向したホールの活動(現場)と機関誌がどのような連関性に あったのか、考察しようとするものである。

 『コドモの本』は、1931 年(昭和 6 年)創刊と考えられ、現在 1935 年までの号が実物として確認できる。ネットワークは京都・ 神戸・横浜の「コドモの會」をつなぎ、多様なジャンルをカバーする子供の教育・教養雑誌であった。「コドモの會」の活動は、 都会に住む子供達に「健全な娯楽と慰安を提供」することを目指し、「面白くためになる趣味教育」として企画されていた。一方、

「コドモ・アテネ」は、「コドモの會」の活動を下地に、1932 年(昭和 7 年)に創設された芸術教育事業である。 

 『コドモの本』は、これらの活動報告の場でもあり、さらなる参加者を募る場でもあった。しかし、誌面にはホールでのそれ 以外の活動、例えば一般的な企画について言及することはほとんどなく、むしろ、読んだり創作したりして家で楽しむ内容が充 実している。同時に、保護者に子供のための「良い本」を提案したり、学校校長や専門分野を持つ教育者に執筆依頼するなど、 家庭教育への介入を強く意識したものであった。

 現代では、劇場はじめ具体的な場と観客層をつなぐバーチャルな交流は、SNS 等でさかんに行われている。本発表では、そ の前進ともいえる戦前の民間ホールの取り組みが、社会に向けてどのような役割を担おうとするものだったのか、考える端緒と したい。

日本音楽芸術マネジメント学会 第 10 回冬の研究大会要旨集

2017 年 11 月 13 日 発行

発行 日本音楽芸術マネジメント学会

〒 215-0004 神奈川県川崎市麻生区万福寺 1-16-6 昭和音楽大学舞台芸術政策研究所内

TEL 044-953-9858  FAX 044-953-6652  E-Mail jimukyoku@jasmam.org  URL http://jasmam.org/

*研究大会には本冊子をご持参ください。

5C 研究報告

戦前の民間ホール主導による子供の趣味教育とネットワーク

─機関誌『アサヒカイカン・コドモの本』と現場との関わりをめぐって

山本 美紀 奈良学園大学

参照

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