脂質の多彩な役割

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脂質の多彩な役割

大学院薬学研究院・大学院生命科学院 教授

木原

きはら

章雄

あきお

(薬学部)

専門分野 : 生化学

研究のキーワード : 生活習慣病,創薬,脂質,生体膜,酵素

HP アドレス : http://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.html

何を目指しているのですか?

皆さん「脂質」と聞くと何をイメージしますか?おそらく「脂質」=「油」=メタボ・

生活習慣病ではないでしょうか。このように、脂質にはマイナスイメージがつきまとって

います。しかし、脂質とは本来「生体成分のうち、水に溶けないもの」と定義されるよう

に非常に多彩な分子の総称であり、それぞれの脂質には固有の役割があって生体にとって

重要なものが殆どです(図1)。油や中性脂肪の主成分であるトリグリセリド(トリアシル

グリセロール)は、脂質の1つにすぎません。そもそもトリグリセリドも過剰摂取・過剰

蓄積は体によくありませんが、本来はエネルギーの貯蔵体として重要です。

トリグリセリドの他に脂質にはどのようなものがあるのでしょうか。生物を少し習った

人なら、脂質が生体膜を作っているということも知っているでしょう。このような役割を

持つ脂質として、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロールがあります。また、

ステロイドホルモンも脂質の一種です。これらには男性ホルモンや女性ホルモン、副腎皮

質ホルモンが含まれます。さらに、皮膚の一番外側の角質層では脂質が層板の構造体を形

成していてバリア機能を発揮しています。このバリア機能が壊れると体の内側から水分が

蒸発し、体の外からの有害物質や病原菌に侵されてしまいます。この角質層の脂質の主成

分はセラミドという脂質です。

脂質は様々な創薬のターゲットにもなっています。脂質異常症の薬は簡単に思い浮かぶ

と思いますが、一見脂質とは関連なさそうな疾患にも実は脂質が深く関与しています。例

えば、アラキドン酸(炭素数が20で不飽和結合が4つある脂肪酸)からはエイコサノイド

と呼ばれる脂質が作られ、炎症や気管支喘息などに関わっています。この作用を抑える抗

炎症薬や気管支喘息治

療薬があります。アス

ピリンはその1つで、

エイコサノイドの一種

であるプロスタグラン

ジンの合成を抑えるこ

とで炎症を鎮めます。

我々が研究しているス

フィンゴシン1−リン

酸という脂質は免疫系

出身高校:広島学院高校 最終学歴:京都大学大学院理学研究科

くらしと健康

図1 生体内の様々な脂質

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で重要な働きをしていますが、この働きを利用した治療薬が最近薬として認可され、自己

免疫疾患である多発性硬化症という病気に有効です。

我々は脂質の新たな機能を探ったり、脂質の産生に関わる酵素・遺伝子を同定してその

脂質が体の中でどうやって作られているのかを明らかにしたりしています。このような研

究を通じてそれぞれの脂質がどういった病気と関わっているのかをつきとめ、治療薬開発

に結びつけたいと思っています。

どんな実験をしているのですか?

脂質は体の中で化学反応によって作られます。この反応は酵素によって触媒されます。

また、その酵素(タンパク質)は遺伝子によってコードされています。つまり、脂質を研

究するには遺伝子やタンパク質を扱うことが必要となってきます。我々はまず目的の脂質

を産生する遺伝子を同定します。その遺伝子を大腸菌や動物細胞に導入してその脂質を作

り出す酵素を大量発現させ、さらにその酵素を精製します。得られた酵素から目的の脂質

を作り出すことができます。あるいはその遺伝子が欠損したモデル生物を人工的に作りま

す。例えば、図2にはElovl1という非常に長い脂肪酸の産生に関わる遺伝子が欠損したマ

ウス(ノックアウトマウス)の写真を示し

ています。生体内には高校や大学では習わ

ないような炭素数が30を超える脂肪酸が

存在します。このような脂肪酸は、皮膚の

バリア機能、網膜機能、精子形成に重要で

す。実際にElovl1ノックアウトマウスは生

後すぐに皮膚バリア異常により体内から水

分がどんどん失われて死んでしまいます。

我々はこのような遺伝子改変生物を作成し、

どのような異常が起きているかを調べるこ

とによって、その遺伝子の役割や病気との関連を明らかにしています。

我々はこのようにマウスを実験材料に使用していますが、目的によっては細胞(ヒトや

マウス由来)や、最も単純な真核生物である酵母も用いています(図3)。それぞれには利

点と技術的な制約があるので、我々はこれらのモデル生物や様々な手法をうまく利用して、

これまで知られていなかった新しい脂質の機能を見出し、その脂質がどのように我々の健

康と病気に関わっているか調べています。

図2 遺伝子改変マウス

左は野生型マウス、右はElovl1遺伝子ノックアウトマウス。 右のマウスでは皮膚のバリア機能が低下しているので、 染色液で染まりやすくなっている。

図3 蛍光顕微鏡による動物細胞、酵母の観察

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参照

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