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『ウロコから目』 魚がひらく再生医療の未来

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Academic year: 2017

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『ウロコから目』 魚がひらく再生医療の未来

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 教授

たか

やす

あ き

(水産学部増殖生命科学科)

専門分野 : 魚類生理学

研究のキーワード : コラーゲン,再生医療,魚類,養殖,水産学

HP アドレス : http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/labo/content0048.html

何を目指しているのですか?

私たちの研究グループでは、再生医療に使用する様々な材料を、魚類のコラーゲンを用 いて合成するために必要となる基礎研究を推進しています。水産学部で再生医療?!、と 思 わ れ た 方 、 ぜ ひ 水 産 学 部 の 各 学 科 紹 介 の ホ ー ム ペ ー ジ を ご 覧 に な っ て く だ さ い

(http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/article/content0122.html水産学部では、 洋環境から人間の健康に役立つ化学物質まで、また対象となる生物はクジラから深海微生 物まで、『海』をキーワードに幅広い分野で基礎から応用(産業化)にわたる研究をおこなっ ていることがわかります。

再生医療といえば、様々な細胞に分化できる幹細胞や、iPS細胞(人工多能性幹細胞) という言葉を思い浮かべる方も多いでしょう。これらの細胞は再生医療の主役となること が期待される細胞ですが、細胞が効率的に働くためには、細胞に足場を与え、その活動を サポートする細胞外基質と呼ばれる材料が必要です。コラーゲン分子がたくさん集合して できるコラーゲン線維は、その主役となるものです。たとえば、幹細胞を増殖させ、骨の 再生に必要な造骨細胞に分化させる細胞外基質を人工的に造ることができれば、それは優 秀な人工骨として利用できます。私たちは、魚のコラーゲンを用いて人工骨や人工軟骨、 人工角膜などを造ることを最終目標に、魚のコラーゲンの特性やその線維形成を制御する タンパク質に関する研究をおこなっています。主役であるコラーゲンを豊富に含む組織が 魚のウロコです。しかも、ウロコのコラーゲン線維は角膜と同じような特殊な並び方をし ています。ウロコからコラーゲンを抽出し、それを線維にし、そしてウロコと同じ配列を 再現して人工角膜を造る研究ということで、この原稿のタイトル『ウロコから目』が生ま れました。ウロコは普段は食べることなくゴミとして捨てられる組織です。ウロコのコラー ゲンを有効利用すれば、ゴミを出さない環境に優しい水産業の実現に一歩近づきます。

出身高校:群馬県立桐生高校 最終学歴:北海道大学大学院

水産学研究科

生体工学/食料生産

電子顕微鏡観察用の切片作成(左)と透過型電子顕微鏡観察の様子(右)

― 158 ― ― 159 ―

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どんな装置を使ってどんな実験をし

ているのですか?

私たちの研究室では、遺伝子実験、タ ンパク質実験、電子顕微鏡を用いた実験、 細胞培養実験をおこなっています。

まず魚のコラーゲンなどの遺伝子ク ローニングをおこないます。クローニン グとは目的とする遺伝子の塩基配列を明 らかにすることです。たとえば、魚のコ ラーゲンの遺伝子をクローニングし、そ の塩基配列からアミノ酸の配列を推測し、 これを哺乳類のコラーゲンと比べること で、魚のコラーゲンの特徴を明らかにし ます。また、目的タンパク質を分離して 純粋なタンパク質を取り出す精製という 作業をおこない、その性質を試験管中で 調べます。たとえば、ウロコから純粋な

コラーゲン分子を精製し、試験管中でコラーゲン線維を作り、それを哺乳類のコラーゲン 線維と比べることで、魚のコラーゲン線維の特徴を解明します。線維の観察には電子顕微 鏡が活躍します。試験管中で作成した線維と生体内の線維の形状を比較することで、どの ような条件で線維化させれば生体に近い線維を作らせることができるかを明らかにします。 さらに、試験管中で作成したコラーゲン線維を用いて細胞培養をおこなうことで、そのコ ラーゲン線維が細胞の増殖活性や機能発現にどのような影響を与えるかを調べます。こう して、目的に適した材料を合成するための情報を蓄積してゆくのです。

次に何を目指しますか?

今、チョウザメのコラーゲンの研究を進めています。チョウザメからは高価なキャビア がとれますが(卵の塩漬けがキャビアです)、それには10年以上かかるため、養殖を産業 化するのが困難です。10年以上餌を与えて飼育するには膨大な餌代がかかるので、いくら キャビアが高く売れても儲けが出にくいのです。そこで、これまで捨てていた部分からコ ラーゲンを精製し、それを医療用に販売することができれば、膨大な餌代を回収してチョ ウザメ養殖を産業化できると考えられます。チョウザメは古代魚とも呼ばれる、大昔の形 質を持つ魚です。そのため、他の魚とは異なる特徴を持つコラーゲンを精製することがで きます。この特殊なコラーゲンの性質を徹底的に解明することが今後の目標です。

参考書

(1) 八代嘉美・中内啓光著,『再生医療のしくみ』,エスカルゴサイエンス,日本実業出版社 (2) 東嶋和子著,『人体再生に挑む再生医療の最前線』BLUE BACKS,講談社

キンギョのウロコとその電子顕微鏡写真。Dにはウロコのコラー ゲン線維が観察できる。写真Dの上半分では、線維が左右方向 に向かって走行するため、コラーゲンは横に走行するロープの ように見える。写真Dの下半分では写真の奥から手前に向かって 線維が走行するため、線維の断面が見える。

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参照

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