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自然保護助成基金成果報告書 vol. 25 (2017)

2014 - 2015 年度 直接助成

ジオパークにおける大地の多様性の保全に関する国際的事業

特定非営利活動法人 日本ジオパークネットワーク

斉藤清一・杉本伸一・CHAKRABORTY, Abhik

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Ⅰ.事業概要

 日本ジオパークネットワーク(JGN)は, 2007年に創立以来,地域の主な地質的特徴を 守って持続可能な地域づくりの活動を図ってき た.しかし,多くの地域において地質遺産の悪 化が生じており,一部の地質的特徴が失われる 恐れもある.ジオパークの活動の中,観光的取 り組みや地域経済の振興の試みが活発なのに対 して,地質的遺産や自然環境を積極的に保全す る仕組みが未だ不足している.このような状況 を受けて,本年度において JGN では,地質的 多様性論の提案者である Gray Murray 博士を招 聘し,ジオパークにおける地質遺産の多様性(ジ

オダイバーシティー)の重要性に関する議論を 進めた(図 1).さらに,2015 年に日本ジオパ ークネットワーク全地域を対象にした学術調査 を行い,それぞれのジオパークに関する情報の 整理を行った.

Ⅱ.本事業の意義

 1992 年のリオ地球サミット(環境と開発に 関する国際連合会議)を皮切りに,自然環境の 保全の大切さが訴えられるようになり,生物多 様性や気象変動の文脈において研究・活動の進 展が多岐にあった.このような調査研究・活動 の成果に基づき,生物多様性条約(CBD)が 成立しており,生物多様性の著しい減少及び多 くの生態系的機能(エコシステムサービス)の 劣化の対策を呼びかけている.日本国内でも自 然環境を保護保全し,その環境からもたらされ る恩恵の調査、定量的分析が進められている(生 物多様性情報システム).さらに、自然環境と は人間社会との密接な関係を持つため、社会が 担い手にならないとその環境を守ることができ ない – といった視点を踏まえて、地域社会が主

1: 和歌山大学国際観光学研究センター 2015.7.22受付 2017.6.20 公開

キーワード:地質的多様性(ジオダイバーシティー),非生物的自然,人為的地形変化,利害関係,総合 的保全

図 1 「地質遺産多様性論」の提案者の Gray Murray 博士

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体になる自然環境の保全の取り組みが挙げられ る(宮内ほか 2013).

 しかしこのような自然保全活動が行われてい るにもかかわらず悪化している自然環境の事例 も少なくない.「環境」とは,生物的自然と非 生物的自然の要素で構成されており,非常に複 雑でダイナミックなものである(Odum 1953). 自然環境の全体を保全の対象にしない限り,自 然環境の悪化を防ぐことができないという結論 が最近出てきている (Brilha 2002, Chakraborty ほか 2015).そこで,現在の生物中心的自然保 全(国際自然保護連合 2000)から,非生物的 自然の多様性を含む総合的自然保全の展開が必 要とされている (Gray 2013).

 ジオパークの構想は,1990 年代半において, 地球惑星史上,地質・地形的価値のある場所を 保全し,その価値を高める活動として生まれた ものである(ユネスコ 2015).ジオパークはた だ地質的特徴や地形的形を守る場所ではなく, 地球規模のプロセスについて理解し,大地の成 り立ちそのものを守ってその大切さを伝える場 所である.従って,ジオパークにおける保全活 動は「総合的」視点から行うべきだとも言える

(ユネスコ 2015).

 しかし,ジオパークの概念と現実における活 動においてズレが起きている.ジオパーク関係 者は,非生物的自然の価値を十分に理解できな いままジオパークを推進してしまうことや,地 域の利害関係者のバランスが取れずに活動が行 われ,自然環境への新しいストレスが生じるこ となどが,その例である.このような課題に答 えて,今回,特別講演会やワークショップの中 で,「非生物的自然環境の多様性そのものの価 値」に関する議論を進めた.

Ⅲ.事例報告

1.JGN 全国研修会(主催:JGN 共催:アジ

アパシフィックジオパークネットワーク,公益 財団法人自然保護助成基金,早稲田大学マニフ ェスト研究所)における Gray 講演の要旨  日本のジオパーク関係者,専門家や,日本ジ オパーク委員会の審査員に対して,ジオダイ バーシティー論の基礎的なところを紹介した. Gray博士は,「生態系サービス」の視点を導入 した非生物的自然の多様性の評価のフレームワ ークについて述べた.以下,重要な指摘事項を 記述する:

 現在,非生物的自然から人間社会が受ける 25種類の恩恵が確認されている.これらの機 能を,ミレニアム生態系評価を元に,調整的機 能,補足的機能,促進的機能,文化的機能と, 知的機能のカテゴリーに分けることができる. それぞれの非生物的機能が,現代の人間生活を 支えており,生物多様性とも深く関わる.例え ば,カルデラ地域において,険しい斜面と平坦 な盆地には違う種類の植物群落が見られる.価 値のあるジオダイバーシティーを実際に評価し て守っていくためのツールとして,下記の方程 式を紹介できる.

value + threat =conservation need (価値+危機性=保全の必要性 )

ジオパークでは,このような視点に基づいた調 査を進め,地質遺産の多様性にかかるストレス を把握し,その状況の改善への具体的な取り組 みが必要とされる.

2.日本地球惑星科学連合大会国際セッション  日本地球惑星科学連合 2015 年大会において, 国内初のジオダイバーシティーに関する国際セ ッションが開催された.JGN はこのセッショ ンを積極的に支援した.

 国際セッションでは,Gray 博士の講演を受 け,日本やアジアのジオコンサべーションの現 状について報告する発表が行われた.また,ジ オパークに限らず河川環境,国立公園,天然記

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念物の保護の課題に関する議論も行われた. 3.白山手取川ジオパークワークショップから わかったこと

1) 手取川流域は,人為的活動によって自然環 境が大幅に変えられた流域である.自然災害か ら生活やインフラ(建物,道路など)を守るた めに,川の上流まで砂防施設がたくさん作られ ている(図 2).これは地質遺産の保全の正反 対のアプローチである.ジオコンサべーション は,自然環境の人為的変化を最小限度に止める ことが基本である.

2) 手取川流域において,地滑りが起きる複数 のメカニズムが確認できる.頻繁に崩れる岩盤

(風化した火成岩)と,たまに大規模な災害が 発生する岩盤(堆積岩)の分布と,それぞれの 侵食率は,その主な理由である.これはまさに ジオダイバーシティーそのものであり,このよ うな地質的特徴をジオパークの中で再評価する ことが求められる.

3) 当流域には,非常にダイナミックな大地の 動きをみることができる.人工的にこのような 環境を変化させることが,自然環境のダイナミ ックな動きを妨げ, 地形の形成プロセスに影 響を及ぼす.現在起きている扇状地の侵食はそ の一つの結果である.

4) 手取川の砂防はもともと欧州で生まれた河 川管理のやり方を日本に導入した結果で,古く ても 100 年ぐらいの歴史を持つ.一方,下流域 には,「霞ヶ堤」のような伝統的河川管理のや り方が残されている.霞堰堤は,川沿いの地域 の一部を積極的に氾濫させ,水害を治める工夫 であり,「地域性」をはっきり伝えるものである. 結論的に,今まで砂防建設が必然的だったとし ても,今後ジオパークとしては,人間の利害関 係も考えながら自然的メカニズムのより総合的 理解に基づいた新たな「価値」を創出しなけれ ばならない − と言える.

3.伊豆半島ジオパークワークショップからわ かったこと

 当ワークショップでは, Gray 博士の基調講演 を受け,地域で活動するガイドから自然環境の モニタリング,再生活動の事例報告が行われた. 主な議論点は以下の通り:

1) 伊豆半島ジオパークでは,多様な地形や地 質が見られる.これらの特徴についてまとめて 発信してジオツーリズムを通じた持続可能な地 域作りのポテンシャルが高い.伊豆では,アイ スランドやポルトガルのジオパークに似たよう な地形が見えるが,伊豆は沈み込み帯に位置す るため,全く同じではない(図 3).これらの

図 2 手取川流域の砂防.白山手取川ジオパークの手取川流 域の上流部には砂防が多く建設され,川の自然的メカニズム を妨げる.

図 3 柿田川の自然 (伊豆半島ジオパーク推進協議会提供). 貴重な水中植物の生息地である柿田川 .

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地形と,それぞれが生み出す環境に応じて保全 を考えることが大事である.

2) ジオパークの北部には富士山の湧水群が分 布しており,昔から地域社会の生活に欠かせな い環境サービスを提供している.しかし高度経 済成長期において,工場による過剰取水や汚染 物の放流などの原因で,湧水環境が著しく悪化 した.最近市民による環境再生が始まっている. その一つの事例として,一度湧水環境から姿を 消した三島梅花藻の再生活動が紹介された(図 4).

3) しかし,三島梅花藻再生事例は,「生物中心」 的保護の例であり,地質的特徴に関する社会の 意識がいかに不足しているがわかる.梅花藻を 丁寧に手入れして守っても,川自体が変わって

いる.地質的特徴そのものを保全することがで きれば,梅花藻は自然に戻ってくるかもしれな い.ジオパークの保全活動では,このような総 合性を求める.

4) ジオパーク西部には珪石の採石場があった. 採石場の中にある路頭の一部には,自然に植生 が戻ってきているところがあり,今後は、モニ タリングしながら、ジオツアーの素材とする予 定.

研修会の講演及びジオパークの現地ワークショ ップから,

1) 地域では,ジオパークの概念の理解はある 2) しかし,ジオパーク活動の核心である地質 多様性そのもの保全の理解は,まだ浸透してい ないことが確認できた.

図 4 柿田川の湧水 (伊豆半島ジオパーク推進協議会提供).柿田川は,その全長の 1.2 キロが湧水からできており,国内最も 短い 1 級河川である.

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Ⅳ.JGN 加盟地域への地質遺産の保護保全の調 査

 JGN 加盟地域において,地質多様性へのス トレスと,保全の現状を把握するように,アン ケート調査を実施した.調査対象の JGN 加盟 55地域(ジオパーク 39,ジオパークを目指す 地域 16)から 47 地域の回答を得た.調査から わかったことは以下の通り:

1) 現在ジオパークが主体的に行う自然保護調 査の数が少なく,地質遺産の多様性と生物,文 化的環境の関係性に関するデータが非常に不足 している.

2) 一部のジオパークでは,国立公園地域があ るため,自然環境の保全の法的仕組みが存在す る.しかし,ジオパーク独自の保護保全の予算 がないか,ある場合でも総合予算の 10% にも 達しない状況がほとんどであることがわかっ た.

3) 自然環境のモニタリングを実施している地 域はあるが,保全活動に使える予算がないため, 活動の質の維持が困難である.

4) 多くのジオパークでは,自然保護の計画が 存在しておらず,環境影響評価 (EIA) が行われ ていない.

 また,保全の大きな課題として,住民の「理 解が足りない」ことや,保全の専門家・有識者 が存在しないことが,一般的に報告された.本 事業を企画した時に,関係者の理解不足がジオ コンサべーションの主な課題であろう,と仮説 を建ててみた.本調査の結果から,仮説が確認 された.

Ⅴ.結論

 本事業は,JGN 加盟地域にとって,非生物 的自然の多様性を保護保全する意味を理解する 貴重なきっかけであった.事業の主な成果とし て,

1) 自然環境の多様性そのものの価値,保全の 課題の確認や,世界ジオパークで実施されてい る対策を周知させたこと,

2) 日本のジオパークの自然環境の実態を把握 できる資料の作成

を挙げることができる.

 JGN では,今後も引き続き非生物的自然の 多様性を守る活動を実施していく.

参考文献

Brilha, J. 2002. Geoconservation and Protected Areas. Environmental Conservation 3: 273-276.

Chakraborty, A., Cooper, M., and Chakraborty, S. 2015. Geosystems as a Framework for Geoconservation: the Case of Japan’s Izu Peninsula Geopark. Geoheritage 7: 351-363.

Gray, M. 2013. Geodiversity. Wiley-Blackwell. IUCN ホームページ.URL: http://www.iucn.org 宮内泰介編 S2013.「なぜ環境保全はうまくいかないの

か ― 現場から考える「順応的ガバナンス」の可能 性」 新泉社.

Odum, E.P. 1953. Fundamentals of Ecology. WB Saunders Co.

UNESCO Global Geoparks.URL: http://www.unesco. org/new/en/natural-sciences/environment/earth- sciences/global-geoparks/

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Annual Report of Pro Natura Foundation Japan vol. 25 (2017)

2014 - 2015 Direct Grant Programme

International Geoconservation Program of Japanese Geoparks Network

(JGN)

SAITO Seiichi, SUGIMOTO Shinichi, and CHAKRABORTY Abhik

Japanese Geoparks Network

Key words: Geodiversity, abiotic nature, anthropogenic change of landforms/landscapes, proit- loss relationship, holistic conservation

参照

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