第 3 章 不動産価格は上昇持続か失速か
不動産レポート 2015 39
第 3 章 不動産価格は上昇持続か失速か
~踊り場に差し掛かった不動産市況~
株式会社都市未来総合研究所
常務執行役員 平山 重雄 (ひらやま しげお) hirayama@tmri.co.jp
リーマンショック以降低調に推移していた不動産投資需要は、 政府 ・ 日銀の量的 ・ 質 的金融緩和が着火剤となって急速に活況化した。価格上昇期待から、株価や為替の動 きと並行して市場参加者と取引量が増加し、都心部で取引されたオフィスビル価格は1 年 で2割
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上 昇 し た。 東 京 都 心 部 で は、好 立 地 物 件 の 供 給 で 分 譲 マ ン シ ョ ン の 平 均 発売価格が上昇したが、初月契約率は好調水準を維持した。 富裕層や投資家の需要 が高額物件の販売に寄与した面が大きいといわれる。
一方、 追随が期待された実需については、 企業のオフィス需要や普及価格帯のマン ション販売など不動産市場における実需は、 一定程度の増加はみられるものの大企業 の一部の業種など拡がりは限定的で、価格上昇に対する抵抗感があるなど、 投資需要 と比較してモメンタムは弱い。新規供給の減少による大規模オフィス ・ フロアの希少化や 定期借家契約の終期到来など供給側の要因でオフィス賃貸市況が引き締まっているもの の、必ずしも需要側が賃料上昇を甘受できる状況ではないとみられる。また、三河地域 や 川 崎 ・横 浜 郊 外 部 な ど、 住 宅 実 需 が 牽 引 し て 早 期 に 地 価 が 上 昇 し た 地 域 で は地 価 上昇が鈍化している。
今回の経緯では、 不動産価格の上昇は賃貸収益の上昇よりもキャップレートの低下に 因 る と こ ろ が 大 き か っ た。投 資 家 は 賃 料 収 入 の 増 加 を 見 込 ん で は い る が、足 下 の 賃 料 上昇が顕著でないため大幅な増加シナリオが描きにくい背景があったためである。キャッ プレートは既に低水準にあるため、今後の価格上昇要因は、 列記すると①賃貸収益の 増加、 ②資金調達におけるレバレッジの上昇、③同じく金利の低下、④更なる量的金 融緩和によるリスクプレミアムの低下、 ⑤海外投資家においては円安進行、 と考えられる。
③と④については緩和が進んだ不動産金融市況で一層の緩和効果は疑わしくもあり
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都市未来総合研究所
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第
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編
特集
自明の理であるが、 賃貸収益が増加するためには、供給側の要因だけでなくテナン トである企業が賃料上昇を受け入れる事情や金銭的余裕が必要である。今のところ事業 継続の必要性や拠点集約による効率性など、 大規模企業に顕著な事情がオフィス市況 の動因となっているが対象は限定的である。より広く、 企業収益が改善しなければ賃貸 収益改善の素地とはならない。「球」 は企業行動にあり、景気に踊り場感が生じている 現状は、すなわち、不動産市況にとっても踊り場である。
(執筆時点 : 2014 年 11 月 5 日)
[ 図表 1-3] 不動産市況の踊り場の構図
(投資需要と実需の温度差)
出所 : 都市未来総合研究所
※ 1 J - R E I T が東京都心 5 区で取得したオフィスビルの月別平均キャップレート (取引のなかった月はデータ補間) に基づく比較。2013 年 5 月の平均キャップレート 4.67%から 2014 年 5 月は 3.90%へと 0.77%低下し、N O I を 一定と仮定すると、価格換算では 19.7%上昇した。