太陽光パネルのメンテナンスにおける温度検出カメラでの空撮による故障診断システムの開発
橋口智和*・幸嘉平太** *
機械・金属担当・**企画連携担当
Development of Fault Diagnostic Test System for Solar Panel
Tomokazu HASHIGUCHI *
・Kaheita YUKI **
*
Machinery and Metallurgy Section
**
Planning and Coordination Section
要 旨
本研究は現状課題となっている太陽光パネル故障診断の効率化および安全性を改善することを目的に、サーモグラフィと無
人飛行機(ドローン)を組み合わせた空撮故障診断システムの開発を行った.センターでは、サーモグラフィ選定に伴う各種模擬
試験を行い最適な仕様を求め、ホットスポットが最適に撮れる時刻帯・天候を調査した.その結果、解像度640×480および空間
解像度 0.68mrad の仕様のサーモグラフィで撮影できることを確かめた.また、ホットスポットを鮮明に捉えるには、9~14 時の間が
良く、曇り日よりも晴天日に撮影した方が良いことがわかった.
1. はじ めに
太 陽 光 パ ネ ル は 、 昨 今 の エ ネ ル ギ ー 政 策 に よ り 盛 ん に 設
置 さ れ て い る . こ こ で 、 太 陽 光 パ ネ ル ( モ ジ ュ ー ル ) は 太 陽 電
池 ( セ ル ) を 直 列 も し く は 並 列 に 繋 げ て パ ッ ケ ー ジ ン グ し た も
の で あ る . さ ら に 、 太 陽 光 パ ネ ル を 直 列 あ る い は 並 列 に 繋 げ
出 力 を 上 げ た も の をア レ イ と 呼 ぶ . 当 初 、 太 陽 パ ネル は 基 本
的 にメ ン テ ナ ン ス フリ ー と 謳 われ て いた が、 最 近 で は か な り 短
期 間 で故 障 す るパネルも存 在 することがわかって きた.
現 在 、 太 陽 光 パ ネ ル の 故 障 診 断 に は 、 携 帯 型 サ ー モ グ ラ
フィを用 いる方 法 とス トリン グモ ニター 方 式 等 がある. いず れも
高 コ ス ト な 診 断 シ ス テ ム で あ る こ と が 課 題 と な っ て い る . そ こ
で、本 研 究 では、 サーモグラフィと無 人 飛 行 機 ( ドローン) を組
み 合 わ せ て 空 撮 す るこ と で 、 広 域 に自 動 で 診 断 す るシ ス テ ム
の開 発 を行 った . セ ン タ ー で は、 サー モ グラフィ選 定 に伴 う 各
種 模 擬 試 験 を 行 い 最 適 な 仕 様 を 求 め 、 ホ ッ ト ス ポ ッ ト が 最 適
に 撮 れ る 時 刻 帯 ・ 天 候 を 調 査 し た の で 、 こ れ ら を 本 稿 で 報 告
する.
2. サーモグラフ ィの選 定
サーモグラフィは、20~30m上 空 から熱 源1セル( 約15cm
× 15cm) を 感 知 で き るも の が必 要 と な る. そこ で 、 弊 所 所 有 の
サーモグラフィ(FLIR 製CPA-T 640)を使 用 して 模 擬 試 験 を行
った.仕 様 はTable 1の通 りである.
Table 1 CPA-T640の仕 様
解 像 度 640×480ピクセル
空 間 解 像 度 0.68mrad
測 定 視 野 角/最 小 焦 点 距 離 25°×19°/0.25m (標 準 レンズ)
検 出 素 子 非 冷 却 マイクロボロメーター
ス ペ ク ト ル 波 長 7.8 ~ 14μm
2.1 模 擬 試 験 (ホッ トスポッ ト検 出 可 否 )
敷 地 内 北 側 に 設 置 さ れ て い る 太 陽 パ ネ ル を セ ン タ ー 屋 上
から望 遠 撮 影 した.太 陽 パネル上 にセルと近 しい形 状 の携 帯
用 カ イロ を設 置 して、これ を疑 似 的 なホッ トスポットとした. レン
ズは広 角 45°のものを使 用 した.Fig.1 にその結 果 を示 す.
Fig.1か らカ イロ部 分 が赤 くな っており、検 知 可 能 で あること が
わ か っ た . 屋 上 か ら パ ネ ル ま で の 距 離 は お お よ そ 30m( GPS
機 能 に よ る 測 定 値 =26.2m) で あ る か ら 、 CPA-T640 と 同 程 度
の解 像 度 を満 たせれ ば検 知 には十 分 であることがわかった.
カイロ カイロ
(a)可 視 像 (b)熱 画 像 (c)デジタルズーム
Fig.1 屋 上 か らの撮 影 画 像
平成26年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
2.2 模 擬 試 験 (振 動 によ る熱 画 像 のブレ可 否 )
空 撮 時 には 、ドロ ーンの移 動 速 度 や 振 動 によ るブ レが発 生
し 、 こ の こ と に よ り 画 像 が ブ レ る 可 能 性 が あ る . そ こ で 、
CPA-T640を用 いて 簡 易 的 にブレ可 否 確 認 を行 った.
移 動 速 度 と ド ロ ー ン の 振 動 を 模 し て 、 歩 行 と 足 踏 み を し な
が ら で 画 像 を 取 得 し 、 画 像 の ブ レ を 確 認 し た . こ の 時 の 歩 行
速 度 はおお よそ1~1.4m/s、足 踏 みはおおよ そ5回 /s で上
下 運 動 した.シ ャッター 切 りは手 動 とインター バル 14sで行 っ
た.
結 果 の画 像 を F ig.2,3 に示 す. 歩 行 と足 踏 み いずれ にお い
て も ブ レ が 生 じ て い る . ブ レ 具 合 は 手 動 の 方 が 顕 著 だ が 、 ス
イ ッ チ 押 し 込 み 時 の 上 下 動 も ブ レ と し て 出 て い る 可 能 性 が あ
る . ブ レ た 画 像 の 数 は 、 イ ン タ ー バ ル と 手 動 い ず れ の 場 合 に
お いて も 明 確 な 差 は 見 られ な か った . こ のこ と か ら 、 サー モ グ
ラ フ ィ だ け の 性 能 で は ブ レ を 抑 制 で き な い こ と が わ か っ た . ド
ロ ー ン 本 体 で 振 動 や 移 動 速 度 を コ ン ト ロ ー ル す る 必 要 が あ
る.
ブレ ブレ
ブレ
ブレ
ブレ
(a)手 動 (b)インターバル14s
Fig.2 熱 画 像 (歩 行 時 )
ブレ ブレ
ブレ
(a)手 動 (b)インターバル14s
Fig.3 足 踏 みで の熱 画 像
3. ホット スポット 撮 影 における環 境 変化 の影 響
ホ ッ ト ス ポ ッ ト を サ ー モ グ ラ フ ィ で 捉 え る に は 、 日 射 量 や 時
間 帯 な ど 撮 影 時 の 周 辺 環 境 を 考 慮 す る 必 要 が あ る と さ れ て
いる
1)
. そこで、周 辺 環 境 の変 化 で、ホッ トスポッ ト撮 影 にどの
よ う な 影 響 を 及 ぼ す か 調 べ る た め 、 セ ン タ ー 屋 上 に あ る 太 陽
パネルを用 いて、 時 系 列 での撮 影 実 験 を実 施 した.
今 回 は日 射 量 に明 確 な差 が出 るよう、 曇 り 日 (平 成 27年2
月25日 )と晴 天 日 (平 成27年2月27日 )を選 び、時 間 帯9
時 ~ 17 時 の 間 で 撮 影 し た . こ の 時 の 温 度 、 湿 度 、 風 速 を
Fig.4 に示 す。測 定 にはマザ ー ツール製 TM-183(温 湿 度 計 )
およびビーズ製 GA-06(簡 易 風 速 計 )を用 いた。なお、 測 定 角
度 および パネル角 度 は、Fig.5の通 りで ある.
(a)曇 り 日 (H27.2.25) (b)晴 天 日 (H27.2.27)
Fig.4 測 定 時 の温 度 、湿 度 およ び風 速
平成26年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
Fig.5 測 定 およ びパネル角 度
まず、2 月 25 日 (曇 り日 ) の結 果 から示 す.F ig.6 は 測 定 時
の 空 模 様 の 写 真 で あ る . す べ て の 時 間 帯 に お い て 、 雲 が 空
全 体 を 覆 っ て お り 、 12 ~ 13 時 に か け て 少 し 晴 れ 間 が 差 し た
が、 17 時 頃 には 微 量 の 雨 で あ った . 撮 影 した 太 陽 パ ネル の
熱 画 像 を Fig.7 に示 す .9~1 6 時 まで の太 陽 パネル におい
て 、 セ ル と 同 形 状 の発 熱 部 分 が 観 測 さ れ 、 故 障 と 思 われ る ホ
ッ トス ポッ トを 確 認 した . こ のホ ッ トス ポッ ト を時 系 列 で み て いく
と、11~14 時 にかけて 鮮 明 な 画 像 と して 確 認 で きる.15~16
時 では、ホッ トスポッ ト部 分 の鮮 明 さが失 われ、17 時 には確 認
で き な っ た . こ れ は 、 セ ル の 過 熱 が 日 射 量 の 低 下 と 共 に 弱 く
な り 、 そ れ に よ っ て 外 気 温 度 と パ ネ ル の ガ ラ ス 表 面 温 度 が 等
しくなったた めと考 えられ る.
次 に、2 月 27 日 ( 晴 天 日 )の結 果 を示 す.Fig.8 は測 定 時
の 空 模 様 の 写 真 で あ る . 9 ~ 15 時 にか け て は 雲 の 無 い 晴 れ
模 様 、17 時 頃 か ら少 し雲 がかり の様 子 で あった .撮 影 した 太
陽 パネル の熱 画 像 を Fig.9 に示 す.9~15 時 までの時 間 帯 で
は、ホットスポットを鮮 明 に確 認 できた.なお、15 時 で は 2 月
25 日 の曇 り日 に比 べて、 より鮮 明 に見 えて いる.17 時 では、
曇 り 日 と同 様 、 ホッ トスポットの確 認 はできな かった.以 上 の結
果 か ら 、 ホ ッ ト ス ポ ッ ト を 鮮 明 に 撮 影 す る に は 、 午 前 中 か ら 午
後14時 までが良 く、 撮 影 日 の天 候 は、曇 り日 よ り晴 天 日 の方
が良 いこ と が わか った . 当 然 な がら、 夏 と 冬 で は 環 境 が大 き く
変 わ る の で 、 そ れ に 伴 い 結 果 も 異 な る と 予 想 さ れ る . 夏 場 の
ホットス ポッ ト確 認 と、 サーモ グラフィの測 定 角 度 についても 検
討 する必 要 がある.
9時 10時 11時 12時
13時 14時 15時 16時
17時
Fig.6 曇 り日 の空 模 様 ( H27.2.25)
9時 10時 11時 12時
13時 14時 15時 16時
17時
Fig.7 曇 り日 におけ る時 刻 列 の熱 画 像 (H27.2.25)
9時 11時半 13時 17時
Fig.8 晴 天 日 の空 模 様 (H27.2.27)
9時 11時半 13時 15時
17時
Fig.9 晴 天 日 におけ る時 刻 列 の熱 画 像 (H27.2.27)
4. まと めに
サ ー モ グ ラ フ ィ の 選 定 お よ び 環 境 変 化 に よ る ホ ッ ト ス ポ ッ ト
撮 影 を試 みた 結 果 、 以 下 の結 論 を得 た.
(1) サーモグラフィにお いては、 FLIR製CPA-T640と同 程 度
の仕 様 を持 ったものを選 定 した 方 が良 い.
(2) 振 動 によ るブ レにつ いては 、サーモ自 身 で コン トロ ールす
る こ と は 厳 し い た め 、 ド ロ ー ン 本 体 で 振 動 を コ ン ト ロ ー ル
する必 要 がある.
(3) ホットスポットを鮮 明 に捉 えるには、9~14 時 の間 が良 く、
曇 り日 よ りも晴 天 日 に撮 影 した 方 が良 いことがわか った.
謝 辞
本 研 究 は, 柳 井 電 機 工 業 株 式 会 社 (大 分 市 )が平 成26年
度 大 分 県 エ ネ ル ギ ー 産 業 育 成 研 究 開 発 事 業 に お い て 採 択
された研 究 テ ーマの一 部 を受 託 して実 施 した. 同 社 に謝 意 を
表 します.
参 考文 献
1) FLIR Systems AB, “ THERMA L IMA GING
GUIDEBOOK FOR BUILDIN G AND RENE WABLE
平成26年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
ENERGY A PPLICATI ONS ”
http://www. flir.com/uploadedFiles/Thermography/M
MC/Brochures/T820325/T820325_APAC.pdf
(access ed 2014-12-20).
平成26年度 研究報告 大分県産業科学技術センター