• 検索結果がありません。

植物の生きる知恵を有機化学で解き明かす

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2017

シェア "植物の生きる知恵を有機化学で解き明かす"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

植物の生きる知恵を有機化学で解き明かす

大学院農学研究院・大学院農学院 准教授

松浦

ま つ う ら

英幸

ひ で ゆ き

(農学部生物機能化学科)

専門分野 : 天然物有機化学,植物生理学

研究のキーワード : 生理活性物質,植物ホルモン,生物検定,環境応答,農業 HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/rfoa/abs/abs3-1.html

何を目指しているのですか?

普段、何気なく接している植物ですが、 皆さん不思議に思った事はありませんか? 春に良く目にする「フキノトウ」、さて、「フ キ」との関係は如何に?ジャガイモに「ヘ ソの緒」がある?おいしそうなスイカ、ト マト、果実に種子はあるけれど、果実内で 発芽した種子は見た事がありますか(写真

1A)?植物は仲間の植物のSOS信号を受け取っている?など列挙に暇がありません。 そもそも、植物は毛虫などの病害虫に侵略された場合、ひたすら我慢し、食べられてい るだけでしょうか?実は植物、積極的に防戦し自己武装を行い、病害虫にダイエットを強 制、近隣の仲間には病害虫の情報を提供し集団武装、ついでに傭兵とも言える病害虫の天 敵まで呼び寄せています。『素晴らしい』の一言につきますが、このような植物の生きる知 恵を有機化学的に解明し、これを現代の農業へ応用することを目指しています。

どのような植物を使ってどのような方法、装置で研究をしていますか?

果実内での発芽を専門語的には胎生発芽と呼びます。植物の種子発芽は、一般には温度、 水分、季節を見計らって目覚めるための休眠の深さに左右されます。しかしながら、スイ カ、トマト種子は完熟した果実内では休眠しておらず、発芽に関しては『Ready to Go の状態で(写真1B)、いつでも発芽できる状態です。ここで考えられるのが、「いつでも 発芽できる状態なら、きっと果実内には発芽を抑制している生理活性物質があるはずだ」 と仮定し、実験を開始します。果実を有機溶媒にて抽出し、抽出成分を用い種子の発芽阻 害試験(生物検定)を行います。発芽阻害の観察された分画を更に精製し、発芽阻害を示 す化合物を単離精製します。精製に関し、簡単に示すと「ゴミの山から、小さなダイヤモ ンドを探す作業」で、ゴミの山の場合、ダイヤモンド探知機を使わなくては成りませんが、 この実験では発芽阻害試験を使って発芽阻害物質を探しだします。発芽阻害物質を単一の 化合物に精製できた後には、この化合物の構造決定を行います。化学構造の決定には核磁 気共鳴装置(NMR)を用います。トマトの胎生発芽抑制物質は研究の途中ですが、スイ カからは図1に示しました化学物質が明らかとなりました。この化合物はアブシシン酸と して知られている植物ホルモンでしたが、果実内では種子の周りの組織に存在し、発芽を

出身高校:北海道帯広柏葉高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

いきもの

写真1 果実内で発芽が抑制されている様子(A)、採取後に 播種したトマト種子の発芽の様子(B)

― 136 ― ― 137 ―

(2)

抑制している事実は知られておりませんでした。 もちろん、果実内で存在する濃度を割り出して、 その濃度で発芽を抑制できる事も明らかにしてい ます。この濃度算出に必要な器機が質量分析計で す。植物に含まれる植物ホルモンは極微量です。 たとえば牛乳1000mLのパック、1kgとして1000 個に分割します。分割された1ピースあたり1g

となりますが、これを再度、1000個に分割し、1ピースあたり1mg、再々度、1000個に 分割し、1ピースあたり1µg。これを再再々度、1000個に分割し、1ピースあたり1ng。 植物に含まれる植物ホルモンはこの「ng」オーダーで、如何に質量分析計が鋭敏か、最近 の技術の進歩には脱帽です。しかし、器機に頼ってばかりでは「研究者としての独創性」 に欠けるので、正確な値を算出する為に双子とも言えるべき、安定同位体(図1B)を有 機合成します。双子ですが体重が違います。質量分析計を使っているので分析計はこの双 子を見分ける事が可能です。測定前の目的部位の粗抽出液に安定同位体を加え、質量分析 を行い、正確な含有量を測定しています。スイカは自生地を「独り占め」しようとして他 の植物を生育させない為の化学物質(他感作用物質)を放出します。しかしながら、自己 中毒してしまう場合も多々見受けられ、現代の農業ではこれが連作傷害として、顕在化し ています。スイカが自生地で発芽を避けようとする生存戦略(新天地にて土地を独占)は スイカの「生きる知恵」であり、子孫繁栄の為の手段であります。この研究結果は発芽抑 制剤の開発や「収穫後の畑に出荷できなかったスイカを放置しない」などの提言の発信に つながるものと思われます。余談ですが、スイカの種子が必要ですので、市販のスイカを 多数購入し、種子集めを研究室の学生さんに手伝ってもらいました。もちろん、果実は食 べます。飽きるほど食べなくてはなりませんが、学生さん受けする研究テーマでした。

以上に述べましたように「生物検定」「生理活性物質の単離、構造決定」「有機合成」「質 量分析」技術を駆使して、この他に「植物の防御応答で活躍する傷害情報伝達物質の研究」

(図2)、「植物の 徒長抑制剤の研究 開発」(写真2)等 を行っています。 現場の田畑で使用 可能な薬剤への応 用展開を目論んで 日夜研究に励んで います。

参考書

(1) 『植物の生存戦略』,編:「植物の軸と情報」特定領域研究班,朝日新聞社 (2) 『植物生理学』,編:幸田泰則・桃木芳枝,三共出版

図1 アブシシン酸の化学構造(A), 安定同位体 ラベルされたアブシシン酸の化学構造(B)

図2 傷害情報伝達物質 写真2 セオブロキシドの化学構造とセオブロキ シド処理によって成長が抑制されたタバコ(右) の様子

― 136 ― ― 137 ―

参照

関連したドキュメント

諸君はこのような時代に大学に入学されました。4年間を本

今回の授業ではグループワークを個々人が内面化

※1・2 アクティブラーナー制度など により、場の有⽤性を活⽤し なくても学びを管理できる学

であり、 今日 までの日 本の 民族精神 の形 成におい て大

注1) 本は再版にあたって新たに写本を参照してはいないが、

一度登録頂ければ、次年度 4 月頃に更新のご案内をお送りいたします。平成 27 年度よ りクレジットカードでもお支払頂けるようになりました。これまで、個人・団体を合わせ

今回、新たな制度ができることをきっかけに、ステークホルダー別に寄せられている声を分析

融資あっせんを行ってきております。装置装着補助につきましては、14 年度の補助申 請が約1万 3,000