国立大学共同利用・共同研究拠点セミナーシリーズ 「知の拠点ミナー」
2012年12月21日(金) 京都大学東京オフィス
一橋大学経済研究所 青木玲子
本日の内容
1. 技術開発投資の経済分析
– 市場の失敗を是正する特許
2. 基礎研究と特許
3. グローバル化と知財
1.
技術開発投資の経済学分析
• 科学・技術への投資の産物は「知識」や「情報」
• 「知識」や「情報」は公共財
• 公共財とは?
1. 非排他的 他人が使えないようにするのが困難
• 自動車は定員がある、洋服は一人しか着れない
• 何でも一度に薬の製法をつかえれる、音楽を聴ける
2. 非競合的 何人、何回、使っても消耗しない
• 公共財(public good)の例
– 防衛
– 治安維持
– 教育
• 負の公共財(public “bad”)
– 公害
治安維持(盗難防止)の「公」と「民」
• 私的(民間)な防犯対策
– 鍵を強化、セキュリティーシステム、など
– 泥棒の侵入防止 他の家に盗難被害を移転
– 国全体の盗難被害は減少しない
• 公的な防犯対策
– 犯罪者を逮捕
技術開発投資
=
公共財への投資
• 公共財への投資は社会的に過少になる
– 排他性がないので、知識や情報を使って投資を回
収するのが困難
– 競合的でないので、なるべく多くの人に、廉価(情報
の複製費用は廉価)使ってもらうことが社会的に望
ましい→廉価では投資のもとがとれない
市場の失敗の是正方法
1. 知的財産によって普通の財に(近く)する
– 排他性による占有可能性
– 普通の財のように投資を回収できる
2. 政府による基礎研究、技術開発投資
– 公的研究機関、研究費など
知的財産
• 特許 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの
• 実用新案 「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」に限定
• 意匠 形、色
• 商標
• 著作権 文部科学省
知的財産
• 特許 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの
• 実用新案 「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」に限定
• 意匠 形、色
• 商標
• 著作権 表現
• (企業秘密)
アレクセンダー・ベルの発明 電報とは異なる電話技術
特許
実用新案
特許
• 目的① 情報に排他性をもたせる(占有可能)
• 目的② 情報の公開
– 発明の重複を防ぐ
– 新情報、新技術の普及を促進
• 排他権を行使すれば、ライバルを排除して占有
できるが、排除しない選択も可能
特許と企業秘密はバランスが違う
• どちらも目的に応じてつくったルール
• 特許
– 情報公開
– 有限期間
– 独自に発明をしても、「同じ」ならば侵害になる
情報公開と占有のバランス
情報公開 排他(占有)
情報公開と占有のバランス
情報公開 排他(占有)
情報公開と占有のバランス
情報公開 排他(占有)
情報公開と占有のバランス
情報公開 排他(占有)
つまり
• 技術研究開発の産物は情報で、公共財である
• そのままでは、自発的投資を期待できない
• 法的な解決が特許などの「知的財産」
• ルールなので、目的に応じて情報開示と占有性
をバランスさせる
• 特許は排他の権利であって、特許=排他では
2.基礎研究と特許
• 特許は自由な発想に基づく基礎研究を阻害す
るのではないか?
• 特許化によって技術が使えなくなるのではない
か?
• データを使って検証してみよう(青木玲子 ・リー ブラ
特許制度
• 出願をして、審査を受ける
• 技術が特許化できる条件(審査)
1. 新規性 (未知の情報)
2. 進歩性 (自明でない)
3. 有用性
• 新規性を主張するための優先順位を決める
特許における引用
• 技術の新規性、進歩性の説明のために、出願
時に公開されている技術文献を引用
1. 既存特許
2. 学術論文
• 何が既知か(論文、特許)、何が新しいかをはっ
特許の統計分析
• 米国の特許データ
• 学術論文の引用数増加の影響を検証
– 特許の数(質を調整済み)
– 新製品の数
– 売り上げ
• 全産業、製薬産業について検証
0 2 4 6 8 10 12 14 16
1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
特 許 に よ る 科学論文の引用数
米国特許商標局によ る 特許認可数
米国の実質 研究開発費
基礎研究と特許
• 学術論文の引用増加
– 基礎研究に直結した技術開発が増加している
• データによると、学術論文が多いと
– より質の高い特許が増える(特に製薬産業、バイオ)
– 汎用的技術
– 多くの製品につながっている技術
回帰分析
• 企業のデータ
– 学術論文の引用のある特許数(科学論文引用数)
– 研究開発費、特許取得数、資本、雇用
• 学術論文引用数の従属変数への影響(=回帰
分析)
– 研究開発費、特許取得数、資本、雇用などの影響も
従属変数: 新 規 製 品 数
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
科 学 論 文 引 用 数 -0.0259 0.0849 0.0755 0.1754 -0.0035 0.0234 0.5166 0.0302 0.0594
(0.0460) (0.0310) (0.0051) (0.0120) (0.0025) (0.0039) (0.0201) (0.0046) (0.0114)
研究開発費 0.0025 -0.0546 0.0110 0.0756 0.0109 0.0089 0.1222 0.1658 0.0862
(0.0030) (0.0269) (0.0033) (0.0055) (0.0033) (0.0055) (0.0097) (0.0085) (0.0229)
特許取得数 1.0370 1.0660 0.1302 0.9594 0.0031 0.1158 0.5051 -0.0049 -0.0121
(0.0070) (0.0467) (0.0031) (0.0136) 0.1302 (0.0063) (0.0256) (0.0062) (0.0202)
資本 0.0716 0.0047
(0.0060) (0.0136)
雇用数 0.8387 0.9679
-(0.0127) (0.0335)
国および年の固定効果? Y Y Y Y Y Y Y Y Y 製 薬 の 部 分 サ ン プ ル N Y N Y N Y Y N Y 観察数 14,724 3,522 10,228 2,877 10,698 3,141 3,277 14,495 4,386 決定係数 0.1806 0.2634 0.9743 0.9660 対数尤度 -35298 -2182 -38797 -10974 -5423
注: 第3-6列および第9列は、Hausman, Hall, and Grilichesにより開発された固定効果の負の二項分布モ デルの推定量に基づいた結果を示している。 したがって、 決定係数ではなく 対
物価' 調整後売 上 品 質 調 整 語 特 許 数
クレーム数で調整した特許数
汎 用 性 品 質 調 整 語 特 許 数
学術論文引用数が100%増えると
• データ分析結果の解釈
• 新製品が50%増加する (製薬)
• 特許の数が7-17%増加する
• 売り上げが3-5%増加する
変数 (1) (2) (3)
科学論文引用数 t-1 0.026
(0.005)
科学論文引用数 t-2 0.024
(0.005)
科学論文引用数 t-3 0.028
(0.006)
研究開発費 0.173
(0.009)
0.185 (0.009)
0.198 (.010)
特許取得数 -0.0002
(0.006
0.004 (0.007)
0.006 (0.007)
資本
0.073 (0.006) 0.077 (0.006) 0.081 (0.007)
雇用数
0.826 (0.013 0.805 (0.014) 0.787 (0.015)
観察数 13,799 13,086 12,352
ラグ効果を使用
企業レベルの固定効果の線形回帰
学術論文の影響は長期的
• ラグ(遅行)をつけた学術論文も影響する
• ラグが大きいほど、影響は大きい
• つまり、学術論文は長期間にわたって、売り上
げに貢献する
変数 (1) (2) (3)
科学論文引用数 t-1 0.0189
(0.0044)
科学論文引用数 t-2 0.0172
(0.045)
科学論文引用数 t-3 0.0158
(0.0044)
研究開発費 0.0700
(0.0092)
0.0500 (0.0094)
0.0588 (.0095)
特許取得数 0.0178
(0.0058)
0.0152 (0.0059)
0.0169 (0.0059)
資本
0.1863 (.0.0168) 0.2208 (0.0175) 0.2017 (0.0173)
雇用数
0.424 (0.0261) 0.4134 (0.0271) 0.4216 (0.0268)
観察数 3,281 3,235 3,178
ラグ効果を使用
企業レベルの固定効果の線形回帰
学術論文の影響は長期的
• ラグ(遅行)をつけた学術論文も影響する
• ラグが大きいほど、影響は大きい
• つまり、学術論文は長期間にわたって、売り上
げに貢献する
• 日本企業(米国特許)
3.グローバル化と知的財産
• 特許は各国固有
• ある国で保護を受けるためには、その国で特許
取得が必要
– 日本特許庁(JPO)、US Patent and Trademark
Office (USPTO)、 European Patent Office (EPO)
• 国によって制度が異なる
国によって制度が異なる
• 先願主義、先発明主義
– 2012 America Invents Act でアメリカも先願主義
• 均等論 Equivalence Doctrine (Auto-focus
technology)
– 日本も現在は採用
Auto-focus
特許侵害訴訟
• Honeywell vs Minolta 1992年判決
• レンズを動かして、フォーカスする特許
• Honeywell レンズをフォーカスするまで動かす
• Minolta レンズを動かす距離を計算して、必要
な距離レンズを動かす
• 日本では、侵害ではない
国によって制度が異なる
• 先願主義、先発明主義
– 2012 America Invents Act でアメリカも先願主義
• 均等主義 Equivalence Doctrine (Auto-focus
technology)
– 日本も現在は採用
他にも国によって異なる制度の例
• 強制ライセンス
• 職務発明 青色発光ダイオード
• 試験実験例外
• 意義申し立て
• 審査請求
知財をめぐる国際協調
• Harmonization
• Trade Related Intellectual Properties
(TRIPS) GATT関連
• 知財に対する南北の対立
• そこで、関税などの貿易ルールとの抱き合わせ
– 市場開放の条件として知財強化を求める
国際分業と知財
• 従来の考えかた
– 途上国は弱い保護が有利 (Catch up)
– 先進国は強い保護が有利 (製品、FDI利益)
• 2段階投資(基礎研究と開発研究)の場合
– 基礎研究投資国(先進国)は、弱い特許保護が有利
– 応用技術投資国(途上国)は、強い特許保護が有利
2段階投資
• Sequential Innovation (序列), Cumulative
Innovation (蓄積)
• 基礎研究投資(R)と開発投資(D)
• 本来の特許のトレードオフ
– 独占による静学的Lossと技術開発投資による動学
世代間技術のトレードオフ
レーザー
医療機器 光学機器
軍事用途、武器
�1 �2 �3
基本技術保持者の取り分 ��3
応用技術開発者の取り分(1 − �)�3
• 特許保護の強さ(大きさ) θ
• 強い特許(大きいθ)
世代間の分業と考えると、
【基礎研究者が応用研究をできない場合】
応用技術の開発を促すために、特許はある程
度弱い方が、基礎技術保持者にとって有利
【基礎研究者も応用研究ができる場合】
基礎研究者が応用研究をやらなくてもよい利
国際的分業がある場合へ含意
• 先進国が基礎研究、途上国が応用研究をやる
とすると
• 特許強化を先進国が要求しない方がよい
• 特許強化を途上国が希望することもある
• Harmonizationの場合、先進国の水準にあわ
4.その他
• 大学の基礎研究
• 特許と競争政策
4.1
大学の基礎研究
iPS 細胞作製法
神経細胞 パーキンソン
網膜、角膜細胞 眼疾患
血小板 血液疾患
神経幹細胞 脊髄損傷
特許化により
技術のライセンス
技術をつかった製品の販売
4.2
特許と競争政策の関係
• シュンペーター仮説
– 投資を促進するためには、独占企業が必要
• K.アローによる反論
– 企業利益増分が投資を決める
– 企業利益増分=投資後利益-投資前利益
4.3
知財の市場の失敗の是正は不十分
• 企業余剰と社会余剰の乖離
企業利益増分 便益増分
-支払価格差
社会余剰増分=企業余剰増分 + 消費者余剰増分
• 投資判断は投資による増分との比較
そこで、科学技術イノベーション政策
• 社会余剰増分 > 企業利益増分
• 市場かせでは、社会的に過少投資になる
• 国が社会的に望ましい水準の科学技術への投
資を行う
科学技術イノベーション政策
• 科学技術基本法(1996年)
• 第4期科学技術基本計画(2011年)
– 課題解決型への転換
– 技術からイノベーションへの移行の困難さ
参考文献
• Aoki, R. and T. Kao. 2012. “Protection of Basic Research and R&D Incentives in
an International Setting,” The Economic Review 63(4): 333-345.
• 青木玲子. 2011 「科学・技術・イノベーション政策の経済学」『経済研究』第62巻第3
号270-281頁
• 青木玲子 ・リー ブランセッター 2010 「学術的研究は 技術革新の生産性を上昇さ
せるか?企業レベルのデータを使った検証」 北村行伸編著『応用ミクロ計量経済学』
日本評論社
• 青木玲子. 2008 「第12章 日本のイノベーションとインセンティブ」 スザンヌ・スコッ
チマー著 青木玲子監訳 安藤至大訳『知財創出 イノベーションとインセンティブ』
日本評論社
• 青木玲子・矢﨑敬人. 2007 「特許・知財の法と経済学」『経済研究』第58巻第3号
263-283頁