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平成15・16年の審判制度を中心とする知的財産紛争処理制度改正の概要 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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(1)

寄稿2

平成15

16年の審判制度を中心とする

知的財産紛争処理制度改正の概要

Ⅱ. 制度改正の背景

1. 知的財産訴訟の重量化と専門処理体制の充実

(1)損害賠償額の高額化

近 年 の プ ロ パ テ ン ト 政 策 に よ る 権 利 強 化 の 成 果 は、侵害訴訟における損害賠償額の高額化に現れて いる。裁判所における損害賠償額は着実に増大して おり、過去の主要な特許・実用新案権侵害訴訟賠償 額は、平成2年から6年の平均では約4624万円に過ぎ な か っ た が 、 平 成 1 0年 か ら 1 2年 の 平 均 で は 約 1億 1 1 3 6万円に達している1)

平成1 0年1 0月には2 5 . 6億円の損害賠償と5億円の不 当利得返還請求を認める判決が出され( H 2ブロッ カー事件)2)

、平成14年3月には、スロットマシンに 関する損害賠償請求について総額84億円もの支払を 命じる判決が出されるに到っている(アルゼ事件)3)

。 このように、近年の損害賠償額の高額化により、 侵 害 訴 訟 の 社 会 的 影 響 は 格 段 に 大 き く な っ て き て おり(知財訴訟の重量化)、それに伴い権利の有効 性 に 関 す る 判 断 の 重 要 性 も 飛 躍 的 に 高 ま っ て き て いる。

Ⅰ. はじめに

平成15年、16年と二年に亘り審判と知的財産訴訟 からなる紛争処理制度に関する大規模な改正が行わ れた。

平成15年には、審判制度において、異議申立てを 廃止して無効審判にその機能を包摂すると共に審決 取消訴訟との関係の合理化を図った新たな無効審判 (特許無効審判)が創設された。

続く平成16年には、この新設された特許無効審判 を基に、キルビー判決の法理を推し進め、侵害訴訟 において特許が特許無効審判により無効にされるべ きものと認められるときには特許権の行使は許され ないとする規定が新設され、併せて、裁判所調査官 の権限の拡大・明確化、侵害行為の立証の容易化の ための方策、知的財産高等裁判所の設置がなされた。

これらの改正の背景及び結果を知ることは、我々 の置かれた状況を知り今後なすべきことを知る上で 有益であると考えるので、この場をお借りして、審 判制度の改正を中心に平成15年、16年になされた知 的財産紛争処理制度改正の概要を紹介させていただ くことにしたい(なお、本稿は私見である旨申し述 べておく)。

杉浦 淳  

特許審査第一部計測

計測・時計一般グループ

グループ長

1)平成13年10月 産業構造審議会知的財産政策部会法制小委員会報告書 p7

2)東京地裁平成10.10.12判決(東京地裁平05(ワ)11876号)

(2)

83

tokugikon

(3)

84

(4)

者への審理充実依頼や審理マニュアルの刷新(大阪 高裁)等の様々な試みがなされた

4) 。

また、人的・物的体制整備も進められた。知財専 門部の裁判官数は、平成9年に比べると平成16年は、 東京地裁と大阪地裁で何れも2倍、東京高裁では 1 . 8 倍に増員されており、部数については、東京地裁は 1か部から4か部へ、大阪地裁は1か部から2か部へ、 審理運営については、①主張および争点整理なら

びに心証形成をできる限り一回の弁論準備期日で集 中的に行ってしまおうとの試み(東京高裁)、②審 理に経済原則・ビジネス原則を取り入れ、早期に正 しい情報の提出を促す訴訟慣行の構築(東京地裁)、 ③H P による審理計画表・提出書類の一覧表示・訴 額の計算基準等の情報の提供(大阪地裁)、④当事

平  成  1 5 ・  1 6 年  の  審  判  制  度  を  中  心  と  す  る  知  的  財  産  紛  争  処  理  制  度  改  正  の  概  要 

4)N B L 785号「知財制度の現状と本年4月からの新しい知財訴訟制度」2004年5月 

異議申立て件数の推移 無効審判請求件数の推移

審判、侵害訴訟の審理期間の年推移

(5)

とを回避することができ、利益衡平の理念に合致し、 妥当な結論に至ること、②無効審判と侵害訴訟という 二度手間を省き、訴訟経済に合致すること、③侵害訴 訟の審理の迅速化が図れること等を挙げている。

(2)侵害訴訟における無効の判断 6)

特許法は、第178条第6項で、審判を請求すること ができる事項に関する訴えは、審決に対するもので なければ提起することができないと定め、審判前置 主義を一般的に規定しており、また、第168条第2項 において、裁判所は、必要があると認めるときは、 審決が確定するまでその訴訟手続を中止することが できると定めている。

そして、キルビー判決以前、大審院は「特許に無 効事由が存する場合であっても、いったん登録され た以上、その登録を無効とする判決が確定しない限 り、当然その効力を失うものではなく、通常裁判所 において特許の当否その効力の有無を判断すること はできず、特許権を侵害したとして被告となった者 は、必ずや審決をもって特許を無効ならしめること を要する」旨を繰り返し判示7)

してきた。

そこで、伝統的には、裁判所において特許が無効 であると判断することはできないとされてきたが、 キルビー判決はこれを判例変更したものである。

(3)制度改正の契機

キルビー判決の判示理由は、先に述べたように①衡 平の理念、②訴訟経済、③審理の迅速化であるが、 この判決を可能ならしめたものは、昨今の知的財産 訴訟の変容であると考える。

すなわち、「知財訴訟の重量化」によリ生じた侵害 訴訟の被告企業に与える影響の高まりは、被告企業 の侵害訴訟における抗弁の強化の必要性を高め、併 せて、被告企業が紛争から早期に離脱するための紛 争の一回的解決による紛争の最終的解決までの期間の 東京高裁は3か部から4か部に増やされている。知財

訴訟を扱う裁判所の規模は、ここ7年ほどでほぼ2倍 の規模に増強されたことになる。

そして、平成 1 6年4月からは、改正民事訴訟法が 施行されたことより、①東京・大阪地裁への管轄集 中 ( 民 訴 6条 、 6条 の 2等 )、 ② 専 門 委 員 制 度 の 導 入 (民訴92条の2ないし7)、③控訴審の東京高裁専属管 轄化(民訴6条)、④5人合議制(民訴269条の2、310 条の2等)の導入が実施され、専門処理体制の強化 が図られた。

さらに、平成1 6年には、①知的財産高等裁判所の 設 置 、 ② 侵 害 訴 訟 と 特 許 無 効 審 判 の 関 係 の 整 理 、 ③知的財産に関する事件における裁判所調査官の権 限の拡大および明確化、④営業秘密の保護強化およ び侵害行為の立証の容易化等に関する改正法が成立 し、一層の体制の充実が図られることになった。

2. 侵害訴訟の変容と制度改正の契機

(1)キルビー事件最高裁判決

このような知的財産訴訟の重量化と専門処理体制 の充実が進む中、平成 1 2年4月にキルビー事件最高 裁判決5)

が出された。

本判決は、特許の無効審決が確定する以前であっ ても、「特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許 に無効理由が存在することが明らかであるか否かに ついて判断することができると解すべきであり、審 理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明 らかであるときは、その特許権に基づく差止め・損 害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利濫 用に当たり許されないと解するのが相当である」旨 判示した。

判示理由として、明らかに無効の理由を有する特 許権の行使を認めないことは、①特許権者に不当な利 益を与えその発明の実施者に不当な不利益を与えるこ

5)最高裁平成12.4.11判決(最高裁平10(オ)364号)

6)平成15年2月 産業構造審議会知的財産政策部会紛争処理小委員会報告書 p74

(6)

ある。【日本経済団体連合会】

2. 審判制度に内在していた問題点

他方、特許庁における権利の有効性判断機能につ いても構造上の問題が指摘されていた。

すなわち、平成15年改正以前は、権利付与見直し 制度として異議申立てと無効審判の二制度が並存し ていたが、その問題点として、①異議申立てと無効 審判とが重複して請求され特許の有効性を巡る紛争 の解決に長期間を要すること、②異議申立てが不成 立のときには、無効審判が請求され、同一審級の特 許庁において権利の有効性の見直しが重層的になさ れ、特許庁段階での手続きが冗長に過ぎること、さ らに、③訂正審判の請求に起因して事件が審判と審 決取消訴訟の間を往復する事態(キャッチボール現 象)が生じていることから、現行制度では紛争の早 期解決は図り難いとの指摘である1 0)

3. 知的財産戦略大綱

―紛争処理小委員会の設置と知的財産訴訟検討会の開催―

これらの要請や課題の整理とそれぞれの検討を行 う体制については、平成 1 4年7月に出された知的財 産戦略大綱にとりまとめられた1 1)

これにより、異議申立制度と無効審判制度の関係 や審判と審決取消訴訟との関係見直しについては、 特許庁を中心として取組むべき課題であるとして、 産業構造審議会知的財産政策部会「紛争処理小委員 会」において検討されることになった。

また、侵害訴訟における無効の判断と無効審判の 関係見直しや裁判所調査官の役割の拡大・明確化等 を 含 め た 専 門 家 の 裁 判 へ の 関 与 の あ り 方 に つ い て は、特許庁・裁判所・法務省の何れにも関係する課 短縮化の必要性を高めることにつながったといえる。

また、調査官の増員等による裁判所の「専門処理 体制の充実」は、これまで専門官庁である特許庁だ けが的確になし得るとされた特許の有効性の判断を 裁判所が行うことを事実上可能ならしめることにな ったと考えるからである。

そして、キルビー判決以降もこの傾向は変わって いないと思われる。

キルビー判決が権利濫用の抗弁を容認したことに より、特許権侵害訴訟における無効理由の判断とい う特許法上長く議論されてきた大きな論点について、 終止符が打たれたかと思われた8)

が、無効審判と侵 害訴訟の役割分担に事実上の穴を空けたことは、そ の後の制度改正の契機を提供することになった。

Ⅲ. 紛争処理制度改正の経緯と検討の枠組み

1. 産業界等からの要請9)

キルビー判決を契機として、産業界等からは、侵 害訴訟と無効審判の関係の抜本的な見直しを行うべ きとの強い要請が出された。以下にその主なものを 紹介する。

・特許等に関する訴訟手続をより効率的に進めるた めに、特許等侵害訴訟においては、一般的に被告 による特許無効(またはそれと同等の効果を有す るもの)の抗弁を認め、裁判所が同時に判断する ことを可能にする。【日本知的財産協会】 ・特許庁における審判手続を裁判所に移管すること

の検討を含め、ユーザーにとって使いやすい制度 の抜本的見直しが必要である。【知的財産国家戦 略フォーラム】

・特許等の有効性に関して侵害訴訟の場で争うため には、裁判所の人的基盤の強化が是非とも必要で

平  成  1 5 ・  1 6 年  の  審  判  制  度  を  中  心  と  す  る  知  的  財  産  紛  争  処  理  制  度  改  正  の  概  要 

8)(財)知的財産研究所 審判制度と知的財産訴訟の将来像に関する調査研究報告書 p3

9)第4回知的財産訴訟検討会 侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する現状と課題 p13

10)紛争処理小委員会報告書 第2章 制度改正の具体的方向性

(7)

るために、異議申立てを廃止して、その機能を無効 審判に包摂させ、権利の有効性の見直し機能を簡素 化・合理化するための改正が行われた。

(改正事項)

(1)請求理由と請求人適格

請求理由は、新規性欠如や進歩性欠如等の公益的 理由に関するものについては、何人も請求ができる こととし、冒認出願や共同出願違反等の権利帰属に 係る無効理由については、利害関係人に限って請求 できることとした(特$ 1 2 3①各号②)。

(2)請求時期

請求時期については、特許の権利期間が相当程度 経過した後においても、特許の有効性を巡る争いが 生じる場合があることから制限を設けないこととさ れた(特$ 1 2 3①③)。

(3)審理構造

審理構造には、異議申立ての査定構造ではなく無 題であることから、司法制度改革推進本部において

「知的財産訴訟検討会」を開催し、関係省庁横断的 な場での検討に付されることになった。

そして、紛争処理小委員会における検討結果は、 平成15年の「特許法等の一部を改正する法律」とし て、また、知的財産訴訟検討会における検討結果は、 平成16年の「裁判所法等の一部を改正する法律」と して結実した。

平成15年に特許庁における有効性判断機能を簡素 化・合理化して審判制度の刷新を図った上で、平成 16年に新特許無効審判と侵害訴訟の関係の見直しが 行われたことになる。

Ⅳ. 平成15年審判制度改正の概要 1 2)

―新たな無効審判「特許無効審判」の創設−

1. 異議申立ての廃止と無効審判制度への統合

異議申立てと無効審判の二制度並存の問題点と異 議申立てそれ自身の内在する問題点を併せて解決す

12)平成15年改正法における無効審判等の運用指針http:/ / www.jpo.go.jp/ tetuzuk i/ index.htm

改正無効審判 公益的理由及び権利帰属に 係る理由

・公益的無効理由は何人も請 求可能。

・権利帰属に係る無効理由は 利害関係人のみ。

いつでも請求可能 当事者対立構造 + 職権探知主義 原則として口頭審理 ・審判請求人と特許権者が原

告又は被告(特許庁は訴訟 当事者でない)。

・特許無効/特許維持のいず れの審決に対しても出訴可 能。

旧無効審判 公益的理由及び権利帰属に 係る理由

利害関係人のみ

いつでも請求可能 当事者対立構造 + 職権探知主義 原則として口頭審理 ・審判請求人と特許権者が原

告又は被告(特許庁は訴訟 当事者でない)。

・特許無効/ 特許維持のいず れの審決に対しても出訴可 能。

異議申立て 公益的理由のみ

何人も申立て可能

特許付与から6ケ月 査定系構造

+ 職権探知主義 原則として書面審理 ・常に特許権者が原告で特許

庁が被告。

・特許維持決定に対しては出 訴不可(異議申立人の不服 申立て機会なし)

請求理由

請求人適格

請求時期 審理構造

審理方式

特許庁の決定に対する裁 判所への不服申立て

(8)

し た も の で な け れ ば な ら な い 」 旨 を 明 定 し た ( 特 $ 1 3 1②)。

(2)当初記載の請求理由の要旨を変更する新たな攻 撃の例外的許可

審判請求書に新たな理由を追加する補正は原則認 められないが、次の要件を満たす場合には請求理由 の補正を審判長の裁量により認めることができるよ うにした(特$ 1 3 1の2①本文、ただし書き)。 a .その請求理由の補正によって審理が不当に遅延す

るおそれがないこと(特$ 1 3 1の2②柱書き) b .その補正が、①訂正請求に起因して必要になった

とき(特 $ 1 3 1の2②一)、②当初の審判請求に記載 できなかったことに合理的な理由があるとき(特 $ 1 3 1の2②二)。

3. 審判と審決取消訴訟との間の「キャッチボール現 象」の適正化

平成15年改正以前は、無効審判の審決が出され審 決取消訴訟が提起された後は、原則、いつでも訂正 審判を請求することができた(旧特$126①)。他方、 最高裁は、審決取消訴訟が裁判所に係属中に当該特 許の特許請求の範囲が減縮する訂正が確定した場合 には、訂正特許についての審理を裁判所が行うこと は適切ではなく、無効審判において訂正特許の審理 を行うべきとの考えを示したので

1 3)

、訂正審決確定 後は、ほぼ自動的に無効審判の審決を取り消す実務 が定着していた。

そのため、特許無効審決を受けた特許権者が、審 決取消訴訟提起後に、審決の自動的な取消しを目的 として訂正審判を請求する事態が急増し、中には、 東京高裁での審決取消訴訟の終了間際や最高裁への 上告受理申立てに至ってから訂正審判を請求する場 合も見受けられ(「キャッチボール現象」)、紛争が 長期化する事態が生じていた。

効審判の当事者対立構造が採用された。これは、当 事者対立構造により当事者に反論の機会を保証する ことにより、当事者の納得が得られやすいことから、 紛争処理手段として優れているとの理由に基づく。

(4)不服申立て

無効審判の審決取消訴訟の訴訟当事者は、従前の 無効審判と同様に、無効審判請求人と特許権者を訴 訟当事者とすることとした(特$179①ただし書き)。 これは一旦発生した特許権は私権としての性格を強 く持ち、私権を巡る争いは当事者間で争うことが適 切であるとの考えを主な理由とする。

2. 無効審判における攻撃・防御機会の適正化

今回の改正に先立つ平成10年の改正では、無効審 判の審理期間を短縮することを目的として、無効審 判請求書の「請求の理由」の要旨を変更する審判請 求書の補正が禁じられた。

これにより、無効審判が一度請求されるとその無効 審判については審理期間の短縮が図られたが、同一特 許についてみると、同一人が別の証拠に基づいて繰り 返し無効審判を請求する事件が増加し、結果として紛 争の早期解決が図られないという事態が生じていた。 そこで、紛争の一回的解決に役立つ場合には、例 外的に要旨変更を認めることとし、その条件を明定す ることとした。また、これと併せて、請求理由の記載 要件を明確化して、審判請求理由が請求当初から十分 に記載されることにより特許権者に不要な応答負担が 発生しないようにするための措置がとられた。

(改正事項)

(1)請求理由の記載要件の明確化

無効審判請求書の請求理由の記載要件として「特 許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し、 かつ、立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載

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(9)

90

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Ⅴ. 平成16年審判制度関連改正事項の概要 ―侵害訴訟と無効審判の関係等について

14) ―

1. 主要論点

侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 について検討された主な論点は以下のとおりである。

(1)侵害訴訟と無効審判の役割分担について −無効審判廃止の可否−

侵害訴訟と無効審判における判断の齟齬や特許権 者の二重の応訴負担の発生は、侵害訴訟と無効審判 の二制度が併存することにより発生する。そこで、 この問題は、理論的には、無効審判を廃止し、侵害 訴訟においてのみ特許の有効性を判断することにす れば解決され得る問題であるとして、その可否につ いて検討された。

これについては、権利を巡る紛争は実際に生じた 侵害訴訟の局面だけではなく、その多くは訴訟の前 に水面下で争われているところ、将来の事業展開を 考え、訴訟に到る前に特許を予め無効にする必要が 生じる場合もある。事実、改正前の無効審判におい ては約6割が侵害訴訟とは独立して提起されており、 異議申立てを含めると侵害訴訟と無関係に提起され る事件は9割以上に上る。そこで、無効審判の廃止 案は、侵害訴訟が提起された局面での問題解決にの み着目するものであり、紛争処理制度を総合的・大 局的に観た場合には無効審判の紛争予防機能を欠く ことはできない等の理由により、単に無効審判を廃 止することは適切でないとの意見が大勢を占めた。

次ぎに、それでは、無効審判を廃止する代わりに 特許査定取消訴訟を創設し、侵害訴訟と特許査定取 消訴訟が同時に提起された場合には、両者を併合し て審理してはどうかとの案が検討された。

これに対しては、審判と訴訟を比較した場合に、 許を審理するよりも、まず無効審判においてその訂

正の適否や訂正特許の有効性について審理させるこ とが適当であると判断したときは、審決の違法性に ついての実体審理を行うことなく、決定により審決 を取り消して事件を特許庁に差し戻すことができる 規定が置かれた(特$ 1 8 1②③)。

( 3 ) 差 し 戻 さ れ た 無 効 審 判 事 件 へ の 訂 正 審 判 の 吸 収規定

差し戻された無効審判の審理の開始の際に、審判 長が相当の期間を指定して訂正請求の機会を付与す ることとし(特$134の3②)、訂正請求がなされなか った場合には訂正審判を訂正請求とみなす規定(特 $ 1 3 4の3⑤)などを整備した。

4. 当事者系審判の審決取消訴訟における求意見・意 見陳述制度の創設

無効審判の審決取消訴訟は、特許権者及び無効審 判請求人を訴訟当事者とすることとされた(特$179 ①ただし書き)。これは、特許権の有効性を巡る争 いは、権利付与後の私権の争いであることから、紛 争の解決は基本的には当事者に委ねるべきとの考え に基づく。

他方、審決取消訴訟では特許庁の法令解釈や運用 基準が主要な争点となる場合など、審決をした特許 庁自身が訴訟において、審決の説明を行うことが適 切な場合が生じることが想定された。

(改正事項)

平成15年法では「求意見・意見陳述制度」を導入 し、特許庁もしくは裁判所の申し出に応じて、特許 庁が審決取消訴訟において法律の適用その他の必要 な事項について、意見を述べることができることと された(特$ 1 8 0の2)。

平  成  1 5 ・  1 6 年  の  審  判  制  度  を  中  心  と  す  る  知  的  財  産  紛  争  処  理  制  度  改  正  の  概  要 

(11)

ころ 1 5)

、 判 断 の 齟 齬 の 発 生 は 8% で あ り 、 こ れ は 、 侵害訴訟の地裁と高裁の判決相違率が約2割といわ れ て い る こ と に 比 べ る と 、 必 ず し も 大 き い 数 字 で は な い 。 ま た 、 無 効 審 判 の 存 続 を 認 め る と し た 場 合 に は 、 同 一 の 特 許 に つ い て 二 つ の 独 立 し た フ ォ ー ラ ム で 有 効 性 が 判 断 さ れ る た め に 判 断 の 齟 齬 が 生じる可能性が生じることは避けがたく、しかも、 侵 害 訴 訟 は 民 事 訴 訟 と し て 当 事 者 主 義 ・ 弁 論 主 義 に 基 づ き 審 理 さ れ 、 他 方 の 無 効 審 判 は 職 権 主 義 を 採 用 し 公 益 的 見 地 か ら 審 理 を 行 う の で あ り 、 両 者 の 判 断 に 齟 齬 が 生 じ る の は 必 ず し も 不 合 理 で は な いとの考え方もある。

しかしながら、同一の特許の有効性判断について、 侵 害 訴 訟 と 無 効 審 判 の 判 断 が 齟 齬 し た 場 合 に は 、 ①侵害訴訟が控訴されるとともに審決が出訴され紛 争の解決が長引くおそれがあること、②権利が有効 であるとして本案判決がなされた後に無効審判で権 利が無効であるとされた場合には、当該判決に再審 事由(民訴$338①八)が生じて法的安定性が害され ること、③その逆の場合には再審事由には該当しな いが、無効審判において無効とされない(有効な) 特許でありながら権利行使が認められないとの不合 理な結果が生じる等の問題が指摘されている。

そこで、判断齟齬の発生は、二制度併存の意義を 損なわない合理的な範囲で、できる限り減少させる ことが望ましいとされ、そのための措置として、① 特許の有効性に関する侵害訴訟での当事者の主張・ 証拠に係る情報を特許庁においても必要に応じて入 手できるようにすること、②裁判所は必要があると きは、当事者に対して無効審判の請求を促すこと、 ③侵害訴訟係属中に無効審判が請求された場合には 無効審判を早期に審理すること、④裁判所は裁量に より訴訟手続きを中止することが提案された。

(3)明白性要件の要否について

さらに、(a)侵害訴訟における有効性判断の範囲 を無効理由が存在することが明らかでない場合にも 無効審判は、①当事者適格を広く認めるとともに職

権主義を採用して権利有効性の判断を公益的観点か ら審理を行う制度であり、訴訟では代替不能である こと、②専門行政庁である特許庁が審理を行うこと から的確な判断を効率的に行うことが期待できるこ と、③審判は行政手続きであるので、訂正請求の機 会を与え攻撃防御の機会を保証できると共に特許無 効の場合には直ちにその特許を対世的に無効にする ことができ、迅速に手続きを進め得ること、④手続 きに要する費用が相対的に安価であること等の理由 により、特許査定取消訴訟を創設するよりも無効審 判を存置した方がメリットが大きいとして、無効審 判は存続すべきとの結論を得た。

(2)無効審判請求遮断の可否と判断の齟齬発生の防 止策について

(i )侵害訴訟提起後の無効審判請求の遮断について 次ぎに、無効審判の存置を前提としつつも、侵害 訴訟提起後は被告は無効審判請求をすることはできな くする案(無効審判請求の遮断案)について検討され た。侵害訴訟提起後は無効審判請求を遮断することに より、時系列上は一つのフォーラムだけで判断がなさ れることになるので、両者の判断の齟齬の発生の防止、 原告の応訴負担の軽減を図れるからである。

これについては、無効審判請求を遮断すると、①民 事訴訟である侵害訴訟では、公益的な見地から当事 者適格を広く認め職権主義を採用する無効審判の機 能を代替できないこと、②将来の事業展開を考え、 その特許を予め対世的に無効にしたい被告の無効審 判請求の権利を奪うことはユーザーのニーズに反す ること、③新特許無効審判は原則何人も請求をする ことができることから、ダミー請求により遮断の実 効性は保てないとの意見が出され、無効審判請求を 遮断することは望ましくないとされた。

(i i )判断の齟齬の発生防止策について

キルビー判決以降の訴訟判決について分析したと

(12)

た権利範囲を確定する行政行為であり当事者主義を 前提とする民事訴訟で行うことはできないとされ、 一部放棄を認めてはどうかとの案については、権利 の一部放棄は対世的効力の点からは問題があるとさ れた。

そこで、訂正については、特許庁の訂正審判によ ることとし、防御手段としての実を挙げるために、 早期に審理の対象にすべきとの結論を得た。

2. 改正結果

これらの検討の結果、特許の有効性の判断につい て は 特 許 無 効 審 判 を 基 本 と し つ つ 、 侵 害 訴 訟 に お い て 特 許 の 有 効 性 を 判 断 す る こ と を 権 利 行 使 を 阻 止 す る た め の 抗 弁 と し て 認 め 、 特 許 無 効 審 判 と 侵 害 訴 訟 に お け る 特 許 の 有 効 性 の 判 断 の 齟 齬 に よ る 混 乱 の 防 止 の 手 当 て を 立 法 及 び 運 用 に よ り 行 う こ ととされた16)

(1)侵害訴訟における特許権に基づく請求の制限 紛争の実効的解決の観点から、侵害訴訟において、 特許が特許無効審判の無効理由(特$123①各号)に 掲げる事由のいずれかに該当することを理由として 特許権の行使を認めるべきでない旨の抗弁が主張さ れた場合は、裁判所は特許が無効であることが明ら かである場合に限らず当該事由の有無を判断できる こととし、当該特許が特許無効審判により無効とさ れるべきものと認められるときは、当該特許権の行 使(差止請求・損害賠償請求等)を認めないことが できるものとする(特$ 1 0 4の3①新設)。

(2)侵害訴訟と特許無効審判の判断齟齬防止、審理 の迅速性の確保等

①判断齟齬の防止を図るために特許無効審判を審理 する審判合議体が、必要に応じて、侵害訴訟にお いて提出された権利行使の制限に係る抗弁に関す る資料を裁判所から入手できるようにし、裁判所 拡大すべきか(明白性要件の撤廃)、あるいは、(b)明

らかな場合に限るべきかについて検討がなされた。 明白性要件の撤廃については、①侵害訴訟の場に おいて無効の主張ができるので審理期間が部分的に 長期化したとしても侵害訴訟そのものの最終的な解 決までの期間短縮が期待できること、②特許の有効 性と抵触可能性を同一の場で争うことになるので権 利範囲について当事者の矛盾したクレーム解釈の主 張を回避して合理的なクレーム解釈が可能になるこ と、③無効理由が明らかかどうかは審理してみなけ ればわからず被告は安全を見越して無効審判を請求 せ ざ る を 得 ず 訴 訟 経 済 に 反 す る こ と 等 を 理 由 と し て、その実現について、産業界からはきわめて強い 要望が出されていた。

他方、この案を採用した場合には、①侵害訴訟の 審理期間が大幅に長期化する懸念があること、②「明 白性」要件は、無効審判制度の並存を前提にする限り 両者の判断齟齬を防止するための安全弁として必要で あるとして、後者をとるべきとの案も有力であった。 これについては、①制度ユーザーが訴訟の審理期 間が部分的に長期化したとしても紛争の最終的解決 までの審理期間の短縮を優先していること、②被告 にとって明らか要件は明らかでなく不要な審判請求 を誘発しておりキルビー判決が示した訴訟経済の理 念に反する事態が生じていること、③判断の齟齬の 発生防止は、上述した(i i)(ロ)の手段により解決 されることが期待されるとして、明白性の要件は撤 廃されることになった。

(4)侵害訴訟における特許無効の主張に対する権利 者の防御手段について

侵害訴訟において権利無効の判断をすることを許 容する場合には、併せて権利者の防御の機会につい ても検討が必要であるとして訂正の在り方について 検討がなされた。

侵害訴訟において訂正を認めてはどうかとの案に ついては、訂正は職権主義の手続き構造を前提とし

平  成  1 5 ・  1 6 年  の  審  判  制  度  を  中  心  と  す  る  知  的  財  産  紛  争  処  理  制  度  改  正  の  概  要 

(13)

(2)裁判官の除斥・忌避規定の準用

併せて、裁判所調査官の中立性を保障するために 裁判官の除斥及び忌避等の規定が準用された(民訴 $ 9 2の9の新設)。

2. 侵害行為の立証の容易化のための方策(営業秘密 の保護)

訴訟の審理の過程で営業秘密が開示されることを 回避する手段を講じることにより侵害行為の立証の 容易化を図るための方策が導入された。

(1)秘密保持命令

裁判所は、準備書面又は証拠の内容に営業秘密が 含まれている場合には、当事者の申立てにより秘密 保持命令を発令することができるようにし、命令違 反 に 対 し て は 、 所 要 の 罰 則 を 科 す も の と す る ( 特 $ 1 0 5の4、2 0 0の2、2 0 1等新設)。

(2)営業秘密が問題となる訴訟の公開停止

当事者等が営業秘密に該当するものについて公開 の 法 廷 で 陳 述 す る こ と に よ り 、 営 業 秘 密 が 非 公 知 性・秘匿性を失うことによって事業活動に著しい支 障を生じることが明らかであることから十分に陳述 することができず、これにより適正な裁判ができな いという恐れがある場合には、裁判所は決定で当該 尋 問 を 非 公 開 と す る こ と が で き る ( 特 $ 1 0 5条の7、 不競法$ 6の7)。

(3)インカメラ審理手続きの整備

裁判所の裁量によって、文書提出命令の申立人、 訴訟代理人等からの意見を聴取するために、これら の者にインカメラ審理の対象となる文書を提示する ことができるものとする(特$ 1 0 5③新設)。

3.知的財産高等裁判所

(1)知的財産高等裁判所の創設

知的財産に関する事件についての裁判の一層の充 実及び迅速化を図るため、知的財産高等裁判所を東 と特許庁の進行調整を充実させる(特$ 1 6 8⑤⑥の

新設)。

②権利行使の制限に係る抗弁が審理を不当に遅延さ せ る こ と を 目 的 と し た も の と 認 め ら れ る 場 合 に は 、 裁 判 所 は こ れ を 却 下 で き る こ と と す る ( 特 $ 1 0 4の3②新設)。

(注)侵害訴訟係属中に請求があった特許無効審判につ いては、早期に審理する対象とすることで判断齟齬を防 止し、判断齟齬が生じるおそれがあるときは、裁判所は、 裁量により訴訟手続きを中止する。

(3)特許権者の防御手段

現行法上の特許権者の防御手段には、変更を加え ない。

( 注 ) 権 利 無 効 を 理 由 と す る 抗 弁 に 対 抗 す る た め に は 、 特許庁における訂正審判あるいは無効審判における訂正 請求によることとし、これらの訂正審判等については、 早期に審理する対象とする。

Ⅵ. 平成16年知的財産訴訟制度改正の概要

平成16年には、知的財産訴訟検討会で検討された その他の以下の事項についての改正法が成立してい る。何れも、上述した侵害訴訟と無効審判の関係に 関する改正と同じく、平成17年4月1日から施行され る。これらの概略を紹介する。

1. 裁判所調査官の権限の拡大・明確化等について

侵害訴訟における権利の有効性判断の枠を広げる ことと併せて、裁判所調査官について、その中立性 を確保しつつ、その権限の拡大・明確化を図ること とされた。

(1)発問権等の明定

(14)

①審判合議体は独立した審理判断を行うものの、職 権主義を発動して、侵害訴訟における権利無効に 関する主張立証内容を考慮することにより、権利 の有効性について、無効審判と侵害訴訟の判断の 齟齬の発生を防止すべきこと、

②無効審判の判断を尊重し、訂正審判を原告の防御 方法とすることの実効性を高めるために、侵害訴 訟と同時係属する無効審判・訂正審判を早期に審 理すべきこと

が要請されたといえる。

2. 特許無効審判の運用改善

今後、これらの要請に応え改正の実を挙げること が で き る か 否 か は 、 審 判 の 運 用 い か ん に か か っ て いる。

審 判 部 で は 、 既 に 、 特 許 無 効 審 判 の 審 理 の 早 期 化・審理の充実化に向けての施策を実行に移し、対 策を着々と進めているところ、これらの施策を紹介 する

1 7)

。なお、ここには紹介しないが、侵害訴訟に おける特許無効の主張・証拠に関する情報を入手す るための運用についても検討が進められているとこ ろである。

(1)特許庁内手続き・実体審理期間の短縮

特許庁内の実体審理・事務処理に要する期間を短 縮するために、無効審判の庁内手続きを一から見直 し、電算機処理や部所間の書類移動のバッチ・サイ クルの短縮化、仮記録体(審判書類)の作成による 並行処理の導入を行うとともに、合議体による実体 審理期間の管理の徹底化を図った。

(2)応答期間の短縮に向けた合理化

審理期間の総合的短縮を図るためには応答期間の 短縮化も不可欠であるところ、出願人の代理人に協力 を依頼し、従来は一律に6 0日としていた指定期間を原 則30日に半減(権利者の第1回答弁期間については、 京高等裁判所に特別の支部として創設する(知的財

産高等裁判所設置法$ 1、2)。

(2)取扱事件

知的財産高等裁判所の取扱事件は、東京高等裁判所 の管轄に属する事件のうち、知的財産となる(同$2) (具体的には、現在の知財専門部が扱う事件と同じ)。

(3)知的財産高等裁判所長

最 高 裁 判 所 は 知 的 財 産 高 等 裁 判 所 長 を 任 命 す る (同 $ 3)。 知 的 財 産 高 等 裁 判 所 に お け る 裁 判 事 務 の 分 配 そ の 他 の 司 法 行 政 事 務 は 、 知 的 財 産 高 等 裁 判 所に勤務する裁判官の会議による(同 $ 4)。知的財 産 高 等 裁 判 所 に 知 的 財 産 高 等 裁 判 所 事 務 局 を 置 く (同$5)。

Ⅶ. 特許庁への要請と審判の運用の改善

1. 制度改正に基づく特許庁への要請

紛争の実効的解決を図るために、明らか要件を撤 廃し、代わりに、特許等が「無効審判により無効に されるべきものと認められるとき」には、当該訴訟 の相手方に対して特許権等の行使をすることができ ないものとされた。これは、紛争当事者に侵害訴訟 の間口を広げ、キルビー判決の法理を推し進める一 方で、侵害訴訟における特許の有効性の判断につい ては、二制度の役割分担は維持し、特許無効審判の 判断を尊重すべきことを明確にしたものと解される。

また、審判合議体は、必要に応じて、侵害訴訟に おいて提出された権利行使の制限に係る抗弁に関す る資料を裁判所から入手できるようにし、裁判所と 特許庁の進行調整の充実を図るとしたことは、審判 合議体が侵害訴訟を視野にいれて審理を行うことに より、判断齟齬の防止を図るべきことが期待されて いることを意味するものと解される。

そこで、今次の改正を受けて、特許庁には、

平  成  1 5 ・  1 6 年  の  審  判  制  度  を  中  心  と  す  る  知  的  財  産  紛  争  処  理  制  度  改  正  の  概  要 

(15)

特許庁審査官の一人として、審査・審判制度の機 能を十二分に発揮して、国民の信頼に応えることがで きるように、最新技術の修得と特許制度の深い理解に 努め、日々の審査に真摯に取り組んでいきたいと思う。

最後になるが、審判課、制度改正審議室、司法制 度改革推進本部並びに審判部部門の皆様には、制度 改正時にいただいた様々な協力と励ましに心より感 謝したい。

例外として6 0日)し、更に、手続者の請求による指定 期間の延長についても、これを認めることに合理的な 理由がある場合に限ることを明確にした。

(3)無効審判計画審理の本格実施

審判部では、平成1 3年7月より「無効審判の計画 審理」を試行的に導入していたが、これを平成15年 1月以降請求された無効審判を対象として、本格実 施することとした。

「無効審判の計画審理」は、複雑な事件を対象とし、 審判合議体、請求人及び被請求人の三者の合意に基 づき審理の初期の段階で定めた審理計画に沿って審 理を進めるものである。審決時期の見通しを立てる ことは、審理期間の怠惰な遅延を防止することのみな らず、侵害訴訟における無効判断への利用、当事者の ビジネスプラン策定にも貢献するものと考えられる。

(4)運用指針の作成と外部公開

新制度の導入に伴い、新たな特許無効審判の手続 きを定めた運用指針を外部公開するとともに一般ユ ーザーを対象とした外部説明会を実施した。本運用 指針は新特許無効審判の全手続きを網羅するもので ある。平成1 5年に改正された、例外的証拠の追加や、 記載要件の明確化については、それぞれの要件につ いて特に詳細に説明している。

Ⅷ. おわりに

特許無効審判制度は不滅の制度として存在してい るわけではない。

この制度は、特許庁の審判によれば、①審判官の 高 度 な 専 門 性 に 基 づ く 的 確 な 審 理 が 期 待 で き る こ と、②行政の特質である公平かつ機動的な審理が期 待できること、に依拠して存在する制度である。

そこで、特許無効審判制度を預かる特許庁が、こ れらの機能を実現できない時には、特許無効審判は、 制度意義を失い、消滅せざるを得ない。

そして、このような事情は、特許無効審判のみな らず、他の審判及び審査にもある程度あてはまると 考える。

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ro f i l e

杉浦 淳(すぎうら じゅん)

昭和6 2年4月 特許庁入庁

審 査 第 二 部 土 木 、 応 用 物 理 、 電 子 計 算 機 業 務 課 、 調 整 課 、 在 モ ロ ッ コ 日 本 国 大 使 館 、 審判部第4部門を経て現職

参照

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