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特許迅速化に至る経緯について 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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tokugikon

2006.11.9. no.243

1. 総理大臣の施政方針演説

近年、知的財産立国を掲げ、国を挙げて知的財産の問

題に取り組むことになったきっかけは、平成1 4年2月4日 の第1 5 4回国会における小泉内閣総理大臣の施政方針演 説だということは、異論がないことと思います。

【第1 5 4回国会首相施政方針演説抜粋】

我 が 国 は 、 既 に 、 特 許 権 な ど 世 界 有 数 の 知 的 財 産 を 有 し て い ま す 。 研 究 活 動 や 創 造 活 動 の 成 果 を 、 知 的 財 産として、戦略的に保護・活用し、我が国産業の国際競

争力を強化することを国家の目標とします。このため、 知 的 財 産 戦 略 会 議 を 立 ち 上 げ 、 必 要 な 政 策 を 協 力 に 推

進します。

(h t t p : / / w w w . k a n t e i . g o . j p / j p / k o i z u m i s p e e c h / 2 0 0 2 / 0 2 / 0 4 s i s e i . h t m l)

我が国の歴史の中で、総理大臣の施政方針演説で知的 財産に触れられたことなど未だかって無く、画期的なこ とでした。

知 的 財 産 に 関 す る こ と が 施 政 方 針 演 説 に 組 み 込 ま れ た い き さ つ は 定 か で は あ り ま せ ん が 、 私 に は 、 そ の 時

の 経 済 産 業 省 ・ 特 許 庁 の 取 組 み が 伏 線 と な っ て い た の で は な い か と 思 え る の で す 。 そ の 取 組 み 以 降 、 特 許 庁 や特許審査が今日の激動の時代に至るまでの経緯につい

て、それらに関わった者の一人として、紹介したいと思 います。

2. 阿部研究会

平成1 3年1 0月に、経済産業政策局長と特許庁長官の私

的懇談会として、「産業競争力と知的財産を考える研究

会」が設置され、2 1世紀における我が国の産業競争力強 化に寄与する観点から、課題によっては経済産業省の所

掌を超えるような広範囲な問題も含めた知的財産政策の あり方について、検討が行われました。そして、平成1 3

年1 2月に「中間論点整理」がまとめられ公表されました。 なお、この研究会は、委員長として阿部博之東北大学 総長(当時)をお迎えしたことから、通称、阿部研究会

と呼ばれていました。

その「中間論点整理」の内容は、知的財産の重要性を訴

える中で、翌年の法改正を目論んでいた特許法、商標法、 弁理士法、不正競争防止法の改正の必要性の他、かなり広 範な論点についてまとめられ、当時文部科学省で検討され

ていた大学における知的財産の機関帰属化や、外務省が関 係する模倣品・海賊版問題等、他省庁の検討を後押しする 内容も含まれていました。ただ、特許審査の迅速化につい

ては、何も言及が無かった点に留意が必要です。

(h t t p : / / w w w . m e t i . g o . j p / r e p o r t / d o w n l o a d f i l e s / g 1 1 2 2 5 c j .

p d f)

この後、年が明けた平成1 4年2月4日に総理大臣の施政 方針演説が行われ、その中で知的財産に触れられた訳で

すが、タイミングから考えて両者に何らかの関連があっ たと考えるのが自然ではないかと思うのです。何も素地

特許審査迅速化に至る

経緯について

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が無い状況において、いきなり施政方針演説で「知的財 産戦略会議」の設置に言及することなど、通常は考えら れないからです。

当時、不景気の真っ直中にあり、中国等に技術や産業 が流出するばかりでなく、模倣品・海賊版が世の中に蔓

延する状況において、知的財産の重要性を説いたこの施 政方針演説は時機を得たものであったと思います。

3. 阿部研究会と知的財産戦略会議

阿部研究会の中間論点整理が公表された際、最終報告

は平成1 4年の春に公表することになっていました。 他方、総理大臣の施政方針演説で宣言された「知的財 産戦略会議」の設置の準備が平行して進められ、同会議

の設置が平成1 4年2月2 5日に閣議決定され、同年3月2 0日 に第1回知的財産戦略会議が開催されました。そして、そ

の第1回会議において、座長として阿部博之東北大学総長 (当時)が選出されるとともに、同年6月中を目途に「知

的財産戦略大綱」を策定することが決定されました。

そ の 際 、 経 済 産 業 省 ・ 特 許 庁 で は 、 平 成 1 4年 の 春 に 公 表 予 定 で あ っ た 阿 部 研 究 会 の 最 終 報 告 書 を 、 知 的 財 産戦略会議が取り纏めることとなった「知的財産戦略大

綱」との関係で、どのように取り纏めるかが問題となり ました。

というのも、知的財産戦略会議の座長は阿部研究会の

委員長でもある阿部博之東北大学総長(当時)と決定さ れ、また、同会議は未だ政府の正式機関ではなく小泉総

理大臣の私的諮問機関であるため正式な事務局が存在し なかったため、経済産業省・特許庁が実質的な事務局の 役割を担うことになったからです。その結果、阿部博之

研究会委員長から、阿部研究会の最終報告書は知的財産 戦略会議の議論の状況も見ながら取り纏めるよう指示が

あり、最終報告書は当初の予定より遅れ、同年6月5日に 発表されたのです。

他方、「知的財産戦略大綱」は、同年7月3日に知的財

産戦略会議において決定されました。

阿 部 研 究 会 最 終 報 告 書 ( h t t p : / / w w w . m e t i . g o . j p /

r e p o r t / d o w n l o a d f i l e s / g 2 0 6 0 5 e j . p d f)

知 的 財 産 戦 略 大 綱 ( h t t p : / / w w w . k a n t e i . g o . j p / j p / s i n g i / t i t e k i / k e t t e i / 0 2 0 7 0 3 t a i k o u . p d f)

そこで、両者における審査迅速化に関する記載を見る ことにしましょう。冒頭に触れましたが、阿部研究会の

中間論点整理には、特許審査の迅速化に関する記載は何 もありませんでした。ところが、最終報告書では、かな

り踏み込んだ記載が入っています。具体的な記載は、次 の通りです。

(3)迅速・的確な審査体制の整備∼ユーザーニーズを踏 まえた審査∼(2 6、2 7ページ)

(前略)とりわけ審査請求期間の短縮に伴う審査請求 件数の増加は今後6,7年間にわたり続くことが予想さ

れることを踏まえれば、中長期的観点に立って、抜本

的な問題解決を図るべきである。(中略)審査官補の

教育期間等を考慮しつつ2 0 0 6年度以降において審査請

求件数の長期トレンドを上回る処理体制を構築し、1 0 年計画をもって審査請求から2年以内に審査が終了す

る体制の整備を図る。(後略)

この記載が加わったのは、知的財産戦略会議の開催と

無関係ではありません。

知的財産戦略会議において、民間委員から特許審査迅 速化の必要性およびそのための審査官の増員について強

い要望が出されていました。その一方で、特許庁では、 審査請求期間の短縮に伴う審査請求件数の急増が見込ま

れていました。そのため、阿部研究会としてもそれに応 える形で、審査請求期間の短縮に伴うコブを克服し、特 許審査迅速化を実現するための審査体制の整備を目標と

して掲げることにしたのです。

なお、本記載中の「審査官補の教育期間等を考慮しつ

つ」との文言は、一般的に審査官育成まで4年かかるこ とから、それを考慮して早めに増員を確保しないといけ ないという趣旨で挿入された文章です。

他方、知的財産戦略大綱は、次のような内容となりま した。

第2章 基本的方向 2. 保護戦略

(1)迅速かつ的確な特許審査・審判

(前略)そのため、最低限、国際的に見て遜色のな い迅速かつ的確な審査の実施に向けた取組みを推進

することとし、 2 0 0 2年度中に2 0 0 5年度までの計画を 作 成 す る と と も に 、 よ り 一 層 の 効 率 化 を 図 り つ つ 、 審査体制の整備を含む総合的な対策を講ずることが

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BRIDGE WORK

4. 知的財産基本法と特許戦略計画

ま た 、 知 的 財 産 戦 略 大 綱 に は 、「 知 的 財 産 戦 略 本 部 」

の設置、「知的財産戦略計画(仮称)」(後のいわゆる知 的財産推進計画、後述)の策定、および「知的財産基本

法」の提出が明記されました。

これを受けて、平成1 4年の臨時国会を経て知的財産基 本 法 が 公 布 さ れ 、 翌 平 成 1 5年 3月 に 施 行 さ れ ま し た が 、

同法には、審査体制整備の必要性を謳った次の条文が入 ったのです。

第1 4条第1項

国は、発明、植物の新品種、意匠、商標その他の国の 登録により権利が発生する知的財産について、早期に権

利を確定することにより事業者が事業活動の円滑な実施 を図ることができるよう、所要の手続の迅速かつ的確な

実施を可能とする審査体制の整備その他必要な施策を講 ずるものとする。

(h t t p : / / w w w . k a n t e i . g o . j p / j p / s i n g i / t i t e k i / h o u r e i / 0 2 1 2 0 4

k i h o n . h t m l)

これと並行して、特許庁では、知的財産戦略大綱に記

載された「2 0 0 5年度までの計画」の策定を平成1 4年末か ら平成1 5年春にかけて集中的に行い、最終的に「特許戦 略計画」(平成1 5年7月8日公表)として取り纏めました。

同計画は、審査請求期間短縮に伴う審査請求件数のコブ および審査順番期間の長期化のマグニチュードを明らか

にするとともに、そのシミュレーションの前提として、 1 0年間で 3 0 0人の審査官増員や出願・請求構造の厳選等

を組み込んでいます。また、「世界最高レベルの迅速・

的確な審査」の実現には、任期付審査官等の特別措置を 検討する必要がある旨の問題提起をしています。

(h t t p : / / w w w . j p o . g o . j p / t o r i k u m i / h i r o b a / p d f / p a t e n t _ p l a n . p d f)

5. 知的財産戦略本部、知的財産推進計画

知的財産基本法に基づいて平成1 5年3月1日に知的財産

戦略本部が設置され、同年7月8日に「知的財産の創造、

保護および活用に関する推進計画」(通称、知的財産推

進計画)が取り纏められました。そして、同知的財産推 進計画には、民間委員からの意見が反映され、次のよう な記載が入りました。

第2章保護分野

Ⅰ. 知的財産の保護の強化 1. 特許審査を迅速化する

(1)特許審査迅速化法(仮称)を制定する。

(前略)世界最高レベルの迅速・的確な審査を実現する

ため、審査待ち期間の短縮の目標を定め、あわせて(中略) 総合的対策を推進する。なお、滞貨縮減のための臨時措 置として、外部人材の活用により任期付審査官を配置し、

任期終了後は知的財産専門人材としての活用を図る。 (h t t p : / / w w w . k a n t e i . g o . j p / j p / s i n g i / t i t e k i 2 / d a i 5 / 0 5 s i r y o u 1 .

pdf)

この結果、任期付審査官の採用が政府レベルで認知さ れることとなり、翌平成1 6年度から、採用を開始するこ

ととなりました。

また、併せて、この記載に基づいて「審査待ち期間の

短縮の目標」を定める必要が生じたため、翌年の「知的 財産推進計画 2 0 0 4」(平成 1 6年5月 2 6日公表)において、 特許審査迅速化の中長期目標が定められたのです。

第2章保護分野

Ⅰ. 知的財産の保護の強化

1. 特許審査を迅速化する

(1)世界最高水準の迅速・的確な特許審査を実現する

(前略)特許審査の順番待ち期間がピークを迎える5 年後(中期目標( 2 0 0 8年))においても 2 0ヶ月台に留 めるとともに、1 0 年後(長期目標( 2 0 1 3年))には、

世界最高水準である1 1ヶ月を達成する。(後略) (h t t p : / / w w w . k a n t e i . g o . j p / j p / s i n g i / t i t e k i 2 / d a i 8 / 8 s i r y o u 3 .

p d f)

6. 行政改革の波

平成1 6年度、任期付審査官の採用が始まり、「知的財 産推進計画2 0 0 4」で具体的な審査迅速化の中長期目標が

定められ、またその実行に向けて特許審査迅速化法案を 取り纏め、特許庁一丸となってこの中長期目標の達成に

向けて取り組んでいる最中、政府全体が行政改革の渦中 となり、特許庁もその例外ではありませんでした。

規制改革・民間開放推進会議では、特許審査の民営化

の可能性について検討が行われました。その検討の中で、

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な誤解を払拭したり、排他的独占権である特許権の設定 は公平中立である国家公務員たる審査官が行わねばなら ない等の反論や「知的財産推進計画2 0 0 4」の中長期目標

の達成に向けた取組について説明した結果、第一次答申 は、次のような内容で決着しました。

規制改革・民間開放の推進に関する第一次答申 Ⅱ. 個別官業の民間開放の推進

(ウ)工業所有権登録【平成1 7年度以降措置】 (前略)したがって、知的財産戦略本部が定めた中長 期目標の達成状況、(中略)等を見極めつつ、従来技術

調査に係る外注件数の増加、株式会社の参入等、工業 所有権の登録事務の民間開放に関し検討すべきである。 ( h t t p : / / w w w . k i s e i - k a i k a k u . g o . j p / p u b l i c a t i o n / 2 0 0 4 /

1 2 2 4 / i t e m 0 4 1 2 2 4 _ 0 2 . p d f)

また、特別会計見直しの議論においても、特許特別会 計も例に漏れず検討対象となりましたが、これまでの特 許庁の真摯な取組や今後の見通しを説明し、さらに手数

料等を支払っている出願人からの反対もあり、当面特別 会計として維持することができることとなりました。

ただ、最終的に平成1 8年5月に成立した「簡素で効率

的 な 政 府 を 実 現 す る た め の 行 政 改 革 の 推 進 に 関 す る 法

律」(通称:行革推進法)の中に、特許審査に係る条文

があることに留意する必要があります。

行革推進法

第3 2条

特許特別会計において経理される特許出願の審査(以

下この条において単に「審査」という。)に係る事務

及び事業については、一層迅速かつ的確な審査を実現 することの必要性にかんがみ、審査の件数、審査に要

する経費及び先行技術の調査の民間への委託の件数に ついて中期的かつ定量的な目標を定め、業務の効率の 向上及び委託の拡大を図るものとする。

第4 8条 第2項

( 前 略 )、 特 許 権 そ の 他 の 工 業 所 有 権 に 関 す る 事 務 、

(中略)一層の効率化が求められる事務は、その実施 を民間にゆだねることの適否を検討し、その結果に基 づき、必要な措置を講ずるものとする。

(h t t p : / / w w w . g y o u k a k u . g o . j p / s i r y o u / s o u r o n / p d f / 0 3 1 0 _ h o u r i t s u . p d f)

7. 審査官に求められていること

以上、昨今の特許審査の迅速化に向けた特許庁内外の

動きについてご紹介しましたが、これは審査の的確性を 蔑ろにしてでも迅速化を目指さなければいけない、とい

う意味ではありません。審査において的確性を維持・追 求することは、言わずもがなの当然のことなので、敢え て触れていないだけです。ご紹介した阿部研究会や知的

財産戦略会議、知的財産戦略本部あるいは審議会の場に おいても、出願人の方々から審査の質の確保が強く求め

られています。

現在の日本の特許審査の状況を見た場合、迅速性(正 確に言えば、1件の出願の審査に要する時間)と的確性

を、これほど高次元で実現している特許庁は世界中を見 てもありません。この点は、皆さんが、三極審査官協議

を通じて正に実感し、自負しているところではないでし ょうか。ただ、質の低下やばらつきのある審査が結果的 に安易な審査請求を招来することを考えれば、今後とも

審査の質の維持、向上に努めることが、結局迅速化にも 繋がることに留意しながら審査に取り組んでいただきた いと思います。

昨今、知的財産の重要性について認識が高まってきて いる中で、特許審査は特許庁始まって以来の厳しい状況 にあります。しかし、政府を挙げて特許審査迅速化に向

けて取り組んでいるというこの状況は、最初で最後では ないでしょうか。

大変ではありますが、後生に滞貨を残さぬよう、この 好機を生かしていこうではありませんか。

p

ro f i l e

南 孝一(みなみこういち) 昭和5 2年4月 特許庁入庁

平成6年7月 審査第二部調整課審査企画官

平成8年5月 総務部電子計算機業務課機械化企画室長 平成1 1年4月 (財)日本特許情報機構

平成1 3年1月 総務部特許情報課特許情報利用推進室長 平成1 4年2月 総務部技術調査課長

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