2007. 12. 04
株式会社経済法令研究会 月刊「銀行法務 21」新年号
シリーズ:金融商品取引法の諸論点
認定投資者保護団体制度の実用化―金融ADR
1
機関の創設に向けて
金融 ADR・オンブズマン研究会 幹事 犬飼 重仁
リード(約 500 字)
裁判外の紛争解決制度(ADR)には、裁判の手続きに比べて、事実認定手続き を柔軟に行なえる、手続きを公開する必要がない、コストと時間が少なくて済 むなどのメリットがある。金融サービスに関する紛争解決についても、個人投 資家など金融サービスの消費者の必要を満たし満足度を高めるためには、金融 サービス業者や金融機関に対する不満や苦情をきちんと聞いてくれて紛争解決 に確実につながる第 3 者(ADR機関)が必要となっている。しかも金融サービス はどんどん多様化・複雑化しており、銀行など金融商品の販売現場ではあらゆ る金融商品の購入が可能となってワンストップショップ
2
が当たり前になってき た。「アフターケアとしての紛争解決」も、従来のタテ割りの業界や業態ベース の対応では、顧客自身の必要を満たすことができない。金融商品取引法で認定 投資者保護団体の制度が用意されたことをうけて、実効性の高い金融ADRのモデ ルを策定するための研究会も設立された。英国やEUの取組に学び、業者サイド も従来の認識を転換し互いに協力して横断的で包括的な金融ADRの創設を行な うことが期待される。そのような紛争解決制度の存在は、いまや法制度と市場 システムと共に、金融資本市場の不可欠のインフラである。
一.はじめに
1.ADR 関連制度の充実
(1)ADR基本法
3
の成立、法テラス
4
の設立など、最近わが国でも裁判外紛争 解決(ADR)制度充実への動きが急である。
(2)さらに、従来からのタテ割りの業法を乗り越えて「同じ経済的機能を
1ADR :Alternative Dispute R esolution (裁判外紛争解決)
2ワンストップショップとは、ある業務分野において、関連するあらゆる商品を取り揃える販売形態のこと。顧客が そこに 1 度立ち寄るだけで、(本来的には)商品の販売から各種手続き、アフターサービスまでが一手にまかなえ るような商店を言い表した言葉。
3 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律。この法律がベースとなって裁判外紛争解決手続の認証制 度が設けられた。その実施ガイドラインは 2007 年 4 月 1 日に施行された。
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/adr01-08.pdf
4http://www.houterasu.or.jp/
有する金融商品と金融サービスには極力同じルールを適用すべき」という趣旨 から本 2007 年 9 月に施行された金融商品取引法(個人投資家保護のために証取 法をベースに規制の対象範囲を広げた)では、従来の証取法等に基づく自主規 制機関が、認可金融商品取引業協会
5
と公益法人金融商品取引業協会
6
に定義し直 され、より横断的で包括的な方向に向けて自主規制機能の充実が進むことが期 待される。
(3)また同法に、金融商品取引業に対する苦情の解決、争いがある場合の あっせん業務を行う法人について、内閣総理大臣の認定を受けることを可能と する認定投資者保護団体(日本版金融 ADR)の制度関連の条文も新設されたこと から、この認定制度を前提として利用者本位のより使い勝手の良い紛争解決制 度が生み出されることが期待される。
(4)さらに、私法分野において民事訴訟など私的な紛争に際し強行法規的 に裁判所によって行なわれる損害賠償命令等の「私法的な効果を有する民事上 のエンフォースメント(法執行)手段」は、被害の回復のみならず違法行為抑 止の観点からも重要であるが、今回の金商法の制定と金販法の改正により、業 者に対する行為規制(業者ルール)について事実上民事効が付与され「私法的 なエンフォースメント」が活用され易くなった。これによって紛争の抑止効果 が高まると同時に、それが紛争の早期円満解決への動機付けとなることで、ア フターケアの中核としての横断的で包括的な金融 ADR をもつことの意義につい ての業者の認識が高まることが期待される。
上記のように、ここへ来て、金融サービスに関しても、新法の枠組みの中で、 利用者の立場に立った実効的な金融 ADR の枠組み構築が強く期待されるように なってきたのである。
しかし、ADR(裁判外紛争解決)といっても、まだ一般にはなじみが薄く、さ らに金融 ADR となるともっと知られていない。
2.不可欠な市場インフラとしての包括的金融 ADR
一方で、英国をはじめとする EU 諸国では、ここ 10 年来、EU 域内統合金融サ ービス市場の高い市場競争力獲得と個人等市場利用者へのより公正な対応を実 現すべく、①(各国で呼び名は違っても同様の機能を有する)より横断的で包 括的な金融紛争解決制度システムの構築、②欧州委員会作成のグリーンペーパ
5 認可金融商品取引業協会は、設立につき当局の認可が必要とされる(金融商品取引法第 67 条の 2)。つまり、 金融商品取引業協会としての業務を行うことのためだけではなく、法人格を取得するためにも、認可が必要とされ る。金融商品取引法第 77 条で苦情解決、第 77 条の 2・3 であっせんを規定している。
6 公益法人金融商品取引業協会は、法人格を有する民法上の社団や財団が、金融商品取引業協会としての業 務を行うことのために、当局の認定が必要とされている(金融商品取引法第 78 条)。ただし、一定の場合、業務規 定の認可が必要になるなどの規制を加えている。金融商品取引法第 78 条の 6 で苦情解決、第 78 条の 7・8 であ っせんを規定している。
ーや各種 EU指令等の形を取って行なわれる統合的な金融サービス市場法規制体 系の域内導入と各国国内法制へのフィードバック、③統一的な金融資本市場シ ステムの整備に、関係者が一致協力し取り組んできている。つまり「紛争解決 制度」と「法規制」と「市場システム」の、いわば三位一体の市場インフラ改 革が着々と進められているのである。
そこで、英国や EU を手本として、わが国の金融サービス市場が利用者の信頼 を確保しつつ市場競争力を高めていくための必要不可欠な条件(市場インフラ の一つ)である「横断的で包括的な金融 ADR の意義」について、われわれ自身、 理解を増すとともに、従来からのタテ割りの制約と既成観念を乗り越えて、忌 憚のない実質的な議論を積み重ねることが必要となってきているといえよう。
「金融商品取引法ができたらそれで十分」ということではまったくないのであ る。
3.米国の金融紛争解決制度
欧州の例を引き合いに出したので、あわせて米国における金融紛争解決につ いて若干触れておきたい。
米国の金融ADR
7
は国内金融機関を規制する機関(The Office of the Comptroller of the Currency)の業務の一部として、金融機関を利用する消費者向けに小規模なもの が存在するが、金融サービス全般に広範囲に使われている状況にはない。むし ろ、90 万人から 100 万人存在するといわれる米国の弁護士のうち金融や証券取 引などに通じた多数の弁護士が個人等の金融消費者の紛争解決に関与し、クラ スアクション(集合代表訴訟)
8
の制度も利用して、苦情申立者や被害者に代わ って和解や裁判を行なうことが多いと思われる。
なお、日本にはクラスアクションの制度自体存在せず、欧州も基本的に同様 である。また日本の弁護士の数は 2 万人弱と言われており、司法書士もほぼ同 数といわれている。
結局、米国においては、圧倒的に弁護士の数が多いという米国に固有の特殊 な環境の下で、英国や欧州のような組織的かつ横断的で包括的な ADR 制度は根 付きにくいのかもしれない。
7The Office of the Comptroller of the Currency www.occ.treas.gov/
8 クラスアクション(c lass ac tion:集合代表訴訟)は、米国で発達した制度であり、多くの人がある企業・団体の行為 によって同様に影響を受けた場合に有効な形式である。個人または団体が、ある特定の被告(企業・団体)に対し て、同じ状況または類似した状況におかれる他の複数の個人または複数の団体に代わって訴訟を起こす代理人 形式の訴訟である。同じ性質を持つ複数の私的請求を糾合し、その効果が全ての当事者に及ぶ。紛争を一回の 裁判でまとめて解決するための強力な制度である。単独では訴訟になりにくい少額訴訟を糾合し、違法行為を抑 止するために民事訴訟を促進して、私人が民事訴訟を通じて法の実現に貢献するための制度でもある。しかし、 近年、米国の訴訟において、初期の段階での和解が多用されるようになった結果、最初から和解(settlement)を目 的としたクラスアクションが提起されるようになり、クラス代表者と構成員の間の利益相反が見られるとの指摘もあ る。
二.日本の現状と直近の環境変化
1.ワンストップショップサービスの進展とアフターケアの必要性の増大 約10年前の金融ビックバン以降、わが国の金融商品と金融サービスの販売過 程における銀行、証券、保険など各金融業界・業態の垣根は相当程度低くなっ てきた。ワンストップショップサービスとも称される銀行での証券類や投資信 託販売はその一例だ。そして、最近の経済財政諮問会議(グローバル化改革専 門調査会 第一次報告(H19/5/8))9や金融庁金融審議会(金融分科会第一部会)
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の動向を見てわかるように、第二次大戦後、米国の法律を手本に導入された証 取法65条(金商法33条)に代表される「銀証分離政策」の見直しも、ここへ来 て、その実現が射程に入ってきた。
しかし、そのような規制の見直しが進めば進むほど、その分ますます、「アフ ターケアとしての消費者対応問題」が、これまで以上に専門的かつ横断的な検 討と対応を要するものとなることを忘れてはならない。
この問題は、以下の注記参照のとおり、英国( FSA: 金融サービス機構) 及びEU では、『TCF( Tr eat i ng Cus t omer s Fai r l y) 原則
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および適合性( Sui t abi l i t y) 原則
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』として明確に認識されている。わが国においても、TCF原則の定着が必要と なっているといえよう。
2.使いにくい現行の民間型金融ADR
ところが現状をみると、既存の金融サービス業界・業態ごとの民間型ADR(裁 判外紛争解決)機関や司法型ADR、裁判による紛争解決手続あるいは行政型ADR だけでは、金融商品とサービスが多様化し複雑化する中、あらゆる金融サービ スに関する紛争に十分に対応しきれず、従来型のシステムは全体として使いに くいものとなっている。
金融サービス業界・業態ごとの民間型ADR関連団体は現在18
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ほどあり、苦情 がたらい回しになったり紛争が放置されたりすることのないよう、タテ割りの 業法と業態の垣根を越えてその間を取り結ぶ「移送ルール」が一応存在してい るが、これまで効果的に運営される保証はなかった。
実際、これらの業界・業態ごとの民間型ADR機関は、相談には応じるが、ばら ばらで、実効性に問題があったと言われている。(詳しくは、最近の金融トラブ
9http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/keiei/nouchi_yushikisha/03/ref_data07.pdf
10http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai1/siryou/20071114.html
11http://www.fsa.gov.uk/Pages/Doing/Regulated/tcf/index.shtml
12 後段五参照。 13
金融トラブル連絡調整協議会資料http:/ / www.fsa.go.jp/ singi/ singi_trouble/ siryou/ 20070612/ 05- 1.pdf
ル連絡調整協議会のHP
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を参照されたい) また、司法型のADRや裁判による紛争 解決手続、行政型ADRも、それぞれ改善されより良いものとするための努力がな されてはいるが、特に金融サービスの消費者である個人や個人事業主・小規模 事業者にとって、金融紛争の解決手段としては十分ではない。
リテイル金融サービス市場の顧客である消費者個々人等にとって、(個々人の 力が相対的に弱いのでこれまで大きな声になりにくかったが)簡便で負担が少 なく、利用しやすいアフターケアとしての横断的で包括的な金融ADR制度が求め られているといえよう。
しかし、わが国においては、一般的には、これまでは顧客・業者双方に、さま ざまな問題を抱えながらも、ADR自体への認識が高いとは言えなかったし、ある いはまた従来からのタテ割りの業界・業態の壁を維持することが大前提となっ ていたことで、顧客サイドの視点に立っての業者サイドにおける制度改善への 動機付けが弱かったことから、業界・業態横断的な実効性の高いADR制度実現に は、いまだに至っていない。
3.前向きの新しい動き
(1)しかし、2007 年 9 月に施行された金融商品取引法には、金融商品取引 業に対する苦情の解決、争いがある場合のあっせん業務を行う法人について、 内閣総理大臣の認定を受けることを可能とする認定投資者保護団体(日本版金 融ADR)の制度関連の条文が新設された。金融ADR制度構築にむけた必要条件の 第一として、法的受け皿が整ったことは、画期的前進といえる。中身の充実は これからとはいえ、すでに生命保険協会は同制度の認定
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を獲得し、私的なADR 機関としての裁定審査会の運営を開始するなど、前向きの新しい動きも一部に 見られる。
(2)また、金融サービス業者はいずれも、金融商品の販売サイドで、利用 者の利便性を勘案してワンストップショップ型のサービスの充実に努めてきた が、ここへ来て、新法のもとで衣替えする自主規制機関やメンバーの金融機関 では、顧客の信頼を獲得するため、販売の前線のサービスの充実のみならず、 顧客との紛争解決機能の面においても、ワンストップショップ型のアフターサ ービスの提供が必要とされるのではないかとの議論がなされ始めている。
4.信頼回復と競争力獲得のために
日本においても、金融サービスの利用者をはじめ関係当事者全員にとって、 簡易、迅速、かつ最小限の経済的負担で、また顧客のプライバシーの保護が図
14http://www.fsa.go.jp/singi/singi_trouble/index.html
15http://www.seiho.or.jp/data/news/h19/191001.html
られ、全体としてアクセスし易く、使い易く、実効性があり、制度運営主体の 専門性と信頼性が高い、そういう新しい横断的で包括的な金融サービス紛争解 決制度の設計と設置が、いままさに求められているのである。
金融サービス市場に不可欠の制度基盤として、より使い易い横断的で包括的 な紛争解決手段を、金融サービス業者自身が足元の小異を捨て、自らのコスト 負担を前提としてむしろ積極的に提案・提供していくことが、真のアフターサ ービスの充実につながり、顧客の信頼を勝ち取ることを通じて、わが国の金融 サービス市場全体の信頼回復と競争力の獲得にもつながるといえるのではない か。
その充実こそ、金融サービス業者自身としても目指すべき道であることが、 徐々にではあるが、金融サービス業の関係者と経営陣に浸透し始めているよう に思われる。
三.金融商品・金融サービスの特徴
ちなみに、金融サービス業者が提供する広義の金融商品・金融サービスは、 通常の消費物資とは異なり、すべてが現在から将来にわたるキャッシュフロー で構成されていることから「目に見えず」、「将来予測が困難」である。またそ の品質の劣化が表面化・顕在化しにくい場合もある。
従って、一般の製造物以上に、勧誘・販売対応時から、販売後、契約終了時
(金融商品の満期)までの、すべての期間にわたって金融サービスの消費者に 対して、それぞれの相手に適合的なアフターケア(TCF 原則/ 「適合性の原則」 の全契約期間にわたる適用、および実効的な紛争解決手段の提供等)の面での きめ細かいフォローが必要である。「売ってしまえば終わり」というわけには行 かないのである。
いま、金融サービス業界・業者を含めたすべての金融サービス市場関係者が、 横断的で包括的な金融 ADR の機能を、金融資本市場・金融サービス業の発展の ために必要不可欠なものであり、一刻も早く実現すべき市場インフラの一部で あると認識することが必要になっていると考えられる。
そしてそれと同時に、その理念を市場関係者が共有し、業者自身が積極的に 当該機能の構築、維持、運営管理に関与し、もしくは支援していくことが重要 となっているのではないか。
四.英国と EU の経験に学ぶ
そ の た め に は 、 イ ギ リ ス の 金 融 オ ン ブ ズ マ ン 制 度 ( FOS: The UK Fi nanc i al
Ombuds man Ser vi c e)と EU 各国で進展しつつある、金融 ADR(紛争解決制度)構 築への道程、そしてそれらと完全にリンクしつつ行なわれている I SO による紛 争解決にかかわる手続の標準化のプロセスが、わが国にとって非常に参考にな ると考えられる。特に、日本に必要となる横断的で包括的な金融 ADR は、I SOの ガイドラインを満たすものでなければならない。
1.英国 FOS
まずは、FOS の、英国金融サービス市場法制全体の中での位置づけとその内容、 仕組みの工夫に至った過去の経歴などを知ることが必要である。
なお、金融サービスについて、わが国でも最近、政府の政策として本格的に 銀証分離政策解消に踏み出す方向が打ち出されたことから、部分横断化の段階 に止まっていた規制自体の、さらなる横断化と包括化が今後急速に進むことが 予測されるが、それは銀行と保険までを含んだ英国 2000 年金融サービス市場法 制(FI SMA)の枠組みに近いものになることが最終的に想定される。しかし、英 国 FI SMA は、その中に包括的な金融オンブズマンの制度(FOS)を含み、それが 不可欠の要素となっている。
日本では、英国 FOS のような横断的で包括的かつ法定の制度を持つことは、 現時点ではもちろん困難であるが、実効的な金融 ADR を志向する国々にあって は、ほぼどの国においても金融紛争解決制度を業界・業態タテ割りのいわば単 発 的 な 制 度 か ら 横 断 的 で 包 括 的 な 制 度 へ と 移 行 さ せ て い く 過 程 で 、 任 意
(vol unt ar y)の制度から法定(s t at ut or y)の制度へと、その組織の性格を変 更・発展させてきているように見受けられる。したがって、その意味でも、将来 のわが国の制度の発展を見据えつつ、英国 FOS を手本として、その機能と発展 過程についての、十分な理解が必要と考えられる。
特に、1980 年代のはじめに片面的拘束力を備えた制度が英国で採用された歴 史的事情を知ることが重要であり、その事例の現在の日本への示唆は極めて大 きいと考えられる。
(1)片面的拘束(片面的仲裁合意)の重要性 まず、日本では「憲法上の問題
16
」や「弁護士法 72 条の問題
17
」がネックにな
16 片面的仲裁制度が任意加入のスキームであれば、加入時に包括的な合意を認定することは不可能ではない が、強制的なものであるとすると(例えば、銀行業務等をする要件として加入が求められるとすると)、日本では、 業者の裁判を受ける権利(憲法第 32 条)を侵害することになり、問題とされてきた。仮にこれが行政処分として位 置づけられれば(民間の組織であってもその限りで行政権限の一部委譲があると理解すれば) 上記の問題はなく なるが、それに対する不服申立てを許さずファイナルなものと構成すると、今度は、「行政機関は終審として裁判を 行うことができない」とする憲法第 76条第 2 項に反するおそれがあるとされる。つまり、いかなる行政府の組織・ 部門も司法に関わることについて確定的な判断をする権力を与えられないという原則に抵触する恐れがあるとい うわけである。ただ、行政機関も、審判の制度として、人事院の裁定、公正取引委員会の審決、選挙管理委員会 の決定など、行政機関による審判の制度をすでに有しており、司法機関にかける前に担当行政機関が迅速に事 件の処理にあたることが行政サービスの向上になるという考えは日本にも存在する。日本では、以上のような議
ってなかなか導入しにくいといわれてきた片面的仲裁のあり方に関しての、英 国における制度形成の歴史を振り返ってみよう。
すなわち、2000 年にできたFOS(英国金融オンブズマンサービス)の前身であ る保険オンブズマンは、1981年に、個人投資家が不当に被害を受ける保険紛争 の激化に伴って制定された 82 年保険会社法(日本の保険業法に相当する)によ る規制強化を目前に控えていた保険会社自身の要請に基づき、「参加者の任意
(vol unt ar y)による包括的な片面的仲裁合意を前提とした業界団体型の自主規 制スキーム」として創設されたものであった。そしてその流れが 2000 年金融サ ー ビ ス 市 場 法 の 下 に 設 立 さ れ た 現 在 の 業 界 ・ 業 態 横 断 的 な FOS と い う 法 定
(s t at ut or y)の組織にまで引き継がれている。
なお、個人投資家等のために迅速かつ柔軟で実効性のある裁判外紛争解決機 能を市場の中に整備していくには、業者自身( 特にトップマネジメント) が、「ハ ンディをつけることがフェアになる」という理念を理解し、それに基づく「片 面的拘束(片面的仲裁合意)」を進んで受け入れることにより、制度の実効性を 高めることが必要となるであろう。そしてそのためには、もちろん、裁判外紛 争解決機能が、消費者、業者双方にとって実際上公正・中立なものとなってい なければならない。つまり、この公正・中立を実質的に担保するには、双方の 経験や知識のレベルの違いを背景に制度的調整を加味しなければならないので あり、そこに「ハンディをつけることがフェアになる」という理念への理解と 賛同が不可欠となる。それが、TCF 原則の下での、上記の片面的仲裁合意にお ける『片面的』という言葉の本来意図するところでもあると言えよう。
(2)日本でも一定程度認めている片面的拘束力
なお、現行のわが国の民間の多くの業界団体が運営するADR 組織においても、 彼らが行なった裁定や調停・あっせんの尊重義務またはそれらが受け入れられ ない場合の債務不存在確認請求訴訟提起義務などが規定され、それに参加する 金融サービス業者は、片面的拘束力を緩やかな形ではあるが一定程度すでに認 めてはいる。今後はこの方向をさらに発展させていくことが必要と思われる。
FOS の制度を含めた詳細の議論は、犬飼重仁・田中圭子 編著 『日本版金融オ ンブズマンへの構想』(レクシスネクシス・ジャパン刊、2007 年 11 月)を参照
論もあり、片面的仲裁の制度化にはハードルが高く、担当官庁が法制化を意図しても結局は内閣法制局の審査を 通過しないとされて、これまで突っ込んだ検討がなされていない。(NIR A 研究会における一橋大学法学部山本和 彦教授ご発言を抜粋)
17 弁護士法第72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的をもって、法律事件に関する法律事務を行うことを 業とすることを禁止している(罰則あり)。この点いついては諸説があるが、例えば、具体的には、仲裁人は弁護士 資格を有するものに限られるとされてきた。ただし、仲裁を行なう委員の中に弁護士資格を有するものを一名以上 入れるなどにより弁護士法 72 条問題を回避する方法も行なわれている。なお、近年、司法制度改革の流れの中 で、平成15(2003)年4月に、司法書士法が改正され、特別の考査で認定を受けた司法書士には、簡易裁判所の 民事代理権を付与され、少額の事件では弁護士と同じ権限を持つことができるようになっている。すなわち、将来、 弁護士に加えて司法書士等も、日本における金融ADR に関する法実務を担当する道が開かれたともいえる。
頂きたい。
2.EU/ FI N- NET
2007 年 9 月下旬の 3 日間、英国FOSが主催し、ロンドンで 32 カ国から百数十 人が集まり、金融オンブズマンと金融紛争解決制度関係者によるコンファレン ス『I NFO 2007
18
』が開催され、筆者をはじめ「金融ADR・オンブズマン研究会
19
」 の 3 名が出席した。
時を同じくして、日本ではこの 9 月末、念願の金融商品取引法が施行され、よ り包括的な投資サービスに関する法規制体系の導入が実現したが、それは英国 2000 年金融サービス市場法のレベルには程遠く、銀行と保険を除く投資サービ ス分野をいわば部分横断的にカバーした英国 86 年金融サービス法の段階に相当 する。
今回のコンファレンスに出席してみて、遥か先を行く英国と EU では、統合金 融サービス市場における高い市場競争力獲得と個人等市場利用者へのより公正 な対応を実現すべく、(1)金融紛争解決制度、(2)金融サービス市場法規制 体系、(3)統一的金融資本市場システムという、3つの市場インフラ整備の、 いわば三位一体の改革に、関係者が一致協力し、プリンシプルを明確にしつつ 取り組んでいることが良く理解できた。
日本でも法規制と市場システムの整備については少しずつ改革が進んでいる が、本格的な紛争解決機能の整備についてはこれからであるし、その必要性に ついて本格的に議論が始まったのは、ごく最近のことである。
さすが、欧州は、売りっぱなしでなく真に EU 全体に広がる金融サービスの顧 客本意で、売った後のアフターケアのあるべき姿のことを真剣に考えていると 感心した次第である。
例えば、EU内の金融サービス市場の利用者にとって、各国国内の紛争解決と同 時にクロスボーダーの紛争解決にも対応可能となるように、言い換えれば統合 市場のメリットを十分享受できるように、すでに 2001 年の段階でFI N- NET
20
とい う名のネットワークが組織され、現在EU27 カ国中 21 カ国 40 以上の域内組織と
18http://www.info2007.org/
192007 年 4 月 18 日、四つの大手ビジネス法務事務所の金融関係等の専門の弁護士、司法書士、メディエーショ ン実務専門家、研究者など 8 名の発起人の呼びかけにより、19 名のメンバー、3 名のオブザーバー、3 名のアドバ イザーで構成される「金融ADR ・オンブズマン研究会」を設立し、第一次提言を同時に発表した。(下記UR L 参照) http:/ / www.nira.go.jp/ newsj/ seisakuf/ 15/ pdf/ siryo03_2.pdf
同研究会は、あるべき金融 ADR 機関のモデルについて、関係者有志による自主的な共同研究の開始が必要であ るとの趣旨に賛同する人々により、任意団体として発足したものである。同研究会では、若手から中堅、ベテラン まで、多くのメンバーが、いわばパブリックサービスの精神で主体的に研究に取り組み始めた。2007 年 7 月からは、 4 つの分科会を設けてさらに研究を深めつつある。2008 年中に実現可能なプランとしてのあるべき金融サービス 紛争解決(ADR )機関のモデルの詳細を公表する予定である。
20http://ec.europa.eu/internal_market/finservices-retail/finnet/index_en.htm
域外の複数の国々からの金融オンブズマン組織の関係者等が参加し、積極的な 議論が継続的に行われているのである。
実際、EU 各国とブリティッシュコモンウエルズの国々では、名称はともあれ、 金融オンブズマンないし金融紛争解決支援のための関連組織が次々に立ち上げ られ、流れとしては任意(vol unt ar y)から法定(s t at ut or y)のスキームへ、 そしてまた、業界・業態タテ割りから横断的・包括的な制度へと、その多くが 英国の FOS の制度をモデルに、各国で主体的な制度改革が着々と進められてい ることが今回のロンドンのコンファレンスで確認できたのである。
なお、そこで共通していたのは、(1)紛争解決制度の主たる費用負担はいず れも(サービスのコストの一部として)業者側が行なうという点と、(2)過渡 的な段階はともあれ、最終的には、個別の業種や業態ごとに紛争解決制度を設 定するのではなく、極力広くすべての金融サービス業者をカバーするような制 度とすべきであるとしている点、そして、(3)消費者側には紛争解決制度によ る裁定結果に最終的に従う義務はなく、選択肢として裁判に訴える権利が残さ れているような制度設計とすべきである(一方、業者サイドは、任意(vol unt ar y) のスキームへの参加を合意したか、スキーム自体が法定(s t at ut or y)であるか にかかわらず、紛争解決制度の裁定が最終であり、それに従う義務がある)と いう点であった。なお、この点は、2007 年 4 月 30 日に発行された、欧州委員会 の「単一市場におけるリテイル金融サービスに関するグリーンペーパー
21
」の中 の項目 32 にも明確に謳われていた。まさに、そこにもTCF原則が貫かれている といえよう。
FI N- NETの立ち上げと同年に始まった金融トラブル連絡調整協議会
22
はわが国 唯一のその種協議の場だが、そこでの議論が 6 年間停滞していた間に、彼我の 差がこれほど開いてしまったことに、筆者自身、驚きを隠せなかった。過去 10 年にわたる英国と欧州の、金融紛争解決制度構築へのたゆまぬ努力の結果を、 今回まざまざと見せつけられたように感じたのは、筆者一人ではなかったと思 われる。
なお、読者の参考までに、そのフォーラムでスピーチを行なった金融サービス 担当大臣(Ec onomi c s ec r et ar y)のKi t t y Us s her MP女史の発言録
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をご紹介す ることとしたい。同女史は就任以来まだ数ヶ月とのことであるが、英国のEUリ テイル金融サービス市場行政の全体像と政策の力点の置き方などが、スピーチ から明確に理解でき、クリアなステートメントとなっていることは注目に値し よう。それによれば、英国では、金融紛争解決制度のあり方も含めて、リテイ
21http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/site/en/com/2007/com2007_0226en01.pdf
22http://www.fsa.go.jp/singi/singi_trouble/index.html
23http://www.hm-treasury.gov.uk/newsroom_and_speeches/speeches/econsecspeeches/speech_est_270907.cfm
ル金融サービス市場行政のスコープが、すでに国内だけの段階からクロスボー ダーの取組みに移っていることがわかる。
3.紛争解決システムの標準化ガイドラインI SO10003
24
の重要性
ISO(the International Organization for Standardization)は、もともと工業規格の国際 標準化に関わる国際組織であるが、最近では環境マネジメント・システムや情 報セキュリティマネジメント・システム、リスクマネジメント・システムとい った、企業や団体の活動のクオリティ・マネジメントに関する規格の国際標準 化も進めている。ISO10003 に関しては、ISO は 2003 年から 4 年間、顧客満足 度を高めるための品質管理に関して、業者とは区別された組織が行なう紛争解 決システムの標準化について議論を深め、2007 年 11 月 20 日にガイドラインを 公表した。
なお、このガイドラインは、認証機関により認証を受けるいわゆる認証型では なく、自己宣言型である。
ガイドラインから、以下にポイントを一部抜粋する。
項目 主な内容
参加者の同意 利用者の自由意思が尊重されること。手続への参加の同意は、十分な情報と、その 過程と結果への理解に基づいているものであること。
アクセスの容易性 利用者の ADR 利用費用は、アクセスの容易性を確保するために低廉でなくてはなら ず、紛争の程度に応じた合理的負担、ないしは無料とすること。電話、郵便、ファック ス、電磁的通信方法による参加を認めること。
紛争解決方法の適切さ 紛争解決方法のタイプについては、紛争の内容や特徴によって、それぞれ適切なも のであること。
手続の公正性 紛争解決に携わる組織は公平かつ正直に対処するものであること。担当者は公平で 偏見があってはならない。金融サービス業者の元従業員は、出身母体と関係する案 件には関与できないようにすること。苦情・紛争の解決結果を事後的に評価するシス テムを構築すること。消費者側から見て ADR 手続の客観性・不偏性が確保されるいく つかの要件を満たすこと。
スタッフの能力確保 スタッフはその責任を果たすために、適性があり、技術を有し、訓練され、経験を持っ ていること。
適時性 適切なタイムフレーム内で苦情・紛争が解決されること。紛争や手続種類別に標準的 な手続進行の時間枠をあらかじめ設定して、特に消費者側にとって手続進行の予測 がつくようにしておくこと。
24Quality management -- Customer satisfaction -- Guidelines for dispute resolution external to organizations http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=38449
秘密性の確保 法がその開示を要求する場合を別として、オンブズマン・調査員・受付担当者・その他 の職員の秘密保持義務を徹底すること。
透明性 ADR 機関の信頼性の確保のため、ADR 手続、方法、成果に関する十分な情報を当事 者および社会一般に開示すること。
リーガリティー 紛争解決の過程は、法および関係当事者双方の合意の下で行なうこと。
キャパシティー 紛争解決には、十分な資源が割り当てられ、効率的かつ効果的に管理されること。 継続的改善 プロセスの効率性と効果の増進が、永続的な目的とされなければならない。
今後、金融 ADR・オンブズマン研究会において金融サービス紛争解決(ADR) 機関のモデルを策定するに際しては、上記のガイドラインと EU のグリーンペー パーなどの関連情報を参照することとなろう。
五.法制史上初めて民事効が認められた「適合性原則違反」
1.発動しやすくなった立証責任転換規定
個人投資家保護のために、証取法をベースに規制の対象範囲を広げた金融商 品取引法が 2007 年 9 月に施行され、同時に改正された金融商品販売法(金販法) で損害賠償規定や損害額の推定(立証責任の転換)規定が使い易くなったこと により、事実上、適合性原則違反に民事効が認められることになった。これら は、わが国の金融サービス法制史上大きな前進である。
業者ルールの民事法規化はもっと積極的に推進すべき課題であると考えられ るが、現状、2004 年の証取法改正で損害賠償責任を生じさせることが可能とな った「不実の開示」の場合を別とすれば、2007 年 9 月の金商法施行後において も、「契約の有効・無効や損害賠償請求の可否は、原則民法や金販法などの民事 法で決まる」ものであるとの枠組みは、これまでと変わらない。金商法に規定 する行為規制違反は、民法に規定する不法行為となるような違法性があるかの 判断基準のひとつとなるにとどまる。つまり金商法は、基本は事業者を規制す る業法(業者ルール)であり、行政処分の根拠とはなるが、それだけでは、原 則、民事効(民事上の損害賠償請求の根拠となるべき効果)はない。わが国で は、行政法規違反の民事効(後段参照)は一般的には認められて来なかったた め、現実に消費者の損害回復にあたっては、従来同様、金販法や民法で対応し なくてはならない。
ただ、今回の改正で金販法が同時に強化されたことが特筆に値する。改正前 の 2000 年金融商品販売法は、民法上の一般不法行為規定に比べると、本来、金 融商品販売業者等の損害賠償責任の法定や損害額の推定によって顧客(原告) の立証責任が軽減される等、業者等の説明義務違反により損害を被った顧客の 民事的救済に資するはずのものであったが、あまり利用例がなかった。その主
な理由は、損害額の推定(立証責任の転換)が発動される要件が狭かったため である。
これを受けた今回の具体的な改正点としては、①説明義務の対象事項に「当 初元本を上回る損失が生ずるおそれ(先物取引の証拠金を想起されたい)」や「取 引の仕組みのうちの重要な部分(仕組みの複雑なファンドを想起されたい)」を 追加したこと、②説明義務を尽くしたか否かの基準として、別途金商法でより 具体的に明記した「適合性の原則」の考え方を新たに採用したこと、また③「断 定的判断の提供禁止違反」を「無過失の損害賠償責任」の対象としたことなど がある。これらにより、損害賠償規定や損害額の推定(立証責任の転換)規定 が発動しやすくなっている。(金販法 3 条∼6 条)
2.法制史上初めて民事効が認められた《適合性原則違反》
なお、 Know your c us t omer r ul eとして知られる「適合性の原則」は、利用 者のための勧誘・販売等に関するルールの柱となるべき原則であり、金商法の中 で、今回初めて、従来からあった「顧客の知識、経験、財産の状況」だけでは なく、新たに「金融商品取引契約を締結する目的」をも考慮して勧誘を行わな ければならないという原則が明記(40 条 1 号)され、位置づけられた。また、 それと同時に行なわれた金販法の改正で、金商法において強化された「適合性 の原則」に呼応して、金販法上の説明義務について「顧客の知識、経験、財産 の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧 客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」(3 条 2 項)と規定し、説明義務を尽くしたかどうかを判断するに当たっての解釈 基準として「適合性の原則」の考え方が取り入れられた。これらによって、事 実上適合性原則違反に民事効(民事上の効果)が認められた。
今回、業者に対する行為規制違反について事実上民事効が付与されたことに よって、民事法制史上初めて従来の原則が修正されたものと考えられる。
3.円満な早期紛争決着への有効な動機付けとなる法改正
私法分野において民事訴訟など私的な紛争に際し強行法規的に裁判所によっ て行なわれる損害賠償命令等の「私法的な効果を有する民事上のエンフォース メント(法執行)手段」は、被害の回復のみならず違法行為抑止の観点からも 重要である。今回の金商法の制定と金販法の改正により、このような私法的な エンフォースメント手段が一層活用され易くなったことで、それによって業者 サイドにおける紛争の抑止効果が高まると共に、業者にとってそれが円満な早 期紛争決着への有効な動機付けとなることが期待される。
また、これら法制度のレベルアップに関しては、現状、その意義と潜在的な
影響力について、まだ十分には金融商品販売業者の間に浸透し理解されるに至 っていないようであるが、その理解が進むにつれて、アフターサービスの中核 とも言うべき横断的で包括的な金融 ADR 機関の創設にとって、大きなフォロー の風となるものと考えられる。(前述の、1981 年の英国保険オンブズマン制度創 設の経緯を想起されたい)
なお、「適合性原則」は「勧誘・販売時のみに適用されるルール」であり、契 約が長期にわたる投資商品の場合であったとしても、業者サイドとしては「売 ってしまえばその後のアフターケアは知ったことではない」という、金融商品 販売業者がしばしば陥りやすい誤解を即刻払拭する必要があることも、改めて 付言しておきたい。
このような法制の見直しの結果、金融商品販売者は、金融商品を売ることの みに専念し、アフターケアのことを考えなくてもよいというようなこれまでの 状況は、2007 年を境に一変すると思われる。
六.業者サイドの認識の根本的な見直し・転換が必要に
金融サービス業者と金融機関は、これまでとは異なり、個々の金融商品の特 質と特殊性に応じ、勧誘・販売対応時から始まって契約修了(金融商品の満期) までのすべての期間にわたって金融サービスの消費者に対するアフターケアの あり方に腐心し、「適合性の原則/ TCF 原則」と「受託者責任原則」に沿って全契 約期間にわたる同原則の適用、および実効的な紛争解決手段の提供等の面での 適切かつきめ細かいフォローを心がける必要が出てくると考えられる。
つまり、金融サービス業者と金融機関は、TCF 原則に基づいた情報提供や苦情 対応・紛争解決などの顧客対応に、それ相応の時間とコストを消費しなければな らない状態が今後常態となるのではないかということである。
欧州の例を見るにつけ、わが国における関連の新しい法制度整備・規制改革 の進展と軌を一にしつつ、それら市場インフラ整備の一環として今後早急に必 要となるのが、利用者にとって公平な立場で気軽に相談でき、公正な第三者が 運営する、横断的で包括的な紛争解決(ADR)機関であることは、まず間違いな いであろう。業者サイドの認識の、根本的かつ積極的な見直し・転換が期待さ れる所以である。
( 本稿は、筆者の現時点における個人的意見を基に独自に作成したものであり、 所属する団体の方針・見解と直接の関係はない。したがって、その公式な見解を 示すものではない)
参考文献:
1.犬飼重仁・田中圭子 編著 『日本版金融オンブズマンへの構想』(レクシスネクシス・ジャパン、
2007年11月)
2.楠本くに代 著 『日本版金融サービス・市場法・・・英国に学ぶ消費者保護のあり方』(東洋経
済新報社、2006年)
3.上村達男・神田秀樹・犬飼重仁 編著 『金融サービス市場法制のグランドデザイン』(東洋経
済新報社、2007年11月)