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第13回 交通事故・調査分析研究発表会 交通事故総合分析センター

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(1)

歩行者事故の特徴分析

石川 敏弘 要約

交通事故による死者数は、当事者の状態別に見ると平成 20 年から「歩行中」が最も多くなっており、 歩行者事故への対応がますます重要になっている。本報告では、典型的な3つの事故形態「夜間、右か らの歩行者に対する事故」「直線道路での飛出し事故」「右折時の事故」を取り上げ、それらをシミュレ ーションで再現し、運転者の視界や自動車と歩行者の距離を分析して問題点を明らかにした上で、その 対策を提案する。

1. 背景、目的

最近 10 年間の交通事故による死者数の推移を当事者の状態別に見ると、「自動車乗車中」は大幅に減 少しているのに対し、「歩行中」は余り減少しておらず平成 20 年からは死者数が最も多くなっている(図 1)。また、状態別に致死率を見ると、「歩行中」の致死率は交通事故全体のそれの約5倍と非常に高い(図 2)。従って、今後更に交通事故死者を減らしてくためには、歩行者事故への対策がますます重要となる。 そこで本報告では、交通事故統合データ(マクロデータ)及び事故例調査データ(ミクロデータ)の分 析により歩行者事故の特徴を明らかにした上で、それらの特徴を有する典型的な事故モデルをシミュレ ーションで再現することにより、問題点を明らかにし、その対策を提案していく。

図1.状態別死者数の推移 図2.状態別致死率の推移

2. 交通事故統合データ(マクロデータ)を用いた分析

平成 21 年の交通事故統合データ(マクロデータ)を用いて歩行者事故の特徴を分析していく。 図3に、交通事故に遭った歩行者の行動類型別の割合を、死亡、重傷、軽傷事故のそれぞれについて 示す。死亡事故では、「横断歩道外横断中」が約 50%で最も多く、「横断歩道横断中」が約 25%で続く。 両者を合わせた「横断中」が約 75%を占める。重傷、軽傷事故と傷害程度が軽くなるにつれて、「横断 歩道外横断中」の割合が減り、「横断歩道横断中」の割合が増える。「横断中」の割合は重傷事故で約 70%、 軽傷事故で約 60%を占める。

図4に、歩行者事故の第1当事者の当事者種別ごとの割合を、死亡、重傷、軽傷事故別に示す。死亡 事故では、「乗用車」が約 40%で最も多く、「軽乗用車」「貨物車」「軽貨物車」の順で続く。これらを合 わせた「自動車」で死亡事故の第1当事者の約 90%を占める。重傷、軽傷事故では、「乗用車」の割合 が増え「貨物車」「軽貨物車」の割合が減少するが、「自動車」が約 80%を占める。このように歩行者事 故の第1当事者の大部分は自動車であるため、以降は自動車と歩行者の事故について分析を進める。

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000

H12 H 13 H 14 H15 H 16 H 17 H18 H 19 H 20 H21

(

自動車乗車中 自動二輪乗車中

原付乗車中 自転車乗用中

歩行中

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

H12 H 13 H14 H 15 H16 H 17 H18 H 19 H 20 H21

自動車乗車中 自動二輪乗車中

原付乗車中 自転車乗用中

歩行中 交通事故全体

(2)

図3.歩行者の行動類型の割合 図4.第1当事者の種別ごとの割合

図5に、事故発生時間の昼夜の割合を、死亡、重傷、軽傷事故のそれぞれについて示す。図中の数字 は事故件数を示す。死亡事故は「夜」が約 70%を占めるが、重傷、軽傷事故では「昼」が 60%以上を占 める。図6に、自動車運転者の行動類型の割合を示す。死亡事故は「直進」が約 80%を占める。重傷、 軽傷事故でも「直進」が最も多いが、その割合は約 50%、約 30%に減少し、「右折」「後退」の割合が増 える。

図5.昼夜の割合 図6.自動車運転者の行動類型の割合

図7に、自動車運転者が歩行者に対して危険を感じた時の速度(以下、危険認知速度と呼ぶ)の累積 百分率を、死亡、重傷、軽傷事故のそれぞれについて示す。傷害程度ごとに各速度域の累積百分率を結 んだ線は、傷害程度が重くなるにつれて、高速側(右側)に寄っている。累積百分率が 50%を超える速 度は、死亡事故で 50km/h 以下、重傷事故で 20km/h 以下である。図8に、死傷事故に対する死亡事故の 割合である致死率を、危険認知速度ごとに求めた結果を示す。危険認知速度が 30km/h を超えると、致死 率は急激に上昇することがわかる。

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡 重傷 軽傷

その他 歩行者 自転車 原付 自動二輪 特殊車 軽貨物車 貨物車 軽乗用車 乗用車 0%

10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1,660件 9,951件 56,971件

死亡 重傷 軽傷

その他

路上遊戯、作業、停止中 対面通行中

背面通行中 横断歩道横断中 横断歩道外横断中

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡 重傷 軽傷

その他 後退 進路変更 右折 左折 直進 発進 0%

10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1,475 8,127 46,324

死亡 重傷 軽傷

(3)

図7.危険認知速度の累積百分率 図8.危険認知速度ごとの致死率

図9に、自動車が直進時の横断歩行者の横断方向(自動車から見て右から左、左から右と定義する) の割合を、死亡、重傷、軽傷事故別、昼夜別に示す。傷害程度によらず昼より夜の方が「右から左」の 割合が高い。また、傷害程度が重くなるにつれて、「右から左」の割合が高くなる。夜の死亡事故では「右 から左」が約 70%を占める。

図9.歩行者の横断方向の割合 図 10 に、自動車運転者の人的事故要因の

割合を、死亡、重傷、軽傷事故別に示す。 死亡事故では「脇見」「安全不確認」「考え 事、漫然運転等」が同程度で、かつ多い。 一方、重傷、軽傷事故では「安全不確認」 が最も多くなる。

図 10.自動車運転者の人的事故要因 0

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

10km/h以下 20km/h以下 30km/h以下 40km/h以下 50km/h以下 60km/h以下 70km/h以下 70km/h

死亡 重傷 軽傷

0 10 20 30 40 50 60 70

10km/h以下 20km/h以下 30km/h以下 40km/h以下 50km/h以下 60km/h以下 70km/h以下 70km/h

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡事故 重傷事故 軽傷事故

左から 右 右から 左 左 か ら 右

右 か ら 左

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡 重傷 軽傷

調査不能 居眠り 動静不注視 判断・操作不適 考え事、漫然運転等 安全不確認 脇見

(4)

図 11 に、歩行者の法令違反の有無の割合を、死亡、重傷、軽傷事故別に示す。死亡事故では「法令違 反あり」が約 60%あるが、傷害程度が軽くなるにつれて、「法令違反なし」が増え、軽傷事故では「法 令違反なし」が約 70%である。図 12 に、法令違反の内容を示す。死亡事故では「車両の直前直後横断」

「横断歩道外横断」「酩酊、徘徊、寝そべり等」の順で多い。重傷、軽傷事故では「飛出し」の割合が高 くなる。

図 11.歩行者の法令違反有無の割合 図 12.歩行者の法令違反の内容

図 13 に、歩行者の死者数、重傷者数、軽傷者数を、年齢別、男女別に示す。死者数は 75 歳以上が圧 倒的に多く、その中でも女性の割合が高い。傷害程度が軽くなるにつれて、75 歳未満の年齢層の人数が 多くなる。特に 12 歳以下の男子は軽傷者数が多い。

図 13.歩行者の年齢別死者数、重傷者数、軽傷者数 0%

10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡 重傷 軽傷

違反なし 調査不能 法令違反

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

死亡 重傷 軽傷

その他 飛出し

酩酊、徘徊、寝そべり等 横断禁止場所の横断 車両の直前直後横断 斜め横断

横断歩道外横断 通行区分違反 信号無視

0 100 200 300 400 500 600

6 7-12 13-15 16-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

6 7-12 13-15 16-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75

(

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000

6 7-12 13-15 16-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75

(

(5)

3. 事故例調査データ(ミクロデータ)を用いた分析

以降は、マクロデータでは分析できない項目について、ミクロデータを用いて分析を進める。

3-1.分析対象

表1に示すように、平成 10 年から 19 年までの 10 年間の歩行者事故のミクロデータは、死亡事故 70 件、重傷事故 108 件、軽傷事故 67 件があり、これらについて分析する。図7で示したマクロデータの危 険認知速度の累積百分率とミクロデータの衝突速度の累積百分率を、死亡、重傷、軽傷事故に分けて比 較した結果を図 14 に示す。各速度域の累積百分率を結んだ線は、マクロデータの危険認知速度もミクロ データの衝突速度も傷害程度が重くなるほど、高速側(右側)に寄る傾向は一致している。

以降の分析において、ミクロデータは死亡、重傷、軽傷事故を合わせて分析を行う。

表1.歩行者事故ミクロデータ件数

図 14.マクロデータの危険認知速度とミクロデータの衝突速度 3-2.自動車運転者の回避行動

図 15 に、自動車運転者の回避行動を「回避行動なし」「ブレーキのみで回避」「ハンドルのみで回避」

「ハンドルとブレーキで回避」「不明」に分け、その割合を示す。「回避行動なし」と「ブレーキのみで 回避」が同程度でそれぞれ約 40%を占める。図 16 に、直前速度から衝突速度を引いた減速量を大きさ 別に分け、その割合を示す。「5km/h 未満」とほとんど減速できていない調査例が約 60%を占める。この 割合が、図 15 の「回避行動なし」の約 40%より多くなったのは、ブレーキを踏んだ場合でも直前であ るため、歩行者との衝突までにほとんど減速できていない事例を含むためである。

図 15.自動車運転者の回避行動の割合 図 16.減速量の割合

死亡 重傷 軽傷

平成1 0 年 4 1 1 6 平成1 1 年 1 1 9 6

平成1 2 年 8 7 9

平成1 3 年 5 1 0 8 平成1 4 年 7 1 0 7 平成1 5 年 1 1 1 2 5 平成1 6 年 8 2 2 5

平成1 7 年 9 8 8

平成1 8 年 5 6 1 0 平成1 9 年 2 1 3 3

7 0 1 0 8 6 7

回避行 動なし 38.8%

ブ レー キ のみで

回避 40.8% ハンドル

のみで 回避

2.9%

ハンドル とブ レー キ で回避

17.1% 不明

0.4%

5k m/h 未満

57% 10k m/h

以下 17% 20k m/h

以下 12% 30k m/h

以下 4%

30k m /h 2%

不明 その他

8% 0

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

10km/h 20km/h 30km/h 40km/h 50km/h 60km/h 70km/h 80km/h 90km/h 100km/h 100km/h

死亡マ ク ロ 重傷マク ロ 軽傷マク ロ

死亡ミクロ 重傷ミク ロ 軽傷ミク ロ

(危険認知速度)

(衝突速度)

(6)

3-3.歩行者の横断タイミング

歩行者の横断タイミングを調べるため、ミクロデータの事故状況図等を分析して、歩行者の横断開始 位置、衝突位置から自車線進入時間、横断開始時間を求める。図 17 の式に示すように、自車線進入時間 は歩行者が自車線に進入してから衝突するまでの時間、横断開始時間は歩行者が横断を開始してから衝 突するまでの時間を表すものとする。歩行速度は、事故概要等に記載されている「歩行」「小走り」「早 足」「駆足」「飛出し」という言葉と歩行者の年齢から判断して、図 17 に示すように定義する。

図 17.自車線進入時間、横断開始時間の求め方

図 18 に、死亡、重傷、軽傷事故を合わせた「左から横断」する調査例 60 件における自車線進入時間、 横断開始時間の累積百分率を示す。自車線進入時間は 80%以上が衝突の2秒前以内である。この時点で 歩行者を認知して危険を判断し、衝突を回避することは非常に困難と考えられる。横断開始時間は 70% 以上が衝突の3秒前以内である。

図 19 に、「右から横断」する調査例 99 件における自車線進入時間、横断開始時間の累積百分率を示 す。自車線進入時間は左からの横断と同様、80%以上が衝突の 2 秒前以内である。一方、横断開始時間 は 70%以上が衝突の3秒前以上であり、衝突の 5 秒前以上も 50%以上ある。これは、右からの横断では ほとんどの場合、歩行者は対向車線を横断してくるため時間がかかることに起因している。言い換えれ ば、自動車運転者が対向車線の安全確認をしていれば十分衝突を回避できる余裕があると考えられる。

図 18.左から横断時の自車線進入、横断開始時間 図 19.右から横断時の自車線進入、横断開始時間 横断開始位置

衝突位置

横断開始位置 衝突位置

自車線

右から横断

左から横断

横断開始時間(s)= 自車線進入時間(s)

歩行速度

歩行速度

条件 歩行速度 m / s 歩行

3歳以下すべて 小走り 、早足 6歳以下、 7 5 歳以上の 駆足、 飛出し

駆足、 飛出し 3

1

2

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0.5s 1.0s 1.5s 2.0s 2.5s 3.0s 3.5s 4.0s 4.5s 5.0s 5.0s

(

)%

横断開始時間 自車線進入時間

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0.5s 1.0s 1.5s 2.0s 2.5s 3.0s 3.5s 4.0s 4.5s 5.0s 5.0s

(

)%

横断開始時間 自車線進入時間

(7)

4. 歩行者事故モデル検討

これまでのマクロデータ、ミクロデータの分析結果から明らかになった特徴を基に、表2に示すよう な歩行者事故3例(死亡事故モデル 1 例、重傷事故モデル2例)をシミュレーションで再現し、運転者 の視点で見たアニメーション及び自動車と歩行者の距離、角度の時系列データから問題点を抽出し、そ の対策を考える。

表2.歩行者事故モデル

4-1.死亡事故モデル

死亡事故として典型的な「夜間、片側1車線の直線路を運転者が 50km/h の速度で漫然と運転している 時に、歩行者が対向車両の通過直後、横断歩道外を自動車から見て右から左に安全確認不十分で横断し てきて、回避行動なく衝突する」事故をシミュレーションで再現する。歩行速度は平均的な速度として 1m/s とする(図 20 参照)。図 21 に、自動車と歩行者の距離、角度の定義を示す。図 22 に、死亡事故モ デルにおけるシミュレーション結果の時系列データを示す。シミュレーション開始0秒では自動車と歩 行者は 140m 離れており、その後 9.92 秒で衝突している。歩行者の横断開始はシミュレーション開始か ら 4.66 秒、自車線への進入は 8.64 秒である。前述の横断開始時間(歩行者が横断を開始してから衝突 するまでの時間)は 5.26 秒、自車線進入時間(歩行者が自車線に進入してから衝突するまでの時間)は 1.28 秒となる。また、歩行者が横断を開始してから約 1 秒間、歩行者は対向車の陰に隠れて自動車から は見えない。

分析項目 死亡事故モデ ル 重傷事故モデ ル1 重傷事故モデ ル2

歩行者の行動 横断中(75%)

第1当事者種別 自動車(90%)

事故発生時間 夜(70%)

運転者の行動 直進(80%) 直進(50%) 右折(25%)

危険認知速度 50k m/h以下(70%)

横断方向 右から 左(70%)

運転者の 人的事故要因

脇見/考え事、漫然運転等/安全 不確認(90%)

歩行者の法令違反

直前直後横断(25%) 横断歩道外横断(20%)

横断歩道外横断(20%) 飛出し(20%)

違反なし(50%)

運転者の減速量

自車線進入時間

横断開始時間 衝突の3秒前以上(70%以上)

横断中(70%) 自動車(80%) 昼(60%)

20k m/h以下(55%) 右から 左(45%) 左から 右(55%)

安全不確認(50%)

5k m/h未満(60%)

衝突の2秒前以内(80%以上)

右から 左:3秒前以上(70%以上) 左から 右:3秒前以内(70%以上)

(8)

図 20.事故状況図

図 21.自動車と歩行者の距離、角度 図 22.死亡事故モデルにおける自動車と歩行者との距離、角度

図 23 に、対向車が通過して歩行者が確認できる時点(シミュレーション開始から約 7.5 秒)での運転 者の視点から見た画像を示す。ここで自動車運転者の立場で問題点を考えると、以下3点が挙げられる。

① 夜間、交通が閑散していることに安心して速度を出し過ぎる。

② 対向車とのすれ違いがあり、ヘッドライトを下向きにしているため遠方が見えにくい。

③ 歩行者が対向車線上を右から横断してくるとは思っていないので注意が散漫である。 それらへの対応策としては、以下が考えられる。

① 夜間、交通閑散だからといって速度を出し過ぎない。

② 下向きライトでは遠方が見えにくいことを認識し、周囲を注意深く確認する。

③ 右から歩行者が横断してくるかもしれないと思い、そちらへの注意を高める。 以上が守られれば、この事故は防ぐことができると考える。

図 23.右からの横断歩行者出現シーン 歩行者と

の距離 歩行者と の角度

0 1 2 3 4 5 6 7 8

0 2 0 4 0 6 0 8 0 1 0 0 1 2 0 1 4 0 1 6 0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0

(

m)

時間 (秒)

歩行者との距離(m ) 歩行者との角度(度)

横断開始 4.66秒

自車線進入 8.64秒

衝突 9.92秒 対向車の陰

(9)

4-2.重傷事故モデル

重傷事故として直進時と右折時の2例を考える。

(1)直進

直進時の重傷事故として典型的な「昼間、運転者は左側に歩行者を認め、40km/h から 20km/h まで減 速したが、横断してこないと思い込み、安全確認不十分で走行中、歩行者が急に横断してきて回避でき ず衝突する」(モデル1)「昼間、運転者は渋滞車両を認め、40km/h から 20km/h まで減速したがそのま ま行けると思い込み、安全確認不十分で走行中、右の渋滞車両の陰から突然歩行者が飛び出してきて回 避できず衝突する」(モデル2)という2つの事故をシミュレーションで再現する。歩行速度は2つの事 故とも飛出しを想定し2m/s とする。(図 24 参照)

図 25 に、モデル2における自動車と歩行者の距離、角度の時系列データを例として示す。シミュレー ション開始0秒では自動車と歩行者は 100m 離れており、その後 14.98 秒で衝突している。歩行者の横断 開始はシミュレーション開始から 12.61 秒、自車線への進入は 14.59 秒であり、衝突するまでの横断開 始時間は 2.37 秒、衝突するまでの自車線進入時間は 0.39 秒となる。シミュレーション開始から 14 秒過 ぎまで歩行者は渋滞車両の陰で見えず、見えてから 1 秒以内で衝突している。

モデル1

モデル2

図 24.事故状況図

図 25.モデル2における自動車と歩行者との距離、角度

図 26、図 27 に、重傷事故モデル1,モデル2において歩行者が飛び出してきた瞬間の画像を示す。 ここでモデル1,モデル2それぞれにおいて自動車運転者の立場で問題点を考える。

モデル1:歩行者は横断を開始しないと思い込み、そのまま通過しようとしたため、急な飛び出しに対 応できない。

モデル2:渋滞車両の陰から歩行者は飛び出してこないと思い込み、そのまま通過しようとしたため、 歩行者が見えた時には対応できない。

それらの対応としては以下が考えられる。

モデル1:左側に横断しそうな歩行者がいたら徐行し、中央寄りを通過する。

モデル2:渋滞車両がいる場合は、その間から歩行者が飛び出してくるかもしれないと考え、注意をす るとともに左寄りを走行する。

以上が守られれば、これらの事故は防ぐことができると考える。

0 20 40 60 80 100 120

0 20 40 60 80 100 120

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

(

m)

時間 (秒)

歩行者との距離(m) 歩行者との角度(度)

横断開始 12.61秒

自車線進入14.59秒 衝突 14.98秒 渋滞車両の陰

(10)

図 26.左から歩行者飛出し(モデル1) 図 27.渋滞車両の陰から歩行者飛出し(モデル2)

(2)右折

右折時の重傷事故として典型的な「昼間、運転者は直進対向車に気を取られ、右折先の横断歩道の安 全確認を怠って走行し、歩行者は青信号で右折車に気づかず横断し、そのまま衝突する」という事故に おいて歩行者が左から横断する例と右から横断する例の2例をシミュレーションで再現する。自動車は 40km/h で走行してきて、右折待ちのため減速して交差点内で一旦停止し、対向直進車の通過後、発進し て、そのまま 20km/h で横断歩道を通過するように設定する。歩行速度は 1m/s とする。(図 28 参照)

図 28.事故状況図

図 29、図 30 に、それぞれ左から横断および右から横断における自動車運転者の前方視界で歩行者を 発見した直後の画像を示す。衝突直前であり、この時点からでは回避は困難である。2例とも問題点は、 対向直進車に気を取られ、前方のみを見ていて右折先の横断歩道上の安全確認を怠り、前方視界に歩行 者が出現した時には回避不可能となったことにある。対応策としては、頭を動かして右側を確認するこ とで事前に横断歩行者の横断を認知し、横断歩道の手前で一旦停止して歩行者の横断を待つことが必要 である。また、横断歩道で一旦停止できる余裕がなければ、右折を見合わせる判断も必要となる。

(11)

図 29.左から横断時の運転者の前方視界 図 30.右から横断時の運転者の前方視界

図 31 に、右からの歩行者が横断を開始した時点での運転者の前方視界と運転者が右を確認した時の視 界(右側視界)を示す。このように右側視界では右折待ちの状況で横断歩行者を確認できるので、運転 者は、右折の判断や横断歩道手前での停止の判断を余裕を持って行うことができる。

前方視界 右側視界

図 31.歩行者が右から横断開始した時点の運転者の前方および右側の視界

図 32 に、右からの横断歩行者と衝突 することなく横断歩道を通過した際の、 自動車と歩行者との距離、角度の時系 列データを示す。歩行者の横断開始は シミュレーション開始から 9.51 秒、自 車線への進入は 13.68 秒、歩行者の横 断完了は 17.36 秒である。前方視界で は運転者は、歩行者が自車線に進入し た直後にしか確認できないが、右側視 界では右折待ちの間に歩行者を十分確 認することができる。

図 32.右からの横断成功時の自動車と歩行者の距離、角度 -150 -100 -50 0 50 100 150

0 20 40 60 80 100 120

0 1 2 3 4 5 6 7 8 910 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

時間 (秒)

歩行者との距離( m) 歩行者との角度(度)

横断開始 9.51秒

自車線進入 13.68秒

横断完了 17.36秒 前方で歩行者確認 右側で歩行者確認

右折待ち

横断待ち

(12)

5. まとめ

(1) マクロデータを基に分析した歩行者事故の特徴は、以下のとおりである。

・ 歩行者が横断中の事故が、死亡事故の約 75%、重傷事故の約 70%、軽傷事故の約 60%を占める。

・ 第1当事者の種別の割合は、自動車が死亡事故の約90%、重傷および軽傷事故の約80%を占める。

・ 死亡事故は約 70%が夜に発生する。一方、重傷、軽傷事故では 60%以上が昼に発生する。

・ 自動車運転者の行動類型は、死亡事故では「直進」が約 80%を占める。重傷、軽傷事故でも「直進」 が最も多いが、その割合は減少し、「右折」「後退」の割合が増える。

・ 危険認知速度が 30km/h を超えると、致死率が上昇する。

・ 夜の死亡事故では、右から左への横断が約 70%を占める。

・ 自動車運転者の人的事故要因は、死亡事故では「脇見」「安全不確認」「考え事、漫然運転等」がほ ぼ同等で多いが、重傷、軽傷事故では「安全不確認」が最も多くなる。

・ 歩行者の法令違反は、死亡事故では「車両の直前直後横断」「横断歩道外横断」「酩酊、徘徊、寝そ べり等」が多く、重傷、軽傷事故では「飛出し」が多くなる。

・ 歩行者の死者数は 75 歳以上が圧倒的に多いが、軽傷者数は 12 歳以下が多くなる。

(2) ミクロデータを基に分析した運転者の回避行動、歩行者の横断タイミングは以下のとおりである。

・ 自動車運転者の回避行動は「回避行動なし」が約 40%で、ほとんど減速できない割合が約 60%であ る。

・ 横断方向に関わらず、自車線進入時間は 80%以上が衝突の2秒前以内である。一方、横断開始時間 は右からの横断では 70%以上が衝突の3秒前以上で5秒前以上も 50%以上ある。

(3) 歩行者事故のモデル検討により運転者の視界から問題点を抽出し、その対応を示す。(表3参照)

表3.歩行者事故における自動車運転者の問題点と対応

交通閑散で速度超過 下向きライトで遠方見にくい 右から 歩行者は来ない

制限速度を守る 周囲を十分確認 右からの歩行者も注意 横断開始時には回避困難

見えた時には回避困難

横断しそうな人を見たら 徐行 見通しの悪いとこ ろでは徐行 前方だけ見ていたら歩行者

に気づいた時には回避困難

頭を動かして横断歩行者を確認 す ぐ止ま れる速度で走行 夜間、

右から歩行者

飛出し

右折時

事故例 問題点 対応策

図 11 に、歩行者の法令違反の有無の割合を、死亡、重傷、軽傷事故別に示す。死亡事故では「法令違 反あり」が約 60%あるが、傷害程度が軽くなるにつれて、 「法令違反なし」が増え、軽傷事故では「法 令違反なし」が約 70%である。図 12 に、法令違反の内容を示す。死亡事故では「車両の直前直後横断」 「横断歩道外横断」 「酩酊、徘徊、寝そべり等」の順で多い。重傷、軽傷事故では「飛出し」の割合が高 くなる。 図 11.歩行者の法令違反有無の割合 図 12.歩行者の法令違反の内容 図 13 に、歩行者の死者数、

参照

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