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ヴォルガ河畔で世界を理解する想像力を鍛えよ

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Academic year: 2017

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ヴォルガ河畔で世界を理解する想像力を鍛えよ

スラブ研究センター・大学院文学研究科 准教授

長縄

ながなわ

宣博

の り ひ ろ

専門分野 : ロシア史, イスラーム地域研究 研究のキーワード : 歴史,地域,帝国,多民族,多宗教 HP アドレス : http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/

ロシアの何がおもしろいのですか?

こんにちのロシアは、多民族・多宗教の共存を誇りとしています。実際ロシアには、180 以上の民族が住んでいます。またロシアでは、世界宗教のすべてが実践されています。ロ シア正教会を中心とするキリスト教徒を筆頭に、イスラーム教徒、ユダヤ教徒、そして仏 教徒までいます。さらに、ロシアはユーラシア大陸の北部から中央部を占めていますので、 ヨーロッパ、中東、中央アジアを隔てて南アジア、そして東アジアに隣接しています。こ うした全方位的な相互作用を視野に入れなければ、ロシアを理解することはできません。

つまり、ロシアを考えることは世界を考えることに等しいのです。スラブ研究センター は、旧ソ連・東欧に当たる広大な空間にスタッフそれぞれが拠点を構えて、世界の過去・ 現在・未来を思索する地域研究の世界屈指の研究所です。

私が世界を考える入り口として選んだのは、ロシアの人口の1割強を占めるイスラーム 教徒、とくにヴォルガ中流域からウラル山脈南部に住むタタール人とバシキール人の歴史 です。ロシアとイスラームといえば、チェチェンの戦争や宗教に名を借りた絶え間ないテ ロを思い出す人が多いかもしれません。またそういった事件のたびに、イスラーム教は本 来、異教徒に寛容な宗教なのですという解説をよく 聞きます。しかし、それだけで十分でしょうか。私 たちに必要なのは、差異を際立たせることでも、差 異に寛容なそぶりをみせることでもなく、多様な出 自の人々が現実の生活でどのような関係を結んで暮 らしているのかに考えを至らせる想像力です。ロシ アのイスラーム教徒の生活について知ることは、異 文化理解の想像力を鍛える上で大変有益なのです。

どのように研究するのですか?

2001年9月11日、ロシアのタタルスタン共和国の首都カザンでアメリカ同時多発テロ事 件を知り、その後二年半、ヴォルガ河畔から南ウラル地方を旅した私は、ロシアのイスラー ム社会の内側から世界を眺めることの面白さを体感しました。それを大きな契機に、世界 秩序、ロシア国家、その一部を構成するイスラーム社会という三層構造で、奥行きの深い ロシアの歴史をさらに豊かに読み解く仕事に取り組んでいます。

出身高校:徳島県立富岡東高校 最終学歴:東京大学大学院総合文化研究科

歴史/社会

メッカ巡礼するタタール人。

ロシアからは近年2万人を超える人々がメッカを訪れる。

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とくに私が注目してきたのは、ロシア正教会を国教としていたロシア帝国が、イスラー ム教徒を安定的に統合していた仕組みです。ロシアには世界宗教がすべて存在すると書き ましたが、ロシア帝国はそのそれぞれについて各信徒の生活を同信者に監督させる制度を 持っていました。イスラーム教徒に対してこの制度が最初に導入されたのは1788年のこと です。宗務局とよばれるこの組織は、ソ連時代を経て今日まで存在しています。もちろん、 ロシアは多宗教共存の理想郷ではありません。ある特定の人々を公認して統治に役立てる ということは、それ以外の人々を切り捨てることと表裏一体です。ここにロシア国家とイ スラーム教徒がともに抱える困難があるわけです。

歴史を勉強するためには、対象とする時代の人々が書いたものを直に読まなければなり ません。そのために歴史研究者は、現地の言葉を習得して資料を収集します。ではその資 料の束からどうすれば、他の誰も言ったことのない心躍る情報を抽出できるのでしょうか。

もちろんまずは、他の誰も言ったことがないということを本や論文をたくさん読んで調 べなければなりません。ですが、もう一歩先を目指すのであれば、今、生きている現地の 人々の声に耳を傾け、現代世界に生起している様々な事象に目を凝らすことです。現地の 人々と暮らしをともにし、そこで知った今日的な問題と自分の研究課題を対話させるので す。このような双方向的な姿勢で、個別の地域と世界を連結させ、具体的な地域だけでな く世界の過去・現在・未来について発言しようとするのが地域研究者なのです。

次に何を目指しますか?

ロシア革命・内戦を闘い、ソ連初期の中東外交を担ったある一人のタタール人革命家兼 外交官の伝記を書きたいと考えています。私たちは、「アラブの春」と名付けられ、民主主 義という輝かしい理想の下で正当化される過剰な暴力の連鎖を目の当たりにしました。こ うした暴力は、アメリカやEUが抑圧された人々を解放するために必要だったのでしょう か。また、現地の人々にとって民主主義とは何を意味しているのでしょうか。100年前に は社会主義革命も民主主義の実現を目指していたのですから、その歴史を見直すことは、 私たちが同じ轍を踏んでいるのか否かを点検するとてもよい機会になると思います。

参考書

(1) 『講座 スラブ・ユーラシア学』全3巻,講談社(2008

(上)『バヤン・ウルハック

(真実の表明)』(カザン)

(右)『ワクト(時)』

(オレンブルグ) ダゲスタン共和国南部のデルベントにて

20世紀初頭の タタール語の新聞。

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参照

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