状況を変える言葉の力を様相論理で捉える

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状況を変える言葉の力を様相論理で捉える

大学院文学研究科 教授

山田

やまだ

と も

ゆ き

(文学部人文科学科)

専門分野 : 言語の哲学,心の哲学,行為の哲学

研究のキーワード : 意味,言語行為,動的義務論理,論理学,コミュニケーション

HP アドレス : http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~k15696/home/yamada/yamada.html

何を目指しているのですか

私は、言語行為について研究しています。何かを言うことは、それだけでも行為である

と言えますが、何かを言うことは通常の場合同時に、人に何かを約束したり、命令したり、

質問したり、言質を与えたりする効力を持ちます。また、さらにそのことにより、人を安

心させたり、決意させたり、何かを知らせたりすることもできます。

これはありふれた日常的な事柄だと言えますが、そのありふれた事柄に注目が集まった

のは、20世紀になってからのことです。それまで哲学者たちは、主として真偽が問題にな

る言明や陳述のような、限られた種類の発話について分析してきました。それは、さまざ

まな学問が探究する真理の内容を表現するのが、このような発言に使われる文だからです。

しかし、そのような文ばかりに注目することで、言葉の果たす役割、機能の多様性が見失

われ、事実を記述することが言葉の唯一の働きであるかのようにみなす傾向が生まれまし

た。この傾向に反旗を翻したのが、オーストリアの哲学者ウィトゲンシュタインであり、

言語行為の多様性を正面からとらえようとする言語行為の理論を創始したのが英国の哲学

者オースティンです。私は、論理学を応用することにより、オースティンの理論を現代的

な形で定式化しなおすことを目指しています。

どんな方法で研究しているのですか

オースティンの言語行為の理論では、本気で何かを言う行為を発語行為と呼び、何かを

言うことにより人の考えや行動に実際に影響を与える行為を発語媒介行為と呼びますが、

約束、命令、忠告、勧告、言明、報告、証言等々の、いわば社会的な慣習的効力を持つ行

為は、そのどちらからも区別されて発語内行為と呼ばれます。たとえばある取引を打ち切

るように上役から命令されたにもかかわらず、あなたが取引を続けたとしたら、あなたは

上役の命令に違反したことになります。この時、あなたに取引を打ち切らせること(発語

媒介行為)に上役は失敗したことになりますが、命令(発語内行為)は有効です。もし相

手が従わなかった場合に命令が無効になるとしたら、命令違反という事態は成立しえな

かったはずです。命令違反が成立することは、命令が有効であることを示します。しかし

取引の打ち切りを決意させることや取引を打ち切らせることには失敗しているのですから、

この場合命令が有効だと言っても、そもそもどんな効果が達成されているのでしょうか。

それは、発語媒介行為の効果とは違う次元で成立する効果、取引を打ち切ることを義務

づけるという効果とみなすことができます。義務の静的分布は、義務論理という論理体系 出身高校:神奈川県立希望ヶ丘高校 最終学歴:東京大学大学院人文科学研究科 こころ/情報/世界認識

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によってとらえることができます。しかし伝統的な義務論理は、義務の変化を扱うことが

できませんでした。20世紀末になって、認識論理という別の種類の論理に、情報伝達のも

たらす知識の変化を扱う手法が導入されて動的認識論理が成立しました。私は、同様の手

法を義務論理に取り入れて動的義務論理を定式化しました。次の左の図はこの論理のモデ

ルで、pを成り立たせよという上役の指令が状況を変化させる場面を図示したものです。

部下aに対する許容を表す点線の矢印が右ではpの成り立つ状態にだけ届いています。

この動的義務論理をさらに精緻化した体系では、指令と約束という二種類の発語内行為

の効果の違いをとらえることができます。また、同様の手法を他の種類の様相論理の体系

に応用することも可能です。たとえば、主張、譲歩、およびそれらの取り消しを扱うこと

のできる動的論理や、命令と依頼行為の違いを捉えることのできる論理などがすでに定式

化できています。これらの成果は上の右の写真の論文集や雑誌で海外に発表されています。

次に何を目指しますか

これまでの研究では、言語行為の成否を左右する様々な条件が満たされていることを仮

定するという、一種の理想化に基づいて、比較的単純な論理体系を基礎にして動的論理を

構築してきました。これらの論理体系については、従来からいくつかの難点が指摘されて

いますので、次の目標の一つは、それらの難点を取り除いた、少し複雑な体系を基礎に、

動的論理を構築しなおすことです。もう一つは、このように論理学を応用して再定式化し

たオースティンの言語行為の理論から、言語哲学に対してどのようなインパクトがもたら

されるのかを探究することです。

参考書

(1) 野本和幸・山田友幸編,『言語哲学を学ぶ人のために』,世界思想社(2002)

(2) 山田友幸著,「社会的コミュニケーションの論理的ダイナミクス」,『科学哲学』,第41

巻2号,日本科学哲学会,pp.59-73(2008)

(3)J. L. オースティン著,坂本百大訳,『言語と行為』,大修館書店(1978)

(4) ジョン・R・サール著,山田友幸監訳,『表現と意味』,誠信書房(2006)

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参照

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