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ROBERT P. MERGES 著『 JUSTIFYING INTELLECTUAL PROPERTY』

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2012.11.13. no.267

書籍紹介

ROBERT P.MERGES 著 HARVARD UNIVERSITY  PRESS 刊

『JUSTIFYING

INTELLECTUAL

PROPERTY』

 発明を特許権により保護する理由は何であろうか。特許 法は発明の保護による産業の発達を目的に据える。しかし ながら、特許権による発明の保護が産業の発達に結びつく ことは証明されているのであろうか。もし、そうでないと したら、特許制度の意義は何に求めるべきであろうか。   本書は、このような問い、すなわち知的財産の正当化理 由に、米国における Law & Economics の第一人者であるカ リフォルニア大学バークレー校のマージス教授が真正面か ら取り組んだものである。

 知的財産の現在の正当化理由の主流は、マージスが述べ るように、功利主義に基づくものであり、その立証プロセ スは、伝統的な功利主義の定式化である「最大多数の最大 幸福の実現」を前提としている。しかしながら、マージス は「法と経済学の研究者は、この分野において、効率性に 基礎づけられた功利主義的な正当化を行うことが決してで きなかった」、「それを実現することの私の失敗、そしてこ の失敗によって開かれた道が、この本を書かせたのである」 として、功利主義に基づく正当化理由構築の限界を認め、 それに代わるものとして、財産に関する伝統的な哲学思想 に立ち戻り、知的財産の正当化理由の再構築を試みる。  マージスは、先ず、知的財産の権利性についての考察を 行 う(Is IP "Really" Property? )。 私 的 財 産(private property)の最も重要なコアとなる原理は、個人に対して、 個人の資産へのコントロールを割り当てることにあり、こ の原理は、それが有体物の資産と同様に、無体物に対して も意味を持つことを基礎にして、知的財産が権利であるこ とを論証する。その上で(1)ジョン・ロックの所有の理論、 (2)イマニュエル・カントのリベラルな個人主義、(3)ジョ

ン・ロールズの正義に基づく財産に関する分配論を用いて 知的財産の正当化理由の基盤の構築を行う。

 ロックの所有の理論とは、「物に対する労働の適用」を

所有の基礎とする有名な労働理論であるが、マージスが、 この理論の主題は「労働それ自体」にあることを重視する ことにより、ロックの労働理論の知的財産への適用に改め て門戸を開いたことは極めて意義深い。

 また、カントの思想は、マージスに、「カントの概念的 なアプローチはこの分野で私を長らく苦しめ混乱させてき た多くの疑問への驚異的な手がかりと洞察を与えてくれ た」と言わしめるほどの大きな影響を与えた。マージスが、 カントの「所有の概念は人類の自由の中核をなすものであ る」との思想に着目して知的財産と創作者の自由との関係 について論じたことは、知的財産の正当化理由に「創作者 に対する自由の創生機能」という普遍的な力強いロジック を提供したものと言える。

 そして、マージスは、ロックとカントの思想を基礎とし て、知的財産における個人の所有と第三者及び社会の利益 とのバランスのあり方について、ロールズの財産と分配の 正義の思想を適用することにより、正当化理由の完成度を 高めていく。

 マージスは、以上のような正当化理由の構築作業と併せ て、制度を現実に運用する際の原則として機能する「中間 レベルの原則」(Midlevel Principles of IP Law)を提唱す る。これは、4 つの原則、“Efficiency”、“Nonremoval”、 “Proportionality”、“Dignity”から成り、正当化理由とは

異なるものの、知的財産制度の在り方について多様な考え 方を持つ者が制度の実践を論じるための共通の枠組みとし ての役割を果たす。正当化理由と中間レベルの原則との機 能の分離を通じて、制度上の重要な諸概念の体系化が図ら れたものと考える。

 本書では、さらに、デジタル化社会における自由な情報 流通に対する知的財産による制約に関する問題や医薬特許 の途上国に対する倫理問題といった知的財産における重要 な現代的課題に取り組み、その解決に向けての具体的なア イディアを提唱し、それまでの哲学的検討手法の有効性を 実証する。

 本書により、知的財産が正当化理由として、ロック、カ ント、ロールズ等の思想家による「所有」、「自由」、「正義」 等の普遍的な基礎を得たことは、功利主義による立証の限 界を打ち破ることに加えて、知的財産制度を専門家の閉じ た世界から解き放ち、普遍的な制度として定着させること に大きく貢献するであろう。筆者は、本著が知的財産の歴 史に残る名著になることを確信しているが、それよりも何 よりも、知的財産に対する逆風に対して敢然と立ち向かい、 新たな世界を切り開いたマージスのガッツとチャレンジ精 神に心から敬意を表したい。本書が邦訳され、我が国に広 く紹介されることを期待する。

参照

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