労働経済学 第 10 回
広島大学国際協力研究科 川田恵介
1 Unemployment benefits
失業給付: 失業期間中に受けることのできる給付 国際比較の指標:
Replacement rates: 失業前の賃金に対する失業給付額の割合。 APW: 平均賃金
国家間比較:
図1: Replacement rates
図2: Replacement rates for family types
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2 理論モデル
失業給付: 失業状態にある労働者はb だけの給付を受け取る。税源は企業への課税 τ で賄われる。 生産構造: 企業は一人の労働者のみを雇用する。労働者の生産性y は確率変数であるとし、12 の確率で
yH(> 0)、12 の確率でyL(< 0) となる。
タイミング: 硬直的賃金を仮定する。 Step 1: 企業によって賃金が提示される。 Step 2: 企業の生産量が実現する。
Step 3: 解雇自由なケースにおいて、解雇するか否かを決める。解雇した場合企業の利潤は0、継続雇用 する場合企業の利潤はy − τ − w となる。就業者の所得は w, 失業者の所得は b となる。
2.1 リスク中立な場合
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2.2 リスク回避的な場合
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2.3 モラルハザードの発生
労働者就業しなかった場合、余暇からの効用m を得ることができる。政府は、労働者が失業したのか、 それともそもそも職探しをしていないのか、識別ができないとする。
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2.4 サーチモデル
労働者は毎期賃金オファーを受けるとする。賃金オファーは分布関数F(w) に従うとし、労働者はその 賃金で働くか、職探しを継続するか決定する。
留保賃金: この賃金以上の賃金オファーを受けると、職探しを停止する。
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3 実証研究
長期失業者:Figure 3 に、失業給付の給付期間と長期失業者の割合の関係を示している。
図3: 給付期間と長期失業者 (Boeri, Layard, and Nickell 2001 より)
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失業率への影響:
マクロデータ: 多くの実証研究において、失業給付の充実が失業期間を増大させることを確認している。 (例:Layard, Nikel, and Jackman 1991:OECD 諸国について、10パーセントの失業給の増大は、失 業率を1.7 パーセント増大する。)
ミクロデータ: 多くの実証研究において失業給付の充実が、留保賃金を引き上げることを確認しているが、 マクロデータを用いた分析よりも効果は小さい。(例:Narendranathan, Nickell, and Starn (1985): イギリスにおいて失業給付の1パーセントの増加は、失業期間を0.08 パーセント増加させる、Van den Berg (1990):オランダにおいて10パーセントの失業給付の増加は、失業期間を1週間増加させ る)。とくに失業給付の受給期間の増大が、失業期間に与える影響が大きい。Figure 4 はスロベニア において行われた、失業給付の給付期間を12週間から6週間に短縮したことの、就業率に与えた影 響を示している。
図4: 給付期間変更の影響
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