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組織学会|組織科学:バックナンバー

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25

  特集/多様性とリーダーシップ

グローバル・リーダーに求められる行動特性・

育成方法・効果測定

――海外文献研究から読み取る研究課題の推移と展望――

  筑波大学グローバル人材開発リサーチユニット1)

  永井 裕久(筑波大学大学院 ビジネスサイエンス系 教授・

       附属学校 教育局 教育長特命補佐)

  キャロライン F. ベントン(筑波大学 国際担当 副学長・

       大学院 ビジネスサイエンス系 教授)

  椿  広計(統計センター 理事長)

  木野 泰伸(筑波大学大学院 ビジネスサイエンス系 准教授)

  キーワード

グローバル・リーダーシップ,コンピテンシー,異文化経験,グローバル・リーダー育成,研修効果測定

Ⅰ.はじめに

この 10 年間ほど,国内外において,グローバ ル・リーダーシップに関する相当数の学術研究論 文や実務への適用に関する報告書が刊行されてい る.学術論文検索サイトに“Global Leadership” というキーワードを入力すると,2006 年以降, ビジネス分野だけで 78,000 件以上,関連領域で あ る 経 済 学 や 教 育 学, 政 治 学 を 含 め る と,

186,000 件以上の学術雑誌が掲示される. また,近年,グローバル・リーダーの属性(国 籍,性別,年齢,職種等)が多様化していること から,今後,ますます研究課題の拡大と研究対象 の細分化の進展が予想される.

グローバル・リーダー研究自体,比較的新しい 課題であり,1990 年代以降,多国籍企業の海外 事業展開の進展に伴い,グローバル経営戦略を実 践する経営管理者を育成するために急速に発展し た 経 緯 が あ る(Black, Morrison & Gregersen,

1999).

グローバル・リーダーシップ研究を時系列的な 発展過程に照らし合わせて分類すると,テーマ間 で時間的な重複はあるものの,大凡の目安とし て,Ⅰ期:グローバル・リーダーに求められる行 動特性や個人的特徴(1990 ~),Ⅱ期:グローバ ル・リーダーの育成方法(2005 ~),Ⅲ期:グロ ーバル・リーダーシップの測定尺度と効果検証 (2009 年~)に分類される.

Ⅰ期:グローバル・リーダーに求められる行動 特性に関して,リーダーシップの特性理論にもと づく観点から数多くの探索的研究がなされてい る.この時期の研究成果については,Joniken (2005)に詳細がまとめられている.

Ⅱ期:グローバル・リーダーの育成に関する理 論的背景に関して,「社会学習理論」や「学習行 動理論」にもとづく分析モデル開発が進められ た.その後,育成モデルの構造化(McDonnell, Lamare, Gunnigle, & Lavelle, 2010),さらには, 育成を促進するための組織環境の条件(Caldwell,

変化の激しいグローバル環境において,潜在能力の高いグロ ーバル・リーダーの探索,育成,効果測定は,各国研究者にと って重要かつ緊急な研究課題である.本稿では,海外文献研究 を通して,Ⅰ期:グローバル・リーダーに求められる行動特性 や個人的特徴(1990~),Ⅱ期:グローバル・リーダーの育成

方法(2005~),Ⅲ期:グローバル・リーダーシップの測定尺

度効果検証(2009年~)3期の研究フェーズを概観し,今後

(2)

2015)へと発展している.

Ⅲ期:グローバル・リーダーシップ測定につい ては,研究活動の初期段階からコンピテンシー測 定尺度の研究開発が開始されている(Mendenhall,

2006).さらに時を経るに従い,複数の尺度間の 検証と統合(Bucker & Poutsma, 2010),効果に 影 響 を 与 え る 要 因 分 析(Caliuri & Tarique,

2012), グローバル・リーダーシップ研修プログ ラム自体の効果測定(Herd, Alagaraja &

Cum-berland, 2015)へ,基礎から応用へと研究対象が 移行している.

本論文では,上記Ⅰ~Ⅲ期にわたる海外のグロ ーバル・リーダーシップに関する先行研究の潮流 を包括的に概観し,今後のグローバル・リーダー 育成に向けて得られる示唆を整理する.なお,国 内にも優れたグローバル・リーダーシップに関す る多くの先行研究が存在するが,筆者らの研究を 含め,日本人グローバル・リーダー育成に主眼が 置かれているように思われる.これらは,国際比 較研究として非常に興味深い研究課題ではある が,本稿では,先行研究の引用を海外文献に絞 り,グローバル・リーダーシップ研究自体の基準 線を辿り,今後の研究課題の導出を試みる.

Ⅱ.リーダーシップとグローバル・リーダー

シップ

最初に,リーダーシップとグローバル・リーダ ーシップの関係について触れておきたい.一般的 に,リーダーシップは,「フォロワーに対する影 響力行使の構造と類型化,その過程および成果に 関する一連の行動メカニズムを説明する概念」と いえる.

その意味において,グローバル・リーダーシッ プもリーダーシップの一部であることには変わり はない.しかしながら,グローバル・リーダーシ ップでは,リーダーの地理的な活動範囲が国内か ら海外に拡大し,それに伴う環境条件の変化,と りわけ対人関係における文化的背景の多様化にと もなう能力発揮の規定要素が増大するといえる. 具体的なグローバル・リーダーシップの規定要

素として,Reiche, Mendenhall, Bird, Osland (2013)は,以下の①「複雑性(Complexity)」, ②「流動性(Flow)」,③「存在(Presence)」の

3 点を挙げている.

① 「複雑性」とは,グローバル・リーダーが 活動する多様な地理的市場,多機能活動(例:複 数国における操業),文化的,社会政治環境を意 味し,国内リーダーに比べて,役割の多様化と異 文化環境への適合が求められる.

② 「流動性」とは,グローバル環境の中に存 在する文化,言語,宗教,教育,政治および法制 度間に存在する垣根について,グローバル・リー ダーには,これらを超えて知識や情報を結びつけ る流動性を創り出す能力が求められる.

③ 「存在」とは,時空間次元を意味し,グロ ーバル・リーダーには,地理的,文化的,国間の 物理的な移動が求められる.

このように,グローバル・リーダーには,国内 のリーダーに比べて,より複雑かつ多様な制約条 件の中で,経営資源を最適活用することにより, 成果を上げることが期待されるといえる.

Ⅲ.Ⅰ期:グローバル・リーダーに求められ

る行動特性や個人的特徴(1990 ~)

1990 年代前半,ビジネス活動のグローバル化 の進展にともない,多国籍企業における異文化マ ネジメントに対応できるマネジャーに対する需要 の急速な高まりが,グローバル・リーダーシップ 研究の推進要因とされている.

初期のグローバル・リーダーシップの行動特性 研究は,コンサルタントによる国際企業を対象と したグローバル・リーダーシップ・コンピテンシ ーの個別調査から開始された.その後,研究者に よる量的データにもとづく企業横断的なコンピテ ンシーリストの作成に向けた探索研究へと研究目 的が移行した(Morrison, 2000).

(3)

ーリスト作成を組織全体に適用することへの限界 が示されたことが挙げられる.

2000 年代に入ると,学術的視点から,研究者 によるグローバル・リーダーシップの構成概念, その構成要素となるコンピテンシー探索に向けた 実証研究が進展した.例えば,初期のコンピテン シー研究の成果として,Mendenhall & Osland (2002)は,53 コンピテンシーを 6 領域のコンピ テンシー(①関係性,②気質,③ビジネス専門 性,④認知,⑤組織内専門性,⑥ビジョニング) に分類している.

当初,量的データにもとづく研究では,いわゆ る“one

-

size

-

fits

-

all”(一つのサイズで全てのサ イズに対応)リストの作成が目標であった.これ は,当然のことながら,グローバル企業全体に汎 用性のあるコンピテンシーを開発することによ り,グループ企業内において,採用,配置,評 価,昇格等の人事制度に連動した統一基準として コンピテンシーを活用することによるコスト削減 や客観性を高めるためであった.

さらに,Joniken(2005)は,コンピテンシー の先行研究を通した構造化を試みており,3 つの 中心的コンピテンシー(Ⅰ.自己認識,Ⅱ.個人 的変革への関与,Ⅲ.探求心),3 つの行動コン ピテンシー(①社会的スキル,②ネットワークス キル,③知識)に加え,グローバル・リーダーに 求められる 7 つのメンタル特性(a.楽観性,b. 自己統制,c.自己判断スキル,d.共感,e.国 際的な環境における就業への動機づけ,f.認知 的スキル,g.多様性と背反性の受容)の存在を 明らかにしている.

しかしながら,Black, Morisson, & Gregersen (1999)によれば,グローバル・リーダーの行動 特性の約 3 分の 2 には,国際的な汎用性はある が,残り 3 分の 1 は,地域・国に固有であり,現 地の文化や社会慣習に根差しているとしている. このことから,3 分の 1 の部分に,現地におけ る国際経営の成功に必要となる重要な行動特性が 含まれることが推察される.

例えば,アメリカを拠点に活動するグローバ ル・マネジャーには,個人裁量にもとづいて職務

責任を果たすことが重要なコンピテンシーである のに対し,日本で勤務するグローバル・マネジャ ーには,チームワークにもとづく成果を導き出す ためのチームビルディング・コンピテンシーが重 要であると考えられる.このため,グローバル・ リーダーシップのメンバーとの関係性の部分につ いて,日米間において,“one

-

size

-

fits

-

all(既成)” モデルではなく,“custom

-

made(あつらえ)”モ デルで運用することが適切であるといえる.

この環境条件にもとづく行動特性から,これ以 降,グローバル・リーダーにとって,勤務地に応 じたリーダーシップ・コンピテンシーの「グロー バル領域(汎用部分)」と「ローカル領域(個別 部分)」の見極めができるメタ認知(客観的に, 周囲環境の中から複数の情報を分析し,置かれた 状況を認知して,適切な行動を発揮できる能力) をもつことが重要であることが認知されはじめ た.

その後のグローバル・リーダーシップにおける 文化的特性を反映した「ローカル領域」の探索の 重 要 な 研 究 の 一 つ は,House, Hanges, Javidan, Dorfman, & Gupta(2004)による GLOBE(Glob-al Leadership and OrganizationGLOBE(Glob-al Behavior Ef-fectiveness)であろう.

GLOBE の前提は,地域社会や組織がもつ規範 や価値観にもとづき,リーダーシップが発揮され るというものである.62 か国・17,300 名のミド ルマネジャーから収集したサンプルにもとづき, 調査対象国を 10 の文化圏クラスター(アング ロ,ゲルマン,ラテンヨーロッパ,アフリカ,東 ヨーロッパ,中東,儒教,東南アジア,ラテンア メリカ,北欧)に分類している.また,探索的に 導出した 112 のリーダー特性を 6 種類のリーダー シップ・スタイル(①業績志向型,②チーム志向 型,③参加型,④人間型,⑤自律型,⑥自己防衛 型)に分類し,上述の文化的クラスターとの組合 せから,各文化圏に適合したリーダーシップ・ス タイルを提示している(図表 1).

(4)

人権に対する配慮の重要性が挙げられる.例え ば,国連の働きかけにより 2007 年に刊行された PRME(the six Principles for Responsible Man-agement Education)では,グローバル活動にお ける 6 つの原理(①目的,②価値,③方法,④研 究目的の優先性,⑤パートナーシップ,⑥対話) を挙げている.その目的は,グローバル活動に付 随して生じる雇用と労働者の権利,環境保護,不 正行為の防止を保護するということである.そし て,これらの 6 つの倫理的要素をグローバル人材 のコンピテンシーの要素として取り入れることを 提唱している.

こうした倫理的要素を取り込んだグローバル・ リーダー教育を通して育成すべき資質として,① リーダーの倫理と価値観,②リーダーの内面的視 座,③組織や世界に対する価値創造,④社会に対 する貢献が提示されている(STRATEGIC

DI-RECTION, 2014).

直近のグローバル・リーダーシップ・コンピテ ンシーに関する研究結果として,ノースカロライ ナ大学チャペルヒル校(2015)は,300 名の人的 資源および,研修開発に関わる実務家を対象とし て実施した調査にもとづくグローバル・リーダー

に重要なコンピテンシーランキングを発表してい る.

調査対象を 1.グローバル企業全体,2.北米 系企業,3.アジア系企業,4.ヨーロッパ系企業 に分けて,グループ間の比較をしている(図表 2).この結果から,ヨーロッパ企業除く,他 3 地域のグループに共通して,「多文化感受性と気 づき」が 1 位を占めている(同項目のヨーロッパ 系企業は 3 位).ヨーロッパ系は,他地域との共 通性が低く,地域自体の文化的多様性を反映して いることが予想される.以下,地域間を通して, 「効果的な意思疎通」や「戦略的思考」が上位に ランキングされているが,下位になるにしたが い,地域間の多様性が拡大する傾向が見られる. この調査結果からも地域間の文化的多様性が,当 該地域における経営成果に影響を与えることが推 察される.

さ ら に,American Management Association (2012)は,世界各国の経営実務家 1,000 名を対 象とした調査結果から,今後 10 年間に,グロー バル・リーダーにとって重要になるであろう 10 コンピテンシー(重要度%:MA)を挙げている.

① 敏捷性マネジメント(72.3%)

図表1 社会的クラスターとリーダースタイル

パフォーマンス

志向 チーム志向 参加的 人道的 自律的

自身もしくは グループ保護

高 高 高 高 高 高

アングロ ゲルマン 北欧 東南アジア ラテンヨーロッパ ラテンアメリカ

東南アジア 儒教

ラテンアメリカ 東ヨーロッパ アフリカ ラテンヨーロッパ 北欧

アングロ 中東 ゲルマン

ゲルマン アングロ 北欧

東南アジア アングロ アフリカ 儒教

ゲルマン 東ヨーロッパ 儒教 北欧 東南アジア アングロ アフリカ 中東

ラテンヨーロッパ ラテンアメリカ

中東 儒教 東南アジア ラテンアメリカ 東ヨーロッパ

儒教 アフリカ 東ヨーロッパ

ラテンヨーロッパ ラテンアメリカ アフリカ

ゲルマン 中東

ラテンアメリカ 東ヨーロッパ

アフリカ ラテンヨーロッパ

中東 東ヨーロッパ

東南アジア 儒教 中東

ラテンヨーロッパ 北欧

アングロ ゲルマン 北欧

低 低 低 低 低 低

(5)

② 複数の文化圏からの同僚との協働(63.5%) ③ バーチャル・チームのマネジメント(62.8

%)

④ マトリクス組織の経営(60.8%) ⑤ 異文化社員との関与(59.5%)

⑥ 多文化状況におけるイノベーション・マネ ジメント(57.4%)

⑦ 多文化社会における倫理的基準の適用 (51.4%)

⑧ 先端的な仮想技術の習熟(45.3%) ⑨ 社会ネットワーク技術の習熟(41.9%) ⑩ 複数国間のサプライチェーン・マネジメン

ト(40.5%)

このリストから,今後,多文化のメンバーから 構成され,より複雑な組織をマネジメントするた めのコンピテンシーが必要とされ,そのためにも ネットワーク技術の習熟が必要になっていくこと が示唆される.

以上のように,グローバル・リーダーシップ・ コンピテンシーは,この 15 年余の間に,構成概 念の構造化やコンピテンシー内容の精緻化が進 み,グローバル活動の進展にともなう文化的多様 化の取り込みが進展しているといえる.

一方,グローバル化の進展にともなう基幹産業 や職種の多様化にもとづき,コンピテンシーの優 先順位や有効性の変化も見られる.このことは, 継続的なコンピテンシーリストの改定作業と地域 文化との適合性に関する研究の重要性を示唆する ものといえる.

Ⅳ.Ⅱ期:グローバル・リーダーの育成方法

(2005 ~)

2005 年頃から,グローバル・リーダーシッ プ・コンピテンシーの探求と並行して,グローバ ル・リーダーの育成に向けた学習メカニズムや組 織的な育成方法についての研究課題が進展した. 当初,グローバル・リーダー育成に関する研究 は,「グローバル・リーダーはいかに4 4 4

育成される のかという」育成メカニズムの理論的考察からス タートし,次第に,「ど4

のように4 4 4 4

グローバル・リ ーダーを育成すればよいのか」という実践的研究 へと課題の中心が移行している.

しかしながら,育成メカニズムに関する研究の 基本は,異文化経験が個人の心理的側面にどのよ うに働きかけ,その結果,いかなる変化を個人の

図表2 グローバル・マネジャーに重要な上位10種類のコンピテンシー (国際,多国籍,グローバル,トランスナ

ショナル企業)

国際/多国籍/グローバル/ トランスナショナル

(n=208)

北米 (n=127)

アジア (n=19)

西ヨーロッパ (n=43)

多文化感受性 / 気づき 57% 多文化感受性 / 気づき 57% 多文化受性 / 気づき 74% 効果的な意思疎通 56%

効果的な意思疎通 49% 倫理と誠実 50% 柔軟性,変化の享受 58% 戦略的思考 56%

戦略的思考 47% 効果的な意思疎通 49% 効果的な意思疎通 48% 多文化感受性 / 気づき 54%

リーダーシップ,他者

への影響力 45%

リーダーシップ,他者

への影響力 47% 戦略的思考 48%

リーダーシップ,他者

への影響力 49%

相違の尊重 44% 相違の尊重 47% 協働 48% 柔軟性,変化の享受 47%

倫理と誠実 42% 戦略的思考 45% 相違の尊重 42% 相違の尊重 42%

柔軟性,変化の享受 41% 新しい環境への適応 42% 意思決定能力 42% 協働 40%

新しい環境への適応 40% 柔軟性,変化の享受 38% 多様性チーム志向 42% 新しい環境への適応 37%

協働 37% 協働 38% ビジネス洞察力 37% ビジネス洞察力 37%

意思決定能力 36% 意思決定能力 35% 産業および異文化知識

に関する深い知識 37%

新たなアイデアへの開

放性 37%

(6)

心理や行動にもたらすのかに重点が置かれている ことである.

そのための基礎理論として,Bandura(1997) による「社会学習理論」(Social Learning

Theo-ry:置かれた環境で接する人的交流や行動観察, 経験を通して得られる行動学習に関する理論)

や,Kolb(1984)の「経験学習理論(Experien-tial Learning Theory:個人的経験が,一連の認 知的プロセスを通して知識学習を定着させるメカ ニズムに関する理論)を援用した学習モデルが開 発されている.

Kohonen(2005)は,海外派遣の機会を通し た異文化経験が,グローバル・リーダーとしての キャリア・アイデンティティ形成を促進すること を示唆している.すなわち,異文化環境における 職務経験が,新たな知識や技能形成を通して,個 人の内面的な国際的なキャリアに対するアイデン ティティ構築に繋がるとしている.

この発想は,それまでの組織的な視点にもとづ くグローバル・リーダー育成の視点に対し,個人 の内面的な心理的発達というミクロな視点を通し て,グローバル・キャリアを育成するという新し い育成方法の方向性を示している点で興味深い. 一方,Mendenhall(2006)は,単に海外経験 をさせるだけでは,グローバル・リーダーを育成 することはできず,場合によっては,断片的な情 報による偏った知識やスキルを身に着けさせる危 険性さえも包括することを指摘している.これを 防ぐための手段として,リアルタイム(現場にお ける)なコーチングを取り入れる有効性を提唱し ている.

コーチングの有用性については,それ以後の研 究, 例 え ば Hagemann, B. & Stroope, S.(2013) に受け継がれ,コーチとリーダーの組合せ相性や コーチングの内容(例:能力分析,開発すべき領 域の特定,明確なゴール設定,企業のビジネスニ ーズに応じたスキル開発等)の重要性が指摘され ている.

また,Caligiuri & Tarique(2009)は,グロー バル・リーダーが新しい環境における行動様式の 学習を促進する要因として,グローバル・リーダ

ーの「外向的性格」が,高頻度の異文化経験を通 して,グローバル・リーダーの行動特性を育成す ることを実証研究している.この結果から,高コ ストをともなうグローバル・リーダーの育成にお いて,「外向的性格」の候補者を選抜することの 有効性を提案している.

さらに,Ng, Dyne, Ang(2009)は,経験学習 理論にもとづき,海外経験を通した一連の①経 験,②観察,③概念化,および④実験を通して, より効果的にグローバル・リーダーシップ発揮に おける自己効力感,知識および行動を発達させ, 文化的な思考力が育成されることを示唆してい る.そして,①~④それぞれの段階ごとに,育成 対象となるグローバル・マネジャーに対して,以 下のような支援を与えることが,グローバル・リ ーダー育成を効果的に促進するとしている.

具体的には,以下のような施策を提案してい る.

① 「経験」:海外経験により獲得できる能力に ついての価値共有,現地との相互依存関係 を促進するような職務構造設計,海外派遣 中の外国語の履修や文化的知識の獲得に対 する報奨制度

② 「観察」:現地で経験したことを記録し,定 期的な振り返りを通した,成長の自己確認 ③ 「概念化」:個人的な異文化経験をステレオ タイプとしてではなく,概念的に把握する 訓練

④ 「実験」:コーチングやメンター制度の活 用,遠隔通信をもちいたバーチャル・チー ムによる情報や経験の共有化

時間的にはやや遡るが,Caligiuri(2006)は, グローバル・リーダーシップの効果性に関連し て,KSAOs(Knowledge:知識,Skills:技能, Abilities:能力,and Other personality:その他 の性格)を育成する方法について概念的な提案を している(図表 3).

(7)

具体的には,「知識」に関しては,講話を通し た専門学習(例:座学や語学教育),「技能と能 力」に関しては,経験学習(例:コーチング,メ ンターリング),「性格」に関しては集中的な体験 学習(例:海外派遣)の有用性を挙げている.

さらに,de Waal(2012)は,条件適合理論の 立場から,グローバル・リーダーが成果を発揮す る組織環境として,5 つの要素を提示している. それらは,①継続的な改善,②開放性と活動志 向,③マネジメントの質,④職場の質,⑤長期志 向である.つまり,オープンに経営資源を取り入 れ,長期的視点から,経営活動の継続性を志向す る組織環境が,グローバル・リーダーの育成に適 合的であるとしている.

上記のような育成方法の延長線上にある実務的 な前提として,グローバル・リーダーを内部育成 するのか,あるいは,外部から必要な人材を登用 するのかという議論がある.

この点に関して,グローバル・タレント・マネ ジメントの観点から,Kronz(2014)は,IT ネ ットワークビジネスのような企業横断的にコンピ テンシーを共有できる人材を有する産業は別とし て,自社のグローバル経営戦略を理解し,地域間 の事業展開を統合できるような候補者を社内から

内部育成し,事業継承するメリットを主張してい る.

その際,内部選抜によるグローバル・リーダー 候補者に必要な要件として,①リーダーシップの 役割と活動に対する動機付け,②経営に対する価 値観と成果のバランス感覚,③複雑性と流動性を マネジメントできる能力,④周囲からの情報を行 動に反映するという 4 つの要素を提示している. 以上のことから,グローバル・リーダー育成 は,特別な能力をもった一部のエリート社員を選 抜教育することが可能であること.また,後継者 育成に向けて,外部からの登用によるのではな く,本社が適切なグローバル戦略を構築し,その 事業計画を推進する中で,系統的に後継者育成を 可能にするモデルの有用性を示唆するものといえ る.

以上のように,グローバル・リーダーの育成方 法について,これまで,学習理論にもとづく海外 経験を通したグローバル能力の獲得のメカニズム の探求と具体的な育成方法に関する提案がなされ ている.また,今後に向けて,候補者の個人特性 (例えば,性格類型)との組み合わせにもとづく 個別の育成プログラム設計が役立つかもしれな い.

図表3 KSAOs(知識,技能,能力,その他の性格)の可変性と育成に向けた介入例

KSAOs 可変性の程度 育成に向けた介入例

知識 育成と変化が可能 知識的な学習機会

   書籍

   異文化訓練コース    多様性訓練    言語クラス

技能と能力 育成と変化が困難 経験的な介入

   文化体験プログラム    言語体験

   コーチング    メンターリング    グローバル会議への出席    グローバルチームでの活動従事

性格特性 育成と変化が非常に困難 集中的な体験

(8)

Ⅴ.Ⅲ期:グローバル・リーダーシップの測 定尺度と効果検証(2009 ~)

これまで概観してきたように,グローバル・リ ーダーシップ行動特性の探索,育成方法の研究に もとづき,さまざまな業種や職種におけるグロー バル・リーダー育成プログラムが構築されてき た.

その延長線として,グローバル・リーダーシッ プの潜在能力を有する人材の選抜や育成,適正配 置のための測定尺度の開発,並びに検証研究がな されている.

グローバル・リーダーシップ・コンピテンシー のインベントリー探索や測定尺度開発について, 比較的早い時期から探索的研究が開始されてい る.その目的は,当初,グローバル・リーダーに 必要な能力を有する人材を選抜するためのアセス メントツールの開発であり,その後,尺度の検証 を通して,リーダーシップ研修の効果検証につい て実証研究が進められている.

初期の研究として,Kets de Vries, Vrignaud and Florent

-

Tracy(2004)は,インタヴュー調 査と調査紙調査を組合せて,グローバル・リーダ ーの心理特性を測定する尺度を開発し,360 度評 価を通して,自他,性別,国籍,マネジメント経 験,年齢の影響を分析している.その結果,自己 に比べた他者からの低評価,女性に対する感情面 の高評価,年齢による影響が比較的少ない等の研 究成果を示している.

また,この時期のコンピテンシー尺度開発の成 果として,Mendenhall(2006,前掲)の補遺に は,6 種類のコンピテンシーインベントリーと 12 種類のコンピテンシー尺度が掲載されている.

その後,どのような種類のグローバル・リーダ ーのコンピテンシーがパフォーマンスに役立つの か?という基礎的研究から,より精緻なグローバ ル・リーダーシップ・コンピテンシー尺度構築に 向けた開発研究や,研修効果測定へと研究課題が 発展している.

Caligiuri & Tarique(2009)は,国際人的資源

コンサルタントを対象とした探索的な聞き取り調 査を通して,グローバル・リーダー活動の効果性 を示すものとして,以下の 10 要素を提示してい る.

① 他国からの同僚との協働への従事 ② 他国からの顧客と取引

③ 他国からの企業内部の関係者との取引 ④ 職場における母語以外の言語使用 ⑤ 多国籍の部下の監督

⑥ 世界的規模における戦略的ビジネス計画の 立案

⑦ 世界規模における予算管理

⑧ 外国における,あるいは海外からの関係者 との交渉

⑨ 海外の供給者や業者との取引 ⑩ 国際規模での自部門のリスク管理

また,定量分析の結果から,上記の効果性は, 「家族の国際性」,「本人の異文化経験」,「本人の 外向的性格」による影響が強く,とりわけ「本人 の異文化経験」による影響が強いことを示してい る.

また,Bucker & Poutsma(2010)は,過去に 発表された尺度を複数の基準(論理的背景,成果 関係性,社会人を対象したデータとその精度,心 理的尺度要件,異文化環境における検証,表現の 明確性)にもとづいてメタ分析し,34 コンピテ ンシー尺度中,23 尺度の適合度がより高いこと を示している.

(9)

Herd, Alagaraja, & Cumberland(2015) は, より構造的にコンピテンシー育成を達成する手段 として,アセスメントセンター方式を提案してい る.この方式によれば,先ず,①対象者に必要要 件としてのコンピテンシーミックスを特定し,次 に,②適切な育成方法(演習中心)を選択し,さ らに,③妥当性の高い行動評価方法を開発し,最 後に,④評価者訓練を提案している.これによ り,グローバル・リーダーの選抜,育成,配置, 昇進等の一連の人事施策を通して,計画的に効果 性の高いグローバル・リーダーを育成することが 期待されている.

グローバル・リーダーシップ研修の直接的な成 果 に つ い て,American Management Associa-tion(2012)は,世界各国の人材開発の専門家 1,000 名からのデータにもとづく分析を行い,研 修受講と企業業績の間に有意な相関関係があり, 研修効果の有意性を検証している.

以上のように,現在は,グローバル・リーダー シップ・コンピテンシー尺度開発の段階は一段落 したように思われる.現状は,それに代わり,尺 度の妥当性や信頼性に関するより精緻な分析か ら,研修効果測定を対象としたテーマに研究課題 の中心が移行しているように思われる.

Ⅵ.まとめと展望

本稿では,海外の先行研究にもとづいて,グロ ーバル・リーダーシップ研究の時系列的な発展過 程に照らし合わせて,研究課題の基準線の推移を 辿った.前提として,グローバル・リーダーシッ プは,リーダーシップの一部に位置付けられ,そ の地理的活動範囲の拡大にともなう文化的多様性 から派生する規定要因が想定された.

大凡の目安として,研究課題は,Ⅰ期:グロー バル・リーダーに求められる行動特性や個人的特 性(1990 ~),Ⅱ期:グローバル・リーダーの育 成方法(2005 ~),Ⅲ期:グローバル・リーダー シップの測定尺度と効果検証の効果測定(2009 ~)に分類され,その成果について,以下のよう にまとめられた.

Ⅰ期の研究課題について,グローバル・リーダ ーシップ・コンピテンシー開発は,当初の“one

-size

-

fits

-

all(既成)”モデルから,文化的背景の 齟齬による限界に対応するため,約 3 分の 2 のグ ローバル汎用性を包括した“custom

-

made”(あ つらえ)“モデルに移行した.

その後,グローバルな社会環境や基幹産業の多 様化にともない,効果的なコンピテンシーの種類 にも変化が見られた.このことから,グローバ ル・リーダーシップ・コンピテンシーは,継続的 な見直しと改定を継続することの重要性が示唆さ れた.

Ⅱ期の研究課題について,「社会学習理論」や 「経験学習理論」にもとづく育成メカニズムの理 論的考察から,次第に実践的な育成方法に移行 し,どのような育成環境を与えることが,より効 果的なグローバル・リーダーシップ・コンピテン シーの育成に繋がるのか,その媒介要因としての 海外経験や個人の性格について実証研究がなされ た.このことは,グローバル・リーダーを内部育 成するのか,外部市場から取り込むのかという育 成戦略にも派生している.

Ⅲ期の研究課題について,グローバル・リーダ ーシップ・コンピテンシー尺度の探索から,より 精緻な尺度構築に向けたメタ分析に発展し,現在 は,グローバル・リーダーシップ研修の効果測定 に適用されるようになってきた.また,今後は, より一層,研修効果測定の精度向上に向けた研究 開発の必要性が高まると考えられる.

最後に,今後の展望として,本先行研究から得 られた知見とインスピレーションにもとづき,グ ローバル・リーダーシップ研究における 7 つのフ ロンティア課題を提言して,本稿のまとめとした い.

(10)

れらの環境変化に対応するためにもコンピ テンシー尺度の継続的な改定に関する研究 が望まれる.

② 海外派遣等を活用したグローバル人材育成 モデルの開発:異文化経験は,グローバル 人材育成に有効であることが検証された. 海外派遣や派遣者の受け入れの機会を有効 活用し,その後のキャリアパスに反映した 人材育成モデルの開発研究は,今後のグロ ーバル・リーダーの効果的な育成に繋がる と期待される.

③ 国内企業,中小企業におけるグローバル人 材の育成:今日,経営グローバル化の波 は,メガ・グローバル企業のみならず,国 内の中堅・中小企業にまで及び,グローバ ル・リーダーに対する需要が高まってい る.今後,大手企業のみならず,国内中小 企業のグローバル人材をどのように確保, 育成するのかは,重要かつ緊急な研究課題 といえる.

④ 個人特性とグローバル・リーダー統合モデ ル設計:「外向的性格」は,グローバル・ リーダーの重要な要件であることが検証さ れたが,それ以外のグローバル関連特性, 例えば,グローバル・マインドセット(グ ローバルな事象に対する知識,心的特徴, 社会性)を包括した統合モデルを研究する ことは重要な研究課題であろう.

⑤ グローバル・リーダーの後継者育成:優れ たグローバル・リーダーのコンピテンシー や特性を次世代グローバル・リーダーにど のように移転するのか,そのための候補者 のマッチングや組織的な研修制度設計は, 効果的な後継者育成のための施策として重 要な研究課題といえる.

⑥ 生育環境とグローバル能力発達:これまで のグローバル・リーダーシップ研究で,あ まり触れられてこなかった視点として,青 年期の学習や体験が,その後のキャリア発 達に重要な影響を与えることが挙げられ る.心理的発達段階におけるどのタイミン

グで,どのような異文化経験をしたこと が,その後のグローバル能力やマインドセ ットの育成にいかなる影響を与えるのかに ついて研究することは,グローバル・キャ リア発達を促進する上でも有益な研究課題 といえる.

⑦ グローバル・リーダーシップ・コンピテン シー育成の垂直統合:上記⑥にも関連し て,初中等の学校教育の段階から異文化コ ミュニケーション能力,グローバル・マイ ンドセットや異文化課題の解決能力を育成 する教育カリキュラムを開発し,段階的に 育成することは,一貫性のある次世代グロ ーバル人材の育成に向けて極めて重要な研 究課題といえる.

1) 「筑波大学グローバル人材開発リサーチユニット」(研究代 表者:永井裕久)は,筑波大学の研究拠点として,グロー バル並びに学際的な視点から,約 10 ヶ国の海外連携研究 者と協力して,国際経営の最前線で活躍する次世代型グロ ーバルリーダーの力量尺度開発,人材育成,配置活用等に ついて実証調査,定量・定量分析にもとづく総合的な実務 的提言を行う研究プロジェクトチーム.

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