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理論ゼミ(前期) 2016 P3 1

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Academic year: 2018

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19 章 原子核の熱力学

武中亮

原子核の基底状態及び低い励起状態において、縮退したフェルミ粒子 系の性質を持つこと、平均場近似や状態の動径、角度成分への分離が成 り立つことは、この系の温度がゼロであることを意味する。高励起原子 核では、平均自由行程が 1fm 程で、縮退したフェルミ系では扱えない (常 に核力を受けるから)。これは液体の性質に近くなる。ここで統計力学の 知識が使える。

温度の定義についての問題

厳密には熱平衡状態の大きな系においてのみ定義される。原子核はこの 条件を満たさない。(粒子数 N はせいぜい 200 程度)

原子核の熱力学では、原子核物質という言い方をする。実験等には重 イオン反応を用いる。この反応では高密度、高温度が実現される。

1 原子核の熱力学的な記述

原子核の 3 つの励起 (図 1)

(1) 基底・低い励起状態 個々の核子の励起ないし集団運動 (17,18 章) (2) 連続状態

(3) 遷移状態 多くの狭い共鳴状態…原子核構造の情報を持たない (量 子カオス)

• 温度

核分裂後のが破片は分裂の際の放出エネルギーの一部を取り込み中性 子を放出=温度が高い

放出中性子のエネルギー 平均 2.1MeV、蒸発分子のスペクトルの形 (Maxwell 分布)

(2)

(2)

(3)

(1) E0

粒子放出のしき い値

図 1: 原子核のエネルギー準位  3 つの領域に分けられる

スペクトル dN/dE をEで割ったものの対数グラフは直線になり、傾き は −1/kT 。

光子のスペクトルも Maxwell 分布の形だが、中性子より傾きが急。こ れは、光子を放出する段階にいる破片の温度が低くなっていることを示 している。

[まとめ] 粒子放出の閾値の近傍の状態はそれに対応する遷移を反映し、 これは統計的な方法で記述できる。

2 複合核と量子カオス

粒子放出の閾値近傍ははっきりした量子状態を持つ。崩壊は状態密度 によって統計的にのみ記述されるため、原子核に関する情報を持たない。

• 複合核

重い原子核の中性子散乱の断面積には eV 単位の狭い範囲に多数のピー クがある。そのピークの間隔は、原子核の低い励起のエネルギーギャップ より 6 桁も小さい。

1930年代の、ボーアの複合核模型では、強い相互作用のため中性子の 原子核中の平均自由行程は短く、瞬間的に他の粒子にエネルギーが分配 されるため、エネルギーが 1 粒子に集中する確率は小さい。そのため、寿 命が長く、共鳴幅が狭い。その後の詳しい研究によると、連続的な核子 衝突により一連の中間状態を経る。その極限としての熱平衡状態が複合

(3)

核である。

• 原子核の量子カオス

古典論:規則的な軌道 · · · 安定、粒子の運動、配置が周期的

     カオスの軌道 · · · 不安定、小さな擾乱でも大きく変化、予測の 不確かさが時間とともに指数関数的に増加

量子力学:規則的な軌道は波動関数をある模型で計算できる状態、カ オスな軌道は 1 粒子波動関数から確率的に作った状態に対応。カオスな 軌道には、粒子間相互作用に関する情報を全く持たない。

状態のエネルギー間隔は、カオスの確率的構造を反映する。エネルギー レベルの密度が高いので、統計的に考察できる。同じスピン、同じパリ ティの状態は互いにエネルギー間隔を広く取ろうとする。するとその間 隔はポワソン分布に従う状態の間隔の最頻値より広くなるが、これは同 じ量子数を持つ 1 粒子状態の混合の結果だと期待される。

放出閾値のすぐ上は、カオス的振る舞いと集団運動が共存する例であ る。集団運動が多くのカオス状態と核子間相互作用により結合し、コヒー レンスを部分的に失い、寿命が短くなる。

• 連続状態

断面積の強いゆらぎが見られるのは、エネルギーが増すと可能な崩壊 チャンネルが増えて共鳴の幅が広がること、状態密度が高いことが理由 になる。等しい量子数を持つ共鳴は互いに干渉してゆらぎが起こる。ゆ らぎの大きさ、共鳴の平均間隔は状態密度を用いて計算できる。

3 原子核物質の相

• 相転移:液体―気体

原子核のよく制御された加熱は、重イオンの周辺衝突によってなされ る。衝突後の 2 つの破片は反応中の摩擦により加熱される。破片の温度 と全体の系に供給されたエネルギーが正確に測れる。

(4)

温度 · · · 破片から放出された粒子のマクスウェル分布から決定

放出粒子の進行方向は、おおよそ破片の進行方向=入射ビームの進行方向 を向く。

エネルギー · · · 生成された全粒子を検出

蒸発粒子を検出することで摩擦により失われたエネルギーを測れる。 600MeVの金原子核を金原子核標的に衝突させる実験

系に供給されたエネルギーに対する破片の温度の変化は、核子あたりの励 起エネルギー E/A が約 4MeV までは急勾配で増加、4MeV< E/A <10MeV の領域では温度はほとんど変わらず、10MeV 以上で再び上昇する。これ は水の気化に似ている。これより、原子核物質が液体から気体へ相転移 したと解釈できる。より正確には、kT∼4MeV において原子核と周りの 気相の膜の平衡状態になっており、すべて気相になってさらに温度が上 がる。

• ハドロン物質

ビームの核子あたりエネルギー 10GeV 以上の原子核正面衝突において、 荷電 · 中性パイ中間子が発生する。N+N→ ∆+N の断面積 σ=40mb=4fm2 より、平均自由行程 λ ≈ σρ1N ≈1fm になる。重イオン衝突で多数の核子 が衝突するため、どの粒子も 1 度以上 ∆ に励起する。熱力学的に言うと、 新しい自由度ができたという。

N : JP = 12+ ∆ : JP = 32+

πN ↔ ∆ の平衡状態になり、このように核子、∆、パイ中間子等の混合 状態をハドロン物質という。

パイ中間子は他のハドロンより軽いため、ハドロン物質内エネルギー 交換は主に π によってなされる。実験ではハドロン物質のエネルギー密 度、温度はパイ中間子によって決定できる。ビーム方向の垂直方向へ放 出された π のエネルギースペクトルは、

dN dEkin ∝ e

−Ekin/kT

の形から温度が決められる。これによると kT≈150MeV を超えないこと がわかっている。これは熱い原子核が膨張、冷却し、kT≈150MeV 以下 で π の相互作用する確率が急激に小さくなりエネルギー交換が少なくな ると理解される。これをパイ中間子の freezing out という。

(5)

kT[MeV] 200

1 10

密度 ρ/ρ0

核子の気体

ハドロン物質

中性子星 ー ・ ルー ン・ プラズマ

通常の原子核

図 3: 原子核の密度、温度による相図 密度 ρN、温度 kT=0· · · 冷たい原 子核 密度 3 ∼ 10ρN、温度 kT=0· · · 中性子星

• 原子核物質の相図

通常の原子核にエネルギーを供給すると、主に α クラスターを放出す る。これは液滴の蒸発に類似する。物質を閉じ込める場合、エネルギー を与えると内部自由度が上がり原子核の ∆(1232) 共鳴などに励起した後 パイ中間子に崩壊する。この核子とパイ中間子の混合状態がハドロン物 質である。

• クォーク・グルーオン・プラズマ

プラズマ:原子が電子と原子核に完全に分離した状態

この場合、核子、パイ中間子がクォークとグルーオンに分離した状態 をいう。通常の原子核で 1 核子あたり約 6fm3の体積を占めるが、実際の 体積はその 10 分の 1 である。冷たい原子核を 10 倍まで等温圧縮すると、 核子同士が重なり合いクォークとグルーオンが体積全体を「自由」に動 く。また、密度を変えずに 200MeV まで熱すると、核子-核子相互作用に おいてパイ中間子が発生しハドロン密度が増す。よってハドロンの衝突 頻度が増えてクォーク、グルーオンが 1 ハドロンに局在しなくなる。この 両者の極限がクォークグルーオンプラズマである。

検出はハドロン放出ではなく電磁放射によって行う。光子-クォーク結 合は強い相互作用による結合の 2 桁弱い。そのため生じる電磁放射を直 接観測できる。

参照

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