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第46回関東理科教育研究発表会
1 はじめに
進学校での授業の「在り方」にはある特徴があるように感じている。それは,授業は「教員が主導し,大 学受験に対応する力を身に付けるもの」と認識している教員が多いという点である。教員の入試問題研究や 授業改善の努力により,進学実績の結果を出していることは決して否定できない。しかし,私はそこに一つ の弊害があるように感じた。それは,生徒の学びの「在り方」が,「学校で必要なものはすべて与えてもらえる」 という感覚に陥っているということである。そのため,生徒は自分の受験に必要があるか・必要がないかと いう判断をし,授業態度が大きく変わっているように感じた。
公立高校は,塾や予備校のような受験対策授業に特化した組織とは明確に異なるはずである。しかし,生 徒は幼少期から塾に通うことが一般化しており,指導者に頼りっきりになっている傾向が見られる。よって, 「受験においては効率の良い」と思われる塾や予備校のような授業スタイルが,公立学校においても多く取
り入れられるようになってきた。
このような,指導者に依存する学習観を打破するため,社会的に「アクティブラーニング」(以下AL) という観点が叫ばれるようになった。ALの観点を取り入れた授業(以下AL型授業)の必要性は高まって いるが,AL型の授業では受験を乗り切ることはできないと考え,一斉講義型授業に固執してしまっている 傾向が見られる。しかし,本当に深い学びができているのなら,あるいは学習者の学びの「在り方」に変容 が起きるのならば,おのずと学力は上がり,受験を乗り越えることができるはずである。
本来ALという観点は,「受験的な学力」を伸ばすことが目的ではないが,AL型授業の実践により受験を 乗り越えることができるのであれば,これまで一斉講義型授業に固執してきた教員にとってもプラスである はずだ。そして,多くの教員達のAL型授業の実践により,多方面から生徒にアプローチしていくことで, より効果的に生徒の学びの「在り方」の変容が起き,ALの本来の目的である生徒の能動的な学びを引き出 すことが達成できるはずである。そのためにはまず,AL型の授業が生徒にどのような影響を与えるのかを 分析し,多くの教員とその情報を共有していく必要がある。
そこで本研究では,AL型の授業実践によって,生徒の学びの「在り方」がどのように変化したのかを調 べるため,AL型授業実践後において生徒の意識調査を行った。また,各々の生徒の意識が,その生徒の実 際の学力とどのような相関関係にあるのかについて,検討を行った。さらに,考査の得点について,通常の 一斉講義型の授業を受けた生徒と,AL型の授業を受けた生徒との比較を行った。
2 方 法
実際に実施したAL型授業については,東京都立国立高校の大野智久教諭が実践するグル―プ形式による 学び合いが主のAL型授業をモデルにした。
対象となる生徒は,通常の一斉講義を受けた1年生の4クラスの生徒達を対照区とし,AL型の授業を受 けた1年生の5クラスの生徒達をAL区とした。
AL区の生徒においては,AL型授業を一学期間受けたのち,アンケートによる意識調査を行った。アン ケートは,「教えあうことによる理解の変化」や「主体的に学ぶ姿勢」など,AL型授業にどのような意識 で臨んだのかということが分かるような質問を12項目設定した。そのそれぞれについて「そう思う(=5)」 から「そう思わない(=1)」の間を5段階に区切り,自己評価させた。その後,各々の生徒におけるアンケー トの各項目と,1学期中間および期末考査の合計得点との間において,無相関検定を行った。これを試験1
学びの「在り方」の変容が学習者に与える影響と
教師の学びの輪を広げる活動について
~アクティブラーニングという観点から考える~
埼玉県立春日部高等学校
矢野 卓郎
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千葉大会
とした。また,各々の生徒において,各アンケート項目の5段階評価の合計を算出し,その合計と1学期中 間および期末考査の合計得点との間において,無相関検定を行った。これを試験2とした。さらに,1学期 中間および期末考査の合計得点について,対照区およびAL区における平均の差の検定をt検定により行っ た。これを試験3とした。
3 結 果
[試験1]
各アンケート項目と,考査の合計得点との無相関検定の結果,全12項目のうち10項目において,有意な 正の相関が認められた(p<0.05)。
[試験2]
各アンケート項目の合計と,考査の合計得点との無相関検定の結果,有意な正の相関が認められた(p<0.05)。 [試験3]
考査の合計得点は,AL区の方が対照区に比較して有意に高くなった(p<0.05)。
4 教師の学びの輪を広げる活動について
ALの観点を用いた授業により,多方面から生徒にアプローチすることで,より効果的に生徒の学びの「在 り方」の変容を起こすことができるはずである。そのため,多くの教員にAL型授業の有用性を理解しても らうために,AL型授業に興味をもっている教員に対して,AL型授業による授業経過の情報を逐一発信し ていくことにした。
また,AL型授業の問題点や改善点,その他さまざまな情報を共有できる場として,非公式ではあるが, 校内に授業研究会を組織した。定期的な集まりはないが,意識的に会員同士の情報交換を行っている。 さらに,実際にAL型授業を実践している学校に訪問する,AL型授業見学会を数回企画した。授業見学後, AL型授業を実践している教員達との情報交換会も行った。
各々の教員が生徒の学びの在り方の変容に努力していくことも大切ではあるが,教員同士がネットワーク を形成し,各々自信をもってAL型授業を実践していける環境づくりも非常に大切である。