ロボットと一緒に働く未来の社会
大学院情報科学研究科 教授
近
こ ん
野
の
敦
あつし
(工学部情報エレクトロニクス学科システム情報コース)
専門分野 : ロボット工学
研究のキーワード : ロボット,無人航空機,手術シミュレータ,機械力学 HP アドレス : http://scc.ist.hokudai.ac.jp
何を目指しているのですか?
IT(Information Technology:情報技術)革命という言葉が、一時期、盛んに用いられ ました。これはコンピュータやインターネットの発達と普及に伴って生産性が革命的に向 上したことを指しています。コンピュータやネットワークだけでは情報が銅線の中に閉じ 込められたままですが、これらに外界や自分自身の状況を検出するセンサと、外部に対し て力を作用するアクチュエータ(モータなど)を接続すると、人間の住む世界と相互作用 を持つことができるようになります。これがRT(Robot Technology:ロボット技術)で す。RTはITを実世界に拡張したものと言えます。RTを用いて、便利で安全な社会を作っ ていくということを目指しています。具体的には、力仕事を補助するヒューマノイドロボッ ト技術、災害発生時に迅速に被害状況を観察し報告する無人航空機、実際の手術の前に仮 想世界で試行錯誤するための手術シミュレータ、の研究開発を行っています。
どんな装置を使ってどんな実験をしているのですか?
図1(a)は川田工業株式会社製のヒューマノイドロボットHRP-2です。これまで20号 機まで製作されました。このうち私たちの研究室では15号機と20号機の2台を用いて研究 を行っています。図1(b)、(c)は人間が行っている力作業をヒューマノイドロボットで 代替させようという研究です。ロボットが環境に大きな力を作用すると、その反作用力で ロボットは倒れてしまいます。いかに倒れずに大きな力を作用するか、というところに難 しさがあります。図1(d)は、ヒューマノイドロボットに砂地のような軟弱な地面の上 を歩行させる実験です。人間のように砂地の上でも安定に歩行し続けるには、さらなる技
出身高校:山形県立山形東高校 最終学歴:東北大学大学院工学研究科
電気・機械
(a) 15 号機(左)と 20 号機 (b) 釘打ち実験 (c) 穴掘り実験 (d) 砂地歩行 図1 ヒューマノイドロボット HRP-2(川田工業(株))
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術開発が必要です。
図2は垂直な姿勢でホバリング(空中停止)可能な無人航空機(UAV)です。ホバリン グ能力は、災害現場などで、上空からカメラで情報収集する際に役に立ちます。
図3は手術シミュレータの概念を示したものです。操作者はコンピュータ内に構築され た人間の臓器モデルに対して仮想手術を行います。コンピュータ内で計算された臓器モデ ルからの反力は、力覚触覚提示装置(ハプティックデバイス)を通して操作者に提示され ます。このような手術シミュレータは、若いお医者さんのトレーニングに用いることがで きます。また、難手術の前に、手術の計画を立案するために試行錯誤するのにも役に立ち、 手術の安全性を高めるものと期待されます。図4は手術シミュレータの研究開発に用いて いる実験装置です。まずは脳外科手術を対象にシミュレータを開発しているところです。 図5は人間の脳を、有限要素法を用いてモデル化したものです。脳の弾性(柔らかさ)や 粘性は、豚の脳を使った特性同定実験(図6)によって調べた値を使います。
次に何をめざしますか?
ロボットにどうやって簡単に作業指示を出すか、世界中の研究者が日々研究を行ってい ます。アップル社のスマートフォン iPhone 4S に Siri(Speech Interpretation and Recognition Interface:発話解析認識インターフェース)というアプリケーションが搭載 されました。Siriは人間の自然言語による問い合わせに、なかなか賢い答えを出すという ことで、インターネットでも話題になっています。本来、ロボットもSiriのように自然言 語で問い合わせやお願いをすると、それに応じてくれるというのが理想です。そのような ロボットが昔からSFなどに登場するのに、実際はなかなか実現しません。まるで人間の ように、自然言語による作業依頼に応えてくれる、そんなロボットの開発は面白いんじゃ ないかな、と思っています。
図2 垂直姿勢でホバリングする無人航空機 図3 手術シミュレータの概念
図4 大規模並列計算機と力覚触覚提示装置 図5 脳の有限要素モデル 図6 豚の脳を用いた特性同定実験
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