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みんなで科学技術について話し合う場をつくる

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Academic year: 2017

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みんなで科学技術について話し合う場をつくる

高等教育推進機構・大学院理学院 准教授

三上

直之

な お ゆ き

専門分野 : 科学技術コミュニケーション,社会学

研究のキーワード : 科学技術,社会,コミュニケーション,市民参加,対話 HP アドレス : http://d.hatena.ne.jp/nmikami/

どんな研究ですか?

原発・エネルギー政策の見直し、生物多様性、地球温暖化、BSE(牛海綿状脳症)問題、 ナノテクノロジーの応用、遺伝子組換え作物……。私の研究室で、ここ数年扱ってきたテー マです。一見バラバラに見えるかもしれませんが、大事な共通点があります。それは、科 学技術が深く関わる社会的な問題ということです。

例えば、2011年の福島での原発事故を受けて、新たなエネルギー政策が求められていま す。安全に原発を閉じ、省エネや代替エネルギーの確保を進めるにはどうすればよいか。 そのプランを練るにはエネルギー技術や経済の専門知識が不可欠ですが、科学ですべてが 決められるわけではありません。原発の安全性や、再生可能エネルギーの普及可能性、化 石燃料の価格など、不確実な要素がたくさんあります。官僚や一部の学者に任せておけば 自動的に答えが出るという話ではなく、社会全体に関わる問題である以上、みんなで議論 して取るべき道を探っていく必要があります。地球温暖化の対策、BSEや遺伝子組換え作 物などの食の安全に関わる問題なども、構造は同じです。

市民参加で議論すると口で言うのは簡単ですが、いざやろうとすると、難しいことが次々 出てきます。専門家でない市民が、中身をよく理解したうえで話し合うにはどんな準備を すればよいでしょうか。国民や道民全員が一度に集まるわけにはいきませんから、社会全 体の意思がよく表れるような参加者をどういう方法で集めるのかも大問題です。話し合っ た結果を、法律や予算などの政策決定にどう結びつけるのかも、考えなければなりません。

ここに挙げたような問題点をクリアして、科学技術が深く関わる社会的な問題について みんなで話し合う場やしくみをどうやってつくるか。それを考えるのが今の私の研究です。 机上の空論ではなく、写真にあるように実際に一般の方々を集めた会議を開き、その中で、

出身高校:千葉県立東葛飾高校

最終学歴:東京大学大学院新領域創成科学研究科

社会

BSE 問題に関する会議(2011年11月、北大) 地球温暖化に関する世界市民会議(2009年9月、京都)

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どうやって話し合いの場をつくっていけばよいのかを試行錯誤しながら検討していきます。 こうした「科学技術への市民参加」の研究は、より広く言うと、科学技術コミュニケー ションという分野に属します。科学や技術に関する情報・知識のやりとりや、人々の間で の対話のあり方を研究する分野です。

それって理系ですか?文系ですか?

科学技術コミュニケーション。「科学技術」が頭についていますから、一見すると理系の ようにも見えますね。しかし、科学技術を一つの社会的な営みとして捉え、そのしくみを 明らかにしようという意味で、基本的には文系の分野です。実際、私の学部・大学院時代 の専門は社会学でした。大学院では、環境問題の社会的原因や解決方法を探る環境社会学 という分野を専攻しました。博士課程で研究をするうちに、環境問題の原因の一つであり、 解決の鍵ともなる科学技術のあり方、とりわけ科学技術をめぐるコミュニケーションに関 心が向かい、この分野に進むことになったのです。

その一方で、科学技術コミュニケーションにおいて扱われる話題は、ほとんどの場合、 理系の内容です。伝えられる中身は、科学の最新の研究であったり、エネルギー問題や、 食品の安全、地震や津波などの災害など、私たちの社会生活に密接に関わる技術や自然現 象であったり様々ですが、いずれにも自然科学の知識が深く関わっています。科学技術コ ミュニケーションの研究者の中には、理系出身の人も少なくありません。

「理系か文系か」というのは、大学進学を控えた皆さんにとっては、高等学校での履修 科目の選択や、受験で必要となる科目にも関わる重大な分かれ道ですよね。色々なことを、 理系/文系の枠組みで理解したくなる気持ちは想像できます。しかし、大学で行われてい る研究の中には、科学技術コミュニケーションのように、理系・文系の垣根を越えて、多 様な分野の知を連携・融合させる必要のある分野がたくさんあります。

何学部・何学科で学べるのですか?

北海道大学には、学部レベルで科学技術コミュニケーションを専門に学べる学科やコー スはありませんが、大学院にはあります。理学院自然史科学専攻の科学コミュニケーショ ン講座です。ここで科学技術コミュニケーションや関連する諸分野を専門的に学べます。 また、北海道大学にはCoSTEP(コーステップ)という科学技術コミュニケーションを 専門とするユニークな学校があります。ここの教育プログラムは、すべての専攻の大学院 生や社会人などにも開かれていて、大学院で自分の専門分野の研究をしながら、科学技術 コミュニケーションの実践に必要な知識やスキルを身につけることもできます。

理学院の科学コミュニケーション講座もCoSTEPも、出身学部や学科は問いません。文 系出身の人もたくさん学んでいます。

参考書

(1) 三上直之,『地域環境の再生と円卓会議』,日本評論社(2009) (2) 篠原一編,『討議デモクラシーの挑戦』,岩波書店(2012

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参照

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