• 検索結果がありません。

組織学会|組織科学:バックナンバー

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "組織学会|組織科学:バックナンバー"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

組織科学 Vol.50No.2 : 69-81 (2016)

69

【査読付き論文】

  自 由 論 題

支援者の選別とフレーミングが新技術の制度化

に及ぼす影響:斜面補強工法を事例として

  酒井  健(国際医療福祉大学 医療福祉学部 専任講師)

  キーワード

制度化,制度的企業家,支援者,フレーミング,政治的働きかけ

Ⅰ.はじめに

本論文の目的は,既存制度から逸脱した新技術 が制度化するメカニズムを,制度化を推進する行 為主体(制度的企業家)による政治的働きかけに 着目して探求することにある.既存研究でも,制 度化の過程では周囲の利害集団を支援者にする政 治的働きかけが重要になることは議論されてき た.だが,どの利害集団に対してどのように働き かければ新技術の制度化が促されるのかという問 題は,十分には解明されていない.その背景に は,多数の支援者を獲得すれば制度化は進展する という見方があるのかもしれない.

だが制度化を進めるためには,単純に多数の支 援者を獲得すれば良い訳ではなく,鍵となる支援 者の選別と,その集団に対する政治的働きかけが 重要になる.それに関連して本論文では次の 2 点 を主張する.第 1 に制度的企業家は,新技術を正 統化する権力を持つ利害集団を選別し,その集団

を支援者にすることで制度化を推進する.そのた めには,その集団が重きを置く利害関心をより良 く満たすものとして新技術をフレーミング(意味 解釈の枠組みの提示)することが必要となる.第 2 に制度的企業家が,新技術を正統化する権力を 持たず,しかも権力を持つ利害集団と対立的な利 害集団が共鳴するように新技術をフレーミングし た場合,かえって新技術の制度化を停滞させるこ とがある.

本論文の構成は以下の通りである.第Ⅱ節で は,制度的企業家論の既存研究を検討して問題を 設定し,それを理論的に考察する.第Ⅲ節では, その考察結果を例証するために斜面補強工法の事 例を提示する.続く第Ⅳ節において理論的視点か ら事例を整理する.最後に第Ⅴ節で貢献点を整理 し,経営の実践に対する示唆に触れて結びとす る.

(2)

Ⅱ.既存研究の検討と考察

1.制度的企業家論の系譜と課題

新制度派組織論(以下,制度論)は,英雄的な 行為主体を拒否し,組織や個人の行動に対する制 度的秩序の影響を強調してきた(e.g. DiMaggio

& Powell, 1983).しかし,その視点だけでは, 制度の生成や変化を説明することは困難である. そこで DiMaggio(1988)は,制度的企業家(in-stitutional entrepreneurs)の概念を導入し,「新 たな制度は,十分な資源を有する組織化された主 体(制度的企業家)が,制度の中に彼らが重視す る利害を実現する機会を見出したときに生まれ る」とした.制度的企業家は,特定の制度的アレ ンジメントの中で利害関係を持ち,新たな制度の 創造ないし既存の制度を変革するために資源を使

う主体の諸活動の総体として定義される(Magu-ire, Hardy, & Lawrence, 2004).

この概念を巡っては,制度が個人や組織を拘束 するのであれば,制度的企業家が内部から制度を 変えるという現象はどのように説明できるのかと いう「埋め込まれたエージェンシーのパラドク ス」が中心的な問題となってきた(Seo & Creed,

2002).ここで制度的企業家を制度に拘束されな い英雄であると仮定すれば,制度論が従来強調し てきた制度の影響を軽視することになる.その種 の説明を避けて問題を解決するには,既存制度の 影響を認めつつ,制度的企業家が既存制度から逸 脱した変革のアイデアとそれを進める動機,必要 な資源を獲得する論理を提示する必要がある(松 嶋・高橋,2015).

この問題を背景に展開されてきたのが,制度的 企業家は既存制度における中心と周縁のどちらに 位置するのか,という議論である(Garud, Har-dy, & Maguire, 2007;Hardy & Maguire, 2008). まず保有する資源の多様性や量に着目して,制度 的企業家を既存制度の中心に置けば,いかにして 既存制度から逸脱した変革のアイデアとそれを広 める動機を持つのかが問題になる.これに関して 複数の既存研究は,制度的影響の多元性の観点か

ら説明を試みている.人々は通常,複数の制度か らの影響を多元的に受けている.またそれらの制 度的影響に対する重みづけは,集団によって異な る上に可変的でもある(Schutz, 1970).そのた めに,制度の中核にいる個人や組織であっても, 重きを置く異なる制度からの影響により,既存制 度から逸脱した変革の推進に向けて行動する可能 性 が あ る(Hardy & Maguire, 2008). 例 え ば Rao(2008)は,フランス料理の文化で中心的地 位を占めるシェフ達が,日本料理等の制度的影響 を受けたことで,従来の制度化されたフランス料 理の調理法に疑問を抱き,新たな調理法のアイデ アとそれを制度化する動機を持つに至ったことを 指摘している.

その一方で制度的企業家を制度の周縁に置く議 論も存在する(e.g. Leblebici, Salancik, Copay, & King, 1991).この場合には,新たなアイデアと それを進める動機の保有については,その周縁性 から説明できるものの,保有資源の種類や量が乏 しい点が問題となる.そのために周縁の制度的企 業家の議論では,必要な資源を提供する利害集団 の支援を得るための政治的働きかけが鍵とな る1).DiMaggio(1988)は,制度的企業家を支援 する利害集団を,補助的行為者(subsidiary ac-tors)と呼んだ2).補助的行為者は,既存制度か らある程度の自律性を保っており,固有の利害を 持っている.この特性ゆえに,制度的企業家が既 存制度の補助的行為者から支援を受けても,単純 に既存制度が再生産されるのではなく,脱制度化 と制度の創造に導かれることになる.

(3)

2.権力構造の解読による支援者の選別とフレ

ーミングを通じた政治的働きかけ

既存研究の検討に基づき,本論文では,制度的 企業家がどの利害集団に対して,どのように働き かければ,新技術の制度化を促進できるのかとい う問題を考察する.ここで焦点を当てるのが,新 技術の正統化に関わる権力構造の解読による利害 集団の選別と,フレーミングを通じた政治的働き かけである.

まず制度的企業家は,新技術の制度化を取り巻 く多様な利害集団を,新技術を正統化する権力を 保有するか否かという視点から見分けなければな らない.この社会では,支配的な地位とそれによ って正統化された権力の構造が再生産されている (Bourdieu, 1989).そこで特定の技術が制度化さ れていることは,技術を正統化する権力を持つ集 団の利害が,当該技術によって満たされているこ とを意味する(その集団の具体例としては,行政 職員やそれに準じる団体,大口顧客,正統化され た重要な補完財の供給者等があげられる).いま 考察している制度的企業家の保有資源が乏しいこ とを考えれば,支援を要請する対象として優先順 位が高いのは,新技術を正統化できる権力を持つ 集団か,あるいはその集団に影響力を行使できる 利害集団であると考えるのが自然である.

次に,制度的企業家がその鍵となる集団の支援 を引き出すためには,自らの利害関心が,その集 団と共通していることを訴える必要がある.一般 に,類似した性向や利害関心を持つ集団同士は, 同盟を結ぶ傾向にある(Bourdieu, 1985).従っ て利害関心が共通していることを認めれば,技術 を正統化できる権力集団が制度的企業家に力を貸 す可能性は高まるはずである.

その集団に対して,利害関心が共通しているこ とを認めさせるための政治的働きかけの手段が, フレーミングである.このフレーミングの概念 は,従来は専ら社会運動論で議論されてきたもの だが3),本論文ではこの概念を用いて,制度的企 業家論に残された上記の問題を考察する.まずフ レームとは,事件や出来事に意味を与え,それに よって経験を組織化し,行動を導くために機能す

る解釈スキーマのことである.社会運動論では, 特に「集合行為のフレーム」に着目し,これを 「社会運動組織の諸活動やキャンペーンを鼓舞し て正統化する,活動志向的な一連の信念と意味」 と定義している(Benford & Snow, 2000, p. 614). この集合行為のフレームを生み出して他者に提示 していく行為が,本論文で言う「フレーミング」 なのである.社会運動論では,大企業や行政職員 に比べて保有資源に乏しい市民が,利害集団が共 鳴するように活動をフレーミングすることによっ て,その支援を引き出し,社会運動を成功に導く事 例が分析されてきた(Gerhards & Rucht, 1992; Čapek, 1993;Babb, 1996;Lounsbury, 2005; Rao, 2008).それらの市民と同様に保有資源に乏 しい周縁の制度的企業家にとっても,これは有力 な政治的働きかけの手段となるはずである.

(4)

在と見なして,新技術に正統性を付与し始めると 考えられる.

これに対して,周縁の制度的企業家の意図は異 なるところにあったとしても,結果として「新技 術を正統化する権力を持たない集団」の利害関心 を満たすように新技術をフレーミングして,その 集団の支援を得た場合,それだけでは制度化に繋 がらない可能性が高い.また仮に,その種の支援 者を「多数」獲得したとしても,制度化の進展に は新技術を正統化する権力を持つ集団の支援が必 要である以上,それは少なくとも短期的には制度 化を促さないと考えられる4)

ここで特に問題になるのは,支援者となった 「新技術の採用を正統化する権力を持たない集団」

が重視する利害関心が,新技術を正統化する権力 を持つ集団や,その権力集団に対して影響力を持 つ集団の利害関心と対立的な関係にある場合であ る.この状況においては,「新技術の採用を正統 化する権力を持たない集団」が新技術を支援する ことで,新技術を巡る集団間の利害対立が表面化 する可能性がある.結果的に,制度的企業家が本 来的に支援者とすべき,新技術を正統化する権力 を持つ集団(あるいは権力集団に影響力を持つ集 団)が支援に対して否定的になり,制度化が停滞 することがあり得るのである.

Ⅲ.事例研究:斜面補強工法の革新と制度化

1.事例の概要と使用データ

本節では,上記の理論的考察を例証するため に,斜面補強工法の事例を取りあげる5).斜面補 強工法の事例を選択した主たる理由は,多様な利 害集団が関与する点にある.具体的にはまず,工 事現場や使用工法の選定権限を持つ都道府県の行 政職員があげられる.また建設会社は,施工のみ ならず新工法の開発や提案も行う.土木資材メー カーも,土木資材の製造以外に,新工法の開発や 提案に携わることがある.斜面補強工事の受益者 である斜面の近隣住民も様々な形で工事に介入す る.さらに一般に土木工事は自然草木の伐採や生 物の排除を伴うために,自然環境保護団体が関与

することもある.

本節は,2 つの技術に関する 4 つの重層的な比 較事例研究から構成される.新技術の制度化の進 展に関する議論には,第 1 事例から第 3 事例が対 応する.これに対して,新技術の制度化の停滞に 関する議論は,第 2・第 3 の事例と第 4 の事例と の比較を通じて例証する6)

第 1 事例では,自然の草木を伐採して鉄筋コン クリートの枠で斜面を補強するフリーフレーム工 法を見る.これは 1975 年に建設会社フリー工業 株式会社(以下,フリー工業)の長岡信玄が開発 した工法であり,従来の主流工法であったコンク リート吹付工法よりも高価であり,当初は斜面補 強性能の裏付けも不十分だったが,次第に自明な 技術として社会に受容された.

第 2 から第 4 の事例では,1995 年に日鐵住金 建材株式会社(以下,日鐵住金建材)が開発した ノンフレーム工法を取りあげる.これは,自然の 草木を伐採せず,コンクリートも使用することな く鋼鉄の杭で斜面を補強する工法である.この工 法はフリーフレーム工法の代替技術として開発さ れ,長崎県と北海道に限っては,フリーフレーム 工法を凌ぐほどではないものの普及が進み,一般 的な工法の地位を得た.しかしそれらの地域を除 けば,比較的マイナーな地位にある.この点に基 づき,第 2 と第 3 の事例では,第 1 事例と同様 に,長崎県と北海道におけるノンフレーム工法を 制度化の成功事例として取りあげる.その上で第 4 事例では,第 2・第 3 事例の比較対象として 「その他の地域」におけるノンフレーム工法を分

析する.

(5)

内資料も分析対象とした(Yin, 1994).

2.第1事例:フリーフレーム工法の全国的な

制度化

斜面補強業界では,1975 年にフリー工業の長 岡信玄が開発したフリーフレーム工法が現在でも 事実上の標準の地位にある.この工法は,自然の 草木を伐採し,鉄筋コンクリート製の枠を現場で 施工して斜面を固定する.フリーフレーム工法の 当初の基本施工価格は約 1 万 5000 円/㎡であ り,1970 年代まで主流だったコンクリート吹付 工法の価格の約 3 倍であった8).また新工法ゆえ に,斜面補強性能も不透明だった.それにもかか わらずこの工法が普及した主な理由は,開発者で ある長岡が全国の建設会社に呼びかけて支援を獲 得したことにある.

長岡は芝浦工業大学で土木技術を学ぶ過程でフ リーフレーム工法を開発して,妻とともに建設会 社フリー工業を創業した.彼を動機づけていたの は,技術を普及させたいという思いと経済的な利 益の獲得だった.彼は当時の思いを次のように振 り返っている.

まず,これ……俺が考えたことを世の中に広め なきゃいかんなと,そんとき思いましたね.や っぱり日本の今までやっていた法面工事は,ち ょっとね.まだ技術が足りないと.俺の考えた 技術を,やっぱり広めなくちゃいかんなと思い ましたね.あとやっぱり,お金を儲けなきゃい かんなと.2 つですね9)

だが通常,行政職員は,実績の少ない工事や高 価な工事の採用には慎重になる10).なぜならば公 共工事は税金の使途をチェックする会計検査の対 象となり,その結果が行政職員の評価に影響する ためである.そこで長岡は,大学の同窓生のネッ トワークを使い,斜面補強工事を専門とする建設 会社を通じて行政職員に工法をアピールすること を考えた.会計検査では工事の質が重要な検査項 目であるために,一般に行政職員は地元の建設会 社との意思疎通を大切にする11).長岡は,その影

響力を利用して行政職員に働きかけようと考えた のである.

その一方で一般に建設会社は,経済的利益や作 業性を重視する.フリーフレーム工法が従来工法 よりも高価であることは工事請負金額が上がるこ とを意味するために,建設会社にとってはポジテ ィブな要素であった.それに加えて長岡は「工期 が短縮できる」,「作業性が非常によい」等と記し たパンフレットを作成して建設会社に配布し た12).1976 年に長岡は,フリーフレーム工法を 支援する建設会社 8 社と協会を設立した.長岡は 建設会社による支援の効果について次のように語 っている.

専門工事の大手がいますよね.(中略)その辺 に知り合いがいたんで,相談して,どうだあ の,一緒にやらないかと.相談を持ちかけて ね.よかったら,じゃあ,特許の契約をして, それで協会っての作ったんですよ.(中略)や っぱりみんなでね.専門工事業者が PR してい くとだいぶ違いますよね.(引用者注:行政職 員に)顔がきくし13)

これらの建設会社が採用を訴えたことで,フリ ーフレーム工法は行政職員に認知されて,実績を 積み重ねていった.累計施工実績は 1988 年に 1000 万 m となり,1997 年には 5000 万 m に達し た14).フリー工業の東京支店長である竹谷紀彦 は,1990 年代にはフリーフレーム工法は風景画 の中にも自然に描き込まれるようになり,まさに 日本の「風景のひとつ」になったと述べてい る15)

3.第2事例:長崎県におけるノンフレーム工

(6)

ノンフレーム工法は草木を伐採せずに鉄筋のボ ルトを斜面に打ち込み,ボルトを支える板同士を ワイヤーで蜘蛛の巣状に結節する斜面補強工法で ある.ノンフレーム工法には様々な利点がある.ま ず第三者が同じ施工条件で算出した施工コストの 比較では,フリーフレーム工法の 3 万 2500 円/ m2 に対して,ノンフレーム工法は 2 万 9900 円/m2 と安い16).また工期の面でも,フリーフレーム工 法では 1000m2の工事に約 62 日を要するが,ノ ンフレーム工法では約 38 日で施工できるという 試算がある17).さらに開発者である日鐵住金建材 の岩佐は,開発初期(1990 年代)では性能に不 透明な点もあったが,2000 年代にはノンフレー ム工法の斜面補強性能はフリーフレーム工法の性 能と同等以上になったと主張する18).それにもか かわらず,ノンフレーム工法の年間施工面積は, 2013 年の時点でもフリーフレーム工法の 5 分の 1 から 10 分の 1 程度に過ぎない19)

ノンフレーム工法の地理的な普及状況を見る と,その大部分を北海道と長崎県に依存してい る.1995 年から 2012 年までの合計施工面積に占 める長崎県のシェアは約 30%,北海道は約 16 %,他の都府県のシェアはいずれも約 4%以下で ある20).このように長崎県と北海道で相対的に定 着した背景には,工法の選定権限を持つ行政職員 自身や,行政職員に強い影響力を持った人物がノ ンフレーム工法を支援したことがある.

長崎県でノンフレーム工法の支援者になったの は,行政職員であった市村である.1995 年頃の 長崎県では,補強の必要性が高いものの,土地所 有者が草木の伐採に反対している斜面や,コンク リートを搬入できない狭小地の斜面の工事が未着 手になっている点が問題になっていた.一般に行 政職員は,地域住民の生命・財産を守るという規 範に従っている.そこで市村はこれらの斜面を補 強するために,草木を伐らずコンクリートを使わ ない工法を具現化する必要があると考えていた. その点について市村は次のように述べている.

大変なところ(引用者注:大変な斜面)を全部 残してあるわけよ.そういうところ,そやけ

ん,家がぴったりくっ付いているとか.そうい うところをどうやってやるのかを,考えにゃな らんわけ.(中略)そうすると,そのために何 を考えにゃいかんかといったら,あれ(引用者 注:コンクリートを使用しない新工法)を広げ ようと21)

工法開発能力を持たない市村は,旧知の土木技 術者である日鐵住金建材の岩佐に,基本的な発想 を披露した.それを聞いた岩佐は「これは面白い と.まあ自分が土研でやったことでもあったの で22)」と感じ,長崎県に通い詰めて新工法を完成 させた23).その工法は,既存のフリーフレーム工 法の特徴であるコンクリートのフレームがないた めに,ノンフレーム工法と命名された.

その後は日鐵住金建材がノンフレーム工法を普 及させる役割を担うことになったが,発案者でも ある市村は,完成した新工法を高く評価し,積極 的に支援した.彼は周囲の行政職員を説得しつ つ,その権限によってノンフレーム工法でなけれ ば施工することが困難な斜面を優先的に工事して 実績を積み重ねた.次第に長崎県内ではノンフレ ーム工法は一般的工法として受容されていった.

4.第3事例:北海道におけるノンフレーム工

(7)

社の競争環境は厳しかった.それゆえに梅木は, 次の発言にある通り自社の仕事を確保して利益を 上げることを最優先に考えていた.

仕事なければ何もねえんだからさ.まず仕事, まず仕事だっていうのが,俺はね.他の人には 怒られるかもしれねえけど,まず仕事なければ 何も始まらねえべっていうのが俺の考え.(中 略)やっぱり会社が続いていかねばならねえ. やっぱり会社は利益ねえとさ.続いていかねえ しさ.だから会社の利益っていうのは,仕事し ねえと.利益はすぐになくなっちまうから さ24)

そこで梅木は,まだ他の建設会社が参入してい ないノンフレーム工法を普及させて,自社が率先 して受注して施工ノウハウを蓄積する戦略を考え たのである.施工ノウハウを蓄積すれば,競合企 業よりも施工コストを削減できるために競争入札 で有利になる.そのように考えた梅木はほぼ毎日 北海道内を自動車で回り,ノンフレーム工法に適 した現場を見つけては行政職員に提案した25).梅 木は 10 代の頃から戸沼岩崎建設で働き公共事業 に携わってきたために,多くの行政職員と旧知の 仲であった.また戸沼岩崎建設の施工は丁寧とい う定評があり,行政職員からの信頼も厚かった. そのために次の梅木の発言にある通り,行政職員 は梅木の提案に耳を傾けた.

役所……北海道建設部の林務課っていうところ があって,(引用者注:若い頃に)そこに林務 課の人達とすごく仲良く仕事をしたんですよ. そいで,その人達がみんなそれなりの係長と か,偉くなっちゃったんですよ.そうしてぱっ と名簿を見たら知らない人がいながった.みな 知っている.……何しにきたと.(引用者注: 北海道内を自動車で)年間 5 万キロくらい走り ましたから.そのくらい,走っています.行っ たらね,何しにきたと.みんな俺のことを覚え ているもんですから26)

監督さんなり,課長,係長の人達の,ちょっと 信頼関係があります.戸沼さんがするなら何も 心配はないと.きっちりやってくれるから と27)

既述の通り行政職員は,会計検査制度によっ て,自らが携わった公共工事の品質を評価され る.その点を念頭に,梅木は行政職員に対して, 工期短縮やコスト削減,環境保護等の利点に加え て,自分達が工事する以上は安心であるという点 を中心的に訴えることで共感を得ていった.ま た,斜面の近隣住民からノンフレーム工法の安全 性に対して不安の声が出た場合には,梅木が住民 に会って「ウチでやるんだから大丈夫ですよ28) と説得した.北海道では,梅木を中心としたこれ らの取り組みが原動力となり,ノンフレーム工法 は一般的な工法の地位を獲得していった.

5.第4事例:その他の地域におけるノンフレ

ーム工法

日鐵住金建材の社員は,長崎県と北海道以外に もノンフレーム工法を定着させようと取り組んで いた.当初,工法開発者の岩佐達は各地の行政職 員と面会して採用を依頼したが,幅広く認知され ていない工法だったために,即座に拒否されるこ とが多かった29).そこで岩佐らは,行政職員も所 属する土木技術関連の学会で,工法の知名度の向 上を図った.そこで強調されたのは「草木を伐ら ず,環境・景観を保護する工法」という点であ る.1996 年から 2001 年までの間に岩佐と同僚が 書いた 8 本の論文のうち,技術面の詳細に関する 論文 2 本を除く 6 本の冒頭には,環境・景観保護 の重要性が記載されている30).その結果,長崎県 や北海道以外でもノンフレーム工法は認知され て,主に環境保護を必要とする斜面で採用される ようになった.

(8)

1 新聞記事におけるノンフレーム工法の訴求点言及率 (時系列変化)

年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 合計

ノンフレーム工法を取りあげた記事の件数 4 4 1 2 5 3 8 6 3 9 12 28 47 132

ノンフレーム工法の訴求点 言及率 平均言及率

斜面の自然環境・景観保護 100% 100% 100% 100% 80% 33% 38% 67% 33% 44% 50% 82% 47% 67%

安全性・安定性の高さ 75% 75% 100% 0% 60% 33% 13% 17% 0% 33% 0% 25% 9% 34%

施工性の良さ 25% 75% 100% 0% 60% 0% 50% 33% 0% 22% 17% 7% 4% 30%

CO2削減に寄与 25% 50% 0% 0% 20% 0% 0% 17% 33% 11% 17% 21% 13% 16%

コスト削減 25% 50% 0% 0% 20% 0% 25% 17% 0% 0% 25% 21% 9% 15%

工期短縮に寄与 0% 0% 0% 50% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 17% 21% 6% 7%

建設副産物・廃棄物を抑制 0% 0% 0% 50% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 8% 14% 15% 7%

その他(設計の汎用性や柔軟性の高さ,維持補修の容易性等) 25% 50% 0% 50% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 8% 0% 0% 10% 出所:各新聞記事より筆者作成.データ収集方法と分析手法は注に記載.

ム工法を幅広くアピールし始めた.表 1 は, 2000 年から 2012 年の間にノンフレーム工法を取 り扱った 132 件の新聞記事における,工法の訴求 点別言及率の分析結果である32).表 1 からは, 「環境・景観保護」が一貫して最も強調される一 方で,「安全性・安定性の高さ」への言及率が 2003 年頃から低下傾向にあることを示してい る.この結果は当事者の感覚とも合致する.例え ば工法開発者の岩佐は「僕らは,要は木を残すっ ていうのが売り文句.自然を残すという33)」と述 べている.この傾向は新聞記事以外からも見出さ れる.例えば全国ネットのテレビ番組でも,ノン フレーム工法は「環境を破壊しない土木技術の革 命」と紹介された34)

これらの報道によって,環境保護に関心のある 多数の人々が,ノンフレーム工法を支援し始め た.例えば神奈川県では,フリーフレーム工法が 鎌倉市の環境・景観を破壊したと考える人物が, 週刊誌上で次の公開質問状を神奈川県知事に出し た.

なぜ,自然を残すノンフレーム工法ではなく, 自然を破壊するコンクリート工法を使われたの ですか? 世界遺産に手を挙げる一方で,この ような環境破壊活動をする理由をお聞かせ願い たい.環境保護の観点が完全に欠落していま す35)

これに対して神奈川県側は,「ノンフレーム工 法では抑えきれない土砂の崩れが懸念され36)」る と回答し,フリーフレーム工法での工事続行を明 言した.既述の通り日鐵住金建材の岩佐は,ノン フレーム工法の補強性能はフリーフレーム工法に 負けていないと主張していたが,この回答に基づ けば,神奈川県側は日鐵住金建材が考えるほどに はノンフレーム工法の性能を信頼していなかった と言える.

また関東地方の Z 県では,希少な鳥 B がいる X 川流域の斜面の環境保護を訴える人々が,フ リーフレーム工法での工事続行に反対し,ノンフ レーム工法の導入を訴えた37).この運動の先頭に 立つ A は,フリーフレーム工法を「あんな醜い, 醜いっていうかひどい工事」と捉えており,それ が X 川に施工されたことを信じがたいと考えて いた38).このような価値観を持つ A は,環境を 保護する工法という点に共鳴してノンフレーム工 法を支援するようになった.

(9)

る通り,住民はその意見に反発した.

【A】私たちの要望の中で,私たちは B ってい う鳥を守りたいから,してるわけではなくっ て,その B っていう鳥が,ひとつの,ああい う環境を象徴しているので.(中略)で,再三 そういう貴重な鳥がいるので,それが住める環 境を守るような工事をして下さいということ で.

【住民】はい.私,一番気にいらないのは,自 然を保護するっていうことはまず,よいと思う んですよね,皆さんの.悪くはない.だけどあ あでもない,こうでもない理屈をいうのが,気 にいらないところもかなりある.(中略)そこ に住んでいる人のことを考えながら言っていま すか,皆さん.言っちゃいないじゃん.(後略)

【A】私たちは,今やっていた工事を,差し止 めという風にはいっていません.私たちは,今 後工事をするんであれば,自然を壊さずにやる ような,例えばノンフレーム工法っていう工法 を出しましたけれども.そういうものを含めて 検討をしたり.あるいは,さっきいったように どこが本当に危なくて,どこは工事をしなくて 済む場所なのか,専門家もいれてじっくり検 討,今後はして下さいっていう要望なんです

よ.(後略)

【住民】じゃあ逆に,今すぐ聞くけど,やって よいと思うところと,やらなくてもいいような ところっていうのはどこ.(後略)

斜面崩壊の危険を感じている近隣住民は,斜面 補強工法に対して安心感を求めていた.だが次の 発言にある通り,住民はノンフレーム工法の安全 性を低く評価していた.そのために A の言葉に 反発したのである.

(引用者注:ノンフレーム工法は)杭で打つの はいいけど,杭が中に入っちゃうと見えないで すよね.やっぱり見える方が安心感がある. (引用者注:コンクリートのフリーフレーム工 法は)目で見えるからね.私はそう思いますよ ね.目で見て自分が確認できないと,いや杭打 ったから平気ですよって言ったって,打ちこま れちゃって先端しかでていないんじゃ,本当に 平気なのっていうのがありますよね40)

A 達と近隣住民の応酬を聞いていた行政職員 は,住民説明会の最後に,A 側の意見を退けて 近隣住民を支持する立場を明確にし,次の通りフ リーフレーム工法での工事続行を宣言した.

われわれは(中略)地元の皆さまの安全のため にですね,工事をやる.工事をやるっていうこ とを前提にさせて頂いています.危なくないよ うにするっていうのがわれわれの責務だと思っ ていますから.だから(引用者注:フリーフレ ーム工法で)工事をやると41)

このように環境保護という利点に共鳴した集団 がノンフレーム工法を積極的に支援したが,その 取組みはノンフレーム工法の制度化には結びつい ていなかった.結果的に 2013 年には,日鐵住金 建材の社内でも,北海道と長崎県以外では広まら ないという「頭打ち感42)」が漂っていたのである. 表  新聞記事におけるノンフレーム工法の訴求点言及率 (時系列変化)

年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 合計

ノンフレーム工法を取りあげた記事の件数 4 4 1 2 5 3 8 6 3 9 12 28 47 132

ノンフレーム工法の訴求点 言及率 平均言及率

斜面の自然環境・景観保護 100% 100% 100% 100% 80% 33% 38% 67% 33% 44% 50% 82% 47% 67%

安全性・安定性の高さ 75% 75% 100% 0% 60% 33% 13% 17% 0% 33% 0% 25% 9% 34%

施工性の良さ 25% 75% 100% 0% 60% 0% 50% 33% 0% 22% 17% 7% 4% 30%

CO2削減に寄与 25% 50% 0% 0% 20% 0% 0% 17% 33% 11% 17% 21% 13% 16%

コスト削減 25% 50% 0% 0% 20% 0% 25% 17% 0% 0% 25% 21% 9% 15%

工期短縮に寄与 0% 0% 0% 50% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 17% 21% 6% 7%

建設副産物・廃棄物を抑制 0% 0% 0% 50% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 8% 14% 15% 7%

(10)

Ⅳ.議論

本節では第Ⅱ節で示した理論的視点から,4 つ の事例を整理する.第 1 から第 3 の事例は,技術 や地域,時代等は異なるものの,土木技術を公認 する立場にある行政職員が支援した結果,斜面補 強工法の制度化が進展した点では共通している. 第 1 事例では,フリー工業の長岡は,従来の制度 化された斜面補強工法を取り巻く利害集団の中で は周縁的な地位におり,フリーフレーム工法のア イデアと,それを制度化する動機を保有していた が,それを正統化する資源を持たなかった.そこ で彼は,工法を公認する権力を持つ行政職員の支 援を獲得することを考えたが,直接的に行政職員 に働きかけるのではなく,まずは行政職員に影響 力を持つ全国の建設会社の利害関心を満たすよう に工法をフレーミングして支援を獲得した.その 支援を通じて行政職員の支援を獲得していったの である.続く第 2 事例と第 3 事例では,日鐵住金 建材が推進するノンフレーム工法の制度化が比較 的進んだ長崎県と北海道の状況を取りあげた.長 崎県では,フリーフレーム工法では施工が困難な 現場に対応できる点に共鳴した行政職員の市村が ノンフレーム工法の支援者となり,積極的に制度 化を推進した.北海道では,戸沼岩崎建設の梅木 が,行政職員の評価に直結する会計検査制度で工 事の質が重視される点を念頭に置き,「自社が工 事するノンフレーム工法は安全な工法である」と フレーミングすることで,行政職員の支援を引き 出した.梅木と長岡の取組みは,第Ⅱ節で提示し た支援者の選別とフレーミングによる政治的働き かけの理論に対応している.

次に,第 2・第 3 事例と同じ技術でありながら 異なる結果に至った第 4 事例について検討する. 第 4 事例に特有の要素は,日鐵住金建材がマスメ ディアを通じて不特定多数の人々に「ノンフレー ム工法は環境保護に資する工法」とフレーミング したことが影響した点である43).日鐵住金建材は このフレーミングによって多数の支援者を獲得す ることを意図していたはずである.確かにノンフ

レーム工法に正統性を与える権力を持つ行政職員 や,その行政職員に対する影響力を持つ建設会社 や近隣住民も,一般論としての環境保護の重要性 は理解していたであろう.しかしそれらの集団 は,通常の斜面補強工事においては,景観や環境 の保護を最優先に考えていた訳ではなかった44) 行政職員は環境・景観保護以上に,会計検査制度 で要求される工期やコスト,また何よりも「安全 性」を重視する傾向にあった.その一方で一般的 な建設会社の主たる関心は経済的利益にあった. さらに斜面崩壊の危機を身近に感じている住民 は,安心感を得られることを重視していた.その ために環境保護に偏重したフレーミングは,これ らの集団に対して,彼らが重きを置く利害関心を 満たすという確信を抱かせるものではなかった. これに対して環境保護のフレーミングに共鳴し てノンフレーム工法の積極的な支援者となった集 団は,ノンフレーム工法に正統性を与える権力を 持っていなかった.さらにこの集団がノンフレー ム工法の支援に参加した結果,行政職員に影響力 を持つ地域住民との間の利害対立が表面化した. この状況では,「地域住民のために斜面補強工事 をする」ことが求められている行政職員は,なお さらノンフレーム工法の支援に対して積極的には なれなかった.結果的に長崎県と北海道以外の地 域においては,ノンフレーム工法は一定の実績は 残したものの,フリーフレーム工法と同水準の正 統性を得るほどには定着してこなかったのであ る.

Ⅴ.結語

(11)

可能性を高める.これらは既存研究では具体的な 検討が十分ではなかった側面であり,本論文の主 たる貢献である.

本論文で考察した通り,機能面の優位性だけで は制度化が進展しない技術は,現実に存在す る46).制度化された既存技術に関わる利害集団の 中で周縁的地位にある企業がその種の新技術の制 度化を進めるためには,権力構造を読み解き,鍵 となる利害集団が共鳴するように新技術をフレー ミングして政治的に働きかけて支援を引き出すこ とが不可欠となる.

本論文では,新技術の制度化を巡る政治過程に おいて成立する可能性が高い 1 つの行為と帰結の 連関を指摘した.だがこの過程には,まだ明らか にされていない多数のパターンがあるだろう.そ れらを解明していくことが今後の課題である.

謝辞

本稿の査読過程において,SE の原拓志先生と 2 名の匿 名レフェリーの先生方から大変貴重なアドバイスを頂きま した.また本稿のベースとなった博士論文をまとめる過程 では,島本実先生と加藤俊彦先生をはじめ,一橋大学の先 生方から丁寧なご指導を頂きました.さらに関係企業や行 政機関の皆様には,貴重なお時間を割いてインタビュー調 査にご協力いただきました.ここに記して深く感謝申し上 げます.

1) この問題は,武石・青島・軽部(2012)が議論している, イノベーション理論における創造的正当化(正統化)の問 題とも共通する部分が大きい.

2) 本論文では,制度的企業家にとっての「補助的行為者」と 「支援者」を同じ意味で取り扱う.なお DiMaggio(1988)

は,制度化の進展に伴い,補助的行為者自身が正統化・制 度化されて,補助的制度(subsidiary institutions)となる とも述べているが,本論文では補助的制度についても支援 者という概念で表現している.

3) ただし近年ではイノベーションの分析に,社会運動論にお けるフレーミング概念を用いた研究も見られる(e.g. Rao,

2008;山田・高橋・松嶋,2011).

4) 長期的には,支援の拡大によって技術を正統化する権力を 持つ利害集団の権力基盤を破壊・変革するという革命的な 道があり得るかもしれないが,通常の新技術の制度化では それが実現する可能性は高いとは言い難い.

5) 本論文の理論的考察の結果を例証するには,複数の行為主 体の意図と行為を丹念に追う必要があるために,事例研究

が望ましいと判断した.

6) 第 1 から第 3 事例では,技術特性や時代の影響が異なって も共通の要因が作用したことを示す合意法によって制度化 の進展に関する議論の例証を試みている.また第 2 から第 4 事例では,技術等の主要な変数が共通であっても異なる 結果が得られた複数事例を比較し,その差を生み出した要 因を見出す差異法によって,制度化の停滞に関する議論の 例証を試みている.

7) 対象者の内訳は,ノンフレーム工法の支援者が 18 名(日 鐵住金建材株式会社の社員 10 名,元行政職員 1 名,建設 会社社員 3 名,環境保護団体 3 名,斜面補強工事の近隣住 民 1 名),フリーフレーム工法の支援者が 7 名(内訳はフ リー工業株式会社の経営者 1 名,同社員 2 名,岡部株式会 社の社員 3 名,斜面補強工事の近隣住民 1 名).肩書きは 全てインタビュー当時のもの.

8) フリー工業 代表取締役 長岡信玄へのインタビュー記録 (2014 年 5 月 21 日).

9) フリー工業 代表取締役 長岡信玄へのインタビュー記録 (2014 年 5 月 21 日).法面(のりめん)は人工斜面の意味

である.

10) フリー工業 代表取締役 長岡信玄へのインタビュー記録 (2014 年 5 月 21 日).

11) 長年斜面補強工事に関与してきたある行政職員は,建設会 社との「信頼関係を作れなければ,良い現場を作れない」 と述べている(ある行政職員に対する質問票調査の回答.

2014 年 3 月 17 日に全 18 問の質問票を送付して 4 月 22 日 に回収).一般に地方の建設会社は行政職員を訪問して名 刺を配り,その場で工事に関する意見交換をしてきた. 12) フリー工業提供資料.

13) フリー工業 代表取締役 長岡信玄へのインタビュー記録 (2014 年 5 月 21 日).専門工事業者とは,斜面補強工事を

専門とする建設会社の意味.

14) フリーフレーム工法の施工実績は面積ではなく枠の長さで 計算されている.

15) フリー工業 執行役員 東京支店長 竹谷紀彦へのインタ ビュー記録(2014 年 8 月 4 日).

16) 株式会社荒谷建設コンサルタントによる 2009 年 3 月の試 算である.

17) 日鐵住金建材社内資料.

18) 岩佐はノンフレーム工法の性能はフリーフレーム工法に 「負けていない.逆にいうと僕から言わせれば,柔らかい 構造なんで,地震とかの動的な荷重に関しては圧倒的にノ ンフレームの方がもつだろうと,そういう風に思っていま す」と述べている.日鐵住金建材 土木鉄構商品部 担 当 技術部長 岩佐直人へのインタビュー記録(2014 年 5 月 9 日).

19) 日鐵住金建材 池田武穂から筆者への 2014 年 4 月 7 日付と 2015 年 8 月 6 日付の電子メールに記載された概算値に基 づく.正確な統計データが存在せず,比較の仕方によって 数値が異なるが,調査を行った 2013 年時点でもノンフレー ム工法の施工面積がフリーフレーム工法の施工面積に遠く 及ばないことは関係者の共通認識である.

20) 日鐵住金建材からの提供データ.

(12)

22) 日鐵住金建材 土木鉄構商品部 技術部長 岩佐直人へのイ ンタビュー記録(2013 年 9 月 3 日).土建は土木研究所の 意味.1988 年から 2 年間,岩佐は社命により建設省(当 時)の土木研究所(現在の独立行政法人 土木研究所)に 派遣されていた.

23) その頃岩佐は,1 カ月の半分は東京の事務所を離れて長崎 県を訪れていた.日鐵住金建材 土木鉄構商品部 技術部 長 岩佐直人へのインタビュー記録(2013 年 9 月 3 日). 24) 戸沼岩崎建設 常務 梅木克美へのインタビュー記録(2014

年 3 月 11 日).

25) 『日経コンストラクション』「直営 施工力強化で得意工種 を追求 戸沼岩崎建設(北海道函館市)」2010 年 4 月 9 日 号,pp. 64-65.

26) 戸沼岩崎建設 常務 梅木克美へのインタビュー記録(2014 年 3 月 11 日).

27) 戸沼岩崎建設 常務 梅木克美へのインタビュー記録(2014 年 3 月 11 日).

28) 戸沼岩崎建設 常務 梅木克美へのインタビュー記録(2014 年 3 月 11 日).

29) 日鐵住金建材 土木鉄構商品部 技術部長 岩佐直人へのイ ンタビュー記録(2013 年 9 月 3 日).

30) 6 本の冒頭の文章には,近年・環境・景観・意識・高まり という言葉が共通して含まれる.

31) 『鉄鋼新聞』「日鉄建材 斜面安定化『ノンフレーム工法』 今年度 20%増の 5 億円超へ」2001 年 10 月 15 日,朝刊 5 面.

32) 新聞記事のデータベース ELNET,G-Search,日経テレコ ン 21 より「ノンフレーム工法」という語が掲載された全 ての新聞記事を収集した.次に全ての記事内容を検討し, 表 1 にある 8 つの価値・利点を抽出した.さらに記事を時 系列で整理して,記事の中に 8 つの価値・利点に該当する 記述が 1 箇所でもあれば,その記事が出た年のその価値・ 利点に 1 点を加えた.最終的に各価値・利点の合計を算出 し,各年の記事件数に対する割合を言及率とした. 33) 日鐵住金建材 土木鉄構商品部 技術部長 岩佐直人への筆

者によるインタビュー記録(2013 年 9 月 3 日). 34) 『夢の扉+』「土砂災害を防げ! コンクリート不要の斜面

補強技術~樹木を切らずに日本の里山を守る男」TBS テ レビ,2012 年 5 月 13 日.

35) 竹内薫(2013).「サイエンス宅配便 神奈川県知事に告 ぐ!」『週刊新潮』3 月 28 日号,p. 71.

36) 黒岩祐二(2013).「サイエンス宅配便に掲載された公開質 問状について」.

37) Z 県の情報は,一部の調査対象者の希望により匿名とした. 38) X 川流域調査記録より(調査日時:2014 年 5 月 29 日). この調査で筆者は,A 達とともに工事現場を訪問した.そ こで A はフリーフレーム工法を見上げて「こんなこと平 気でやっちゃうんだから,信じられないですよね」と呟い ていた.この言葉には環境保護を最優先する A の価値観 が表出していると考えられる.

39) 「X 川砂防工事における環境保全に関する質問書」2013 年 10 月 30 日.また 2013 年 11 月に A 達が市に提出した陳 情書にも「工事をおこなう際には,樹木を伐採せずに崩落 を防ぐ『ノンフレーム工法』をできる限り採用するよう, Z 県に依頼してください」とある.

40) 近隣住民へのインタビュー記録(2014 年 6 月 26 日). 41) 筆者による住民説明会記録より抜粋(2014 年 6 月 11 日,

調査フィールドの自治会館大広間にて開催).

42) 日鐵住金建材 土木鉄構商品部 技術部長 岩佐直人へのイ ンタビュー記録(2013 年 9 月 3 日).

43) 日鐵住金建材のフレーミングの影響は長崎県と北海道にも 及んだはずであるが,これらの地域では,それ以前にノン フレーム工法が一定の正統性を獲得していたために,その 影響が軽微であったと考えられる.

44) ただし自然が重要な資源になっている観光地や自然公園に おける斜面補強工事においては,例外的に大多数の利害関 係者が環境・景観保護を最も重視する傾向にある. 45) それゆえに新技術の制度化は,制度化された既存技術から

正統性を奪うのと同時に,鍵となる支援者の権力基盤であ る既存制度を強化・再生産する過程でもある.

46) 本論文では新技術の制度化が政治的働きかけに左右される ことを前提とするが,それが妥当するのは初期段階で客観 的な技術評価が困難な技術に限定されるだろう.だが事前 の明確な性能評価が困難な製品は多数存在するために,そ の事実によって本論文の外的妥当性が著しく限定される訳 ではないと考えられる.

参考文献

Babb, S. (1996). A true American system of finance: Frame res-onance in the US labor movement, 1866 to 1886. American Sociological Review, 61, 1033-1052.

Benford, R. D., & Snow, D. A. (2000). Framing processes and social movements: An overview and assessment. Annual Review of Sociology, 26, 611-639.

Bourdieu, P. (1985). The social space and the genesis of groups. Theory and Society, 14(6), 723-744.

Bourdieu, P. (1989). La noblesse d’État: Grandes écoles et esprit de corps. Paris, FR: Les Editions de Minuit ( 立 花 英 裕 訳 『国家貴族Ⅱ エリート教育と支配階級の再生産』東京:藤

原書店,2012).

Čapek, S. M. (1993). The“environmental justice”frame: A con-ceptual discussion and an application. Social Problems, 40(1), 5-24.

DiMaggio, P. J. (1988). Interest and agency in institutional theo-ry. In L. G. Zucker (Ed.), Institutional patterns and organi-zations: Culture and environment (pp. 3-22). Cambridge, USA: Ballinger.

DiMaggio, P. J., & Powell, W. W. (1983). The iron cage revisited: Institutional isomorphism and collective rationality in or-ganizational fields. American Sociological Review, 48(2), 147-160.

Fligstein, N. (1997). Social skill and institutional theory. Ameri-can Behavioral Scientist, 40(4), 397-405.

Garud, R., Hardy, C., & Maguire, S. (2007). Institutional entre-preneurship as embedded agency: An introduction to the special issue. Organization Studies, 28(7), 957-969. Gerhards, J., & Rucht, D. (1992). Mesomobilization: Organizing

(13)

Hardy, C., & Maguire, S. (2008). Institutional entrepreneurship. In R. Greenwood, C. Oliver, R. Suddaby, & K. Sahlin- An-dersson, (Eds.), The Sage handbook of organizational insti-tutionalism (pp. 198-217). London, UK: Sage Publications. Leblebici, H., Salancik, G. R., Copay, A., & King, T. (1991).

Insti-tutional change and the transformation of interorganiza-tional fields: An organizainterorganiza-tional history of the US radio broadcasting industry. Administrative Science Quarterly, 36, 333-363.

Lounsbury, M. (2005). Institutional variation in the evolution of social movements. In G. F. Davis, D. McAadam, W. R. Scott, & M. N. Zald (Eds.), Social Movements and Organiza-tional Theory (pp. 73-95). New York, USA: Cambridge University Press.

Maguire, S., Hardy, C., & Lawrence, T. B. (2004). Institutional entrepreneurship in emerging fields: HIV/AIDS treatment advocacy in Canada. Academy of Management Journal, 47(5), 657-679.

松嶋登・高橋勅徳(2015).「制度的企業家のディスコース―『埋 め込まれたエージェンシーのパラドクス』の超越」桑田耕 太 郎・ 松 嶋 登・ 高 橋 勅 徳( 編 )『 制 度 的 企 業 家 』(pp.

5-29).京都:ナカニシヤ出版.

Rao, H. (2008). Market rebels: How activists make or break radi-cal innovations. Princeton, USA: Princeton University Press.

Schutz, A. (1970). On phenomenology and social relations. Chi-cago, USA: University of Chicago Press (森川眞規雄・浜 日出夫訳『現象学的社会学』東京:紀伊國屋書店,1980). Seo, M. G., & Creed, W. D. (2002). Institutional contradictions,

praxis, and institutional change: A dialectical perspective. Academy of Management Review, 27(2), 222-247.

武石彰・青島矢一・軽部大(2012).『イノベーションの理由― 資源動員の創造的正当化』東京:有斐閣.

山田仁一郎・高橋勅徳・松嶋登(2011).「イノベーションの闘 争モデル―大学発ベンチャーの生き残りをかけた闘争過程」 『日本経営学会誌』27, 27-40.

Yin, R. K. (1994). Case study research: Design and methods, Sec-ond edition, Thousand Oaks, USA: Sage Publications.

表 1 新聞記事におけるノンフレーム工法の訴求点言及率 (時系列変化) 年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 合計 ノンフレーム工法を取りあげた記事の件数 4 4 1 2 5 3 8 6 3 9 12 28 47 132 ノンフレーム工法の訴求点 言及率 平均言及率 斜面の自然環境・景観保護 100% 100% 100% 100% 80% 33% 38% 67% 33% 44% 50% 82% 47% 67% 安

参照

関連したドキュメント

“Archaeology a nd Contemporary Society” planned by authors a nd hosted by Center for Cultural Resource Studies, Kanazawa University, and informants of our fieldwork

$R\epsilon conn\epsilon\iota ti0n$ and the road to $turbul\epsilon nce---30$. National $G\epsilon nt\epsilon

参考資料ー経済関係機関一覧(⑤各項目に関する機関,組織,企業(2/7)) ⑤各項目に関する機関,組織,企業 組織名 概要・関係項目 URL

The important dynamical difference between the transient AIDS state in the acute infection stage and the chronic AIDS state that signals the end of the incubation period is the value

◆  鹿島アントラーズ  http://www.so-net.ne.jp/antlers/news/detail/20091224̲16̲2463.html 

士課程前期課程、博士課程は博士課程後期課程と呼ばれることになった。 そして、1998 年(平成

省庁再編 n管理改革 一次︶によって内閣宣房の再編成がおこなわれるなど︑

1989 年に市民社会組織の設立が開始、2017 年は 54,000 の組織が教会を背景としたいくつ かの強力な組織が活動している。資金構成:公共