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ロマン的自我の創出―『銀河鉄道の夜』テクストの変容: 東京外国語大学学術成果コレクション

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(1)

TOKYO UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES, AREA AND CULTURE STUDIES 95(2017)

ロマン的自我の創出

―『銀河鉄道の夜』

テクストの変容

Creation of A Romantic Ego

Transformation of Ginga Tetsudo No Yoru

(Milky Way Railroad)

柴田 勝二

SHIBATA Shoji

東京外国語大学大学院国際日本学研究院

Institute of Japan Studiies, Tokyo University of Foreign Studies

一 改稿による変容

二 彼岸的世界への希求

三 二面的な輪郭

四 科学的認識の相対化

五 「芸術」への志向

六 ブルカニロの消失

キーワード:テクスト、改稿、銀河、科学的認識、ロマン的志向

Keywords: text, manuscript revision, galaxy, scientific recognition, romantic aspiration

【要旨】

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は三度の改稿を経て成っており、その過程で主人公のジョバン

ニの性格は相当変化している。第一次稿から第三次稿においては、ジョバンニはもっぱらこの

世を離脱したいという願いに強く捉えられる孤独な少年として描かれている。

一方、最後の第四次稿においては、ジョバンニはロマン的世界への強い憧憬を持った少年と

して描かれ、彼が死者の乗物にほかならない銀河鉄道の乗客となりうる理由も、その性格に見

出される。第四次稿においてはジョバンニは自身を主張しうる、相対的に強い性格を示してい

る。この性格との連関のなかで、ブルカニロ博士は姿を消すことになった。

こうした変化の背後には賢治の芸術への強い志向が想定される。賢治については宗教活動家

や農業改良家といった側面が強調されてきたが、結局賢治は自己を芸術家として認識しており、

その自己認識は晩年体力が低下していき、現実活動が困難になっていくとともに明瞭になって

いった。そうした時期に賢治は『銀河鉄道の夜』を書き、推敲を加えていった。こうした認識

本 稿の著 作 権は著者が保 持し、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンス(CC-BY)下に提 供します。

(2)

が主人公の性格に反映され、三度の改稿を通してそれが変容していったといえるのである。

Miyazawa Kenji’s Ginga Tetsudo No Yoru(Milky Way Railroad) was written with three times

of revising, through which protagonist Giovanni’s character was pretty transformed. In from the

the first to the third manusript, Giovannni was mainly described as a solitary boy who wished

strongly to leave this world. His trip to the galaxy with Campanella can be regarded as a gift given

by Doctor Brucanillo.

On the other hand, in the last fourth manuscript, Giovanni was described as a boy with a strong

adorarion to the romantic world, and the reason why he could be the passenger of the galaxy

train which was nothing but the vehicle for dead people can be found in this character of the

protagonist. In the fourth manuscript Giovanni shows relarively strong character of asserting

himself to others. As the relection of such character, in this manuscript Brucanilo does not

appear.

Behind such change of protagonist’s character, we can suppose Kenji’s strong will to the art.

As for Kenji, there has been the tendency of emphasizing his character as religious activist and

agricultural reformist, but after all he was recognizing himself as an artist, and this selfrecognition

became clearer at the last stage of his life when his physical strength was declining and it became

difficult for him to do actulal activities. In such a period he was writing and revising manuscipts

of Mlilky Way.We can say that such recognition was reflected on the character of the protagonist

(3)

TOKYO UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES, AREA AND CULTURE STUDIES 95(2017)

の、

く、

る。

「僕た

しっかり

うね

賢治

大正九

(一九二〇)

し、

―」

返し書

いるよ

に、保坂

識した

の科白

ある

(7)

常樹

『宮沢賢治

 

心象の宇

論』

(朝文社、

一九九三)

ソン

『科

大系』

のく

りにお

「銀河の説」

のモデル

ある

した

る。

似し

いる

(8)

夫「

河・

治「

出、

り、

る。

る。

いか

ある。

(9)

年(

年(

た「

の「

た。

の『

の『

に、

り、

り、

初『

いた蓋然性

(4)

の代替

機能

もな

り、そのためブルカニロに代

物語の末尾に登場

るカムパネル

の父

ある博士

、科

言説

口に

く、川

た息子の消息につい

もう

駄目

。落

四十五分た

ましたか

、異様

。彼

はも

四次稿

り上

くる科

「冷く暗い」

メー

るために登場し

くる存在

あり、反面ジョバ

の父の旧

ある彼

がも

、ジョバ

ニの父か

「一昨日大へ

ん元気

便り

あったん

だが

。今日あたり

もう

着く

だが

情報

ジョバ

活気

、「早くお母さんに牛乳

持っ

行っ

お父さんの帰る

とを

ふと

もう

一目散に河原

街の

」っ

行か

る。

三次稿ま

のブルカニロに相当

る人物の

情報伝

者に縮小さ

によっ

、銀河鉄道の旅

通過儀

現実世界の新た

局面に向かお

とす

る、ジョバ

ニの姿

強く浮

彫りにさ

ったの

ある。

〔注〕

(1)

『銀河鉄道の

』の

四次稿につい

『校本宮沢賢治

集』

十巻(筑

房、

稿

巻(

る。

稿、

稿

九巻「校異」に収

たテ

参照し

いる。

西

年(

た『

り、

の裏

一次稿に用い

いる

大正十三

(一九二四)

集『

に、

稿

る(

治「

』前出)

(3)

退

の『

星』のよ

うな

作品

詩人

二度

せず

『銀河鉄道の

』のジョ

る。

 

る。

西

の「

 

郎・

(一九二一)

いる。

姿

見、

る。

く、

る、

る。

く、

る。

に、

稿

り、

活版印刷所

働い

いる

示唆さ

いるよ

に、

〈未

の作者

の作品に存在し

いる

見る

る。

(5)

西

子「

の「

稿

西

子編『宮沢賢治「銀河鉄道の

』創元社、

二〇〇三、

所収)

(6)

子『

社、

社、

に、

(5)

TOKYO UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES, AREA AND CULTURE STUDIES 95(2017)

明治後期か

昭和初期にか

、様

心霊現象

知識人か

衆に至る広い関心

集めた

、東京帝大教授

あった

日本人

性によっ

の実験

った

よく知

んに試み

ある

に亡く

った息子

の交

霊に

成功

した

確信し、現実世界にお

る人間同士の「伝心」に

の『

た。

の『

(高橋五郎訳、玄黄社、一九一七)

持つ個人同士の間

、そ

れを

る物質

「エ

テル」

る。日本人の著作におい

の『心霊の研究』

(日高有倫

一九〇九)

した考

、親しい者同士の間

り、

に、

心の活動

他の心に伝播

る」

いる。

の「

ZYPRESSEN

光 エ

、樹木に生気

る物質

テル

いたのか

い。おそ

くそ

れを

含め

、当

の心霊

傾向

了解し

いた

る着想

くの

自然

ある。実際ブルカニロ

ロの

うな

声」

した

かり

つのエネルギ

り、

修羅」の「光

テル

素」のイ

メー

合っ

いる。賢治

その含

の言

使った

とすれ

一層興味

三次稿ま

にお

ブルカニロ

、結局

した分身た

駆使

によっ

、未知

の世界に入り込ん

るジョバ

ニに導

る役目

おり、父

不在のジョバ

ニに

その代理

存在

にほか

い。またその導

導か

る関係

明確化

るために

ジョバ

自身の固有の世界

持た

い弱者

少年

る必要

あったの

ある。

に対し

四次稿のジョバ

、自身

描くロマ

世界

とす

る少年

あり、彼

カムパネル

なう

銀河鉄道の

、ブルカニロ

仕組ん

実験

はな

く、彼自身の夢幻

経験

位置

けら

いる。そ

作者の『農民芸術概論綱要』にお

値観

反映

るよ

に、科

認識

「冷く暗い」

相対化さ

いる

のあ

ため

明確化さ

ジョバ

に付与さ

、ブルカニロ

作品に存在

四次稿

付加さ

た冒頭の教室の場面に登場し

銀河の物

り立

につい

概説

なう

先生

(6)

し、その

彼の同一性

堅固にしよ

した

不思議

い。本来賢治

世界の主人公に

しい

る、自己

行動者

あるカムパネル

より

、現実世界

疎外さ

非行動

少年

あるジョバ

主人公に選ん

選択に対

る帰結

に現

いるの

ある。

 

ブルカニロの消失

三次稿ま

登場し

いたブルカニロ博士

四次稿

姿

消し

いる

したジョバ

ニの同一性の明確化

一にした

変改

ある

明瞭

。ブルカニロ

本来ジョバ

銀河鉄

道に乗

た主体

あり、彼

他界

、幻想

世界

のよ

うな

変化

るか

検証しよ

した人物

あっ

た。

三次稿ま

のジョバ

ニの銀河への旅

ブルカニロ

仕組ん

た。

場所

遠くか

私の考

人に伝へる実験

したい

さっ

考へ

ゐた」

末尾

語る

かにさ

る。そ

れと

繰り返しジョバ

ニの耳に届

けら

ロの

うな

声」

、おそ

くブルカニロ

自身の思

パシ

にジョバ

ニに

とを

試みた

えら

る。

三次稿におい

ロの

うな

声」

ジョバ

三度耳にし

いる。一回目

空に「

のかた

」に見

いた「青

く蛍の

に、ぺかぺか消

たり

ったりし

いました

、た

りん

うご

い鋼青のそ

の野原にた」っ

に、

ネルギ

ーだ

よ。お菓子

三角標

、みん

に組みあ

エネルギ

ーが

、またい

に組みあ

てで

ゐる」

る声

、二回目

カムパネル

列車の動力源につい

話し

に、

い。

だうご

まっ

ゐるか

うご

ゐるの

る声

ある。三回目

共にし

たカムパネル

の姿

列車か

に、

ゐるの。

ょっ

ん」

語りか

る声

、そ

に促さ

ジョバ

振り向く

、そ

「黒い大

帽子

った青白い顔の瘠

た大人」

持っ

座っ

いるの

た。

ブルカニロのより具体

分身

の「青白い顔の

た大人」

、水

酸素

水素

出来

いる

の認識に至

る歴史

経緯か

始め

、化

認識の客観性

援用

すれ

、信

る。

人物

に関

る知見

認識

ジョバ

ニに伝

おり、

「し

場所

遠くか

私の考

人に伝へる実験

したい」

(7)

TOKYO UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES, AREA AND CULTURE STUDIES 95(2017)

常に実生活

肯定

れを

一層

化し高く

とす

り、

青野季吉

蔵原惟人

によっ

「階級(

識」

重ん

る文

創造

えら

いた

とを

、賢治の取

とす

向性

調

「美

本質

とす

る」

、芸術

性格

基調

る。

ブルジョアジ

の弄

びも

のに

あり、あくま

れを

革命に向か

行動に駆り立

るよ

うな

作品に

た。青野

「プロ

レタ

ア階級の闘争目

自覚し

始め

、そ

階級のための芸術

る。即

階級

的意

識によつ

始め

、そ

階級のための芸術

るの

ある」

「目

的意

論」

『文芸

線』

一九二六

九)

るよ

に、

その前提

資本家、ブルジョアジ

に抑圧、

取さ

るプロ

レタ

「階級

的意

識」

持つ

あった

り被

取階級

ある

「農

ア文

「階級

的意

識」

希薄

あり、

引用した箇所か

、「農民」

「実生活」

る生活者の比喩

えら

いる

がう

る。

に自身

質屋、古着商

取階級に生ま

、被

取者の真

惨さ

経験した

はな

い賢治の芸術家気質

いる

るか

い。岩手県立農業試験場技手

あった工藤藤一に

た昭和六年(一九三一)の書

、賢治

「私

別に

家庭

持つ訳

もな

し月給五十

確実に得

、あ

の美しい岩

手県

自分の庭園の

に考へ

少しく

文句

はな

いの

(一九三一

二一)

自身の美

世界に耽溺し

いたい心

記し

いる。

ジョ

ロマ

メー

ジに彩

た彼

岸的

世界への憧

る少年

直さ

る、

四次稿への改稿に賢治

取りかかっ

いたの

の頃か

あり、そ

えら

た教室の場面

先生

語る科

認識

、ジョバ

ニにまさに「冷く暗い」印象

たの

ある。また遭難船の乗客た

の間

る「ほんた

神さま」

めぐる議論

、ジョバ

信仰

の神

相対化

る姿勢

強く表明

るの

った。

稿

た『

四次稿におい

、主人公ジョバ

ニの輪郭に加

えら

た変改の

。賢治

自身の身体

闘いつ

つ死の直前ま

原稿に手

、その途上に当たる昭和六

年(一九三一)九月に

、東北

石工場技

嘱託

壁材料の宣伝

る。

家、

教育者、農業改

た現実世界

の身体

行動

に不如

いく

、言

メー

ジの世界に生

る者

の自覚

、主人公

メー

たか

る想

の世界の住人

(8)

曾つ

てわ

父た

乏しい

なが

楽しく生

ゐた

芸術

宗教

あった

いま

だ労

 

生存

ある

かり

ある

宗教

近代科

に置換さ

冷く暗い

芸術

いま

しく

落した

また

れと

同趣旨の『農民芸術の興

文に対

るよ

り具体

見解

記さ

いる

、宗教

への批判

値付

た「宗教

」以下の文につい

次のよ

うな

記述

付さ

いる。

る影に騙さ

た宗教家

 

真宗

如何

 

過去の記録によっ

久の未来

外部か

照明

し得ぬ

の証拠

而く感

かり

ある

そし

明日に関し

何等の希望

与へぬ

 

いま宗教

気休め

 

地獄

り、

』への推敲

改稿

いる

期にお

る思

の論考

に示さ

いる

えら

る。

した

ここ

に語

値観

『銀

賢治

熱情

はず

の宗教

つの世界

定的

に眺め

いるの

ある。他宗

に対し

攻撃

日蓮宗に属

る賢治

「真宗」つまり浄土真宗

るの

不思

い、

 

る。

けら

いる。

の論考

芸術に対し

、庶民の手

落した」世界

批判さ

いる

の論考におい

働の

弊し

「農民」

活気

る手立

、芸術

「農民芸術」

再興し

とす

る志向

明確

ある。また『綱要』の「農民芸術の本質」の項

次のよ

に記さ

いる。

より農民芸術

本質

とす

新た

創る

 

移動

 

 

 

 

(中略)

農民芸術

感情の

 

 

 

個性

る具体

表現

ある

直観

情緒

内的

経験

素材

したる無

識或

の創

参照

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